目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:落合モトキ, 出演:あの, 出演:横田真悠, 出演:大西礼芳, 監督:大江崇允, Writer:菊池開人/大江崇允
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
何にせよ、あのちゃんの存在感が絶妙で素晴らしかった
特段あのちゃんのファンというわけではありませんが、結構好きで気になる存在ではあります
この記事の3つの要点
- 開始5分で主人公が自殺するという展開と、「AR動画上の存在として登場する」という設定の絶妙さ
- 演技を期待していたわけではなかったのだが、あのちゃんの演技はとても上手かったと思う
- 「鯨の骨」というタイトルに込められた意味と、現代的な「推し活」をある種風刺的に描き出す展開の見事さ
単に「あのちゃんの主演映画」という点に興味があって観に行っただけですが、思いの外満足できる作品でした
自己紹介記事
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斬新な設定で「推し活」を描く映画『鯨の骨』は、主演のあのちゃんの存在感が絶妙な、とても魅力的な物語だった
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あのちゃんの「見た目は正統派美少女なのに、中身がなかなかとち狂ってる」ってギャップが好きなんだよなぁ
ARアプリを上手く利用した、色んな意味で絶妙な設定
本作はまず、冒頭で提示される設定がなかなか興味深かったです。そもそも本作では、始まって5分ぐらいの時点で、あのちゃん演じる主人公の1人が自殺してしまいます。基本的には時系列に沿って展開される物語で、回想シーンはありません。なので普通に考えれば、自殺した彼女はもう物語に出てこないはずです。
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しかし、あのちゃんが演じているのだから当然と言えば当然ですが、そのまま登場しなくなるなんてことはありません。この辺りがなかなか上手いポイントで、その後彼女は「AR(拡張現実)の世界の存在」として出てくることになります。というわけで、その辺りの状況を説明するのに、まずは本作の設定をざっくり紹介することにしましょう。
今っぽい設定って感じだけど、「今っぽさだけ取り入れました」みたいな作品ってわけじゃないのよね
メチャクチャ深いとかってことはないけど、物語としてしっかりしてるって思った
作中には「MIMI(ミミ)」というアプリが登場します。これは「街中の様々な場所に、好きな映像を残すことが出来る」というアプリです。誰かが映像を残した空間にスマホをかざせば、その映像がアプリ上で再生されるという仕組みになっています。
アプリの名前は「王様の耳はロバの耳」から取られており、元々は「誰にも言えずに抱え込んでいる悩みや文句を『穴』に埋めて蓋をする」という、どちらかと言えばネガティブな発想で作られたアプリでした。しかしリリースするや、「自分の痕跡を街中に残せるアプリ」として若者を中心に話題になります。なんと、「『MIMI』内で人気を集めた人物がアイドル的な支持を得る」みたいな流れまで生まれたのです。
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そんなアイドル的人気を誇った1人が、みんなから「明日香」と呼ばれている女子高生(あのちゃん)です。一方、もう1人の主人公である間宮は、思いがけず「MIMI」や「明日香」の存在を知り、当然、「『明日香』が自分の目の前で自殺した女性だ」と気づきました。そしてそんなきっかけから、「明日香が街中に残したAR動画を探し歩く」ようになります。つまり明日香(あのちゃん)は、「間宮が再生したAR動画」として作中に登場するというわけです。
「映像だからこそ映える上手い設定」って感じだよなぁ
また設定だけではなく、演出もとても上手いと思いました。というのも、観客目線では「間宮はそこにいる明日香とリアルに話している」という風に映るからです。実際のところ間宮は、スマホをかざして画面越しに明日香を見ているに過ぎません。しかし映像的にはそうではなく、あたかも「間宮が直接明日香と話している」かのような演出になっているのです。観客からすれば、「死んだはずの女性と会話をしている」という見え方になるわけで、設定と演出を上手く組み合わせて、リアルとバーチャルの境界を絶妙にぼかしていくやり方がとても上手いと感じました。
設定のお陰もあるとは思うが、あのちゃんの演技はとても上手かったと思う
さて、この「AR動画上の存在として登場する」という設定は、あのちゃん的にもかなり良かったのではないかと思います。私はあのちゃんの演技を見て「思ったより上手い」と感じたのですが(恐らく演技しているあのちゃんを見たのは、この時が初めてだと思います)、それは「ひとり語りのシーンが多かった」からかもしれません。もちろん実際の撮影上は、間宮を演じた役者と向き合って演技をしていたでしょうが、物語の設定上は「AR上の動画」でしかなく、明日香は「リアルなコミュニケーションを取る対象」として存在してはいないのです。だから、演技する際には普通求められるだろう「他の役者との息の合った掛け合い」みたいなことをしなくて良かったのだろうと思っています。
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それに、「明日香が無表情で喋る」みたいなAR動画の雰囲気が、あのちゃんに合ってるってのもあったし
まあそれはきっと、あのちゃんにかなり寄せてるというか、あのちゃんを上手く活かすような脚本を意識してたんだろうけどね
もちろん、「AR動画上の存在」としてではなく登場する場面もあるので、あのちゃんの演技すべてが「ひとり語り」だったわけではありません。ただ、演技の経験が決して多いとは言えないだろう状態で主演を務めるのだから(本作が映画初主演で、他の演技経験については知りません)、この「ひとり語りのシーンが多い」という設定は、あのちゃんにとってはかなりプラスに働いたのではないかと考えているのです。
ただ、そういう話を抜きにしても、あのちゃんの演技は上手かったなと思います。私たちが知っている「あのちゃん」の雰囲気は残りつつ(「明日香」という役柄的に、あのちゃんの雰囲気が醸し出されることはプラスです)、ちゃんと作中の人物としての存在感もありました。また、時代のポップアイコンみたいな存在であるあのちゃんが演じることで、「MIMIの象徴」と評される明日香の存在感が強調されているだろうし、さらにその上で、「MIMIの象徴」としてではない「明日香の普通の側面」もちゃんと演じていたと思います。
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あのちゃん目当てで観に行ったけど、別にあのちゃんの演技を期待してたわけじゃないから、思いがけず良かったって感じ
しかし、映画『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』での声優っぷりも見事だったし、凄いよね、あのちゃん
そんなわけで、「あのちゃんが出てる!」ぐらいのミーハーな気持ちで観に行っても十分に楽しめる作品ではないかと思います。
映画『鯨の骨』の内容紹介
間宮は不眠症に陥っていた。式場まで予約していたにも拘らず、婚約者から「別の男とも付き合っている」と告げられ破局したからだ。会社で「疲れてるんですか?」と同僚に心配されるほど、まったく眠れない状態に陥っていた。
そんな様子を見かねた同僚から、「気晴らしにマッチングアプリでもやってみれば?」と勧められる。そんなわけで、気は進まないながらも何人かの女性にアプローチをし、唯一返事が返ってきた女性と喫茶店で待ち合わせた。しばらくお茶した後、間宮は彼女を自宅へと案内する。しかしなんと、間宮がシャワーを浴びている間に、大量の薬を飲み自殺してしまっていた。ベッドで横たわる彼女の傍らには、「さようなら 冷めないうちにどうぞw」という手書きのメモが置かれている。
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間宮はもちろん、救急車を呼ぼうとした。しかし、やはり怖くなった彼は、死体を毛布に包み、車で山へと向かう。死体を埋めようというのだ。しかし、スコップで穴を掘り終えた彼がトランクに入れた死体を運ぼうと車に戻ったところ、なんと彼女の死体が忽然と消えていたのである。何が起こっているのかさっぱり理解できなかったが、その日はそのまま家に帰るしかなかった。部屋には彼女のバッグが残されていたが、その中には彼女の身元が分かるようなものは何も入っていない。間宮は、先程まで会っていた女性が実在するのかも含め、訳がわからなくなってしまう。
結局、より一層仕事に身が入らなくなった間宮は、ふと、喫茶店での会話の中で彼女が名前を読み間違えた公園のことを思い出した。もしかしたらそこに行けば何か手がかりが見つかるかもしれない。そんな淡い期待を抱いて夜の公園を訪れた間宮は、そこで若者の集団に声を掛けられた。どうやらその公園では、「ベンチに座り、缶コーヒーを地面に置く」ことが仲間内の合図として機能しているらしく、たまたまその行動を取った間宮に話しかけてきたというわけだ。
話を聞いてみると、彼らは「MIMI」というアプリにハマっているのだという。彼らの目的は、「MIMI」で人気を誇るネットアイドルの凜。その公園には彼女の動画がたくさん埋まっているらしく、みんなで集まって凜の映像を見るのが習慣なのだそうだ。
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その集団の中には凜本人もいる。そして、ファンが凜の動画を熱心に観ている中、手持ち無沙汰な間宮は凜と話をしていた。実は「MIMI」は、若者の間でも既に廃れているのだそうだ。「だったらどうして『MIMI』を使い始めたのか」と聞く間宮に対し、凜は「ついてきて」と返し、間宮をある墓地へと連れて行く。そしてそこでスマホをかざし、1人の少女の姿が現れた。凜は、「MIMI」の中でも圧倒的なカリスマ的人気を誇ったその少女に憧れて「MIMI」を始めたというのだ。
その映像を拡大してみて驚いた。なんとその少女は、間宮の部屋で自殺した少女だったのだ。「明日香」という名前で「MIMI」ファンにはよく知られた存在であるらしい。その日を境に間宮は、街のあちこちに残る「明日香の動画」を探し歩く日々を送るようになり……。
映画『鯨の骨』の感想
映画の冒頭で、スクリーンに詩のような文章が表示されます。公式HPに同じものが載っているので、冒頭の3行だけ引用しましょう。
深海では
小さな生物たちが鯨の骨に群がり
栄養を吸っている
「鯨の骨」公式HP
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ここから『鯨の骨』というタイトルが付けられたのでしょうが、最後まで観ると、まさにこの詩のような文章が示唆する通りの物語だと感じました。
生物が集まってくる場所は決して「鯨の骨」に限らないだろうけど、そう限定することで視覚的にイメージしやすくなるのがいいよね
フレーズとしても「鯨の骨」ってなんか良い感じするし
本作『鯨の骨』の登場人物の多くは、様々な理由から「生きづらさ」を抱えています。つまり、彼らが生きている世界は「日の当たらない深海」みたいなものだと言えるでしょう。そしてその中で、皆が各々にとっての「鯨の骨」を探し求め、そこから「生き延びるための栄養」を吸っているというわけです。そのことが「鯨の骨」というフレーズから絶妙に伝わってくる感じがします。
さらに、そんな「鯨の骨」の1つとして「MIMIの象徴・明日香」が存在しているのです。そんな「皆の『栄養』としての絶妙な存在感」をあのちゃんが上手く醸し出していたと感じました。
本作は「AR動画上の存在を追う」という設定になっているため、随所で「奇妙さ」が浮かび上がる物語になっていますが、その点を除けば、シンプルに「推し活」と言っていいでしょう。そして「推し活」という捉え方をするのなら、本作で描かれる「『鯨の骨』に人々が群がる」みたいな状況は、多くの人が共感できるのではないかと思います。
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私は「推し活」みたいなものにあまり馴染まないんだよなぁ
「推し」はいなくもないけど、それが「推し活」って感じにはならないんだよね
本作は、「私たちが生きる現実には存在しない奇妙さ」を様々な形で描き出すことによって、「こいつらヤバいなー」という客観的な感覚を観客に植え付けます。しかしその一方で、作中の登場人物の言動を「推し活」と捉えることで、「現代人の誰もが当たり前にやっていること」と受け取れもするのです。
「推しがいないと生きていけない」みたいな人は、特に現代では多くいると思いますが、そういう人のことを客観視してみると、本作の登場人物のように見えるのかもしれません。そのような形で「登場人物」と「観客」を重ね合わせるスタイルも、とても上手かったなと思います。
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出演:落合モトキ, 出演:あの, 出演:横田真悠, 出演:大西礼芳, 監督:大江崇允, Writer:菊池開人/大江崇允
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最後に
「普通の人」を演じさせるには、あのちゃんにはちょっと色々とハードルがありそうですが、「不思議な人」を演じさせたら、他の配役を思いつけなくなるほど絶妙な存在感を見せつけると感じました。「どんな役でも演じられる」みたいな役者になるのは難しそうですが、「あのちゃんにしかこの役は出来ない」というようなオファーは随時ありそうな気がします。今後の役者としての活動も楽しみです。
そんなわけで、思った以上に楽しめる作品でした。
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タイムループという古びた設定と、ほぼオフィスのみという舞台設定を駆使した、想像を遥かに超えて面白かった映画『MONDAYS』は、テンポよく進むドタバタコメディでありながら、同時に、思いがけず「感動」をも呼び起こす、竹林亮のフィクション初監督作品
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あなたは「生まれ変わり」を信じるだろうか? 私はまったく信じないが、その可能性を魅力的な要素を様々に散りばめて仄めかす映画『月の満ち欠け』を観れば、「生まれ変わり」の存在を信じていようがいまいが、「相手を想う気持ち」を強く抱く者たちの人間模様が素敵だと感じるだろう
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【勝負】実話を基にコンピューター将棋を描く映画『AWAKE』が人間同士の対局の面白さを再認識させる
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【感想】実業之日本社『少女の友』をモデルに伊吹有喜『彼方の友へ』が描く、出版に懸ける戦時下の人々
実業之日本社の伝説の少女雑誌「少女の友」をモデルに、戦時下で出版に懸ける人々を描く『彼方の友へ』(伊吹有喜)。「戦争そのもの」を描くのではなく、「『日常』を喪失させるもの」として「戦争」を描く小説であり、どうしても遠い存在に感じてしまう「戦争」の捉え方が変わる1冊
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【感想】映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)の稲垣吾郎の役に超共感。「好きとは何か」が分からない人へ
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【圧巻】150年前に気球で科学と天気予報の歴史を変えた挑戦者を描く映画『イントゥ・ザ・スカイ』
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【思考】森博嗣のおすすめエッセイ。「どう生きるかべきか」「生き方が分からない」と悩む人に勧めたい…
エッセイも多数出版している説家・森博嗣が、読者からの悩み相談を受けて執筆した『自分探しと楽しさについて』は、生きていく上で囚われてしまう漠然とした悩みを解消する力を持っている。どう生きるべきか悩んでしまう若者に特に読んでもらいたい1冊
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【言葉】「戸田真琴の生きづらさ」を起点に世の中を描く映画『永遠が通り過ぎていく』の”しんどい叫び”
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【感想】湯浅政明監督アニメ映画『犬王』は、実在した能楽師を”異形”として描くスペクタクル平家物語
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