目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:松本穂香, 出演:中田青渚, 出演:片山友希, 出演:金子大地, 出演:甲斐翔真, 出演:小室ぺい, 出演:板橋駿谷, 出演:山中 崇, 出演:正木佐和, 出演:森下能幸, 出演:億なつき, 出演:江口のりこ, 出演:古舘寛治, Writer:向井康介, 監督:ふくだももこ
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
ストーリー以上に、雰囲気とキャラクターが素敵な、とても素晴らしい映画だった
ストーリーがさほど展開しなくても、ずっと観ていられると思える作品です
この記事の3つの要点
- 「自分はきちんと子どもを育てられるのか」と躊躇し、立ち止まってみるのは大事なことだと思う
- 周りと比べれば「恵まれている」からこそ抱え込んでしまう「重し」が印象的だった
- 登場人物の描かれ方は皆良いが、特に主人公の友人である琴子が一番印象的だった
どんな意味においても、「子どもに苦労を強いるような大人にはなりたくない」と改めて実感させられた作品です
自己紹介記事
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こういうことがあるから、先入観を乗り越えて作品を選ぶのも大事だよね
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映画の冒頭こそ、ワチャワチャと楽しげなテンションで展開されていきますが、次第に作品全体がぼやっとした何かに覆われるような、視界がぼやけたまま元に戻らないような、そんな「暗さ」が立ち込めてきます。「どうにもならない現実」を前に、「それでも生きていくしかないか」と考えている若者たちの諦念が、じわりじわりと映画全体を塗り潰していくような不穏さがあって、その雰囲気が私にはとても素敵に感じられました。
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「青春学園モノ」っぽい「キラキラ」は随所で描かれるのですが、それらは全体として「何かの残滓」であるような印象もまとっています。「キラキラ」を目指し振り絞るように生み出されはしたものの、どうにも「キラキラ」には成りきれていないような、そんな「寂しさ」を内包している感じがするのです。行き場のない者たちが放つ「キラキラの残滓」みたいなものが、ある意味では眩しく、ある意味では涙を誘う感じがあって、その明暗のバランスがとても見事な作品だと感じました。
「子どもを育ててはいけない人」はいるはずだと思っている
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そして何よりも私は、「親を選べないこと」が一番辛いのではないかと思っています。
最近は「親ガチャ」って言葉がかなり当たり前に使われてたりするよね
あまり良い言葉だとは思わないけど、言わんとしてることはよく分かるなぁって感じ
私は、「親ガチャ」という意味では可もなく不可もなくという感じで、酷すぎるわけでもメチャクチャ良いわけでもありません。普通よりちょっとだけ悪い、ぐらいじゃないかと思っています。私のことはともかく、「親ガチャ」で盛大に外れを引いた人は、人生相当なハードモードにさらされてしまうでしょう。
「親の存在」が子どもにマイナスを与える状況は多々あるでしょうが、DVやネグレクトなどは何よりも最悪だと思っています。そういう事件の報道に触れる度に私は、「『子どもを産み育ててはいけない人』」は世の中に存在するはずだ」と考えてしまうのです。
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私は昔から、「自分は絶対に子育てに向いていない」と思ってきました。これまで子どもを見て、「可愛い」とか「関わりたい」と思ったことがほぼないからです。そもそも私は、大人の場合でも興味を持てる対象が非常に少なく、大体の人間に関心を向けられません。
私はよく、「自分の子どもが藤井聡太とか芦田愛菜になるなら育てられる」って話をしてるわ
そんな可能性はほぼないから、子育てなんかまあ無理って感じだよね
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「子育てに向いてない」という話を、時々友人や知り合いにしてみるのですが、かつてこんなやりとりになったことがあります。会話の相手から、「子育てが向いてるかどうかは、やってみないと分からないんだから、そういう機会があったら試してみたらいいじゃん」みたいに言われたのです。
私はこの返答を聞いて、ある種の「絶望」を感じました。何故なら「そんな風に考える人間がいるからこそ、辛い境遇に置かれる子どもがいなくならないんじゃないか」と思ってしまったからです。
誤解のないように書いておくと、「試してみたらいいじゃん」と返した人は、ポジティブな意見のつもりで言っています。「自分の子どもだったら『可愛い』って感じるはずだし、そういう機会を経験しもしないで『向いてない』なんて言うのはもったいないんじゃない」という、アドバイスのつもりで言ってくれているというわけです。決して悪気はありません。そしてとても残念なことに、悪気がないからこそ問題だと言っていいでしょう。
この話に限らないけど、「悪気がない」っていうのは結構残酷なことだよね
「悪気がある」なら対処のしようもあるけど、「悪気がない」場合、「それがマズいことだ」と認識させることがまず困難だからなぁ
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私は不思議で仕方ありません。私たちは、世の中にDVやネグレクトが蔓延っていて、児童相談所への通報も多く、児童養護施設などでの生活を余儀なくされる子どもがいることを知っているはずです。にも拘わらず、どうして「自分は大丈夫側にいられる」と信じていられるのでしょうか。もちろん、人間も生物なので「子孫を残すこと」が大事でしょうし、「子どもを生み育てること」になるべくブレーキが掛からないように遺伝的に進化しているなんてこともあるのかもしれません。しかしそうだとしても、もう少し「自分は子どもを育てても大丈夫だろうか」という気持ちを持ってもいいように思うのです。
もちろん、子どもを産み育てている人たちの中にも、「あらかじめ真剣に悩んで考えて、その上で子どもを持つと決断した」みたいな人はいると思います。しかし一方で、「『自分に子育てが出来るのか』なんて考えもせずに子どもを持つことになった」という人もたくさんいるでしょう。私にはちょっとそのことが信じられません。「自分はもしかしたら、子育てに不向きな人間かもしれない」という思考が、少しでも頭を過ぎったりしないものなのでしょうか?
「子育てのためのお金」の心配をする人はたくさんいるだろうけど、それ以前に「子どもを育てること」について考えたりしないもんなのかなぁ
まあ、「そんなこと考えても仕方ない」って感覚の人も多いのかもね
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私は、世の中の大半のことは「失敗したっていい」と思っていますし、「失敗から学ぶことで次に活かす」というやり方が機能するとも思っています。ただそれを、「子育て」にも同じように当てはめていいわけがないでしょう。もちろん、誰もが最初は「子育て未経験」であり、「初めてなのだから向き不向きなど分からない」というのはその通りだと思います。それでも、自分の性質・性格・経験など踏まえて、「上手くやれるだろうか」と立ち止まってみることは大事だと考えているのです。
「親ガチャ」に盛大に外れても、「子どもの頃の苦労が、結果として大人になってから役に立った」みたいになったりもするかもしれません。ただ、そういう風に言えるのは、上手く人生を転換できた人だけです。子ども時代に大変だった人が全員、大人になってから上手く生きられるわけではないし、だからこそ、無用な苦労は経験しない方がいいに決まっています。
そこはかとない憂鬱を常にまとった若者たちの物語を観ながら、「子育てに向かない人もいる」という、当たり前のはずなんだけど自分事として捉えられることが少ない事柄について改めて考えさせられました。
別に「子どもを持つことを諦めろ」なんて思ってはないけど、「一旦立ち止まって躊躇する時間」はあってもいいと思うんだよね
「子どもぐらい当然育てられる」みたいに考えている人こそ立ち止まってほしい
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映画『君が世界のはじまり』の内容紹介
同じ高校に通う者たちの日常を描き出す物語である。
縁(ゆかり)は、校内随一の優等生。しかしいつもつるんでいる相手は、学校の問題児・琴子だ。テストでクラスの最低点を取り、スカートの長さを指導する教師に暴言を吐き、授業をサボってはタバコを吸うような、教師からしたら頭痛の種のような存在である。穏やかな性格の縁とは違い、琴子は感情をストレートに出し、叫んだり笑ったりと大忙しだ。対照的な2人だが、どうしてだか気が合い、いつも一緒にいる。琴子は縁をいつも「エン」と呼ぶ。
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純は、友達はいるのだが、いつも時間を持て余している。家に帰りたくなくて、地元のショッピングモール「Bell Mall」になんとなく入り浸る日々。イライラが頂点に達しそうになった時は、ブルーハーツの「人にやさしく」を聴く。ある日彼女は、ショッピングモール屋上の駐車場に停めてある車の中で、同級生の男子がキスしているのを目撃してしまう。聞けば、相手は父親の再婚相手なのだそうだ。純は、彼のことをよく知らないままセックスをする関係になっていく。彼の母親がショッピングモールの地下で働いているとかで裏口の場所を知っており、閉館後のショッピングモールに忍び込んだりもした。
校内の立入禁止の場所でタバコを吸っていた琴子と、一緒にいた縁は、その建物内で1人の男子生徒に遭遇する。彼は泣いていた。彼が立ち去った後、琴子はある決意をする。付き合っていた8人目の彼氏と別れ、後に「業平くん」だと分かったその男子生徒を追いかけるのだと……。
映画『君が世界のはじまり』の感想
とても良い映画でした。ストーリーも良いのですが、それよりも雰囲気やキャラクターで魅せる感じの作品です。ストーリーが展開されなくてもずっと観ていられるような世界観だと思いました。
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何が起こるってわけでもないのに、ずーっと観ていられるなって映画、時々あるよね
バカリズム脚本・主演の映画『架空OL日記』にも、そんな雰囲気感じたなぁ
キャラクターでは、なんと言っても琴子が素晴らしかったです。私としては、メチャクチャ好きなキャラクターでした。正直なところ、身近で関わっていたら疲れてしまいそうな存在なので、どちらかと言えば遠目に見ていたいと思わせる人物という感じです。
琴子について「あの人って、なんかちゃうよなぁ」と学校一のモテ男である岡田がボソッと口にする場面があるのですが、凄くよく分かります。誰もが無意識の内に感じ取っている「境界線」みたいなものを何の気なしに飛び越えてしまうような軽やかさが彼女にはあるのです。もちろん彼女自身も、自分ではどうにも振りほどけない「重し」みたいなものをその内に感じ取っているだろうし、彼女が放つ「軽やかさ」はもしかしたら、自分が抱えざるを得ないものに対する苛立ちや無力感みたいなものを原動力にしているに過ぎないのかもしれません。しかしそれでも、目の前に広がる、くだらなくてつまらなくてやってらんない日常を、重力を感じていないかのように舞う様は、とても素敵に感じられました。
自分は絶対にこんな風に振る舞えないって分かっているから、そういう意味での羨ましさもあるんだよなぁ
まあ、琴子みたいな人が世の中にたくさんいたら大変だから、真似できないぐらいでいいと思うけどね
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純もまた素敵な存在でした。琴子ほど破天荒でも、感情を爆発させるキャラクターでもなく、琴子と比較するなら、「実際に存在しそうな女の子」という感じがします。しかし一方で、「表には出せない鬱屈」みたいなものを奥底に抱えているような雰囲気を常に放っていて、何かの拍子に爆発してしまうんじゃないかと思わせるような危うさも感じました。そんな「ギリギリ感」が凄く良かったと思います。
しかしやはり、この映画においては、縁の存在が最も「特異」だと言っていいでしょう。
この記事の冒頭で、「子育てに不向きな親に育てられることの大変さ」について触れました。正直に言えば、映画の中でそのことが具体的に描かれる場面はほとんどありません。どの登場人物も、「家庭環境に何か問題を抱えているのだろう」と予感させる程度の描写に留まっています。具体性を排しているからこそ奥行きを感じさせるし、またそのような構成は、「家庭環境の複雑さ」を物語の中心にしないためのものなのだと思います。
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家庭環境に関する設定がジワジワ理解できるようになるって展開も、この映画の雰囲気を良くしてるんだと思う
「そういう事情を改まって理解されたくない」みたいな感覚を持ってるってことも示唆出来るしね
そういう中で縁だけは、「家庭環境に問題を抱えていない人物」として描かれます。これが映画『君が世界のはじまり』における特異点だと私は感じました。縁の家族についての描写は僅かですが、広い家に住み、家族仲も良く、縁自身も成績優秀と、言うことない環境にあります。そしてだからこそ縁は、そんな自身の境遇を「重し」だと思っていると私は感じました。
私の東京出身の友人女性が以前こんなことを言っていました。「東京で頑張っている地方出身者には何も言えない」と。彼女は「最悪困ったら実家に戻ればいい」と考えています。そして、そういう環境だからできることもあるし、やらずに済むこともあるわけです。しかし、「実家に戻る=東京を離れる」となってしまう人の場合、同じような選択は出来ません。だから、自分の周りにいる地方出身者に対して、自分の境遇がある意味で「重し」に感じられてしまうというのです。
これも結局「親ガチャ」の話になるから、ホント難しいよなぁって思う
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縁も、普段の付き合いの中で自分の周りの人の「苦労」を知ってしまう機会があるでしょう。一方縁自身は、平凡と言えば平凡ですが、辛い境遇の人からすれば恵まれた環境にいます。自分が苦労している側ではないからこそ、どんな言葉を掛けたところで上辺のものに聞こえてしまうかもしれない。そういう難しさを抱えているように、私には感じられました。そしてそんな縁の感覚が、この物語を一層奥深いものにしているのだと思います。
劇中、教師が生徒に向かってこんなことを言う場面がありました。「お前たちが日々辛い環境にいることは、先生はちゃんと知っている。全部分かっている」と。しかし、泣きながらそう訴える教師の言葉は、生徒には微塵も響いていません。むしろ白けていると言っていいでしょう。まあ、それは当たり前で、本当に「辛い環境にいることが分かっている」のなら、「辛い環境にいることは分かっている」なんて口にするはずがないからです。そして、そんなことも分からない人間にとやかく言われたくない、という気持ちが、白けムードに繋がっているのだと思います。
実際にこういうタイプの人っているし、遭遇すると驚かされるんだよなぁ
「悪気はない」んだろうけど、だからこそ余計困るよね
そして、「下手したら、この教師のようになってしまう」というのが、縁が抱える恐怖の一端ではないかと感じました。周りと比べれば恵まれていると言える自身の境遇にあって、ちゃんと相手に届く言葉を口にするためにはどうしたらいいのか。ある意味で一番ややこしい問いを突きつけられているのが縁であり、その複雑さに共感させられました。
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登場人物たちは概ね、テンションの低い、温度をあまり感じさせない喋り方をしており、その点も私の好みにとても合う作品です。基本的に、学校でのシーンが少ない映画で、彼らの「テンションの低い振る舞い」は、「学校で見せている『表向きの自分』とは違うモードだ」という、ある種の「記号」としても機能しているように感じられました。
私は39歳のおじさんだけど、それでも、「不特定多数の中では『表向きの自分』で接してしまう」みたいな感覚は分かるつもり
たぶん今の若い世代は、その感覚がより強くなってる感じするよね
また、彼らが集うショッピングモール「Bell Mall」が近々閉店すると決まっているという設定も、彼らの閉塞感みたいなものと呼応している感じがします。特に、閉店後のショッピングモールに忍び込むシーンでは、全体的に薄暗い中で物語が展開されることもあり、「誰もいないショッピングモール」の中で「はしゃぐ若者」という対比が、一層物悲しさを浮かび上がらせる感じもしました。
そういう様々な要素が絡み合って、素晴らしい作品に仕上がっているのだと思います。
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¥2,500 (2022/12/21 20:18時点 | Amazon調べ)
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出演:松本穂香, 出演:中田青渚, 出演:片山友希, 出演:金子大地, 出演:甲斐翔真, 出演:小室ぺい, 出演:板橋駿谷, 出演:山中 崇, 出演:正木佐和, 出演:森下能幸, 出演:億なつき, 出演:江口のりこ, 出演:古舘寛治, Writer:向井康介, 監督:ふくだももこ
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なかなか良さを伝えるのが難しい映画ですが、メインビジュアルなどからパッと感じる印象とはちょっと違った雰囲気を持つ作品だと思います。決して「キラキラした青春学園モノ」というわけではないので、そういう先入観を持っている方は印象で躊躇している人がいるなら、是非観てみて下さい。
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多様性・ダイバーシティ【本・映画の感想】 | ルシルナ
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