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この記事の3つの要点
- 日本が世界中から輸入した天然水産物の4分の1は、”違法”なものかもしれない
- 数十年間海の上で隔離され、陸地を目にすることさえない人生を、あなたは想像できるだろうか?
- 「奴隷」の解放に尽力する女性活動家の奮闘と、「奴隷」の救助に関わる難しい問題
現代の話とは思えないほど酷すぎる現実であり、「消費者」である私たちの選択によって改善を目指すべき問題だと思う
自己紹介記事
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記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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予告で本作の存在を知った時から、「絶対に観よう」と決めていた。予告の中で明かされる情報だけでも、ちょっと衝撃的すぎる現実が扱われる作品だと理解できたからだ。
そして実際に映画を観て、描かれている問題が私たちにも関係するものだと知った。何故なら、映画の最後に次のような字幕が表示されるからだ。
今も、世界中の大手食品会社やスーパーマーケットで、奴隷労働によって漁獲された魚が流通している。
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映画で描かれているのは、「多くの人が奴隷船で働かされている」という衝撃の現実だ。映画の舞台はタイなのだが、タイではなんと、「数年から数十年単位で遠洋船に隔離され続けている『奴隷』」が数多く存在しているというのだ。そして、そんな”違法”な労働によって獲られた海産物が、私たちの食卓に並んでいるのだという。公式HPによれば、日本が世界中から輸入した天然水産物の24~36%(1,800~2,700億円)は、「違法または無報告漁業」によるものと推定されているようだ。また、日本で流通するキャットフードの約半分はタイ産なのだという。実は知らないところで、身近に迫っている問題というわけだ。
本作は、この問題に取り組むパティマ・タンプチャヤクルという女性を中心に描かれる。既に5000人以上の「奴隷」を救出してきたそうだが、実際には数万人単位で「奴隷」が存在すると考えられており、解決への道のりがあまりに遠い問題だと言えるだろう。しかし彼女は、今も歩みを止めずに「奴隷」の救出に奮闘している。また、本作で映し出される「海の奴隷」は決してタイだけの問題ではなく、アメリカやイギリスでも同様のケースが知られているそうだ。本作を観るまで私はまったく知らなかったが、実は全世界的な問題なのである。
私たちに出来ることは多くはないかもしれないが、少なくとも「このような現実があるのだ」と知っておくべきだとは思う。
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タイのシーフード産業の現状と、パティマらの活動について
それではまず、何故タイで違法な漁業が横行しているのかについて触れていこう。
タイのシーフード産業は世界最大級と言われており、年間約90億ドル規模に達するそうだ。しかしその内実は酷いものだった。昔から違法操業や無規律乱獲が繰り返されてきたのだ。日本で行われているような「一定期間の禁漁」などの仕組みがまったく存在しなかったこともあり、結果として、タイ近海では魚がまったく獲れなくなるという事態に陥ってしまった。まさに自業自得である。
さてそうなると、遠洋に出て魚を獲る以外に方法はない。しかし地元の漁師は、長期間遠洋に出っぱなしで漁をするのを嫌がった。当然のことながら、そもそも船員がいなければ獲れる魚も獲れやしない。そこで漁業会社は、違法なやり方で船員を確保することにした。タイ人を拉致し、無理やり遠洋船に乗せ、そのまま海上に”隔離”して漁をさせ続けたのだ。このような犯罪的なやり方で遠洋船に従事させられている者がタイには数多く存在し、中には数十年間も船の上という者さえいるという。まさしく「奴隷」である。
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タイという国家は、長いことこのような悪行によってシーフード産業を成り立たせてきたというわけだ。
そしてこの問題に取り組んでいるのが、本作の主人公パティマ・タンプチャヤクルである。彼女は夫と共に「労働権利推進ネットワーク(LPN)」を立ち上げ、「奴隷」の解放に全力を尽くしているのだ。その活動は高く評価されており、2017年にはノーベル平和賞にノミネートされたほどである。
パティマらの活動によって救出された「奴隷」が語る話は、想像を絶するものだった。運良く数年で助け出される者もいるが、本作で紹介された中で最長だったのは20年である。その間、一切賃金は支払われていない。そして朝から晩まで、陸などまったく見えない遠洋で働かされ続けるのである。母船が3ヶ月に1度やってくるのだが、獲った魚を回収し、「奴隷」のための食料を置いていくだけだ。この「母船が魚を回収する」という仕組みは、船員を逃さないための工夫である。また、船上では暴力も横行しているそうで、鉄の棒やエイの尾などで殴られたり、熱湯をかけられたりするという。ちょっと凄まじい環境と言えるだろう。
しかしそれでも、「生きて帰れた」だけまだマシだと言わざるを得ないかもしれない。何故なら、船上で命を落とす者も多いからだ。映画に登場するある人物は、友人から聞いた話として、「まだ息がある船員を箱に入れ、海に捨てた」と証言していた。いつの時代の出来事なのかと感じてしまうぐらい、今起こっていることだとはとても信じられないような話である。
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凄まじいと感じたのは、「奴隷」を使役する船長の感覚だ。本作には、「違法漁船の船長」や「彼らを監督する漁業会社の人間」は登場しないので、あくまでもパティマらの推測でしかないのだが、違法漁船の船長は恐らく、「自分たちこそが被害者」だと感じているのではないかとのことだった。要するに、「人手不足だから仕方ない」というわけだ。彼らがしていることは、犯罪のオンパレードであり、当たり前の話だが、「人手不足だから仕方ない」なんて認識で片付けていいはずがない。本当にそんな捉え方なのだとしたら、ちょっと恐ろしすぎるなと思う。
さて、映画を観ながら私はずっと、「こんなイカれた状況がどうして続いているのだろうか?」という疑問で頭が一杯だった。遠洋船に20年以上も”隔離”されていた者がいるということは、最低でも20年間はこの状況が続いていることを意味する。さらに、パティマたちが問題を認識できているのだから、警察や国がこの現状を知らないなんてことはあり得ないはずだ。それでは、彼らは一体何をしているのだろうか?
この点については、映画の中で少しだけ説明されていた。発展途上国ではよくあることなのだろうが、漁業会社はなんと「警察やマフィアを”雇っている”」というのだ。マフィアはともかく、「警察を雇う」というのは正直なところ意味が分からないが、何にせよそれほど警察組織が腐敗しているということなのだろう。警察が「黙認」しているどころか、積極的に「関与」しているのであれば、問題を解決するのは相当難しいと言える。
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映画のラストで、「タイ政府は規制を強化した」と字幕が出た。しかしそれでも、漁業会社が起訴されることはほとんどないそうだ。何をどう強化したのかは不明だが、状況はほとんど変わっていないと言えるのではないかと思う。
「奴隷」には賃金が支払われておらず、指を失くすほどの怪我をしても補償しない。そんな会社が流通させている海産物なら、安くて当然だろう。しかし、そんな理由で安いのだとしたら、美味しく感じられるだろうか? いずれにせよ、「そのような違法な漁業は許容しない」という態度を世界中の消費者が持たなければ、状況はなかなか改善されないのではないかと私は思う。
「奴隷」解放に尽力するパティマ
パティマ・タンプチャヤクルが設立したLPNは元々、児童の労働問題に関わっていた。しかしある時、「奴隷」だった船員が助けを求めてきたことがあり、その時以来、「海の奴隷」の解放に人生のすべてを注ぎ込む決断をしたのだという。彼女はまさに人生を懸けてこの活動に取り組んでいるようで、幼い息子と長期間離れ離れになることが分かった上で、バンコクから6,400kmも離れたインドネシアまで行き、「奴隷」の救出に奮闘したりする。本当に大変な活動だと思う。
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とても良いなと感じたのは、パティマが息子に自身の仕事についてきちんと伝えているという点だ。彼女が息子に、「ママがインドネシアに行くのはどうして?」と聞くと、息子はちゃんと「人を助けるため」と答えるのである。また、使わなかっただけかもしれないが、母親と長く離れ離れになる息子が寂しさで泣くような場面は無かった。自分と一緒に過ごすこと以上に、母親の活動の方が重要だときちんと理解しているのだと思う。傍目にはとても良い関係に見えた。
ではパティマらは、どのように「奴隷」を救助しているのだろうか? 当たり前の話だが、彼女たちは決して、「遠洋船に直接乗り込む」ようなことはしない。警察とマフィアを雇い、犯罪を厭わない漁業会社と真っ向勝負するのはあまりにもリスクが高いからだ。ではどうするのか。助かった「奴隷」の多くは、遠洋船から海へと飛び込み、必死に泳いでどうにか離島へとたどり着いた者だ。そこで彼女たちは、インドネシアの色んな島にそういう「元奴隷」が住み着いていないかを調べるのである。
しかし当然だが、島に入って「『奴隷』だった人はいませんか?」などと聞いて回るわけにはいかない。タイの漁業会社は、インドネシアの警察・マフィアとも連携しているようで、そんな探し方をすればパティマらが危険に晒されてしまうからだ。そのため、島の人たちに「この辺に、タイ人やミャンマー人はいますか?」のような遠回しの聞き込みを続けながら、「元奴隷」に行き当たるのを根気良く待つしかないのである。
さて、このような「捜索」の過程ももちろん困難だ。しかし、難しいのはそれだけではない。仮に「元奴隷」にたどり着けたとしても、そこからさらなる問題が待ち受けているからだ。
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「元奴隷」を見つけ出したパティマは、彼らに「故郷に帰りたい?」と聞く。しかし多くの者が、「帰りたいけど帰れない」と口にする。というのも、タイで拉致され、長い間遠洋船に”隔離”され、命からがら逃げ出しインドネシアで暮らしている彼らにはもう、この地に妻子がいるのだ。ある「奴隷」の場合、拉致されたのが21歳の時、そして映画撮影時は45歳だった。あまりにも長い時が経ってしまっているのである。
このような点でも、パティマらの活動には「困難さ」がつきまとうというわけだ。なかなか報われない活動にも感じられるかもしれないが、彼女の奮闘が無ければ救われなかった者も数多くいる。賛同者を得ながら、問題が解消されるまでどうにか活動を続けてほしいものだと思う。
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パティマは救い出した「奴隷」に、次のように言うと決めているそうだ。
あなたが味わった苦痛は、誰にも分からない。
だから共に伝えていこう。
とてもカッコいい女性だなと思う。
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