【貢献】働く上で大切にしたいことは結局「人」。海士町(離島)で持続可能な社会を目指す若者の挑戦:『僕たちは島で、未来を見ることにした』

目次

はじめに

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この記事で伝えたいこと

10年後20年後の未来の日本全体の課題に、過疎地域は今まさに直面している

犀川後藤

だからこそ、そこで通用するモデルを生み出せば未来をリードできる、という発想は面白い

この記事の3つの要点

  • 多数のIターン者を呼び寄せる「海士町」という革新的な過疎地域
  • トヨタ自動車を退社して離島で起業をした若者
  • 「海士町」を「チャレンジングな若者が集まる場所」に変えた町長のリーダーシップ
犀川後藤

「どう生きたいか」と「課題解決」を重ね合わせる生き方の参考になる考え方がたくさんあります

この記事で取り上げる本

木楽舎
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いか

この本をガイドに記事を書いていくようだよ

自己紹介記事

犀川後藤

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

過疎地域こそ日本の最前線課題を解決できる場。『僕たちは島で、未来を見ることにした』が映し出す、離島にIターンして起業した2人の若者の奮闘

島根県の離島「海士町」と、「株式会社 巡の環」を起業した2人について

本書は、「これからどんな風に働けばいいか」に悩む人へのヒントになり得る1冊だと思います。大手企業を辞め、出身地ではない離島へとIターンし、そこで持続可能な社会を目指して起業した2人の若者の5年間の記録から、「働くこと」や「生きること」について考えさせられることでしょう。

いか

まあ、あなたが語るのに最も向いてない話でもあるけどね

犀川後藤

確かに、超適当に生きてきたからなぁ(笑)

まず、少し長いですが、本書に載っている「海士町」に関する紹介を引用してみましょう。

島根県の北60キロ、日本海に浮かぶ隠岐諸島の中の一つの島であり町である。
現在人口は2331人(2012年8月末現在)。年間に生まれる子供の数約10人。人口の4割が65歳以上という超少子高齢化の過疎の町。
人口の流出と財政破綻の危機の中、独自の行財政改革と産業創出によって、今や日本でもっとも注目される島の一つとなる。
町長は給与50%カット、課長級は30%カット。公務員の給与水準としては全国最低となる(2005年度)。その資金を元手に最新の冷凍技術CASを導入。海産物のブランド化により全国の食卓をはじめ、海外へも展開する。
産業振興による雇用拡大や島外との積極的な交流により、2004年から11年の8年間には310人のIターン(移住者)、173人のUターン(帰郷者)が生まれ、島の全人口の20%を占める。新しい挑戦をしたいと思う若者たちの集う島となっており、まちおこしのモデルとして全国の自治体や国、研究機関などからの注目を集めている

私も、本書を読む前だったかどうか覚えていませんが、「海士町」についてテレビで特集されているのを目にした記憶があります。過疎の進む地方の離島でありながら、何故か若者がたくさんIターンする町として取り上げられていました。この記事を書いている2021年現在の状況については分かりませんが(当然コロナウイルスによって様々な打撃を受けているでしょうし、本書に書かれている理念や夢を修正せざるを得なくなっているかもしれません)、本書で描かれる海士町と若者の物語は、他のどんな過疎地域にも関わってくるものでしょうし、参考になるのではないかと思います。

また、後でも触れますが、「過疎地域こそ日本の様々な課題の最前線であり、そこでの経験を未来の日本に活かすことができる」という発想を持つ2人が描く「未来の日本像」も、特に若い人には興味深く感じられるのではないかと思います。

いか

しかし、なかなか面白い町(離島)だよね

犀川後藤

町長が斬新な考えを持っているし、そこで暮らす多くの人も考え方が柔軟だなって気がする

さて、「株式会社 巡の環」を立ち上げた2人についてはざっと触れるに留めましょう。というのも、著者の一人である信岡良亮が巻末で、

そして、この本にちりばめられているエピソードのほとんどは、巡の環という会社がどうやってこの島のことを好きになっていったのかの歴史なのだと僕は思っています

と書いているからです。本書は著者2人の物語というよりは島全体の物語であり、そのような点について詳しく書くべきだろうと思っています。

阿部裕志と信岡良亮は、島にやってくるまでお互いのことを知りませんでした。共に都会での生活に疑問を抱くようになり、これから自分がどんな風に生きていきたいのかを検討した結果、海士町という選択肢にたどり着いたのだと言います。そして、島で知り合った2人は会社を設立、意見の相違から衝突が続く時期もありながら、本書執筆時点ではどうにか食べていけるだけの稼ぎを得られている、というような状況だそうです。

ちなみに代表取締役である阿部裕志は、京都大学を卒業してトヨタ自動車に入社、そしてそのトヨタを辞めて海士町にやってきたという凄い経歴だったりします。

過疎地域こそ、日本の課題の最前線

本書を読んで最も面白いと感じた発想がこの「過疎地域こそ日本の課題の最前線である」というものです。本書には、より具体的にこんな風に書かれています。

でも、この島には日本がこれから経験する、「未来の姿」がありました。
それは、人口減少、少子高齢化、財政難……どれもネガティブなものばかり。しかし、よくよく考えてみると、この島が今直面している課題は、未来の日本に到来すると言われ続けている課題と同じなのです。
もし、そうした未来のコンディションの中で、持続可能な社会モデルをつくることができたら、それは社会を変えるきっかけになる。社会の希望になれる。
「この島で起こった小さなことが、社会を変えるかもしれない」
僕たちはそう信じて、自分の未来をかけて、この島の未来をいっしょにつくる担い手になったのです。そして、僕たちの生きたい未来をそこに見ることにしました。

なるほど、この捉え方は非常に面白いし、「若者が過疎地域で生きることを選択する」という非常に真っ当な理由だと感じます。

人口減少も超少子高齢化も予測されていますし、経済の縮小によって日本という国がどんどん「稼げない国」になってしまうのもまた事実でしょう。そして、日本全体が未来に抱えるだろうこれらの問題に、過疎地域はいち早く直面しています

つまり、10年20年先の日本の未来を先取りしている過疎地域で「持続可能な社会モデル」を作ることができれば、未来の日本をリードする存在になれるかもしれない、というわけです。

犀川後藤

こういうことを自分の頭で考えられる人こそ、時代をリードしていくんだろうなって思う

いか

あんたには無理だよね

海士町には他にも、チャレンジングな若者がやってくるそうですが、その理由を阿部裕志はこんな風に指摘しています。

僕は、ここまで海士町が、“攻める”若者を引き込むのは、海士町が大きな未来へのビジョンを持っていることと、関わることのできる“余白”が残されていることにあると思っています

そして、動きが手に取りやすい社会の利点は、何か一部で変化が起こったときに、それが社会全体にどんな影響を及ぼすか推測しやすいということです。それと同時に小さな社会では、どこかで起きた何かの社会変化の影響がすぐに自分にも降りかかってくるため、他人事でいられることが少なくなっていく。社会と自分の関係性が想像しやすく、自分の役割が明確になるのです。
他人事であることが何もない社会。
それはつまり、誰もが他人のことを自分のことのように感じられる社会でもあります。
もちろんそれは、煩わしいことと表裏一体です。
その一方で、問題を他人事にして放っておくということは、この島ではあり得ません。
もちろん、何もかもではありませんが、社会問題をみなが自分のことのように考えて解決まで持っていくことができる。
小さな社会である島は、みなが社会で生活する人であると同時に、社会をつくる人であるわけです。だから、変化に対して対策を講じるスピードも自律的で早くなっていく
大きな社会は大規模な流通ができたり、巨大な利益を出すことに優れている分、こうした変化に対する危機予測・対応が生活者レベルで素早く共有することが難しい

私は「他人事であることが何もない社会」に向いていない自覚がありますし、「煩わしいことと表裏一体」なのは嫌なので、足を踏み入れようとは思いません。しかしその一方で、「アクションの効果が見えやすい」「社会問題が自分事になっている」という点がメリットだという話は納得できます。多くの人にはマイナスにしか感じられないかもしれない要素が、挑戦を行う者にとってはプラスになるという視点の転換は興味深いと感じました。

私はまだ、「人口減少」も「超少子高齢化」も、自分の問題として実感できていません。だからこそ、それらへの対策を示唆されてもさほど関心が持てないだろうし、自分が関わらなければならない問題だという意識を持てないと思います。

しかし、過疎地域では既に「人口減少」も「超少子高齢化」も現実の問題であり、現実的な対策が必要なわけです。問題意識が共有されているからこそ、余所者の意見にも耳を傾けるのだろうし、面倒くさい提案もやってみようと腰をあげる可能性が高まるかもしれません

そう考えた時、「何か成し遂げたい」と考えている人間には、過疎地域は非常に魅力的なステージに変貌すると言えるでしょう。

そんな発想でやってきた著者らを、町長は

巡の環は、海士に仕事をしにきたのではなく、仕事をつくりに来たというのが大きな特徴だね

と評価しています。

犀川後藤

こういう若者には頑張ってほしい

いか

他力本願だねぇ

「海士町」の町長も素晴らしい

本書には、自らの給与をカットまでして最新設備に投資した町長のインタビューも載っています。こんなリーダーがいるからこそ「海士町」という地方の過疎地域に若者が集うのだなぁ、と実感させられる存在です。

今は外から来た人の活躍が目立つけれど、将来は島前高校の生徒たちが先輩を見て、活躍していくことを夢見ている。
とはいっても、こっちで育てはしない。あくまでも強い戦力として、戦線に加わってほしいと思っている。この前も地元出身の大学生が「役場に入りたい」と言ってきたけれど、それはだめだとつっぱねた。ただ帰ってきて役場に入りたい、ではなく、海士で何かをやりたいという強い気持ちを持って帰ってきてほしい。戦力にならない状態で役場に入ったとしても、職員には育てる時間がない。みんなそれだけ一生懸命に戦っているのだ

凄い意思表示だと感じます。まさに「One for all, All for one」と言ったところでしょうか。トップがこのような覚悟で率いているからこそ、「チャレンジできる場」として認知されているのだと思います。また、こんな風にも言うのです。

プロジェクトなりイベントなり、何かやりたいと本気で考えている人というのは、最終的には熱意だけで成功に導いていく。金ではない。そう信じているからこそ、何かやりたいという人には、情報提供だけは惜しまず、本気の気持ちで応えようと思っている。

過疎地域には「無いもの」が多いでしょうが、そういう中でも「何でもやれる場」だけは提供しよう、という意気込みが伝わってくる感じがします。そういう「場」を目指してチャレンジングな人材が集まり、そういう人が色んな挑戦をするからこそ「何でもやれる場」がさらに強化される、という相乗効果が生まれるのだろうと感じました。

いか

こんな風に、頭の柔らかいリーダーが全国のあちこちで増えていけば、日本も面白くなっていくかもね

犀川後藤

「東京中心」が崩れるなら、それはそれで興味深いし

グローバル化への危機感と、その対抗策としての「学校」

ローカルな世界で「持続可能な社会」を作ろうと奮闘する阿部裕志は、世界中を覆う「グローバル化」の流れについて、こんな危惧を抱いています

狭義のグローバル化というのは、価格以外の情報に鈍感になっていくことを招きかねません。何かを選ぶということは、本来前提として自分が好きなもの、大切にしたいものは何かと知ることなしにはできないはずです。それが価格情報だけでアッサリ選べてしまう。これは均質化のもたらす危険だと僕は思います

私は元々「モノ」にほとんど興味が持てないので、服や食、デジタル機器など、多くの人が関心を抱き、かつグローバル化が進む対象の変化には疎いです。しかし、ファストファッションやファストフードのような「低価格でそれなり以上の品質」を提供する業態が増えたことで、「安いかどうか」が選択における最上位要素になってしまう、という変化を実感する人も多いかもしれません。

その対抗策の1つとして「巡の環」が事業として行っているのが「島の学校」です。これは、起業する以前から信岡良亮が海士町に提案していた企画書が原型となっているそうで、そんなどこの誰とも分からないような若者の企画書に「やりゃあいいだわい」とGOサインを出す町長もさすがだと感じます。

コンセプトは、

島に来てもらって、島まるごとを使っていろんなことを体験し考えて、そして自分にとって人生の次の一歩を見つけて島を卒業していける

というもので、この学校において2人は「先生」ではなく「先輩」として関わります。何かを教えるわけではなく、生徒と共に島の中で様々な実践をし、その過程で島のことを好きになってもらおうとするけです。そうやって生まれた繋がりによって、社会問題の解決や、生活のためのお金を稼ぐことを成り立たせていこうとしています

僕は田舎のような地域社会では、雇用がないことこそが解決すべき問題だと確信したのでした。
都会にはエコロジーや持続可能社会について学ぶ機会は豊富にあるけれど、それが実践されるための雇用が田舎には不足している。田舎の雇用不足が、田舎と都市の良好な関係を阻害するボトルネックだと分かったのです

確かに、それが問題の本質なのでしょうが、そうだと理解できたところで解決は容易ではありません。そういうところに積極的に関わっていって、余所者らしく問題を解決しようとする生き方に惹かれる人も多いのではないでしょうか

木楽舎
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最後に

私の感触としては、時代の雰囲気は益々「お金があればいい」「稼げればいい」とは逆の方向に向いている気がします。もちろん、稼ぐのが得意な人にはガンガン稼いでもらって税金を払っていただけると助かるわけですが、そうではない形で自分の人生を彩ったり、社会に貢献したりする生き方が様々に模索されているはずです。

誰もが社会に貢献しなければならないわけではありませんが、自分が面白いと感じることをやった結果として社会に貢献できればそれは良いことだろうし、そういう人生を目指したいと考える若者はなんとなくですが増えているような気もします。

そんな生き方の参考になる考えが詰まっている作品です。

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