目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
プリズン・サークル公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
以下に、「自主上映会」の開催案内へのリンクを載せました
映画『プリズン・サークル』公式ホ…
映画「プリズン・サークル」公式ホームページ
取材許可まで6年、撮影2年 初めて日本の刑務所にカメラを入れた圧巻のドキュメンタリー映画『プリズン・サークル』2020年1月25日(土)公開
この記事の3つの要点
- 民間企業も運営に関わる、新形態の刑務所
- 「否定されずに話ができる環境」がどれだけ重要か
- 被害者であること」を受け入れてもらえなければ、「加害者であること」を認められない
もちろん、犯罪が起こらない環境こそ目指すべきですが、起こってしまった犯罪に対しては「TC」は非常に良いと感じました
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
「加害者も被害者である」と認めることが、罪悪感の芽生えや更生に繋がっていくのだと、映画『プリズン・サークル』から伝わってくる
新しい刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」にカメラを入れる
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凄い映画だった。よくこんな作品が実現したものだ。
まずは、この映画の舞台となる「島根あさひ社会復帰促進センター」の説明からしよう。2008年に開設された、国内で最も新しい刑務所である。
同所以外にも同様の運営方法を行う刑務所は存在するかもしれないが、映画を観て、まずその仕組みが非常に特殊だと感じた。私は、ミステリ小説や映画などのフィクションを通じてのみ「刑務所」に対するイメージを持っているが、それらとはまったく異なるものだ。
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「島根あさひ社会復帰促進センター」は、民間企業が調理や清掃など一部業務を請け負う。監房の自動施錠・解除や機械による自動配膳など、機械化も積極的に導入している。受刑者の管理も独特であり、ICタグを付けたり、館内にカメラを設置することでなんと「独歩」が許可されているのだ。「独歩」とは、刑務官が付き添わずに刑務所内を一人で歩くという意味で、普通の刑務所ではまずあり得ない。
このように、運営上の特殊さがある刑務所だということを押さえた上で、さらに他と違う点がある。それが「TC」というプログラムだ。この映画は、この「TC」を主として撮影したものなのだが、それがなんであるのかは後で説明しよう。
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そしてこの「TC」が「島根あさひ社会復帰促進センター」に組み込まれるきっかけを間接的に作ったのが、この映画の監督・坂上香である。「刑務所にカメラを入れる」ことが許可された背景と共にその流れを書いていこう(以下の話は、映画鑑賞後の舞台挨拶で語られた話を中心に構成している)。
坂上香監督による「ライファーズ」という映画が2004年に公開された。これは、アメリカの刑務所における「TC」の実態を映し出したドキュメンタリー映画である。当時監督は、虐待を受けた子どもたちに関心を持っていた。そしてそういう子どもたちは結果として、犯罪に走ってしまうこともある。そのような繋がりから「TC」とも関わいを持つようになっていく。
そして、この「ライファーズ」という映画に感銘を受けた人物が、「島根あさひ社会復帰促進センター」の運営に関わる民間会社の社長である。この社長は、どうにか監督と連絡を取ろうとしたようだ。しかし監督は、「TC」に関心があるだけで刑務所と関わりたいとは思っておらず、逃げ回っていたそうだ。結局社長は、監督を追い回すことを諦めて別の人物と組み、刑務所に日本初の「TC」プログラムを組み込んだ。
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このような経緯があるので、坂上香監督の存在が「日本における刑務所内TC」を生み出したと言っていいだろう。
またこの社長は、「TC」の参加者全員に「ライファーズ」を見せていた。監督には無断だったという。そこで監督は、「勝手にそんなことをするなら、刑務所内を撮る許可を下さい」と交渉、10年に及ぶやり取りを経て、刑務所内にカメラを入れ長期密着するというドキュメンタリー映画が実現することとなった。
この映画の撮影スタッフには、以下のようなルールが課された。
- 撮影スタッフには常に2名以上の刑務官が付き添うこと
- 受刑者・刑務官との接触・会話は一切禁止
- あらかじめ設定された「特別インタビュー」の時のみ、受刑者と会話が可能
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「TC」の歴史と、「島根あさひ社会復帰促進センター」内での実践
それでは「TC」の説明をしていこう。
「TC」は「セラピューティック・コミュニティ(Therapeutic Community)」の略であり、「回復共同体」という意味だ。欧米では1960年代から徐々に取り組みがスタートした、薬物依存者や犯罪者向けのプログラムである。コミュニティのメンバー同士が対話することによって相互に影響を与え合い、それまで持っていなかった価値観を身につけたり、新しい生き方に気づいたりすることが目的とされている。
つまり、「TC」の中心にあるのは「対話」である。
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「島根あさひ社会復帰促進センター」で「TC」が採用されたのには、ある法改正も関係している。刑務所での「指導改善(教育)」が2006年に義務づけられたのだ。それまで刑務所は「罰を与える場」でしかなかったが、この法改正によって「罰を与える」以外の機能も求められるようになったのである。それを受けて「島根あさひ社会復帰促進センター」で「TC」が導入されることになった。
「島根あさひ社会復帰促進センター」では、希望する者のみが「TC」に参加できる。強制ではない。ここには、初犯、あるいは犯罪傾向が進んでいない受刑者が収容されているが、犯歴は様々だ。窃盗・詐欺から、性的暴行・傷害致死まで多岐にわたる。彼らの多くは当然「懲役刑」なので、刑務作業が義務づけられている。しかし週に12時間はそれが免除され、「TC」の対話が行われる。
「TC」を運営するのは社会復帰支援員と呼ばれる人たちだが、彼らは民間企業に所属している。刑務官とはまた違う存在ということだ。彼ら支援員は、受刑者(TCにおいては「訓練生」と呼ばれるが、この記事では受刑者で統一する)に何か強制したりはしない。何をどういう設定で行うのかを決めるのは支援員だが、「それでは始めます」となってからは、基本的に受刑者に任せる。
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支援員がとにかく腐心していることは、「いかに話をしてもらうか」である。
支援員は、「あれをしろ/これをするな」とか、「それは正しい/正しくない」みたいなことは一切言わない。受刑者たちに、今思っていること、考えていること、感じていることをどうやって素直に話してもらうかをとにかく考えている。「話しやすい場」を作るための存在なのだ。
この、「何を話しても否定されない」という心理的安全性が担保された空間は重要だ。そういう空間だからこそ、受刑者たちはそれまで口にしたこともない感情を吐き出すことになるし、そのことによって彼らが「加害者として罪の意識を抱くようになるプロセス」は、素晴らしいと感じた。
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誰も自分の話なんて聞いてくれなかった
受刑者の一人が、まさにこのような感覚を吐露していた。自分が何か話をしても否定されることばかりだったし、ちゃんと人間として扱ってもらえたことなんてなかった。普通の刑務所では番号で呼ばれ、やはり人間ではない扱いをされるし、そんな経験しかしてこなかったから、「自分の話なんてどうせ誰も聞いてくれないだろう」と思っていた、というようなことを語る。
私は、事件ノンフィクションやドキュメンタリー映画などを通じて、「加害者も辛い過去を経験している」という事実をそれなりに頭では理解しているつもりだ。しかしやはり。その人生をリアルに想像することは難しい。
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映画の中で「自分の話なんて誰も聞いてくれないだろう」と語るのを聞いて、なるほど確かにそうなってしまうだろう、と感じた。
客観的に見て「悪い」と判断される行動をした場合に、特に子どもの頃であれば、理由も分からずに怒られたり殴られたりすることもあるだろう。そんな行動をした理由について問われることは少ないし、仮に「なぜそんなことをしたのか?」と聞かれても、それが「真っ当ではない理由」の場合は、頭ごなしに否定されて終わってしまう。
だから、考えていることをどんどん言わなくなるのだ。「自分の話なんてどうせ」と感じてしまうのも当然だろう。
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映画を観ていて驚いたことは、受刑者たちが本当に素直に自分の気持ちを話しているのだろうと感じられる場面が多いことだ。例えば、
刑務所では、名前ではなく番号で呼ばれて、何かにつけて怒られる。せめて怒られたくない、という気持ちで日々を過ごしていると、被害者のことを考えている時間なんてない
(婚約者の女性が)子供を堕ろしてくれて、どこかホッとしたような気持ちもあった
というような発言だ。一応書いておくが、これらの発言をした受刑者たちはその後、「TC」でのプログラムを通じて考えが変わる。しかし初めの頃はこんな風に話していたのだ。
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普通の環境であってもこういう発言をすることには躊躇してしまうはずだが、さらに彼らがいるのは刑務所なのである。刑務所内で、「被害者のことを考えている時間なんてない」という発言ができるのは、よほど「心理的安全性」が確保されているのだろう、と感じた。それぐらいこの「TC」の空間は、「何を話しても大丈夫」という雰囲気が作られているのだと思う。
加害者の前に被害者である
この映画を観て最も考えさせられたのが、「加害者だって、その多くは何かの被害者なのであって、自分が被害者であったことをまず認めてもらえなければ、加害者として罪悪感を抱くことはできない」という点だ。
正直、このような点について今まで考えたことはなかった。しかし言われてみれば当たり前だと感じるし、だとすれば「刑罰」を前提とした現状の仕組みに対する疑問も浮かんでくる。
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前提として、私の意見をまず書いておこう。私は、「辛い経験をした人間が犯罪に手を染めてしまうことは仕方ない」などとは考えていない。どれだけ厳しい環境に置かれていても犯罪に足を踏み入れなかった人はたくさんいるのだし、「何かの被害者だったのだから、加害者になってもしょうがない」と考えているつもりはまったくない。
ただ、「被害者としての立場」をまず受け入れてもらうことによって初めて「加害者としての立場」に立つことができるという主張はその通りだと感じているのである。
卑近な例で説明してみよう。夫が浮気をしていることを妻が知ってしまったとする。そして、夫の裏切りに耐えきれず、妻も浮気をしてしまうとしよう。そして、そんな妻の浮気を知った夫から責められるという状況について考える。
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この場合、確かに浮気をした妻も悪い。しかしだからといって、夫から責められることに納得はいかないだろう。なぜなら妻は、自分が「被害者」だと感じているからだ。夫の浮気という裏切りに対する「被害者としての立場」をまず受け入れてもらえなければ、自分が浮気をしたという「加害者としての立場」に立てない、というのは、シンプルで当たり前の話だと思う。
それは、裁判で有罪になった者たちも同じだ。彼らは、「自分だって被害者なのに」という感覚をずっと抱えたまま、国家権力から責め立てられるのだ。確かにこの状態で「反省」を促すのは無理があるだろう。
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そしてまさにこの「被害者としての立場」に立たせるための場が「TC」である。「自分は被害者なんだ」と声高に発言しても大丈夫な環境で「対話」を行うことで、「被害者としての自分が受け入れられている」という実感を抱くことができる。そしてそうなって初めて、「自分はどれだけ悪いことをしてしまったのだろうか」という視点を持てるというわけだ。
受刑者の一人は、
すべてを吐き出してからやっと、関わってきた人たちのことを考えられるようになった
と言っていた。
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また、かつて「TC」に参加していた出所者の一人は、
TCに行ってたのは本当に良かった。相談に乗ってくれる人もいるし、内情を吐露出来たのは良かった。自分の気持ちを空っぽに出来る
と語っていた。本当に、刑務所に入る前にこういう環境があれば、犯罪に手を染めることなどなかったのではないかとも感じる。
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「ロールプレイング」という衝撃
さて、当然だが、「TC」は「被害者としての立場」を受け入れるだけの場ではない。「加害者としての立場」に立たせる場でもある。そしてそのやり方がなかなか衝撃的だった。
「TC」は様々なプログラムで構成されるが、その一つに「ロールプレイング」がある。これがなかなか凄い。実際に自分が起こした事件を、「TC」の他の受刑者を「被害者役」や「加害者の家族役」に据えて再現させるのだ。
映画では、叔父の家に強盗に入った健太郎(仮名)という受刑者の「ロールプレイング」が映し出されていた。健太郎が「犯人役」を、「叔父役」「母親役」「婚約者役」などを他の受刑者にやってもらい事件を再現する。そしてその後、「叔父役」「母親役」「婚約者役」から健太郎に質問が投げかけられる、というものだ。
かなりの衝撃だった。
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まず、他の受刑者たちからの質問がかなり厳しいということだ。言っておくが、健太郎を責め立てる者たちも当然、何かの事件を起こしている。客観的に見ると、「お前がそんなことを言うのか」と思ってしまうこともあるが、これもまた「ロールプレイング」の効果だとも感じる。これを通じて受刑者たちが「被害者の気持ちを想像する」ことができるのだ。
他の受刑者たちの集中砲火を浴びて、最終的に健太郎は泣いてしまう。それぐらい、厳しい指摘が繰り出されるということだ。そしてそれを見て私は、この「TC」では、受刑者同士の信頼関係が見事に構築されているのだな、とも感じた。
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自分が同じ状況にいることを想像してもらえば分かると思うが、いくら役割だとはいえ、信頼関係のない相手から非難されればムカつくし、それが分かるから言う側も躊躇するだろう。しかしこの映画では、そういう遠慮みたいなものがまったく無いように見えた。「仲間」だとお互いに諒解しているからこそ、厳しい接し方ができるのだ。
さらにこの「ロールプレイング」は、先程も触れたが、「被害者の気持ちを想像する」という点でもの凄い効果を発揮する。
健太郎ではない別の人物が、「ロールプレイング」に関してこんな発言をしていた。
自分の事件に関しては、なかなか被害者の気持ちを理解することは出来なかった。でも、ロールプレイの事件だと、被害者の気持ちに立つことが出来る
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なるほどなぁ、と感じさせられた。
例えばだが、自分が犯した罪について、実の母親から責められた場合には、恐らく全然関係ない思いも一緒に出てきてしまうだろう。「全然一緒にいてくれなかったのに」とか「こんな時ばっかり良い人ぶって」など、それまでの母親との関係性の中で抱いてきた不満や感情などが絡まり合ってしまい、「事件を犯した自分を純粋に責め立てる被害者」として母親を見ることができない、ということではないかと思う。
しかし「ロールプレイング」の場合、相手は役を演じているだけの受刑者だ。だからこそ、「純粋な被害者」として捉えられるということではないかと思う。
しかも「ロールプレイング」の良いところは、実際に自分が犯した事件を再現しているのだが、あくまで自分も「役を演じているだけ」というスタンスでいられるという点だ。もちろん、健太郎は最終的に泣いてしまうし、当然自分が実際に起こした事件とダブらせもするだろう。しかし一方で、「これは役を演じているだけなんだ」という風に逃げることもできる。だからこそ、周囲からの指摘をある程度以上素直に受け入れられるのではないかとも感じた。
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自分がもし「被害者」だったら……
このように「TC」という仕組みは、私の目には非常に良いものとして映った。
私が「良い」と感じたのは、「社会全体にとって利益がある」と思うからだ。
詳しいことを知っているわけではないが、刑務所を出ても、再犯によって再び刑務所に戻ってくる者が多いのが現実らしい。ここにはもちろん様々な要因がある。犯罪者が社会復帰しにくい世の中であることも一因だろう。
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しかし、刑務所で人間的に変化しなかったことによる再犯も多いのではないかと思う。「罰則」を前提にする場合、「自分だって被害者なのに罰ばかり与えられる」という不満は恐らく消えないだろうし、その状態で出所しても、犯罪に手を染めてしまうマインドは変わらない可能性が高いだろう。
しかし「TC」では、「被害者」として受け入れられることで「加害者」である自分を認められ、それによって自分が犯した罪に対する罪悪感を抱くことができるようになる。もちろん出所した後、社会復帰の道は厳しいかもしれないし、そこから転落してしまう可能性もあるだろう。しかし自分の犯した罪と向き合っていることによってその可能性は低くなってとも言えるはずだ。
またこの映画では、「TC」を経験している出所者の集まりにもカメラが入る。この「TC経験者」という繋がりもまた、社会復帰という困難を乗り越える要素となると感じた。
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あくまでもイメージだが、通常の刑務所では作業中の私語は許されていないし、「TC」のような穏やかな人間関係を築くこともなかなか難しいだろう。フィクションからのイメージでしかないが、刑務所内で知り合った人間と出所後に再び悪さをする、というようなこともきっとあるはずだ。
しかし「TC経験者」は、出所後もその繋がりを継続させることができる。よほどのサイコパスでもない限り、「この人に迷惑を掛けられない」という誰かの存在が犯罪の抑止力として働くことは想像できるし、「TC経験者」の繋がりはそういうものとして機能し得るだろうと感じた。
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だから、再犯が減り、犯罪者の社会復帰も以前より容易になるだろうという意味で、「TC」は社会全体にとって利益があると感じる。
しかし一方で、犯罪被害者のことも考えなければならないだろう。
例えば、自分が犯罪に巻き込まれて重傷を負った、あるいは自分の大切な人を殺されたというような場合に、この「TC」を許容できるかどうか。この観点は非常に難しい。
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私は、自分が仮に犯罪被害者となったとしても、この「TC」を許容できる人間でありたいと思う。「罰則」によって痛めつけるのではなく、「対話」によって更生を促す仕組みを是としたい。
しかし、実際に自分が犯罪被害者になった時にどう感じるのかは分からないし、だからこそ、現に犯罪被害者である人がこの「TC」を批判しているとしても(そんな描写はこの映画にはないが)、それは仕方ないことだとも感じる。
そういう意味でやはり「罪と罰」は難しいと感じさせられたし、「TC」を刑務所で広く根付かせる以前に、いかに犯罪行為に走ってしまうような環境を排除するかに注力すべきなのだろうな、とも感じた。
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映画『燃えあがる女性記者たち』は、インドで「カースト外の不可触民」として扱われるダリットの女性たちが立ち上げた新聞社「カバル・ラハリヤ」を取り上げる。自身の境遇に抗って、辛い状況にいる人の声を届けたり権力者を糾弾したりする彼女たちの奮闘ぶりが、インドの民主主義を変革させるかもしれない
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映画『悪は存在しない』(濱口竜介監督)は、観る者すべてを困惑に叩き落とす衝撃のラストに、鑑賞直後は迷子のような状態になってしまうだろう。しかし、作中で提示される様々な要素を紐解き、私なりの解釈に辿り着いた。全編に渡り『悪は存在しない』というタイトルを強く意識させられる、脚本・映像も見事な作品だ
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【驚愕】映画『リアリティ』の衝撃。FBIによる、機密情報をリークした女性の尋問音源を完全再現(リアリ…
映画『リアリティ』は、恐らく過去類を見ないだろう構成の作品だ。なんと、「FBI捜査官が録音していた実際の音声データのやり取りを一言一句完全に再現した映画」なのである。「第2のスノーデン」とも評される”普通の女性”は、一体何故、国家に反旗を翻す”反逆者”になったのだろうか?
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映画『ヤジと民主主義 劇場拡大版』が映し出すのは、「政治家にヤジを飛ばしただけで国家権力に制止させられた個人」を巡る凄まじい現実だ。「表現の自由」を威圧的に抑えつけようとする国家の横暴は、まさに「民主主義」の危機を象徴していると言えるだろう。全国民が知るべき、とんでもない事件である
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東日本大震災において、児童74人、教職員10人死亡という甚大な津波被害を生んだ大川小学校。その被害者遺族が真相究明のために奮闘する姿を追うドキュメンタリー映画『生きる』では、学校の酷い対応、出来れば避けたかった訴訟、下された画期的判決などが描かれ、様々な問題が提起される
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在日コリアン4世の監督が、北朝鮮脱北者への取材を元に作り上げた壮絶なアニメ映画『トゥルーノース』は、私たちがあまりに恐ろしい世界と地続きに生きていることを思い知らせてくれる。最低最悪の絶望を前に、人間はどれだけ悪虐になれてしまうのか、そしていかに優しさを発揮できるのか。
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『14歳からの哲学入門』というタイトルは、「14歳向けの本」という意味ではなく、「14歳は哲学することに向いている」という示唆である。飲茶氏は「偉大な哲学者は皆”中二病”だ」と説き、特に若い人に向けて、「新しい価値観を生み出すためには哲学が重要だ」と語る
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「北九州連続監禁殺人事件」という、マスコミも報道規制するほどの残虐事件。その「主犯の息子」として生きざるを得なかった男の壮絶な人生。「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーが『人殺しの息子と呼ばれて』で改めて取り上げた「真摯な男」の生き様と覚悟
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戦争写真として最も有名なロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」には、「本当に銃撃された瞬間を撮影したものか?」という真贋問題が長く議論されてきた。『キャパの十字架』は、そんな有名な謎に沢木耕太郎が挑み、予想だにしなかった結論を導き出すノンフィクション。「思いがけない解釈」に驚かされるだろう
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「世界中に存在する電波望遠鏡を同期させてブラックホールを撮影する」という壮大なEHTプロジェクトの裏側を記した『アインシュタインの影』から、ブラックホール撮影の困難さや、「ノーベル賞」が絡む巨大プロジェクトにおける泥臭い人間ドラマを知る
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旅行者として東日本大震災で被災した小説家・彩瀬まるは、『暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出』でその体験を語る。「そんなこと、言わなければ分からない」と感じるような感情も包み隠さず記し、「絶望的な伝わらなさ」を感じながらも伝えようと奮闘する1冊
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私には、「謝罪すること」が「誠実」だという感覚がない。むしろ映画『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』では、「謝罪しない誠実さ」が描かれる。被害者側と加害者側の対話から、「謝罪」「贖罪」の意味と、信じているものを諦めさせることの難しさについて書く
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2人を殺し、7人に重傷を負わせた金川真大に同情の余地はない。しかし、この事件を取材した記者も、私も、彼が殺人に至った背景・動機については理解できてしまう部分がある。『死刑のための殺人』をベースに、「どうしようもないつまらなさ」と共に生きる現代を知る
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