目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
何よりもパク・ジヒョンの存在感にとにかく惹きつけられた作品です
展開に応じて「別人が演じてるのか?」と感じさせるほどの変貌を見せる彼女の雰囲気に驚かされました
この記事の3つの要点
- 主人公の1人を「強気」「弱気」「学生時代」という3つのまったく異なる顔で演じ分けたことで、作品がギリギリ成り立っている
- 予告編を観ているかどうかで印象が変わる「強気」バージョン、そして「想いの強さ」が印象的だった「弱気」「学生時代」バージョン
- 状況に翻弄され続けるソンジンが、ある場面以降突きつけられた「あり得ない2択」に葛藤する様もまた狂気的である
「あり得ない状況」をギリギリのラインでリアルに描くスタンスや、パク・ジヒョンの別人級演技に圧倒させられた
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全編に渡り狂気に満ち溢れた映画『秘顔―ひがん―』は、ミジュを演じたパク・ジヒョンの“変貌”に圧倒させられた
パク・ジヒョンによる「強気」「弱気」「学生時代」の3つの顔の印象がまったく違っていて驚かされた
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なかなか面白い映画でした。物語的には「2ヶ所ほどストーリーが変転するポイントがある」のですが、その変曲点以外は割と予想通りという感じです。「まあ、そうなるよね」みたいな展開だったので、「ストーリーがメチャクチャ良かった!」とは思いませんでした。いや、別につまらなかったとかではなく、むしろ全然面白かったです。ただ本作の場合、そんなことよりも遥かに印象的な部分がありました。それが、主人公の1人であるミジュを演じたパク・ジヒョンの存在感です。
役者に対してあれこれ感じることってあんまりないから、そういう意味でも印象的だった
この記事ではネタバレをしないつもりなので具体的に書けないことも多いのですが、ミジュは物語の展開に合わせてかなり違ったキャラクターとして登場します。そして、そんな彼女を演じるパク・ジヒョンは、「存在そのものが変質している」みたいな雰囲気を漂わせるのです。ちょっとその変貌っぷりには圧倒させられてしまいました。
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本作におけるミジュのキャラクターは、「強気」「弱気」「学生時代」の3つに大きく分けられると思いますが、そのすべてで「別人が演じてるのか?」と感じるほど雰囲気が変わります。そしてその「違い」は、本作の特異すぎる設定やストーリー展開を成り立たせるために不可欠な要素だと言っていいでしょう。ミジュの雰囲気が別人レベルで変わるからこそ、本作のような「イカれ狂ったストーリー」がギリギリ成り立っているのだと思います。
ってか全体的にだけど、「役者の演技ありきで成立する物語」って感じしたよね
脚本の段階で「これでいける!」って判断になるとは思えないストーリーなんだよなぁ
特に「強気」のミジュは、ちょっとあり得ない、およそ正気とは思えないような行動を取っていて、普通に考えれば彼女の行動は成立しない(というか、「成立しているとは受け取れない」)はずです。なのだけど、パク・ジヒョンの存在感が絶妙なので、「なるほど、これならあり得るか」と受け取れるレベルになっていると私には感じられました。
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それで、本作で描かれる順番で言うと、ミジュはまず「強気」バージョンで登場し、その後「弱気」バージョンが描かれます。「強気」バージョンももちろん素敵なのですが、「弱気」バージョンがさらに素晴らしかったです。
というのも、「強気」バージョンは「何を考えているのかさっぱり分からない存在」だったのに対して、「弱気」バージョンははっきりとある「想い」を抱いていることが伝わるからです。まったく行動原理が分からなかった「強気」バージョンとは違い、「弱気」バージョンにとってはその「想い」こそが何よりも大事なのだと理解できるし、彼女の行動すべての理由にもなっています。そしてその上で、彼女の振る舞いを見ることでその「想い」の強さがより強く理解できるというわけです。
とにかく「こんな展開になるんだ」って感じだったよね
ムチャクチャなんだけど、ミジュが成立させちゃってる感が凄い
さらに言えば、「弱気」バージョンのミジュが丁寧に描かれることで、「『強気』バージョンからはもはや、彼女が最も大事にしていたはずの『想い』が消えてしまっている」ということが伝わってきます。そして、「だからこそ『強気』バージョンはあんなことをしているんだな」みたいな納得感に繋がるというわけです。そんなわけで、「彼女の『変化』を描き出すこと」は本作においてとても重要だと言っていいでしょう。
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「弱気」バージョンのミジュは、3つの顔の中で最も不安定です。そこにはもちろんはっきりとした理由があり、そしてその上で、「僅かな可能性を捨てきれない」みたいに感じさせる振る舞いだったなと思います。ミジュのこの「儚さ」「不用意に触れたら壊れそうな雰囲気」みたいなものがとにかく絶妙で、本当に素敵でした。
「強気」と「弱気」の落差がもの凄く激しくて、まずそれにびっくりしたわ
何度も書いてるけど、ホント「別人」って感じだったもんね
さてその後、「学生時代」バージョンのミジュも出てきます。「学生時代」バージョンは「弱気」バージョンと相似形ではあるのですが、ただ大きく異なるのは「弱気ではない」という点です。先述した「想い」を抱いているという意味では同じなのですが、佇まいがまったく違いました。彼女は、「想い」だけは同じように抱きつつ、大人になる過程で「弱気」になってしまったのです。
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「学生時代」バージョンと「弱気」バージョンは似ているのですが、絶妙に違うなという雰囲気もあります。やはり「別人」という感じです。で、この「学生時代」バージョンをちゃんと描き出したことで、ラストの展開に深みや余韻が生まれているようにも思います。
本作は、「ある事実」が判明して以降ずっと狂気的に展開されるのですが、その中でもやはり、ラストシーンが最もイカれているように感じられました。そして、全編に渡ってそうなのですが、このラストシーンの狂気もやはり、普通には成立しない状況と言えるでしょう。とにかく「は???」となるような状況なのです。
ただ、「学生時代」バージョンと「弱気」バージョンが相当異なる雰囲気だったお陰で、本来なら生まれてもおかしくない「ラストシーンへの違和感」が消えているようにも思えました。そしてだからこそ、「そうか、ミジュならこういう展開もアリなのか」と感じられたというわけです。
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そんなわけで、ミジュと彼女を演じたパク・ジヒョンの存在感にとにかく驚かされたし、この点こそが本作の最大の魅力だと言っていいようにも思います。
「予告編を観た時に感じた印象」が、「弱気」「学生時代」の顔を知ることでどんどん変わっていった
さて、「強気」バージョンのミジュの話に戻しましょう。彼女がどんな存在に見えるのかは、「予告編を観ているかどうか」によっても変わるんじゃないかなと思います。
予告編を観てない人は当然、冒頭から「この後どうなるんだ?」って感じになるだろうけど
予告編には、ある程度先の展開が予想できる情報が盛り込まれているので、予告編を観た上で鑑賞している人にとっては、しばらく「予想通り」という展開になるでしょう。そして、そういう事前情報ありきで観ている場合は、「強気」バージョンのミジュの振る舞いは、表現はともかく、ある種の「罠」のようにも見えるんじゃないかと思います。ただ、予告編を観ていない場合には、「罠」ではなく「そういう性格の人なんだな」という風に映るのかもしれません。どの程度計算して作っているのか知りませんが、この「予告編を観ているかどうかで印象が変わる」という要素もかなり良かったなと思います。
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「強気」バージョンの上手さは、「すべての決断を相手に委ねる」というやり方をしていたことにあると言っていいでしょう。「蜘蛛の巣を張り巡らせておいて、罠にかかるのをじっと待つ」みたいなイメージです。それで私は最初、ミジュがそんなやり方をしている理由について「ある種の不確実性を含ませる」みたいに考えていました。「未必の故意」という表現でこの状況が説明できるのかはよく分かりませんが、「罠にかかっちゃったら先に進めよう、でもそうならなかったら別にそれでもいいや」みたいなスタンスに見えていたのです。「絶対に成功させてやる」という強い意思を持っていたわけではなく、そしてだからこその恐ろしさみたいなものが表現されているように思えていました。「どんな状況になろうと、『あなたの選択ですよね?』と言えるような振る舞いだけで相手を追い詰めていく」みたいなスタンスだったんだろうなと感じていたというわけです。
っていうか、シンプルにそういう物語だと受け取っても全然いいんだろうけど
ただその後、「弱気」バージョンを知ったことで少し印象が変わりました。「相手の決断に委ねる」というのは「相手に責任があると自覚させる手段」なのではなく、「ミジュ自身の生来的な性格によるもの」かもしれないと思えるようになったのです。というか、そんな風に捉える方が自然な気がします。「弱気」バージョンの存在によって、「『強気』バージョンは無理して演じている姿」なのだと理解できるし、だとすれば、「外面はいくらでも繕えるけど、内面は大きくは変えられなかった」みたいに受け取るのが妥当かなと思いました。
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しかしそうだとすると、また別の疑問が出てきます。それは「ミジュは一体、いつの時点からこの”計画”を考えていたのか」ということです。私は当初、「『ミジュが本作に初めて登場した時点』(正確に言えば、その少し前)に”計画”の遂行を決めた」みたいに考えつつ観ていたのですが、「弱気」バージョンの立ち居振る舞いを見て少し印象が変わりました。「”計画”を実行するための準備を着々と進めていた」のではなく、「状況の変化に身を委ねていたら、”計画”を遂行するための条件がたまたま揃ってしまった」みたいな可能性もあるなと感じたのです。「強気」バージョンのミジュがある場面で、「◯◯以外はすべて、自分の意思以外で動いていた」みたいな発言をしていたことも、この推測を補強するでしょう。また物語全体を俯瞰で捉えてみても、「ミジュがすべてを計画的に実行した」と考えるより、「たまたま実行可能な状況になったから遂行した」という理解の方がより現実味がある感じがして、こういう解釈もアリなんじゃないかと思います。
そしてそうだとしたら、「これほど主体性なく行動しているのに、こんなにも狂気的な状況になってる」みたいな恐ろしさがあるよね
どんな風に解釈してもイカれ狂った雰囲気が滲み出る感じがあって素晴らしい
さらにその印象は、「学生時代」バージョンの描写によっても強化されるでしょう。作中には「ミジュが鍵を放り投げるシーン」があるのですが(これもラストシーンに直結する描写で、なるほどという感じでした)、その時の行動も「相手に選択を委ねるもの」だったからです。「強気」バージョンは常に平静を保っているように見えますが、それも「私は別に、積極的には何もしていない」みたいに本気で考えているからこその落ち着きなのかもしれません。
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このように本作では、「別人レベルで変貌するミジュ」という要素が組み込まれることで、物語の捉え方にかなり多様性が生まれているように思います。物語の展開ごとに変化するミジュの「揺らぎ」が、物語全体をも揺らがせている印象があって、凄く魅力的な存在に感じられました。また私は普段、「作中の登場人物に惹かれる」みたいなことはあっても、その印象が役者にもスライドするということがあまりありません(外国映画の場合は特に)。無いことは無いのですが、本作『秘顔―ひがん―』においてはそれが思いのほか強く出たので、自分でもかなり印象的でした。パク・ジヒョン、本当にメチャクチャ良かったなと思います。
映画『秘顔―ひがん―』の内容紹介
オーケストラの指揮者として活躍するソンジンは、ある動画を見ている。楽団長の娘であり、オーケストラのチェリストであり、さらに婚約者でもあるスヨンが残した動画だ。2人は結婚を目前に控えていたのだが、スヨンは動画の中で「あなたとの関係に確信が持てなくなった」「結婚に向いていないんだと思う」「すべてにイライラしてしまうの」「悪いのは私。あなたとは別れるわ」と一方的な主張を繰り広げていた。また、クローゼットには慌ただしげに洋服を取ったような痕跡が残されている。彼女はどうやらチェロを残したまま家出したようだ。
ソンジンはしばらく、チェリスト不在のまま練習を続けていた。冷静になったスヨンが戻って来るはずだと考えていたからだ。しかし事務長から「楽団員から不満が出ている」と指摘を受け、さらにスヨンの母親である楽団長からも「新しいチェリストを面接するように」と言われたため、応募してきた女性の面接をすることになった。ミジュというこのチェリストは、「スヨンに頼まれて面接に足を運んだ」のだそうだ。ソンジンは彼女を一度は追い返してしまったものの、最終的には彼女をチェリストとして迎え入れることに決めた。
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その後2人は、割とすぐに親しい仲になっていく。そしてある雨の日、2人はソンジンの家で酒を飲み、そのままベッドをともにした。翌日ミジュから、「私の過ちのせいで悪いことをしてしまった。もう返信しません」と連絡が来たのだが、ソンジンは無言のまま電話越しにピアノの演奏を聞かせる。そして2人は再び会い、身体を重ねるのだ。
しかしなんと、そんな2人の「秘事」を密かに覗いている者がいて……。
映画『秘顔―ひがん―』の感想
さて、本作については、予告編を観た誰もが「状況は理解できるけど、こんな状況が成り立つ設定なんてあり得るのか?」と感じるんじゃないかと思います。「何がどうなったらこんな展開があり得るんだろう?」というような物語なのですが、本作ではその辺りの設定を上手くやっていました。普通ならまず成立し得ないストーリーですが、「これならギリギリ成り立つか」と受け取れるラインを絶妙についていたなという感じです。
これを書いてもネタバレにはならないと思うけど、「建物の構造」がちょっと異常すぎるからね
「こんな建物が存在する理由」はちゃんと説明しないと成立しないけど、その辺はもちろんちゃんとやってた
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また、ストーリー的なことで言えば、「ソンジンの追い詰められ方」も面白いでしょう。これも書いちゃっていいと思いますが、彼はスヨンとの結婚で婿入りする予定で、そしてそのお陰で「現在の地位」が保障されています。つまり、「スヨンの失踪によって結婚が破断となれば、『オーケストラの指揮者』という立場を含めた様々なものが失われてしまうかもしれない」という状況にいるのです。ソンジンは軽食屋の息子だそうで、家は貧乏だったと話していました。もちろん、今の境遇は手放しがたいでしょう。ただ彼が今住んでいる豪邸も母親がスヨンに買ってあげたものなわけで、このままでは家も仕事も失いかねません。
そしてそんな状況にいるからこそ、後半のある時点(2つ目の変曲点)以降、かなり大きな葛藤に苛まれることになります。2つの選択肢からどちらかを選ばなければならなくなるのです。ソンジンの頭に浮かんでいるだろうその2択の内、常識的に考えれば選べるのは一方だけのはずなのですが、ソンジンが置かれている特殊な状況を踏まえると話は変わってきます。普通なら即排除されるだろうもう1つの選択肢も検討対象になるのです。「通常の状況ならまず悩む必要のない2択を天秤にかけなければならない」という事態に追い込まれていることも異様だし、そのこともまた、本作の狂気的な雰囲気を押し上げている要因だと言えるでしょう。
やっぱり、なんだかんだ「あり得ない2択」で悩んじゃう気がするよね
それで、「ラストシーンの異様さ」には既に触れましたが(個人的にはとても素晴らしいシーンだなと思います)、そのラストシーンに至る少し前の描写で「ソンジンは一体何をしているんだろう?」みたいに感じる場面がありました。これもネタバレを避けたいので詳しい状況には触れませんが、「そのままにしてちゃダメだと思うんだけど」みたいに感じさせられたのです(具体的なことに触れずに書くのはちょっと無理がある話なんですが)。
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そしてこの点に関して「ソンジンの言動には整合性がある」という前提で考えてみると、「もしかしたら彼は、ラストシーンの状況を知っているのではないか?」という仮説も成り立つでしょう。というか、そう考えないとあんな状況が成り立つとはちょっと思えません。そしてもしも私の解釈通り、つまり「関係者全員がその状況を知っていて許容している」のであれば、ラストシーンの見え方も少し変わるでしょう。ある意味で「みんなにとって理想的」だと言えるからです。しかし、あんな狂気的な状況を「理想的」と解釈させる可能性が存在し得ることに驚かされるし、また、まさかここで彼女が語っていた「コンプレックス」の話が関係してくるとも思わなかったのでビックリさせられました。本作は別にミステリという感じの作品ではないのですが、伏線的な情報の散らばせ方も上手かったなと思います。
観ながら「最後どうやって終わらせるんだ?」って思ってたけど、「そう来るか!」って展開だったよね
全然想定してなかったけど、「これしかない」って感じの着地点だったし良かったわ
あと、この点に少し関係する話なのですが、ラストシーンにおいて、ソンジンがゴルフのために部屋を出た後でスヨンが自分の顔を手で拭っていたのも印象的でした。そのシーンを観た瞬間は意味が分からず「ん?」という感じだったのですが、その直後にちゃんと「なるほどな」と思わせる展開が続きます。最後の最後まで「特異な関係性をベースにした繊細な描写」が積み重ねられている感じがあって、上手いなと思いました。
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最後に
ストーリー的にも楽しめる作品でしたが、まずは何よりも、ミジュを演じたパク・ジヒョンの佇まいに圧倒させられた作品です。メチャクチャ惹きつけられたなぁ。ミジュというのはどう考えても「リアルな存在として成立させるのが難しいキャラクター」だと思うのですが、パク・ジヒョンが「別人レベルに変貌する凄まじい演技」によって実在感を生み出していて、しかもそのことが本作全体を底支えさえしている感じさえありました。そんな彼女の演技に終始圧倒されっぱなしだった鑑賞体験で、ホントに観て良かったです。
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【狂気?】オウム真理教を内部から映す映画『A』(森達也監督)は、ドキュメンタリー映画史に残る衝撃作だ
ドキュメンタリー映画の傑作『A』(森達也)をようやく観られた。「オウム真理教は絶対悪だ」というメディアの報道が凄まじい中、オウム真理教をその内部からフラットに映し出した特異な作品は、公開当時は特に凄まじい衝撃をもたらしただろう。私たちの「当たり前」が解体されていく斬新な一作
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天才女性指揮者リディア・ターを強烈に描き出す映画『TAR/ター』は、とんでもない作品だ。「縦軸」としてのターの存在感があまりにも強すぎるため「横軸」を上手く捉えきれず、結果「よく分からなかった」という感想で終わったが、それでも「観て良かった」と感じるほど、揺さぶられる作品だった
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映画『ウーマン・トーキング』の驚くべき点は、実話を基にしているという点だ。しかもその事件が起こったのは2000年代に入ってから。とある宗教コミュニティ内で起こった連続レイプ事件を機に村の女性たちがある決断を下す物語であり、そこに至るまでの「ある種異様な話し合い」が丁寧に描かれていく
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ナ・ホンジンがプロデューサーを務めた映画『女神の継承』は、フィクションなのかドキュメンタリーなのか混乱させる異様な作品だった。タイ東北部で強く信じられている「精霊(ピー)」の信仰をベースに、圧倒的なリアリティで土着的恐怖を描き出す、強烈な作品
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「夏至の日に映画館で上映する」という企画でようやく観ることが叶った映画『ミッドサマー』は、「私がなんとなく想像していたのとはまるで異なる『ヤバさ』」に溢れる作品だった。いい知れぬ「狂気」が随所で描かれるが、同時に、「ある意味で合理的と言えなくもない」と感じさせられる怖さもある
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「オウム真理教は特別だ、という理由で作られた”例外”が、いつの間にか社会の”前提”になっている」これが、森達也『A3』の主張の要点だ。異常な状態で続けられた麻原彰晃の裁判を傍聴したことをきっかけに、社会の”異様な”変質の正体を理解する。
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小説家の想像力は無限だ。まさか、「人類はいかに言語を獲得したか?」という仮説を小説で読めるとは。『Ank: a mirroring ape』をベースに、コミュニケーションに拠らない言語獲得の過程と、「ヒト」が「ホモ・サピエンス」しか存在しない理由を知る
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実際にチェコの警察を動かした衝撃のドキュメンタリー映画『SNS 少女たちの10日間』は、少女の「寂しさ」に付け込むおっさんどもの醜悪さに満ちあふれている。「WEBの利用制限」だけでは子どもを守りきれない現実を、リアルなものとして実感すべき
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「こじらせ」って感覚は、伝わらない人には全然伝わりません。だからこそ余計に、自分が感じている「生きづらさ」が理解されないことにもどかしさを覚えます。AVライターに行き着いた著者の『女子をこじらせて』をベースに、ややこしさを抱えた仲間の生き方を知る
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空気を読んで摩擦を減らす方が、集団の中では大体穏やかにいられます。この記事では、様々な理由からそんな選択をしない/できない、『私を知らないで』に登場する中学生の生き方から、厳しい現実といかにして向き合うかというスタンスを学びます
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普通って何?【本・映画の感想】 | ルシルナ
人生のほとんどの場面で、「普通」「常識」「当たり前」に対して違和感を覚え、生きづらさを感じてきました。周りから浮いてしまったり、みんなが当然のようにやっているこ…
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