目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「ハマのドン」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 大体の政治家が「伝わらない言葉」ばかり口にするのに、91歳の藤木幸夫が一般人に伝わる言葉で話せることに驚かされた
- カジノ設計者・村尾武洋がカジノに反対する理由と、そのとてつもない説得力
- IR誘致を阻止する最終手段としての横浜市長選に、彼らはどのようにして勝ったのか
すべての政治家は、藤木幸夫が持つ「言葉の強さ」を見習うべきだと感じさせられた
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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非常に面白い映画だった。正直なところほとんど期待せずに観たので、これほど面白いとは思わなかったのだ。
ちなみに書いておくが、私は横浜市民ではないし、「ハマのドン」と呼ばれる藤木幸夫のことも映画を観るまで知らなかった。本作は映画化される以前に、同じ素材を使ったテレビ放送が何度かなされたそうだが、それらを観たこともなく、また、映画の最後に映し出される横浜市長選の結果さえまったく覚えていなかったのだ。映画で描かれていたことで鑑賞前から知っていたことは、「かつて横浜にIR・カジノ誘致の話があったこと」ぐらいである。そのような私が観ても、非常に面白い作品だった。
「ハマのドン」こと藤木幸夫は横浜港を取り仕切る重鎮であり、政治家ではないものの、全国の港湾関係者を取りまとめる「顔役」として政治にも深く関わる人物だ。実は、後に総理大臣となる菅義偉を横浜市議会から国政へと送り出したのも藤木幸夫なのである。
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そんな彼は、菅義偉が推し進めようとしていた「横浜でのIR・カジノ戦略」に猛烈に反対した。そう、かつての同志と呼んでいい相手と真っ向から対立することを選んだというわけだ。
映画『ハマのドン』は、そんな藤木幸夫を描き出すドキュメンタリー映画である。
藤木幸夫の「言葉の強さ」に驚かされた
映画を観ながら私が一番驚いたのは、藤木幸夫が「伝わる言葉」を持っていたことだ。いくら幅広い影響力を持つ人物といえども、国家権力に立ち向かうのはかなり困難だろうと想像していたのだが、彼の「言葉の強さ」を随所で実感させられたことで、「これなら国家権力とも闘えるかもしれない」と感じさせられたのである。
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私はかなり、「言葉」で人を判断してしまう。そして、私が「政治家」を好きになれないのは、「あまりにも言葉を疎かにしている人が多いから」だ。例えば政治家はよく、自身の発言を「撤回」する。恐らく永田町の論理では、「『撤回』した発言は『そもそも口にしなかった』ことになる」のだと思う。だから発言を「撤回」しても平然としていられるのだろうが、普通に考えてそんなわけがない。「その言葉を発した」という事実こそが致命的なのだが、もしかしてそのことに気づいていないのかとさえ思わせる振る舞いに感じられてしまう。他にも、「本心からそんなことを言っているのか?」「仮に本心だとしても、言葉選びや話し方が下手すぎる」みたいに感じさせる人が多すぎるのだ。政治家というのはまさに、「言葉」で人を動かさなければならない立場にいるはずなのだが、少なくとも日本の政治家は、その辺りのレベルが低すぎるように思う。
決して政治家に限る話ではないが、私は「言葉が劣っている」と感じる人にはほぼ興味が持てない。そして、昔からそういう感覚を持っていたので、「言葉が優れているか否か」に関する嗅覚は結構高い方だと自分では思っている。そんな私にとって、藤木幸夫はかなり「言葉が優れた人物」と言えるのだ。
藤木幸夫は政治家ではないのだが、菅義偉との関係性を考えても、あるいは自民党の二階俊博や麻生太郎とサシで食事に行く仲だという点を踏まえても、かなり政治家的な人間だと言っていいだろう。そして、そんな人物の言葉が「伝わる」ということに、私はとても驚かされてしまったのだ。映画撮影時、彼は91歳だったというから、その年齢を踏まえるとさらに驚きである。
さて、誤解されないように少し触れておく必要があると思うが、私にとって「言葉の強さ」というのは、「その人の本心を良く表している」という状況を意味しているわけではない。言葉を発する側の「本心」などどうやったって知りようがないからだ。一方で、「この人はきっと、本心を話しているんだろうな」という感覚は、言葉を受け取る側のものである。そして私は、相手にそう思わせられるかどうかが重要だと考えているのだ。
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つまり私は、「仮に相手の発言が『本心』ではないとしても、私が『本心を話しているんだろうな』と感じられればいい」と思っているのである。繰り返すが、どうやったって「本心」そのものは見えないのだから、「言葉」などを通じて判断するしかない。だからこそ「言葉」を磨く必要があるのだし、それが「本心」だろうとそうでなかろうと、「本心を話しているんだろうな」という感覚を与えられるのなら、その人は「伝わる言葉」を持っていると私は考えているのだ。分かりやすく言えば、「相手を騙す能力に長けた詐欺師」は私にとって「『伝わる言葉』を持っている人」である。別に藤木幸夫が詐欺師だと言いたいわけではないので誤解しないでほしいが、私にとっての「伝わる言葉」はそのような意味であると理解していただければと思う。
すべての政治家は、藤木幸夫の「言葉の強さ」を見習うべきである
私はもちろん、映画を観る前の時点では藤木幸夫という人物のことなど何も知らなかったので、「『伝わる言葉』を持っている人」だとは当然想像してもいなかった。なので、映画が始まってしばらくは、「聞こえの良い言葉を口にするのが上手い人なのかもしれない」程度に思っていたはずだ。政治家みたいだったし、年齢的にも大分高齢なので、そういう印象になるのも当然と言っていいだろう。
例えば、山下ふ頭でのIR事業に反対の立場を取ると決めた彼が、こんなことを口にする場面がある。
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男には、一度こうと決めたらその道を歩かなきゃいけない、そんな道があるんだよ。
俺はその道を歩く。一人でも。
こういう大げさなことを言う人はいるし、この時点では「キレイゴトを口にする人なんだなぁ」ぐらいにしか思っていなかった。しかし徐々に、「ちゃんと届く言葉を持っている人だ」という印象に変わっていったのである。いくつか発言を抜き出してみよう。
まずはこんな場面から。IR事業に対する反対の意思を表明した藤木幸夫は、横浜港での荷役を管理する自身の会社に対しての「嫌がらせ」としか思えない状況に直面することになる。世界最大の船会社との契約に際して、市の許可が下りないかもしれないという事態に陥ったのだ。このことについて彼はこんな風に語っていた。
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我慢しなきゃなんないよ。なにも殺し合うわけにはいかないんだから。
それに、役人は言われたらしょうがないよ。人事権とか予算とか握られちゃってるんだから。
俺はそんなことには負けないよ。
あるいは、当時の横浜市長である林文子が、それまでずっと「白紙」と言い続けてきたIR事業を「進める」と発表し、態度を一変させた。それを受けて行った会見では、こんな風に語っている。
俺は今日、顔に泥を塗られたよ。ただ、どうも市長に文句を言う気にはならないんだよなぁ。だって、泥を塗らせた奴がいるんだってハッキリわかってるから。
彼が言う「泥を塗らせた奴」というのが、当時の首相・菅義偉である。
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今こうして抜き出した文章を読んで、その「言葉の強さ」を理解してもらえたのかは分からないが、私は彼の発言を聞く度に、「メチャクチャ届く言葉を発する人だな」と感じるようになっていったのだ。
いや本当に、この点にはとても驚かされた。そもそも91歳というかなりの高齢で、また、海千山千の港湾・政治の世界で戦ってきた人が、大分年下の一般人にもちゃんと伝わる言葉で話せるというのは凄いことだと思う。この能力こそが彼の強みだと思うし、結果的には、「国策」と言っていいだろうIR事業を白紙に戻す原動力にもなったはずだ。
「世の中にはまだこういう人もいるんだなぁ」というのが、映画『ハマのドン』を観た私の一番の感想である。そして、「言葉の強さ」という意味で言えば、すべての政治家が彼を見習うべきだとさえ感じた。ホントに世の中には、「伝わらない言葉」しか使えない政治家が多すぎる。そして、そんな人間ばかりが政治家になるから日本の政治はお粗末なんじゃないか、とさえ思わされてしまった。
カジノ設計者・村尾武洋が力説する「カジノ反対論」の説得力
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映画『ハマのドン』のもう1つ興味深いポイントは、村尾武洋という人物の存在だろう。本作は元々テレビ番組として制作・放送されたのだが、そちらには彼は登場していない。そして、テレビ版では使われなかった彼の映像素材を監督から提示されたことで、本作のプロデューサーは「劇場版もいける」と判断したのだと、上映後のトークイベントで語っていた。まさに彼の存在は本作において非常に重要であり、作品を一層盛り上げるのに役立っていると言っていいと思う。
村尾武洋はカジノ設計者であり、アメリカでいくつものカジノに携わってきた人物だ。しかし何故、そんな人物が藤木幸夫の物語に関係してくるのだろうか。
村尾武洋はある日、藤木幸夫がIR事業に反対する映像を観たのだという。そして彼が語る言葉に打たれ、「この人しかいない」と思って直接手紙を送ったそうだ。このエピソードは、やはり藤木幸夫の言葉が人を動かす力を持っていることの証左と言えるだろう。もちろん彼は、返事など返ってくるはずがないと考えていた。しかしその後、藤木幸夫の直筆で巻物のような長文の返信が返ってきたという。そして、その誘いに応じるような形で、彼は藤木幸夫と関わるようになっていったのである。
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そう、村尾武洋はなんと、カジノから仕事をもらう立場でありながら、IR事業に反対する藤木幸夫の主張を裏付ける証言をしているのだ。実際にカジノを設計している人物が「カジノ反対」を主張するというのは、非常に説得力が高いと言えるだろう。
さて、当然こんな疑問が浮かぶはずだ。そんな主張をして、仕事が無くなったりしないのか、と。彼は、「家族からも同じように心配された」と語っていた。まあそうだろう。しかし彼は、「時代ごとに、出来る人間がやらなきゃいけないことがあるもんじゃないですか」と口にする。そして、藤木幸夫に協力する形で「日本へのIR進出」に反対する決断をしたというわけだ。
彼の具体的な主張については是非映画を観てほしいが、言っていることは非常にシンプルだろう。設計する側の人間からすると、カジノという場は「いかに人を外に出さず、長時間留まってもらうか」が考え尽くされた構造になっているというのだ。IR事業の推進派は、「IR誘致によって、周辺の街にもプラスの効果がある」みたいな主張をするそうだが、村尾武洋は「そんなことはあり得ない」と断言していた。なんなら、「周辺の街に人が還流するみたいなことが起こるなら、それは僕ら設計者の負けだ」とさえ言うのである。設計している本人が言っているのだから間違いないだろう。設計図やカジノ内部の写真を提示しながら、彼はこのように「カジノの危険性」について語っていくのだ。
本作はもちろん、藤木幸夫側から状況を捉える映画であり、それはつまり、必然的に「カジノ反対」側の主張が強くなることを意味する。もしかしたら、この映画を観た「カジノ推進派」にも何か反論があるかもしれない。しかし、誰が何を主張しようが、「カジノ設計者が反対している」という事実に勝るものはなかなかないだろう。非常にインパクトのある主張だと感じた。
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「カジノ」に対する私の考え方
さて、映画の内容からは少し離れるが、一旦ここで、私自身の「カジノ」に対する考え方について触れておこうと思う。
私の主張の根本にあるのは、「カジノを誘致したいなら好きにすればいいが、その前に、現時点における国内の『ギャンブル依存症者』への対策が急務である」という考えだ。
日本には、パチンコや競馬など様々な公営ギャンブルが存在する。あるいは、より広く捉えれば、ソーシャルゲームの「ガチャ」などもギャンブルと捉えていいかもしれない。そして、そのようなギャンブルにハマって、自身や家族の生活が崩壊してしまう「ギャンブル依存症」もそれなりの数いるはずだ。「カジノ誘致によってギャンブル依存症者が増える」とかなんとか議論しているようだが、そんなことよりもまず、既に「ギャンブル依存症者」が存在しているのだから、そちらの対策をしなければ、カジノ誘致の良し悪しなど決められないだろうと私は考えているのである。
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カジノ推進派の中には、「カジノによって増えた税収によって、ギャンブル依存症対策費用が捻出出来る」と主張する人もいるようだ。この意見は理解できないわけではないが、しかし、もしもそれが出来るなら、既に存在する公営ギャンブルでも同じことが出来なければおかしいとも思う。パチンコや競馬などによる税収が存在するのだから、そこからギャンブル依存症対策費用を捻出すればいいではないか。何故わざわざカジノを誘致してから対策費用を捻出しなければならないのか、私には理解できない。
またカジノ推進派は、「IRでは入場規制を厳しく行うので、ギャンブル依存症になりにくくなる」と主張するのだが、やはりこれについても、「まずは、既に存在するギャンブルで入場規制を行うべきだ」と思う。パチンコや競馬などで入場規制がきちんと行えて、かつ一定の成果が出ると分かってからカジノを誘致すればいいのではないかと感じてしまうのだ。やはりどう考えても、「既に存在する『ギャンブル依存症者』への対策」が先だと私は思う。
ギャンブル依存症は、決して本人だけの問題ではない。映画では、藤木幸夫が児童養護施設の関係者に会う場面も描かれる。児童養護施設には、ギャンブル依存症によって家庭が崩壊し、貧困に陥った子どもが多くいるのだ。彼はその実態をヒアリングした上で、「そんな酷い状況をもたらすカジノなど横浜には要らない」とNOを突きつけるのである。まあ、どう考えてもその判断の方がまともだろう。「成長戦略」だとか「税収増」だとかなんだとか言っても、生み出されるマイナスの方が大きいように私には感じられてしまう。以前テレビで、「シンガポールはカジノの導入によって、逆にギャンブル依存症者を減少させることに成功した」というようなニュースを見た記憶があるが、それはかなり稀なケースだろう。少なくとも、日本の公が主導してそんなに上手く物事が運ぶとは到底思えない。
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そんなわけで、「既に存在する『ギャンブル依存症者』への対策を行うのであれば、カジノ誘致は好きにすればいいが、それをやらないなら明確に反対だ」というのが私の基本スタンスというわけだ。
さらに、これはそもそもギャンブル全般について言えることだが、「ギャンブルは特に何も生み出さない」という点がどうにも好きになれないポイントでもある。ギャンブルにどれだけお金が費やされたところで、技術革新が起こるわけでも、知識が蓄積されるわけでも、有形の価値が生み出されるわけでもない。生活を便利にしたり、人々を健康にしたりもしないのだ。そんなものに大金が注ぎ込まれ、そこから大金が生み出されるという状況は、やはり異常だと私は思う。
村尾武洋はこの点についても触れていた。彼は、
25セントのスロットが、1日で5万ドル生み出さなければ、置き場所を変えるなど対策を取る。
と語っていたのだ。何かを生み出すわけではないスロットが、1日で5万ドルの大金を稼ぐなど、やはりおかしい。村尾武洋もおかしいと言っていた。普通に考えれば、そんなものが存在を許容されることの方が異常なのだ。私はそう感じる。
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藤木幸夫が仕切っている横浜港は、「世界で最も早く、信頼度の高い荷役を行う港」として世界的に評価されているという。つまり、「元々もの凄い価値を有している場所」なのだ。大阪もIR誘致を目指していたと思うが、大阪の場合は確か、元々ゴミ処分場だったところを埋め立て万博の会場にし、その後IRで使おうとしているんだったはずである。ゴミ処分場という、決して「価値がある」と言えるような土地ではない場所を活用しようとしているのだから、まだマシだと思えるかもしれない。しかし横浜港は元々高い価値を持つ場所なのであり、そこにわざわざIRを誘致する必要など無いように私には感じられてしまう。
そんな横浜港を守ろうと、横浜市民は動いた。彼らは市民運動を展開し、住民投票の請求に必要な法定数の3倍以上の署名を集めたのだ。しかし横浜市議会は、たった3日間の審議によってこの請求を棄却した。要するに横浜市としては、何がなんでも「IR誘致」を実現するために全力を尽くすつもりというわけだ。
この状況に立ち向かうための手段は、もはや1つしかない。「市長選で勝つこと」だ。映画『ハマのドン』のラストは、この市長選の様子が映し出される。実際に起こったことだから、結果を書いてもネタバレとは言われないだろう。私はこの時の市長選の結果を覚えていなかった(というか興味がなかったはずなので、そもそも知らなかった)が、なんと藤木幸夫が擁立した無名の候補者が大差で圧勝したのだ。現職の林文子だけではなく、菅義偉が「奇策」として投入した小此木八郎も打ち破る完勝だった。藤木幸夫の決意と言葉、そして市民の団結が成し遂げた結果であり、非常に痛快だなと思う。もちろん、横浜市のIR誘致は頓挫することとなった。
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さて、映画では様々な事柄が描かれるのだが、興味深いと感じたのが、山口組三代目として知られる田岡一雄との関わりである。藤木幸夫の父・幸太郎が、田岡一雄と、住吉会会長だった阿部重作と並んで写る写真が映画の中で映し出されるのだ。田岡も阿部も共に、港湾の仕事を生前の幸太郎から学んでいたのだという。
この点に関して藤木幸夫が、「港湾は、世間で最も誤解されている」と口にする場面があった。港湾とヤクザとの関係はこれまで、映画などで繰り返し描かれてきたからだ。実際のところ、港湾で働く者にとっての唯一の娯楽は「丁半博打」であり、それが浸透していたため、後にヤクザが入り込んできたのだという。
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藤木幸夫は次のようなエピソードも語っていた。父・幸太郎が田岡一雄を、横浜港の理事長に誘ったことがあるというのだ。もちろんこれは、「ヤクザから足を洗え」という意味の誘いである。ヤクザのトップに、間接的にとはいえ「ヤクザから足を洗え」と言う父親も父親だが、それに対する田岡一雄の返答もなかなか凄かった。
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さて、藤木幸夫自身は父から「ヤクザとは関わるな」と厳命されていたそうだ。しかし同時に、「カタギになると決めた者には優しくしてやってくれ」とも言われていたと明かしている。あるいは父親の話で言えば、藤木幸夫が地元の不良を集めて作った野球チームの面々との関わりも面白かった。父親は不良たちに本を読ませ、さらに時折、議論の議題を与えて意見を云わせるみたいなことをしていたそうだ。当時の野球チームのメンバーも映画に出てきたが、藤木幸夫含め「あの時の議論は、大人になってから役に立った」としみじみ語っていた。
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思いがけず、実に興味深い人物について知ることが出来た映画だった。そして、やはり「言葉の強さ」は武器になるし、人を動かす上で、これほど強力な武器はないと改めて実感させられた作品でもある。
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「ホロコーストが起こったか否か」が、なんとイギリスの裁判で争われたことがある。その衝撃の実話を元にした『否定と肯定』では、「真実とは何か?」「情報をどう信じるべきか?」が問われる。「フェイクニュース」という言葉が当たり前に使われる世界に生きているからこそ知っておくべき事実
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【想像力】「知らなかったから仕方ない」で済ませていいのか?第二の「光州事件」は今もどこかで起きて…
「心地いい情報」だけに浸り、「知るべきことを知らなくても恥ずかしくない世の中」を生きてしまっている私たちは、世界で何が起こっているのかあまりに知らない。「光州事件」を描く映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』から、世界の見方を考える
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【驚愕】正義は、人間の尊厳を奪わずに貫かれるべきだ。独裁政権を打倒した韓国の民衆の奮闘を描く映画…
たった30年前の韓国で、これほど恐ろしい出来事が起こっていたとは。「正義の実現」のために苛烈な「スパイ狩り」を行う秘密警察の横暴をきっかけに民主化運動が激化し、独裁政権が打倒された史実を描く『1987、ある闘いの真実』から、「正義」について考える
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【異様】ジャーナリズムの役割って何だ?日本ではまだきちんと機能しているか?報道機関自らが問う映画…
ドキュメンタリーで定評のある東海テレビが、「東海テレビ」を被写体として撮ったドキュメンタリー映画『さよならテレビ』は、「メディアはどうあるべきか?」を問いかける。2011年の信じがたいミスを遠景にしつつ、メディア内部から「メディアの存在意義」を投げかける
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【告発】アメリカに”監視”される社会を暴露したスノーデンの苦悩と決断を映し出す映画:『スノーデン』…
NSA(アメリカ国家安全保障局)の最高機密にまでアクセスできたエドワード・スノーデンは、その機密情報を持ち出し内部告発を行った。「アメリカは世界中の通信を傍受している」と。『シチズンフォー』と『スノーデン』の2作品から、彼の告発内容とその葛藤を知る
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【絶望】「人生上手くいかない」と感じる時、彼を思い出してほしい。壮絶な過去を背負って生きる彼を:…
「北九州連続監禁殺人事件」という、マスコミも報道規制するほどの残虐事件。その「主犯の息子」として生きざるを得なかった男の壮絶な人生。「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーが『人殺しの息子と呼ばれて』で改めて取り上げた「真摯な男」の生き様と覚悟
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【現実】生きる気力が持てない世の中で”働く”だけが人生か?「踊るホームレスたち」の物語:映画『ダン…
「ホームレスは怠けている」という見方は誤りだと思うし、「働かないことが悪」だとも私には思えない。振付師・アオキ裕キ主催のホームレスのダンスチームを追う映画『ダンシングホームレス』から、社会のレールを外れても許容される社会の在り方を希求する
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【称賛】生き様がかっこいい。ムンバイのホテルのテロ事件で宿泊客を守り抜いたスタッフたち:映画『ホ…
インドの高級ホテルで実際に起こったテロ事件を元にした映画『ホテル・ムンバイ』。恐ろしいほどの臨場感で、当時の恐怖を観客に体感させる映画であり、だからこそ余計に、「逃げる選択」もできたホテルスタッフたちが自らの意思で残り、宿泊を助けた事実に感銘を受ける
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【リアル】社会の分断の仕組みを”ゾンビ”で学ぶ。「社会派ゾンビ映画」が対立の根源を抉り出す:映画『C…
まさか「ゾンビ映画」が、私たちが生きている現実をここまで活写するとは驚きだった。映画『CURED キュアード』をベースに、「見えない事実」がもたらす恐怖と、立場ごとに正しい主張をしながらも否応なしに「分断」が生まれてしまう状況について知る
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【正義】マイノリティはどう生き、どう扱われるべきかを描く映画。「ルールを守る」だけが正解か?:映…
社会的弱者が闘争の末に権利を勝ち取ってきた歴史を知った上で私は、闘わずとも権利が認められるべきだと思っている。そして、そういう社会でない以上、「正義のためにルールを破るしかない」状況もある。映画『パブリック』から、ルールと正義のバランスを考える
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【意外】東京裁判の真実を記録した映画。敗戦国での裁判が実に”フェア”に行われたことに驚いた:『東京…
歴史に詳しくない私は、「東京裁判では、戦勝国が理不尽な裁きを行ったのだろう」という漠然としたイメージを抱いていた。しかし、その印象はまったくの誤りだった。映画『東京裁判 4Kリマスター版』から東京裁判が、いかに公正に行われたのかを知る
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【勇敢】後悔しない生き方のために”間違い”を犯せるか?法に背いてでも正義を貫いた女性の生き様:映画…
国の諜報機関の職員でありながら、「イラク戦争を正当化する」という巨大な策略を知り、守秘義務違反をおかしてまで真実を明らかにしようとした実在の女性を描く映画『オフィシャル・シークレット』から、「法を守る」こと以上に重要な生き方の指針を学ぶ
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【情熱】「ルール」は守るため”だけ”に存在するのか?正義を実現するための「ルール」のあり方は?:映…
「ルールは守らなければならない」というのは大前提だが、常に例外は存在する。どれほど重度の自閉症患者でも断らない無許可の施設で、情熱を持って問題に対処する主人公を描く映画『スペシャルズ!』から、「ルールのあるべき姿」を考える
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【デマ】情報を”選ぶ”時代に、メディアの情報の”正しさ”はどのように判断されるのか?:『ニューヨーク…
一昔前、我々は「正しい情報を欲していた」はずだ。しかしいつの間にか世の中は変わった。「欲しい情報を正しいと思う」ようになったのだ。この激変は、トランプ元大統領の台頭で一層明確になった。『ニューヨーク・タイムズを守った男』から、情報の受け取り方を問う
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【衝撃】森達也『A3』が指摘。地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教は社会を激変させた
「オウム真理教は特別だ、という理由で作られた”例外”が、いつの間にか社会の”前提”になっている」これが、森達也『A3』の主張の要点だ。異常な状態で続けられた麻原彰晃の裁判を傍聴したことをきっかけに、社会の”異様な”変質の正体を理解する。
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【加虐】メディアの役割とは?森達也『A』が提示した「事実を報じる限界」と「思考停止社会」
オウム真理教の内部に潜入した、森達也のドキュメンタリー映画『A』は衝撃を与えた。しかしそれは、宗教団体ではなく、社会の方を切り取った作品だった。思考することを止めた社会の加虐性と、客観的な事実など切り取れないという現実について書く
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【衝撃】壮絶な戦争映画。最愛の娘を「産んで後悔している」と呟く母らは、正義のために戦場に留まる:…
こんな映画、二度と存在し得ないのではないかと感じるほど衝撃を受けた『娘は戦場で生まれた』。母であり革命家でもあるジャーナリストは、爆撃の続くシリアの街を記録し続け、同じ街で娘を産み育てた。「知らなかった」で済ませていい現実じゃない。
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【勇敢】日本を救った吉田昌郎と、福島第一原発事故に死を賭して立ち向かった者たちの極限を知る:『死…
日本は、死を覚悟して福島第一原発に残った「Fukushima50」に救われた。東京を含めた東日本が壊滅してもおかしくなかった大災害において、現場の人間が何を考えどう行動したのかを、『死の淵を見た男』をベースに書く。全日本人必読の書
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【実話】仕事のやりがいは、「頑張るスタッフ」「人を大切にする経営者」「健全な商売」が生んでいる:…
メガネファストファッションブランド「オンデーズ」の社長・田中修治が経験した、波乱万丈な経営再生物語『破天荒フェニックス』をベースに、「仕事の目的」を見失わず、関わるすべての人に存在価値を感じさせる「働く現場」の作り方
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