目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:サリー・ホーキンス, 出演:スティーヴ・クーガン, 出演:ハリー・ロイド, 出演:マーク・アディ, 監督:スティーヴン・フリアーズ, Writer:スティーヴ・クーガン/ジェフ・ポープ
¥2,500 (2024/03/31 19:03時点 | Amazon調べ)
ポチップ
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
冒頭で「Her Story(彼女の物語)」とわざわざ表記された理由を推察する リチャード3世の遺骨が正しく埋葬されなかった理由と、専門家もお手上げだった「遺骨探し」の困難さ リチャード3世を推す主人公が自身と重ね合わせた「劣等感」と、「直感」だけを頼りに突き進んだ彼女の破天荒さ
「マジでこんなことが実際に起こったのかよ!?」と疑いたくなるほど信じがたい、実にぶっ飛んだ物語
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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なにせ、「一介の会社員女性が、500年前に亡くなった王リチャード3世の遺骨を探し当てた 」というのである。そのあまりのあり得なさに思わず笑ってしまいたくなった ほどだ。そして、予告やHPなどでは「最強の推し活」という言葉が使われている のだが、まさにこの言葉がピッタリくる物語 でもある。数多の専門家がチャレンジするも見つけられなかった遺骨を、「リチャード3世のことが好き!」というだけのフィリッパという女性が見つけてしまった のだから、「推し活」の成果としては凄まじい と言えるだろう。
こういうことが起こるから、世の中はまだまだ面白い なと思える。
さて、先に1つ書いておきたいこと がある。本作については、予告やHP等で「主婦」という言葉が使われているのだが、私の感覚では本作にはちょっとそぐわない ように思う。日本では「主婦」という言葉はまだ、「結婚している女性」というよりも、「専業で家事をしている女性」という意味の方が強いように感じられる からだ。なのでこの記事では基本的に、「主婦」という言葉は使わない 。
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最大の功労者であるフィリッパの功績は奪われてしまった
本作では冒頭で、「Based on a true story(実話に基づく物語)」という見慣れた文句の後に「Her Story(彼女の物語)」という言葉も表示される 。私は鑑賞前の時点で「一般人が王の遺骨を見つけた」という概要は知っていた し、大体の観客はそれぐらいの知識は持った上で本作を観ると思うので、何故わざわざ「Her Story」なんていう但し書きが必要なのか、冒頭の時点ではよく分からなかった 。
しかし最後まで観て、100%の確証こそ無いものの、「Her Story」と表記した理由がなんとなく理解できた ように思う。
さて、今から書くことは大分後半で描かれる話 であり、それについて触れることを「ネタバレ」だと感じる人もいると思うので、知りたくない方は読み飛ばしてほしい 。物語の本筋と大きく関わるものではない と私は思うので、知った上で鑑賞しても大きな違いはないと考えてはいる のだが、念のため。
なんと、フィリッパこそ遺骨発見の最大の功労者であるはずなのに、その功績は当初、大学にすべて奪われてしまっていた のである。本作に描かれている通りに事態が進行したのであれば、「遺骨の発掘を計画した責任者」は間違いなくフィリッパ なのだが、遺骨が発見されるや、「最初から大学主導で発掘を計画した」と事実が捻じ曲げられ、その功績がを横取りされた のだ。
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なんとも醜悪な現実 である。
映画の最後に「2015年にフィリッパがMBE勲章を授与された」と字幕表記された し、何よりも、大女優であるサリー・ホーキンスを主演にした映画まで制作されている わけで、今では「フィリッパこそが最大の功労者である」と正しく認められている のだと思う。そして私は、「映画の制作陣は、『これはまさにフィリッパの物語なのだ』という点をより強調するために『Her Story』と表記したのではないか 」と感じたのである。「『大学の物語』なんかじゃないぞ」という念押し というわけだ。
公式HPによれば、「『遺骨発掘後の出来事』については事実を改変せず、起こったことをそのまま描いている 」という。恐らく、大学側とトラブルになることを避ける意味もあって、フィクションを交えずに事実だけを切り取った のだと思う。アカデミックな世界に対してピュアなイメージを持っていたわけではないのだが、それにしてもあまりになりふり構わないやり方には驚かされてしまった 。
では、フィリッパによる遺骨の発見がどれほど凄いことだったのか にも触れておこうと思う。
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その大発見は、2012年9月5日の出来事 だ。今から10年ちょっと前のこと であり、つい最近と言っていいと思う。シェイクスピアが題材にするほど有名な「王」 であり、そんな人物の遺骨なのだから当然、亡くなってからの500年間に、それは多くの研究者がその場所を探そうとした はずだ。しかし、それでも見つからなかった のである。
映画に登場する専門家は、口々に「不可能」「無理に決まってる」「干し草から針を探すより難しい」と否定的な反応を示す 。これはまあ、「専門家でも無理なのだから、あなたにはとても不可能ですよ」という嫌味なのだと思う が、いずれにしても、専門家でさえ「見つかるはずがない」と考えていた というわけだ。あるいは、もしかしたら専門家の中には、「500年もの間見つからなかった遺骨探しに手を出して、研究者人生を棒に振るわけにはいかない」みたいな感覚 の人もいたかもしれない。
このように考えると本当に、フィリッパがその無謀な挑戦を始めなければ、リチャード3世の遺骨は永遠に見つからなかったかもしれない のである。そんな大発見を、ただの会社員女性が成し遂げてしまった という点に驚かされてしまうのだ。
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王なのに、リチャード3世は何故きちんと埋葬されなかったのか?
しかし不思議ではないだろうか? リチャード3世は「王」だったのだから、普通に考えれば、死後に盛大な葬儀が執り行われ、きちんと埋葬されていて然るべき だろう。だからそもそも、「王の遺骨の在り処が分からない」という状況こそがおかしい ように感じられる。
まずはこの点について、私が映画を観て理解した限りの情報 に触れておこうと思う。さて、私は学生時代、日本史も世界史もまともに学ばなかった ので以下の記述には何か誤りが含まれているかもしれない 。しかしその場合でも、作品の落ち度ではなく私の知識不足によるもの だと判断してほしい。
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リチャード3世はヨーク朝の国王 だった。しかし、1485年にボスワースでテューダー家のヘンリーと闘い戦死、そこからテューダー朝が始まる 。歴史とは、常に勝者が塗り替えていくものだ 。勝ったヘンリーは当然、リチャード3世を「悪い人物」に見せたかった だろう。その方が「打ち倒した理由」が分かりやすいし、その後の統治もやりやすくなるはずだからだ。恐らくそのせいできちんと埋葬されなかった のだと思う。
さて、歴史をちゃんと学んでこなかったこともあり、「リチャード3世」が学校の授業でどのような存在として教えられるのか私は知らない 。何となくではあるが、日本ではあまり教わらない、さほど有名ではない人物 な気がする。しかし、イギリスではとてもよく知られた存在だ 。王なのだから当然かもしれないが、恐らくそれだけが理由ではない。先述した通り、シェイクスピアが戯曲の題材として彼を扱っている のだ。
そしてシェイクスピアもまた、リチャード3世を「悪い人物」として描いている 。まあそれも当然だろう。というのも、リチャード3世の評価を悪くしたいヘンリーは恐らく、それまで残っていたリチャード3世に関する資料を処分し、新たに「テューダー朝に都合の良いリチャード3世像」を描いた資料を作成したはず だからだ。シェイクスピアが『リチャード三世』を書いたのは1593年 。1485年に亡くなったリチャード3世を直接知る機会があったはずがない 。このことからも、テューダー朝時代の「歪められた資料」を基にリチャード3世について記した と考えるのが妥当だろう。
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シェイクスピアが描いたリチャード3世は、「王位継承権を有する2人の甥を殺害した、背中に醜いコブを持つ王位簒奪者 」であり、これがイギリスにおける(あるいは、全世界的にもそうなのかもしれないが)リチャード3世の基本イメージ であるようだ。そして「推し活」という表現からもイメージできるように、フィリッパはこのような「悪評」を信じていない 。彼の実像はヘンリーによって歪められただけ であり、本当はもっと良い人だったはず だと彼女は信じているのである。
そしてこの想いこそが、彼女の「推し活」を加速させる要因になった と言っていいだろう。つまり、「リチャード3世の汚名をそそぎたい」という動機が、彼女の無謀な「遺骨探し」を後押しした というわけだ。
公式HPには、次のような文章がある。
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英国史上もっとも冷酷非道な王として知られるリチャード三世。
「ロスト・キング 500年越しの運命」公式HP
誰しもが「あのシェイクスピアが言うんだから間違いない」と思い込んでいた英国王室の歴史を覆した。
「ロスト・キング 500年越しの運命」公式HP
「歴史を覆した」というのは、決して大げさな表現ではない 。なんと、発掘から6年後の2018年、英国王室はリチャード3世を「王位簒奪者ではない正当な王だった」と認めた そうなのだ。これも、フィリッパらの強力な働きかけがあって実現したもの だという。
英国王室に方針転換させるほどの成果の中心にいたのが「どこにでもいるフツーの会社員女性」 だというのだから、本当に、とても現実に起こったこととは思えないぶっ飛んだ話 だなと感じる。
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フィリッパが遺骨探しに没頭したもう1つの理由
さて、フィリッパは「リチャード3世の名誉回復」のために奔走した わけだが、遺骨探しに没頭した理由は他にもあった 。それが、持病の筋痛性脳脊髄炎(ME) である。本作では、フィリッパが体調を崩す場面が何度か描かれるものの、どんな病気なのか詳しく触れられなかった。調べてみると、「全身の倦怠感、強度の疲労感、抑うつ症状などが現れる、原因不明で治療法の存在しない病気 」なのだそうだ。作中では「ストレスを感じると悪化する 」と説明されていた。健全な社会生活を送るのにかなりの困難をもたらす病気 であるようだ。
映画は、フィリッパがとあるプロジェクトチームに“選ばれなかった”場面から始まる 。彼女は当然、自分が選ばれるものだと思っていた のだが、最後に名前を呼ばれたのは入社したばかりの新人 だった。フィリッパは上司に掛け合ったが糠に釘。彼女は持病について上司に報告していた こともあり、「病気のせいで正当に評価されていない 」と考えるようになる。
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それもあって彼女は、「醜いコブが背中にあった」と描写されることの多いリチャード3世に、自身の境遇を重ねている のだ。
作中には、リチャード3世推しのフィリッパが持っている知識として、リチャード3世が成したとされる様々な功績についても言及される 。例えば、「『疑わしきは罰せず』という原則を取り入れたこと 」や「印刷機が『悪魔』であると考えられていた時代に率先して導入したこと 」など様々な改革を行ったのだそうだ。しかし、やはりシェイクスピアの影響力は凄まじく、「どうせ悪い奴だったんだろう」という印象を多くの人が抱いたまま なのである。
そんなリチャード3世の悪評をひっくり返すことが出来れば、自身が今置かれた境遇を好転させることにも繋がるかもしれない 。フィリッパ自身がそのように考えるシーンあるわけではないのだが、しかし私はそのように受け取った。彼女は実は、会社だけではなく家庭でもあまり上手く行っていない 。「共同で子育てをする」と取り決めてはいるものの夫とは離婚しており、子どもたちはゲームに夢中で、母親のことを「イカれ女」と呼ぶ始末 。このように「どこを向いても八方塞がり 」という状況にいたわけで、だからこそ余計に、現実逃避の意味もあって遺骨探しに躍起になっていた のではないかと思う。
「直感」のみで遺骨を探し当てた経緯と、「リチャード3世の骨である」と判断された理由
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本作『ロスト・キング』は、「リチャード3世の遺骨をいかにして発見したのか」が物語のメイン となるので、この記事ではその点にはあまり具体的には触れない つもりだ。しかし、その発見に至る過程は「無茶苦茶」 としか言いようがない。特に印象的だったのが、「フィリッパが専門家の主張に幾度も『NO』を突き付ける姿 」である。
繰り返しになるが、フィリッパは単なる会社員であり、「推し」であるリチャード3世のことを勝手に調べているだけの「素人」 に過ぎない。もちろん、様々な書籍を読み漁って知識を得てはいるが、当然、知識量で専門家に敵うはずがない だろう。にも拘らず彼女は、専門家が相手でも「それは違う」とはっきり突き付ける のだ。
では、その根拠は一体何なのか 。これについては、「直感」と表現する他ない 。彼女は最初から最後まで「直感」だけで行動し続ける のだ。
物語的には、中盤ぐらいの時点で「この場所にリチャード3世の遺骨が眠っているのではないか」という場所が示される 。もちろん、フィリッパの「直感」 だ。確かに、様々な資料を読み漁ったりしてフィリッパなりに根拠を持っているつもりではあるのだが、しかし実際のところは「直感に導かれた」に過ぎない 。
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さて、問題はここからだ 。その場所は「公共の空間」であるため、フィリッパが勝手に掘ることなど出来ない し、そもそもコンクリート舗装された場所なので、重機を使わなければならない 。そのため、発掘のための「許可」と「資金」を得る必要がある のだ。
しかしフィリッパには「直感」しかない 。これでは、他人を納得させるのは難しい だろう。ある場面で、フィリッパに協力を申し出る女性が現れるのだが、彼女はフィリッパに「あまり感情の話をしない方がいい」と忠告する 。「女はそれでバカにされるから 」と。つまり、直感や感情の話を抜きにして「偉いオジさん」たちを説得しなければならない というわけだ。この点もまた、本作の見所の1つ と言っていいだろう。
さて、映画を観ながら「なるほど」と感じた話 がある。発掘計画に関してある人物から、「人間の骨が見つかったとして、それがリチャード3世のものだとどう判断するのか?」と疑問を突きつけられる のだ。確かにその通りである。リチャード3世が亡くなったのは500年も前 のこと。科学的に「これがリチャード3世の遺骨である」などと断言することは可能なのだろうか?
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本作ではこの点についてもきちんと描かれていた。実はフィリッパの物語とはまた別に、ある研究を長年続けた専門家のストーリーが存在 し、彼が持つ知見と組み合わせることで「リチャード3世の遺骨かどうか」の判断が可能になる のだ。この2つの線が交差しなければ大発見には至らなかった わけで、本当によく出来た物語 だと感じさせられた。
作中の演出として興味深かったのは、「リチャード3世本人が登場すること」 だろう。「フィリッパにしか見えない幻影 」として現れ、フィリッパは彼に何度か話しかけもするのだ。「フィリッパがリチャード3世を推している」という状況を描き出す上で、視覚的に分かりやすい演出 だと感じた。
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最後に
その壮大さやハチャメチャぶりも含め、これほどの「推し活」は二度と生まれないだろう 。そう感じさせるほどに現実離れした実話 であり、「事実は小説よりも奇なり 」を地で行く物語にワクワクさせられてしまった。
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世界最高峰の辞書である『オックスフォード英語大辞典』は、「学位を持たない独学者」と「殺人犯」のタッグが生みだした。出会うはずのない2人の「狂人」が邂逅したことで成し遂げられた偉業と、「狂気」からしか「偉業」が生まれない現実を、映画『博士と狂人』から学ぶ
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実は、「一発で火星に探査機を送り込んだ国」はインドだけだ。アメリカもロシアも何度も失敗している。しかもインドの宇宙開発予算は大国と比べて圧倒的に低い。なぜインドは偉業を成し遂げられたのか?映画『ミッション・マンガル』からプロジェクトマネジメントを学ぶ
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生きていると、「常識的な考え方」に囚われたり、「普通」「当たり前」を無自覚で強要してくる人に出会ったりします。そういう価値観に合わせられない時、自分が間違っている、劣っていると感じがちですが、そういう中で一歩踏み出す勇気を得るための考え方です
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現在、そして未来の社会について考える場合に、人類のこれまでの歴史を無視することは難しいでしょう。知的好奇心としても、人類がいかに誕生し、祖先がどのような文明を作…
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