目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:トム・ハンクス, 出演:アーロン・エッカート, 出演:ローラ・リニー, 監督:クリント・イーストウッド, クリエイター:クリント・イーストウッド
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- それが何であれ、「『正しい』と断言すること」は、「知性・想像力の欠如」でしかない
- 「正しい」と決めつける前に、「『正しさ』の枠組み」があるかを確認すべき
- 機長はなぜ、「空港に戻れたはず」と疑われてしまったのか
彼のような人が報われない世界は、何かが大きく間違っていると思う
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
「正しさ」は、「誰がどう信じるか」で変わる。「空気」に支配される社会で、私たちはどう生きるべきかを映画『ハドソン川の奇跡』から考える
「正しい」という言葉を使うことは、とても難しい
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私たちは、「空気が善悪を決める社会」に生きている。この点については、日本在住歴の長いフランス人が母国との比較で日本社会を分析した『理不尽な国ニッポン』という本の記事で詳しく触れた。
フランスなど欧米各国では、「ルールとして明記されていることは守る必要があるが、それ以外に制約はない」という。不倫や買春などのスキャンダルを引き起こしても、テレビや芸能の世界ではなんの影響もないそうだ。法律に触れる行為を行えばもちろん罰せられるが、法律に触れないなら倫理的にマズイことでもまったく問題なく許容される。
日本はそうではない。ルールとして明記されていないことでも、「社会の空気」が許すか許さないかを決めるからだ。法律に抵触していなくても、直接の被害者が何も言っていなくても、そんなことは関係なく社会は怒り、断罪する。
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もちろん、世の中のすべての事柄において法の規定が間に合っているわけではない。だから、「法に触れなければ何をしてもいい」と考えるのはどうかと思う。しかしやはり、「なんでこんなことでネットが炎上しているんだろう?」と感じる機会はとても多い。私には、誰もが自分の「正しさ」の枠から出ようとせず、個人的な「正義」を振りかざしているようにしか見えないのだ。今の時代は、それがどれだけマイナーな主張でも、ネット上で必ず一定数の支持者を見つけることができる。「どんな主張をしても支持してくれる人が必ずいる」という安心感も、今のような状況を生む要因となっているのだと思う。
私は、そういう世の中に生きていることを、とても嫌だなと感じる。
「人によって『正しさ』は異なる」というスタンスをスタートラインにしなければ、何も始まらないはずだ。私はそう信じている。どんな場面であれ、「私の言っていることが正解だ」「自分の考えが間違っているはずがない」などという主張は「独裁」でしかないし、民主的なスタンスとはとても言えないだろう。
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自分が思う「正しさ」とは異なる「正しさ」も世の中には存在し、私はそれを許容できないが排除もしない。誰もがそんな風に考えることでしか、人間の共同生活は成り立たないはずだ。
だから私は、「正しい」という言葉をとても慎重に使うようにしている。そもそもなるべく使わないようにしているし、使う際には、「◯◯の条件では正しい」「これが正しい可能性が高い」など、断定的にならないようにしているのだ。
世の中では「論破する」という言葉が当たり前に使われるし、プレゼンやYoutubeなどでも、結論をぼやかさずに断言する人の方が「デキる人」に見えがちだと思う。ただやはり、私は嫌いだ。戦略として敢えて「断言する」など、使い分けを意識しているならいいと思うが、「断言することが何よりも大事」と考えてそういう振る舞いしかしない人間を、私は好きになれない。
私は、物事を断言したり、「正しい」という言葉を躊躇なく使う人を「想像力がない」と判断する。それはただ、視野があまりに狭く、ごく一部の「正しさ」しか見えていないに過ぎないのだ。自分が見えている「正しさ」がすべての「正しさ」であると考えるのは、あまりに知性がないと思う。「私には見えていないところにも何かがあるはずだ」と考えることこそ知性であり想像力であるはずだ。
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何かを「正しい」と断言したり「間違っている」と決めつけたりすることは、「知性や想像力の欠如」を自ら露呈しているようにしか思えない。お笑い芸人・マキタスポーツの著書『一億総ツッコミ時代』中で、「『良い/悪い』より、『好き/嫌い』で語ろう」という提言がなされているが、本当にそうだと感じる。「良い/悪い」は「正しさ」の話だが、「好き/嫌い」は「趣味趣向」の話でしかない。「正しいかどうか」という上段からの構えではなく、「自分の気分を語る」という気楽さが、今の時代には必要ではないかと思うのだ。
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もちろん、専門的な知見を持つ人は「正しい/間違っている」で語るべきだと思うし、他にも「良い/悪い」のやり取りの方が相応しい場面はあるだろう。しかしそうではないなら、「正しい」「間違っている」という言い方を日常の中で封印するのもアリではないか、とさえ感じている。
そして誰もがそういうスタンスを取ることで初めて、「社会の総意として何を『正しい』と定めるか」という大枠の議論ができるようになる、と私は考えている。「『正しさ』の枠組み」も定めずに「正しさ」について語ることは愚の骨頂だ。
「正しい/間違っている」と口にする前にまず、それを定めるための枠組みがきちんと存在するのかについて考えを巡らせてみた方がいい。枠組みが存在しないのに「正しさ」について語って、ただ知性・想像力の欠如を晒すだけになってしまうのはあまりに残念だ。
映画『ハドソン川の奇跡』の内容紹介
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バードストライクという不運に見舞われながらも、ハドソン川に着水して乗員乗客を救った実際の事故をモデルにした、衝撃の実話。一躍英雄となった機長は一転、疑いをかけられてしまう。
2009年1月15日、エアバスA320の機長・サリーは、鳥の大群が突っ込み両エンジンとも停止してしまうという大惨事に直面していた。彼は短時間で様々な情報を把握し、40年以上の経験を元に、1つの結論を導き出す。
ハドソン川への不時着だ。
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飛行機を川に着水させるのはかなり危険だと分かっていたが、サリーには他の選択肢など考えられなかった。空港に引き返す余裕はないし、躊躇すればニューヨークの高層ビルに衝突しかねない。彼は慎重に場所を見極め、見事な制御でエアバスを着水させる。乗員乗客155名は全員無事だった。
しかし、ここからすべてが始まるのだ。
英雄として知られるようになったサリーだが、NTSB(国家運輸安全委員会)は彼と副機長の判断に疑問を投げかけた。ハドソン川への不時着しか選択肢がなかったと言うが、実際はラガーディア空港に引き返せたのではないか、と。確かにサリーも、一度はその選択肢を検討した。しかし、様々な状況を考慮し、無理だと判断したのだ。
しかしNTSBは、サリーがハドソン川への不時着を選択したことで機体を無駄に水没させ、さらに乗客の命も危険に晒したのではないかという疑いを消そうとしない。そしてNTSBは、コンピュータのシミュレーションや専門家の知見を踏まえながら結論を出すつもりだ。
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40数年間、多くの乗客を運んできたというのに、わずか208秒の決断ですべてが判断される。
サリーは本当に、空港に引き返せたはずなのにハドソン川への不時着を選んだのだろうか?
映画『ハドソン川の奇跡』の感想
さてここからは、私が書きたいと思うことを取り上げるために、映画の中身を少しネタバレしていく。映画をまだ観ておらず、中身を知らずに観たいという方は以下の文章を読まない方がいいだろう。
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最終的には、サリーの判断は正しかったと認められる。なぜなら、彼がコンピュータシミュレーションの不備を指摘することができたからだ。NTSBは、サリーらが置かれた状況を再現したシミュレーションを行い、「このような手順ならラガーディア空港に引き返すことができたはず」というプランを示す。しかし、そのシミュレーションには前提部分に問題があり、その点をサリーが指摘したことで疑いが晴れたというわけだ。
とりあえず、サリーにとって悪くない結末に落ち着いたことは大変喜ばしい。
しかし私は映画を観ながら、「仮にサリーがシミュレーションの不備を指摘できなかったとしても、サリーの判断を『正しい』と捉えるべきではないか」と感じていた。仮にNTSBの言う通り、実際には彼らがラガーディア空港に引き返すことができる状況にあったのだとしても、私の意見は変わらないと思う。
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その理由は、副機長が発したこんな言葉に集約されるだろう。
ビデオゲームではない。生死の問題です。
エンジンが停止した飛行機の操縦桿を握り、155名の命を預かっているのは機長なのだ。トラブルを感知してから不時着までたった208秒。カップラーメンを待つぐらいの時間だ。その間に、すべての状況判断をし、困難な操縦を行い、不可能を可能にしなければならないのである。
だから、仮にその208秒の判断に誤りがあったとして、どうしてそれを責められるだろうか? と私は思ってしまう。
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誤解を与えないように繰り返すが、結果的にサリーは一切間違った判断をしていなかった。彼は僅かな時間で正確に状況を把握し、それしかないという決断を下したというわけだ。しかし私は、仮にそうでなかったとしても、つまり、誤った判断による結果だったとしても、非難されるべきではないと考えている。
もちろん、判断が誤りだったとすれば、次回以降に生かすために真相究明は必要だし、マニュアルなども改善しなければならないだろう。しかしそれは「未来への建設的な協力」であり、過去を糾弾することに価値があるとは思えない。
映画では、NTSBがサリーを完全に「悪者」として疑って掛かっている。もちろん、NTSBの立場もまったく理解できないわけではない。映画の中で詳しく描かれるわけではないが、機体の損失を保険会社に請求する上での障害を取り除くとか、通常の手順を無視した行為を見逃せば悪しき前例となるなど、サリーを疑わなければならない事情を抱えているのだとは思う。
しかしそれにしても、NTSBはあまりにもサリーに疑惑の目を向ける。その姿勢はやはり許容できるものではない。映画的な脚色の可能性もあるが、実際に起こり得ることだとも感じる。
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この記事の冒頭で、「『正しさ』の枠組み」があるのかが重要だと書いた。その理屈に沿って言えば、私は、「自身や他人の命が懸かっている側が『正しい』と判断されてほしい」と考えてしまう。もちろん、明らかな不正やミスがあるならその限りではない。しかしこの映画では、サリーが疑われる最大の要因はコンピュータのシミュレーションなのだ。「シミュレーションでは空港に戻れたはずだ。つまりお前の決断は間違いだった」と突きつけているのである。
それは後出しジャンケンのようなものだろう。
シミュレーションしか信じないのなら、操縦席に人間を乗せるのを止めてすべてコンピュータ制御にすればいい。そして、現実にはまだそれは不可能だ。だから人間が乗っている。であればシミュレーションではなく、自らの命を懸けて状況に対峙している者の言葉を重視しなければならないはずだ。これが、私の考える「『正しさ』の枠組み」である。
あなたはどう感じるだろうか?
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出演:トム・ハンクス, 出演:アーロン・エッカート, 出演:ローラ・リニー, 監督:クリント・イーストウッド, クリエイター:クリント・イーストウッド
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そんな風に強く実感させてくれる映画でもあると思う。
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