目次
はじめに
この記事で取り上げる本
講談社
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ポチップ
この記事で伝えたいこと
「詩は分からないからこそ価値がある」と著者は断言する
詩をどう解釈してもいいし、分からなければ分からないまま受け取っておけばいい
この記事の3つの要点
- 「解釈に正解がある」という国語の授業のスタンスは、読書嫌いの要因の1つではないかとさえ感じている
- 「『作者の伝えたかったこと』などない」と言ってくれる安心感
- 「種」を見て「この花は嫌い」と断言するようなスタンスは好きになれない
「好き」「嫌い」だけではなく「分からない」というフォルダも用意しておくと、物事の捉え方がより自由になる
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私が国語の授業から受け取ったメッセージは、以下の1点のみです。
「物語や評論の解釈」には「正解」が存在し、その「正解」に辿り着けない人間は「国語力がない」と判断される
なんて恐ろしい主張なのだろう、と感じさせられます。
もちろん世の中には、「書いた人間の意図通りに受け取ることが必要な文章」も存在するでしょう。分かりやすい例としては説明書や契約書などです。解釈の余地が存在すべきではないし、ある一定範囲内の受け取り方が「正解」だと断言できるでしょう。そのような「解釈に正解が存在する文章」もあると私はもちろん理解しています。
しかし当然ですが、そんな文章ばかりではありません。その最たる例が「小説」です。小説は、作者が何をどう考えて執筆したかに関係なく、読者が自由に解釈し受け取ればいい、と私は考えています。基本的には多くの人がこの意見に賛同してくれるのではないでしょうか。
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しかし国語の授業では、小説であっても「解釈の正解」が存在し、その範囲内の受け取り方をしなければ「間違っている」という烙印を押されてしまいます。
マジで意味が分かりませんでした。
本当に、今思い出してもイライラしてしまうくらい理解不能
色んな要因があるとはいえ、「そりゃあ読書離れも起こるでしょう」って感じるよね
私は詳しく知りませんが、国語の授業や試験にもちゃんと何か教育的な目的があり、教師はその目的達成のために努力しているのだとは思います。しかし、本来的な目的がどうあれ、私が国語の授業から感じたような「正解の解釈以外は不正解」という感覚を抱いてしまう人はいるだろうし、そう感じれば感じるほど「読書」という行為から遠ざかってしまうでしょう。
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しかしそれ以上に恐ろしいと感じるのは、「正解の解釈以外は不正解」と捉えることで、物事を多角的に見れなくなってしまうことです。今は「多様性」が重視される時代ですが、「多様性」を理解するためには、「世の中には、同じ物事でも様々な捉え方をする人がいる」という事実を知っている必要があります。しかし国語の授業は、そのような理解を遠ざけてしまうのではないか、と私は感じるのです。
私が学生だったのは20年以上も前のことであり、以前とは国語も変わっているかもしれません。しかし、「試験を行い、評価する」という大前提が存在する以上、根底の部分は大きく変わってはいないでしょう。
国語の授業が好きだったという方には申し訳ありませんが、私には「害」にしか感じられなかった国語の授業は、一刻も早く変わるべきだと感じます。
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詩人である著者・渡邊十絲子の主張の根幹
本書で著者はこんな風に書いています。
もともと、日本人は詩との出会いがよくないのだと思う。
大多数の人にとって、詩との出会いは国語教科書のなかだ。はじめての体験、あたらしい魅力、感じ取るべきことが身のまわりにみちあふれ、詩歌などゆっくり味わうひまのない年齢のうちに、強制的に「よいもの」「美しいもの」として詩をあたえられ、それは「読みとくべきもの」だと教えられる。そして、この行にはこういう技巧がつかってあって、それが作者のこういう感情を効果的に伝えている、などと解説される。それがおわれば理解度をテストされる。
こんな出会いで詩が好きになるわけないな、と思う。こどもの大好きなマンガだって、こんなこちこちのやり方でテクニックを解説され、「解釈」をさだめられ、学期末のテストで「作者の伝えたかったこと」を書かされたら、みんなうんざりするにちがいない。詩を読む時の心理的ハードルは、こうして高くなるのだ。
人がなにかを突然好きになり、その魅力にひきずりこまれるとき、その対象の「意味」や「価値」を考えたりはしないものである。意味などわからないまま、ただもう格好いい、かわいい、おもしろい、目がはなせない、と思うのがあたりまえである。
詩とはそのように出会ってほしい。
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この文章を読んで私は、「同じようなことを考えている人がいて救われた」と感じました。
私は長いこと書店で働いていたこともあり、本を読む人と関わる機会が多くありました。しかし、そういう人たちにこの「国語の授業への嫌悪感」を伝えても、正直、あまり理解してもらえた経験がありません。私にとっては不思議で仕方ありませんでしたが、多くの人は私が感じたような「嫌悪感」を抱いていないようなのです。
だからこそ本書を読んで、ホッとさせられました。同じように考えている人がいる、しかも「詩人」という、まさに創作を行う側の人から発信されたということが、凄く嬉しかったのです。
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ホントに、子どもの頃にこんな風に言ってくれる大人に出会いたかったなぁって思う
そうすればまだ、「国語の授業は、『無意味だが仕方ないもの』として受け入れよう」ぐらいには思えてたかもしれないしね
本書は全体的に「詩」に関する内容ですが、著者のこのようなスタンスは決して「詩」だけに言及されるものではないと理解できるでしょう。音楽・マンガ・絵画などなんでもいいですが、「解釈の余地が多様に存在するもの」は世の中に溢れています。しかし一方で、国語の授業のような「解釈を制約する主張」はどんな領域においても存在するでしょう。
「◯◯を観てないなんて映画を語る資格ない」「あのマンガは聖書を下敷きにしてるから、聖書を理解しないと正しく評価できない」「あの曲はライブで映えるから、ライブ会場で聞かないと本当にはその良さが分からない」など、世の中には物事の評価に対してあれこれ言いたい人が山ほど存在します。しかし、はっきり言ってそんなことはどうでもいいはずです。
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もちろん、批評家として仕事をするのであれば、そのような観点も必要だとは思います。ただ、普通の人が個人的に楽しむ分には、「好き!」「面白い!」「ワクワクする!」「なんか凄い!」という感覚の方が大事なはずです。
本書はそんな、当たり前だけど忘れがちなスタンスについて思い出させてくれる作品だと言えるでしょう。
教科書は、詩というものを、作者の感動や思想を伝達する媒体としか見ていないようだった。だから教室では、その詩に出てくるむずかしいことばを辞書でしらべ、修辞的な技巧を説明し、「この詩で作者が言いたかったこと」を言い当てることを目標とする。国語の授業においては、詩を読む人はいつも、作者のこころのなかを言い当て、それにじょうずに共感することを求められている。
そんなことが大事だとはどうしても思えなかった。あらかじめ作者のこころのなかに用意されていた考えを、決められた約束事にしたがって手際よく解読することなどに魅力はない。わたしはもっとスリルのある、もっとなまなましい、もっと人間的な詩をもとめていた。
本当に、私がずっと感じていたことを問題視してくれる作品で、嬉しくなってしまいました。
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現代詩は、世の中にすでに存在していてみんながよく知っている「もの」や「こと」を、わざわざことば数をふやし、凝った言い方で表現しようとするものではない。まして人生訓をふくんだ寓話のようなものではない。
そのように詩を読むことは、詩のもっている力のほとんどの部分を使わず捨ててしまうようなもったいない読み方だと思った。
こんな風に言ってくれると、詩を読むハードルが下がっていいよね
詩を読んでも大体「よく分かんない」で終わるけど、とりあえずはそれで問題ないってことだからね
この文章は、「解釈」という行為の矛盾について言及しているように私には感じられます。そもそも文章を「解釈する」必要などあるのでしょうか?
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一方詩はどうでしょうか? 恐らく一般的には、「普通に読んでもよく分からないから『解釈』が必要」と考えられていると思います。そしてそのような考えのもと、「作者の言いたいこと」を読み解き、その詩がどんな主張をしているのかを”正しく”捉えることが大事だ、と国語の授業で示されるわけです。
しかしそのような「解釈が必要とされる作品」こそ、「解釈」しない方がいいのではないでしょうか。著者もこんな風に書いています。
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「解釈」ということを、いったん忘れてみてはどうだろう。
詩を読んでそのよさを味わえるということは、解釈や価値判断ができるということではない。もちろん、高度な「読み」の技術を身につけたらそれはそれはすてきなことだが、みんながみんなそんな専門的な読者である必要はないはずだ。もっと素朴に一字一句ありさまをじっとながめて、気にいったところをくりかえし読めばいいと思う。わたしはふだん自分のたのしみのために詩を読むときは、そのように読んでいる。
著者が言うように、「高度に読めればより素晴らしい」のでしょうが、そんな読みができなくても別に問題はないわけです。だからこそ著者は、
「作者の伝えたかったこと」なんて、ここにはないのだ!
なくていいのだ!
とさえ叫びます。まさに「作者(詩人)」である人物からこんな発言が出てきたので、とてもホッとさせられました。
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それではどんな風に読めばいいのでしょうか。著者の主張を要約すれば、「どうぞお好きなように」となるでしょう。
そういうちょっとした魅力のとっかかりは、無数にある。それはあくまでも「自分にとって」魅力があればいいので、誰にも賛同してもらえなくても、自分だけが発見したその魅力点について考えつめているうちに、もっと普遍的な「読み」に合流していく可能性がひらけている(もちろん合流しなくたっていい。これまでのどんな説ともちがう斬新な読みをうちたてて人を説得できたら最高だ。渾身の「読み」は、ときに詩を書いた本人による解釈をも更新する)
「自分にとって魅力があればいい」と言われて、思い出した作品があります。
私は一時期、短歌にハマっていました。ただそれは、自分で作るのが楽しかっただけで、正直、誰かの短歌を読んでも「あんまり良く分からないな」と感じることが多かったのです。短歌の素養ゼロの状態から適当に作り始めただけなので、「短歌を”正しく”理解する」だけの知識が無かったということでしょう。
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しかしそんな私でも、一読して衝撃を受けた作品があります。それが、
問十二、夜空の青を微分せよ。街の明りは無視してもよい
https://kyoudai-tanka.com/review/127
です。この短歌をツイッターか何かで目にした瞬間、「うわっ! 凄っ!」と感じたことを覚えています。
どうやらツイッターでバズったみたいで、だから私も知ってるんだと思う
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ただ正直、この短歌のどこに衝撃を受けたのか、まったく説明できません。私は理系の人間なので、数学の試験問題風のスタイルや「微分」という単語、物理の試験問題にありがちな「◯◯は無視してもよい」という定型文に反応したということはあるでしょう。それら、非常に理系的な要素が、短歌という非常に文系的な要素にとても収まりよく並んでいて面白いし、さらに口に出して読んでも気持ちいいと感じもします。
ただし、「分析して解釈しろ」と言われても、これ以上は無理です。作者の言いたいことも分からないし、批評もできません。
でも、やっぱり何回触れても、この作品は「好きだ!」となってしまうし、未だにパッと思い出せる短歌はこれしかないほど、強く印象に残った作品です。
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会場で迫力あるサイズで観るとまた違うってのもあるだろうしね
私が素養もないのに美術展に足を運んでしまうのは、まさにこのような経験をしたことがあるからです。自分自身で理解も説明もできないけれど、どうしても惹きつけられてしまうものが世の中に存在する、と実感できたことは、私にとっては非常に重要なことでした。今でも、白髪一雄の作品を観た時のような衝撃を味わいたくて、色んな美術展に足を運んでいる気がします。
「分からないからいい」と思えるようになることが大事
著者は詩人だと自己紹介すると、決まって「詩のことはよく分かりません」と言われるといいます。
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詩人ですと名のり初対面のあいさつをして名刺を交換して、そしてかけられる第一声が「わたしは詩はよくわかりません」。そういうことが、しばしばある。文芸雑誌の編集者にすら、そう言われたことが何度もある。そのことばは、オマエハヨソモノダと言っているようにきこえる。
それを言う人は、べつに悪意で言っているわけではないのだ。彼らの言いたいことはなんとなくわかる。
あなたの仕事が詩を書くことならば、それについてなにか言ってあげたいけれど、日ごろ詩や詩人は「遠巻きに見ている」程度なので、自分のなかに評価基準がない。たまさか一篇の詩を読んでみたところで、なんとなく好きだとかおもしろくないとか、幼児の感想みたいなことしか言えないと思うし、それは自分の知性を疑われそうでいやだ。だから、詩はよく知らない、自分の守備範囲ではないということで押しとおしてしまいたい。
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私も昔は同じようなタイプだったと思います。何かを知らないこと、何かができないことを「恥ずかしい」と感じていたし、「こんなことも分からない/できないなんてダメだ」という烙印が押されることを怖がっていました。
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私は、「問十二~」の短歌や白髪一雄の作品に触れたことで、「何に良さを感じているのかまったく理解できないが、とにかく好きだと感じられるもの」があるのだと理解できたし、だからこそ「よく分かんないけど好きなんだ」と主張することに抵抗がありません。しかし中には、「お前には語る資格なんかない」系の意見にさらされることが怖くて、あるいは、「理解できない自分はダメなんだ」という思い込みが強くて、自分の心をグッと掴むものに出会い損ねているなんて人も多いのではないかと感じています。
詩人である著者は、「詩は分からないからいいのだ」と主張します。
試験問題をつくったときに万人の納得する「正解」を用意できるように選ばれた詩は、われわれに迷子になる自由をあたえてくれはしないし、「正解」が用意されているのにそれを見つけそこなったとき、われわれは自分自身に落第点をつけ、その科目に自分は向いていないと思い込んでしまう。
このわなに落ちこまず、わからないことを否定的にとらえないですんだ人は幸運である。わたしも幸運だったひとりだ。
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「迷子になる自由」「わからないでいる権利」という言葉は、凄く素敵で大事な概念だと感じました。現代ではますます、これらの自由・権利を獲得することは難しくなったと言えるでしょう。
ちょっと話はズレるかもしれませんが、私はそれが何であれ、先に「評価」を調べないようにしています。今の時代、飲食店でも本でも映画でも何でも、様々な人の評価が星の数で表示されるサービスが多数存在しており、皆当たり前のように、「評価を確認してから経験する」という行動を取っているでしょう。
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でも私は、可能な限りそうしないように意識しています。もちろん私も、人生の中でほとんど経験する機会がないこと、つまり「家を買う」「結婚する」「子どもが生まれる」みたいな出来事に直面することがあれば、何らかの評価に頼るかもしれません。しかし、日常的に触れる機会があるものについては、それが可能な状況なら評価を先に見ないようにしています。
評価を先に知ろうとすれば、「失敗する自由」が失われてしまうと考えているからです。
私は、「自分にとってダメなもの、良くないと感じられるもの」に出会い、「それを受け入れられない理由は何か」を考えることで、より一層「自分が良いと感じるものの良さ」が理解できると考えています。良いと感じるもの”だけ”に触れていたら、自分がなぜそれを良いと感じるのかを上手く捉えきれないだろうと感じているのです。
だから、「つまらなかった」と感じた場合には、どうしてそれをつまらないと感じたのか考えるようにしてる
そうすることで、「自分はどういうものを好きなのか」ってよりはっきり理解できたりするしね
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「迷子になる自由」や「わからないでいる権利」は、「良い悪いを判断する」以外の選択肢だと言っていいでしょう。
「分からない」という選択肢を用意しておかないと、物事の判断が「良い」か「悪い」かの2択になってしまいます。そして恐らく、「分からない」と感じた時点で自動的に「悪い」のフォルダに振り分けられてしまうでしょう。
しかし本来的には、「分からない」と「悪い」はまったくの別物です。ただ単に「分からない」というフォルダを用意してあげればいいだけのはずなのに、様々な要因からそれができない人が多いのだと思います。
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「分からない」というフォルダに入れたものは、「種」のようなものというわけです。しかも、すぐに芽が出るかも分かりません。「分からないもの」を「悪い」と判断してしまうのは、「種」だけを見て「この花は嫌い」と言っているようなものでしょう。専門家なら「種」だけを見てどんな花を咲かせるか分かるのでしょうが、大体の人は専門家ではないし、だからこそ「種」のまま内側に取り込んでおくという姿勢が大事になるわけです。
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詩に役割があるとしたら、それだけでいいのだと思う。
「説明しようとしてどうしても説明しきれない余白」というのは私にも分かる気がしました。このブログで書いている文章もそうですが、私は普段から自分が考えていること、感じていることを日々言語化しています。そして言語化することの最大のポイントは、「自分の内側にある『言語化できないもの』を見つけること」だと思っているのです。
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【全作品読了済】私が読んできたノンフィクション・教養書を色んな切り口で分類しました
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最後に
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この記事では、「解釈などしなくていい」「分からないものは分からないままでいい」という部分だけをクローズアップして取り上げましたが、本書にはそれだけではなく、「日本語の特殊さや、それが日本語詩に与える影響」「著者による詩の感想」など、詩そのものについても様々に触れられます。
しかし決して、「よくある詩の紹介書」ではありません。
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この本は、これまでに書かれた詩の紹介書とは性質がちがう。
引用した詩の解読をめざしていない。その詩を、大きな詩の潮流のどこかに位置づけることもめざしていない(だから、現代詩の「これまでのあらすじ」を知りたい人は、べつの本をさがしてください)。
ここには、そもそもわたし自身がよくわかっていない詩ばかりを引用した。わかったと思う部分については気をよくしておおいに書いたが、来年の自分がおなじように読むかどうかはわからない。これはあくまでも中間報告だ。
むしろ、わからなかったこと、読み取れなかったこと、読みまちがえたことを書きおとさないように、自分の人生のおりおりに詩がどうかかわってきたかを書いた。
本書は「今の自分には理解不能なものといかに関わるか」という非常に広い視野を持たせてくれる作品であり、評価や共感が優先されてしまう現代だからこそ一層重要性が増すのではないかと感じました。
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2008年に開設された新たな刑務所「島根あさひ社会復帰促進センター」で行われる「TC」というプログラム。「罰則」ではなく「対話」によって「加害者であることを受け入れる」過程を、刑務所内にカメラを入れて撮影した『プリズン・サークル』で知る。
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【変人】学校教育が担うべき役割は?子供の才能を伸ばすために「異質な人」とどう出会うべきか?:『飛…
高校の美術教師からアーティストとして活動するようになった著者は、教育の現場に「余白(スキマ)」が減っていると指摘する。『飛び立つスキマの設計学』をベースに、子どもたちが置かれている現状と、教育が成すべき役割について確認する。
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【天才】『三島由紀夫vs東大全共闘』後に「伝説の討論」と呼ばれる天才のバトルを記録した驚異の映像
1969年5月13日、三島由紀夫と1000人の東大全共闘の討論が行われた。TBSだけが撮影していたフィルムを元に構成された映画「三島由紀夫vs東大全共闘」は、知的興奮に満ち溢れている。切腹の一年半前の討論から、三島由紀夫が考えていたことと、そのスタンスを学ぶ
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【救い】耐えられない辛さの中でどう生きるか。短歌で弱者の味方を志すホームレス少女の生き様:『セー…
死にゆく母を眺め、施設で暴力を振るわれ、拾った新聞で文字を覚えたという壮絶な過去を持つ鳥居。『セーラー服の歌人 鳥居』は、そんな辛い境遇を背景に、辛さに震えているだろう誰かを救うために短歌を生み出し続ける生き方を描き出す。凄い人がいるものだ
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【デマ】情報を”選ぶ”時代に、メディアの情報の”正しさ”はどのように判断されるのか?:『ニューヨーク…
一昔前、我々は「正しい情報を欲していた」はずだ。しかしいつの間にか世の中は変わった。「欲しい情報を正しいと思う」ようになったのだ。この激変は、トランプ元大統領の台頭で一層明確になった。『ニューヨーク・タイムズを守った男』から、情報の受け取り方を問う
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【無知】メディアの問題の本質は?「報道の限界」と「情報の受け取り方」を独裁政治の現実から知る:『…
メディアは確かに「事実」を報じている。しかし、報道に乗らない情報まで含めなければ、本当の意味で世の中を理解することは難しいと、『こうして世界は誤解する』は教えてくれる。アラブ諸国での取材の現実から、報道の「限界」と「受け取り方」を学ぶ
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【諦め】「人間が創作すること」に意味はあるか?AI社会で問われる、「創作の悩み」以前の問題:『電気…
AIが個人の好みに合わせて作曲してくれる世界に、「作曲家」の存在価値はあるだろうか?我々がもうすぐ経験するだろう近未来を描く『電気じかけのクジラは歌う』をベースに、「創作の世界に足を踏み入れるべきか」という問いに直面せざるを得ない現実を考える
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【継続】「言語化できない」を乗り越えろ。「読者としての文章術」で、自分の思考をクリアにする:『読…
ブログやSNSなどが登場したことで、文章を書く機会は増えていると言える。しかし同時に、「他人に評価されるために書く」という意識も強くなっているだろう。『読みたいことを書けばいい』から、「楽しく書き”続ける”」ための心得を学ぶ
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【恐怖】SNSの危険性と子供の守り方を、ドキュメンタリー映画『SNS 少女たちの10日間』で学ぶ
実際にチェコの警察を動かした衝撃のドキュメンタリー映画『SNS 少女たちの10日間』は、少女の「寂しさ」に付け込むおっさんどもの醜悪さに満ちあふれている。「WEBの利用制限」だけでは子どもを守りきれない現実を、リアルなものとして実感すべき
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【呪縛】生きづらさの正体とそこからどう抜けるかを、「支配される安心」「自由の不自由」から考える:…
自由に生きられず、どうしたらいいのか悩む人も多くいるでしょう。『自由をつくる 自在に生きる』では、「自由」のためには「支配に気づくこと」が何より大事であり、さらに「自由」とは「不自由なもの」だと説きます。どう生きるかを考える指針となる一冊。
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【感想】努力では才能に勝てないのか?どうしても辿り着きたい地点まで迷いながらも突き進むために:『…
どうしても辿り着きたい場所があっても、そのあまりの遠さに目が眩んでしまうこともあるでしょう。そんな人に向けて、「才能がない」という言葉に逃げずに前進する勇気と、「仕事をする上で大事なスタンス」について『羊と鋼の森』をベースに書いていきます
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【議論】安楽死のできない日本は「死ぬ権利」を奪っていると思う(合法化を希望している):『安楽死を…
私は、安楽死が合法化されてほしいと思っている。そのためには、人間には「死ぬ権利」があると合意されなければならないだろう。安楽死は時折話題になるが、なかなか議論が深まらない。『安楽死を遂げた日本人』をベースに、安楽死の現状を理解する
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【驚愕】日本の司法は終わってる。「中世レベル」で「無罪判決が多いと出世に不利」な腐った現実:『裁…
三権分立の一翼を担う裁判所のことを、私たちはよく知らない。元エリート裁判官・瀬木比呂志と事件記者・清水潔の対談本『裁判所の正体』をベースに、「裁判所による統制」と「権力との癒着」について書く。「中世レベル」とさえ言われる日本の司法制度の現実は、「裁判になんか関わることない」という人も無視できないはずだ
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【希望】貧困の解決は我々を豊かにする。「朝ベッドから起きたい」と思えない社会を変える課題解決:『…
現代は、過去どの時代と比べても安全で清潔で、豊かである。しかしそんな時代に、我々は「幸せ」を実感することができない。『隷属なき道』をベースに、その理由は一体なんなのか何故そうなってしまうのかを明らかにし、さらに、より良い暮らしを思い描くための社会課題の解決に触れる
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【表現者】「センスが良い」という言葉に逃げない。自分の内側から何かを表現することの本質:『作詞少…
大前提として、表現には「技術」が必要だ。しかし、「技術」だけでは乗り越えられない部分も当然ある。それを「あいつはセンスが良いから」という言葉に逃げずに、向き合ってぶつかっていくための心得とは何か。『作詞少女』をベースに「表現することの本質」を探る
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生きていると、「常識的な考え方」に囚われたり、「普通」「当たり前」を無自覚で強要してくる人に出会ったりします。そういう価値観に合わせられない時、自分が間違っている、劣っていると感じがちですが、そういう中で一歩踏み出す勇気を得るための考え方です
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文化・芸術・将棋・スポーツ【本・映画の感想】 | ルシルナ
知識や教養は、社会や学問について知ることだけではありません。文化的なものもリベラルアーツです。私自身は、創作的なことをしたり、勝負事に関わることはありませんが、…
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