目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:辻井拓, 出演:久保寺淳, 出演:田口善央, 出演:紀那きりこ, 出演:峰あんり, 監督:舩橋淳, Writer:舩橋淳
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「元犯罪者の更生」に不寛容な日本では、他の先進国と比べて再犯率がとても高い
- 「排除する」のはあまりにも簡単だからこそ、私は「”安易に”排除する風潮」を許容したくないと思ってしまう
- 「元犯罪者」に恐怖を抱くのは当然だろうが、それと同じぐらい「まだ犯罪に手を染めていない人間」にも恐れを抱くべきではないだろうか
日本社会が抱える問題をリアルに突きつける作品で、非常に特異な感覚を抱かされたし、とても印象深い映画だった
自己紹介記事
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物凄く変な映画だった。評価が非常に難しい作品なのだが、全体的には「観て良かった」と思うし、「変な映画」というのも良い評価のつもりだ。何にしても、久々に「脳がバグる」みたいな感覚にさせられたのが印象的だった。
「これはドキュメンタリーなんだろうか?」と何度も自問させられた異様な作品
本作は冒頭で、「実在する団体をモデルにしたフィクションです」と表示される。最初から「フィクション」だと明示されるというわけだ。「実在する団体」というのは「CHANCE」のことで、元受刑者の就労支援を行っている(映画では少しだけ名前を変え、「CHANGE」として登場する)。同名の就職情報誌を発行しており、刑務所内でも見られるのだという。そして本作は、そんな支援を行っている団体がモデルの映画というわけだ。
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この点も踏まえれば、「フィクション」だというのはなおのこと明らかだと言えるだろう。普通に考えて、団体職員はともかく、元受刑者が顔出しで出演するはずがないからだ。しかも本作では、「元受刑者たちが再犯に手を染めてしまう」という展開が描かれる。そんな物語が、「ドキュメンタリー」であるはずがない。
そう、映画を観ながら私は、そういうことをちゃんと理解していた。それなのに、少し気を抜くと「ドキュメンタリー映画を観ているんだったっけ?」という感覚にさせられてしまうのである。その度に、「冒頭で『フィクション』って表示されてたじゃないか」と思い直すのだが、またぞろ「ドキュメンタリーだっけ?」という感覚が浮かんでくるというわけだ。本当に、自分の脳がバグったのかと思うくらいの奇妙な鑑賞体験だった。
役者の演技は、お世辞にも上手いと言えるようなものではない。主人公と言っていいだろう2人、「ひき逃げ犯・田中拓」と「CHANGE編集部・藤村淳」を演じた2人はなかなか上手かったと思うが、一方で「下手じゃないか?」と感じてしまった役者もいて、「演技」という意味でのクオリティは低いと思う。しかし、「だからこそ」と言っていいのか分からないが、演技があまり上手くなかったからこそ、一層「ドキュメンタリー感」が増していたとも言えるだろう。
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また公式HPによると、本作には「台本」は存在しないようで、ざっくり説明するなら「即興劇」みたいな形で撮影が行われたのだそうだ。鑑賞中はその事実を知らなかったわけだが、やはりこの点も「ドキュメンタリー感」を強める要素と言えるのではないかと思う。
冒頭で「フィクション」だと表記されるし、ストーリー展開やカット割りもすべて「フィクション」であることを示唆しているにも拘らず、それでも「ドキュメンタリー」だと感じさせる”何か”があるというわけだ。そして、その引力に引きずられるようにして最後まで観させられてしまったのである。ホント、こんな感覚をもたらす”不思議な”映画は久々に観たように思う。
本作の背景にある、「『元犯罪者の更生』を妨げる日本の現状」について
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私が観た回では上映後、監督によるトークイベントが行われた。そしてこれ以降、そのトークイベントで語られた話についても適宜入れ込むことにしようと思う。
本作の主たるテーマは「元犯罪者の更生」だ。
よく知られていることかもしれないが、日本では「再犯率」が50%を超えている。「再犯率」とはその名の通り、「出所した元犯罪者が再び罪を犯し刑務所に戻ってしまう割合」のことだ。50%というのは、先進国の中でもかなり高いという。そして、その大きな要因の1つになっているのが「出所後の生活の困難さ」である。アパートも借りられなければ、仕事も見つからない。そういう状況に置かれてしまえば、「また犯罪に手を染めるしかない」という考えに至ってしまう人も出てくるだろうと思う。
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さて、日本の場合、刑務所は基本的に「懲罰主義」によって運営されている。つまり、「悪いことをした人間に罰を与える場」というわけだ。「そんなこと当たり前だろう」と感じる人も多いかもしれないが、実は世界の潮流は変わってきている。特に「再犯率の低い国」ほど「教育主義」を採っているというのだ。「教育主義」の場合は、刑務所内で犯した罪と向き合わせ、また「資格取得や就労の支援」などを行うことで、「出所後の生活」が安定することを目指す。このようなやり方をしている北欧やヨーロッパの西側では、再犯率が20~30%程度に抑えられているのだそうだ。
そして、本作『過去負う者』が突きつけているのも、まさにこのような現実なのである。つまり、「元犯罪者を社会が受け入れなければ、犯罪が再生産されるだけ」という日本の現状を可視化させようとしているというわけだ。
この点に関して、本作中で非常に印象的だったシーンがある。監督自身も「最も描きたかったこと」と語っていた「Q&A」の場面だ。かなり後半の展開なので具体的には触れないが、「一般市民」と「元犯罪者・支援団体のスタッフ」が激論を交わすシーンである。ちなみに、鑑賞後に知った「台本が存在しない」という事実と併せて考えると、このシーンの見方も少し変わってくるだろう。「元犯罪者に厳しく迫っていた者たちの意見は、出演者個人の本心なのかもしれない」みたいにも受け取れるからだ。まあ恐らく実際にはそんなことはなく、「台本はないものの、ざっくりした設定は個々人に与えられていた」みたいな感じではないかと思ってはいるのだが。
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このシーンでは、とにかく激論が交わされていた。そして結局のところ、そこで表面化する「本音」こそが「元犯罪者の『更生』を妨げる要素」なのである。この場面には、本作が描こうとしている様々な「難しさ」がぎゅっと凝縮されていたように感じられた。
「他者を”安易に”排除する人たち」への違和感と、「自己責任社会」の窮屈さ
さてここで少し、私自身の考えをまとめておくことにしよう。
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まず私は、「『排除すること』はあまりにも簡単すぎる行為だ」と考えている。なにせ、「誰かを、あるいは何かを排除すること」によって、「排除した側が被る実害」などほぼ存在しないはずだ。リアルで関わる相手であれば、多少なりとも「感情の揺らぎ」みたいなものが生まれるかもしれないが、ネット上だけの付き合いであれば「ブロック」するだけである。ほとんど無心で出来ると言ってもいいのではないだろうか。
そしてだからこそ私は、「”安易に”排除すること」に嫌悪感を抱いてしまう。「あまりにも簡単すぎる行為」だからこそ、「”安易に”やってはいけない」と思うのだ。私は、仮に「排除される」のが私自身だとしも、「熟慮の末の決断」であれば全然許容できる。そもそも「誰かを受け入れるかどうか」など完全に個人の自由なのだから、理由が何であれ「排除される」ことは避けようがないだろう。そしてだからこそ、「きちんと考えて『排除』という結論を出したのだな」と感じられるのであれば、仮に自分がその「排除」の対象だとしても受け入れるつもりでいるというわけだ。
しかし、今世の中のあちこちで散見される「排除」はそうではない。あまりにも簡単に出来てしまう「排除」という行為が、あまりにも”安易に”行われているように感じられるのだ。そのような風潮にはなかなか賛同し難い。いやもちろん、先程も書いた通り「『誰かを受け入れるかどうか』は完全に個人の自由」だと思っているので、「”安易に”排除すること」だって許容せざるを得ないとも考えている。つまり、本質の掘り下げがまだ不十分ということだろう。
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では一体何が問題なのか。結局のところ、「それは『私の問題』ではありません」というスタンスにこそ問題があるのだと私は考えている。
元犯罪者を”安易に”排除する人たちは、「元犯罪者と関わるのは何となく嫌だ」ぐらいの気持ちを持っているのだと思う。そしてだからこそ、「元犯罪者は出所後にどう生きていけばいいのか?」なんて問題には目を向けない。「自分が解決すべき問題」ではないと考えているということなのだろう。「確かに大変だよねー。でも、それ俺には関係ないっしょ」というわけだ。
しかし、法治国家に生きる者としては、その態度は許されないように思う。
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さてその説明のために、少し理屈を整理しておこう。私も決して詳しいわけではないのだが、「法治国家」がどのような理屈で成立しているのかについての話だ。法治国家においては、「暴力の権限」はすべて国にある。具体的には、「警察業務」「刑務所への収容」「死刑執行」などが「国家による暴力」と言えるだろう。そしてこれらは要するに、「国民が『暴力の権限』を国にすべて委譲する代わりに、国が国民を守るために『暴力の権限』を行使する」という仕組みなのである。私たちにはそんな実感はまったくないだろうが、理屈としては「私の『暴力の権限』をすべて捧げるので、私の安全を守って下さい」と国に”お願い”しているというわけだ(ルソーの「社会契約論」が確かそんなような話だった気がする)。
このように考えれば、「犯罪者の処遇」については全般的に、「私たち国民」にも責任があると言えるだろう。我々が委譲した「暴力の権限」を国が行使しているのだから、「それ俺には関係ないっしょ」という態度は原理的に許容されないのである。このことは正しく理解しておく必要があるだろう
さて、元犯罪者を”安易に”排除する人たち恐らくは、「自己責任」的な考えを持っているのだと思う。「罪を犯したお前の責任だ」というわけだ。まあ、確かにそれは間違っていない。どんな事情があろうと、基本的には「犯罪に手を染めてしまった者」に責任があると私も考えている。しかし一方で、「自己責任」という理由で”安易に”排除する人たちに対して私は、「よくもまあ、自分がその一線を超えないと無邪気に信じていられるものだ」と感じてしまう。
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世の中には、思いがけず「犯罪者」になってしまう者がたくさんいるはずだ。最近では「闇バイト」という名前で犯罪の片棒を担がされる人が増えているだろうし、「親の介護がしんどい」という理由で殺してしまうことだってあるかもしれない。本人がどれほど「犯罪なんかしない」と思っていても、人生何が起こるか分からないのだ。そういう想像力を、皆失ってしまったのだろうかと感じてしまう。
またそれとは別に、「生まれ育ちの環境」が犯罪へと向かわせることだってあるだろう。これも「自己責任」だと言うのだろうか? もちろん、「辛い境遇を生きてきた人」が全員犯罪者になるわけではない。だから「自己責任」がゼロなどということはあり得ないが、やはり、「こんな人生を歩んでこなければ犯罪なんかしなかった」みたいな人はたくさんいるんじゃないかと思う。そういう人のことを「自己責任」という理由で排除するのは、どうにも抵抗があるのだ。
もちろん、何度でも繰り返すが、犯罪者が悪くないなんてことはない。別に「犯罪者を無条件で許せ」なんて主張しているわけではないのだ。どんな事情があれ、罪を犯してはいけない。そんなことは当たり前の話だ。
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しかし、そこで思考を止めてしまえば、社会は前に進まない。「『罪を犯した者』を全員死刑にする」みたいな仕組みにでもしない限り、「元犯罪者が社会に出てくる」という状況は確実に生まれるのだ。そして私は、「その処遇は、社会全体が考えるべき問題だ」と認識しているだけなのである。「私の問題じゃない」なんてスタンスで”安易に”排除するのは、正しくないと私は思う。
そもそもだが、「これまで罪を犯したことがない人間」も同じくらい怖いだろう
さて、このような主張をすると、「じゃあお前は、元犯罪者が身近にいたとして、怖いと思わないのかよ」みたいに感じる人も出てくるだろう。しかし、私にはそのような問いはあまり意味がないものに感じられる。というのも、「他人に害を与えるような犯罪は『初犯』が多い」と考えているからだ。
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「薬物使用」など中毒が絡む犯罪に関しては2度目3度目という状況も想像しやすいが、ただ、他人に害を与える可能性は低いはずだ。また、「日本の再犯率は高い」わけだが、その内情は「刑務所に戻りたいから軽犯罪を犯す」みたいなパターンが多いようなイメージを持っている(実際のデータは知らないので、あくまでも私の印象にすぎないが)。一方で、物理的に害を与える「凶悪犯罪」ほど刑期が長くなるはずなので、「凶悪犯罪を犯した者が、出所後改めて凶悪犯罪を犯す」という可能性は、かなり低いのではないかと思う。もちろん、「『金銭を奪う』といった物理的ではない害をもたらす犯罪」や「未成年による凶悪犯罪」など例外を挙げようと思えばいくらでも挙げられるわけだが、全体的には「他人に害を与えるような再犯は少ない」と考えていいんじゃないだろうか。
このように考えれば、「他人に害を与える犯罪」ほど「初犯」、つまり「これまで罪を犯したことがない人間による犯行」だと理解できるはずだ。だからどちらかと言えば私は、「元犯罪者」よりも「まだ犯罪に手を染めたことがない人間」の方が怖い。そして何よりも、「『まだ罪を犯したことがない人間』には注意のしようがない」というのが一番厄介な点だと考えているのだ。
「元犯罪者」を危険視する感覚はもちろん分からないではない。しかし、「意識して注意可能」であるとも言えるだろう。一方で、「罪を犯したことがない人間」に注意を払うのはかなり難しいのではないかと思う。自分の周りにいる誰が牙を剥くのか分からないのだから、対処のしようがない。そして私には、その方が恐ろしく感じられてしまうのである。
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誤解されないように書いておくが、私は決して「『元犯罪者』に対して怖さを感じない」などと言っているのではない。恐らく、自分の近くに「かつて殺人を犯した者」がいれば、やはり「怖い」と感じるのではないかと思う。ただそれはそれとして、理屈の上では、「元犯罪者」を怖がるのと同じくらい、「まだ罪を犯したことがない人間」にも恐れを抱くべきだと考えてしまうというわけだ。
私のこの主張は恐らく、一般的にはまったく受け入れられないだろう。しかし、「イメージで怖がっていても仕方ない」とも思う。例えばだが、データを見れば明らかに、「飛行機事故で死亡する確率」よりも圧倒的に「自動車事故で死亡する確率」の方が高い。しかし私たちは、「車に乗ること」や「歩道を歩くこと」を怖がらず、「飛行機に乗ること」の方を恐れるのだ。注意を向けるべきポイントがズレているのである。そして「元犯罪者」に対しても、同じような感覚を持つべきではないかと考えているというわけだ。
「死刑」が宣告されない限り、罪を犯した者はいつか刑務所から出てくる。「無期懲役」にしても、「終身刑」とは異なるため、「仮出所」という形でいずれ出られるのだ。そして、「その後の扱いについては、社会を生きる私たち全体の問題である」と認識しなければ、社会は機能不全を起こしてしまう。というか、もう起こしていると捉えるべきだろう。
そのようなことを改めて考えさせる作品だった。
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最後に
映画の内容にはほぼ触れなかったが、「出所後の就労支援を行う団体が様々な元犯罪者と関わり、さらに彼らが一般市民とも接点を持つことで問題が炙り出される物語」ぐらいの認識をしてもらえればいいだろう。実話そのものではなさそうだが、実在する団体が舞台になっているわけで、様々な「リアルの欠片」を集めて作り出された作品なのだろうなと思う。
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繰り返しになるが、私は別に「受け入れろ」などと主張しているわけではない。ただ「排除するな」と考えているだけなのだ。「受け入れもしないが、排除もしない」というスタンスを取ることは、そう難しいことではないはずだと思う。しかし、今の世の中はどうも「白か黒か」「0か100か」みたいな話になりがちで、「どちらかの極地に結論を近づける」というやり方でしか議論が終結しない印象がある。そうではなく、「白でもないし黒でもない」みたいな結論がもっと社会に受け入れられてもいいんじゃないだろうか。
そして同じことが、「元犯罪者の更生」についても言えるのではないかと私には感じられた。
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不安・絶望・虚しい【本・映画の感想】 | ルシルナ
将来が不安だったり、目の前の現実に絶望したり、自分の置かれた状況に虚しさを感じてしまうことがあるでしょう。私も、気分が落ち込んで眠れないと感じたり、色んなことを…
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