目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:ジミー・T・ムラカミ, Writer:レイモンド・ブリッグズ, 出演:ジョン・ミルズ, 出演:ペギー・アシュクロフト
¥2,000 (2025/01/18 19:12時点 | Amazon調べ)
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
本作を観ながら私は、三崎亜記『となり町戦争』と中島京子『小さいおうち』の2小説を連想した 実在したという「政府発行のパンフレット」で紹介されていた、あまりにお粗末な「シェルター」とは? 40年近く前の作品が、2024年に改めて劇場公開された理由について
随所で描かれる「政府を信じれば大丈夫」という”信念”が実に皮肉的で考えさせられる
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本作で描かれるのは「戦争の気配など微塵も感じられない日常生活に、核戦争の恐怖が突然降りかかる」という物語 である。そしてそんな作品を観ながら私は、昔読んだ小説を思い出していた 。
1つは、三崎亜記『となり町戦争』 である。かなり昔に読んだので正確には覚えていない が、概ね次のような物語だったと思う。
著:三崎亜記
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ある町に住む男は、いつものようにポストに入っていた町の広報紙に目を通す 。普段は他愛のない情報が書かれているだけだが、ある時から突然、「となり町で行われている戦争」に関する戦況が報じられる ようになった。被害状況や死者数などが表記されており、死者が出るような戦争だと理解できる 。しかし男は、まったく「戦争の雰囲気」を感じられない でいた。流血を目にすることもなければ、銃声を耳にすることさえないのだ。彼が「戦争」を意識できるのは、町の広報紙の記述だけ 。そんな「見えない戦争」を描き出した作品 である。
物語のテイストは大分異なるものの、「見えない戦争」という部分に共通項がある と感じられた。『となり町戦争』では広報紙が「戦争」を伝える が、本作『風が吹くとき』でその役割を担うのはラジオ である。イギリス政府が国民に向けて、「戦争が起こる可能性があるから準備をしましょう」と呼びかけている のだ。夫はそれを受けて、政府発行のパンフレットに書かれている通りに準備を始めようとする が、妻は「戦争なんか起こりっこないでしょ」と楽観的 である。本作では戦争が始まっていないところから物語がスタートするので、妻の楽観視も決して他人事とは言えない わけだが、いずれにせよ、「『戦争』の気配などまるで感じられない環境」の中で、「それでも『戦争』が進行している」という世界観を描いているという意味では近い ものがあるように感じられた。
さて、もう1作は中島京子『小さいおうち』だ。
著:中島 京子
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こちらもうろ覚えで、詳しいことは覚えていない のだが、物語の設定は印象に残っている 。舞台となるのは、東京にある比較的裕福な家 。主人公は、そこで働くお手伝いさんみたいな人 だっただろうか。物語世界の中では、後に第二次世界大戦と呼ばれる戦争が始まっている のだが、一家は「戦争の雰囲気」を感じることがない 。近くで戦闘が起こっているわけでも、空襲にさらされているわけでもないからだ。登場人物たちはもちろん「日本が戦争をしている」と理解してはいる ものの、彼女たちにとって「戦争」はとても遠いもの なのである。
なんとなくだが、「戦争」について思い浮かべる時は皆、「誰もが『火垂るの墓』のような世界を生きていた」みたいに考えがちではないか と思う。もちろん、そういう人たちもいた。しかし当然ではあるが、国民全員が同じ状況にいたわけではない 。だから、同じ「戦争」を経験していても、まったく違った体験になる というわけだ。
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そしてこの感覚もまた、本作『風が吹くとき』に通ずるものがある ように思う。本作で描かれるのはある老夫婦の日常 だが、別の人に焦点を当てればまったく違う物語になるはず だ。だからこそ、「戦争について語るのは難しい 」と言える。「共通の体験」がなければ「共通言語」は生まれず、「戦争を経験した者同士」でさえまったく異なる認識になってしまう からだ。本作では、そういう「分かり合えなさ」みたいなものも描き出している ように感じられた。
さて、内容を紹介する前にもう1つ、鑑賞後に公式HPを読んで知った「本作がどのような経緯から日本で公開されることになったのか」に関するエピソード にも触れておくことにしよう。これはなかなか興味深い話 だった。
本作はそもそも、1986年にイギリスで制作され、翌1987年に日本で公開された作品 だ。つまり、40年近く前の映画 なのである。そして、「日本語吹き替え版」の監督は大島渚 が務めており、その経緯が興味深かった 。本作の主題歌はデヴィッド・ボウイが歌う『When the Wind Blows』 なのだが(本作に合わせて作られたのか、映画のタイトルを曲から取ったのかは知らない)、1983年に公開された大島渚監督作『戦場のメリークリスマス』にデヴィッド・ボウイが出演していたことから、大島渚に声が掛かった のだそうだ。ちなみに、主人公夫婦の声を担当したのは森繁久彌と加藤治子 である。どちらも声優をやることのなさそうな役者 であり、そういう意味でも貴重 と言えるだろう。
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また、本作の時代設定がいつなのかはっきりした言及はない のだが、本作の原作絵本は1982年の発売 である。作中には「戦後40年ですもの」というセリフ が出てくるし、さらに、1982年というのは「冷戦の真っ只中で、核戦争の可能性がリアルに感じられていた時代」 なわけで、そう考えれば、1982年頃が舞台というのが妥当な判断 だろう。
そしてそのような物語が、2024年に改めて劇場公開された というわけだ。その理由については後で触れる つもりだが、とにかく、「2024年の世界が1982年当時の状況に近くなっている 」ということなのだと思う。そのような危機感を多くの人が抱くべき だろう。
映画『風が吹くとき』の内容紹介
ビルは仕事を引退し、それを機に妻ヒルダと共に郊外の一軒家へと引っ越した 。長閑で穏やかな日々 である。ビルは図書館へと通い詰めては新聞に目を通し、ヒルダは家事のためにいつも忙しく動き回っていた。そんなある日のこと、図書館から戻ってきたビルが突然「戦争が起こりそうだ」と言い始める 。しかしヒルダは、政治とスポーツにはまったく関心がない 。そのため、夫の話をまともに聞こうとはしなかった 。
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しかしラジオをつけてみると、ビルが言った通りのことを報じている 。しかも「3日以内に戦争が始まる 」というではないか。日々新聞を読んで動向を追っていたビルは、「これはマズい」と考える 。第二次世界大戦の記憶しかない妻は慌てるでもなくのほほんとしている が、核爆弾でも落とされたらひとたまりもない 。
そこでビルは、図書館でもらってきた「政府発行のパンフレット」を元に準備を始める ことにした。パンフレットには「備蓄しておくもののリスト」や「放射能を防ぐために窓ガラスに白いペンキを塗る」といった対策など様々なことが書かれている のだが、その中でもビルが最優先で取り組んだのが「シェルターの制作」 である。
しかし、政府がお墨付きを与えているというその「シェルター」は、実にお粗末なもの だった。なにせそれは、「外した何枚かのドア板を、壁に対して60度の角度で立てかける」というだけの代物 だったのである。そんなもので核爆弾や放射能が防げるはずもない のだが、ビルは「政府が言っていることだから」と信じ、記されている通りにシェルターを作り始める のだった。
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そしてどうやら、そんな”お粗末な”シェルターを他の市民も作り始めていた ようである。というのも、ビルが買い出しから戻ってきた時、ヒルダに「分度器が売り切れていたよ」と報告していた からだ。ビルは「60度」を正確に測るために分度器が必要だと考えた のだが、それは他の市民も同様だった のである。ちなみに、文具店の店主は「60度に切った板」をくれた そうだ。これは「店主の優しさ」を示している のと同時に、「多くの人が『60度』を測りたいと考えていた」という証でもある と言えるだろう。
さて、こんな風にして「3日以内に始まるらしい戦争」に向けて着々と準備を進めるビル に対し、ヒルダは頑なに「日常」に踏み留まろうとする 。「戦争」が起こるなどとは微塵も信じていない のだろう。なので夫に対し、「ドア板で壁を傷つけないで下さいね」「クッションを汚さないで下さいね」と注意をする のである。戦争が始まってしまえば、壁の傷やクッションの汚れなど大した問題ではない 。つまり彼女は、「これからも当然、今日と同じ日々が続いていく」と考えている というわけだ。
そんな風に考え方がまったく異なる2人の、「『戦争が始まる』と告げられてからの日常」を描き出す物語 である。
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「一軒家における夫婦の日常」だけから「戦争」を描く秀逸さと、「政府を信じてさえいれば良い」という皮肉的な描写
本作は、「一軒家の中」だけでほとんどが完結する物語 であり、しかも登場人物もほぼ2人 だけ。実にミニマムな構成 である。しかしそれでいて、「核戦争」というハードな現実をリアルに描き出す作品 になっており、まずはその点がとても素晴らしかった なと思う。ビルとヒルダは、「長年連れ添ってきたこと」が分かる軽妙なやり取り を繰り広げていてとても魅力的だし、そしてそんな穏やかな日常に「戦争」という非日常が否応なしに差し込まれていくというギャップもとても印象的 だった。
さらに、会話から滲み出る「『戦争』に対する価値観」も興味深い 。彼らは会話の中で、「スターリンは良い人だった」「前の戦争は良い思い出」みたいなことを言っていた のだ。第二次世界大戦においてイギリス市民がどんな状況に置かれていたのかは知らないが、日本人の感覚からすればやはり、このようなやり取りは違和感を与える ものではないかと思う。
ただ先程少し触れた通り、「戦争」は人々にまったく異なる体験を与えるもの でもある。だからむしろ、戦争を知らない私たちのような世代こそ、「戦後の教育」によって「戦争」を一面的な形で捉えがち なのかもしれない。つまり、逆説的かもしれないが、「スターリンは良い人だった」「前の戦争は良い思い出」みたいな会話は、「『戦争を直接的に経験した人』だからこそのもの」と言えるんじゃないか とも思う。
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さて、そんな本作においてとても印象的だったのが、「政府の言う通りにすれば何の問題もない」というビルのスタンス である。当然これは、皮肉的な描写 と捉えるべきだろう。ビルが盲目的に政府の指示に従う姿を描き出すことによって、逆説的に「政府の言う通りになんかしていたらダメですよ」というメッセージを発している と受け取るべきだと思う。
先述した通り、「政府発行のパンフレット」には「ドア板を使ったシェルター」などの対策が載っているわけだが、なんとこのパンフレットは実在したもの なのだそうだ。公式HPによると、「PROTECT AND SURVIVE(守り抜く)」という名前で、1974年から80年までの間、イギリス政府が配布していた のだという。さすがに、政府が「ドア板製のシェルター」なんかを勧めているとは思っていなかったので、鑑賞後にそれが事実だと知って驚かされてしまった 。公式HPには、「こうした政府の姿勢に強い憤りを抱いたことも、ブリッグズが『風が吹くとき』を描いた理由の一つとなっている 」と書かれている。あまりにもお粗末すぎて驚かされてしまった 。
また、同じような話でもう1つ印象的だった のが、映画のラスト付近でビルが、「緊急サービス班が来るのを待とう。お上がわしらを助けてくれるはずだからな」と口にしていた場面 である。ヒルダも、夫のこの意見に賛同していた 。これがどのような状況下で発せられた言葉なのかは説明しないが、「とんでもない危機的状況下にいる 」とだけは書いておこう。そしてそのような状況になってもなお、「政府を信じる」というスタンスを崩さない のである。この描写もまた、とても印象的だった。
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40年近く前の作品が何故再び劇場公開されたのだろうか?
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しかし、本作『風が吹くとき』は「4Kレストア版」みたいなことではない 。1987年に公開されたバージョンがそのまま上映されている のだと思う。「4Kレストア版が完成したから劇場公開する」のであれば分かりやすいが、本作の場合そういうことではないというわけだ。となれば、ここには何らかの意図が存在する と考えるべきだろう。
と回りくどく書いてはみたが、恐らく概ね想像出来るんじゃないか と思う。本作『風が吹くとき』が改めて劇場公開されているのは恐らく、「世界的に核戦争の危機が高まっているから」 だろう。ロシアはウクライナ侵攻を機に度々「核の使用」に言及している し、さらに、「核弾頭も搭載可能な長距離弾道ミサイル」を頻繁に発射している北朝鮮の存在も脅威 である。
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私は1983年生まれ なので、リアリティをもって「冷戦を経験した」と言える世代ではない はずだ。たぶん、「冷戦」という言葉も学校の授業で習って知ったんじゃないか と思う。とはいえ、「キューバ危機」など様々な出来事について知識を得る度に、「冷戦時代は本当に、『核戦争まであと一歩』という感覚を全世界が共有していたのだろう」という気分になる 。2024年はまだ、そこまでの「恐怖」に支配されているとは言えないだろう が、それでも、冷戦以降のどの時代よりも核戦争の危機が高まっているとは言えるのではないか とも思う。
また、本作のテーマである「核戦争」を「災害」の代わりと捉えると、また違った見え方になってくる だろう。私がこの記事を書く少し前に「南海トラフ地震臨時情報」が発表され、「普段よりも地震が起こる確率が高まっています」という報道をよく目にする ことになった。「核戦争」にはリアリティが感じられないとしても、「巨大地震」はリアルに想像できると思う 。そして、本作の老夫婦の姿は、「災害に対しての準備姿勢」を描き出すものとしても受け取れるはず だ。
このような点を踏まえると、本作『風が吹くとき』は今まさに観られるべき作品だと言えるのではないか と思う。
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実に穏やかに始まる本作は、最終的にはなかなか恐ろしい展開になっていく 。「核戦争への危機感」が高かったはずの公開当時に観てももちろん恐ろしかっただろう が、冷戦が過去のものとなった今観ると、また違った形で怖さが感じられるのではないか と思う。
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最後に
SNSが広まったことで「危険を煽るような言説」が流布しやすくなった はずだし、それはあまり良いことには思えない 。「正しく怖がる」ことが大事 なのであり、対象がなんであれ「怖がりすぎる」ことはあまりプラスをもたらさない はずだ。
そういう意味で本作は、「正しく怖がる」ためにうってつけの作品 と言えるかもしれない。ほのぼのした感じで始まるアニメ映画なのでとっつきやすく 、それでいて深く様々なことについて考えさせる作品 であり、「平和ボケしている」と言われがちな日本人を適度に引き締める良い作品 ではないかと思う。
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田原総一朗が元総理・小泉純一郎にタブー無しで斬り込む映画『放送不可能。「原発、全部ウソだった」』は、「原発推進派だった自分は間違っていたし、騙されていた」と語る小泉純一郎の姿勢が印象的だった。脱原発に舵を切った小泉純一郎が、原発政策のウソに斬り込み、再生可能エネルギーの未来を語る
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【映画】『戦場記者』須賀川拓が、ニュースに乗らない中東・ウクライナの現実と報道の限界を切り取る
TBS所属の特派員・須賀川拓は、ロンドンを拠点に各国の取材を行っている。映画『戦場記者』は、そんな彼が中東を取材した映像をまとめたドキュメンタリーだ。ハマスを巡って食い違うガザ地区とイスラエル、ウクライナ侵攻直後に現地入りした際の様子、アフガニスタンの壮絶な薬物中毒の現実を映し出す
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【狂気?】オウム真理教を内部から映す映画『A』(森達也監督)は、ドキュメンタリー映画史に残る衝撃作だ
ドキュメンタリー映画の傑作『A』(森達也)をようやく観られた。「オウム真理教は絶対悪だ」というメディアの報道が凄まじい中、オウム真理教をその内部からフラットに映し出した特異な作品は、公開当時は特に凄まじい衝撃をもたらしただろう。私たちの「当たり前」が解体されていく斬新な一作
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韓国で実際に起こった「事件」を基に作られた映画『あしたの少女』は、公開後に世論が動き、法律の改正案が国会を通過するほどの影響力を及ぼした。学校から実習先をあてがわれた1人の女子高生の運命を軸に描かれる凄まじい現実を、ペ・ドゥナ演じる女刑事が調べ尽くす
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【苦悩】「やりがいのある仕事」だから見て見ぬふり?映画『アシスタント』が抉る搾取のリアル
とある映画会社で働く女性の「とある1日」を描く映画『アシスタント』は、「働くことの理不尽さ」が前面に描かれる作品だ。「雑用」に甘んじるしかない彼女の葛藤がリアルに描かれている。しかしそれだけではない。映画の「背景」にあるのは、あまりに悪逆な行為と、大勢による「見て見ぬふり」である
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【異常】韓国衝撃の実話を映画化。『空気殺人』が描く、加湿器の恐怖と解決に至るまでの超ウルトラC
2011年に韓国で実際に起こった「加湿器殺菌剤による殺人事件」をモデルにした映画『空気殺人』は、金儲け主義の醜悪さが詰まった作品だ。国がその安全を保証し、17年間も販売され続けた国民的ブランドは、「水俣病」にも匹敵する凄まじい健康被害をもたらした
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「#MeToo」運動のきっかけとなった、ハリウッドの絶対権力者ハーヴェイ・ワインスタインを告発するニューヨーク・タイムズの記事。その取材を担った2人の女性記者の奮闘を描く映画『SHE SAID その名を暴け』は、ジャニー喜多川の性加害問題で揺れる今、絶対に観るべき映画だと思う
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【衝撃】匿名監督によるドキュメンタリー映画『理大囲城』は、香港デモ最大の衝撃である籠城戦の内部を映す
香港民主化デモにおける最大の衝撃を内側から描く映画『理大囲城』は、とんでもないドキュメンタリー映画だった。香港理工大学での13日間に渡る籠城戦のリアルを、デモ隊と共に残って撮影し続けた匿名監督たちによる映像は、ギリギリの判断を迫られる若者たちの壮絶な現実を映し出す
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ベネディクト・カンバーバッチが制作を熱望した衝撃の映画『モーリタニアン 黒塗りの記録』は、アメリカの信じがたい実話を基にしている。「9.11の首謀者」として不当に拘束され続けた男を「救おうとする者」と「追い詰めようとする者」の奮闘が、「アメリカの闇」を暴き出す
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『殺人犯はそこにいる』(文庫X)で凄まじい巨悪を暴いた清水潔は、それよりずっと以前、週刊誌記者時代にも「桶川ストーカー殺人事件」で壮絶な取材を行っていた。著者の奮闘を契機に「ストーカー規制法」が制定されたほどの事件は、何故起こり、どんな問題を喚起したのか
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プーチン大統領の後ろ盾を得て独裁を維持しているチェチェン共和国。その国で「ゲイ狩り」と呼ぶしかない異常事態が継続している。映画『チェチェンへようこそ ゲイの粛清』は、そんな現実を命がけで映し出し、「現代版ホロコースト」に立ち向かう支援団体の奮闘も描く作品
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テレビ東京の上出遼平が作る、“異次元のグルメ番組”である「ハイパーハードボイルドグルメリポート」の書籍化。映像からも異様さが伝わる「激ヤバ地」に赴き、そこに住む者と同じモノを食べるという狂気が凄まじい。私がテレビで見た「ケニアのゴミ山の少年」の話は衝撃的だった
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イスラエルとパレスチナの対立を背景に描く映画『クレッシェンド』は、ストーリーそのものは実話ではないものの、映画の中心となる「パレスチナ人・イスラエル人混合の管弦楽団」は実在する。私たちが生きる世界に残る様々な対立について、その「改善」の可能性を示唆する作品
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【狂気】”友好”のために北朝鮮入りした監督が撮った映画『ザ・レッド・チャペル』が映す平壌の衝撃
倫理的な葛藤を物ともせず、好奇心だけで突き進んでいくドキュメンタリー監督マッツ・ブリュガーが北朝鮮から「出禁」を食らう結果となった『ザ・レッド・チャペル』は、「友好」を表看板に北朝鮮に潜入し、その「日常」と「非日常」を映し出した衝撃作
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【現実】権力を乱用する中国ナチスへの抵抗の最前線・香港の民主化デモを映す衝撃の映画『時代革命』
2019年に起こった、逃亡犯条例改正案への反対運動として始まった香港の民主化デモ。その最初期からデモ参加者たちの姿をカメラに収め続けた。映画『時代革命』は、最初から最後まで「衝撃映像」しかない凄まじい作品だ。この現実は決して、「対岸の火事」ではない
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自身も東日本大震災の被災者でありながら、「紙齢をつなぐ」ために取材に奔走した福島民友新聞の記者の面々。『記者たちは海に向かった』では、取材中に命を落とした若手記者を中心に据え、葛藤・後悔・使命感などを描き出す。「新聞」という”モノ”に乗っかっている重みを実感できる1冊
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火災で一命を取り留め入院していた患者が次々に死亡した原因が「表示の10倍に薄められた消毒液」だと暴き、国家の腐敗を追及した『ガゼタ』誌の奮闘を描く映画『コレクティブ 国家の嘘』は、「権力の監視」が機能しなくなった国家の成れの果てが映し出される衝撃作だ
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私はその存在をまったく知らなかったが、「水俣病」を「世界中が知る公害」にした報道写真家がいる。映画『MINAMATA―ミナマタ―』は、水俣病の真実を世界に伝えたユージン・スミスの知られざる生涯と、理不尽に立ち向かう多くの人々の奮闘を描き出す
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アフガニスタンを追われた家族4人が、ヨーロッパまで5600kmの逃避行を3台のスマホで撮影した映画『ミッドナイト・トラベラー』は、「『難民の厳しい現実』を切り取った作品」ではない。「家族アルバム」のような「笑顔溢れる日々」が難民にもあるのだと想像させてくれる
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タイトルを伏せられた覆面本「文庫X」としても話題になった『殺人犯はそこにいる』。「北関東で起こったある事件の取材」が、「私たちが生きる社会の根底を揺るがす信じがたい事実」を焙り出すことになった衝撃の展開。まさか「司法が真犯人を野放しにする」なんてことが実際に起こるとは。大げさではなく、全国民必読の1冊だと思う
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在日コリアン4世の監督が、北朝鮮脱北者への取材を元に作り上げた壮絶なアニメ映画『トゥルーノース』は、私たちがあまりに恐ろしい世界と地続きに生きていることを思い知らせてくれる。最低最悪の絶望を前に、人間はどれだけ悪虐になれてしまうのか、そしていかに優しさを発揮できるのか。
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【残念】日本の「難民受け入れ」の現実に衝撃。こんな「恥ずべき国」に生きているのだと絶望させられる…
日本の「難民認定率」が他の先進国と比べて異常に低いことは知っていた。しかし、日本の「難民」を取り巻く実状がこれほど酷いものだとはまったく知らなかった。日本で育った2人のクルド人難民に焦点を当てる映画『東京クルド』から、日本に住む「難民」の現実を知る
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【実話】権力の濫用を監視するマスコミが「教会の暗部」を暴く映画『スポットライト』が現代社会を斬る
地方紙である「ボストン・グローブ紙」は、数多くの神父が長年に渡り子どもに対して性的虐待を行い、その事実を教会全体で隠蔽していたという衝撃の事実を明らかにした。彼らの奮闘の実話を映画化した『スポットライト』から、「権力の監視」の重要性を改めて理解する
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【正義】「正しさとは何か」を考えさせる映画『スリー・ビルボード』は、正しさの対立を絶妙に描く
「正しい」と主張するためには「正しさの基準」が必要だが、それでも「規制されていないことなら何でもしていいのか」は問題になる。3枚の立て看板というアナログなツールを使って現代のネット社会の現実をあぶり出す映画『スリー・ビルボード』から、「『正しさ』の難しさ」を考える
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【矛盾】死刑囚を「教誨師」視点で描く映画。理解が及ばない”死刑という現実”が突きつけられる
先進国では数少なくなった「死刑存置国」である日本。社会が人間の命を奪うことを許容する制度は、果たして矛盾なく存在し得るのだろうか?死刑確定囚と対話する教誨師を主人公に、死刑制度の実状をあぶり出す映画『教誨師』から、死刑という現実を理解する
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【異様】ジャーナリズムの役割って何だ?日本ではまだきちんと機能しているか?報道機関自らが問う映画…
ドキュメンタリーで定評のある東海テレビが、「東海テレビ」を被写体として撮ったドキュメンタリー映画『さよならテレビ』は、「メディアはどうあるべきか?」を問いかける。2011年の信じがたいミスを遠景にしつつ、メディア内部から「メディアの存在意義」を投げかける
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【権利】衝撃のドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』は、「異質さを排除する社会」と「生きる権利」を問う
「ヤクザ」が排除された現在でも、「ヤクザが担ってきた機能」が不要になるわけじゃない。ではそれを、公権力が代替するのだろうか?実際の組事務所(東組清勇会)にカメラを持ち込むドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』が映し出す川口和秀・松山尚人・河野裕之の姿から、「基本的人権」のあり方について考えさせられた
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【危機】教員のセクハラは何故無くならない?資質だけではない、学校の構造的な問題も指摘する:『スク…
『スクールセクハラ なぜ教師のわいせつ犯罪は繰り返されるのか』では、自分が生徒に対して「権力」を持っているとは想像していなかったという教師が登場する。そしてこの「無自覚」は、学校以外の場でも起こりうる。特に男性は、読んで自分の振る舞いを見直すべきだ
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【現実】生きる気力が持てない世の中で”働く”だけが人生か?「踊るホームレスたち」の物語:映画『ダン…
「ホームレスは怠けている」という見方は誤りだと思うし、「働かないことが悪」だとも私には思えない。振付師・アオキ裕キ主催のホームレスのダンスチームを追う映画『ダンシングホームレス』から、社会のレールを外れても許容される社会の在り方を希求する
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【絶望】権力の濫用を止めるのは我々だ。映画『新聞記者』から「ソフトな独裁国家・日本」の今を知る
私個人は、「ビジョンの達成」のためなら「ソフトな独裁」を許容する。しかし今の日本は、そもそも「ビジョン」などなく、「ソフトな独裁状態」だけが続いていると感じた。映画『新聞記者』をベースに、私たちがどれだけ絶望的な国に生きているのかを理解する
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【実話】「家族とうまくいかない現実」に正解はあるか?選択肢が無いと感じる時、何を”選ぶ”べきか?:…
「自分の子どもなんだから、どんな風に育てたって勝手でしょ」という親の意見が正しいはずはないが、この言葉に反論することは難しい。虐待しようが生活能力が無かろうが、親は親だからだ。映画『MOTHER マザー』から、不正解しかない人生を考える
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【情熱】「ルール」は守るため”だけ”に存在するのか?正義を実現するための「ルール」のあり方は?:映…
「ルールは守らなければならない」というのは大前提だが、常に例外は存在する。どれほど重度の自閉症患者でも断らない無許可の施設で、情熱を持って問題に対処する主人公を描く映画『スペシャルズ!』から、「ルールのあるべき姿」を考える
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金正男が暗殺された事件は、世界中で驚きをもって報じられた。その実行犯である2人の女性は、「有名にならないか?」と声を掛けられて暗殺者に仕立て上げられてしまった普通の人だ。映画『わたしは金正男を殺していない』から、危険と隣り合わせの現状を知る
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「共感」が強すぎる世の中では、自然と「想像力」が失われてしまう。そうならないようにと意識して踏ん張らなければ、他人の価値観を正しく認めることができない人間になってしまうだろう。映画『ミセス・ノイズィ』から、多様な価値観を排除しない生き方を考える
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「SNSなどでの炎上を回避する」という気持ちから「正論を言うに留めよう」という態度がナチュラルになりつつある社会には、全員が全員の首を締め付け合っているような窮屈さを感じてしまう。西川美和『すばらしき世界』から、善悪の境界の曖昧さを体感する
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私には、「謝罪すること」が「誠実」だという感覚がない。むしろ映画『AGANAI 地下鉄サリン事件と私』では、「謝罪しない誠実さ」が描かれる。被害者側と加害者側の対話から、「謝罪」「贖罪」の意味と、信じているものを諦めさせることの難しさについて書く
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2008年に開設された新たな刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」で行われる「TC」というプログラム。「罰則」ではなく「対話」によって「加害者であることを受け入れる」過程を、刑務所内にカメラを入れて撮影した『プリズン・サークル』で知る。
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オウム真理教の内部に潜入した、森達也のドキュメンタリー映画『A』は衝撃を与えた。しかしそれは、宗教団体ではなく、社会の方を切り取った作品だった。思考することを止めた社会の加虐性と、客観的な事実など切り取れないという現実について書く
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三権分立の一翼を担う裁判所のことを、私たちはよく知らない。元エリート裁判官・瀬木比呂志と事件記者・清水潔の対談本『裁判所の正体』をベースに、「裁判所による統制」と「権力との癒着」について書く。「中世レベル」とさえ言われる日本の司法制度の現実は、「裁判になんか関わることない」という人も無視できないはずだ
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ルシルナ
戦争・世界情勢【本・映画の感想】 | ルシルナ
日本に生きているとなかなか実感できませんが、常に世界のどこかで戦争が起こっており、なくなることはありません。また、テロや独裁政権など、世界を取り巻く情勢は様々で…
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ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
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