目次
はじめに
著:天童 荒太
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この記事で伝えたいこと
「見えない」からと言って「傷」や「痛み」が存在しないわけじゃない
「傷」を見せないようにしている人こそ、誰よりも傷ついているかもしれない
この記事の3つの要点
- 「見えない傷」は思っている以上に世の中にたくさん存在する
- 特に子どもの頃は、私も自分の「辛さ」を表に出せなかった
- 選択肢が多い世の中では「じゃなかった私」がどんどん増え「閉塞感」が募るばかりとなる
「見えない傷」もいつの間にか治りはするが、その治りは醜い。誰かに認めてもらえることで、少しは救いになるだろう
この記事で取り上げる本
著:天童 荒太
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私が関わってきた人たちの多くは、「表向きは明るく元気で楽しそうに生きている人」でした。みんなの輪の中心にいたり、いつもニコニコ楽しそうにしていたり、テンション高めに振る舞う人です。そういう人たちが、少し鎧を脱いでくれるようになると、「ホントはこういう明るい性格じゃないんです」「テンションが高いのって疲れますよね」みたいな話になっていきます。
私は本当にそういう人をたくさん見てきたので、今では、元気そうにしている人を見ると「大丈夫かな?」と感じてしまうようになりました。
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とりあえずスタンスとしては、「元気じゃなくてもいい」ってことが伝わるように振る舞ってるつもり
周りからのイメージが強いと余計に鎧を脱げなくなるからね
そういう人たちが抱えている「傷」は、なかなか目に見えません。もちろんそれは、本人が見せないようにしているからです。しかし「何故見せないようにしているか」まで考えてみると、「自分が『傷』を抱えていることが知られたら、相手の負担になるかもしれない」と想像できるでしょう。
私は、そういう発言をする人にたくさん出会ってきました。「自分なんかのために気を遣ってほしくない」「めんどくさい人にはなりたくない」みたいなことをよく聞きます。”適切に”その「傷」に触れてくれるならいいんだけれど、過剰に心配する人や逆に過剰に批判する人が出てくるせいで、「傷」を見せられないのです。
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そうやって「傷」を隠してしまうから、その「傷」はなかったことになってしまいます。そして、ぐじゅぐじゅと治りきらないままどんどん「傷」が増えていって、結局あちこち傷だらけになってしまう、という悪循環から逃れられなくなるでしょう。
「見える傷」ならいいのか、というともちろんそんなことはありません。ただ私は、一般的な人よりは他人の「見えない傷」に反応しやすいと思っているので、できる範囲でそういう人たちと関わろうと日々思っているのです。
私が自分のマイナスの話を書いたり言ったりするのも、しんどい話をしやすくなってくれたらいいなと思ってるってのもある
やっぱ「ダメ側」の人間にじゃないと、そういう話ってしづらいからね
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子どもの頃のことは正直あまり覚えていませんが、常にしんどかった記憶はあります。
家も学校も、客観的に見れば全然悪い環境ではなかったと思います。親からの虐待もなく、裕福ではないけれど貧乏というほどでもなく、学校でいじめられていたわけでも、友達がいなかったわけでもありません。外的な環境という意味では、全然悪くなかったと思っています。
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ただそれでも結構キツかったです。それは、今振り返ってみて言語化すればいろんな要素に切り分けられますが、ただ当時の感情を正確には再現できないだろうなとも思います。例えば、やりたいことは何もなかったし、将来について考えたくなかったし、知らない環境に進むことが怖かったし、やりたくないと感じることが多かったし、自分の存在が誰かにとっての邪魔になっていないかどうかが心配でした。他にもきっといろいろグルグルしていたと思います。
たぶん小学生ぐらいの頃から、「このまま行ったら人生どこかで破綻するだろうなぁ」ということは、ぼんやり考えていたはずです。小学生の頃に家出未遂をしたことがあるし(結局「家出未遂をした」ということさえ誰にも知られないまま終わった)、大学時代には飛び降り自殺を試みようともしました。
高校までは一応、「勉強ができる」っていうカードだけでなんとか乗り切れたみたいなところあるし
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それでも私は、「自分が抱えている苦しさ」みたいなものを、誰かに話すことがなかなか出来ませんでした。
大人になった今は、「自分が抱えている苦しさ」を表に出すことにあまり抵抗がなくなりました。その理由は恐らく、「捨てるものがなくなったこと」と「言葉を得たこと」だと思っています。
学生時代は、好きだったこともあって勉強が結構出来たので、なんとなく勝手に「親からの期待」みたいなものを感じていました。直接的に何か言われたりすることはたぶんなかったはずですが、長男だったこともあり、「成績が良い人間の正解ルートを辿らないといけないんだろうなぁ」と考えていました。
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正確な記憶ではありませんが、いつだかの卒業文集みたいなものの中に、「クラスメートが将来何になっているか」というようなコーナーがあり、私は「総理大臣」と書かれていた記憶があります。クラスメートから見ても、優等生然りという感じだったのでしょう。そしてそんな雰囲気からも「正解のルートを辿るんだろうという期待」を勝手に感じていました。
なんとなくみんなに期待されている気がして学級委員とかやってたような気もするし
そしてそれは、「ちゃんとしている人としての振る舞いから外れにくい」ということでもあります。苦しさを表に出すことは、自分のダメな部分をさらけ出すことでしかなく、子どもの頃は出来なかったのでしょう。
一方、大人になって猛烈に文章を書くようになったことで、「自分が今何を考え、どう感じているのか」を、それまでとは比べ物にならない解像度で認識出来るようになりました。そしてそのお陰で、「自分が何に対してどう辛さを感じているのか」を他人に割と正確に伝えることが出来るようになったのです。
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子どもの頃は、このことがかなり難しく感じられました。「辛い」と感じていることは間違いないのだけれど、何に対してどういう辛さを感じているのかが上手く捉えられず、だから誰かに説明するのも難しいと感じていました。
今の私は、様々な質問をすることで、その人が自分自身では言語化できていない悩みや辛さを結構引き出してあげられると思っています。もしそんな人が子どもの頃に周りにいてくたら、また違っていたかもしれません。
「いつの間にか醜くふさがっている傷」をちゃんと見つけてあげることが大事
私と同じ理由かどうかはともかくとして、「自分の辛さを表に出せない」と感じている人は多くいるだろうと思います。そしてそういう人ほど、自分の「傷」を見せないようにしてしまうし、その「傷」は誰にも気づかれないまま”醜く”治っていくでしょう。
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別に、誰か他人に頼ったところで、「傷」が消えるわけでも治るわけでもありません。「自然治癒力」というのはたぶん「心の傷」にも同じことが言えて、治すのは自分の「免疫力」なんだと思います。
ただ、「今まさに血を流している傷」は見せられなくても、「醜くふさがった傷」なら見せてもいいと感じるかもしれません。見せたところで「傷」の治りが綺麗になるわけではありませんが、「ここに確かに『傷』があった」と誰かに認めてもらえるのは、ちょっとだけ救いになると私は思っています。
そういう意味で、この小説の設定は非常に興味深いと感じます。「見えない傷に包帯を巻く」という発想は、あまり「傷」を負わない人には理解しにくいかもしれないけれど、私は気休め以上の効果があるのではないかと思いました。
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それは「あなたと『傷』を分かち合う意思がある」という表明にもなるし、「見えないものを見ようとしている」という行動が伝わりもするので、本当に世の中で流行ったらいいのに、と思っています
Youtuberがやったらいいのにとか思ったけど……
リア充っぽいYoutuberがやっても広まらないだろうなぁ
天童荒太『包帯クラブ』の内容紹介
高校2年生のワラは、自分の居場所なんてどこにもないんじゃないかと感じている。未来に希望はない。今を楽しむこともできない。何があるわけでもない毎日を、ただ無駄に過ごしていくだけの人生だと思っている。
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高いところからこの街を見てみたい。そう思い立って向かった病院の屋上で、ディノと名乗る少年と出会う。胡散臭い関西弁でぎょっとするような話を繰り出す少年に一瞬たじろいだが、彼のある行為に目を奪われた。
少年は、持っていた包帯を屋上に巻きつけ、「これでええ、血が止まった」と口にした。その瞬間、ワラが見ている風景も、なんだか一変したように感じたのだ。
それからワラは、友人であるタンシオの話を聞いてあげる。「彼女にフラれた」というので、その現場である公園へと向かい、ディノがやったようにブランコに包帯を巻きつけると、タンシオもなんだか気が楽になったというのだ。
そこでワラは「包帯クラブ」を結成することに決める。ネットで依頼人を募集し、誰かが抱える「見えない傷」に包帯を巻いてあげるのだ。
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いい知れぬ閉塞感に囚われた若者が、奇抜なやり方で日常を打破していこうとする物語。
天童荒太『包帯クラブ』の感想
ちくまプリマー新書として発売されたのが2006年なので、この文章を書いている時点で15年前の作品です。現代の若者とどこまで親和性がある作品なのか、現在38歳の私にはなかなか判断が難しいですが、この小説では「若者が抱く普遍的な閉塞感」が描かれているように感じられたので、いつの時代でもこの物語に共感を抱く若者はいるだろうと思います。
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時代と共に大きく変わっていると感じているのは「選択肢の多さ」です。私が子どもの頃には、SNSなどほぼ存在しませんでしたし、そもそもインターネットがまだそこまで広まってはいない時代でした。TwitterもYoutubeもスマートフォンもなかった、ということです。そして私は、そういう時期に子ども時代を過ごせて良かった、と感じています。
何故なら、「選択肢が多い」ということは、「じゃなかった私」が山ほど存在するということだからです。
SNSを見ると、友人や先輩後輩、あるいは憧れている有名人などが日々「自分とは違う何か」をしているでしょう。真似できることは取り入れればいいですが、なんでもというわけにはいきません。時間、お金、才能、立場など、様々な制約から、できることとできないことの差が生まれます。
他人の様々な選択・決断を容易に知れるということは、裏を返せば、「そういう選択・決断をしなかった自分」の存在を強く意識させられることになるでしょう。
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この辛さは、子ども時代にSNSやインターネットがなかった私のような世代には、あまり実感できないと思います。実際私も、そこまでリアルに理解できるわけではありません。
どんな人生を選んでも、それが「(膨大すぎる可能性)分の1」に過ぎないとしたら、もっと別の可能性があったかもしれないと感じられてしまうでしょう。そしてそういう感覚が「閉塞感」という形で表に出てくるということもあるだろうと思います。
無限の可能性が広がっていることをプラスに捉えることができる人にとっては、今の世の中は前進しがいのあるとても面白い世界でしょう。しかし、無限の可能性が自分の選択・決断を矮小化させてしまうというマイナスの捉え方しかできない人も当然いると思うし、そういう人にとってはどんな生き方であっても常に苦しさに付きまとわれてしまうでしょう。
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生きることがしんどくて、自殺してしまいたくなる気持ちを、私はとても理解できます。しかし世の中的には、「死にたい」と口にすることはなかなか憚られるでしょう。「自殺を決して悪いと思わない」という著者が、「死」をもっと気楽に話せるようにと贈る、「笑える自殺本」
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ルシルナ
逃げたい・諦める【本・映画の感想】 | ルシルナ
私は、大学を中退し、就職活動から逃げ、今も将来に期待せず生きています。誰もが、「人生疲れたな」「もう限界だな」「頑張りたくないな」と感じる瞬間はあるでしょう。誰…
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