目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:キム・ユンソク, 出演:ハ・ジョンウ, 出演:ユ・ヘジン, 出演:キム・テリ, 出演:カン・ドンウォン, 出演:ヨ・ジング, 出演:イ・ヒジュン, 出演:パク・ヒスン, 出演:ソル・ギョング, 監督:チャン・ジュナン
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- フィクション混じりではあるが、実話をベースにした驚愕の物語
- 「正義」を実現するためだとしても、「誰かの尊厳を損なうこと」は許容されるべきではない
- 描かれる秘密警察は「悪」ではなく「正義」なのだと認めることがスタートライン
「正義」は一筋縄ではいかないからこそ、その対立に直面する前に自分なりの考えを持っておくべきだ
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「人間の尊厳」に勝る「正義」など存在しないと改めて実感させられる実話を描き出す映画『1987、ある闘いの真実』
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映画の冒頭で、「事実を基に、フィクションを織り交ぜた作品」というクレジットが表示される。すべてが事実なわけではないということだ。
しかしこの映画で描かれるのは、たった30年前の韓国で実際に起こった出来事である。エンドロールでは、亡くなった学生の遺影の写真が映し出された。
勝手な想像にすぎないが、国家に楯突く内容の映画なので、「これはフィクションなんです」と言い逃れできるように作られているのだろう。だからこそ余計に、物語の核となる部分の真実味が増すとも言える。
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同じことは日本では起こらないかもしれない。しかし、「正義のために誰かの尊厳を奪う」という事態は、いつでも起こりうる。他人事だと思って無視してはいけないだろう。
誰かの尊厳を奪ってまで実現しなければならない「正義」など存在しない
本や映画に触れることで、「正義」について考える機会は多い。このブログでも、いくつか記事を書いた。
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私は、「絶対的な正義がある」という考えを好まない。様々な「正義」が存在しても、「正義」を実現する手段に対立があってもいいと思っているのだ。「明らかに誤った正義」は存在すると思うが、「明らかに正しい正義」など存在しないと考えている。「正義」は、時代や立場や状況によって常に変化しうるものだと思う。
「法」より「正義」を優先しなければならない場面もあるだろうし、善い行いだけでは「正義」を実現できない世界だとも理解しているつもりだ。私が日々のんべんだらりとテキトーに生きていられるのも、それぞれが考える「正義」に基づいて日本を守ろうと考えてくれる様々な人たちの奮闘あってのことだし、その陰で、「正義」の実現のために犠牲を払っている人もいるのだろうと想像はしている。
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何が言いたいのかと言えば、「正義は一筋縄ではいかない」ということだ。単純に「正しい/間違い」で判断はできないし、その実現のための手段も綺麗なものばかりではないだろう。一応、それぐらいのことは理解しているつもりだ。
しかし、そうだとしても許せないことはある。例えば、「誰かの尊厳を奪うことで実現できる正義」だ。
誰かの命を奪っておいて、「尊い犠牲だった」と口にするのは簡単なことである。しかし、「正義」の名の下にそんなことが許容されるとすれば、何だってできてしまう。
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もちろん、仕方なく犠牲が生まれてしまうことも、どんな選択肢を取ろうと犠牲を避けられない状況もきっとあるだろう。犠牲をゼロにすることはできないのかもしれない。しかし、「明らかに尊厳を無視した行為」によって犠牲が生まれる状況を許容することは難しい。
2020年に「Black Lives Matter」再燃のきっかけになったのは、アメリカの白人警官が黒人男性を道路に押し付け、首に体重を掛けて窒息死させた事件だった。私はこれが「正義を実現するための行為」だとは微塵も思わないが、しかし仮にそう判断する人がいたとしても、「明らかに尊厳を無視した行為」であり、いずれにせよ許されるものではない。
しかしどうも世の中には、「正義の実現のためなら何をしてもいい」という考えを持つ人が一定数いるように感じられるし、そういう人の存在を私は恐ろしく思う。
そして、権力の上層にはそういう「真っ当な感覚を持たない人物」が多い気がしてしまうし、そんな世界に生きることが怖くもある。
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今も世界のどこかで同じようなことが起こっているはずだ
この映画で描かれるような出来事は、さすがに日本では起こらないだろう。そう思いたい。さすがに、こんなことをしている国には住みたいとは思えないだろう。
ただ、日本では起こらないかもしれないが、他の国では分からない。そもそもこの映画にしても、たかだか30年前の話なのだ。
東京オリンピックの最中、ベラルーシの選手が亡命を希望しポーランドに受け入れられた、台湾や香港は中国との関係の緊迫度が増している。先日観た『モーリタニアン』という映画では、9.11同時多発テロの首謀者の1人と疑われた人物を不当に拘束し続け、とんでもない扱いをしていた衝撃の実話が描かれていた。
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『モーリタニアン』を観て改めて実感したことだが、横暴を働いている側もまた、彼らなりに「正義」を実現しようと奮闘しているのだ。客観的に判断して、そんな正義が許容されるとはとても思えないが、しかし、9.11のテロ直後の恐怖に支配されたアメリカの雰囲気を知らない私に断言はできない。
『1987、ある闘いの真実』で描かれる事件にしても同じだ。軍事政権下という状況で、その時その場所に自分がいたら、どんな判断でどんな行動を選択するのか、とても確証など持てないと思う。「自分は絶対に◯◯のようなことはしない」と断言することは、想像力が欠如しているとしか思えない。
繰り返すが、相手には相手なりの「正義」がある。様々な対立には当然、「正義VS悪」という構図のものも多く存在するが、「正義VS正義」もまた同様に存在し、より複雑な様相を呈することになるのだ。
だからこそ、「何を『正義』だと捉えたいか」について、あらかじめ自分なりの考えを持っておくしかない。
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自分が考える「正義」だけが正義なのだと思っていると、まったく異質な「正義」と出会った時に、あからさまに拒絶する以外の行動が取れなくなってしまうだろう。自分には許容できない「正義」が存在することをイメージし、そんな「正義」とどう対峙するのかを考えておくべきだと思う。
そのきっかけになる映画だと言えるだろう。
映画『1987、ある闘いの真実』の内容紹介
1987年の韓国は、チョン大統領による事実上の独裁政権下にあった。独裁を維持するために、大統領直下に通称「南営洞」という治安本部が置かれ、反共のアカ(スパイ)を摘発する任務が行われている。警察組織の中でも絶対的な権力を持つ部署であり、その所長である脱北者のパクもまた巨大な権力を持っていた。パク所長に楯突いて生き残った者はいないと言われるほどだ。
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その年の1月14日、南営洞の者が拷問によってにソウル大学の学生パク・ジョンチョルを死なせてしまう。事態を露見させてはなるまいと、南営洞は公安部長のチェ検事に、すぐに火葬に回すための書類にハンコを押すように迫った。しかしチェ検事はこれを拒否。翌日解剖した後で火葬するように命じ、遺体に触れたら公務執行妨害で逮捕すると断言した。
遺体には、誰が見ても分かるほど明らかに拷問の痕跡が残されており、解剖となれば南営洞の責任が免れないことは明らかだ。南営洞は圧倒的な権力を駆使してこの事態を沈静化しようとするが、なかなか上手くいかない。
そんな折、検察に出入りしていた記者が、事の重大さを理解していなかったいち検事の発言を基に、「ソウル大学の学生、拷問死」と報じた。新聞社には軍人が押し寄せ大混乱となるが、新聞各社は国家の圧力には屈しないと決意。当時報道機関に通達されていた「報道指針」を無視してこの事件を追及しろと記者たちに命じた。
他にも様々な動きが起こる。学生の死亡を確認した医師は、自身の所見をこっそりと記者に伝え、解剖を担当した医師は、診断書に「心臓麻痺」と書くようにという上司の命令を無視した。誰もがそれぞれの立場で、自分なりの「正義」を実現しようと奮闘する。
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南営洞は形勢悪化を見てとり、方針を変更する。南営洞の2人をスケープゴートとして警察に逮捕させ、事態を収めようとしたのだ。しかし当然だが、今度はスケープゴートにされた2人が黙っていない。彼らは反旗を翻すような行動に打って出る。
また、拘束されている刑務所内でも彼らは横暴を繰り返した。その姿を見た刑務所長はある英断を下す。同じ刑務所に収監されている、5.3仁川事件で逮捕された東亜日報の記者に情報が渡るように取り計らったのだ。
このように、南営洞や政権の預かり知らなぬところで様々な事態が動き、軍事独裁政権打倒に向けた大きなうねりが生まれていく。多くの人間が、自らの命を危険に晒しながらも「正義」のための行動を取り、やがてその民主化運動の波が政権打倒に繋がっていく……。
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凄まじい映画だった。何度も書くが、たった30年前という時代背景にまず驚かされる。独裁政権下ではこんなことが起こり得るのかという点にも驚愕させられた。
私は正直、「スパイ」がどれほど国益を損なう存在なのか実感できるほど知識を持っていないので、「スパイ狩り」という行為の是非を論じることはできないと思っている。しかし、仮に「スパイ狩り」を許容するとしても、やはり「拷問」は受け入れられないし、まして殺してしまうなどあり得ない。
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パク所長を始め、南営洞が彼らなりの「正義」を実現しようとしていることは理解できているつもりだ。しかし、その手段はやはり許容できない。それがどれだけ厳しい道筋であったとしても、「誰かの尊厳を損ねない」というのは、「正義」の実現のための最低条件だと思う。
南営洞を「悪」と捉えるのは簡単だが、恐らくそれでは何も変わらないだろう。そうではなく、南営洞もまた「正義」なのだと認めるところから、「正義をどのように実現するか」を議論すべきだろうと感じた。
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