目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:エイドリアン・ブロディ, 出演:フランク・フィンレイ, 出演:モーリン・リップマン, 出演:エミリア・フォックス, 出演:エド・ストッパード, 出演:ジュリア・レイナー, 監督:ロマン・ポランスキー, プロデュース:ロマン・ポランスキー, プロデュース:ティモシー・バーリル, Writer:ロナルド・ハーウッド
¥400 (2024/06/08 18:44時点 | Amazon調べ)
ポチップ
※上のアマプラは4Kリマスター版ではありません
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 上映後のトークイベントが思いがけず面白く、映画と併せてとても良い体験となった
- 実話だと知らずに観ていても驚愕の連続だったが、実話だと知ってさらに驚かされることになった
- 音楽への情熱のお陰で生き延びられたと言ってもいい、あるピアニストの壮絶すぎる人生とは?
あまりにも悲惨な現実がとても美しい映像で描かれており、その対比にも圧倒されてしまった
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『戦場のピアニスト』は圧倒的なリアルを描き出す作品であり、思いがけずその凄まじさを深く知れる機会にも恵まれた鑑賞だった
実に絶妙なタイミングで鑑賞出来た
映画『戦場のピアニスト』は実に素晴らしい作品だったが、その内容に触れる前にまず、私がどのようなスタンスで本作を観たのか、それが誤りであることにどのように気づいたのか、そしてその後どんな意外な出来事が起こったのか、などについて触れておきたいと思う。
あわせて読みたい
【未知】コーダに密着した映画『私だけ聴こえる』は、ろう者と聴者の狭間で居場所がない苦悩を映し出す
あなたは「コーダ」と呼ばれる存在を知っているだろうか?「耳の聴こえない親を持つ、耳が聴こえる子ども」のことであり、映画『私だけ聴こえる』は、まさにそんなコーダが置かれた状況を描くドキュメンタリー映画だ。自身は障害者ではないのに大変な苦労を強いられている現状が理解できる作品
私はいつもの如く、映画『戦場のピアニスト』について鑑賞前にはほとんど何も知らなかった。「名作として名高い映画」「なんとなくロマン・ポランスキーという監督の名前だけ聞き覚えがある」ぐらいしか知識がなく、正直、観始めてようやく「ユダヤ人の話なのか」と理解したくらいだ。そして、そのような状態で観ているので容易に想像がつくとは思うが、私は本作が「実話を基にした物語」であることも知らずにいた。
私がようやくそのことを理解したのは映画のラストだ。本作の主人公はウワディスワフ・シュピルマンというピアニストなのだが、映画の最後に、「彼が2000年7月6日に89歳で亡くなった」という内容の字幕が表示されたのである。これでようやく、主人公が実在の人物だったということを知った。なので私はずっと、フィクションだと思って本作を観ていたというわけだ。
そしてだからこそ、鑑賞後も驚かされてしまったのである。
あわせて読みたい
【誠実】地下鉄サリン事件の被害者が荒木浩に密着。「贖罪」とは何かを考えさせる衝撃の映画:『AGANAI…
私には、「謝罪すること」が「誠実」だという感覚がない。むしろ映画『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』では、「謝罪しない誠実さ」が描かれる。被害者側と加害者側の対話から、「謝罪」「贖罪」の意味と、信じているものを諦めさせることの難しさについて書く
私は本作『戦場のピアニスト』の4Kリマスター版を映画館で観たのだが、私が観た回はたまたまトークイベントもセットになっていた。「上映後にトークイベントがあること」はあらかじめ認識していたものの、いつも詳しいことを調べないので、「トークイベントのゲストとして誰が登壇するのか」は知らなかったのである。
さて映画が終わり、トークイベントが始まった。袖から現れたのは1人の外国人。壇上には、聞き手の分も含め2脚の椅子が用意されていたのだが、その外国人は「座ると言葉が出なくなる」と言って壇上にさえ上がらず、2人して客席ある床に立って話し始めた。驚くべきことに、通訳はいない。何故なら、その外国人は日本語がペラペラなのである。出てきた時、監督のロマン・ポランスキーなのかと一瞬思ったのだが、「こんなに日本語がペラペラだろうか?」とも感じた。そして彼が何者なのかが紹介され、私はとても驚いたのである。
なんと彼は、映画『戦場のピアニスト』の主人公ウワディスワフ・シュピルマンの息子、クリストファー・シュピルマンだというのだ。映画を観終わる直前まで「実話」だとは思っていなかったのだから、「トークイベントに主人公の息子が出てくる」なんてもちろん想像もしていなかったのである。
あわせて読みたい
【映画】『街は誰のもの?』という問いは奥深い。「公共」の意味を考えさせる問題提起に満ちた作品
映画『街は誰のもの?』は、タイトルの通り「街(公共)は誰のものなのか?」を問う作品だ。そしてそのテーマの1つが、無許可で街中に絵を描く「グラフィティ」であることもまた面白い。想像もしなかった問いや価値観に直面させられる、とても興味深い作品である
彼は日本に長く住んでおり、また妻が日本人らしいのだが、しかしそれだけの理由では納得できないほど日本語でのトークが面白い。例えば幼少期の頃のことを問われて、「生まれた時のことはですねぇ、さすがに三島由紀夫のようには覚えていないですが」と、日本人でも知らない人の方が多いかもしれないネタを交えて話したりする(私も知らなかった)。また、そこらの日本人よりよほどちゃんとした日本語を使っており、会話の中で当たり前のように「嬉しい次第です」「神妙な」みたいな言葉を織り交ぜていた。さらに妻のことを「家内」と呼称しており、これはある種の「蔑称」と受け取られる表現だろうが、恐らくそういうことも理解した上で、「外国人が『家内』と口にするするのは面白いんじゃないか」的な発想で使っていたように思う。とにかくその語り口調から、とんでもなく高い知性を感じさせる人だった。
トークイベントの回を狙って観に行ったわけではなく、もちろん登壇者も知らず、そしてだからこそ「実話を基にしている」ことを最後まで知らずに映画を観れ、その上で息子の軽妙なトークも聞けるという、私としてはとても盛りだくさんで実りある映画鑑賞だったのである。
それでは、内容について簡単に説明をした上で、その中身に触れていきたいと思う。
ざっくりと内容紹介
ポーランドに住むウワディスワフ・シュピルマンは、ピアニストとして広く知られる存在だった。普段は、ワルシャワのラジオ局のブース内でピアノ演奏を行い、ラジオを通じてその音色を届けるなど、芸術家として活躍していたのだ。
あわせて読みたい
【天才】諦めない人は何が違う?「努力を努力だと思わない」という才能こそが、未来への道を開く:映画…
どれだけ「天賦の才能」に恵まれていても「努力できる才能」が無ければどこにも辿り着けない。そして「努力できる才能」さえあれば、仮に絶望の淵に立たされることになっても、立ち上がる勇気に変えられる。映画『マイ・バッハ』で知る衝撃の実話
しかし1939年に第二次世界大戦が勃発したことで状況は大きく変わる。演奏中にラジオ局の近くが爆撃に遭うなど、身近な生活にも戦争の陰が押し寄せるようになったのだ。一家はもちろん、逃げることを考えていた。しかしラジオ放送で、「イギリスがナチス・ドイツに宣戦布告した」「フランスも近く参戦するだろう」と伝えられると一転、彼らの気分は変わる。ポーランドに侵攻したドイツ軍を、彼らが抑え込んでくれると期待したからだ。
しかし状況は、望んだ通りには好転しなかった。そして、シュピルマン一家は一層悪い状況に置かれてしまう。居住区の変更を強いられたのだ。ユダヤ人だった一家は、ゲットー(ユダヤ人特別区)に押し込められた。さらにゲットー全体が壁で覆われ、周囲との行き来が制限されてしまう。監視するドイツ兵が気まぐれにユダヤ人を殺すような酷い日常の中でシュピルマンは、今までやったことのない力仕事をこなしながら、どうにか生き延びようと奮闘した。
しかししばらくして、「ユダヤ人が東部に送られる」という噂が流れる。さらに、「ドイツ人のために働いていることを示す雇用証明書」が手に入ればその移送を回避できるかもしれないというのだ。そのため、どうにか書類集めに奔走するのだが、やはりそう簡単ではない。シュピルマン一家も結局、他のユダヤ人と同じく列車にぎゅうぎゅうに押し込まれることになるのだが……。
あわせて読みたい
【実話】「ホロコーストの映画」を観て改めて、「有事だから仕方ない」と言い訳しない人間でありたいと…
ノルウェーの警察が、自国在住のユダヤ人をまとめて船に乗せアウシュビッツへと送った衝撃の実話を元にした映画『ホロコーストの罪人』では、「自分はそんな愚かではない」と楽観してはいられない現実が映し出される。このような悲劇は、現在に至るまで幾度も起こっているのだ
「ピアノに対する情熱」のお陰で、主人公は生き延びることが出来た
実話だとは思わずに観ていたわけだが、ユダヤ人の扱われ方に関しては、「こういうことが現実に起こったのだろう」という捉え方をしていた。本当に酷い世界だと思う。ホロコーストについてはこれまでも、映画や本で様々に触れてきたつもりだが、やはりその現実を知る度に、「本当に起こったことだとは到底信じられない」みたいな感覚を抱かされてしまう。
本作を観て改めて感じたことだが、人間の尊厳を根こそぎ奪い取るような酷い現実は、「その『酷さ』に、当事者が反応できなくなる」という形で浮き彫りになるのだと思い知らされた。彼らの日常では日々狂気的な現実が展開されるのだが、しかしそれらに対してユダヤ人は感情を表出できなくなっていく。眼の前で仲間が殺されても、それが「当たり前のこと」みたいに処理されていくのだ。そしてその事実は観客に、「このような『酷さ』が日常茶飯事なのだ」と伝えることになる。
それに加えて恐らく、「周りと違う反応をすれば、すぐに殺されてしまい得る」という状況でもあったのだと思う。例えば本作では、「私たちはどこに行くんですか?」とドイツ兵に質問しただけの女性が即座に殺されてしまう場面があった。そういう日常を生きていれば、「何にも反応しない」という振る舞いが常態になるのは当然と言えるだろう。
あわせて読みたい
【実話】映画『アウシュビッツ・レポート』が描き出す驚愕の史実。世界はいかにホロコーストを知ったのか?
映画『アウシュヴィッツ・レポート』は、アウシュビッツ強制収容所から抜け出し、詳細な記録と共にホロコーストの実態を世界に明らかにした実話を基にした作品。2人が持ち出した「アウシュビッツ・レポート」こそが、ホロコーストについて世界が知るきっかけだったのであり、そんな史実をまったく知らなかったことにも驚かされた
そんな状況にあって、主人公が生き延びられた理由の1つは、やはり「家族」だったと思う。両親・兄弟姉妹は、かなり厳しい状況に置かれながらも皆で協力し、どうにか助け合って生きていた。間違いなく、「家族がいたから頑張れた」という部分はかなり大きかっただろう。
しかし、どうしてそうなったのかには触れないことにするが、シュピルマンはある時点から家族とは離れ離れになってしまう。そうなって以降は本当に、「生きる希望」を見出すのがかなり難しかったのではないかと思う。もちろん、それでも彼はどうにか生き延びようとあらゆる方策を探る。しかし、家族との再会の望みもほぼ無い状況で、それでも彼が「生きよう」と思えた理由については、正直なところ映画を観ているだけでは上手く捉えきれなかった。
この点に関しては、トークイベントで語られた話を補助線にすると見えてきやすくなるかもしれない。息子のクリストファー氏が、父親について次のように語っていたのである。
父はユダヤ人だったが、宗教的な観点から言えば「ほぼ無宗教」と言っていいと思う。
しかし強いて言うのであれば、「音楽」こそが宗教だった。
そしてそのことを示す次のようなエピソードを話していた。
クリストファー氏は幼い頃、父親にではなく女性教師からピアノを習っていたという。ただし、6~7歳頃の彼には、ピアノはどうにもつまらないものにしか感じられず、いつしかレッスンを止めてしまう。しかしその後14歳頃に、自身の内側から音楽への興味が沸々と湧いてきたのだそうだ。そのため父親に「もう一度ピアノを習いたい」と相談したのだが、その時彼は「ダメだ」と断られてしまったのである。その理由については、あくまでもクリストファー氏の想像ではあるが、「恐らく父親は、『遊びでピアノをやるのはけしからん』と考えていたのではないか」とのことだった。
あわせて読みたい
【あらすじ】映画化の小説『僕は、線を描く』。才能・センスではない「芸術の本質」に砥上裕將が迫る
「水墨画」という、多くの人にとって馴染みが無いだろう芸術を題材に据えた小説『線は、僕を描く』は、青春の葛藤と創作の苦悩を描き出す作品だ。「未経験のど素人である主人公が、巨匠の孫娘と勝負する」という、普通ならあり得ない展開をリアルに感じさせる設定が見事
「ピアノを真剣にやるのであれば、6~7歳から叩き込むしかない。しかしその時点階で諦めてしまったのだから、もうお前はピアノに触れるのに相応しい人間ではないし、だから習わせられない」みたいな発想なのだろう。クリストファー氏は、「別に楽しみのためにピアノを始めてもいいと思うんですけどね」と言っていて、私もその意見には賛成だ。しかし父親にとって音楽は「神聖なもの」であり、息子のようには考えられなかったのだろう。
また、「我が家には『音楽を聴く時は会話をしてはならない』というルールがあった」という話もしていた。そのため、他の子の家に行った際に、音楽をBGMにみんながお喋りしている光景に驚いたという。これもまた、シュピルマンが音楽を神聖視していたことの現れと言えるだろう。
そしてこれこそが、あまりにも厳しい状況に置かれたシュピルマンが「生きる希望」を失わずに済んだ理由だとも感じたのである。
シュピルマンは、寒さで身体が震え、また食料が無く空腹にあえいでいる時でさえ、「ピアノを弾くこと」への情熱を失うことがなかった。作中には、そのように示唆される場面が幾度も映し出される。そしてさらに、これが実話だとはとても信じられないのだが、物語の中で「ピアノを介した驚くべき展開」が待っているのだ。この状況は、まさに「ピアノが弾けたから生き延びられた」と言っていい場面だと思う。
あわせて読みたい
【実話】映画『グリーンブック』は我々に問う。当たり前の行動に「差別意識」が含まれていないか、と
黒人差別が遥かに苛烈だった時代のアメリカにおいて、黒人ピアニストと彼に雇われた白人ドライバーを描く映画『グリーンブック』は、観客に「あなたも同じような振る舞いをしていないか?」と突きつける作品だ。「差別」に限らず、「同時代の『当たり前』に従った行動」について考え直させる1作
冒頭で書いた通り、私は本作が「実話」だとは思っていなかったため、「最終的にこういう展開で物語を閉じるのか」みたいな受け取り方をしていた。つまり、「あり得ないが、まあフィクションなら許容されるだろう」みたいな解釈である。しかしその後、実話を基にしていたことを知り、改めて驚かされてしまった。そんなこと、あり得るんだなぁ。
主人公が体験した、あまりにも絶望的すぎる状況
当たり前だが観客は、シュピルマンが体験したことを飛び飛びで細切れに追っているに過ぎない。しかしそれでも、そのあまりの壮絶さに観ているこっちが絶望してしまうような状況が続いていく。ましてシュピルマンは、このような状況をほぼ5年に渡って経験し続けたのだ。家族と離れ離れになってから数えても2年に及ぶ。最後の最後、本当の意味で一人ぼっちになってしまってからだって、少なくとも2週間以上はその状態が継続していたはずだ。その凄まじさには、やはり圧倒させられてしまう。
あわせて読みたい
【憤り】世界最強米海軍4人VS数百人のタリバン兵。死線を脱しただ1人生還を果たした奇跡の実話:『アフ…
アフガニスタンの山中で遭遇した羊飼いを見逃したことで、数百人のタリバン兵と死闘を繰り広げる羽目に陥った米軍最強部隊に所属する4人。奇跡的に生き残り生還を果たした著者が記す『アフガン、たった一人の生還』は、とても実話とは信じられない凄まじさに満ちている
クリストファー氏はトークイベントの中で、「ほぼ5年に渡って『自分がいつ死ぬか分からない状況』に置かれ続けるというのは、私には想像が及ばない」と話していたが、本当にその通りだなと思う。父親は生前、戦時中のことについてほとんど話すことがなかったそうだ。しかし、80歳でピアニストをやめた後は時間と気持ちに余裕が出たのか、ぽつりぽつりと話をするようになったという。そしてその中で父親が、「僕もみんなと一緒に死ぬべきだった」と口にしたことを覚えていると言っていた。もちろん、それが本心だったのかは分からない。ただ、映画を観ているだけの観客でさえ「死んだ方がマシ」だと思えるような状況だったのだから、当事者がそう感じたとしても不思議ではないだろう。
さて、本作中のいくつかの描写について、「実話を基にしている」という事実を知って納得できたものがある。1つは、ゲットーに押し込められたシュピルマンが、ユダヤ人が集うレストランでピアノを弾く仕事をしていた時の出来事だ。彼は店内にいた2人組の男性客から、「ピアノを弾くのを止めてくれ」と頼まれる。何故なのか見てみると、2人はテーブルクロスをめくり、木材の部分に複数の金貨を落として音を聴いていたのだ。恐らく、本物の金貨なのか音で確かめていたのだと思う。
あわせて読みたい
【日本】原発再稼働が進むが、その安全性は?樋口英明の画期的判決とソーラーシェアリングを知る:映画…
映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』では、大飯原発の運転差し止め判決を下した裁判長による画期的な「樋口理論」の説明に重点が置かれる。「原発の耐震性」に関して知らないことが満載で、実に興味深かった。また、農家が発案した「ソーラーシェアリング」という新たな発電方法も注目である
このシーンを観た時に私は、「凄いリアリティの描き方だな」と感じた。「金貨の音を聴き分けるためにピアノ演奏を止めさせる」という描写は、想像ではなかなか生み出せない感じがしたからだ。だから鑑賞後に、本作が実話を基にしていると知り、このシーンにも納得できたのである。恐らく、彼が実際に経験したことなのだろう。
同じようなことは、別のシーンでも感じた。例えば、映画冒頭の「お金のことで家族がちょっと揉める場面」でのこと。彼らの手元には今、5003ズウォティスのお金がある(ネットで調べると、ポーランドの通貨の単位は「ズウォティ」らしいが、本作の字幕では「ズウォティス」となっていた気がする)。しかし当局の決定により、ユダヤ人は2000ズウォティスしか持てないという制約があったのだ。そのため、「残り3003ズウォティスをどこに隠すのか」という話になる。そしてこちらについても、「5003ズウォティス」という中途半端な金額に、リアリティを感じたというわけだ。
どうやって撮っているのかまったく分からないシーン
本作のある場面では、「戦争によって壊滅的な状態になったワルシャワの街」が映し出される。しかしこのシーン、どのように撮影したのか、私にはまったく分からなかった。
あわせて読みたい
【感想】映画『野火』は、戦争の”虚しさ”をリアルに映し出す、後世に受け継がれるべき作品だ
「戦争の悲惨さ」は様々な形で描かれ、受け継がれてきたが、「戦争の虚しさ」を知る機会はなかなかない。映画『野火』は、第二次世界大戦中のフィリピンを舞台に、「敵が存在しない戦場で”人間の形”を保つ困難さ」を描き出す、「虚しさ」だけで構成された作品だ
映画を観ていない人にはなかなかイメージしにくいと思うので、「戦場のピアニスト」で画像検索してほしい(このブログは著作権侵害にならないように運営しているので、画像そのものは載せない)。「全体的に暗青色で、構図の中央に消失点がある」という廃墟みたいな場面がそれだ。奥の奥まで、どこまでもひたすらに「壊れた家屋」が連なっているような感じで、セットだとしたらちょっと大規模すぎるように思う。
ネットでも調べてみたのだが、正直良くわからなかった。「CGで作った」「戦争で実際に破壊された街を探し出して撮った」などいくつかの説がヒットしたのだが、どの情報も決定打に欠けるような気がする。真相を知っている方は是非教えてほしい。
どう撮られたのかはよく分からなかったものの、この「廃墟のシーン」には、「『生』に繋がりそうなものが一切無い場所で、『ピアニスト』という属性以外に何も持たない男が生き延びなければならない」という絶望を一瞬で伝える破壊的な効果があったと思う。全体の中でも、特に印象的なシーンだった。そしてこのシーンの後もなお、「ただ『生きる』ためだけに生きている」みたいな、「身体だけがかろうじて生存している」というような凄まじい状況が続くのである。
どこかで気持ちが切れてしまってもおかしくなかったはずだと思う。私なら、とっくに諦めてしまっていただろう。しかしそういう状況でも、どうにか「生き延びるための希望」を手繰り寄せそうとする主人公の姿には圧倒されたし、改めてこれが「現実に起こったこと」だという事実に驚愕させられてしまった。
あわせて読みたい
【絶望】「人生上手くいかない」と感じる時、彼を思い出してほしい。壮絶な過去を背負って生きる彼を:…
「北九州連続監禁殺人事件」という、マスコミも報道規制するほどの残虐事件。その「主犯の息子」として生きざるを得なかった男の壮絶な人生。「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーが『人殺しの息子と呼ばれて』で改めて取り上げた「真摯な男」の生き様と覚悟
本作は「4Kリマスター版」での上映であり、専用のHPが作られている。そしてそこでは、「監督のロマン・ポランスキーも幼い頃にゲットーで過ごした経験があり、さらに母親を収容所で亡くしている」という事実が紹介されていた。このこともまた、本作のリアリティに大きく寄与していると言えるだろう。やはり、経験した者のの言葉や記憶に勝るものはないからだ。そして、そのような「残酷さ」が、とても美しい映像で乗せて描かれていることもまた、強い皮肉を感じさせる点だと思う。
映画化に至るまでの経緯
クリストファー氏は子どもの頃、シュピルマンのことを「つまらない父親」と感じていたそうだ。しかし今なら、「長く後遺症に苦しんでいた」と理解できるという。神経質でよく悪夢を観ていたらしく、戦争が終わってから大分経っても、そのような状態に変わりはなかったそうだ。
あわせて読みたい
【誠実】想像を超える辛い経験を言葉にするのは不可能だ。それを分かってなお筆を執った作家の震災記:…
旅行者として東日本大震災で被災した小説家・彩瀬まるは、『暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出』でその体験を語る。「そんなこと、言わなければ分からない」と感じるような感情も包み隠さず記し、「絶望的な伝わらなさ」を感じながらも伝えようと奮闘する1冊
そんな父親が1946年に、自身の経験を元に本を書いた。クリストファー氏はトークイベントの中でそのタイトルを『ある都市の死』と言っていたが、検索しても何もヒットしないので、恐らく「ポーランド語のタイトルを邦訳するとそのような意味になる」ということなのだと思う。この本は、ポーランドでベストセラーになったそうだ。そして映画『戦場のピアニスト』は、その本の記述をベースにして作られているというわけだ。
その後1998年にドイツでの出版が実現した。クリストファー氏の弟が奔走し、ようやく出版にこぎ着けたのだという。その際、「このような本がどうして今まで埋もれていたんだ」という声が多数上がったそうだ。弟は、「共産主義が父親の本を潰したからだ」と言っていたそうだが、クリストファー氏はこの点について、「恐らく単に『本を売るための宣伝文句』に過ぎず、正しい理解ではないだろう」と話していた。ドイツでの出版に50年以上も掛かった理由については結局よく分からないようだが、理由の1つとして、「父親がそのことを望んでいなかったのではないか」とクリストファー氏は考えているという。
父親は恐らく、「『自分が経験したこと』を頭の中から出し切りたい」という思いから本を執筆したはずだ。しかしそうやって出し切った後はむしろ、「自身が出版した本に関わることで、辛い記憶が蘇ってくる可能性」を恐れたのではないか。クリストファー氏はそのように話していた。その傍証になるのかは分からないが、自宅の本棚には父親が出版した本は並んでいなかったという。また、クリストファー氏は12歳の時に父親の本を見つけたのだが、なんと屋根裏部屋にあったそうだ。
あわせて読みたい
【おすすめ】柚月裕子『慈雨』は、「守るべきもの」と「過去の過ち」の狭間の葛藤から「正義」を考える小説
柚月裕子の小説『慈雨』は、「文庫X」として知られる『殺人犯はそこにいる』で扱われている事件を下敷きにしていると思われる。主人公の元刑事が「16年前に犯してしまったかもしれない過ち」について抱き続けている葛藤にいかに向き合い、どう決断し行動に移すのかの物語
さてそのようにして、長らく絶版だった本がドイツで発売されたわけだが、そのお陰で、改めてシュピルマンの物語に光が当たることになったのである。そして、恐らくロマン・ポランスキーは復刊されたその本を読んだのだろう、1999年に監督がシュピルマンに会いに来て、そこで映画化の話が決まったそうだ。
クリストファー氏曰く、その時の話し合いの中で、「主演俳優が決まったら会わせます」という約束が交わされていたという。しかしその後、父親の体調が思いがけず急変し、そのまま入院することになった。病院からは「心配ないです」と連絡をもらっていたのだが、容態が急変、入院から1週間後ぐらいに亡くなってしまったそうだ。父親は結局、完成した映画を観ていないどころか、主演俳優が誰なのかも知らないままこの世を去ったことになる。
その主演俳優の演技を観たクリストファー氏は、「懐かしい気分がした」という感想を抱いたそうだ。父親は背が低く、一方主演俳優はとても高かったので、見た目だけで言えばあまり似ていないという。それでも、仕草や雰囲気に父親を感じさせるものがあったそうだ。ただ先程書いた通り、主演俳優は結局父親と会ったことがないわけで、クリストファー氏は「ただの偶然だろう」と言っていた。いずれにせよ、実の息子にそう思わせる演技をしているというのは、凄いことだと思う。
あわせて読みたい
【純真】ゲイが犯罪だった時代が舞台の映画『大いなる自由』は、刑務所内での極深な人間ドラマを描く
男性同士の恋愛が犯罪であり、ゲイの男性が刑法175条を理由に逮捕されてしまう時代のドイツを描いた映画『大いなる自由』は、確かに同性愛の物語なのだが、実はそこに本質はない。物語の本質は、まさにタイトルにある通り「自由」であり、ラストシーンで突きつけられるその深い問いかけには衝撃を受けるだろう
出演:エイドリアン・ブロディ, 出演:フランク・フィンレイ, 出演:モーリン・リップマン, 出演:エミリア・フォックス, 出演:エド・ストッパード, 出演:ジュリア・レイナー, 監督:ロマン・ポランスキー, プロデュース:ロマン・ポランスキー, プロデュース:ティモシー・バーリル, Writer:ロナルド・ハーウッド
¥400 (2024/06/08 18:46時点 | Amazon調べ)
ポチップ
あわせて読みたい
【全作品視聴済】私が観てきた映画(フィクション)を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が観てきた映画(フィクション)を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非映画選びの参考にして下さい。
最後に
あわせて読みたい
【狂気】ISISから孫を取り戻せ!映画『”敵”の子どもたち』が描くシリアの凄絶な現実
映画『”敵”の子どもたち』では、私がまったく知らなかった凄まじい現実が描かれる。イスラム過激派「ISIS」に望んで参加した女性の子ども7人を、シリアから救出するために奮闘する祖父パトリシオの物語であり、その最大の障壁がなんと自国のスウェーデン政府なのだる。目眩がするような、イカれた現実がここにある
クリストファー氏が日本にやってくることになったのも、大元を辿れば父親の影響が大きいと言える。
ピアニストである父親は、日本の「歌謡曲」のような一般向けの作曲も行っており、ポーランド国内ではヒットを飛ばす作曲家として知られていたそうだ。そのため、クリストファー氏は子どもの頃、自己紹介をして名前が知られると「あの曲の息子だ」という反応ばかり経験したという(「シュピルマン」というのがポーランド国内でどの程度珍しい苗字なのかは分からないが)。そのことに嫌気が差したことが、ポーランドを出る決断をした理由の1つだと語っていた。
あわせて読みたい
【歴史】『大地の子』を凌駕する中国残留孤児の現実。中国から奇跡的に”帰国”した父を城戸久枝が描く:…
文化大革命の最中、国交が成立していなかった中国から自力で帰国した中国残留孤児がいた。その娘である城戸久枝が著した『あの戦争から遠く離れて』は、父の特異な体験を起点に「中国残留孤児」の問題に分け入り、歴史の大きなうねりを個人史として体感させてくれる作品だ
その後、イギリス・タイ・アメリカなどを経て日本にやってきた彼は、以降住み続けることになる。しかしその間に、映画『戦場のピアニスト』が公開され、世界的な評価を得た。それ自体はとても良いことなのだが、結局クリストファー氏は、「『戦場のピアニスト』の息子」という風に見られるようになってしまう。そういう視線が嫌でポーランドを出たのに、「父親がまた僕のことを追いかけてきて、逃げ場がない」と話していたのである。
こんな感じで最後までトークイベントは面白かったし、もちろん映画も素晴らしかった。実に素晴らしい鑑賞体験だったと言える。
あわせて読みたい
Kindle本出版しました!『天才・アインシュタインの生涯・功績をベースに、簡単過ぎない面白科学雑学を…
Kindleで本を出版しました。タイトルは、『天才・アインシュタインの生涯・功績をベースに、簡単過ぎない面白科学雑学を分かりやすく書いた本:相対性理論も宇宙論も量子論も』です。科学や科学者に関する、文系の人でも読んでもらえる作品に仕上げました。そんな自著について紹介をしています。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【正義】ナン・ゴールディンの”覚悟”を映し出す映画『美と殺戮のすべて』が描く衝撃の薬害事件
映画『美と殺戮のすべて』は、写真家ナン・ゴールディンの凄まじい闘いが映し出されるドキュメンタリー映画である。ターゲットとなるのは、美術界にその名を轟かすサックラー家。なんと、彼らが創業した製薬会社で製造された処方薬によって、アメリカでは既に50万人が死亡しているのだ。そんな異次元の薬害事件が扱われる驚くべき作品
あわせて読みたい
【衝撃】EUの難民問題の狂気的縮図!ポーランド・ベラルーシ国境での、国による非人道的対応:映画『人…
上映に際し政府から妨害を受けたという映画『人間の境界』は、ポーランド・ベラルーシ国境で起こっていた凄まじい現実が描かれている。「両国間で中東からの難民を押し付け合う」という醜悪さは見るに絶えないが、そのような状況下でも「可能な範囲でどうにか人助けをしたい」と考える者たちの奮闘には救われる思いがした
あわせて読みたい
【現在】猟師になった東出昌大を追う映画『WILL』は予想外に良かった。山小屋での生活は衝撃だ(監督:…
猟師・東出昌大に密着した映画『WILL』は、思いがけず面白い作品だった。正直、東出昌大にはまったく興味がなく、本作も期待せず観たのだが、異常なほどフラットなスタンス故に周囲にいる人間を否応なく惹きつける「人間力」や、狩猟の世界が突きつける「生と死」というテーマなど実に興味深い。本当に観て良かったなと思う
あわせて読みたい
【憧憬】「フランク・ザッパ」を知らずに映画『ZAPPA』を観て、「この生き様は最高」だと感じた
「フランク・ザッパ」がミュージシャンであることさえ禄に知らない状態で私が映画『ZAPPA』を観た私は、そのあまりに特異なスタンス・生き様にある種の憧憬を抱かされた。貫きたいと思う強い欲求を真っ直ぐ突き進んだそのシンプルな人生に、とにかくグッときたのだ。さらに、こんな凄い人物を知らなかった自分にも驚かされてしまった
あわせて読みたい
【赦し】映画『過去負う者』が描く「元犯罪者の更生」から、社会による排除が再犯を生む現実を知る
映画『過去負う者』は、冒頭で「フィクション」だと明示されるにも拘らず、観ながら何度も「ドキュメンタリーだっけ?」と感じさせられるという、実に特異な体験をさせられた作品である。実在する「元犯罪者の更生を支援する団体」を舞台にした物語で、当然それは、私たち一般市民にも無関係ではない話なのだ
あわせて読みたい
【挑戦】映画『燃えあがる女性記者たち』が描く、インドカースト最下位・ダリットの女性による報道
映画『燃えあがる女性記者たち』は、インドで「カースト外の不可触民」として扱われるダリットの女性たちが立ち上げた新聞社「カバル・ラハリヤ」を取り上げる。自身の境遇に抗って、辛い状況にいる人の声を届けたり権力者を糾弾したりする彼女たちの奮闘ぶりが、インドの民主主義を変革させるかもしれない
あわせて読みたい
【日本】原発再稼働が進むが、その安全性は?樋口英明の画期的判決とソーラーシェアリングを知る:映画…
映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』では、大飯原発の運転差し止め判決を下した裁判長による画期的な「樋口理論」の説明に重点が置かれる。「原発の耐震性」に関して知らないことが満載で、実に興味深かった。また、農家が発案した「ソーラーシェアリング」という新たな発電方法も注目である
あわせて読みたい
【価値】レコードなどの「フィジカルメディア」が復権する今、映画『アザー・ミュージック』は必見だ
2016年に閉店した伝説のレコード店に密着するドキュメンタリー映画『アザー・ミュージック』は、「フィジカルメディアの衰退」を象徴的に映し出す。ただ私は、「デジタル的なもの」に駆逐されていく世の中において、「『制約』にこそ価値がある」と考えているのだが、若者の意識も実は「制約」に向き始めているのではないかとも思っている
あわせて読みたい
【衝撃】ミキ・デザキが映画『主戦場』で示す「慰安婦問題」の実相。歴史修正主義者の発言がヤバすぎ
「慰安婦問題」に真正面から取り組んだ映画『主戦場』は、「『慰安婦問題』の根幹はどこにあるのか?」というその複雑さに焦点を当てていく。この記事では、本作で映し出された様々な情報を元に「慰安婦問題」について整理したものの、結局のところ「解決不可能な問題である」という結論に行き着いてしまった
あわせて読みたい
【天才】映画『ツィゴイネルワイゼン』(鈴木清順)は意味不明だが、大楠道代のトークが面白かった
鈴木清順監督作『ツィゴイネルワイゼン』は、最初から最後まで何を描いているのかさっぱり分からない映画だった。しかし、出演者の1人で、上映後のトークイベントにも登壇した大楠道代でさえ「よく分からない」と言っていたのだから、それでいいのだろう。意味不明なのに、どこか惹きつけられてしまう、実に変な映画だった
あわせて読みたい
【怖い?】映画『アメリ』(オドレイ・トトゥ主演)はとても奇妙だが、なぜ人気かは分かる気がする
名作として知られているものの観る機会の無かった映画『アメリ』は、とても素敵な作品でした。「オシャレ映画」という印象を持っていて、それは確かにその通りなのですが、それ以上に私は「主人公・アメリの奇妙さ」に惹かれたのです。普通には成立しないだろう展開を「アメリだから」という謎の説得力でぶち抜く展開が素敵でした
あわせて読みたい
【狂気】ISISから孫を取り戻せ!映画『”敵”の子どもたち』が描くシリアの凄絶な現実
映画『”敵”の子どもたち』では、私がまったく知らなかった凄まじい現実が描かれる。イスラム過激派「ISIS」に望んで参加した女性の子ども7人を、シリアから救出するために奮闘する祖父パトリシオの物語であり、その最大の障壁がなんと自国のスウェーデン政府なのだる。目眩がするような、イカれた現実がここにある
あわせて読みたい
【情熱】選挙のおもしろ候補者含め”全員取材”をマイルールにする畠山理仁の異常な日常を描く映画:『NO …
選挙に取り憑かれた男・畠山理仁を追うドキュメンタリー映画『NO 選挙, NO LIFE』は、「平均睡眠時間2時間」の生活を長年続ける”イカれた”ライターの「選挙愛」が滲み出る作品だ。「候補者全員を取材しなければ記事にはしない」という厳しすぎるマイルールと、彼が惹かれる「泡沫候補」たちが実に興味深い
あわせて読みたい
【感想】映画『レオン』は、殺し屋マチルダを演じたナタリー・ポートマンがとにかく素晴らしい(監督:…
映画『レオン』は、その性質ゆえに物議を醸す作品であることも理解できるが、私はやはりナタリー・ポートマンに圧倒されてしまった。絶望的な事態に巻き込まれたマチルダの葛藤と、そんな少女と共に生きることになった中年男性レオンとの関係性がとても見事に映し出されている。実に素敵な作品だった
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『悪は存在しない』(濱口竜介)の衝撃のラストの解釈と、タイトルが示唆する現実(主…
映画『悪は存在しない』(濱口竜介監督)は、観る者すべてを困惑に叩き落とす衝撃のラストに、鑑賞直後は迷子のような状態になってしまうだろう。しかし、作中で提示される様々な要素を紐解き、私なりの解釈に辿り着いた。全編に渡り『悪は存在しない』というタイトルを強く意識させられる、脚本・映像も見事な作品だ
あわせて読みたい
【あらすじ】原爆を作った人の後悔・葛藤を描く映画『オッペンハイマー』のための予習と評価(クリスト…
クリストファー・ノーラン監督作品『オッペンハイマー』は、原爆開発を主導した人物の葛藤・苦悩を複雑に描き出す作品だ。人間が持つ「多面性」を様々な方向から捉えようとする作品であり、受け取り方は人それぞれ異なるだろう。鑑賞前に知っておいた方がいい知識についてまとめたので、参考にしてほしい
あわせて読みたい
【無謀】映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』は、脱北ルートに撮影隊が同行する衝撃のドキュメンタリー
北朝鮮からの脱北者に同行し撮影を行う衝撃のドキュメンタリー映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』は、再現映像を一切使用していない衝撃的な作品だ。危険と隣り合わせの脱北の道程にカメラもついて回り、北朝鮮の厳しい現状と共に、脱北者が置かれた凄まじい状況を映し出す内容に驚かされてしまった
あわせて読みたい
【衝撃】映画『JFK/新証言』(オリヴァー・ストーン)が描く、ケネディ暗殺の”知られざる陰謀”
映画『JFK/新証言』は、「非公開とされてきた『ケネディ暗殺に関する資料』が公開されたことで明らかになった様々な事実を基に、ケネディ暗殺事件の違和感を積み上げていく作品だ。「明確な証拠によって仮説を検証していく」というスタイルが明快であり、信頼度の高い調査と言えるのではないかと思う
あわせて読みたい
【感想】映画『ローマの休日』はアン王女を演じるオードリー・ヘプバーンの美しさが際立つ名作
オードリー・ヘプバーン主演映画『ローマの休日』には驚かされた。現代の視点で観ても十分に通用する作品だからだ。まさに「不朽の名作」と言っていいだろう。シンプルな設定と王道の展開、そしてオードリー・ヘプバーンの時代を超える美しさが相まって、普通ならまずあり得ない見事なコラボレーションが見事に実現している
あわせて読みたい
【感想】関東大震災前後を描く映画『福田村事件』(森達也)は、社会が孕む「思考停止」と「差別問題」…
森達也監督初の劇映画である『福田村事件』は、100年前の関東大震災直後に起こった「デマを起点とする悲劇」が扱われる作品だ。しかし、そんな作品全体が伝えるメッセージは、「100年前よりも現代の方がよりヤバい」だと私は感じた。SNS時代だからこそ意識すべき問題の詰まった、挑発的な作品である
あわせて読みたい
【現実】我々が食べてる魚は奴隷船が獲ったもの?映画『ゴースト・フリート』が描く驚くべき漁業の問題
私たちは、「奴隷」が獲った魚を食べているのかもしれない。映画『ゴースト・フリート』が描くのは、「拉致され、数十年も遠洋船上に隔離されながら漁をさせられている奴隷」の存在だ。本作は、その信じがたい現実に挑む女性活動家を追うドキュメンタリー映画であり、まさに世界が関心を持つべき問題だと思う
あわせて読みたい
【衝撃】ウクライナでのホロコーストを描く映画『バビ・ヤール』は、集めた素材映像が凄まじすぎる
ソ連生まれウクライナ育ちの映画監督セルゲイ・ロズニツァが、「過去映像」を繋ぎ合わせる形で作り上げた映画『バビ・ヤール』は、「単一のホロコーストで最大の犠牲者を出した」として知られる「バビ・ヤール大虐殺」を描き出す。ウクライナ市民も加担した、そのあまりに悲惨な歴史の真実とは?
あわせて読みたい
【映画】『キャスティング・ディレクター』の歴史を作り、ハリウッド映画俳優の運命を変えた女性の奮闘
映画『キャスティング・ディレクター』は、ハリウッドで伝説とされるマリオン・ドハティを描き出すドキュメンタリー。「神業」「芸術」とも評される配役を行ってきたにも拘わらず、長く評価されずにいた彼女の不遇の歴史や、再び「キャスティングの暗黒期」に入ってしまった現在のハリウッドなどを切り取っていく
あわせて読みたい
【狂気】ホロコーストはなぜ起きた?映画『ヒトラーのための虐殺会議』が描くヴァンゼー会議の真実
映画『ヒトラーのための虐殺会議』は、ホロコーストの計画について話し合われた「ヴァンゼー会議」を描き出す作品だ。唯一1部だけ残った議事録を基に作られた本作は、「ユダヤ人虐殺」をイベントの準備でもしているかのように「理性的」に計画する様を映し出す。その「狂気」に驚かされてしまった。
あわせて読みたい
【驚愕】ベリングキャットの調査報道がプーチンを追い詰める。映画『ナワリヌイ』が示す暗殺未遂の真実
弁護士であり、登録者数640万人を超えるYouTuberでもあるアレクセイ・ナワリヌイは、プーチンに対抗して大統領選挙に出馬しようとしたせいで暗殺されかかった。その実行犯を特定する調査をベリングキャットと共に行った記録映画『ナワリヌイ』は、現実とは思えないあまりの衝撃に満ちている
あわせて読みたい
【驚愕】本屋大賞受賞作『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)は凄まじい。戦場は人間を”怪物”にする
デビュー作で本屋大賞を受賞した『同志少女よ、敵を撃て』(逢坂冬馬)は、デビュー作であることを抜きにしても凄まじすぎる、規格外の小説だった。ソ連に実在した「女性狙撃兵」の視点から「独ソ戦」を描く物語は、生死の境でギリギリの葛藤や決断に直面する女性たちのとんでもない生き様を活写する
あわせて読みたい
【衝撃】これが実話とは。映画『ウーマン・トーキング』が描く、性被害を受けた女性たちの凄まじい決断
映画『ウーマン・トーキング』の驚くべき点は、実話を基にしているという点だ。しかもその事件が起こったのは2000年代に入ってから。とある宗教コミュニティ内で起こった連続レイプ事件を機に村の女性たちがある決断を下す物語であり、そこに至るまでの「ある種異様な話し合い」が丁寧に描かれていく
あわせて読みたい
【実話】映画『グリーンブック』は我々に問う。当たり前の行動に「差別意識」が含まれていないか、と
黒人差別が遥かに苛烈だった時代のアメリカにおいて、黒人ピアニストと彼に雇われた白人ドライバーを描く映画『グリーンブック』は、観客に「あなたも同じような振る舞いをしていないか?」と突きつける作品だ。「差別」に限らず、「同時代の『当たり前』に従った行動」について考え直させる1作
あわせて読みたい
【純真】ゲイが犯罪だった時代が舞台の映画『大いなる自由』は、刑務所内での極深な人間ドラマを描く
男性同士の恋愛が犯罪であり、ゲイの男性が刑法175条を理由に逮捕されてしまう時代のドイツを描いた映画『大いなる自由』は、確かに同性愛の物語なのだが、実はそこに本質はない。物語の本質は、まさにタイトルにある通り「自由」であり、ラストシーンで突きつけられるその深い問いかけには衝撃を受けるだろう
あわせて読みたい
【傑物】フランスに最も愛された政治家シモーヌ・ヴェイユの、強制収容所から国連までの凄絶な歩み:映…
「フランスに最も愛された政治家」と評されるシモーヌ・ヴェイユ。映画『シモーヌ』は、そんな彼女が強制収容所を生き延び、後に旧弊な社会を変革したその凄まじい功績を描き出す作品だ。「強制収容所からの生還が失敗に思える」とさえ感じたという戦後のフランスの中で、彼女はいかに革新的な歩みを続けたのか
あわせて読みたい
【あらすじ】アリ・アスター監督映画『ミッドサマー』は、気持ち悪さと怖さが詰まった超狂ホラーだった
「夏至の日に映画館で上映する」という企画でようやく観ることが叶った映画『ミッドサマー』は、「私がなんとなく想像していたのとはまるで異なる『ヤバさ』」に溢れる作品だった。いい知れぬ「狂気」が随所で描かれるが、同時に、「ある意味で合理的と言えなくもない」と感じさせられる怖さもある
あわせて読みたい
【驚異】映画『RRR』『バーフバリ』は「観るエナジードリンク」だ!これ程の作品にはなかなか出会えないぞ
2022年に劇場公開されるや、そのあまりの面白さから爆発的人気を博し、現在に至るまでロングラン上映が続いている『RRR』と、同監督作の『バーフバリ』は、大げさではなく「全人類にオススメ」と言える超絶的な傑作だ。まだ観ていない人がいるなら、是非観てほしい!
あわせて読みたい
【実話】ポートアーサー銃乱射事件を扱う映画『ニトラム』が示す、犯罪への傾倒に抗えない人生の不条理
オーストラリアで実際に起こった銃乱射事件の犯人の生い立ちを描く映画『ニトラム/NITRAM』は、「頼むから何も起こらないでくれ」と願ってしまうほどの異様な不穏さに満ちている。「社会に順応できない人間」を社会がどう受け入れるべきかについて改めて考えさせる作品だ
あわせて読みたい
【実話】ソ連の衝撃の事実を隠蔽する記者と暴く記者。映画『赤い闇』が描くジャーナリズムの役割と実態
ソ連の「闇」を暴いた名もなき記者の実話を描いた映画『赤い闇』は、「メディアの存在意義」と「メディアとの接し方」を問いかける作品だ。「真実」を届ける「社会の公器」であるべきメディアは、容易に腐敗し得る。情報の受け手である私たちの意識も改めなければならない
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『モーリタニアン 黒塗りの記録』で描かれる、グアンタナモ”刑務所”の衝撃の実話は必見
ベネディクト・カンバーバッチが制作を熱望した衝撃の映画『モーリタニアン 黒塗りの記録』は、アメリカの信じがたい実話を基にしている。「9.11の首謀者」として不当に拘束され続けた男を「救おうとする者」と「追い詰めようとする者」の奮闘が、「アメリカの闇」を暴き出す
あわせて読みたい
【執念】「桶川ストーカー事件」で警察とマスコミの怠慢を暴き、社会を動かした清水潔の凄まじい取材:…
『殺人犯はそこにいる』(文庫X)で凄まじい巨悪を暴いた清水潔は、それよりずっと以前、週刊誌記者時代にも「桶川ストーカー殺人事件」で壮絶な取材を行っていた。著者の奮闘を契機に「ストーカー規制法」が制定されたほどの事件は、何故起こり、どんな問題を喚起したのか
あわせて読みたい
【あらすじ】蝦夷地の歴史と英雄・阿弖流為を描く高橋克彦の超大作小説『火怨』は全人類必読の超傑作
大げさではなく、「死ぬまでに絶対に読んでほしい1冊」としてお勧めしたい高橋克彦『火怨』は凄まじい小説だ。歴史が苦手で嫌いな私でも、上下1000ページの物語を一気読みだった。人間が人間として生きていく上で大事なものが詰まった、矜持と信念に溢れた物語に酔いしれてほしい
あわせて読みたい
【驚愕】一般人スパイが北朝鮮に潜入する映画『THE MOLE』はとてつもないドキュメンタリー映画
映画『THE MOLE』は、「ホントにドキュメンタリーなのか?」と疑いたくなるような衝撃映像満載の作品だ。「『元料理人のデンマーク人』が勝手に北朝鮮に潜入する」というスタートも謎なら、諜報経験も軍属経験もない男が北朝鮮の秘密をバンバン解き明かす展開も謎すぎる。ヤバい
あわせて読みたい
【欠落】映画『オードリー・ヘプバーン』が映し出す大スターの生き方。晩年に至るまで生涯抱いた悲しみ…
映画『オードリー・ヘプバーン』は、世界的大スターの知られざる素顔を切り取るドキュメンタリーだ。戦争による壮絶な飢え、父親の失踪、消えぬ孤独感、偶然がもたらした映画『ローマの休日』のオーディション、ユニセフでの活動など、様々な証言を元に稀代の天才を描き出す
あわせて読みたい
【差別】映画『チェチェンへようこそ ゲイの粛清』の衝撃。プーチンが支持する国の蛮行・LGBT狩り
プーチン大統領の後ろ盾を得て独裁を維持しているチェチェン共和国。その国で「ゲイ狩り」と呼ぶしかない異常事態が継続している。映画『チェチェンへようこそ ゲイの粛清』は、そんな現実を命がけで映し出し、「現代版ホロコースト」に立ち向かう支援団体の奮闘も描く作品
あわせて読みたい
【あらすじ】死刑囚を救い出す実話を基にした映画『黒い司法』が指摘する、死刑制度の問題と黒人差別の現実
アメリカで死刑囚の支援を行う団体を立ち上げた若者の実話を基にした映画『黒い司法 0%からの奇跡』は、「死刑制度」の存在価値について考えさせる。上映後のトークイベントで、アメリカにおける「死刑制度」と「黒人差別」の結びつきを知り、一層驚かされた
あわせて読みたい
【悲劇】アメリカの暗黒の歴史である奴隷制度の現実を、元奴隷の黒人女性自ら赤裸々に語る衝撃:『ある…
生まれながらに「奴隷」だった黒人女性が、多くの人の協力を得て自由を手にし、後に「奴隷制度」について書いたのが『ある奴隷少女に起こった出来事』。長らく「白人が書いた小説」と思われていたが、事実だと証明され、欧米で大ベストセラーとなった古典作品が示す「奴隷制度の残酷さ」
あわせて読みたい
【実話】台湾のろう学校のいじめ・性的虐待事件を描く映画『無聲』が問う、あまりに悲しい現実
台湾のろう学校で実際に起こったいじめ・性的虐待事件を基に作られた映画『無聲』は、健常者の世界に刃を突きつける物語だ。これが実話だという事実に驚かされる。いじめ・性的虐待が物語の「大前提」でしかないという衝撃と、「性的虐待の方がマシ」という選択を躊躇せず行う少女のあまりの絶望を描き出す
あわせて読みたい
【証言】ナチスドイツでヒトラーに次ぐナンバー2だったゲッベルス。その秘書だった女性が歴史を語る映画…
ナチスドイツナンバー2だった宣伝大臣ゲッベルス。その秘書だったブルンヒルデ・ポムゼルが103歳の時にカメラの前で当時を語った映画『ゲッベルスと私』には、「愚かなことをしたが、避け難かった」という彼女の悔恨と教訓が含まれている。私たちは彼女の言葉を真摯に受け止めなければならない
あわせて読みたい
【衝撃】映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』凄い。ラストの衝撃、ビョークの演技、”愛”とは呼びたくな…
言わずとしれた名作映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を、ほぼ予備知識ゼロのまま劇場で観た。とんでもない映画だった。苦手なミュージカルシーンが効果的だと感じられたこと、「最低最悪のラストは回避できたはずだ」という想い、そして「セルマのような人こそ報われてほしい」という祈り
あわせて読みたい
【憤り】世界最強米海軍4人VS数百人のタリバン兵。死線を脱しただ1人生還を果たした奇跡の実話:『アフ…
アフガニスタンの山中で遭遇した羊飼いを見逃したことで、数百人のタリバン兵と死闘を繰り広げる羽目に陥った米軍最強部隊に所属する4人。奇跡的に生き残り生還を果たした著者が記す『アフガン、たった一人の生還』は、とても実話とは信じられない凄まじさに満ちている
あわせて読みたい
【歴史】『大地の子』を凌駕する中国残留孤児の現実。中国から奇跡的に”帰国”した父を城戸久枝が描く:…
文化大革命の最中、国交が成立していなかった中国から自力で帰国した中国残留孤児がいた。その娘である城戸久枝が著した『あの戦争から遠く離れて』は、父の特異な体験を起点に「中国残留孤児」の問題に分け入り、歴史の大きなうねりを個人史として体感させてくれる作品だ
あわせて読みたい
【アメリカ】長崎の「原爆ドーム」はなぜ残らなかった?爆心地にあった「浦上天主堂」の数奇な歴史:『…
原爆投下で半壊し、廃墟と化したキリスト教の大聖堂「浦上天主堂」。しかし何故か、「長崎の原爆ドーム」としては残されず、解体されてしまった。そのため長崎には原爆ドームがないのである。『ナガサキ 消えたもう一つの「原爆ドーム」』は、「浦上天主堂」を巡る知られざる歴史を掘り下げ、アメリカの強かさを描き出す
あわせて読みたい
【衝撃】洗脳を自ら脱した著者の『カルト脱出記』から、「社会・集団の洗脳」を避ける生き方を知る
「聖書研究に熱心な日本人証人」として「エホバの証人」で活動しながら、その聖書研究をきっかけに自ら「洗脳」を脱した著者の体験を著した『カルト脱出記』。広い意味での「洗脳」は社会のそこかしこに蔓延っているからこそ、著者の体験を「他人事」だと無視することはできない
あわせて読みたい
【感想】リドリー・スコット監督の映画『最後の決闘裁判』から、社会が”幻想”を共有する背景とその悲劇…
例えば、「1万円札」というただの紙切れに「価値を感じる」のは、社会の構成員が同じ「共同幻想」の中に生きているからだ。リドリー・スコット監督の映画『最後の決闘裁判』は、「強姦では妊娠しない」「裁判の勝者を決闘で決する」という社会通念と、現代にも通じる「共同幻想」の強さを描き出す
あわせて読みたい
【理解】小野田寛郎を描く映画。「戦争終結という現実を受け入れない(=認知的不協和)」は他人事じゃ…
映画『ONODA 一万夜を越えて』を観るまで、小野田寛郎という人間に対して違和感を覚えていた。「戦争は終わっていない」という現実を生き続けたことが不自然に思えたのだ。しかし映画を観て、彼の生き方・決断は、私たちと大きく変わりはしないと実感できた
あわせて読みたい
【信念】水俣病の真実を世界に伝えた写真家ユージン・スミスを描く映画。真実とは「痛みへの共感」だ:…
私はその存在をまったく知らなかったが、「水俣病」を「世界中が知る公害」にした報道写真家がいる。映画『MINAMATA―ミナマタ―』は、水俣病の真実を世界に伝えたユージン・スミスの知られざる生涯と、理不尽に立ち向かう多くの人々の奮闘を描き出す
あわせて読みたい
【驚愕】キューバ危機の裏側を描くスパイ映画『クーリエ』。核戦争を回避させた民間人の衝撃の実話:『…
核戦争ギリギリまで進んだ「キューバ危機」。その陰で、世界を救った民間人がいたことをご存知だろうか?実話を元にした映画『クーリエ:最高機密の運び屋』は、ごく普通のセールスマンでありながら、ソ連の膨大な機密情報を盗み出した男の信じがたい奮闘を描き出す
あわせて読みたい
【衝撃】『殺人犯はそこにいる』が実話だとは。真犯人・ルパンを野放しにした警察・司法を信じられるか?
タイトルを伏せられた覆面本「文庫X」としても話題になった『殺人犯はそこにいる』。「北関東で起こったある事件の取材」が、「私たちが生きる社会の根底を揺るがす信じがたい事実」を焙り出すことになった衝撃の展開。まさか「司法が真犯人を野放しにする」なんてことが実際に起こるとは。大げさではなく、全国民必読の1冊だと思う
あわせて読みたい
【実話】映画『アウシュビッツ・レポート』が描き出す驚愕の史実。世界はいかにホロコーストを知ったのか?
映画『アウシュヴィッツ・レポート』は、アウシュビッツ強制収容所から抜け出し、詳細な記録と共にホロコーストの実態を世界に明らかにした実話を基にした作品。2人が持ち出した「アウシュビッツ・レポート」こそが、ホロコーストについて世界が知るきっかけだったのであり、そんな史実をまったく知らなかったことにも驚かされた
あわせて読みたい
【凄絶】北朝鮮の”真実”を描くアニメ映画。強制収容所から決死の脱出を試みた者が語る驚愕の実態:『ト…
在日コリアン4世の監督が、北朝鮮脱北者への取材を元に作り上げた壮絶なアニメ映画『トゥルーノース』は、私たちがあまりに恐ろしい世界と地続きに生きていることを思い知らせてくれる。最低最悪の絶望を前に、人間はどれだけ悪虐になれてしまうのか、そしていかに優しさを発揮できるのか。
あわせて読みたい
【勇敢】ユダヤ人を救った杉原千畝を描く映画。日本政府の方針に反しながら信念を貫いた男の生き様
日本政府の方針に逆らってまでユダヤ人のためにビザを発給し続けた外交官を描く映画『杉原千畝』。日本を良くしたいと考えてモスクワを夢見た青年は、何故キャリアを捨てる覚悟で「命のビザ」を発給したのか。困難な状況を前に、いかに決断するかを考えさせられる
あわせて読みたい
【民主主義】占領下の沖縄での衝撃の実話「サンマ裁判」で、魚売りのおばぁの訴えがアメリカをひっかき…
戦後の沖縄で、魚売りのおばぁが起こした「サンマ裁判」は、様々な人が絡む大きな流れを生み出し、最終的に沖縄返還のきっかけともなった。そんな「サンマ裁判」を描く映画『サンマデモクラシー』から、民主主義のあり方と、今も沖縄に残り続ける問題について考える
あわせて読みたい
【感想】映画『野火』は、戦争の”虚しさ”をリアルに映し出す、後世に受け継がれるべき作品だ
「戦争の悲惨さ」は様々な形で描かれ、受け継がれてきたが、「戦争の虚しさ」を知る機会はなかなかない。映画『野火』は、第二次世界大戦中のフィリピンを舞台に、「敵が存在しない戦場で”人間の形”を保つ困難さ」を描き出す、「虚しさ」だけで構成された作品だ
あわせて読みたい
【驚愕】あるジャーナリストの衝撃の実話を描く映画『凶悪』。「死刑囚の告発」から「正義」を考える物語
獄中の死刑囚が警察に明かしていない事件を雑誌記者に告発し、「先生」と呼ばれる人物を追い詰めた実際の出来事を描くノンフィクションを原作にして、「ジャーナリズムとは?」「家族とは?」を問う映画『凶悪』は、原作とセットでとにかく凄まじい作品だ
あわせて読みたい
【革新】映画音楽における唯一のルールは「ルールなど無い」だ。”異次元の音”を生み出す天才を追う:映…
「無声映画」から始まった映画業界で、音楽の重要性はいかに認識されたのか?『JAWS』の印象的な音楽を生み出した天才は、映画音楽に何をもたらしたのか?様々な映画の実際の映像を組み込みながら、「映画音楽」の世界を深堀りする映画『すばらしき映画音楽たち』で、異才たちの「創作」に触れる
あわせて読みたい
【実話】権力の濫用を監視するマスコミが「教会の暗部」を暴く映画『スポットライト』が現代社会を斬る
地方紙である「ボストン・グローブ紙」は、数多くの神父が長年に渡り子どもに対して性的虐待を行い、その事実を教会全体で隠蔽していたという衝撃の事実を明らかにした。彼らの奮闘の実話を映画化した『スポットライト』から、「権力の監視」の重要性を改めて理解する
あわせて読みたい
【実話】映画『イミテーションゲーム』が描くエニグマ解読のドラマと悲劇、天才チューリングの不遇の死
映画『イミテーションゲーム』が描く衝撃の実話。「解読不可能」とまで言われた最強の暗号機エニグマを打ち破ったのはなんと、コンピューターの基本原理を生み出した天才数学者アラン・チューリングだった。暗号解読を実現させた驚きのプロセスと、1400万人以上を救ったとされながら偏見により自殺した不遇の人生を知る
あわせて読みたい
【不正義】正しく行使されない権力こそ真の”悪”である。我々はその現実にどう立ち向かうべきだろうか:…
権力を持つ者のタガが外れてしまえば、市民は為す術がない。そんな状況に置かれた時、私たちにはどんな選択肢があるだろうか?白人警官が黒人を脅して殺害した、50年前の実際の事件をモチーフにした映画『デトロイト』から、「権力による不正義」の恐ろしさを知る
あわせて読みたい
【真実】ホロコーストが裁判で争われた衝撃の実話が映画化。”明らかな虚偽”にどう立ち向かうべきか:『…
「ホロコーストが起こったか否か」が、なんとイギリスの裁判で争われたことがある。その衝撃の実話を元にした『否定と肯定』では、「真実とは何か?」「情報をどう信じるべきか?」が問われる。「フェイクニュース」という言葉が当たり前に使われる世界に生きているからこそ知っておくべき事実
あわせて読みたい
【想像力】「知らなかったから仕方ない」で済ませていいのか?第二の「光州事件」は今もどこかで起きて…
「心地いい情報」だけに浸り、「知るべきことを知らなくても恥ずかしくない世の中」を生きてしまっている私たちは、世界で何が起こっているのかあまりに知らない。「光州事件」を描く映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』から、世界の見方を考える
あわせて読みたい
【驚愕】正義は、人間の尊厳を奪わずに貫かれるべきだ。独裁政権を打倒した韓国の民衆の奮闘を描く映画…
たった30年前の韓国で、これほど恐ろしい出来事が起こっていたとは。「正義の実現」のために苛烈な「スパイ狩り」を行う秘密警察の横暴をきっかけに民主化運動が激化し、独裁政権が打倒された史実を描く『1987、ある闘いの真実』から、「正義」について考える
あわせて読みたい
【レッテル】コミュニケーションで大事なのは、肩書や立場を外して、相手を”その人”として見ることだ:…
私は、それがポジティブなものであれ、「レッテル」で見られることは嫌いです。主人公の1人、障害を持つ大富豪もまたそんなタイプ。傍若無人な元犯罪者デルとの出会いでフィリップが変わっていく『THE UPSIDE 最強のふたり』からコミュニケーションを学ぶ
あわせて読みたい
【勇敢】”報道”は被害者を生む。私たちも同罪だ。”批判”による”正義の実現”は正義だろうか?:『リチャ…
「爆弾事件の被害を最小限に食い止めた英雄」が、メディアの勇み足のせいで「爆弾事件の犯人」と報じられてしまった実話を元にした映画『リチャード・ジュエル』から、「他人を公然と批判する行為」の是非と、「再発防止という名の正義」のあり方について考える
あわせて読みたい
【告発】アメリカに”監視”される社会を暴露したスノーデンの苦悩と決断を映し出す映画:『スノーデン』…
NSA(アメリカ国家安全保障局)の最高機密にまでアクセスできたエドワード・スノーデンは、その機密情報を持ち出し内部告発を行った。「アメリカは世界中の通信を傍受している」と。『シチズンフォー』と『スノーデン』の2作品から、彼の告発内容とその葛藤を知る
あわせて読みたい
【称賛】生き様がかっこいい。ムンバイのホテルのテロ事件で宿泊客を守り抜いたスタッフたち:映画『ホ…
インドの高級ホテルで実際に起こったテロ事件を元にした映画『ホテル・ムンバイ』。恐ろしいほどの臨場感で、当時の恐怖を観客に体感させる映画であり、だからこそ余計に、「逃げる選択」もできたホテルスタッフたちが自らの意思で残り、宿泊を助けた事実に感銘を受ける
あわせて読みたい
【勇敢】後悔しない生き方のために”間違い”を犯せるか?法に背いてでも正義を貫いた女性の生き様:映画…
国の諜報機関の職員でありながら、「イラク戦争を正当化する」という巨大な策略を知り、守秘義務違反をおかしてまで真実を明らかにしようとした実在の女性を描く映画『オフィシャル・シークレット』から、「法を守る」こと以上に重要な生き方の指針を学ぶ
あわせて読みたい
【情熱】常識を疑え。人間の”狂気”こそが、想像し得ない偉業を成し遂げるための原動力だ:映画『博士と…
世界最高峰の辞書である『オックスフォード英語大辞典』は、「学位を持たない独学者」と「殺人犯」のタッグが生みだした。出会うはずのない2人の「狂人」が邂逅したことで成し遂げられた偉業と、「狂気」からしか「偉業」が生まれない現実を、映画『博士と狂人』から学ぶ
あわせて読みたい
【実話】人質はなぜ犯人に好意を抱くか?「ストックホルム症候群」の由来である銀行強盗を描く映画:『…
「強盗や立てこもり事件などにおいて、人質が犯人に好意・共感を抱いてしまう状態」を「ストックホルム症候群」と呼ぶのだが、実はそう名付けられる由来となった実際の事件が存在する。実話を基にした映画『ストックホルムケース』から、犯人に協力してしまう人間の不可思議な心理について知る
あわせて読みたい
【現実】戦争のリアルを”閉じ込めた”映画。第一次世界大戦の英軍を収めたフィルムが描く衝撃:映画『彼…
第一次世界大戦でのイギリス兵を映した膨大な白黒フィルムをカラー化して編集した『彼らは生きていた』は、白黒の映像では実感しにくい「リアルさ」を強く感じられる。そして、「戦争は思ったよりも安易に起こる」「戦争はやはりどこまでも虚しい」と実感できる
あわせて読みたい
【絶望】子供を犯罪者にしないために。「異常者」で片付けられない、希望を見いだせない若者の現実:『…
2人を殺し、7人に重傷を負わせた金川真大に同情の余地はない。しかし、この事件を取材した記者も、私も、彼が殺人に至った背景・動機については理解できてしまう部分がある。『死刑のための殺人』をベースに、「どうしようもないつまらなさ」と共に生きる現代を知る
あわせて読みたい
【衝撃】森達也『A3』が指摘。地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教は社会を激変させた
「オウム真理教は特別だ、という理由で作られた”例外”が、いつの間にか社会の”前提”になっている」これが、森達也『A3』の主張の要点だ。異常な状態で続けられた麻原彰晃の裁判を傍聴したことをきっかけに、社会の”異様な”変質の正体を理解する。
あわせて読みたい
【衝撃】壮絶な戦争映画。最愛の娘を「産んで後悔している」と呟く母らは、正義のために戦場に留まる:…
こんな映画、二度と存在し得ないのではないかと感じるほど衝撃を受けた『娘は戦場で生まれた』。母であり革命家でもあるジャーナリストは、爆撃の続くシリアの街を記録し続け、同じ街で娘を産み育てた。「知らなかった」で済ませていい現実じゃない。
あわせて読みたい
【勇敢】日本を救った吉田昌郎と、福島第一原発事故に死を賭して立ち向かった者たちの極限を知る:『死…
日本は、死を覚悟して福島第一原発に残った「Fukushima50」に救われた。東京を含めた東日本が壊滅してもおかしくなかった大災害において、現場の人間が何を考えどう行動したのかを、『死の淵を見た男』をベースに書く。全日本人必読の書
この記事を読んでくれた方にオススメのタグページ
ルシルナ
戦争・世界情勢【本・映画の感想】 | ルシルナ
日本に生きているとなかなか実感できませんが、常に世界のどこかで戦争が起こっており、なくなることはありません。また、テロや独裁政権など、世界を取り巻く情勢は様々で…
タグ一覧ページへのリンクも貼っておきます
ルシルナ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント