目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 「『稽古場での台本読み』をドキュメンタリー的に捉え、それをフィクションとして提示する」という凄まじく謎めいた構成
- 「他人の子を殺した女」と「娘を殺された母親」が幼馴染であり、かつ「王国」という共通の記憶を有していることが、作品全体に通底するテーマに関係してくる
- 「『殺人の動機』が記された手紙を朗読するシーン」に打ちのめされてしまった
非常に挑発的で、永遠に未消化のまま残る作品だと思うが、観て良かったと感じられる映画だった
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記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『王国(あるいはその家について)』は、視覚的にはシンプルながら凄まじく挑発的という、実に衝撃的な作品だった
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久々に、ある意味で恐ろしくぶっ飛んだ、何なら”狂った”と表現してもいいくらいの映画を観た。たぶん私の中で「永遠に未消化のままの作品」になるだろうと思う。しかし、ややこしいことは考えずに、「鑑賞した」という事実だけをまず評価してみるとするなら、「観られて良かった」という感想になる。こういう表現はちょっとありきたりかもしれないが、本作を観て私は、「『映画』という表現形態の可能性が少し広がったのではないか」とさえ感じたのだ。とにかく、「同種の作品を観る機会などなかなかないだろう」という意味でも、非常に稀有な鑑賞体験だったなと思う。
作中のあるシーンの会話を丸ごと再現する
さて本作は、とにかく内容の紹介が非常に難しい。そこで、「説明を容易にする」という目的も兼ねて、作中のあるシーンの会話を丸々書いてみたいと思う。ちなみに、映画中に取ったメモと自分の記憶を元に再現しているので、細部まで正確というわけではない。あくまでも、「全体的にはこういう雰囲気のやり取りだった」ぐらいの捉え方をしてもらえたらと思う。
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「城南中で教えてるの?」
「うん、今年の4月からだけどね」
「へぇ、城南中で美術の先生かぁ」
「うん、何?」
「いや、だって城南中だよ」
「あぁ、昔は荒れてたとか、そういうこと?」
「聞いてた?」
「野土香も最初、そんな反応だった」
「私たちの頃とは違うんだって」
「えぇー」
「いやでも、それって、自分たちのところと比べてちょっと荒れてたとか、髪の色が派手とか、そういうことだろ?」
「あー、そうだったかも。私たち、私立の女子校だったからね」
「いやいや、そんなんじゃないって。大変だったんだから。窓ガラス、まったく無くて」
「あー、寒かったよねぇ」
「一緒に行ったよね?」
「えっ、何の話?」
「あぁ、ね、同じ小学校だった子が城南中で吹奏楽部に入ってね」
「そうそう、マッキー」
「そう! 『グロッケン叩きのマッキー』ね」
「えー、『マッキー・ザ・グロッケン』じゃなかった?」
「あー、そうだったかも」
「でしょ。でも、『グロッケン叩き』ってなんか聞き覚えあるんだよなぁ」
「どっちだっけ?」
「えーっと、ちょっと待って」
「いやいや、どっちでもいいから、何?」
「えーっと、何だっけ?」
「だからぁ、同じ小学校の子が城南中で吹奏楽部」
「そうそう!……で、何だっけ?」
「定期演奏会」
「そうそう! 定期演奏会があるっていうから行ったのね。そしたらもう別世界。体育館の窓、全部無くて」
「窓、窓……窓っていうか、元々窓があった場所、そこにダンボールが敷き詰められてて」
「風が吹くとバタンバタン音がして」
「演奏会どころじゃなかったよね」
「落描きとかも凄かったもんね」
「埋め尽くされてた」
「そうかぁ、今は大分変わったけどなぁ。生徒も大人しいもんだし」
「まあ、いじめとか不登校とか、そういうのはあるみたいだけどね」
「……ま、それはあるな」
「……いや、別に、どのクラスの誰がってことじゃなくて」
「……だから、直人さんが城南中で美術教師って聞いて、落描きを教えてるんだって思った」
「あははは」
「直人先輩、上手く教えそうだし」
「分かるー」
「そうかぁ?」
「ほら、何にでも理屈をつけたがるでしょ?」
さて、この会話そのものに何か意味があるというわけではない。交わされているやり取りは、よくある雑談程度のものだろう。問題は、「何故私は、このやり取りを記憶しているのか」である。
「台本読み」がそのまま映し出される特異な構成と、本作に通底する「王国」というテーマについて
私は決して、記憶力が凄まじく良いわけではないので、普段は、映画を観て作中のワンシーンの会話を丸々記憶するなどということはまずあり得ない。では今回はどうして、会話の再現が出来ているのか。
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その理由はシンプルだ。作中で、このやり取りが何度も何度も繰り返し行われるからである。複数のシーンが何度も流されるのだが、繰り返される回数はシーン毎に一定というわけではない。ちゃんと数えていたわけではないが、私の体感では、先に文字起こししたこのシーンが最も多かったのではないかと思う。20回以上は観たような気がする。
別に、「タイムループものの作品だから、同じシーンが繰り返されている」みたいなことではない。本作は実は、「3人の役者が台本読みをしている、まさにその様子が映し出される作品」なのである。私が何を言っているのか、理解できるだろうか?
まずは、彼らが読んでいる台本の内容にざっくり触れておこう。「亜希・野土香・直人という、大学時代同じサークルに所属していた3人が、野土香・直人夫妻の娘・穂乃香を含めた関わりの中で、人間関係に様々なしこりが生まれる物語」というストーリーである。そして本作『王国(あるいはその家について)』は、「澁谷麻美・笠島智・足立智充という3人の役者が、この物語の台本を片手に読み合わせを行っている様子」をカメラで切り取り、ある種ドキュメンタリー的に観客に提示する作品というわけだ。
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冒頭、動きやすそうな服を着て、役者たちは稽古場のような場所に置かれたパイプ椅子に座っている。読み合わせが進むにつれ、「車内」や「ダイニング」などを簡易的に再現する状況づくりが行われるが、あくまでも立ち位置などをイメージしやすくするためのものでしかなく、観客からすればやはりそこはただの稽古場でしかない。そしてそのような空間の中で、ひたすら「台本の読み合わせ」だけが行われるのである。
これは、「映画制作のプロセス」というより「演劇制作のプロセス」であるように私には感じられた。演劇の場合は普通、観客は「完成されたもの」しか観られない。しかし本作では、その「稽古の様子」が映し出されているようなものだ。「稽古」なのだから当然、役者は何度も同じ箇所を繰り返す。役者が横並びに座ったり、向かい合わせだったり、あるいは簡易的なセットの中で行ったりと若干状況は変わるが、セリフ自体はすべて同じだ。いや、稽古が進むにつれ役者は台本を持たなくなるので、そうなって以降は毎回セリフに若干の差異が生まれはする。しかし逆に言えば、その差異に気づけるぐらい同じやり取りを何度も繰り返しているとも言えるだろう。
さて、そのような作品なので当然ではあるが、観客は「役者が次にどんなセリフを口にするのか知っている」という状態で目の前のやり取りを観ることになる。小説でも映画でも何でも、同じ作品に何度も触れれば同じ状況になるわけだが、初見の作品でそのような感覚に陥ることなどまずあり得ない。まずこの点が、本作を観る際の非常に特異な体験と言えるだろう。
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さらにこの状況は、別の効果ももたらしているように思う。本作『王国(あるいはその家について)』では、冒頭のシーンなどの一部を除けば、「亜希・野土香・直人の物語世界」が視覚的に提示されることはない。そのほとんどが「稽古場」の中で展開される構成なのだから当然だ。しかし同じセリフが何度も繰り返されることによって、「亜希・野土香・直人の物語世界」が視覚化されていくような感覚に陥っていくのである。「『セリフの多重録音』によって状況に厚みが増していく」とでも言えばいいだろうか。実際には存在しない「亜希・野土香・直人の物語世界」が目の前に現出するかのような錯覚に陥るのだ。
そしてそのことは、「亜希・野土香・直人の物語世界」において重要なテーマの1つとなる「王国」にも接続されていくように思う。
台本の世界の中で、「王国」という言葉は特別な意味合いを持つ。亜希と野土香は既に社会人になっているが、元々は幼馴染である。そして彼女たちには、「22年前の台風の日に、椅子とシーツで『王国』を作った」という記憶があるのだ。また2人は、作り上げた「王国」への扉をくぐるための「合言葉」となる歌も定めた。そしてそのことが、22年後の今、「ある事件」に大きな意味合いを持つのである。
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その「王国」はもちろん、彼女たちが「王国」と呼んでいるだけのものであり、実際には「シーツで仕切られた空間に椅子が置かれている」という程度の存在に過ぎないだろう。2人以外にとっては「王国」と名付けるような価値などないはずで、「存在しないもの」とさえ言ってもいいかもしれない。しかしこの「王国」は、2人にとっては「確かな感触をもたらす存在」なのである。
そしてこのような捉え方は、本作『王国(あるいはその家について)』と観客との関係性にも当てはまると言えるだろう。台本の朗読によってしか浮かび上がらない「亜希・野土香・直人の物語世界」は、観客にとっては「存在しないもの」である。しかし同時に、セリフの執拗な繰り返しによって、「その世界が可視化されたような気分」になり、そのことによって「『亜希・野土香・直人の物語世界』が『確かな感触をもたらす存在』に感じられるようにもなる」というわけだ。
本作が何をどのように意図して作られているのか正直よく分からないのだが、私にはまずこの対応関係が非常に鮮やかだと感じられたのである。
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「亜希・野土香・直人の物語世界」についての説明
さて、一旦ここで、「亜希・野土香・直人の物語世界」について少し具体的に触れておこうと思う。本作『王国(あるいはその家について)』では、時系列も無視してあらゆるシーンの台本読みがランダムに提示されるので、以下に書くことはあくまでも私が自分なりに再構成したストーリーに過ぎないが、恐らく大きな誤りは無いと思う。
亜希は体調不良が長く続いたこともあり、出版社での勤務をしばらく休むことにした。そして、都心の自宅から電車で1時間半ほどの距離にある茨城県龍ケ崎市の実家に戻ることに決める。幼馴染の野土香とはあらかじめ連絡を取っており、同じサークルで1個上の直人先輩との結婚式以来4年ぶりの再会となった。そんなわけで、3歳になる娘の穂乃香と会うのも、彼らが建てた家を訪ねるのも、これが初めてである。
家の中に入った亜希は当初、「隅々まで行き届いた居心地の良さ」をそこに見て取った。しかし次第に「窮屈さ」を感じるようになっていく。その理由はひとえに、夫・直人の神経質さによるものだと思われた。教師である直人は、娘のために細部に渡って神経を張り巡らせているようなのだ。そして「そのせいで野土香が息苦しさを感じているのではないか」と亜希には感じられてしまうのだった。そんなこともあり、亜希はその後も家を訪ねた際は、彼らの生活に”助言”するようになっていく。
しかし、娘のことが最優先である直人にとって、亜希からの”助言”は単なる「ありがた迷惑」でしかなかった。直人は、亜希が家族の問題に口出ししてくる状況を憂慮するようになる。そして野土香とも話し合い、夫妻はしばらく亜希を家から遠ざける決断をした。亜希にもそのことを伝え、彼らの関係性は少し疎遠になっていく。
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さてある日のこと、亜希は野土香から緊急の連絡をもらった。少しだけ穂乃香を見てもらえないかというのだ。亜希はその頼みを引き受けたが、折しもその日は、大型の台風が近づいている日だった。家の中にいても、穂乃香は台風に気をとられてしまう。亜希はどうにか穂乃香の関心を別のものに向けようとするが、なかなか上手くいかない。そして、ちょうど台風の目に入ったのだろう、外の様子が一旦穏やかになったタイミングで、穂乃香から「外に出たい」とせがまれてしまった。亜希は悩んだ末、増水した川を見るために橋へと向かうことにするが……。
さて、今説明した内容はすべて「台本上の物語」であり、観客に対して視覚化されはしない。すべて「稽古場」内で展開される物語だ。そして先述した通り、本作『王国(あるいはその家について)』は「『亜希・野土香・直人の物語世界』が視覚化されたシーン」から始まる。なので、そちらについても触れておくことにしよう。
冒頭のシーンは、取調室内で完結する。取り調べ自体は既に終わっているのだろう、映し出されるのは「証言をまとめた調書を刑事が読み上げ、その内容に問題が無ければ容疑者にサインをしてもらう」という手続きの場面だ。刑事の向かいに座るのは亜希。彼女は「穂乃香を橋から投げ落とした」と自ら告白し、殺人容疑で逮捕されたのである。そして、「彼女が静かに刑事の読み上げを聞いている」というだけの状況が淡々と映し出されていくというわけだ。
この取調室のシーンが終わると、場面はそのまま稽古場に切り替わる。そしてそこからは、作中のほとんどが「稽古場での台本読み」だけで構成されていくというスタイルになっていくのだ。作品のイメージは掴めないかもしれないが、とにかく非常に特異な作品だということは伝わるのではないかと思う。
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映像では提示されない物語世界を“幻視”させる見事な構成と、非常に印象的だった手紙の内容
まず、全体の構成で上手いと感じたのが、「冒頭に取調室のシーンを持ってきたこと」である。刑事がひたすら調書を読み上げるだけなのだが、それを聞いていれば、「亜希・野土香・直人の物語世界」の基本情報がざっくりと理解できるようになっているのだ。
もちろん、情報が欠落している部分も多いし、そもそも調書内のどの情報を記憶しておくべきなのかの判断もつかないわけで、全体の把握は正直容易ではない。しかしそれでも、「台本読みの状況だけをひたすら撮り続ける」という特異な構成の作品を作る上で、最低限の基本情報を違和感なく提示できる本作の構成は、とても見事だと感じられた。この取調室のシーンがないまま台本読みが始まっていたら、あまりの訳の分からなさに鑑賞は容易ではなかったかもしれないとも思う。
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そしてその後、150分間の上映時間のほとんどを「台本読み」が占めることになる。こちらのパートについても先述した通り、「セリフの繰り返しによって、可視化されているわけではない物語世界が”幻視”できる」という、なかなか体験しがたい面白さがあった。いや、正直なところ「面白い」という表現ではちょっと感覚がズレる部分もあるのだが、一方で「『面白い』と書くしかないか」という感じもある。
さてそんなわけで、もちろん「台本読み」のパートも非常に興味深かったわけだが、本作において最も印象的だったのは、亜希が手紙を朗読するシーンだ。シーンというか、その手紙の内容そのものと言うべきだろう。この手紙は、「穂乃香を突き落とした亜希が野土香に対して自身の罪を告白し、さらに、その時の自分の思考や感情を可能な限り言語化しようとしたもの」である。そしてこの手紙の内容こそが、私にとっては最も印象的だったのだ。
映画の冒頭は取調室のシーンから始まるが、刑事が朗読する調書の内容は、結果として亜希の芯をまったく捉えていない。また、「台本読み」で語られるパートはほぼ、穂乃香が殺される前の話である。そのため、「亜希がなぜ穂乃香を橋から投げ落としたのか」という動機に直結するような描写はほとんど無いと言っていい。
そのため、物語終盤で差し込まれる「亜希が手紙を朗読するシーン」が、作中で初めて「殺人の動機」的なものに言及する場面と言えるだろう。それは、「台本読み」のパートで触れられる様々な要素をぎゅっと凝縮したような内容であり、普通に考えたら「理解不能」にしか思えないだろう「殺人の動機」が、その手紙によって絶妙に浮かび上がったように感じられた。
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いや正確に言えば、それは正しい理解ではない。というのも、亜希自身が手紙の中で、「私たち以外の人にはきっと、何を言っているのか分からないと思う」と書いているのである。実はここに、「椅子とシーツで作り上げた王国」が関係してくるのだ。その「王国」は2人にしか価値が通じないものであり、そしてその「王国」の存在こそが、亜希の「殺人の動機」に繋がっていくのである。だから、他の人には理解できないというわけだ。
さて、この手紙の中で興味深いのは、亜希が野土香に向けて、「あなたなら理解できるのではないかと思っています」と書いた上で、さらに、「でもだからと言って、自分のことを責めないで下さい」と記している点だろう。
一応確認しておくが、穂乃香は野土香の娘であり、亜希は穂乃香を殺したのである。そしてそんな野土香に向かって亜希は、「自分のことを責めないで下さい」と伝えているのだ。単にこれだけ聞くと、亜希のことを「狂気」にしか感じられないのではないかと思う。
しかし一方で、「台本読み」を通して執拗に語られる物語からは、亜希のその理屈、つまり「自身が殺した娘の少女に、『自分のことを責めないで下さい』と主張する理由」が僅かに読み取れた気もするのである。もちろん、すべての人がそれを理解できるとは思わないし、私としても完璧に把握できたなどということはまったくない。しかし、「王国」という「亜希と野土香にしか通じない話」をベースに据えて「穂乃香を殺した理由」を語る亜希の内心が、私には少し分かるような気がしたのである。
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そのため、亜希が朗読しているシーンでは、ちょっとゾワッとさせられてしまった。「『亜希の理屈』が理解できてしまうこと」は明らかに、一般的な倫理観に照らせば「良くないこと」でしかないからだ。「亜希の側に立ててしまうかもしれない」という感覚は、私自身を少し震わせたのである。
「空間を持ってしまった王国」という表現から、「直人・野土香の狂気」について考える
さてこのように、「亜希の狂気」はとても分かりやすい。冒頭の取調室のシーンもそうだし、手紙を朗読するシーンもそうだが、彼女が内に抱える「狂気」は、見てそうと分かるような捉えやすい形で描かれている言えると思う。
しかし「台本読み」のシーン、つまり「亜希・野土香・直人の物語世界」においては、亜希はむしろ普通の人物として描かれているように私には感じられた。そして、「亜希・野土香・直人の物語世界」においてはむしろ、「直人・野土香の狂気」が描かれているのではないかと考えているのである。
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亜希の手紙には印象的な言葉が色々あったが、その中でも「空間を持ってしまった王国」という表現がとても気になった。本作における「王国」とは基本的に、「亜希と野土香が作った、椅子とシーツで出来た王国」のことである。それは、「確かな手触りを有しつつも、物理的な空間には囚われないもの」として2人の間では諒解されており、この理解を踏まえた上で、亜希は「空間を持ってしまった」と表現しているのだ。となれば、「空間を以ってしまった王国」とは「直人・野土香夫妻が建てた家そのもの」を指していると考えるべきだろう。そして、主に直人の主導によって、「家」という空間が「穂乃香にとっての王国」に仕立て上げられていく様子を見て、亜希は危惧を覚えたというわけだ。
夫妻の家を訪れた亜希が何らかの違和感を覚えたことに対して、「彼女の感覚こそが狂気なのではないか」みたいに感じた人もいるかもしれない。しかし本作を観れば恐らく、そのような印象にはならないだろうと思う。「亜希・野土香・直人の物語世界」ではむしろ、直人の方こそが「狂気」であるように映るはずだ。そして、亜希ではなく直人を選んだ野土香もまた、結局のところ「直人の狂気」に取り込まれてしまったと考えるべきなのだろう。
最終的に「殺人」という行為に手を染めてしまった亜希はもちろん、その客観的事実を基に「狂気」と判断されても仕方がない。しかし実は、本当の意味での「狂気」は直人に宿っており、それが野土香や穂乃香にも伝染していたのではないか。そんな風にも想像させるのである。とにかく私には、「『亜希・野土香・直人の物語世界』は、『直人の狂気』を描き出すために構築された」としか考えられなかった。
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本作『王国(あるいはその家について)』では、「亜希が穂乃香を殺した後の、野土香・直人の反応」は一切描かれない。そのため、彼らが何をどのように受け止め、亜希の動機をどのように解釈をしているのか、客観的な事実は不明だ。しかし、直人の反応は容易に想像出来る。恐らく彼は、「思っていた通り、亜希は異常な人間だった」と考えているはずだし、亜希と再び関わりを持ってしまったことを深く後悔しているだろうと思う。
しかし、野土香の方はどうだろうか?
「台本読み」のシーンの中に、直人が野土香を叱る場面がある。状況はあまりはっきりとは分からないが、「穂乃香が大きくなるまでは止めようと決めていた約束」を野土香が破ってしまい、そのことに対して直人が怒りを露わにしているのだ。その「約束」自体は、直人曰く「ちっちゃいこと」であり、彼自身も「目くじらを立てて怒ることではないかもしれない」と考えている。しかし直人は、「少しの綻びが大きな崩壊に繋がってしまう」とも考えているのだろう。そのため、「小さな約束だとしても、野土香がそれを破ったという事実を問題視する」のである。
野土香が何故約束を破ったのかについては、はっきり推定できる要素は無い。ただ、作中での描かれ方から察するに、大きな方向性としては、「野土香は、直人と同じレベルでは娘のことを考えられなかった」ということではないかと私は想像している。そして、もしもそうだとしたらやはり、野土香にとっても自宅はかなり「窮屈」な空間だったのではないかと思う。家の細部に渡り「娘のため」という直人の神経が張り巡らされているわけで、「その状況に耐えられなくなったためず、約束を破ってしまった」みたいな感じだろうと私は考えているのである。
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そして、私のこの捉え方が正しいならば、亜希が手紙に書いた「空間を持ってしまった王国」という表現に、野土香が共感した可能性も低くはないと思う。そして亜希は、そういうことまで考えて「自分のことを責めないで下さい」と書いているかもしれないのだ。このように考えると、穂乃香の死は結果として、直人と野土香の間に元々あった「亀裂」を決定的に視覚化させるものとして機能したと言えるかもしれない。
私のこのような思考は正直なところ、屋上屋を架しているというか、砂上の楼閣というか、とにかくかなり無理があるのものに感じられるかもしれないし、もしかしたら全然的外れかもしれないとも思う。しかし1つ確かなことは、「このような思索をいくらでも深められるぐらい『繊細な余白』に満ちた物語である」ということだ。本作のような感覚をもたらす作品はそうそうあるものじゃないだろう。
いずれにせよ、なかなか凄まじい物語だと思う。決して万人に勧められる作品ではないが、観られる機会がある人は是非鑑賞を検討してみてほしい。
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普段、鑑賞前には出来るだけ作品の情報を入れないようにしているのだが、鑑賞後に感想を書く段になったら、公式HPは必ずざっくり目を通すようにしている。さて、映画『王国(あるいはその家について)』の公式HPには本作について、「演出による俳優の身体の変化に着目」みたいなことが書かれているのだが、正直私にはその辺りのことはよく分からなかった。そう考えると、この記事の中で私がつらつら書いたようなことはきっと、まるっきり的外れなのだろうと思う。
ただ私は、「制作側の意図を正確に理解したい」みたいに思うことはあまりなく、「作品を通じて自分の中に思考が満ちればいい」ぐらいに考えている。そういう意味でも、様々な方向からあれこれと考えてしまいたくなる本作は実に魅力的だった。まさに「未知の鑑賞体験」だと言える。面白かったかどうかと聞かれると返答に困る作品ではあるが、観て良かったと思える作品であることは間違いない。
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ベートーヴェンと言えば、誰もが知っている「運命」を始め、天才音楽家として音楽史に名を刻む人物だが、彼について良く知られたエピソードのほとんどは実は捏造かもしれない。『ベートーヴェン捏造 名プロデューサーは嘘をつく』が描く、シンドラーという”天才”の実像
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とても難しくわかりにくい映画『鳩の撃退法』についての考察をまとめていたら、1万7000字を超えてしまった。「東京編で起こったことはすべて事実」「富山編はすべてフィクションかもしれない」という前提に立ち、「津田伸一がこの小説を書いた動機」まで掘り下げて、実際に何が起こっていたのかを解説する(ちなみに、「実話」ではないよ)
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2008年に開設された新たな刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」で行われる「TC」というプログラム。「罰則」ではなく「対話」によって「加害者であることを受け入れる」過程を、刑務所内にカメラを入れて撮影した『プリズン・サークル』で知る。
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1969年5月13日、三島由紀夫と1000人の東大全共闘の討論が行われた。TBSだけが撮影していたフィルムを元に構成された映画「三島由紀夫vs東大全共闘」は、知的興奮に満ち溢れている。切腹の一年半前の討論から、三島由紀夫が考えていたことと、そのスタンスを学ぶ
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