目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「偶然と想像」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
今どこで観れるのか?
劇場情報をご覧ください
この記事で伝えたいこと
「動き」も「感情」も極端に排除された、「脚本」の力で場を支配する力が凄まじい
『ドライブ・マイ・カー』を観なければ絶対に観なかったし、観て本当に良かったと思う
この記事の3つの要点
- 「見知らぬ役者が動きの少ない中でとにかく喋る映画」がとにかく素晴らしい
- 一番好きな「魔法(よりもっと不確か)」、一番爆笑した「扉は開けたままで」、最も脚本が見事な「もう一度」
- どの作品にも、ある種の「狂気」が通底していることもとても好き
『ドライブ・マイ・カー』『偶然と想像』で濱口竜介監督の凄まじさをこれでもかと体感させられた
自己紹介記事
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私はこの『偶然と想像』という映画を、絶対に観るまいと考えていました。というのも、予告の映像もポスターも非常にオシャレで、正直、私が観て面白いと感じるタイプの映画ではなさそうな気がしていたのです。
ホントに予告で観た感じは、「よくある雰囲気の良さそうな映画」って感じだよね
私と同じように、あの予告・ポスターで「観なくていいや」って思ってる人、結構いそうな気がする
考えが変わったきっかけは、映画『ドライブ・マイ・カー』を観たことです。
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上の記事でも書きましたが、私は『ドライブ・マイ・カー』も絶対に観ないぞと決めていました。しかし観てみると、あまりにも素晴らしい作品で驚かされてしまいます。そして、『偶然と想像』が同じ濱口竜介監督作品だと知り、そこで初めて「観よう」という気持ちに変わったというわけです。
いやー、ホントに凄かったです。衝撃的と言っていいほど、えげつない面白さでした。
「脚本」と「役者」のみで成立してしまうことの凄さ
具体的に映画製作の裏側を知っているわけではありませんが、単純に想像しても、「映画」を構成する要素はたくさん思い浮かぶでしょう。舞台装置、照明、音楽、衣装、CG、カット割りなどなど、いくつもの要素を巧みに組み合わせることで、「映画」は存在しているわけです。
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しかし『偶然と想像』は、映画を構成する要素を極端に制約していると感じました。具体的には、「脚本」と「役者」に全振りしている、という印象です。しかも、「役者」の存在は不可欠とはいえ、決して世間的に知られた名のある俳優が出てくるわけではありません。そういう意味では、「脚本」しかない映画という言い方もできるでしょう。
出てくる役者さんで、顔を知っていたのは「古川琴音」と「渋川清彦」だけだったなぁ
その2人にしても、メチャクチャ有名ってわけではないだろうしね
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この映画はとにかく、「動き」と「感情」が少ないことが特徴だと思います。いくつか観た濱口竜介作品に共通する点ではありますが、特にこの映画では「動き」の少なさが際立っていると感じました。
映画は3話オムニバスで、関連性のない3つの物語が収録されているのですが、どの話もほぼ場面が固定されています。「第一話 魔法(よりもっと不確か)」では「タクシー」と「オフィス」、「第二話 扉は開けたままで」では「アパートの一室」と「大学の教授室」、「第三話 もう一度」では「駅前」と「一軒家のリビング」というように、ほぼその中だけで物語が展開されていくのです。
また、そんな固定された空間の中で、あまりカット割りがされない、長回しの場面が続いていきます。さらにその中で、役者はほとんど動きません。つまり観客は、「固定カメラの向こう側で、役者が喋っているのをひたすら聞く」という映画鑑賞になるというわけです。全体的に「舞台演劇」という印象が強く、ラジオドラマでも成立させられるようにも思います。
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まさに「脚本」だけで勝負していると言っていいでしょう。
そしてさらに、そんな「動き」が制約された環境の中で、「感情」さえも抑制されてしまいます。これは濱口竜介監督がよくやる手法のようです。詳しくは『ドライブ・マイ・カー』の記事に書きましたが、脚本を読み合わせる段階では、役者に「感情を乗せずにセリフを言う」ように指示するといいます。
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『偶然と想像』は、『ドライブ・マイ・カー』と比べればそこまでではありませんが、しかしごく一般的な映画とは比べ物にならないほど感情が排除されていることは間違いありません。そのあまりに特異なやり方ゆえに、「感情が乗っている場面の方が嘘臭く感じられる」という逆転の感覚に陥ることさえあります。
「淡々と無表情に語ることで怖さを演出する」みたいな感じでもないんだよね
ただただ感情が無いように見えるのに、それで成立していることが本当に不思議で仕方ない
少し脱線しますが、このような「感情がないように見えるのに成立する」「感情がある場面は嘘っぽく見える」という捉えられ方は、非常に現代的なのかもしれません。今の時代、個人が写真や映像で発信できるメディアが非常に多いので、「動きや声のトーンで何かを伝える情報」に溢れていると言えるでしょう。そして、多くの人がそのことに食傷気味になっているのかもしれません。時代の感覚の針が一方に振り切れすぎて、「感情の強要に疲れた」と感じている人が少なくない可能性があるわけです。
だからこそ、「感情が乗らない発信の方がむしろリアル」という受け取られ方が成立するのかもしれない、とも感じました。
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話を戻しましょう。ここまで書いてきたように『偶然と想像』は、「動き」と「感情」が極端に排除されています。それを踏まえてこの映画の「見え方」をまとめると以下のようになるでしょう。
名も知らぬ役者が、「感情」の乗らないセリフ回しで演技をする、動作やカット割りなどの「動き」が少ない映画
そしてそんな映画が、素晴らしいとしか言いようのない作品に仕上がっているという事実に、とにかく驚愕させられてしまいました。
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自分でこうやって文章を書いててもちょっと信じられないもんね
映画を見ずにこの記事だけ読んでくれている人がもしいるなら、「ホントかよ」って疑う内容だと思う
そしてそれを成立させる最大にして唯一の要素が「脚本」だというわけです。
もちろん「脚本」だけあっても、それを適切に演じてくれる「役者」がいなければどうにもなりません。しかしこの映画では、まず何よりも「脚本」の存在があまりに強烈であり、その素晴らしさに驚愕させられてしまうのです。
それではここからは、それぞれの作品の内容に触れていこうと思います。
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「第一話 魔法(よりもっと不確か)」
3話の中で一番好きな話がこの「魔法(よりもっと不確か)」です。この話は「脚本」だけではなく、古川琴音という女優の存在感や、人間の気持ちが複雑に交錯する雰囲気など、いくつかの要素が絡まり合って私好みの作品になっていると感じます。
何よりまず素晴らしかったのは、冒頭からしばらくの間延々と続く、女性2人のタクシー内での会話です。この会話、永遠に聞いていられると感じるほど、私は好きでした。
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正直内容は他愛のないもので、モデルの女性と、その親友のヘアメイクの女性が恋バナをしているにすぎません。ヘアメイクの女性は、「最近知り合った男性と15時間も喋り続けてしまった」そうで、正直まだ恋に発展しているとは言えないその手前の話を、モデルの女性が相槌を打ちながらずっと聞いているというシーンです。元々は仕事の打ち合わせで会ったのだけれど、早々にその仕事は引き受けないことに決めた、でもそこから話が続いてしまい、気づいたら15時間経っていた、自分でも「不思議」としか言いようがない時間だった、とヘアメイクの女性はそれまで経験したことがない出来事を親友に聞いてもらいたくて話し続けます。
この2人の会話がとにかく絶妙なのです。
この脚本も、男性の濱口竜介監督が書いてるんだろうから凄いよね
女性がこの場面を観てどう感じるのか聞いてみたいけど、凄くリアルなんじゃないかなって思う
ヘアメイクの女性は、自分が口にしている話が「不自然」「不合理」だと認識しています。普段の自分だったら絶対にそうはなってない、でもあの時あの空間だけはどうしてかそれが成立したの、すごく不思議なことだった、というテンションで話を続けるのです。ね、そういうことってあるでしょ、分かってくれるよね、と同意を求める感じでしょう。
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その話を聞くモデルの女性の反応も凄く良いです。彼女は、ヘアメイクの女性が「自分は変なことを言っている」と自覚していることをきちんと理解した上で、「それっておかしくね?」とツッコんでいきます。そのツッコミが非常に絶妙なのです。
「こんなことがあったのよ」「それっておかしくね?」「そうなんだけど、ホントにあったのよ。さらにね……」「へぇ、珍しいね」「うん、自分でもそう思う。だけどね……」「うわぁー、そういう感じかー」「でしょ、でもね……」みたいな感じで、モデルの女性のツッコミが呼び水のようにヘアメイクの女性の「喋りたい欲」を刺激して、男性とのやり取りの話が口からするすると滑り出てきます。そしてモデルの女性はその話を、絶妙としか言いようのない感じで打ち落としていくのです。
さらに、「会話だけで状況を伝えなければならないのに、その会話がまったく『観客向け』ではない」という点にも凄さを感じました。
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映画でも小説でも、「状況説明を登場人物の会話だけで伝える」という場面は出てくるでしょう。ただそれはどうしても違和感を生みもします。物語を伝える以上ある程度仕方ないとは思っていますが、「観客向け」にならざるを得ない会話は必然的に、「そういう関係性の2人が、今さらそんな会話するだろうか?」「友達同士で普通こんな会話する?」みたいに感じさせてしまうことにもなりかねません。
しかしこのタクシーの場面は、「『普段からこんな会話をしているんだろうな』と感じさせる親友同士の会話」と「観客に状況説明を果たす会話」が両立している見事な場面だと感じました。具体的には触れませんが、この会話は、その後の展開にも非常に大きな意味を持つものであり、2人の会話から「ヘアメイクの女性がどんな経験をしたのか」を具体的にイメージさせる必要があるのです。そしてその役割をきちんと果たしながら、さらに女性同士の会話としても自然さを保っている(と男性の私は感じた)ので、もの凄く驚きました。
このタクシーの場面が2時間続いても全然観れると思う
『ドライブ・マイ・カー』でも、「前世がヤツメウナギだった女子高生」の話の場面が印象的だったよね
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さて、先にヘアメイクの女性がタクシーを降り、その後モデルの女性はある行動を取ります。それ以降の展開についてこの記事では具体的に触れることはしませんが、「オフィス」に舞台を移して展開される部分の方がさらに好きだなと私は感じました。
タクシー内では「今っぽい普通の女の子」というイメージだった彼女は、オフィスでその印象を一変させます。彼女の言動はまったく支離滅裂で、正直「常軌を逸している」と表現してもいいレベルだと思うのですが、一方彼女は、自分がそういう状態にあることを自覚してもいるのです。彼女自身が内包する「狂気」を明確に意識しながら会話を仕掛けることで、目的も行き先もまったく分からない応酬が展開されることになっていきます。
とても素晴らしいと感じました。
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さらにこのオフィスのシーンでは、感情の乗らない掛け合いが非常に合っていたと思います。2人の関係性がそもそも、「感情が無いやり取りの方が自然」だと感じさせられるし、感情が乗らないことでお互いの「狂気」が増幅される感じもありました。タクシーの車内では自然に相槌を打っていた彼女が、オフィスでは一転何を考えているのか分からない存在に急変したというギャップにもグッときたし、とにかく全体的にとても素敵な作品だと思います。
「第二話 扉は開けたままで」
「扉を開けたままで」は、一番爆笑させられた作品です。
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しかも、そんな意図をまったく感じさせない登場人物の振る舞いに思わず笑っちゃうっていうのがまた良かった
物語は、最初から最後まで温度を感じさせないテンションで展開されていきます。とても「笑い」が生まれる雰囲気とは思えません。登場人物は、それが面白いことだと意識しているわけでも、もちろん笑わせようなどと考えているわけでもなく、それぞれの理屈に沿って自然な言動をしているのですが、それがあまりにもズレまくっていて思わず吹き出してしまうのです。
物語は、フランス語の大学教授が芥川賞を受賞するところから始まります。そしていくつかの要因があり、ある女性がその教授を誘惑するために教授の部屋を訪れるのです。主婦でありながら再び大学に入学したその女性は、ある目的を持って教授を誘惑しようとするのですが、この記事ではその理由には触れません。
主婦は教授に対し、唐突に受賞作の朗読を始めます。その作品には「男性器の剃毛をする女性」の描写が出てくることもあり、主婦は声が外に聞こえてしまわないようにと扉を閉めるのですが、教授は「扉は開けたままで」と声を掛け再び扉は開きます。
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観客は「主婦が教授を誘惑しようと思っている」ことを理解していますが、教授はそのことに気づきません。普通の感覚を持たない教授と、どうにか誘惑しようとする主婦のやり取りは見事にすれ違い、それでいて思ってもみなかったところで奇妙に噛み合い、想像もしなかった展開を見せることになっていきます。教授の言葉に主婦は涙し、「お礼」をしたいとプレゼントしたものが奇妙な帰結を導くという展開で、とにかく「オシャレな落語」を聴いたようなよく出来た物語に感心させられてしまいました。
笑いは「緊張」と「緩和」で生まれると聞いたことがあるけど、まさにそのセオリーに沿ってる感じがする
教授が全然喋らないことによる「緊張」と、的外れな発言をすることによる「緩和」が絶妙だよね
さて、物語そのものとは関係ない部分なのですが、非常に印象的だったシーンがあります。教授が主婦に「あなたには才能がある」と勇気づける場面なのですが、その「才能」について教授はこんな表現をするのです。
言語化できない、非決定の領域に留まる能力
これはとても良い表現だと感じました。
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2人のやり取りはなぜか、途中から悩み相談のような雰囲気になり、主婦は「意思が弱く、誘惑に簡単に負けてしまう」という自分の性質をダメだと思っていると告白します。しかし教授は、その点を「言語化できない、非決定の領域に留まる能力」と評価するのです。
映画の中ではそこまで具体的に説明されるわけではありませんが、私なりの解釈を加えながら、教授が何を「才能」と評価しているのか説明してみましょう。
一般的に、論理的な明快さで物事を説明できる人の方が優れていると評価されると思います。そして、そういう人たちが言語化したものが「世間のものさし」として定着していくパターンが多いでしょう。
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一方この主婦は、どんな理屈でそういう行動をしてしまうのか自分自身でも上手く捉えられないと悩んでいます。それが「世間のものさし」から外れていることは分かっているけれども、「世間のものさし」から外れようと特別意気込んでいるわけでもないのです。これが「言語化できない、非決定の領域に留まる」という状態でしょう。
そういう状態を彼女は肯定できないでいるのですが、教授はこんな言い方でその「良さ」を説明します。
世間のものさしに合わせずに、自分のためだけの価値を抱きしめてください。
そういうものでしか、救われない人もいるでしょう。
もちろんそれは、起こらないかもしれません。しかし、誰もやらなければ、一生何も起こらないままです。
世の中には「世間のものさし」に合わせられずに苦しんでいる人もいる、そして、「世間のものさし」をふらりと外れて生きる人の存在は、そういう合わせられずにいる人の「救い」になるかもしれない、と教授は主張するわけです。もちろんそんな、誰かの「救い」になるなんてことは実際には起こらないかもしれない、だけど誰もやらなければ確率は0なのだから、「言語化できない、非決定の領域に留まる能力」を大切にして生きてほしい。そんなメッセージなのです。
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この話にはシビレました。
物語の設定とか冒頭のやり取りから、まさかこんな良い話になるなんて想像できなかったよ
主婦としても想定外だっただろうし、グッと来ただろうなぁ
教授室を出て自宅に戻った主婦は、「お礼」を送るためにメールの文面を考えます。最終的には簡素な内容にするのですが、当初は、
奇妙な時間でしたが、これでこれから少し気楽に生きていけそうです
と書いていました。教授とのやり取りが非常に重要なものだったと示唆される場面です。
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一方教授の方も、会話の終わりの方でこんな言い方をします。
だから、芥川賞を受賞する前にあなたとお話したかった。
しかし芥川賞を受賞しなければ、そもそも話す機会すらなかったでしょう。
教授の言い回しはシンプルではなく分かりにくいものが多いのですが、これも要約すれば「話せてよかった」という意味でいいでしょう。さらにこの言葉は、物語のラストを踏まえると一層示唆的だと言えます。「そもそも話す機会すらなかったでしょう」という状態のままの方が良かったのではないか、奇しくも話が合ってしまった2人は実は出会わない方が良かったのではないか。そんな風にも感じさせる、物語的にも見事な着地を含めて、全体としてとても見事な作品だと感じました。
「第三話 もう一度」
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「もう一度」は、『偶然と想像』の中でとにかく「脚本」の力が圧倒的だった作品です。
他の2話ももちろん素晴らしい脚本だったけど、「もう一度」はちょっとずば抜けてたよね
普通だったらまず成立しないだろう状況を、よくもまあ現出させたものだと思う
この話については特に、何も知らずに観た方がいいと思うので、この記事では具体的なことには触れないことにします。ざっと物語の設定に触れておくと、「同窓会に出席するため20年ぶりに仙台を訪れた女性が、駅前のエスカレーターで偶然再会した女性と話をする」という物語です。物語の始まり方だけ見れば、よくあるっちゃあると感じるものだと思います。ただ、「そう来るか」と思わされる状況と、そこからの奇妙な展開がとにかく見事な作品です。
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「もう一度」を観終えて感じることは、「違和感だらけだったはずの前半にはまったく違和感を覚えず、違和感が表出した後半はむしろ違和感を覚えなくなる」ということです。こうやって文章にしている私自身も、変なこと書いているなぁ、と思っているのですが、恐らく映画を観た方なら共感してくれるのではないかと思います。
「そんなこと起こり得るだろうか」と「確かに同じ場面になったら自分もそうするかもしれない」という両極な感覚の絶妙な狭間をピンポイントで狙いに来る物語で、この「奇妙」としか言いようのな物語が成立していることが非常に奇跡的だと感じました。
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まったく違うタイプの3つの物語が描かれるわけですが、どの話にも何らかの形で「狂気」が映し出されるという共通点があるとも言えます。「魔法(よりもっと不確か)」ではモデルの女性が表出する「狂気」が、「扉は開けたままで」では当たり前の感覚がまったく通用しない教授と、不純としか言いようのない動機を持つ主婦の「狂気」が描かれます。この2話はどちらも、ある種の「悪意」が「狂気」の根底にあると言えるでしょう。しかし「もう一度」では、そんな「悪意」を一切感じさせない状況の異様さが、ある意味で「狂気」として存在することになるわけです。
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二村ヒトシ『すべてはモテるためである』は、タイトルも装丁も、どう見ても「モテ本」にしか感じられないだろうが、よくある「モテるためのマニュアル」が書かれた本ではまったくない。「行動」を促すのではなく「思考」が刺激される、「コミュニケーション」と「居場所」について語る1冊
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【解説】「小説のお約束」を悉く無視する『鳩の撃退法』を読む者は、「読者の椅子」を下りるしかない
佐藤正午『鳩の撃退法』は、小説家である主人公・津田が、”事実”をベースに、起こったかどうか分からない事柄を作家的想像力で埋める物語であり、「小説のお約束を逸脱しています」というアナウンスが作品内部から発せられるが故に、読者は「読者の椅子」を下りざるを得ない
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「共感」が強すぎる世の中では、自然と「想像力」が失われてしまう。そうならないようにと意識して踏ん張らなければ、他人の価値観を正しく認めることができない人間になってしまうだろう。映画『ミセス・ノイズィ』から、多様な価値観を排除しない生き方を考える
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実は、「一発で火星に探査機を送り込んだ国」はインドだけだ。アメリカもロシアも何度も失敗している。しかもインドの宇宙開発予算は大国と比べて圧倒的に低い。なぜインドは偉業を成し遂げられたのか?映画『ミッション・マンガル』からプロジェクトマネジメントを学ぶ
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【誠実】地下鉄サリン事件の被害者が荒木浩に密着。「贖罪」とは何かを考えさせる衝撃の映画:『AGANAI…
私には、「謝罪すること」が「誠実」だという感覚がない。むしろ映画『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』では、「謝罪しない誠実さ」が描かれる。被害者側と加害者側の対話から、「謝罪」「贖罪」の意味と、信じているものを諦めさせることの難しさについて書く
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【再生】ヤクザの現実を切り取る映画『ヤクザと家族』から、我々が生きる社会の”今”を知る
「ヤクザ」を排除するだけでは「アンダーグラウンドの世界」は無くならないし、恐らく状況はより悪化しただけのはずだ。映画『ヤクザと家族』から、「悪は徹底的に叩きのめす」「悪じゃなければ何をしてもいい」という社会の風潮について考える。
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私は「腐男子」というわけでは決してないのですが、周りにいる腐女子の方に教えを請いながら、多少BL作品に触れたことがあります。その中でもダントツに素晴らしかったのが、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』です。その映画と原作の感想、そして私なりの考察について書いていきます
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【対話】刑務所内を撮影した衝撃の映画。「罰則」ではなく「更生」を目指す環境から罪と罰を学ぶ:映画…
2008年に開設された新たな刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」で行われる「TC」というプログラム。「罰則」ではなく「対話」によって「加害者であることを受け入れる」過程を、刑務所内にカメラを入れて撮影した『プリズン・サークル』で知る。
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【解説】テネットの回転ドアの正体を分かりやすく考察。「時間逆行」ではなく「物質・反物質反転」装置…
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ルシルナ
普通って何?【本・映画の感想】 | ルシルナ
人生のほとんどの場面で、「普通」「常識」「当たり前」に対して違和感を覚え、生きづらさを感じてきました。周りから浮いてしまったり、みんなが当然のようにやっているこ…
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