目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:広末涼子, 出演:圓島努, 出演:余貴美子, 出演:根岸吉太郎, クリエイター:西村隆, クリエイター:佐藤美由紀, 監督:原將人, Writer:中島吾郎, Writer:原將人
¥330 (2024/08/17 19:28時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
何にせよとにかく、広末涼子がメチャクチャ可愛かった
正直、広末涼子の可愛さ目当てで観ても、十分楽しめる作品だと思う
この記事の3つの要点
- 随所にある、「『宇宙人』という設定のお陰で、素直に自分の気持ちを口に出来た」という描写がとても絶妙
- しかし同時に、「宇宙人」という設定が、2人の距離を遠ざけてしまいもした
- 「映画の編集」が「過去の追体験」として機能する構成も実に見事だと思う
最初は正直、「大丈夫か、この映画?」と思いながら観ていたのですが、最終的にはとても素晴らしい映画だと感じました
自己紹介記事
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そして、ただそれだけの作品だとしても恐らく満足できたでしょう。
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ただ、映画を観ながら次第に、「本作の非常に特殊な設定が、『繊細な人間関係』を描き出すのにピッタリだったのではないか」と感じられるようになりました。主人公を演じた広末涼子も圓島努も、決して「演技が上手い」わけではありませんが、その「演技の拙さ」がむしろ良い風に機能していた気がします。つまり、本作の特殊な「設定」によって、「演技の拙さ」が「人間関係の繊細さ」に変換されているように感じられたというわけです。
この記事では、その辺りのことにも触れようと思っています。
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文字で説明しようとすると内容の紹介が少し難しくなるのだが、基本的な設定は「高校生2人が、夏休みを使って映画撮影をしている」となる。高校2年生の遠山杏と転校生の片岡徹が、都内の様々な場所でお互いにカメラを回し、その素材を使って映画を作ろうと考えているのだ。
さて、彼らが作ろうとしている映画の登場人物も「遠山杏」と「片岡徹」である。つまり、「本人役で映画に出演している」というわけだ。しかし、この表現は少し訂正の必要がある。ここがややこしい部分なのだが、映画の登場人物は実際には、「遠山杏に憑依した宇宙人のポウセ」と「片岡徹に憑依した宇宙人のチュンセ」の2人という設定なのだ。ちなみに、「ポウセ」「チュンセ」という名前は、宮沢賢治の『双子の星』という作品から採られている。
「宇宙人」という“設定”は、徹が持ち込んだ。というか、2人が初めて出会った時点で既に、「自分は実はチュンセという宇宙人なんだ」と徹は言っていたのである。
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その時杏は、橋の上にいた。放送部に所属している彼女は、そこでカメラテストをしていたのだ。そしてそんな時に、徹に「宇宙人なんだ」と話しかけられた。さらに、「今自分は分裂している最中であり、新しい宇宙人がまさに生まれようとしている。だから杏の身体を貸してくれ」と畳み掛けてくるのである。
杏は当然、少し戸惑った。しかし、思いの外早く徹の奇妙な発言を受け入れ、「チュンセ」から分裂したという「ポウセ」を自分の身体に入れたのだ。この宇宙人はとにかく、「単為生殖で、アメーバのように分裂して増える」ようである。
それから2人は、カメラを持って東京中を巡っていく。その行動は、杏と徹にとっては「映画撮影」であり、ポウセとチュンセにとっては「地球人の調査」である。しかし観客の目からは、それは明らかに「デート」にしか見えない。彼らは、「撮影」「調査」と称して夏休みを楽しく満喫しているというわけだ。
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しかししばらくして、「そんな風に考えていたのは杏の方だけだった」ということが観客にも理解できるようになる。状況を正しく把握するのは難しかったが、徹にとってはどうやら、「宇宙人」という”設定”は決して「杏と会うための口実」などではないようなのである。彼にとっては、「もっと切実な何か」であるようなのだ……。
さて、本作の冒頭で杏は、そんな徹のことを思い出しながら映画の編集を行っている。実は徹は、夏休みが終わるとすぐにオーストラリアへと旅立ってしまい、日本にはいないのだ。杏は、夏休み中に撮り溜めた膨大なテープと共に日本に残されてしまったのである。そして彼女は、教師や友人からの勧めもあり、テープを編集して1本の映画を作る決意をするのだが……。
非常にシュールな物語なのだが、「宇宙人」という設定が実に上手く機能していると思う
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本作において何よりも良かった点は、「お互いが『宇宙人』という設定を貫き通したこと」でしょう。そのような設定の下でやり取りすることで、2人の距離が縮んだり遠ざかったりするのです。2人の関係性を描き出すのに、とても絶妙な設定だったなと思います。
「おいおい、大丈夫かこの映画」って思いながら観てたなぁ、最初の方は
「宇宙人」という設定の絶妙さが際立つのは、杏が徹に自分の気持を伝える場面でしょう。杏が徹を好きなことは観客には明白で、杏は度々、「お前がいなくて寂しい」という主旨の言葉を徹に投げかけていました。エアメールでビデオレターを送る際も、オーストラリアへ旅立つことを聞かされた時も、杏は「寂しい」という言葉を口にするのです。
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しかし、ここが絶妙なのですが、杏は決して「私(杏)が寂しい」という言い方をしませんでした。「ポウセは寂しい」「ポウセはお前のことを待っているぞ」みたいな言い方をしていたのです。こうすることで「本気っぽさ」みたいなものを減らすことが出来、だからこそ杏は「寂しい」という言葉をてらいもなく口に出来たのだと思います。
メチャクチャ奇妙に思えた設定が、こんな風に機能してくるとはね
恐らくですが、杏は「私が寂しいと思っている」みたいな言い方は出来なかったんじゃないかと思います。だから、「宇宙人」という設定が無かったら、「寂しい」という気持ちを伝えられなかったでしょう。しかし、彼女は「ポウセ」としても発言できるわけです。そしてその方が「マジな感じ」が出にくくなるし、なんなら「宇宙人ごっこが出来なくて寂しい」みたいな軽い発言と解釈する余地も生まれ得るでしょう。だから、「自身が抱えている寂しさを徹に伝える」という意味で、「宇宙人」という設定はとても重要だったと言えるのです。
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あるいは、別の場面でも似たようなことを感じました。作中で特に広末涼子の可愛さが爆発していたのが、「『宇宙人は排気ガスに弱い』という設定を徹が新たに付け加えた場面」です。歩道上で道路を走るトラックを撮影していた徹は、突然後ろに倒れたかと思うと、「排気ガスにやられた~」みたいなことを口にします。もちろん、そんな自身の様子をカメラにも収めているのですが、徹が撮影しているその映像に、「私もやられた~」と言いながら杏がカットインしてくるのです。
さて、容易に想像出来るでしょうが、「『排気ガスにやられた』と言いながら歩道の上でドタバタする」なんて行動は普通取らないし、だからこそ、そんな行動を取っている2人の距離は縮まっていくのです。これも、「宇宙人」という設定なくしては実現し得ない状況と言えると思います。
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またこの設定は、「違和感」をも覆い隠していると言えるでしょう。
本作は、「それまで関わりのなかった2人が橋の上で出会い、すぐに意気投合して東京中を駆け回る」という、普通に考えたら「は?」というようなところから物語が始まります。現実にはまずそんなこと起こり得ないし、それ故、物語だとしてもなかなか許容しにくいはずです。しかし、そんな「普通には成立しないだろう状況」が一定の許容範囲内に収まっている(少なくとも私はそう感じました)のは、「宇宙人」という設定のお陰だと思います。なんとなく、「『宇宙人』なら仕方ないか」みたいに感じさせられるのです。また、設定の違和感の方が遥かに強いため、「2人が理由もなく急接近した」という違和感に目が向きにくくもなるとも言えるでしょう。
前に「『空からクラゲが降ってくる』と主張する女の子」が主人公の小説を読んだことがあるんだけど、その雰囲気に近いかも
「トリッキーな設定」が組み込まれることで、本来なら気になってしまうだろう「違和感」が目立たなくなるよね
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そんなわけで、2人の関係性的にも、物語の展開的にも、「宇宙人」という設定はとても絶妙だったと思います。
蝕まれてしまう2人の関係性、そして「過去の映像を編集して映画にする」という設定の巧みさ
しかしながら残念なことに、この「宇宙人」という設定は同時に、2人の距離を遠ざけるものとしても機能してしまったと言えると思います。まさに痛し痒しと言ったところでしょう。
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映画を観ているだけでは、「『宇宙人』という設定に杏を引きずり込んだ動機」ははっきりとは分かりませんでした。ただ確かなのは、「何か切実な理由があってそうしていたのだ」ということです。最初から杏に目をつけていたのか、あるいはカメラを持っていれば誰でも良かったのか、その辺りのことは分かりません。ただともかく、徹にとって「宇宙人」というのは「単なる設定」ではなく、「生きていく上で欠かせない何か」だったことは間違いないでしょう。
「宇宙人」だから奇妙に感じられるだけで、そういう「切実な何か」は誰もが持ってるんじゃないかと思う
「推し活」なんかが分かりやすいだろうけど、徹にとっては「それなしでは生きていけない」みたいなものだったんだろうね
しかし、杏は当然、徹のそんな「切実さ」を理解できていたはずもありません。恐らく彼女は、「よく分からないけれど、遊びみたいなものだろう」ぐらいの感覚で徹と関わっていたのだと思います。というか、そもそも「徹が持ちかけてきた『宇宙人ごっこ』を杏が受け入れた理由」も謎なのですが、まあ何かピントが合ったのでしょう。そんなわけで、杏は徹の「切実さ」を理解しないまま「宇宙人」という設定に付き合うことになったわけです。
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最初こそその状態でも上手く行っていたわけですが、次第に、この「お互いの認識の差」が関係性に影響を与えていくことになります。「宇宙人」という設定に対する認識の食い違いが、結果として2人の関係性を蝕んでしまったと感じているというわけです。「宇宙人」という設定があったからこそ急速に距離を詰めることが出来たわけですが、同じ理由によって、その関係性が壊れてもしまったのだと思います。
この2人には、もう少し違う未来があったような気もするからなぁ
また、本作の「撮影した映像を編集して映画を作ろうとする」という設定もまた、とても上手いと感じました。冒頭で杏の友人が、「編集すると、片岡くんのこと思い出しちゃって大変だね」と杏に声を掛ける場面があるのですが、まさにその通りだと思います。杏は決して「大変」とは感じていなかったでしょうが、杏がしている「映画編集」は、まさに「過去の追体験」そのものなのです。「宇宙人に憑依されている」という設定があるとはいえ、出演しているのは杏と徹であり、彼ら自身を掘り下げていく映像素材がたくさんあるのだから当然でしょう。
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そして、そんな「過去の追体験」を行うことで杏は、「眼の前からいなくなってしまった『片岡徹/チュンセ』を『人間/宇宙人』として改めて捉え直そうとする」のです。私には、このような構成がとても素敵に感じられました。
もちろん杏は、「徹は切実な何かがあって『宇宙人』をやっていたんだ」という視点で過去の映像を捉え直すもんね
そうすることで間違いなく、今まで見えていなかったものが浮かび上がってくるはず
さらに本作では、広末涼子と圓島努が手持ちカメラで実際に撮影したのだろう映像がふんだんに使われていて、普通の映像ではなかなか感じられない「躍動感」に溢れた作品に仕上がっていたと思います。そして本作を観ながら、以前に観た映画『私たちのハァハァ』を思い出しました。こちらの作品でも、4人の女子高生が交代で撮影した手持ちカメラの映像が随所に組み込まれており、このような構成によって「若さ」が一層強調されるなと思います。
また、最初の内は「圓島努の演技がもう少し上手いといいんだけど」みたいに感じていたのですが、物語の展開と共にその感覚も変わっていきました。次第に、「上手くはないからこそ滲み出る狂気がある」と感じられるようになったのです。このように本作は、「一見すると決してプラスとは思えない要素」が多く目に付くのですが、様々な「混沌」が入り混じることで、結果として良い方向にまとまっているように感じられました。とても素敵な作品だったと思います。
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出演:広末涼子, 出演:圓島努, 出演:余貴美子, 出演:根岸吉太郎, クリエイター:西村隆, クリエイター:佐藤美由紀, 監督:原將人, Writer:中島吾郎, Writer:原將人
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最後に
さて、全然どうでもいい話なのですが、エンドロールを観ていて驚いたことがあります。「宣伝プロデューサー」として「古内一絵」がクレジットされていたのです。私にとって「古内一絵」は「小説家」なのですが、「かつて映画プロデューサーだった」ということも知ってはいました。しかし、まさかこんなところでその名前を見かけることがあるとは。ちょっと驚かされてしまいました。
とまあ色々書きましたが、とにかく「広末涼子が凄まじく可愛い作品」です。それ目当てで観ても十分楽しめる作品だと思います。
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