目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
劇場で御覧ください
この記事の3つの要点
- ジブリ映画らしさが詰め込まれた、まさに「集大成」と呼ぶに相応しい宮崎アニメ
- 「生と死」を対比的に描きながら、同時に「創造」に対する姿勢についても示唆を与える作品
- 「好き・嫌い」ではなく「良い・悪い」で語りがちな人々に対する強烈な嫌悪感
「難しい」とか「よく分からない」みたいな言葉を批判的な意味で使う人に対して、「そんな生き方でいいのか?」と突きつけているように感じられた
自己紹介記事
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なかなか面白い作品だった。この映画については、特段調べようとせずとも、作品の評価がなんとなく視界に入ってくる。それらは「かなり良い評価」と「かなり悪い評価」の両極端に二分されているような印象だ。そういう漠然とした評価だけを頭に入れ映画を観に行ったのだが、私にはとても面白い作品に感じられた。
一応私自身について少し触れておこう。ジブリ作品について語る場合、語っているのがどういう人間なのかは多少重要だと思うからだ。私は、ジブリ作品は一通り観ているが、熱心なジブリファンというわけではない。また、ジブリ作品に限らず、映画や小説に触れてあれこれ考えるのは好きだが、特別考察が得意というわけでもないと思う。ざっくり、「『ジブリ映画が好き』と言っている平均的な人間」ぐらいに思ってもらえればいいだろう。
ちなみに、以前読んだ『天才の思考』(鈴木敏夫)の記事も書いているので、合わせて読んでいただけると面白いかもしれない。
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ジブリ作品らしい「訳の分からなさ」と、私が感じた「生と死」というテーマ
まったく何の情報も入れずに映画を観たので、冒頭、戦争のシーンから始まったのには少し驚いた。なんとなくだが、戦争が出てくるような作品だとは考えていなかったからだ。戦争が直接的に描かれる冒頭の、主人公・マヒトの疎開から始まるシーンを観ている時には、「『風立ちぬ』に近いタイプの作品なのかもしれない」と考えていたが、その後で、「ザ・ジブリ作品」とでも言うべきファンタジックな展開になっていった。
物語は、疎開先に隣接して建っている大きな塔に近づいたことで大きく動き始める。マヒトの母親の係累は何かで財を成した人物のようで、マヒトは豪邸の一角に建てられた離れで暮らすことになった。その同じ敷地内に、入り口が塞がれた大きな塔が建っているのだ。「大叔父が作った」と説明されるこの塔が、マヒトを冒険の旅へと誘う入り口の役目を果たすことになる。
さて、その後の展開は、多くの賑やかな装飾を取り払って骨格だけ捉えれば、実にシンプルと言えるだろう。冒険のきっかけを作った「謎のアオサギ」と共に、「叔母さんを救う」という目的のために一歩を踏み出すというわけだ。そうやってマヒトは、奇っ怪なことが幾重にも起こる不可思議な世界を旅することになったのである。
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時空が歪んでいたり、宮沢賢治的なセキセイインコに襲われたり、若返ったり、「わらわら」という謎の生き物が現れたりと、宮崎駿が生み出すファンタジックな要素は実に魅力的だ。それらについてもきっと、解釈可能な意味はそれぞれ付与されていると思うのだが、その辺りは好きに解釈したらいいんだろうと思う。大体、宮崎駿映画というのはそういうものだろう。宮崎駿の頭の中から出てきた「何か」を、浴びる側は好きなように受け取ればいい。もちろん、「これが正しい」という解釈を提示したがる人はいるだろうし、それが宮崎駿の頭の中にあるものと一致する可能性もあるとは思うが、しかしそれを確かめる方法はない。この点については後でももう少しきちんと触れるが、「自分の頭で考え、好きなように解釈すればいい」と私は思っている。
さて、『君たちはどう生きるか』ではとにかく様々なモチーフが描かれるが、その中でも私は、「妊娠中の叔母さん」「熟すと空に浮かび、生まれ変わる存在」「若返り」「死人の方が多い世界」「危うく食べられそうになる状況」「神隠し」「代替わりの要望」など、「生と死」あるいは「流転」といったイメージを持つ要素が多いことが気になった。もちろん、これまでの宮崎駿作品にも「生と死」みたいなテーマは常にあっただろうし、『君たちはどう生きるか』だけに特別なものというわけではないとは思う。
ただ、決して考察が得意というわけではない私の目にも「過剰」に映るほど、あからさまに「生と死」の要素が組み込まれているように感じられた。宮崎駿が高齢であることを考えると、集大成だろう作品に「生と死」というテーマをこれでもかと前面に押し出したのかもしれない。
そんな風に考えることでようやく、戦争のシーンから始まったことも必然だったと感じられるようになった。まさに戦争こそ理不尽に「生と死」が決する世界であり、避けては通れないと言えるだろう。
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「美しい世界の醜さ」「醜い世界の美しさ」を対比的に描き続ける作品
私はこの映画を観ながら、
「美しい世界の醜さ」、そして「醜い世界の美しさ」が描かれている
と感じた。作中では随所で、「美しい世界」と「醜い世界」が対比され、最終的にマヒトは「そのどちらを選ぶのか」という選択が突きつけられることになる(と私は解釈した)。マヒトは、「この美しい(はずの)世界に留まり、この世界を一層美しいものにする」と決断することも出来た。しかしマヒトは、その選択肢を拒んだ(のだと思う)。つまりそれは、「未だ戦争が続く『醜い世界』に戻る」という決断を意味する。
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では、何故マヒトは「醜い世界」を選んだのか。これについては勝手に想像するしかないが、ここに「生と死」が絡んでいると私は考えている。つまり私は、「『美しい世界の醜さ』こそが『死』であり、『醜い世界の美しさ』こそが『生』である」と理解しているというわけだ。
マヒトは旅の途中、「生命がいかに誕生するか」に関する理屈を知ることになる。その場面ではそれ以上のことは描かれないのだが、その場面から私は、「マヒトが旅をしている世界では、生命は誕生しない」と解釈していいのではないかとも感じた。
また、あるペリカンがマヒトに、自分たちがここにいる目的について語る場面がある。その目的についてはこの記事では触れないが、ペリカンのこの言葉も、マヒトが旅している世界が「死の世界」であることを示唆するものだと私は思う。
マヒトが旅をしている「美しい世界」がどのように成り立っているのかについては、映画を観ているだけではイマイチ良く分からない。しかし私には、「新たな『誕生』は無く、『死』のみが支配している」のではないかと感じられた。そしてそうだとしたら、その状態はこの「美しい世界」の創造主にとって理想とはとても言えないはずだ。だから「代替わり」によって新たな変化を求めているということだと思っている。
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「生と死」は「創造」へと繋がっていく
そのように考えてみると、叔母さんがいた「産屋」の存在理由についても説明がつけられるかもしれない。作中には、「産屋を覗くことは禁忌」みたいなセリフが出てくるが、それは要するに、禁忌に定めるほど産屋の存在が重要視されているということだろう。あるいは、産屋とはまた別のシーンでのことだが、「子どもがいるから食べない」というセリフが出てきたりもする。これらの描写は、「この世界では『生』があまりにも待望されている」ことを示すものだろうし、裏を返せば、「この世界には『生』があまりにも存在しない」ことを示唆しているとも言えると思う。
さて一方で、マヒトが元々いた世界は、まさに今この瞬間も戦争によって無惨に人が死んでいくような「醜い世界」だ。しかしそんな世界でも、新たな「誕生」だけは間違いなく存在するのである。どれだけ「死」が蔓延ろうとも、最終的には「生」がすべてを呑み込んでいくような、そんな世界というわけだ。
マヒトは「美しい世界」を長いこと旅する。その過程で彼は、様々なものを見聞きした上で、「生の不在」を理解したのではないだろうか。そして最終的に、「どれほど『死』に塗り込められた『醜い世界』でも、『生の不在』よりはマシ」という結論にたどり着いたのだろうと私は感じた。
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さらに、この「生と死」の捉え方は、「創作活動」の話にも繋がっていくはずだ。これはまさに、生涯のほとんどを「創作」に費やした宮崎駿らしい問いかけなのではないかと思う。
私が思うに、「美しい世界」に対応するのは「完成品としての創作物」だろう。アニメ、映画、小説、音楽、芸術など何でもいいが、そのような「クリエイターが生み出し、世に問うた創作物」こそが、「美しい世界」と対応しているように思う。
この場合、その「美しい世界」に内包される「醜さ」が何を意味するのかについては、色んな解釈が可能だろう。例えば、「完成させてしまえば、そこにはもう新たな何かを付け足すことが出来なくなる」という意味での「生の不在」を示唆しているのかもしれない。あるいは、「誰かが生み出した『創作物』に対する、悪意に塗れた批判」を、「何の意味も持たない存在」と捉えて「生の不在」と対応させている可能性もあるだろう。もしかしたら、「作品を完成させる度に『死』に近づいている」みたいな、宮崎駿自身の実感が籠もっていたりもするかもしれない。
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一方、「醜い世界」に対応するのは「クリエイターの頭の中」だろう。作品を完成させるまでのクリエイターの頭の中は「玉石混交」、まさに「醜い世界」だと思う。しかしそこには常に、「生の予感」がある。むしろ、「『醜い』と言われるほど混沌とした場所からでなければ、より良いものは生まれない」とさえ言えるのかもしれない。
こんな風に、『君たちはどう生きるか』という作品は、直接的に「生と死」というテーマを描きつつ、同時に、「創作=新しいものを生み出すこと」とも対比させているのだと私は感じた。まさに、クリエイターとしての自身の集大成となる作品を目指したと言っていいのではないかと思う。
「美しい世界の醜さ」「醜い世界の美しさ」という捉え方は、映画のかなり後半でフッと頭に浮かんだものなので、『君たちはどう生きるか』という作品全体が、ここまで私が書いてきたようなテーマに彩られていたのか、正直なところ自信はない。ただ、「別にそれでいいんじゃないか」と私は感じるし、そのような話を次でしたいと思う。
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『君たちはどう生きるか』の感想には、「難しい」「よく分からない」といった類のものも散見された。まあ確かに、難しいと言えば難しいし、よく分からないと言えばよく分からない。ただ私は、「そんなの、これまでのジブリ映画だって同じだったじゃん」とも感じてしまうのである。『ハウルの動く城』『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』『風の谷のナウシカ』などの有名作品だって結構難しいし、割とよく分からない作品だと思う。だから私には、『君たちはどう生きるか』を観て「難しい」「よく分からない」と言っている人の気持ちがあまり理解できない。これまでにジブリ映画を1作も観たことがないというのならともかく、宮崎駿アニメに触れたことがあるならば、『君たちはどう生きるか』だけを取り上げて「難しい」「よく分からない」と語る意味はないように思う。
そもそも私は、「難しい」「よく分からない」という言葉を「批判的な意味」で使う人があまり好きではない。誤解してほしくはないが、「難しい」「よく分からない」と感じること自体は問題ないと考えている。ただ、「難しいからつまらなかった」「よく分からないからダメだった」と、悪い評価とくっつけて「難しい」「よく分からない」と口にする人はあまり好きではないというわけだ。
この話をもう少し広げて考えると、私はとにかく、「『好き・嫌い』ではなく『良い・悪い』で物事を捉えること」が嫌いなのである。「好き・嫌い」で話せばいいのに、どうして「良い・悪い」で評価したがるのだろうと、あらゆる場面でよく感じてしまう。
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ただ、その理由はなんとなくイメージ出来るつもりだ。
「好き・嫌い」の場合は、「私が好き/嫌いと感じた」という風に、「そう感じた自分自身に責任がある」という主張になる。しかし「良い・悪い」の場合は、もちろん「私が良い/悪いと思った」という解釈も可能ではあるが、より一般的には「作品が良い/悪い」という受け取られ方になるだろう。つまり、「自分ではなく、作品に責任がある」という主張の仕方なのだ。
このように、「良い・悪い」で語りたがる人は、「自分の責任を回避したい」という気持ちを多分に持っているのではないかと私は感じてしまうのである。
「作品が悪い」と主張すれば、自分が悪かったことにはならないし、傷つきもしない。それは、「責任を回避したがる」と言われる若い世代には特に都合のいいやり方と言えるだろう。だから、「良い・悪い」とか、「難しい」「よく分からない」みたいな判断を下しては、「私には関係ないものでした、バイバイ」みたいなスタンスでいようとするのではないかと私は考えている。
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そして、そんな振る舞いに対して、この作品はまさに「君たちはどう生きるか?」と問うているのではないかとも感じさせられた。「『私には関係ないものでした、バイバイ』みたいなやり方で終わりにしていいのか?」と突きつけられているというわけだ。
「難しい」「よく分からない」と言ってしまえば、そこで思考が停止してしまう。別に「世の中のすべてのものに対して思考を深めろ」なんて思っているわけではない。ただ、社会全体が、「深く考えずに『良い』と思えるものだけを摂取して、それ以外はすべて排除する」みたいな方向に進んでいるのなら、それはとても怖いことだと私には感じられる。
あるいは、思考停止が加速する世の中においては、「『正解』だけが欲しい」みたいなスタンスも安易に広がっていくだろう。既に「自分の頭では考えられないから、誰かが『正解』と言ってくれたらそれを受け入れます」みたいな考えの人が増えているように思える。「難しい」「よく分からない」という主張にしても、「『正解』が分からない」を言い換えたものとも捉えられるだろう。そしてそこには、「すべての物事には『正解』の捉え方があり、その『正解』だけを外部から取り入れれば、自分の頭で考える必要はない」みたいなスタンスがあるように私には感じられてしまうのだ。
そんなバカな、と私は思う。そんな生き方でいいなんて、私には到底感じられない。
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世の中には確かに、「正解」も存在する。学校の勉強は「正解」が用意されているものだし、仕事においても「一定の範囲内の『正解』」を正しく導き出すことが求められていると言えるかもしれない。
しかし、「創作」的要素が強ければ強いほど、「正解」という言葉はどんどん意味を成さなくなる。「創作物」と対峙する際には、「外部から『正解』を取り入れる」という発想そのものが誤りだと私は考えているのだ。この場合、「自分の頭で考えること」こそが唯一の「正解」だと言ってもいいかもしれない。
あなたはそういう生き方をしているか? 映画『君たちはどう生きるか』のタイトルは、まさにそんな問いを投げかけるものであるように私には感じられた。
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あくまでもこれは私の解釈であり、的外れなものかもしれない。しかし同時に、「私が自分の頭で考えたこと」なので、それはどこまでも果てしなく「正解」だとも言えるのだ。これからも、そんな風にして様々な作品と対峙したいと思うし、そういう人が増える世の中であってほしいとも願っている。
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最後に
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色々と書いたが、当然私にも「よく分からない」と感じる部分は多かった。例えば、アオサギ・ペリカン・セキセイインコと様々な鳥が出てくるが、何故鳥がメインのモチーフになっているのか分からない。そもそもあのアオサギの存在も謎だし、そんなことを言い出したら訳の分からない要素などたくさんある。まあでも、好きなように解釈すればいいし、その参考にするのであれば他人の意見をチェックしてみてもいいだろう。
ストーリー展開の中で少し気になったのは、冒頭で描かれた「マヒトの謎の行動」について、映画のかなり後半で「悪意」という言葉を使ってその行動の意図をマヒト自身が説明している箇所だ。この点についても、「マヒトが何故そんな行動を取ったのか?」「『悪意』という言葉をわざわざ使ってまで何を伝えたかったのか?」など、上手く捉えることは出来なかった。
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しかし私は、その「正解」を求めて検索しようなどとは思わない。ふとした瞬間に、こういう様々な謎が改めて思い出されるだろうし、そういう時に何か思いつくかもしれない。あるいは、誰かと話をしている時に疑問が解消される可能性だってあるだろう。どのみち、誰のどんな解釈を読もうが、それは「正解の可能性」でしかなく、永遠に「正解」にはならない。「正解」は、自分の頭の中からしか生み出せないのだ。
みたいなことを宮崎駿は伝えたかったんじゃないか。これが私なりの「正解」である。
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どう生きるべきか・どうしたらいい【本・映画の感想】 | ルシルナ
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