目次
はじめに
この記事で取り上げる映画

「ノー・アザー・ランド 故郷は他にない」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場方法をご覧下さい
この記事の3つの要点
- イスラエルの最高裁が許可を出しているとはいえ、19世紀からその地に住み続けている住民を強制的に立ち退かせるイスラエル軍の暴挙はあまりに酷い
- イスラエル人でありながら立ち退きの現状に憤り、パレスチナ人のバーセルに協力する形でイスラエル軍にも立ち向かうユヴァル
- あまりにも立場が異なるバーセルとユヴァルの関係性は、パレスチナとイスラエルの関係性そのものであり、実に残酷だなと思う
お互いの間にある大きな壁を乗り越える形で横暴と立ち向かおうとする若者たちの奮闘に、「自分も出来ることをしなければ」という気分にさせられる
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記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
イスラエル軍がパレスチナ人の住居をぶっ壊している衝撃の現実を映し出す映画『ノー・アザー・ランド』にはとにかく圧倒させられた。あまりにも酷すぎる世界である
本当にクソみたいな現実だった。もちろん、イスラエルとパレスチナの間で起こっていることはすべて最低最悪でしかないだろうし、その中で、本作で描かれている現実がどの程度のレベル感にあるのか、中東に詳しい知識を持っているわけではない私には何とも言えない。ただ、そういうことは一旦置いておこう。本作を観れば、そのあまりの酷さに驚かされてしまうはずだ。
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本作『ノー・アザー・ランド』で映し出される、あまりにも酷すぎる現実
それではまず、本作で映し出される、そんなあまりにも最低最悪な現実について説明しておこうと思う。焦点が当てられるのは、2019年から2023年に掛けての出来事である。
舞台になるのは、イスラエルのヨルダン川西岸地区内にあるマサーフェル・ヤッタという集落。ここには、作中人物が「19世紀の地図に載っている」と語るぐらいの歴史があり、以前からパレスチナ人(アラブ人)が居住していた地域である。
そしてそんな地域で、「イスラエル軍による住居の破壊」が行われていたのだ。武装した軍人が大挙してやってきて、住民に「家の中から家財道具などを全部出せ」と命令、そして空っぽになった家をそのままブルドーザーで破壊していくのである。
マジで意味が分からなかった。イスラエル軍の理屈は後で説明するが、到底理解できるようなものではない。
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私はそもそも、「本作の舞台であるマサーフェル・ヤッタがヨルダン川西岸地区内にある」という事実を、鑑賞後に公式HPを見て初めて理解した(もちろん、作中での説明を私が見逃しただけかもしれないが)。そして私の理解では、「ガザ地区とヨルダン川西岸地区では、パレスチナ人の居住が認められている」はずである。もちろん、ガザ地区がイスラエル軍から空爆を受けたりしているわけで、両地区が「パレスチナ人にとって安全な土地」なんてことはないだろう。しかしそれでも、法的には「パレスチナ人の居住が認められている土地」であるはずだ。
にも拘らず、マサーフェル・ヤッタにイスラエル軍が押し寄せ、住民がまさに今暮らしている家を壊しては彼らを強制的に追い出しているのである。
では、どうしてそんなことになっているのだろうか? 本作ではその来歴について、マサーフェル・ヤッタ出身のパレスチナ人であるバーセルが説明している。彼は活動家の両親の元で育ち、そして大人になった今、スマホを使って目の前の現実を撮影・発信することで何か事態が好転することを期待しているのだ。
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彼は「僕がカメラを持つようになった頃から終わりが始まった」と話していた。恐らくそれが2019年頃であり、その頃からイスラエル軍による破壊が始まったのだと思う。彼がそう語るシーンの合間に挟み込まれたニュース映像では、「1967年の占領以来、最大規模の立ち退きの可能性」「8つの村で1000人(別のニュースでは2500人と表示された)が危機に瀕している」と報じられていた。
ではそのタイミングで一体何があったのか? 直接的なきっかけは恐らく、「イスラエルの最高裁がマサーフェル・ヤッタの住民を追い出す許可を出したこと」のようである。実はこの問題は1990年代から顕在化していた。どうやらイスラエル軍が、「マサーフェル・ヤッタは軍の訓練地である」として住民の排除を国(だと思う)に求めていたようなのだ。それに対し住民は、裁判所に「立ち退きの取り消し」を求めて異議申し立てを行っていた。そして、裁判所は住民のこの訴えを22年掛けて退け、最高裁の決定として「マサーフェル・ヤッタの住民の立ち退き」が許可されたのである。
イスラエル軍による「軍の訓練地だから」という主張が、「元々軍の訓練地だったから」なのか、あるいは「新たに軍の訓練地に指定されたから」なのかはよく分からなかったが、「マサーフェル・ヤッタが19世紀の地図に載っている」ことを踏まえると、前者の主張にはちょっと無理があるように思う。となると後者だとしか考えられないが、しかし「新たに指定された」みたいなことはいくらでも言いようがあるし、好き放題出来てしまうだろう。そして、そんな薄弱な根拠を元に、「軍の訓練地に居住することは禁止されているし、家も水道も井戸もすべて違法なので取り壊す」などと言って実力行使を繰り出すのは、やはりちょっと異様だと私には感じられる。
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その「実力行使」は、本当に酷いの一言だ。パレスチナ人とイスラエル人ではそもそも言語が違うようで(パレスチナ人がアラビア語で、イスラエル人の多くは英語を話すようだ)、両者の会話はそのままでは成り立たない。そしてイスラエル軍は、通訳など連れて来るでもなく、パレスチナ人には伝わらない言葉と身振り手振りで説明を繰り返しては家を破壊していくのだ。作中では言語の違いが字幕で区別され、「お互いが伝わらない言葉で怒鳴り合っている様子」が理解できるようになっている。住民が何を言っても、そもそも言葉が聞き取れないイスラエル軍は全無視、そして有無を言わさずに家をぶち壊していくというわけだ。
観ながらある種の「痛快さ」さえ感じさせられたぐらい本当にイカれた状況だったなと思う。
イスラエル人の多くは自国の振る舞いを擁護するが、そんな中でもイスラエル人のユヴァルは現状に憤りを覚え取材を続ける
私はこういう時、「イスラエル軍の兵士たちは一体、何を考えながら家を壊しているのだろう?」みたいなことを考えてしまう。彼らがもし、「本当は全然やりたくないが、軍の命令だから仕方ない」と思っているのであれば、まだ救いはあると言えるだろう。単に一部の権力者が暴走しているだけであり、「上が変われば一気に状況が好転する可能性がある」と信じていられるからだ。
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ただ、あくまでも本作を観ている限りの判断にすぎないが、私の目にはとてもそんな風には見えなかった。「通訳を連れて行かない」というのは上官の判断だろうから下の立場の人間にはどうにも出来なかったとは思うが、それにしたってイスラエルの兵士たちの言動からは、「お前たちの存在はすべて違法なんだ」という感覚のまますべてを押し切ろうという意図しか感じられなかったのだ。
とはいえ、もしも自分がイスラエルの兵士だったとしたら、「『他人の家を壊す』なんて行為はまともな神経では出来ないし、だから『自分は正しいことをしているんだ』とでも思い込まなければやっていられない」みたいにと考えるんじゃないかという気もする。本心としては「やりたくない」と思っていても、そういう気持ちを押し殺さなければ任務の遂行は不可能なわけで、だから「相手のことなど何も考えない振る舞い」になってしまっている可能性もゼロではないだろう。まあその辺りのことは何とも判断できないものの、本作ではまた違った場面でイスラエル人の本音を知ることができる。
本作では何度かテレビ番組の映像が挿入されるのだが、その1つに「マサーフェル・ヤッタの立ち退きについて議論している番組」のものがあった。そしてコメンテーターの1人(どんな立場の人間かは分からない)が、「軍の訓練地に居住しているのは違法なんだから、強制的に退去させられて然るべきだ」みたいな発言をしていたのである。こういう映像が差し込まれるということは、少なくとも本作の制作側は「イスラエルにはそう思っている人が多くいる」と伝えたいのだろうし、恐らくそれが実情なのだろうなとも思う。
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さて、本作のもう1人の主人公であるユヴァルはそういう多数派とは異なる感覚を持っている。彼はイスラエル人の記者であり、「マサーフェル・ヤッタの立ち退き問題」に憤りを覚えて取材を進めている人物なのだ。実際に、立ち退きを迫るイスラエル兵に歯向かうような行動を取ったりもしていた。パレスチナ人であるバーセルとイスラエル人であるユヴァルは、生まれも置かれている状況もまったく正反対なのだが、立場を越えた関係性を築いたのである。本作は、そんな2人の”友情”をも描き出す作品だ。
本作では何度か、バーセルとユヴァルが2人で語り合うシーンが映し出される。議論になったり、あるいは価値観を共有したりと色んなやり取りがあるのだが、いずれにせよ「2人の間にある見えない大きな壁」が浮き彫りにされることが多い。そしてそれはそのまま、パレスチナ・イスラエルの問題の縮図(バーセルとユヴァルは別に争ってはいないが)にも感じられるだろう。
バーセルは「両親が活動家」という特殊な環境で育ったこともあり、当然のように活動家みたいな人生を歩むことになった。さらに、勇敢だった父親は何度も逮捕されており、そのため、今では家族を養うために給油所の仕事に専念している。そのため、マサーフェル・ヤッタでは今、バーセルこそが抗議活動の中心になっているのだ。彼自身も周囲からのそんな期待に自覚的であり、それに応えようと奮闘しているところである。
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そしてユヴァルは、そんなバーセルのことを「凄まじい」という風に見ているようだ。「もし自分が同じ立場にいたとしても、同じようには振る舞えないだろう」と感じているのである。2人は同い年のようで、そんなこともあってユヴァルは、バーセルが秘めている「強さ」に圧倒されているのだと思う。
そんなバーセルに触発されたユヴァルは、「マサーフェル・ヤッタが直面しているこの酷い現実を世界に伝えなければ」と強く考えているわけだが、その想いはちょっと空回ってしまってもいる。そのことが伝わる印象的なシーンがあった。車内で熱弁を振るうユヴァルにバーセルが「君は熱くなりすぎている」と諭すシーンである。こう言われたユヴァルが「ダメかな?」と返すと、バーセルは次のように冷静な主張を繰り広げていたのだ。
君は10日でこの地を離れるだろうけど、この問題は数十年も続いているんだ。すぐには解決しないし、負けたって続けていくしかないんだ。
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このやり取りがいつ行われたのかよく分からないが、恐らく、2人が出会ってまだそう月日が経っていない頃なんじゃないかと思う。「君は10日でこの地を離れるだろうけど」という言い方に、親しくなり切れていない微妙な距離感を感じたからだ。もちろんバーセルは別に嫌味を言ったわけではなく、単に事実を指摘したに過ぎないと思う。ユヴァルがどのくらいの期間ここにいられるにせよ、ずっとはいられないことは確かだからだ。数十年単位で継続している問題なわけで、ユヴァルがどれほどこの問題に強い想いを持っていようが、バーセルの視点からは「すぐに帰っていく」ように見えてしまうのも仕方ないと思う。
そして実際に、ユヴァルは「帰ることが出来る」のである。
圧倒的に立場の異なるバーセルとユヴァルによる奮闘とその無力さ
「帰ることが出来る」という表現には、ざっくり2つの意味を込めたつもりである。1つは、本作のタイトルである「ノー・アザー・ランド」にも関係することではあるが、言葉通り「他に帰る場所がある」という意味だ。彼は日々マサーフェル・ヤッタに通っているのだが、夜になるとヨルダン川西岸地区を出て、イスラエルにある自宅へと帰る。別にそれは悪いことでも責められることでもないのだが、バーセルの立場からしたら「自分たちには他に行き場などないのに」という感覚になってしまうのも当然だろう。
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そしてもう1つは、「どこにでも行ける」という意味だ。イスラエルを走る車のナンバープレートの色には意味があり、イスラエル人は黄色、そしてパレスチナ人は緑と決まっている。そしてイスラエル国内には、「黄色ナンバーの車でなければ通行できない道」がたくさん存在するのだ。ユヴァルの車は黄色ナンバーであり、だから彼は国内のどこへでも自由に行き来可能である。しかしバーセルの車は緑ナンバーであり、ヨルダン川西岸地区からは出られないのだ。
バーセルとユヴァルは、同じぐらい強い想いを抱いて目の前の現実に対処し、同じぐらい危険な状況に直面しながら日々の活動を続けているのだが、その両者の立場は圧倒的に異なっている。どれだけユヴァルが熱心に取り組もうとも、彼が生まれながらにして持つ「恵まれた立場」がある意味では邪魔してしまっているというわけだ。本作では、バーセルとユヴァルが仲違いするようなシーンが映し出されたりはしないが(とはいえ、単に使われていないだけで、そういう状況がなかったとは言い切れない)、バーセルが生まれた村の住民とユヴァルが口論(当人たちは「ディベート」と言っていたが)をするような場面はあった(ちゃんと覚えていないが、もしかしたらバーセルの父親だったかもしれない)。その住民はバーセルとユヴァルの関係に触れつつ、「こんな状況でずっと『友達』でいられると思うか? お前の親戚や友人が俺たちの家を壊している可能性だってあるんだぞ」みたいなことを言っていたのだ。
まあ、ユヴァルにそんなことを言いたくなる気持ちもよく理解できる。なにせ前述した通り、マサーフェル・ヤッタにやってくるイスラエルの兵士とは言葉が通じないのだ。だから、アラビア語を流暢に話せるユヴァルに意見をぶつけ、「お前はどう思っているんだ?」と議論したくもなるのだろう。その気持ちはもちろん理解できるのだが、同時に「ユヴァルに文句を言ってもなぁ」という気分になってしまうこともまた確かである。
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ちなみにユヴァルは、高校時代に友人と一緒にアラビア語を学んだそうだが、そのお陰で(という表現で合っているか分からないが)、イスラエルの諜報部からスカウトが来たという。スパイ的な役割が期待されていたのだろう。しかしユヴァルは、「アラビア語を学んだことで物事の見方が広がった」と話しており、それ故、諜報部からのスカウトを断ることが出来たのだそうだ。以前何かの本で、「使う言語によって思考が制約される」という「サピア=ウォーフの仮説」の話を知ったが、彼も、違う言語を学んだことで世界の捉え方が変わったのだと思う。
さて、少し前に「立ち退き問題を議論するテレビ番組」の話に触れたが、その番組に、マサーフェル・ヤッタの現状を伝える側の人間として出演していたのがユヴァルである。そして彼はその中で、「パレスチナ人の自由無しには我々の安全は無い」と主張していた。もちろん彼は本心からそう思っているはずだ。ただその一方で、「他人事だと思っていると、自分たちにも不利益がもたらされるぞ」という啓蒙的な意味も込めて、敢えてそういう強い言葉を使っているのだとも思う。
映画の後半、バーセルとユヴァルが2人で話しているシーンで、確かユヴァルだったと思うのだが、「世界が狂っていく」みたいなことを言っていた。私も、そのことは強く感じている。私は別に、自分がまともで常識的な人間だなんてまったく思っていない。しかしそれにしたって、ムチャクチャな主張や価値観が当たり前のように蔓延する世の中になってしまったなという感覚を抱いている。そもそも、トランプ大統領を始めとする世界のリーダーがかなり極端な主張をして耳目を集めているし、PV数や再生数を稼ぎたいインフルエンサー的な人たちも「分かりやすいワンイシュー」ばかり強調するようになっているように思う。もちろん、情報の受け手にも問題があるだろう。特に、若い世代に顕著らしいが、「情報の真偽」を「発信者のフォロワー数」や「その情報が閲覧された数」などで判断する人がいるみたいなのだ。正直私には「狂気の沙汰」としか思えないが、一方で、「そりゃあ、誤情報があっさり広まっていくわけだよな」とも納得させられる。
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そりゃあ、世界も狂っていくだろうよ。
そして、パレスチナ・イスラエルの争いはまさに、そんな「狂気」が最大化されたものであるようにも思う。さらにバーセルとユヴァルは、そんな「狂った世界」の中でどうにか「まとも側」に踏み留まろうと考え、「正しいことを正しいようにやる」という信念だけで行動し続けているように私には見えた。
あまりにも難しすぎる問題ではあるが、我々にも何か出来ることはあるはずだ
さて、強制的に住居を奪われているマサーフェル・ヤッタの住民たちは、この現実にどう対処しているのだろうか? 実は彼らは「非暴力的な抵抗」を続けている。イスラエル軍は、まさに暴力を詰め込んだようなムチャクチャなやり方で立ち退きを迫ってくるわけだが、住民たちは、家や水道管を壊されようが、井戸を埋められようが、長年暮らし続けた土地を離れずに留まっているのだ。何もかもが破壊された場所で生活を続けるのはあまりにも茨の道だろうが、それでも身一つで立ち退きに抵抗し続けるのは、「暴力なんかに屈してたまるか」という強い想いの現れなのだと思う。
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だからこそ、バーセルが口にした次のような指摘は、私にはとても印象的に感じられた。
確かに今彼らは、強い軍と技術力を持っている。
でも、弱かった時のことを忘れるべきじゃない。
暴力では何も解決しない。
確かにその通りだなと思う。イスラエルは、たぶんアメリカの支援を受けて、昔と比べたら軍事力が強化されているのだろうが、建国当初はパレスチナと同じように「弱かった」はずだ。そしてパレスチナとイスラエルは、その頃から(というか、それ以前から)ずっと争いを続けているのである。今は軍事力という意味でパワーバランスに圧倒的な差が存在するが、そんな「暴力」では結局何も解決出来ない。「北風と太陽」の「北風」みたいな発想では乗り越えられない状況なのである。
ただ一方で、「暴力」で押し切ろうとするイスラエルはそもそも、「『解決』なんて別に望んじゃいない」のだろうとも思う。「本質的に『解決』しなくても、何となく『終結』すれば十分」みたいに考えているのだろう。イスラエル(ネタニヤフ首相)だけではなく、プーチンやトランプなども同じように考えている気がするし、そういう「暴力で圧倒して相手に有無を言わせない」みたいなやり方がデフォルトになりつつあるようにも思う。当事者の一方がそういう立場であれば当然、本質的な「解決」など到底望めるはずがない。であれば、イスラエルに住むパレスチナ人はこれからもしんどい状況に置かれ続けてしまうのだろう。
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本当に狂っているなと感じるし、そんな世界に生きていると思うとうんざりさせられてしまいもする。
ただ、諦めるのはまだ早いだろう。作中で誰かが、「水1滴じゃダメでも、滴が出続ければ何かが変わるはず」みたいなことを言っていた。イスラエルが「住居を破壊する」なんて横暴を当たり前のように続けられるのも、そんな現状が世界にあまり知られていないからだろう。この現実を知る人が1人でも増えれば(「滴」が溜まっていけば)、大きなうねりとなって何かをぐわっと動かしていけるかもしれない。
私たちはそういう希望を持ちながら世界の色んな現実を知るべきだし、「そのことが酷い現状を変えるきっかけになる」と信じたいなと改めて実感させられた。
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最後に
パレスチナとイスラエルの争いは数世紀にも及ぶものであり、さらに宗教やら民族やら戦争やら大国の思惑やらが色々入り混じり、もう訳の分からない問題になってしまっていると思う。「世界一解決が難しい問題」という表現も目にしたことがあるし、簡単には状況が変わったりしないだろう。
しかしそれでも、「解決の道は存在するはず」と信じて前に進むしかないし、遠く離れた地のことではあるが、私たちも「何か出来ることはないだろうか?」という視点を持ち続けなければならないと思う。
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「ルールは守らなければならない」というのは大前提だが、常に例外は存在する。どれほど重度の自閉症患者でも断らない無許可の施設で、情熱を持って問題に対処する主人公を描く映画『スペシャルズ!』から、「ルールのあるべき姿」を考える
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1969年5月13日、三島由紀夫と1000人の東大全共闘の討論が行われた。TBSだけが撮影していたフィルムを元に構成された映画「三島由紀夫vs東大全共闘」は、知的興奮に満ち溢れている。切腹の一年半前の討論から、三島由紀夫が考えていたことと、そのスタンスを学ぶ
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一昔前、我々は「正しい情報を欲していた」はずだ。しかしいつの間にか世の中は変わった。「欲しい情報を正しいと思う」ようになったのだ。この激変は、トランプ元大統領の台頭で一層明確になった。『ニューヨーク・タイムズを守った男』から、情報の受け取り方を問う
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【衝撃】壮絶な戦争映画。最愛の娘を「産んで後悔している」と呟く母らは、正義のために戦場に留まる:…
こんな映画、二度と存在し得ないのではないかと感じるほど衝撃を受けた『娘は戦場で生まれた』。母であり革命家でもあるジャーナリストは、爆撃の続くシリアの街を記録し続け、同じ街で娘を産み育てた。「知らなかった」で済ませていい現実じゃない。
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日本は、死を覚悟して福島第一原発に残った「Fukushima50」に救われた。東京を含めた東日本が壊滅してもおかしくなかった大災害において、現場の人間が何を考えどう行動したのかを、『死の淵を見た男』をベースに書く。全日本人必読の書
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