【現実】「食」が危ない!映画『フード・インク ポスト・コロナ』が描く、大企業が操る食べ物の罠

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

監督:ロバート・ケナー, 監督:メリッサ・ロブレド, クリエイター:パーティパント&リバーロード, 出演:マイケル・ポーラン, 出演:ゲラルド・レイエス・チャベス, 出演:エリック・シュローサー, 出演:トニー・トンプソン, 出演:サラ・ロイド
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます

この記事の3つの要点

  • 「『超加工食品』は、『摂取カロリー』が低くても『代謝されないカロリー』が多いかもしれない」ことを示す興味深い研究結果
  • 「独占禁止法(反トラスト法)」をベースに語られる寡占企業誕生の歴史と、顕在化してきた弊害
  • 「寡占」によって競争原理が適切に働かないことによる「労働者の使い捨て」の現実はあまりにも酷すぎる

これから生きていく上で知っておくべき「健康」や「食」に関する知見が満載の1作である

自己紹介記事

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

私たちを取り巻く「食」の環境は安全なのか?映画『フード・インク ポスト・コロナ』が描き出す、「世界的大企業による『食の支配』」の現実

実に興味深い作品だった。本作には、第1弾となる映画『フード・インク』が存在するが、私はそちらを観てはいない。2011年公開の作品のようで、ポスタービジュアルには「ごはんがあぶない。」と書かれている。そしてそれと同じスタイルで、コロナ後の世界の現状を描き出しているのが本作『フード・インク』なのだろう。ちなみに、本作のポスタービジュアルには「あなたのごはん、大丈夫!?」と書かれている。

監督:ロバート・ケナー, 出演:エリック・シュローサー, 出演:マイケル・ポーラン

本作でなされている警告をひと言で表現するなら、「世界の『食』が危険な状態にある」となるだろう。そしてその具体的な指摘が、実に興味深かった。「代替肉」など鑑賞前の時点で知っていた話題もあるが、扱われる内容のほとんどが「こんなことになってるのか!」と感じるようなものだったのだ。

確かに、本作で描かれているのは主にアメリカの現実であり、世界中がグローバルに繋がっているとはいえ、今の日本に直接的に関係するものは正直なところそう多くはないかもしれない。ただもちろん無関係なはずがないし、また「世界的大企業の動向」は今後我々が生きていく未来の世界にも大きな影響を与え得るだろう。本作を観て日常の行動を大きく変えるなんて必要はないかもしれないが、少なくとも「知っておくべき現実」が扱われていることだけは確かだと思う。

本作『フード・インク ポスト・コロナ』の中で最も興味深く感じられた「超加工食品」の話

本作では実に様々な内容が扱われるのだが、その中でも、私が最も興味深いと感じた話題から触れていくことにしよう。本作では全体的に「多国籍企業がヤバいことをしている」という現実が炙り出されるのだが、今から説明するのはそれとは少し違った話である。「ダイエット」なんかにも関係する話題であり、本作の中で恐らく最も一般的な関心を喚起できる内容ではないかと思う。

話の中心は「超加工食品」である。正確な定義はともかく、概ね「糖分、塩分、脂肪をたんまり含んだ加工済みの食品」のことを指す。ざっくり、「アメリカ人が食べている、添加物や着色料が山ほど入っていそうな身体に悪そうな食べ物」をイメージすればいいだろう。本作では、「アメリカ人が摂取するカロリーの58%は超加工食品によるもの」と表示されていたので、このイメージはほぼ間違っていないと思う。

正直なところ、日本にはこういう「超加工食品」はあまり無いような気がする。しかし、だからと言って知らなくていいなんてことはない。というのも、「超加工食品」に関する研究の過程で、実に興味深いことが判明したからだ。そしてその知見は、ダイエットにも活かせるはずである。

さて、作中で取り上げられる研究者は元々、「脳の報酬系」と「食品」の関係性を調べていた。具体的には、「チョコレートを摂取した際の脳の活動の変化」の研究である。チョコレートが脳のどの部位を刺激するかに関心を持っていたのだそうだ。

そんな研究を続けていたところ、ペプシ社から連絡がきたという。彼女の研究に興味を持ったようで、「資金を出すからさらなる研究をしてほしい」とのことだった。ペプシ社が調べてほしいと考えていたのは、「もしも『甘みを変えずにカロリーだけを抑えた飲料』を作ったら、脳はどう反応するのか?」だったそうだ。その研究者は、「ペプシ社は恐らく、より健康的な商品を作りたいと考えていたのでしょう」と、資金提供の理由を推測していた

さて、彼女が行った実験内容について説明する前に、後の説明で必要になるある事実に触れておこう。「自然界における『甘さ』と『カロリー』の関係」である。実はこの両者には相関関係が認められているのだという。例えば、「甘さ100」(単位は気にしないでほしい)の食べ物なら「カロリー100」という感じである。「甘さ100」なのに「カロリー70」みたいな食べ物は、少なくとも自然界には存在しないそうなのだ。この事実は重要なので頭に入れておいてほしい。

それでは、彼女が実際に行った実験について説明していこう。まず、「甘さは一定だが、カロリーだけを変えた飲料」を5種類用意した。つまり、「甘さ100」に対して「カロリー30・70・100・150・200」といったような、カロリーだけが異なる飲料が5種類あるというわけだ(甘さやカロリーの数値は実際のものとは違い、説明を分かりやすくするために私が勝手に設定した)。そしてこれらを被験者に飲んでもらい、「脳が最も反応する飲料はどれか」を調べようというのである。

彼女は当初、「『カロリー200の飲料』に最も強く脳が反応する」と考えていたそうだ。恐らくだが、彼女はこれまでの研究から「高カロリーのものほど脳が強く反応する」と理解していたのだろうし、だとすれば、「甘さが同じなら最もカロリーの高い飲料に脳が反応する」という発想は実に自然だと言えるだろう。

しかし実際にはそうはならなかった。実に興味深いことに、脳が最も反応したのは「甘さ」と「カロリー」が正しく対応したもの、つまり「カロリー100の飲料」だったのだ。この点に関しては、この研究者とは別の学者が、「人類は長い年月をかけて、『甘さ(味)』から『カロリー』などを推定する能力を蓄積してきた」みたいな話をしていた。これはもちろん現代ではなく、狩猟採集生活が行われていた時代の話である。つまり、自然界にあるものは「甘さ」と「カロリー」が対応しており、さらに人類は「甘さ」から「カロリー」を推定する能力を高めてきたのだから、脳だって当然「甘さ」と「カロリー」が対応したものに反応するように進化していったと考えられるというわけだ。

さて、この事実だけでもなかなか興味深いだろうが、面白いのはここからである。さらに研究を行ったところ、「『甘さ』と『カロリー』が対応した飲料」の場合に最も代謝が高くなり、それ以外の飲料では代謝が落ちたというのだ。作中ではこれ以上詳しい説明はなされなかったので、推測も含めながらではあるが、この事実を私なりにもう少し解説してみたいと思う。

代謝される」というのは、「体内に取り込んだカロリーがエネルギーに変換され、体内には残らない」という理解でいいだろう。そして、「『カロリー100の飲料』の場合に最も代謝が高まる」というのは、「カロリーのエネルギー変換効率が最も高い」と捉えればいいはずだ。というわけで、ここでは仮に「摂取したカロリー100の内、90が代謝され、10が体内に残る(脂肪に変換されるなど)」ということにしてみよう

一方、「カロリー100」以外の飲料では代謝が落ちるという。これは例えば、「カロリー70の飲料」を摂取した場合、「70の内40が代謝され、30が体内に残る」みたいに考えればいいということだろう。まとめると、「カロリー100を摂取した時に体内に10残る」「カロリー70を摂取した時に体内に30残る」という話である。つまり、前者の方が摂取したカロリーは多いのに、後者の方が体内に残るカロリーが多いというわけだ。

実験によってこのように、「『自然界に存在する甘さに対応したカロリー』を摂取した方が、体内に残るカロリーを抑えられる」という結果が出たのである。これは要するに、ペプシ社の目論見が崩れたことを意味するだろう。彼らは「『甘さ』は変えずに『カロリー』を抑えた飲料を作れば、より健康的で訴求力のある商品が作れるのではないか」と考えていたのだが、「『甘さ』と『カロリー』が対応していないと、結果として体内に残るカロリーが増えてしまう」という可能性が示唆されてしまったというわけだ。

研究者は出た結果をペプシ社に送ったそうだが、彼らは彼女に「この研究は意味不明だ」という主旨のメールを何通も送った挙げ句、資金提供も打ち切ったという。研究者は本作中で、「後になって分かりましたが、ペプシ社は恐らく、私の研究の正しさを理解していたからこそそんな反応をしたのでしょう」と当時のことについて語っていた。

さて、この研究結果は私たちの生活にも非常に重要になってくると言えるだろう。例えば世の中には、「人工甘味料」と呼ばれる商品が様々に存在する。その名の通り「人工的に作られた甘味料」であり、「砂糖よりも甘く、一度に使う分量が減らせるので、摂取カロリーを抑えられる」という理由で人気らしい。しかし先の研究を踏まえれば、確かに「摂取カロリー」は減るかもしれないが、「代謝されないカロリー(体内に残るカロリー)」はむしろ増える可能性があるのだ(「代謝されないカロリー」という表現は正しくないかもしれないが、まあ意味は通じるだろう)。

とはいえ、別に私は「自然由来のものがすべてにおいて勝る」みたいな主張をするつもりはない。じゃがいもの芽の部分にあるらしい「ソラニン」や、あるいはフグ・キノコなど、いわゆる「自然毒」だってたくさん存在するからだ。とはいえ、この「超加工食品」の実験の話に絡めて言えば、「自然のもの、あるいは、『甘さ』と『カロリー』が自然のものと同等の関係性にあるもの」を摂取した方が健康にもダイエットにも良いということは明白だろう。ダイエット中の人は特に、この点に気をつけた方がいいのではないかと思う。

ブラジルで行われた「超加工食品」に関する興味深い実験について

さて「超加工食品」については、もう1つ興味深い話が出てきたので紹介しておこう。

サンパウロの元小児科医が、「昔と比べて栄養失調の子どもが減り、肥満が増えている」という事実に気がついた。これ自体は別に驚くようなことではないが、「一般消費者による『塩・砂糖・油の購入量』が減っている」というデータと併せると奇妙に思えてくるだろう。これらは肥満を誘発する食材であり、「肥満が増えている」のならば、それらの購入量も増加していなければおかしい。しかしデータでは、明らかに減少していたのだ。

そこで彼は「超加工食品」に目を付けた。なんとブラジルでは既に、伝統的な食べ物・食事の多くが「超加工食品」に置き換わってしまっているという。となれば、これが原因の可能性もあるだろう。そこで彼は、この疑問を研究してくれる機関を探すことにした。

そのような経緯で行われたのが次のような実験だ。まず被験者を2つのグループに分け、別々の食事を提供した。一方は「超加工食品をふんだんに使ったもの」、そしてもう一方は「超加工食品をまったく使用しないもの」である。両者はカロリーだけではなく、脂質や糖質などあらゆる要素が同じになるように調整された。

それぞれのグループにあてがわれた食事を食べてもらうのだが、重要なのは「食べる量は自分で決めていい」という指示である。つまり、「満足いくまで食べて、もう十分だと思ったら残してもいい」と伝えたのだ。

では、結果はどうなったのだろうか? 何となく想像出来るかもしれないが、「超加工食品をふんだんに使ったもの」の方がそうでない食事よりも500kcalも多く食べられたのだそうだ。食事における摂取カロリーの個人差は普通30~50kcalだそうで、500kcalもの違いが出るのは「異常」と言っていいという。つまりこの研究によって、「超加工食品には、より多く食べさせる性質がある」ことが判明したというわけだ。

これは、単に「摂取カロリーが増える」という話に留まらない。先述のペプシ社が資金提供した研究の結果によると、「超加工食品は『甘さ』と『カロリー』が対応していない場合が多く、そのため『代謝されないカロリー』が多くなる」のだから、「超加工食品を食べること」は、「摂取カロリー」も「代謝されないカロリー」もどちらも増やすことに繋がるのである。そりゃあ、「塩・砂糖・油の購入量」が減っていたってサンパウロの子どもは太るだろうし、「摂取カロリーの58%が超加工食品」であるアメリカ人も太るだろう。

色んな技術が進化したことで、私たちが食べるものは「甘さ」も「カロリー」も大きく調整されている可能性が高いはずだ。だからこそ「美味しい」と感じるのだろうし、結果として「たくさん食べてしまう」のだと思う。しかし、そういう食品を摂取すればするほど、「代謝されないカロリー」が蓄積されていくだけというわけだ。コンビニや食品会社などが「カロリー控えめ」みたいな商品を色々と出していると思うが、もしかしたらそれらも、「自然界に存在する食べ物との相違が大きい」場合は、「代謝されないカロリー」ばかり摂り込んでいるにすぎないのかもしれないのである。

そんなわけでこの話は、健康に生きていく上で非常に重要な知見と言えるのではないかと思う。

アメリカにおける「独占禁止法」の変遷と、近年浮き彫りになった弊害について

さて、本作『フード・インク ポスト・コロナ』で扱われる大きなテーマの中で、もう1つ興味深かったのが「独占禁止法」である。

本作を観る少し前、「『グーグルが反トラスト法に抵触している』ため、アメリカ司法省が事業の分割を要求するかもしれない」というニュースを見かけて驚かされたことを思い出す(「反トラスト法」は、日本でいう「独占禁止法」のこと)。ただ私は正直、「何だかんだ、事業分割なんて話にはならないだろう」と思っていた。グーグルは世界的に見ても超大企業であり、そんな強い企業を強いまま維持しておく方がアメリカ国家にとっても都合がいいはずだと考えていたからである。

しかし本作を観て、少し考えが変わった。どうやらアメリカというのは、そもそも「『市場の独占を許さない』という方針を貫くことで発展してきた国」らしいのである。「自由市場」を何よりも重視してきた国であり、その分かりやすい例として「AT&T」という電話会社が紹介されていた

1940年代、AT&Tは市場の14%を占めており、当時のアメリカはこの数字を懸念していたという。私としては正直、「たった14%で『市場の独占』と判断されるのか?」と感じたのだが、アメリカという国はそれぐらい「自由市場」を重視していたということなのだろう。しかし結局当時は、「AT&Tを解体する」みたいな話にはならなかった。電話線の設置や管理などが急務であり、膨大な設備投資とその管理を行う会社は必要だと判断されたからだ。

しかしその後、恐らく「市場の独占」が理由だったのだろう、AT&Tは解体された。そしてそれにより、長距離電話の料金は劇的に下がり、そのお陰で、携帯電話やインターネットなどの技術革新が進んだのだそうだ。作中では明確に、「『市場独占の解消』はイノベーションを生む」を指摘されていた。

ただその後1980年代に入り、アメリカは少し方針を変えたという。「モノを安く提供するのであれば、1つの企業が業界を独占していても構わない」という判断に変わっていったのだ。そしてそのようなタイミングを見計らって、企業は他社の買収を繰り返し巨大化していった。こうして、決して食品業界に限る話ではないが、現在のような「ごく一握りの多国籍企業による市場独占」という状況が生まれることになったのである。

本作では、実際のデータも示された。もちろんアメリカの数字だが、

  • 食肉業界:大手4社で市場の85%
  • シリアル業界:大手3社で市場の83%
  • 炭酸飲料業界:大手2社で70%
  • 乳児用ミルク業界:大手2社で80%

というような凄まじい寡占状態にあるという。

そしてこの寡占によって、現実に様々な弊害が生まれている

ある畜産業者は、買い取り金額の変化の話をしていた。様々な加工業者が存在していた頃であれば、買い取り金額に納得いかなくても別の業者に売る選択肢があったが、今は加工業者が買収によって統廃合されたこともあり、相手の言い値で売らざるを得ないのだそうだ。まさしく、「競争原理がまともに働かなくなっている」という状態だと言えるだろう。

また、寡占状態の脆弱性を示すこんなエピソードも紹介されている。ある時、乳児用ミルクを製造するアボット社が生産工場で問題を起こし、その工場の閉鎖を決めた。すると、市場から43%もの乳児用ミルクが一気に消え、母親たちがミルク難民になってしまったというのだ。これもまた、とても健全な状態とは言えないだろう。

このように、「反トラスト法(独占禁止法)」をベースにして「企業の変遷」と「顕在化された弊害」が説明される。アメリカがもう少し当初の方針、つまり「寡占状態を許さない」というスタンスを堅持していれば状況は違ったのかもしれないし、だとすれば、そんな反省を踏まえて「グーグルに対する事業分割」などに意欲を見せているのではないかとも思う。

「労働者の使い捨て」というあまりにも酷い現実

さらに、「企業による寡占状態」はより深刻な問題を引き起こしていることが明らかにされる。それが「労働者の使い捨て」だ。本作ではかなり冒頭で扱われるのだが、アイオワ州ウォータールーにある大手食肉会社「タイソン・フーズ」の工場の現状は、なかなか酷かったなと思う。

コロナウイルスが広がり始めた頃、この工場でも次々に陽性者が出始めた。そのため、実際に保安官が工場へと足を運んだそうだ。本作には、当時担当した保安官が出演しており、その時の驚きについて語っていた。タイソン・フーズの工場では多くの住民が働いており、街としても企業との関係を悪化させたくはない。とはいえ、陽性者が続出している現状はどうにかする必要がある。そこで工場内を見てみたのだが、そこはあまりにも酷い環境だった。

本作では、コロナ禍前に撮影されたらしい工場内の様子も映し出される。それを見ると、肘を突き合わせるようなかなり密集した環境であることが分かるだろう。極限まで効率化されているのだと思う。そして保安官が工場内をチェックした際もその状態、つまり、感染対策など一切なされないまま作業員が働かされ、さらに、「従業員が床に吐いた後、何事もなかったかのようにそのまま作業に戻る」みたいな状況さえ目にしたというのだ。

さすがにこれは問題だと考えたウォータールーは、タイソン・フーズ社に「10日~14日程度の操業停止」を申し入れた。その頃には陽性者が爆発的に増え始め、死者も出るようになっていたからだ。しかし会社の反応は「あり得ない」だった。それどころか同社は、当時の大統領であるドナルド・トランプに訴え出ることまでしたのである。

さて、アメリカには「国防生産法」という法律が存在するのだそうだ。そしてタイソン・フーズ社はこの法律を盾に、「国民のための食肉生産を行っているのだから工場の操業を認めてほしい」と嘆願した。そしてそれを受けて、トランプ大統領が工場の操業を許可する書類にサインしたのである。

しかし作中に登場した専門家は、「このような法律の運用はあり得ない」と憤っていた。というのも「国防生産法」はそもそも「企業活動を抑止する」という目的で作られた法律だからだ。それを逆手にとって、企業活動のために利用するなんてあり得ないというわけだ。しかし驚くべきはそれだけではない。「国防生産法」を盾にとって操業を続けた工場ではなんと、「海外輸出用の食肉」が多く加工されていたというのである。つまり、「国民のための食肉生産」というのは真っ赤な嘘だったというわけだ。「超大企業による寡占状態」が、このような「歪み」を引き起こしていると考えるべきだろう。

また本作は、フロリダ州イモカリーという地域での「労働者の使い捨て」の現実を描くところから始まる。同地では南米やハイチなどの移民労働者が劣悪な環境下で働かされ、虐待・搾取が当たり前のように横行していたというのだ。競争原理が働かないからこそ、このような横暴が蔓延ってしまうのである。

しかしこの点に関しては映画の後半で、新たな取り組みによって改善したと紹介されていた。「フェアフードプログラム」という仕組みが新たに生まれたのだ。これは、「『フェアフードプログラム』によって生産された農作物は、『フェアフードプログラム』と契約した企業しか購入できない」という仕組みである。これによって、生産者の労働環境を守ろうというわけだ。

しかし、企業の中にはこの契約を受け入れないところも多いらしい。例えば作中では、ウェンディーズがこの取り組みを拒否し、トマトをフロリダ州ではなくブラジルから仕入れる形に変更したと紹介されていた。他にも多くの企業がこの仕組みを受け入れていないようで、まだまだ十分に改善したとは言えないようだ。とはいえ、フロリダ州では既に、生産されているトマトの9割が「フェアフードプログラム」によって作られているそうで、以前のような搾取・虐待は大幅に減っていると考えていいのではないかと思う。

このように、「寡占企業」の支配をかいくぐる取り組みがもっと広まればいいと思うし、そうやって「食の世界」が健全になっていくことで、巡り巡って日本に住む私たちの生活もより良くなっていくのだと信じたい

監督:ロバート・ケナー, 監督:メリッサ・ロブレド, クリエイター:パーティパント&リバーロード, 出演:マイケル・ポーラン, 出演:ゲラルド・レイエス・チャベス, 出演:エリック・シュローサー, 出演:トニー・トンプソン, 出演:サラ・ロイド
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最後に

本作では他にも、「政府が特定の農作物に補助金を出すせいで、豊かな土壌だったのに表土の半分が既に失われてしまった土地」や「外科医やスタンフォード大学の教授の地位を捨ててまで代替肉の研究に没頭する者たち」、あるいは「海洋資源を守るために昆布を育て始めた漁師」など様々な人・状況が取り上げられている。また学校給食の話もあり、「全体の3割は地元農家から仕入れることを定めたサンパウロ」や、「流通業者からではなく農家からの直接仕入れに切り替えたニュージャージー州カムデン」など、新しい取り組みも色々と紹介されていた。

本作では当然アメリカの事例ばかりが取り上げられているのだが、「食」には誰もが無関係ではいられないし、私たちも決して無視は出来ないと思う。恐らく、本作で描かれているのと比べれば、日本が置かれた状況は決して酷くないと思うが、これからどうなっていくのかは分からない。また「食」に限る話ではないが、「購入する」というのはある種の「投票行動」であり、私たちは普段の生活における「食の選択」によって、企業や社会に対して意思を示し続ける必要がある

本作は、そんな私たちの判断の参考になるような作品とも言えるのではないかと思う。

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