目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:内藤瑛亮, 出演:佐津川愛美, 出演:植原星空, 出演:伊礼姫奈, 出演:竹財輝之助
¥440 (2024/10/13 18:30時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
破天荒な「ちーちゃん」は実は、「私たちが生きる社会のリアル」を凝縮した存在である
そのように捉えることで、「ちーちゃんの狂気」の見え方も変わってくるだろう
この記事の3つの要点
- 『「良き夫・父親」に見える篤紘に対して当初から抱かされた「拭えない違和感」
- 「正しさ」と「正解」を混同することによって生まれる「歪み」がリアルに浮き彫りにされていく
- 「ちーちゃんの狂気」を介在させることで「幸せって何だっけ?」という問いを突きつける物語である
「ホラー映画」だと思って観ると肩透かしを食らうかもしれないが、私にはとても興味深い作品に感じられた
自己紹介記事
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これは非常に面白い物語でした! 普段から私は、これから観るつもりの映画の内容をあらかじめ調べたりしないし、どういう物語なのかも具体的に想像したりも別にしませんが、それでも本作は「思ってもみなかった内容」という感じで、凄く良かったです。観ようかどうしようか悩む当落線上の映画でしたが、この作品は観て良かったなと思います。
基本的にはこういう「思いがけず良かった!」っていう感覚を味わいたくてエンタメに触れてるんだよね
だから個人的には、「レビューを観てから作品を鑑賞する」みたいなのがちょっと理解できないんだよなぁ
本作はもちろん、「ちーちゃん」と呼ばれる「真っ赤な衣装に身を包んだ謎の少女」のインパクトが凄まじいし、最初は彼女の存在に惹きつけられることでしょう。ただ物語を追っていく内に、「そうか、『ちーちゃん』がメインの物語ではないのか」と分かってくるだろうと思います。いや確かに、「視覚的」には最後の最後まで「ちーちゃん」がメインなのですが、内容的には「ちーちゃんがヤバい!」というだけの話ではないというわけです。
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では一体何がメインで描かれているのでしょうか? 私はそれを、「『正しさ』によって歪む何か」だと感じました。そして本作においては、「『正しさ』によって歪む何か」を凝縮させた存在として「ちーちゃん」が登場するのだと思っています。つまり私たちは、「『ちーちゃん』の狂気」を通して「『正しさ』によって歪む何か」を感じ取り、さらに「それは『私たちが生きる社会にもよくあるもの』なのだと実感させられる」というわけです。
パッと見は「ヤバい女の子が暴れまわるホラー」ぐらいにしか思えないから余計にね
というわけでこの記事では、私がどのように本作を捉えたのかに触れていこうと思います。
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「良い人っぽい夫」に対して抱いてしまった強烈な違和感
先ほど触れた通り、冒頭からインパクト抜群の登場を見せる「ちーちゃん」には驚かされたわけですが、しかし私はむしろ、主人公・萩乃の夫である篤紘の方が最初からずっとヤバいと思っていました。
そこはかとなく違和感を醸し出す演技がなかなか良かったよね
だから観る人によっては、最初の段階ではその違和感に気付けないかもって思う
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篤紘は一見、「とても良い夫・父親」に感じられるのではないかと思います。食事の際は妻の料理を褒め、家族との日常の写真を頻繁に撮り、学校に行っていない娘に勉強を教え、自ら妊活アプリを探し出して萩乃と一緒に前に進んでいこうとするという感じです。「家族想いの良いパパ」という印象でしょう。また、仕事も出来る人のようだし、近所の人に声を掛けて開いたホームパーティーでも話題の中心にいるなど「外面」もちゃんとしているのです。全体的に「良い人」に見えるだろうと思います。
ただ私は割と最初から、「うわぁ、この人無理だなぁ」と感じていました。「とてもじゃないけど許容できない」という嫌悪感がとても強かったのです。
この点についてはホントに、他の人がどう感じたのかちょっと気になるよね
勝手な憶測だけど、男性ほどその違和感に気付けないんじゃないかって気はする
ただ、彼に対する違和感を、それぞれの状況において個別に指摘していくのはちょっと難しい気がしています。「個々の場面においては、決して悪いヒトではない」という気がするからです。そんな彼に対する違和感を総合してぎゅっとまとめて表現するなら、「『自分の正しさ』を決して疑わない人」という感じになるでしょう。そして私は、そういう人がどうしても好きになれません。「『自分の正しさ』を決して疑わない人」はどちらかと言えば男性に多い印象があるのですが、私が同性とあまり上手く仲良くなれないのも、その辺りに理由がある気がしています。
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では、篤紘は一体何故「良い人」に見えるのでしょうか? その理由は、「『一緒に正解を導き出した』という雰囲気作りが上手いから」です。実際には、「篤紘が自身の『正しさ』を押し付けて、それを『正解』に見せかけているだけ」に過ぎません。ただ、その振る舞いがとても絶妙なので、「両者が納得した上でその『正解』を導き出した」みたいな感覚になってしまうというわけです。
詐欺師にこういうタイプの人が多いようなイメージがある
こういう振る舞いが上手い人って、ホントに絶妙だからねぇ
さて、つまるところ本作では、「『正しい』からといって『正解』とは限らない」という状況が描かれていると言えるでしょう。そしてその分かりやすい実例として篤紘に焦点が当てられているというわけです。
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篤紘は、「正しさ」と「正解」を完全に混同していると言えるでしょう。つまり、「『自分が正しいと感じること』は、誰にとっても『正解』であるはずだ」と考えているというわけです。そしてそれ故に、「『自分の正しさ』を押し付けている」という感覚を持たないまま他人にそれを強制することが出来るのでしょう。「自分の正しさ」=「正解」なのだから、そこに罪悪感など生まれるはずもありません。むしろ、「『正解』に導いてあげている」ぐらいの感覚なのでしょう。
一方、程度は様々でしょうが、彼の身近にいる人は「『篤紘の正しさ』をどうにも『正解』とは受け取れない」と感じているのだと思います。そしてこのすれ違いにこそ「歪み」が生まれる余地があるというわけです。
でも「歪ませている当の本人」は、その原因が自分にあるとは気付けないんだよねぇ
ってかそもそも、「歪み」そのものだって見えてないだろうし
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本作『毒娘』の中でメインで描かれるのは、萩乃と篤紘、そして彼らの娘である萌花の3人です。そして割と早い段階で明らかになることなのですが、萌花は篤紘の連れ子であり、萩乃とは血の繋がりはありません。冒頭からしばらく、「萩乃と萌花には親子とは思えない距離感がある」みたいな描写が続くのですが、そこにはそのような背景があるのです。
さらにもう1つ、早い段階で理解できる違和感があります。それは「萌花が常に、右手に手袋をしていること」です。この点については、中盤ぐらいまで物語が進まないとその背景が明らかにされないので、この記事でも触れません。ただ、「彼女が手袋を嵌めるきっかけとなった出来事」はやはり、本作全体が描き出す「歪み」に関係してくるのです。
「歪みが可視化されること」がテーマの1つのはずだから、最初の内は「穏やかな家族」的な描写が多いよね
それにしても、篤紘の違和感は私にはかなり強烈だったけど
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「『視覚化されてこなかった歪み』が凝縮したような存在」として「ちーちゃん」が描かれていく
さて、そんな割と穏やかな家族の元に、かなり早い段階で「ちーちゃん」が現れ、ムチャクチャしていくことになります。そのことは、映画館で流れていた予告映像からも分かっていたし、「思ったよりも早く出てきた」という以外にそれほど驚きはありませんでした。しかしその後、物語はかなり意外な展開を見せることになります。恐らく、本作『毒娘』を「ホラー作品」だと思って観に行った人が多いと思うんですが、本作は「かなりホラー的ではない展開」になっていくのです。
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鑑賞後に本作に対する評価をチラ見してみましたが、「ホラー映画だと思っていた人たちによる不評」がちらほら目につきました。確かにそれはその通りでしょう。本作を「ホラー映画」だと思って観に行った場合、肩透かしを食らったような気分になるだろうと思います。ラストはともかくとして、中盤から後半に掛けての展開は「ホラー」とは言えないようなものだからです。なので、「ホラー映画を観に行くぞ!」という気分でいた人は「???」という感覚になったんじゃないでしょうか。
凄い偏見だけど、「ホラー映画のファン」って、「ホラー映画として成立しているか」みたいなジャッジに厳しいイメージがある
「こんなのホラー映画じゃない!」みたいな形の批判が、ホラー映画ではよく起こりそうだよね
ただ、私にとっては好都合でした。私は「好んでホラー映画を観る」みたいなタイプではないし、「本作『毒娘』がホラー映画かどうか」は別にどうでも良かったのです。むしろ、「映画『毒娘』はホラー映画っぽいよな」という理由で観ない可能性もあったぐらいなので、「観てみたら実はホラー映画じゃなかった」というのは私にはプラスでしかありませんでした。
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さて、先程触れた通り、本作では「『正しさ』によって歪む何か」が描かれていると私は考えているし、その中心にいるのが篤紘だと思っています。「『篤紘の正しさ』を『正解』として受け入れざるを得ない」という状況によって、彼の周囲の様々な部分に「歪み」が生じてきたのです。長い年月を掛けて少しずつ「歪み」が蓄積していったことでしょう。そして、「その『歪み』が『ちーちゃん』の登場によって放たれた」というのが、本作が提示しようとしている構図なのだと思います。
つまり、「『視覚化されてこなかった歪み』を凝縮させた存在」こそが「ちーちゃん」だと考えているというわけです。
まあ、物語上「ちーちゃん」はちゃんと人間だし、別に「幽霊」とか「妖怪」ってわけではないんだけど
でも、こういう解釈をするとしっくりくる感じあるよね
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さて、このような捉え方をすると、ラスト付近の展開が理解しやすくなるんじゃないかと思います。観る人によっては、あの場面におけるある人物の行動がまったく理解できないでしょう。常識的に判断すれば、その人物の取った行動はちょっとあり得ないものだからです。
ただその人物は、長年ずっと「歪み」を内包し続けてきたはずです。けれど、誰かに理解してもらえるなんて思っていなかっただろうし、誰にも相談してこなかったんじゃないかと思います。何故なら、その「歪み」を生み出しているのが「正しさ」なのだと理解していたはずだからです。「『正しい』んだから『歪み』が生まれるはずがない」と思い込んでいたとすれば、「気のせい」とか「何かの間違い」みたいに考えたくもなるでしょう。そんな風に、ずっとやり過ごしてきたのだと思います。
DVの被害を受けている女性も、同じような理屈で抜け出せないでいるのかなって想像してる
DVの場合は、客観的には「明らかに『正しくない』」はずなんだけど、当人同士はそうは感じられないんだろうね
ただ恐らく、「ちーちゃん」の登場によって認識が変化したのでしょう。つまり、「『やっぱり歪んでるよね』という確信が得られた」のだと思います。そしてそれ故に、あの場面でのあのような行動に繋がっていったのだと私は感じました。物語の展開からすれば確かに意外だし、セオリー通りではないかもしれません。ただ、「その人物の行動原理」を踏まえれば、私にはとても自然な判断に思えたし、「そりゃあそうなるよなぁ」と感じられたというわけです。
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さて、話がちょっと抽象的になりすぎたので、何を言っているのか分からなくなった方も多いかもしれません。まあ、この記事では、特に後半の展開には具体的に触れるつもりがないので、抽象的な状態は改善されないのですが、とにかく私が伝えたかったのは、「見事な設定から上手く物語を展開させている」ということです。
まあ、あーだこーだ書いてはいるものの、これが「正しい捉え方」なのかは全然分からないんだけど
「正しい捉え方」なんて別にないって思ってるけど、要するに「制作側が意図していた解釈かどうか」って話ね
本作では、「ちーちゃん」のインパクトがあまりに凄まじいので、彼女の存在が作品の「主」であるように感じられるだろうと思います。しかしそのような捉え方のままだと、特に後半以降の展開が全然理解できないはずです。だから、「『ちーちゃん』は物語における「従」である」と捉えるのが正しいのだと思います。「そのインパクト故に、『それまで可視化されてこなかった歪み(=主)』を浮かび上がらせる」みたいな「脇役的存在」というわけです。
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「幸せって何だっけ?」という本作に通底する問いかけと、「ちーちゃん」が浮き彫りにする「社会の機能不全」
では、「『正しさ』によって歪む何か」を主たるテーマに据えた本作『毒娘』は、全体として一体何を訴えようとしているのでしょうか? 私はそれを、「幸せって何だっけ?」という問いかけだと受け取りました。そのことは、本作中で言及される「冷凍食品」の話からも推察できるでしょう。
篤紘はよく元妻について「前のは◯◯だった」みたいな言い方をするのですが、そういう話の1つとして、「前のは冷凍食品ばっかりだったから、萌花にはちゃんとした料理を食べさせたいんだよ」というセリフが出てきます。ちなみに実際には、「篤紘自身が『冷凍食品なんか食べたくない』と思っている」と受け取るのが自然でしょう。また、妻の萩乃が事情を説明しようとすると、「責めてるわけじゃないんだよ」と制したりもします。この辺りも、「一般的には『良い人』っぽく見えるかもしれないけど、私には違和感を抱かせるポイント」で、嫌だなと感じました。
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篤紘はたぶん、「元妻は料理がダメだったけど、お前の料理は美味い」って褒めてるつもりなんだろうなって思う
さて、この「冷凍食品」の話を「幸せ」という観点から捉えると、「冷凍食品ばかり出てくる家庭は不幸」「手料理が出てくる家庭は幸せ」みたいな話になるでしょう。これが篤紘にとっての「正しさ」であり、同時に「正解」というわけです。
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しかし普通に考えて、篤紘のこの価値観が「唯一の正解」なわけがありません。彼がそれを「正しい」と思っていたって別に何の問題もありませんが、「他の人もこれを『正しい』と思うべきだ」と考えるのは間違いです。「冷凍食品の方が幸せ」と感じる人がいたって別にいいし、それを否定する理屈など存在するはずもありません。しかし篤紘は恐らく、そんな価値観を認めはしないでしょう。彼の「正しさ」に合致しないものは、すべて「不正解」だからです。
篤紘について書けば書くほど、篤紘のことが嫌いになっていくよ
篤紘はシンプルに「幸せを追求している」だけであり、まさか「自分が他人に迷惑を掛けている」などとは想像もしていないでしょう。篤紘の価値観は現実に「歪み」を生み出しているわけですが、彼が抱く「手料理が出てくる家庭は幸せ」という考えは別に「間違っている」わけではないので、篤紘はきっと「自分が責められるような立場にいるはずがない」と考えているのだろうと思います。
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正直なところ、私には篤紘のスタンスは「異常」にしか見えません。ただ、今の世の中には彼のようなマインドの人が多くいるだろうとも思っています。「自分は正しいんだから、批判される謂れはない」という価値観は、「多様性」を大きく履き違えていると言えるでしょう。「多様性」というのは端的に表現すれば、「『正解』はたくさん存在する」と考えることだと私は思っているのですが、篤紘のような「正しければ責められるはずがない」という発想は、「『唯一の正解』が存在する」と考えているようにしか思えません。そのような価値観は、「私が正しいんだから、お前が間違ってるに決まっている」という発想を容易に導くし、私の中には、そういう考えを持つ人がネット上で不毛な議論を展開しているような印象さえあるのです。
まあ、そういうマインドの人にはきっと、私のこういう話も全然理解できないんだろうなぁって思う
この考えもたぶん、「私が正しいんだから、お前が間違ってるに決まってる」みたいな話に受け取られちゃうんだろうね
そして、そういう「異常さ」が様々な「歪み」を生み出しているはずだし、さらに、そのような「歪み」を強烈な形で可視化したのが「ちーちゃん」なのだと受け取ったというわけです。つまり「ちーちゃん」は、「社会が生み出したモンスター」であるとも言えるでしょう。
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さて、先ほども書いた通り、本作では「ちーちゃん」はちゃんと人間で、「ちーちゃん」が起こした様々な問題は「警察が処理すべきこと」として扱われます。そして本作にはちゃんと警察も登場するのですが、しかし、警察はまともに機能しません。また、「ちーちゃん」にはもちろん親がいるのですが、その親も「『ちーちゃん』に対してはほぼ何もしない」といった状態にあります。「ちーちゃん」は「明らかに危険な存在」と認識されているにも拘らず、ほとんど放置されており、何の対処もなされないというわけです。
初めは「リアリティが薄いなぁ」って感じてたけど、色々考えて捉え方が変わった
さて、「ちーちゃん」が放置され続ける理由は恐らく、「社会が生み出したモンスターである」という点にあると思います。言い方を変えれば、「社会に巣食うがん細胞のようなもの」というわけです。最近では新たな治療法も出てきているでしょうが、やはり「がん細胞を殺す」ためにはまだ、「その周辺にある正常な細胞」まで傷つけなければならないでしょう。そして私は、「ちーちゃん」に対しても同じことが言えると感じました。つまり、「ちーちゃん」に対処しようとすれば、「『ちーちゃん』の周りに存在するもの」にも影響を及ぼしてしまうというわけです。そしてだからこそ、「社会は『ちーちゃん』に対して機能不全に陥るしかない」のだと思います。
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つまり、本作における「公権力」「親」の存在は、「『ちーちゃん』は『社会が生み出したモンスター』であり、それに対処するには社会の痛みを伴う」という事実を浮き彫りにするために描かれていると感じたというわけです。
まあこの辺りのことは自分でも、ちょっと考えすぎかなって感じはしてるんだけど
でも、「そう考えても不自然ではない」っていう程度の説得力はあると思ってるよね
本作では、描かれるあらゆる要素が「歪み」を強調しており、さらに、ラスト付近ではそのような「歪み」が一気に集まって淀み、尋常ではないカオスとして提示されることになります。そしてそんなカオティックな状況の中で、ある人物が「自由に生きよう」と発するのですが、その言葉がある種の「呪文」のように響き、積もり積もった「歪み」を一気に押し流していくみたいな感じの物語でした。そんな展開も良かったなと思います。
そんなわけで、私にはとても素晴らしい作品に感じられました。
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最後に
さて、この記事ではずっと「考察っぽいこと」をしてきたわけですが、それはそれとして、本作においては「ちーちゃん」と萌花のビジュアルがとにかく素晴らしかったなと思います。あまり具体的には触れないようにしますが、2人が展開に合わせて様々に変化していく感じも良かったし、やり取りや佇まいも素晴らしかったです。特に「ちーちゃん」は、普通にしていたら「リアリティのないファンタジックな存在」に見えてしまうでしょうが、私には結構現実感のある存在に感じられたのも良かったなと思います。
っていうか、「ちーちゃん」をリアルな存在に見せようとしたからこそ、「ホラー映画」としての魅力は薄まったってことなんだろうね
でも、「『ちーちゃん』には割とリアリティがある」って要素は重要だから、仕方ないかなって感じ
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そんなわけで繰り返しにはなりますが、「ホラー映画」だと思って観に行くと少し期待外れになるかもしれません。ただ、「ホラー映画」という枠組みを取っ払って観れば、かなりグサグサ突き刺される作品ではないかと思います。そんな風に考えると、本作『毒娘』は「『適切な観客』に届きにくい作品」と言っていいかもしれません。もちろん、「宣伝」という観点から考えれば「『ちーちゃん』のビジュアル」を全面に押し出すのが正解だと私も思うのですが、しかしそのせいで「ホラー映画に受け取られる」というミスマッチが起こってしまったようにも感じます。
ラスト付近でかなりぐちゃぐちゃっとしたシーンも描かれるので、「全然ホラー映画じゃありませんよ」とも言いにくいのですが、少なくとも物語の本質は「ホラー」ではないでしょう。なので、もう少し広く観られても良い映画なんじゃないかと感じました。
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