目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:セルゲイ・ロズニツァ
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 図書館等のアーカイブのみならず、個人収蔵の映像も自らの足で探し出して使用したという、凄まじい映像満載の映画
- 「バビ・ヤール大虐殺に至るまでの過程」と、「『バビ・ヤール大虐殺にウクライナ市民も加担していた』という事実」を、過去映像のみによって再構築していく
- 最も驚かされたのは、自身の衝撃的な経験について裁判で淡々と証言する女性の話である
使われている映像を観るだけでも価値があると感じるぐらい、驚愕のシーンが満載のドキュメンタリー映画
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
ウクライナで起こったホロコースト(大虐殺)を、当時の映像を再構成することで浮かび上がらせる映画『バビ・ヤール』の衝撃
使われている映像素材がとにかく凄まじい
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本作で扱われているのは、第二次世界大戦中にウクライナで起こったホロコーストとして知られる「バビ・ヤール大虐殺」だ。ユダヤ人が無惨に殺された痛ましい事件であり、本作を観るまでその存在さえ知らなかった私のような人が観るべき映画だと思う。
しかし、「バビ・ヤール大虐殺」そのものに触れる前にまず、本作の構成とその特異さに触れておくことにしよう。
本作『バビ・ヤール』は、「かつて撮影された白黒の映像を繋ぎ合わせて作られた映画」である。現代を生きる誰かにインタビューするシーンなどは一切含まれず、最初から最後まで「戦中戦後に撮られた映像」のみで構成されているというわけだ。
私はこれまでにもそのような構成の作品に触れてきたし、全編過去映像ではないが作中に古い映像が混じる構成のドキュメンタリー作品も結構観たことがある。しかし、本作で使われている映像はちょっと別格だった。「こんな映像が存在するのか!」と驚かされるようなものばかりだったのだ。
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シンプルに驚愕させられたのは、公開処刑で一斉に首吊りが行われるシーンである。凄まじい映像が残っているものだなと感じた。また作中には随所で、「ハエがたかる死体」や「死体をモノのように扱って死体置き場へ放り投げる様子」のような映像が使われている。何とも凄まじいインパクトを与える映像ばかりだ。当然、それらにも驚かされたのだが、実はそれだけではない。
例えば、説明がほぼ無い作品なのでその行為の目的は不明なのだが、「人々がスコップで地面を掘り返している映像」なども印象的だった。何故なら、「わざわざこんなシーンを撮っておこうと考えた人がいたのだ」と感じさせられたからだ。水路でも作っているのか、地面を細長く掘り返している。スコップを持つ人の中には男性だけではなく女性もいて、しかも下着姿に見えるような半裸の女性もいたりするのだ。そんな映像を何故撮影していたのか不明だし、それを残しておこうと考えたのも不思議だと感じた。
また、映画の後半には裁判を映した映像も出てくるのだが、これもまあよく残っていたものだと思う。もちろん、有名な人物が被告となる裁判の映像が残っていることは何の不思議もないが、本作で映し出される裁判は、著名な人物のものではないのだ。この裁判は、「バビ・ヤール大虐殺」から5年後ぐらいに行われた。その時点ではまだ、「バビ・ヤール大虐殺」が後世どのような評価をされるのかまったく不透明だったはずだ。そのような時代に、「この裁判は記録に残しておくべきだ」と考えた人物がいたわけで、そういう背景を踏まえると、現代まで残っていることが驚きである。
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さらに、撮影手法にも驚かされた。作中には、「低空で飛ぶ飛行機の中から撮影されたのだろう映像」や「壊滅状態の街をまるでドローンで撮影しているかのような映像」もある。それらは、白黒であることを除けば、とても現代的な映像に見えた。このように本作ではとにかく、使われている素材そのものに対して、「よくこんな映像が残っていたものだ」と感じさせられたのだ。
映画を観ながら私はそう思っていたのだが、上映後に行われた、東京大学大学院教授によるアフタートークの中でも、登壇したソ連研究者・池田嘉郎氏が同じように語っていたので、学者の視点からも衝撃的な映像なのだと理解できた。池田氏によると、本作『バビ・ヤール』の監督セルゲイ・ロズニツァは、図書館等にあるアーカイブだけではなく、個人収蔵の映像も自らの足で探し出して本作を完成させたのだそうだ。個人収蔵のものも多くあるのなら、「こんな映像が存在するのか!」と感じるのも当然と言えるかもしれない。
そんなわけで、とにかく「素材の映像」が凄まじい作品だった。
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さて、先ほども少し触れたが、本作は映像についての説明がほぼない。そのため、戦時中のヨーロッパやユダヤ人を取り巻く状況などについてかなり知識を有していなければ、映像だけ観ていても、「今何が行われているのか」「1つ前の映像とはどう繋がるのか」などを理解することは難しいように思う。少なくとも、私は把握できなかった。しかし、これは決して非難ではない。良い捉え方をするのなら、「説明が少ないお陰で、映像そのものが持つインパクトがストレートに伝わった」とも考えられるからだ。とはいえ、「内容の理解」という点で言えばやはり「説明不足」であると指摘せざるを得ない。私は正直、上映後のアフタートークを聞いてようやく、映画全体で一体何を描こうとしていたのかが理解できたような状態だった。
本作を観る場合、「映像だけ観ても意味が分からないかもしれない」という覚悟を持っておくことは必要かもしれない。
「バビ・ヤール大虐殺」だけではなく、そこに至るまでの過程を描き出す作品
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本作の焦点が「バビ・ヤール大虐殺」にあるのは確かだが、この事件だけを描き出す作品なのではない。映画では、「バビ・ヤール大虐殺」に至るまでの長い長い過程が描写されるのである。正直、この点には驚かされた。なにせ先述した通り、本作は「過去映像を繋ぎ合わせただけの構成」なのだ。どう考えても映像資料が乏しいはずの時代に起こった出来事を、集めた映像だけを使って再構成するのはかなり困難だったのではないかと思う。
さて、ロシアによるウクライナ侵攻に関する報道でよく耳にした話なので知っている人も多いとは思うが、ウクライナという国は元々ソ連の一部だった。ソ連崩壊と共に独立を成し遂げたわけだが、映画で映し出される時代はまだソ連のままである。作中では、「ウクライナ・ソビエト社会主義共和国」という表記がなされていた。
映画は1941年6月から始まる。しばらくするとナチスドイツに占領されてしまうのだが、首都キエフ(今は「キーウ」と呼ばれている)では「解放者ヒトラー」として歓迎されていた。詳しい状況は不明だが、もしもウクライナが既にこの時点で「ソ連からの独立」を望んでいたのなら、「『ヒトラーがソ連からの独立を実現させてくれる』ことを期待し歓迎していた」という解釈も出来るかもしれない。その辺りのことは詳しくないので何とも言えないのだが。
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そして、1941年の9月29日・30日に、後に「バビ・ヤール大虐殺」と呼ばれることになる「ユダヤ人の大虐殺」が起こる。実はこの直前、ナチスドイツが占領していたキエフ市街が大規模な爆発に見舞われるという事件が起きていた。驚くべきことに、この爆発によって建物が崩壊する様子を映した映像も残っている。この爆発は、後にソ連の仕業だと判明するのだが、ナチスドイツは「キエフに住むユダヤ人の犯行」と断定した。そしてキエフに住むユダヤ人に、「貴重品を持って、バビ・ヤール渓谷まで来るように」と命令を出す。彼らはそのまま殺害され、2日間で33,771名が犠牲になったのだそうだ。この「バビ・ヤール大虐殺」は、「単一のホロコーストで最大の犠牲者を出した事件」として知られている。
その後、1943年11月にソ連がキエフを占領し、それから「バビ・ヤール大虐殺」に関する裁判が開かれた。本作ではそのような流れが、過去映像を繋ぎ合わせることで描かれていくというわけだ。
「ウクライナ市民がホロコーストに加担していた」という、本作が示す最も重要なテーマについて
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さて、ここまで説明してきたような事実関係については、映画を観ていれば大雑把には理解できるだろう。しかし、本作が真に切り取ろうとしている事実については、私は自力では理解できなかった。それは、「ウクライナ市民がホロコーストに加担していた」という過去の汚点である。
アフタートークでそのように指摘された後、映画を観ながら取った自分のメモを見返し、作中には確かにそのことを示唆する要素がたくさんあることに気付かされた。例えば、ある場面では次のような字幕が表記される。
ユダヤ人の大虐殺について、キエフ市民からの抵抗も反対もなかった。
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「間接的な加担」を示唆する言葉と言えるだろう。あるいはもっと直接的に示す場面もあった。戦後、欧米の記者がバビ・ヤール渓谷にやってきた際、ある人物がカメラの前で次のように語った映像が使われているのである。
キエフ市民がユダヤ人の死体の処理をさせられた。ナチスドイツは処理に加担した市民を殺そうとしたが、300人の内12名が脱走した。だからこうして世界にこの事実を発信する。
この人物は、「ナチスドイツがかつて行った恐ろしいホロコースト」についてカメラの前で訴えようとしているのだが、しかし彼の発言によって同時に、「キエフ市民がそのホロコーストに加担していた」という事実が図らずも明らかになってしまったというわけだ。
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このように本作では、「ウクライナがかつてホロコーストに加担していた」という事実が示されており、さらにその上で「その歴史を隠蔽しようとした」ことにも触れられている。というのも、本作は1952年12月2日の映像で終わるのだが、この映像には次のような字幕が付いていたのだ。
キエフ市はバビ・ヤール渓谷に産業廃棄物を埋め立てる決定をした。
私は当初この文章の意味が分からず、アフタートークを聞いてようやく理解できた。要するにこれは、「ウクライナが『バビ・ヤール大虐殺』という過去を隠蔽しようとしていた」という事実を示唆しているというわけだ。
そのような「指摘」を含む作品だったからだろう、本作はウクライナにおいてはかなり批判的に受け止められたという。まあ、このような作品の性質を理解すれば、それも当然と言えるだろう。
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さて、本作を観てその意図を正しく理解したことで、私はようやくあることに合点がいった。それは、ロシアがウクライナ侵攻を正当化する理由の1つとしてよく挙げられる「ウクライナの非ナチ化」についてである。私は報道などでこの言葉に触れる度に、「何故ウクライナが『ナチス』と見做されているのか」が分からなかった。正直なところ、「どうせプーチンが適当な言いがかりをつけているんだろう」ぐらいに考えていたのである。しかし本作を観て、「バビ・ヤール大虐殺にウクライナが加担していた」という事実を知ったことでようやく、「恐らくこの点を指してウクライナを非難しているのだろう」と理解できたというわけだ。
しかし、アフタートークの中で、この点に触れた池田氏は、観客に注意を促してもいた。本作は実際、ロシアが主張する「ウクライナの非ナチ化」を裏付ける「証拠」のようなものとしてプロパガンダ的に悪用されることが多いらしいのだが、「そのような分かりやすい捉え方はしない方がいい」と言っていたのである。彼は、監督セルゲイ・ロズニツァが本作に込めた意図について、「『ウクライナの個人』がナチスに加担した」という捉え方をしているという。「ウクライナが」ではなく「ウクライナの個人が」という点が重要なのであり、「あくまでも個人の問題だ」というスタンスをとっているようだ。
そのことが分かりやすく伝わるエピソードとして池田氏は、セルゲイ・ロズニツァがウクライナ映画人協会を除名された出来事について語っていた。除名の理由は、「ウクライナ映画人協会が『ロシアの映画を排除しろ』と主張していたことに彼が反対したから」である。これだけ聞くと、セルゲイ・ロズニツァがさもロシアの肩を持っているかのような印象になるだろう。
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しかし実際にはそうではないという。彼は明確に、「ウクライナ映画人協会のトップが偏狭な人間であることが問題だ」と主張しており、あくまでも「個人の問題」だと認識しているというのだ。彼のそれまでの様々な言動からもそのようなスタンスは明快なのだそうで、「だからこそ、セルゲイ・ロズニツァが『ウクライナを非難するため』に本作を作ったはずがない」と池田氏は主張していたのである。
さらに池田氏は、セルゲイ・ロズニツァがかつてNHKのインタビューを受けた際の発言についても触れていた。インタビューの中で彼は、「過去の暗部を見つめることこそが、抵抗のための一番の手段ではないか」みたいなことを言っていたというのだ。池田氏はその発言に、「まさにその通りだ」と賛同していた。つまり、客観的な見え方はどうあれ、セルゲイ・ロズニツァのスタンスはむしろ「ウクライナ擁護」と捉えるべきなのだと思う。
「安易な解釈は禁物」というわけである。
セルゲイ・ロズニツァと「バビ・ヤール大虐殺」の関係について
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アフタートークでは、監督セルゲイ・ロズニツァと「バビ・ヤール大虐殺」の関係についても触れられており、その話も非常に興味深かった。
セルゲイ・ロズニツァはウクライナで育ったのだが、そもそもの生まれはソ連である。子ども時代をキエフで過ごした後、映画を学ぶためにモスクワへと戻ったという。その後1980年代に、彼は「バビ・ヤール大虐殺」の存在を初めて知り、衝撃を受ける。そしてその時点で、「いつかこの出来事を映画にする」と決意したのだそうだ。
さて、「バビ・ヤール大虐殺」の存在を知った際、彼の脳裏にはある光景が過ぎったという。実は子どもの頃に、彼はそうとは知らず「バビ・ヤール大虐殺」の一端に触れていたというのだ。
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子どもの頃、セルゲイ・ロズニツァはスイミングプールに通っていたのだが、そこが実は、「バビ・ヤール渓谷の埋め立てを起点とした大規模な建設計画において、実際に作られたいくつかの施設の内の1つ」だったのである。彼は巨大な埋立地の横を通ってプールへ行き来しており、そこに点在する墓も目にしていた。墓標は異国の言葉(恐らくドイツ語だろう)で書かれていたため読むことが出来ず、その墓が何だったのか当時は分からなかったそうだ。しかし、後に「バビ・ヤール大虐殺」の存在を知ったことで、その時に見た墓の記憶と繋がったのである。
そんなセルゲイ・ロズニツァについて池田氏は、「ソ連の素晴らしいインテリの末裔たる存在」と評していた。ソ連のインテリは昔から、ここぞという時には国家を批判する側にも回るし、芸術分野においても文句をつけられないぐらい完成度の高いものを作るなど、かなり高尚な気位を持っていたのだそうだ。そして彼の目からは、セルゲイ・ロズニツァもまた、「古き良きソ連のインテリ」の気質をかなり受け継いだ人であるように見えているのだという。「バビ・ヤール大虐殺」との偶然の繋がり、そしてソ連の伝統的なインテリの気質。それらが上手く入り混じることで、本作のような「特異」な作品が生まれたと言っていいのだろう。
アフタートークの最後で池田氏は、
セルゲイ・ロズニツァの映画は、『バビ・ヤール』も含めてすべてウクライナ侵攻以前に作られているのに、制作から数年が経った今、不思議なほど呼応するものがある。
と感慨深げに語っていた。「ウクライナ侵攻以前に作られた」という事実にはきっと、多くの人が驚かされるのではないかと思う。まさに「時代に呼ばれている」と言える創作者なのではないだろうか。
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「凄まじい証言を淡々と行う裁判シーン」に衝撃を受けた
映画で使われた映像の中で、個人的に最も印象的だったのは裁判のシーンである。複数の裁判映像が使われているのだが、別々の裁判で証言する2人の女性の話には驚かされてしまった。
先に登場した女性については、「凄かった」という印象が残っているだけで詳しいことは忘れてしまったので、ここでは後に出てきた女性の証言について詳しく触れていこうと思う。
彼女は、運悪く「ユダヤ人の虐殺が行われている現場」に足を踏み入れてしまった。そこでナチスドイツの軍人に呼び止められ、彼女は「ウクライナ人だ」と答えたそうだ。その際のやり取りについて、「相手は信じたようだ」と女性が言っていたと思うので、私は「彼女は実際にはユダヤ人であり、『ウクライナ人だ』と答えることで難を逃れようとした」という風に受け取った。しかし、別の可能性もあるだろう。実際にウクライナ人だったとしても、それを証明する手段を持っていなかったため、「ユダヤ人だと疑われてもおかしくはない」という状況だったのかもしれない。だから、「本当にウクライナ人なのであり、そのことを相手がちゃんと信じてくれて良かった」という安堵を込めた言葉だった可能性もある。冒頭で書いた通り、映像に対する説明はほぼないので、正解がどちらなのかは分からない。
とにかくその女性は、虐殺の現場に居合わせてしまった。そして「ウクライナ人」であることを理由に軍人から、「その辺りに座ってろ。終わったら帰れ」みたいなことを言われたという。彼女は素直にそのまま待っていたのだが、恐らく上官なのだろう、しばらくして別の軍人が現れ、先程とは異なる指示が出された。「この状況を目撃した者が街に戻って話をすれば、明日からユダヤ人はここに来なくなるだろう。だからこいつも殺せ」という話に変わったのだ。この女性は一転して、殺される立場に立たされてしまったのである。
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こうして、彼女を含む何人かの者たちが穴の縁に立たされた。そのまま銃撃が始まったのだが、彼女は撃たれたフリをして穴の中に倒れ込んだのだという。既に穴の下に積み上がっていた遺体の上に落ちたことで、死なずに済んだ。しかししばらくして、ナチスドイツの軍人が、うめき声を上げている者にナイフでとどめを刺しているのが視界に入る。彼女は微動だにしなかったが、しばらくしてある軍人が彼女の足を掴んで仰向けにひっくり返した。そして、血がついていないことを不審に思ったのか、軍人はスパイクのついた靴で彼女の胸と腕に乗り、そのまま腕をひねり上げたのである。彼女は「ここまでか」と思ったが、しかし声を上げずに黙っていたという。するとしばらくして、穴を砂で埋めようとしているのが伝わってきた。どうにか生き残ったようだ。
しかし、徐々に彼女の身体にも砂が積もり始め、窒息しそうになった。それまでまったく動かずにいたのだが、「生き埋めになるぐらいなら撃たれた方がマシだ」と考え、彼女は身体を動かすことに決める。どうにか気づかれずに穴から抜け出すことが出来たが、ナチスドイツは、サーチライトで足元を照らし呻く人々を撃っていたので、まだ危険は続いている状態だった。どうにか見つからないように這い進み、岩壁の上までたどり着いたところ、そこに少年がいたのだそうだ。父親が撃たれた際に一緒に穴に落ち、どうにか命が助かったのだという。その少年と2人で草原を這い、その後身を隠せる場所を見つけてしばらくそこに潜んでいた……。
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みたいな壮絶な話を、教科書でも朗読しているかのように淡々とした口調で証言していたのだ。語られるエピソードは、あまりにも凄まじすぎるように思う。しかし一方で、彼女のその淡々とした口調からは、「これぐらいの経験をした人はそこら中にいる」というような雰囲気も感じさせられた。
平和な日本に住んでいると、彼女の証言は「とてつもない経験」に感じられるはずだが、彼女の主観では恐らく「よくある出来事の1つ」ぐらいの認識だったのだと思う。このような捉え方の差にこそ、当時の状況の凄まじさが滲み出ているように思えてしまった。裁判シーンは決して、「視覚的に衝撃を与える」ような類のものではないのだが、また違った意味で驚愕させられてしまったというわけだ。
本当に、随所で信じがたい衝撃を味わわされる作品だった。
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説明があまりにも少ない作品なので理解が難しい感じる部分はあるかもしれないが、正直なところ、素材として使われている映像を観るという目的でも十分に価値を感じられるのではないかと思う。「こんな映像が存在するのか!」という衝撃を是非体感してほしい。
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ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
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