目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「燃えるドレスを紡いで」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 『「ナイロビには年間160トンもの服が捨てられている」という現実を、パリコレデザイナー・中里唯馬が自身の目で確かめに行く
- 「ファッション業界は、石油産業に次いで2番目に環境負荷の高い分野である」という驚きの事実
- 「もう服を作るのは止めましょう」というメッセージをパリコレの場から発信しようとする凄まじい挑戦
生産された服の75%が破棄されるという異常な状態を、私たちはこれからも続けていくのだろうか?
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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「世界中の服がアフリカに捨てられている」なんてことはもちろん、本作を観る前から知っていた。ファッション業界が「大量生産・大量消費」の世界だということも。しかしやはり、それは「ただ知っているだけ」にすぎなかった。アフリカでこんな現実が広がっていることも、その解決に挑もうとしている日本人がいることも、私はまったく知らなかったのである。
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彼のような人を、真のデザイナーと呼ぶのだと思う。
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そもそもだが私は、ファッションの世界でこれほど評価されている日本人がいることをまるで知らなかった。この記事は、そんな「ファッション音痴」が書いていることをまずは理解しておいてほしい。
さて、本作『燃えるドレスを紡いで』では、「服の墓場」と言っていいナイロビにあるゴミ捨て場が映し出される。そしてそこに「ファッション界の最上位」に位置していると言っていい中里唯馬が降り立ち、「服が大量に捨てられている現状」を目の当たりにするというわけだ。その後彼は、そんな世界をどうにかすべく、「大量生産・大量消費」を促すべき存在でありながら、パリコレで「持続可能なファッション」という新機軸を提示しようと決意するのである。
本作を観ながら私は、長坂真護というアーティストのことを思い出していた。アフリカ・ガーナには、世界最大の電子廃棄物処分場があり、彼はそこに捨てられた「ゴミ」を持ち帰り、それらを素材にアート作品を生み出しているのだ。私は以前、彼の展覧会に足を運んだことがある。「ゴミ」から作られた彼の作品は数千万円から数億円で取引されており、その展覧会の説明には「既に100億円近くアートで売り上げた」と書かれていたように思う。
MAGO GALLERY ONLINE
長坂真護 オンラインギャラリー | MAGO GALLERY
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さらに凄いのが、稼いだお金の使い道である。私の記憶では、彼とそのチームは売上の5%しか手にしていない。では残り95%をどうしているのか。なんと彼は、そのお金を元にしてガーナにリサイクル工場を建設しているというのだ。つまり彼は、「ガーナで捨てられた『ゴミ』を元手にアート作品を制作し、その販売で得たお金でガーナのゴミ問題を解決しようとしている」のである。ガーナのゴミ問題は世界規模で取り組むべきことだと思うが、それをほぼ個人レベルの発想と行動で解決に導こうとしているのだ。本当に、世の中には凄まじい人物がいるものだと感じさせられた。
そして、本作で取り上げられる中里唯馬もまた、長坂真護と同じような問題意識を持っているのである。
ナイロビで中里唯馬が目にした「服の終焉」のリアル
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ナイロビは、世界中の「売れない衣服」が集まってくる集積場だ。それらは「ミツンバ」と呼ばれるの「服の塊」の状態で送られてくる。1つ40kg以上にもなるそうだ。それが1日20個ほど、年間で160トンもコンテナで送られてくるというのだから、やはり異常と言う他ないだろう。
送られてきた服の一部はもちろん、ナイロビ国内で古着として流通される。しかし、国内の需要よりも「外からの暴力的な供給」の方が圧倒的に多いため、そのほとんどがゴミになるという。服の一部は川に投棄されるのだが、その川は湖や海と繋がっているため、海洋生物の生息環境が汚染されてしまう。また、大量の服が積み上がったゴミ山があちこちに形成され、その規模は年々拡大していくばかりである。
中里唯馬はさらに、「ダンドラ」と呼ばれるゴミ集積場にも足を運ぶ。広大な土地をゴミが埋め尽くしているのだが、私はこの「ダンドラ」を別の機会にも目にしたことがある。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』というテレビ東京系の番組内で、「そのゴミ山に人が生活している」という取り上げられ方だった。同番組は、世界の凄まじい現実へと足を運び「そこに住む人が何を食べているのか」を撮るという、なかなかに衝撃的なドキュメンタリーである。興味がある方は以下のリンク先を読んでほしい。
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中里唯馬もまた、ゴミ山に暮らす人たちに話を聞く。彼らはゴミ山を漁り、売れそうなものを探し出してはお金に換えて生計を立てている。買取価格は、1キロで大体15シリング(15円)。平均的に1日に13~15kg集められるそうなので、つまり1日の稼ぎは225シリング程度ということになる。国際的な基準では、「1日1.9米ドル(約200円)未満での生活」を「絶対的貧困ライン」と定めているため、そのような基準からも「最底辺の生活」と考えていいだろう。
本作に登場した、「37年間もこのゴミ山で暮らしている」という女性の話は非常に印象的だった。というのも、「ここでの生活に満足している」と語っていたからだ。彼女には子どもがいるのだが、ゴミ山での稼ぎで学校にも行かせたという。病気も大怪我もしたことがなく、健康には何の問題もないそうで、むしろ「このゴミ山が無くなったら困る」とさえ口にしていたのである。
この女性の話を受けて中里唯馬は、「『このゴミ山が無くなったら困る』とさえ感じる人が出てくるほど、『服のゴミ』が安定的に運ばれてきたという現実」を改めて理解した。ゴミ山での生活が成立するためには、「服がずっと送られてくる」という状況が存在しなければならない。そしてそのような状態を作り出したことにこそ、先進国は責任を感じなければならないのだ。
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また、「服が大量に送られてくる」という状態は、単にゴミの問題だけに留まらない。というのも、ナイロビでは産業構造自体が変わってしまったからだ。ナイロビは元々繊維産業が盛んだったそうだが、大量の服が送られてくるようになってからは、それらを古着として販売する商売が増殖したのである。これもまた、悪い一面と捉えるべきだろう。「古着の販売」なんかより、どう考えても「繊維産業」がそのまま維持されている方が良かったはずだ。それに、「古着の販売」が商売として成り立っている以上、「今後も安定的に服が送られてくる」ことを期待する他なくなってしまう。このような実情を、中里唯馬は確認していくのである。
しかしそもそもだが、どうしてこれほど大量の服がナイロビに送られるようになったのだろうか? 作中ではある人物がその経緯について説明していた。きっかけは20年前、アメリカとナイロビがある契約を交わしたことにある。アメリカが、ナイロビからの「関税のない輸入」を認める代わりに、ナイロビに廃棄物の引き取りを受け入れるように要求したのだそうだ。その結果、「アメリカから大量に服が送られる」という状況が生まれ、そして恐らく、そのことを知った他の国も追随したのだと思う。今では中国からの流入が最も多いそうだ。
本当にこの「ナイロビの大地に積み上げられた服の山」は衝撃的な光景なので、実際に映画を観て確認してほしいと思う。
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ナイロビの現実を理解した中里唯馬は、パリコレで何を発信しようと考えるのか?
中里唯馬はもちろん、「服の終焉」についてはナイロビ入りする前から頭では理解出来ていたはずだ。しかしやはり、実際に目にするのとでは大違いだったのだろう。彼は「打ちのめされた」という主旨の言葉を何度も口にしていた。
言葉が出てこない。
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何が正しくて何が正しくないのかもまったく分からなくなってしまった。
何を言うべきか分からなくなるのは珍しい。これが「言葉に詰まる」ってことなのかな。
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そして、「ファッションデザイナー」である中里唯馬は、「自身もこのナイロビの現実に”加担”している」のだと痛烈に実感させられたのである。そのため、ナイロビから帰国した彼は、自身のブランドに関わってくれるメンバーを集めたミーティングの場で、次のような話をしていた。
ナイロビで多くの人にインタビューをしましたが、その中でほとんどの人から「もう服を作らないでほしい」「世の中に服はもうたくさんある。どうしてこれ以上作る必要があるのか?」と言われました。
私たちはパリコレのようなショーに関わっていて、そしてそれは「消費を促す場所」でもあります。新たなトレンドを作って、「服を買いたい」と思ってもらうというのが、圧倒的な原理原則です。
つまりシンプルに、「もっと売りたい」ってメッセージを発していることになります。
それは、私たちのブランドがどれぐらい売っているとかそういうことではなくて、そこに関わっている以上、既に加担してしまっているということ。
そういう中で何を言っても、言い訳にしか聞こえないだろうなって思います。
このミーティングはたぶん、ナイロビから帰国してすぐのものだったんじゃないかと思う。だから恐らく、「どうすべきか」については中里唯馬の中でもまとまっていなかったはずだ。そしてそういう状態のままで、「ナイロビの現実を見て感じてしまったこと」を素直に吐き出しているように感じられたのである。
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またこのミーティングには、「『服を作る』という行為にどう向き合えばいいか分からなくなった」という中里唯馬の率直な感想を聞いて、他のメンバーがどんな風に感じるのかを吸い上げたいという目的もあったのだと思う。そりゃあ、普通は困惑するだろう。「ファッションデザイナー」である以上、「服を作る」ことからは逃れられないのだから。本作では、中里唯馬のチームの面々が、各々の価値観をベースにしつつ、「中里唯馬が見てきた現実」をどう咀嚼したのかについて語るシーンが断片的に映し出されていた。
この時点ではまだ具体的な展望は見えていなかったはずだが、しかし、中里唯馬が決意を固めていたことは明らかだと思う。つまり、「パリコレという『資本主義における究極的な消費の中心地』から、『もう服を作るのは止めましょう』というメッセージを含む発信を行う」ことは決めていたはずだ。それは凄まじく無謀な決断だと思うが、ナイロビで目にした現実はその困難さを突き進むだけの動機を彼に与えたのだと思う。こうして中里唯馬の挑戦の日々が始まるのである。
ファッション業界の”リアル”と、中里唯馬の挑戦
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ではここで、作中で提示された「ファッション業界に関するちょっと驚くべきデータ」を提示しておくことにしよう。「大量生産・大量消費」の業界であると知ってはいたものの、まさかここまで「環境負荷」の高い産業だとは思っていなかったのである。
まず、「温室効果ガスの排出」「水の消費」「廃棄物の産出」など様々な要素を考慮した上で、「環境負荷が大きな分野」として誰もが思い浮かべられるのが「石油産業」だと思う。当然、「環境負荷度」のランキングでは1位である。では2位は何だろうか? なんと「ファッション業界」なのだそうだ。ただ、本作ではこのようなデータが表記されるのだが、出典は載っていなかったと思う。だから、「どのような調査項目をどのように考慮して2位と算出された」のかはよく分からないのだが、一応ネットで調べてみると、「環境省」の資料がヒットしたのでリンクしておこう(ただしこちらについても「※一次資料未確認」と書かれている)。
https://www.caa.go.jp/policies/future/topics/meeting_006/materials/assets/future_caa_cms201_1209_02.pdf
また、本作で表示されたデータによると、「2000年から2015年の間で、世界の服の生産量は2倍になった」そうだ。そしてこのペースは2030年まで続くと推計されているという。さらに、「世界で作られる服の75%は破棄される」というのだから、ちょっと尋常ではないだろう。「生産された製品の75%が処分される業界」が成立していること自体が不思議で仕方ないのだが、だからこそナイロビのゴミ山が形成されるのかと思うと納得である。
さて、中里唯馬は作中で、「これまでも『いかに環境負荷の少ない服をデザインするか』という観点から仕事をしてきた」と話していた。業界内では、そのような観点からも評価されている人物であるようだ。しかし彼は、これまでの自身の仕事を振り返り、「机上の空論だった」と語っていた。
ファッション業界に限る用語ではないようだが、「グリーンウォッシュ」という言葉が存在するそうだ。私は本作で初めて知った。「環境に配慮しているように上辺だけ繕う」みたいな意味だそうだ。そして中里唯馬は、「『グリーンウォッシュ』は良くないと思いながら仕事をしてきたつもりだが、そんな自分が『グリーンウォッシュ』の側に立っていたのだと気付かされた」みたいに話していた。さすがにそれはあまりに自己批判が過ぎると思うのだが、しかし彼のこの発言からは、「考え方や意識がガラッと変わった」という感覚が強く伝わってくるだろう。そんな彼はある場面で、次のように口にして決意を新たにしていた。
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彼はもちろん、これまでもそのようなスタンスで生きてきたはずだが、ナイロビの現実を見て「課題の捉え方」がまるきり変わっただろうし、だから「自分が何に注力していくべきか」についても一変したのだと思う。そしてそんな風にして、中里唯馬のチャレンジが本格的にスタートしていくのである。
しかしこの時点で既に、パリコレ本番まで3ヶ月を切っており、彼は壮絶な3ヶ月を過ごすことになった。そもそも「『もう服を作るのは止めましょう』というメッセージをパリコレで発信する」というだけで無謀なのに、さらに想定外のトラブルにも次々に見舞われるのだ。まさに「てんてこ舞い」というような日々を過ごしながら、パリコレまでの期間を突き進んでいくのである。中里唯馬は、「死ぬかと思った。今日までホントに地獄だった」「過去一ヤバい」と、その壮絶さを語っていた。
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パリコレで無謀な発信を行うために検討した様々なテクノロジー
ナイロビから戻った中里唯馬は、「もう服を作るのは止めましょう」というメッセージをどうにかデザインに落とし込むためアクティブに動き続ける。そしてそれは、「1人でうんうん唸って考える」みたいなことではなく、「様々な企業とのコラボレーション」という形で進んでいく。
セイコーエプソンの社員とは、「服を素材に戻す」ための打ち合わせをしていた。中里唯馬はナイロビでミツンバをいくつか買って持ち帰っていたのだが、その服を「素材」に戻して活用しようというのだ。
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しかしこれは非常に難しい課題だった。服に限る話ではないが、「同じ素材」だけを集めて再資源化することはそう難しいことではない。しかし服には通常様々な素材が使われているし、さらに、ひとまとめにして捨てられてしまうような「粗悪な服」ほど複数の素材が使われがちである。中里唯馬は、「粗悪な服ほど捨てられるのだから、それらを含めて再資源化出来るような仕組みを目指したい」と考えて、技術者と打ち合わせを重ねていく。
また、中里唯馬が目をつけた、山形県にあるスパイバー社も非常に興味深い。本作には、代表を務める関山和秀が自身のアイデアや今後の展望について語る箇所があるのだが、凄いことを考える人がいるものだと感じさせられた。
彼はそもそも、「地球規模のスケールで考えれば、『ゴミ』という概念は存在しない」と考えている。その理由は、「あらゆる物質が微生物によって分解され、再資源化されるから」だ。その一方で、服は最初から「再資源化」を想定して作られてはいない。そのため、使わなくなった服は捨てるしかなくなるし、それが「ゴミ」になってしまうのである。だから彼は、「だったら、『素材』の段階から『再資源化』を想定した生産を構築できればいいのではないか」と考えたのだ。
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そこで着目したのが「クモの糸」である。かねてより「非常に高い強度を持っている」という知識を持ってはいたが、ある時、「だったら、どうしてそんな素材が実用化されていないのだろうか?」と疑問を抱いたのだという。そこで彼は「クモの糸」の研究に着手する。「クモの糸」はタンパク質から出来ているのだから、微生物に分解してもらうことが可能だ。そこで、「服の素材として使用可能なタンパク質」を作り出すことを目指し、まずは「微生物のデザイン」から始めることにした。そしてその後、「デザインした微生物に、必要なタンパク質を作ってもらうための設計図を組み込む」ことで、環境負荷の低い新素材を生み出そうとしているのである。
その研究は恐らく、まだ実用化には届いていないのだと思うが、作中では、「彼が生み出したのだろう『タンパク質素材』を使って服を作る実験の様子」が映し出されていた。その手法は独特で、「素材をマネキンに貼り付け、そのままお湯に浸けることで服の形に成形する」という感じである。この新素材がパリコレで使われたのかは結局のところよく分からなかったが、「中里唯馬の試行錯誤」や「新素材開発の裏側」はとても興味深く感じられた。
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中里唯馬はこのように「新しいテクノロジー」を取り入れることで新たなメッセージを発しようと考えているのだが、その過程で彼が語っていたことが印象的だった。
こうやってソリューションだけあっても、それが業界とは融合しにくかったりする。
だから、ソリューションとデザインをちゃんと掛け合わせて提示しなきゃいけない。
確かにその通りだと思う。もちろん、「ソリューションを生み出す人」の存在も欠かせない。しかし、ソリューションだけが存在していても、それが社会に受け入れられ、馴染む可能性は低いだろう。誰かがそれを「現実に使用可能なデザイン」に落とし込み、社会に投げかけることで、初めてそれが「ソリューション」としての価値を持つのである。
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その上でさらに、中里唯馬が有する「ファッションデザイナーとして最前線で活躍している」という要素も非常に重要だと言えるだろう。そういう人物が明確な信念を持ってソリューションを提示することで、社会が大きく動く可能性があるからだ。そして彼もまた、自身のそのような”役割”に自覚的なのである。
ファッションってこれまで、社会を変えてきたんです。
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ファッションにはそんな風に「社会を変える力」があると信じています。
だから自分が旗を立てていき、「こういうことを考えている人もいるよ」ということを世の中に出していきたいんです。
そんな風にして怒涛の3ヶ月を突き進んだ中里唯馬は、パリコレの場で「INHERIT(継承する)」と題したショーを行った。本作では、そのショーを目にした批評家たちの感想が紹介されていたが、それらを聞くと、彼が作り上げたこの渾身のショーは、彼が目指したものを見事に体現出来ていたのではないかと思う。1人の個人が、「石油産業に次いで環境負荷が高い」と評されるファッション業界を、そのデザインによって革新するかもしれない。そんな予感を強く抱かせてくれるものだったに違いない。
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さて、最後にもう1つ、「服の起源」について触れておくことにしよう。「服の墓場」を見るためにナイロビを訪れた中里唯馬には、実はもう1つ目的があったのである。
彼は、今まさに「世界最大の干ばつ」に襲われているという北ケニアを訪れた。彼が足を運んだマルサビット地方ではなんと、もう4年間も雨が降っていないのだそうだ。環境負荷が高いファッション業界は当然、地球温暖化にも寄与していると言えるだろう。そのため中里唯馬は、北ケニアを襲う干ばつも「自分事」として捉えていたのである。
しかしそんな地球温暖化の現状を目の当たりにしている最中、彼にとっても思いがけない出会いがあった。パルキション村で中里唯馬は、「動物の皮で作られた服」を着た人に遭遇したのである。これは、「羊の皮に穴を開け、同じ皮で作った紐で縫った服」なのだが、中里唯馬曰く、この「動物の皮で作られた服」こそ「人類の服の起源」とされているのだという。彼は「見れるとは思っていなかったもの」が見れたことで、とても興奮していた。
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中里唯馬は「服やファッションについて深く研究している」のだそうだ。多くの人がそのように語っていた。デザインの追求だけではなく、文化や歴史などの方面にも造形が深いというわけだ。なので、「動物の皮で作られた服」に興奮している姿は、彼のそんな一面を強く実感させる場面だったなと思う。
そんなわけで本作は、「『ファッション』という言葉からは連想しにくいが、しかし実際には密接に結びついている様々な事柄」を取り上げながら、その解決の道筋を模索する過程までをも描き出す、実に興味深い作品だった。
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最後に
本作『燃えるドレスを紡いで』で扱われるのは「ファッション業界」だが、今はあらゆる分野で「既存の資本主義的システム」の転換が迫られているようにと思う。環境問題は待ったなしである。手をこまねいている内に、後戻りできない状況に行き着いてしまいかねない。まさに「喫緊の課題」と言っていいだろう。
しかし私たちは、その「資本主義的システム」を前提とした社会に慣れすぎてしまった。そのため、「今あるものを手放す」という形で変革を実現するのは、非常に難しいのである。
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だからこそ、個人レベルでこの問題に立ち向かおうとしている中里唯馬の姿には圧倒されてしまった。彼は、「一度発信したぐらいじゃ何も変わらないから、続けないと」と口にしており、確かにそれはその通りだと思うのだが、まずは何よりも「現状を認識し『NO』を突きつけた」という事実を称賛すべきだと感じる。
残念ながら、世界はすぐには変わらない。しかし、誰かが動き出さなければ停滞したままであることもまた確かだ。そしてその偉大な一歩を、中里唯馬は踏み出した。そんな中里唯馬を追う本作は、「世界は彼に続くことが出来るのか?」という問いを私たちに突きつけているのだと思う。
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『衆議院議員・小川淳也が小選挙区で平井卓也と争う選挙戦を捉えた映画『香川1区』は、政治家とは思えない「誠実さ」を放つ”異端の議員”が、理想とする民主主義の実現のために徒手空拳で闘う様を描く。選挙のドキュメンタリー映画でこれほど号泣するとは自分でも信じられない
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つい数十年前まで、飛行機は「死の乗り物」だったが、天才気象学者・藤田哲也のお陰で世界の空は安全になった。今では、自動車よりも飛行機の方が死亡事故の少ない乗り物なのだ。『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』から、その激動の研究人生を知る
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コンパクトシティの先進地域・富山市や、起業家精神が醸成される鯖江市など、富山・福井の「変革」から日本の未来を照射する『福井モデル 未来は地方から始まる』は、決して「地方改革」だけの内容ではない。「危機意識の共有」があらゆる問題解決に重要だと認識できる1冊
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ドキュメンタリーで定評のある東海テレビが、「東海テレビ」を被写体として撮ったドキュメンタリー映画『さよならテレビ』は、「メディアはどうあるべきか?」を問いかける。2011年の信じがたいミスを遠景にしつつ、メディア内部から「メディアの存在意義」を投げかける
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【真実?】佐村河内守のゴーストライター騒動に森達也が斬り込んだ『FAKE』は我々に何を問うか?
一時期メディアを騒がせた、佐村河内守の「ゴースト問題」に、森達也が斬り込む。「耳は聴こえないのか?」「作曲はできるのか?」という疑惑を様々な角度から追及しつつ、森達也らしく「事実とは何か?」を問いかける『FAKE』から、「事実の捉え方」について考える
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NSA(アメリカ国家安全保障局)の最高機密にまでアクセスできたエドワード・スノーデンは、その機密情報を持ち出し内部告発を行った。「アメリカは世界中の通信を傍受している」と。『シチズンフォー』と『スノーデン』の2作品から、彼の告発内容とその葛藤を知る
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「ホームレスは怠けている」という見方は誤りだと思うし、「働かないことが悪」だとも私には思えない。振付師・アオキ裕キ主催のホームレスのダンスチームを追う映画『ダンシングホームレス』から、社会のレールを外れても許容される社会の在り方を希求する
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難民申請中の少年が、国籍だけを理由にチェスの大会への出場でが危ぶまれる。そんな実際に起こった出来事を基にした『ファヒム パリが見た奇跡』は実に素晴らしい映画だが、賞賛すべきではない。「才能が無くても安全は担保されるべき」と考えるきっかけになる映画
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国の諜報機関の職員でありながら、「イラク戦争を正当化する」という巨大な策略を知り、守秘義務違反をおかしてまで真実を明らかにしようとした実在の女性を描く映画『オフィシャル・シークレット』から、「法を守る」こと以上に重要な生き方の指針を学ぶ
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金正男が暗殺された事件は、世界中で驚きをもって報じられた。その実行犯である2人の女性は、「有名にならないか?」と声を掛けられて暗殺者に仕立て上げられてしまった普通の人だ。映画『わたしは金正男を殺していない』から、危険と隣り合わせの現状を知る
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我々の日常生活は、原発が生み出す電気によって成り立っているが、核廃棄物の最終処分場は世界中で未だにどの国も決められていないのが現状だ。映画『地球で最も安全な場所を探して』をベースに、「核のゴミ」の問題の歴史と、それに立ち向かう人々の奮闘を知る
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「遺伝子組み換え作物が危険かどうか」以上に注目すべきは、「モンサント社の除草剤を摂取して大丈夫か」である。種子を独占的に販売し、農家を借金まみれにし、世界中の作物の多様性を失わせようとしている現状を、映画「モンサントの不自然な食べもの」から知る
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「砂が枯渇している」と聞いて信じられるだろうか?そこら中にありそうな砂だが、産業用途で使えるものは限られている。そしてそのために、砂浜の砂が世界中で盗掘されているのだ。『砂と人類』から、石油やプラスチックごみ以上に重要な環境問題を学ぶ
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私は、安楽死が合法化されてほしいと思っている。そのためには、人間には「死ぬ権利」があると合意されなければならないだろう。安楽死は時折話題になるが、なかなか議論が深まらない。『安楽死を遂げた日本人』をベースに、安楽死の現状を理解する
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