目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:七井翔子
¥1,760 (2023/12/04 21:06時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この記事で伝えたいこと
「恵まれている」という風に見られがちだが、「生きづらさ」にまとわりつかれてもいる女性が抱える葛藤をリアルに描き切る
私は、著者・七井翔子の感覚や価値観に、とても共感できてしまいました
この記事の3つの要点
- 「生きづらそうには見えないけど、実はとても生きづらい人」は世の中にたくさんいるし、私もそういう人と出会ってきた
- 「唯一の正解以外はすべて不正解」みたいな判断をする人のことが、私はとても嫌い
- 「自分を正常に保つための行動」が誰かを傷つけることにもなってしまうという大いなる葛藤
傷つきボロボロになることが分かっていて、それでも身一つで前進しようとする七井翔子の姿は、とても勇敢なものに感じられました
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20年前に読んで衝撃を受けたブログ本『私を見て、ぎゅっと愛して』(七井翔子)は、今読んでも多くの人に響くだろう様々な「葛藤」に満ちあふれている
本書が文庫化されたのは2021年のことですが、本書が発売されたのは2006年でした。当時、「話題になった一般人のブログを書籍化する」というのが出版のブームだったはずで、そういう流れの中で発売された本だったと思います。本書も、七井翔子(仮名です)がブログに書き綴っていた「日記」を書籍化したものであり、本書には「実際に起こった出来事」や「その時の自身の感情」が書かれているわけです。
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もちろん、ブログに書かれたことだし、著者は本名を隠しているので、書かれている内容が真実かどうかはっきりとは分かりません。ただ逆に考えると、「これほど『出来すぎた話』を『実話です』と言って世に出す」のは、むしろ勇気がいるように思います。また、本当に実際に起こった出来事だからこそ、その時の感情をリアルに綴れているのだとも考えられるでしょう。まあ色んな捉え方があるとは思いますが、私は「本書に書かれていることは真実だ」と受け取っているし、そのように読まれたらいいなとも思っています。
今までたくさん出会ってきた、「生きづらそうには見えないけど、実はとても生きづらい人」
2006年当時、23歳だった私は、色んな事情があって自分の環境に激変があり、メンタル的にもかなりやられていました。そんな時に本書に出会ったので、その時には「七井翔子が抱える様々な葛藤」に自分自身を重ねるようにして読んだはずです。
後から振り返ってみると、23歳前後ってホントに、私の人生の中で「かなりのヤバ期」だったからなぁ
他人から見たらそう大したことじゃなかっただろうだけど、割と「よく乗り切ったな」って感覚があるよね
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さてその後、2021年に文庫化された本書を改めて読んでみたのですが、やはり23歳の時とは読み方が変わりました。私は割とメンタル的にかなり安定して生きていけるようになったので、七井翔子の人生に自分を重ねるような読み方はしていません。ただ一方で、私は大人になってから、「生きづらそうには見えないけど、実はとても生きづらい人」にたくさん出会ってきました。そして、そういう人たちのことを頭に思い浮かべながら本書を読んでいたのです。
『私を見て、ぎゅっと愛して』は著者が自分自身について書いている本であり、さらに彼女は自己評価がとても低いので、彼女が自身について触れている描写から「どんな人物なのか」を捉えるのはちょっと難しいかもしれません。ただそれでも、本書を読む限り、七井翔子という女性は恐らく、「傍目には『生きづらそうな人』には見えない」のだろうと感じました。塾講師として生徒からの支持が篤く、人見知りのようですが気が合う人とは気持ちよく関われます。また、本人が直接的にそう書いているわけではありませんが、恐らく容姿も整っているのでしょう。長く付き合っている恋人がいて、その人と結婚の予定もあります。このような情報だけ聞けば、「生きづらさ」とは無縁に思えるかもしれません。
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しかし七井翔子は、誰にも口に出来ない様々な「葛藤」をその裡に抱えており、傍目には「恵まれている」と映る状況にありながら、日々「生きづらさ」と闘い続ける人生を歩んでいるのです。
こういう人こそ、一番生きていくのがしんどいタイプだよなっていつも思ってる
「『周りからの見られ方』に合わせなきゃ」みたいに感じちゃう人が多いはずだから、余計キツいよね
私がこれまでに出会ってきた「生きづらそうには見えないけど、実はとても生きづらい人」も、同じような感じでした。その内面について深く知るまでは、「誰とでも楽しそうに話すし、趣味もあるみたいだし、容姿も整ってるし、人生充実してるんだろうな」みたいに感じるのですが、その内面を明かしてくれるようになると、その落差に驚かされてしまうのです。私はこれまでに、「日常的に遺書を書いています」とか、「自分のことを乱暴に扱って“くれる”、決して好きではないセフレとの関係が切れない」とか、「昔は、虫が這い回る部屋でただ横になっていることしか出来ないぐらい、何もする気が起きない時期もありました」みたいに言う様々な人に出会ってきました。そういう人と出会う度に、「本当に、人は見た目では分からないものだ」と感じさせられるのです。
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さて、七井翔子は自身についてこのように書いています。
私は愛される価値のない人間だという自虐。私は自分を痛めつけることで、心を平らかにできる。
先ほどの「セフレとの関係が切れない」という話も近いと思いますが、「『自身を酷い状況に置く』という選択をしなければ耐えられないくらい、自分に価値を見出すことが困難な人」は一定数います。しかしこのような感覚は、普通にはまず理解されません。本作には、七井翔子の周囲にいる家族や友人が様々に登場するわけですが、やはりそのほとんどが、彼女の行動を「理解できない」と受け取ります。そして、そうであることが分かっているからこそ、「笑顔で楽しそうに振る舞う」ことで「擬態」しているのです。
特に女性の場合、その「擬態」が上手すぎるから、傍から見てるだけだと絶対に気づけないよね
だから私は、「何でも話せそうな雰囲気」を出せるようにいつも心がけてるつもり
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ボケっとしてないで、なんとかしなさい。どうしてアンタは自分の感情を押し込めて押し込めて押し込めて生きているの。精神病って何よ。私にはただの甘えにしか映らないわっ!
これは著者の姉の言葉で、姉はとにかく著者のことをまったく理解しようとしません。こういう人が周りにいると、本当にしんどいなと感じます。「どうしたってそういう風にしか生きられない」みたいな感覚を、単に「甘え」と判断されてしまうことはとても辛いことだし、そういう「無理解」が余計「擬態」を助長させるという悪循環にも繋がっていくわけです。そういう世の中のことを、私はとても嫌悪しています。
私は七井翔子ととても感覚が近いと思う
もしかしたら、『私を見て、ぎゅっと愛して』を読んで、「著者にまったく共感できない」みたいに感じる人の方が多数派なのかもしれません。そしてそういう人は恐らく、彼女の周りにいる人の意見や言動に賛同出来るのだろうと思います。
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しかし私は真逆でした。最初から最後まで、七井翔子の感覚にとても共感できたのです。そして私は、彼女の周りにいる「あなたの感覚はおかしい」と指摘する人たちの方に、むしろ違和感を覚えてしまいます。確かに、何かを決めたり選んだりするのであれば「多数派」の意見を採用するのが合理的でしょう。しかし、「多数派の意見だから正しい」みたいな主張には、私はどうしても納得できないのです。
大体の場合、「これが正しい」的な主張をする人って、何か勘違いしてるだけのことが多いと思ってる
単に想像力が無いとか、他の選択肢が見えていないとか、そういう「欠落」が浮き彫りになるだけだよね
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1つ、作中からこんな場面を抜き出してみましょう。なるべく具体的に触れないように書きますが、著者は学生時代からずっと信頼してきた親友からとんでもない”裏切り”に遭います。『私を見て、ぎゅっと愛して』ではかなり衝撃的な展開がいくつも描かれるのですが、その中でも最大級と言っていいほどの驚きをもたらす事実が明らかになるのです。しかしそのことが発覚した後も、彼女は親友のことをどうしても恨む気持ちにはなれません。あまつさえ、次のような感覚さえ抱くのです。
もう、私と由香は本当に親友に戻れないって思って、それが悲しい。
その”裏切り”がどんなものなのかこの記事では触れるつもりがないので、なかなか判断しにくいとは思いますが、本書を読んだ人はきっと「あり得ない」と感じることでしょう。まさに、先ほども紹介した姉がそのような反応をしており、再び「理解できない」という感覚を突きつけるのです。まあこの場合は、姉の反応は健全と言えるだろうと思いますが。
あんまり「普通」という言葉を使いたくはないけど、この時の姉の反応は、まあ「普通」だと言えるよね
10人いたら9人ぐらいは、この姉のような反応をするんだろうなぁ、きっと
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ただ、「健全な反応」だけが「正解」なはずもないでしょう。私は基本的に「『正解』は常に複数存在する」と考えているので、「どの正解を選ぶか」という考え方をすべきだと思っています。しかしどうも世の中の人は「正解は1つ」と考えているように見えるし、さらに「『唯一の正解』以外はすべて不正解」みたいに捉えているように感じられるのです。私はどうしても、このような感覚に違和感を覚えてしまいます。
違う。とにかく、私は本当に嬉しい。由香が笑ってくれていたなんて。
七井翔子のこのような感覚は、確かに「普通ではない」と言えるでしょう。しかし、だからと言って「否定されて当然」なんて話にはならないはずです。
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このように私は、作中のほとんどの場面で著者の価値観に共感できたし、同時に、著者の感覚を受け入れない周囲の人間に対する苛立ちも覚えてしまいました。世の中のそういう風潮が、「あるタイプの人間にとっては地味にダメージが蓄積されるもの」なのだという理解は広まってほしいと思うし、さらに私は、そういう「無理解」によって”削られる”人が減ってくれたらいいなといつも考えているのです。
「自分が無意識の内にしてしまっている攻撃」とか「誰かが人知れず食らっているダメージ」なんかが目に見えるといいんだけどね
そういうのが可視化されないから、「自分の言動は問題ない」みたいに思い込めちゃうんだろうなぁ
「誰かを傷つけてまで存在していたくない」という感覚
七井翔子の感覚には色んな点で共感できるのですが、中でも次のような考え方は特に理解できてしまいました。
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私はずっと恐れている。私が誰かを傷つける存在になりたくない。
この辺りの感覚については、映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』の記事でも書いたので、併せて読んでいただけると嬉しいです。
「他者と関わること」は常に、「その人を傷つける可能性」と表裏一体だと言えるでしょう。そして、そのことに敏感になっている人が増えているように思います。身近な人でも芸能人でも、「人見知りなんです」みたいに言う人が多くなった印象があるのですが、私にはこの言葉が、「(あなたを傷つけないためにあなたに近づかないようにしているのですが、別にそれはあなたのことが嫌いなわけではなく、)人見知りなんです」という意味に聞こえるのです。もちろん、本当に「他者とのコミュニケーション不全」を抱えている人もいるとは思いますが、「人見知りなんです」と口にする人の多くが、「相手のことを傷つけないために用心している」だけであるように私には感じられます。
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もしそうだとすれば、その気持ちはかなり理解できるよね
ホント、誰かを傷つけてまで人と関わることに意味なんかないからなぁ
七井翔子は、自身のこんな感覚を赤裸々に紡いでいます。
渇くほど他者の手を欲していながら、その一方で渇くほど孤独を欲している。この矛盾。自己撞着に常に苛まれている。
私をかまって、見ていて、だけど寄り付きすぎないで。見過ごさないで。だけどずっと線の向こうで見てて。でも見過ぎないで。でも目を離さないで。
ああ、この非生産的で倒錯的なループ。我ながらひどすぎるな、と嘲る。
このような感覚もまた、「傷つけてしまうことへの恐れ」を背景にしたものだと言えるでしょう。「他人と関わりたい」という強い気持ちを抱きながらも、同時に「その人のことを傷つけてしまうかもしれない」とも怯えるからこそ、「見ていて。だけど寄り付きすぎないで」という感覚になるのだと思います。程度の差こそあれ、このような葛藤に苦しんでいる人は結構いるんじゃないでしょうか。
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「自分が傷つけばいい」みたいな感覚も、きっとこういう考え方が背景にあるよね
「相手のことを傷つけているかもしれないけど、自分も一緒に傷ついていればまだ許容できる」みたいに考えてるのかもしれないなぁ
本書を読んで改めて感じたのは、「相手を傷つけまいとして取った行動が、結果として相手を傷つけてしまうことがある」ということです。
どうして彼以外の人と寝たいのか。それは七井翔子という殻から脱出して、すべてを擲ち、自由に奔放に泳ぐことができるからだ。今まで、この得がたい解放感は彼への罪悪感をも軽く凌いでしまっていた。高邁な思想も、智恵も、しがらみも何もかも捨て忘れ、一個のメスとしてふるまうことの快感を、見ず知らずの男たちからは容易く得られていた。
七井翔子は、「自分を正常に保つための行動」を日々取っています。その1つが「ブログに自身の感情を吐き出すこと」なのですが、彼女がしているのはそれだけではありません。先の引用の通り、倫理的に「かなりアウトな行動」もしているのです。
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まあ、その話は一般的にはまったく共感されないし、本書の内容にも関係ないから省略しよう
彼女はその行為を、「自分を正常に保つため」にはどうしても必要だと考えています。それは、「恋人への罪悪感」を凌ぐほどの強さなのです。とはいえ、私たちも実は大差ないことをしていると言えるでしょう。私たちも、「環境に悪い」と頭では理解していながら、「石油」を使う生活を手放せずにいます。それと同じように、頭では「悪い」と理解しつつ、どうしてもそうせざるを得ないというわけです。
七井翔子にとって、「自分を正常に保つこと」は「周囲の人間を傷つけないための行動」でもあるのですが、しかしそのための行為が「誰かを傷つけること」に繋がってしまっています。そして彼女はこの状況にかなり葛藤するのです。「変則的なハリネズミのジレンマ」とも言えるかもしれません。
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このような形で、彼女をを含めた本書の登場人物たちは皆、「誰かのことを想い、しんどい道を選んででも真っ当さを保とうと努力しているのに、それでも大切な人を傷つけてしまう」というような辛い状況に直面しているのです。その必死さと報われなさに、読者ははきっと揺さぶられてしまうだろうと思います。
「悪い人」は1人も出てこないのに、状況がどんどん悪化しちゃうのが辛すぎるよね
ありきたりなことを言うけど、ホント、みんな幸せになってほしいなって思う
自らを客観視し、自身の内面を恐ろしい解像度で言語化していく凄まじさ
『私を見て、ぎゅっと愛して』では、様々な「過ち」が描かれます。登場人物たちの「行為」だけを抜き出せば、炎上するようなものばかりでしょう。一般的な価値観からすると「間違っている」と判断したくなるような振る舞いばかりが描かれていると言っていいと思います。
しかし、著者には著者なりの理屈があって行動していることもまた事実です。「行為」だけから判断するのでは見落としてしまうような要素が色々とあります。そして、それらを著者が絶妙に言語化していくのです。
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その言語化の精度の高さが、本書の凄さの1つだと言っていいでしょう。
先述した通り、著者は「書くこと」がある種の「デトックス」になると期待しています。自分の内側にあるものを徹底的に吐き出すことによって、錯覚だとしても少し気が楽になったように感じられるからです。そのような感覚は、私も理解できるつもりでいます。いくつかのブログを経ながら、私ももう20年近くブログで文章を書き続けているわけですが、文章に落とし込むことで、確かに、自分の内側にある「何か」の輪郭がはっきりしていくように思えるのです。そして、輪郭がはっきりすればするほど「モヤモヤ」の状態から遠ざかることができ、気持ちが晴れやかになっていくように感じられます。
今でもよく思うけど、こんな風に文章を書き続けてきてホントに良かったわ
文章書いてなかったら言語化する力は身に付いてなかったし、だとしたら物事を解像度高く捉えることも出来なかっただろうからね
ブログの日記にこのことを書く必要はないと、一瞬思う。私の行く末を案じてくださっている方々に心配させるのは心苦しい。責める人は責めるだろう。黙っていれば読者には永遠にわからない。それがブログの利点でもあるだろう。でも、それは絶対にやってはいけない。私のポリシーとして、それはできない。私は、正直に書く。なんと非難されようと、書かなければならない。
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このように七井翔子は、「書くこと」と誠実に向き合っています。そして、そのことが如実に伝わるからこそ、この作品が「フィクション」的になってしまわずに済んでいるようにも感じました。描かれているのは、ちょっと信じがたいと感じるような衝撃的な展開の連続なのですが、それらについて「書かなければならない」みたいな覚悟を感じるからこそ、「これはフィクションではないのだ」という実感が得られるような気がするのです。この凄まじい言語化力には、とにかく驚かされてしまいました。
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最後に
七井翔子の弟が、「姉ちゃんは実は強いんじゃないか」と口にする場面があります。弟が「傷つきたくないから、そうなりそうな状況を回避する」という生き方をしてきたのに対して、彼女は「身一つでぶつかっていく」からです。確かにそういう受け取り方も出来るでしょう。私も基本的には「回避」してしまう側の人間だという自覚があるので、彼女の姿はとても勇敢に感じられます。
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本当は「少しずるい」ぐらいでいいんだろうなと思っています。自分をどうにか生き延びさせるために、ちょっとぐらいずるさを身に纏ってるぐらいの方が穏やかに生きていけるのでしょう。しかしやはり、どうしてもそんな生き方が出来ない人もいます。七井翔子も、そういうタイプの人なのでしょう。だから、ずるさに頼れないまま、しんどい状況に真正面からぶつかっていくことになるわけです。しかし、「ずるさに頼らない」と決めて、分かっていて辛い状況に突っ込んでいくわけで、やはりそれは「勇敢」と捉えてもいいように感じます。
そして、ずるくはなれないからこそ、「誰かのためを想って発揮された優しさ」が、誰かのことを傷つけてしまうことにもなるのです。ずるい人は「優しい人だと思ってもらえる」ようにどう振る舞うのか決めるのかもしれませんが、七井翔子はそうではなく、心底相手のためを想って行動しています。しかし「ずるさを経ない優しさ」は、時になかなか伝わりづらく、衝突や葛藤を生み出すことになってしまうのです。そんなぶつかり合いを何度も繰り返し、傷つきヘトヘトになりながら、それでも他者との関係を諦めずに関わり続けようとする彼女は、やはりとても「勇敢」な人なのだと思いました。
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