目次
はじめに
この記事で取り上げる本
著:アンナ リンジー, 原著:Lyndsey,Anna, 翻訳:由美子, 真田
¥255 (2021/12/16 06:15時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この記事で伝えたいこと
「死」の誘惑に駆られながらも、どうにかジタバタして生きている女性の奮闘
自分だったらこんなに辛い日常に耐えられる自信がありません
この記事の3つの要点
- 突然、パソコン画面からの光に激痛を感じて発症してしまった
- 窓やドアの隙間も塞いだ部屋の中でオーディオブックを聴き続ける日々
- 発症後に結婚した夫との、胸を締め付けられるようなやりとり
辛さを抱え世界の片隅で人知れず耐えている人が他にもきっとたくさんいる、と想像させてくれる1冊
自己紹介記事
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自分の顔にガスバーナーが向けられているような感覚です
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とても「想像できる」などと言えるような状況ではありませんが、どうにか頑張って想像してみようと努力すれば、それはあまりにも壮絶としか言いようがない人生でしょう。
彼女がこのような状態に陥ってしまう「光」は、日光だけではありません。蛍光灯など、ありとあらゆる光が彼女を襲います。実際、彼女が最初にこの症状を発症したのは、パソコンの画面でした。
つまり彼女は、「どんな形であれ、明るい場所にはいられない」ということになります。
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彼女の症状は時期によっても変動があるようで、最高に調子が良い時には、夕方ぐらいから散歩に出かけられるといいます。しかし、発症してから本書刊行までの8年の間に、そんな素晴らしい状態でいられたことはほとんどありません。基本的には、朝から晩までずっと暗闇の中にいるしかないのです。
その「暗闇」も、私たちが想像するより遥かに真っ暗だと言えるでしょう。窓やドアの隙間は完全に塞ぎ、僅かな光さえも漏れ出ないようにするしかありません。また、着る服の素材によっても症状に影響が出るそうですが、自分で買い物に出かけることは出来ないので、その辺りの事情を汲み取ってくれる人にお願いするしかないというわけです。
当然ですが、視覚に頼った活動は一切できません。もう少し技術が発達すれば、「コンタクトレンズに直接映像を映し出す」みたいなことが可能になるかもしれないし、そうなれば「光過敏性」の症状と闘いながら映画を観たり本を読んだりする未来もあり得るでしょう。しかし残念ながら、まだそんな技術はありません。
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音楽を聴くことは当然できるのですが、彼女は音楽を聴くと気持ちが乱れるようになってしまったそうです。
だから彼女が暗闇でできることは、「オーディオブックをひたすら聴き続ける」か、「自分でルールを作った『言葉遊び』を一人でやり続ける」ぐらいしかないのです。
「死」への葛藤を抱えながら生きる
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本書にはこのような文章があります。
自殺という名の黒い大きな魚が、水底の泥の中からぬっと姿を現し、行ったり来たり、泳ぎ回っている。バシャバシャとひれが水を打つ音が聞こえる。いままでになくはっきりと、とがった歯がきらりと光るのが見える
「著者が自殺を望んでいる」という記述がなされる本は決して珍しくありませんが、ここで少し想像してみてほしいことがあります。彼女はこの本をどう執筆しているのかについてです。パソコンは使えませんし、真っ暗闇なのでペンで紙に書くというのも難しいでしょう。
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そうなると、基本的には「喋ったことを誰かに文章にしてもらう」しかないはずです。その相手が誰なのかなどについて本書では触れられていませんが、恐らく身近にいる誰かでしょう。
つまり彼女は、「本の執筆」の過程で、「身近な人に自殺の意思があると伝えるという行為」を行っていることになるのです。
なかなか普通には起こり得ない状況だし、想像を絶するよね
安易に想像してみるだけでも、「自殺」の誘惑に駆られても仕方ない人生だろうと思います。しかしそれでも、彼女はなんとか踏みとどまって生きることを諦めません。そこには、後で触れる男性の存在も関係してくるのですが、基本的には彼女の「強さ」なのだと思います。
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本書に、印象的な話が載っていました。それは、著者が何かで読んだことがある寓話なのだそうです。ちょっと長いのですが、全文引用してみたいと思います。
ある暑い日のこと、二匹のカエルが酪農場の涼しい乳製品工場へと、ぴょんぴょんやってきた。カエルたちは二つの撹乳器の縁にそれぞれぴょんと飛びついて、中のミルクを覗き込み、飲めるだろうかと考えていた。すると、どうしたことか。二匹とも足が滑って、ミルクの中へ、どぼん。撹乳器は底が深いうえ、縁にたどり着こうにも、傾斜が急で登れない。
一匹目のカエルはしばらくぐるぐる撹乳器の中で泳いでいたが、やがて心の中で考えた。「こんなに必死になって泳いで何になる?ぐるぐる回っているだけでどこへも出られない。泳ぐのを止めて溺れてしまってもいいじゃないか。どうあがいても、最後はそうなるんだから」
そこでカエルは泳ぐのを止めて、撹乳器の底にしずんで、溺れてしまった。
一方、二匹目のカエルも隣の撹乳器の中で、泳ぎながらぐるぐる回っていた。「どこにも出られないようだ」と彼も心の中で考えた。「でも、ぼくはまだ死んではいない。生きている限り、ぐるぐる泳ぎ続けよう」
そこでカエルはひたすら泳ぎ続けた。「なんてこった。退屈で仕方がない」。そう思いながらも、ぐるぐる数えきれないくらい回っていると、撹乳器の内側に目盛りが見えてきた。
「相棒はどうなったかな」。しばらくして気がついたカエルは、大声で名前を呼んだ。「バート!バート!」
もう一つの撹乳器からは返事がない。二匹目のカエルはひとりぼっちで悲しかった。それでも泳ぎ続けた。
ずいぶん長い時間が過ぎた。カエルはへとへとになりながら、つぶやいた。「ミルクがだんだん濃くなってきたのかな。それともぼくの脚が疲れてきたのかな」
それでもカエルは泳ぎ続けた。
やがて、本当にミルクはものすごく濃くなっていた。いつの間にか二匹目のカエルは黄色く固まった表面に乗っていた。撹乳器からひょいと飛び出すと、自由の身になった。あんまり長い時間、カエルが脚をバタバタさせてミルクを撹拌したので、バターができあがったのだ。
この話の教訓は――けっして諦めてはいけない。
わたしは二匹目のカエルのことを考える。まっくらやみのプールの中で、あてどなく巡る日々をもがき続けながら
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まさに著者自身の状況と重なる物語です。もがき続けることが、可能性の扉を開くきっかけになると思わせてくれるでしょう。
著者も、現状を打破しようとジタバタしています。例えば彼女は、自分のこの症状がどうにか改善しないかと、様々な「治療」を試みるのです。
「治療」とカッコに入れたのにはわけがあります。なんと、彼女のことをちゃんと診察してくれる医者がいない、というのです。だから彼女は、民間療法的なことをひたすら試すしかありません。医者に連絡しても、「病院まで来てくれたら診ます」という反応になるのだそう。彼女はそもそも病院に出向けないのだから、どうにもなりません。
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わたしのことを調査してもらいたい。わたしの皮膚の生体組織検査をしたいという人が現れないのが、わたしには驚きだ。専門家の科学的興味はどこへ行ってしまったのか。結果はきっと興味深いものになると思うのだが
彼女の疑問はもっともだと思います。もちろん医者や科学者など専門家の側にも何らかの事情があるとは思いますが、かなり稀な難病を持つ本人が協力の意思を示しているにも関わらず、研究対象にならないのは何故なのでしょうか?
彼女の存在が知られていないということなら、本書の執筆によって状況が変わった可能性もあるかもだけどね
ともかく彼女は専門家も協力してくれない状況の中で、自分で出来る限りの「治療」を試し、ジタバタを続けます。そのジタバタが、何らかのプラスに結びついてくれることを期待しているし、仮に結果に結びつかないとしても、「ジタバタしているという事実」が彼女を生かしてくれているという事実は重要でしょう。
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「ピート」という夫との関わり
さて、彼女には夫がいます。そう聞くと、「発症する前に結婚していたのだろう」と想像したくなるかもしれませんが、そうではありません。彼女が光過敏性を発症し、重症化した後で結婚しているのです。
本書には、「ピートが何をどう感じているのか」に関する記述はあまりありません。それはそうでしょう。彼女が「どう思ってる?」と尋ねてもなかなか本心を聞き出せないでしょうし、本心だとしても信じられないということもあると思います。
一方、彼女のピートに対する想いは様々な場面で記述され、読者はそれらに触れる度、胸が締め付けられるでしょう。
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彼女はピートのことを人として好きだし尊敬しています。ただ彼女は様々なことをピートに頼らないと生活が成り立たず、その上、ピートに対して何もしてあげられないことに無力感を抱いてしまうことになるのです。
わたしは自分の良心を呼び覚まそうと、何度もこぶしで叩いて、答えを求める。子供も産めず、公の場に一緒に出向くこともかなわず、居心地のいい家庭も作れないわたし。なのに居座って、別れる努力もせず責任も取らず、こんな素敵な人を独り占めしている――わたしは間違っているのか。
彼女は、ピートという素晴らしい男性を「自分なんか」のために独占してしまっていいのか、と葛藤し続けます。本当に、彼女のこの葛藤には、心が苦しくなるでしょう。一緒にいたいと思う存在であり、生活の大部分を頼り切りになってしまってもいるのに、自分は何もしてあげられない、という苦しみは、置かれている状況は違っても、多くの人が共感できるのではないかと思います。
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そもそも「誰かに何かをしてもらう」っていうのが得意じゃないから、自分だったらメチャクチャ辛い
でも、頼らないと生存そのものが不可能だから頼らざるを得ないよね
本書の中で、一番胸が締め付けられた場面が、結婚式直前の出来事です。
結婚式の二週間前になっても、わたしの体調はたいしてよくならない。ピートとわたしは相談する。今度もまた結婚式を取り止めるのか、それともこのまま突き進むのか。
結局、実施すると決断する。リビングルームでわたしは立った姿勢でおもむろに、ピートに向かって自分の気持ちをはっきりと伝える。彼が目をそらさないように腕をしっかり捕まえて、彼の目を覗き込みながら。「もし、結婚式の後、わたしの体調が改善しない場合、あなたがわたしと離婚したいと考えるなら、その意思をわたしは尊重します」
「結婚」という。、多くの人にとって「幸せ」と直結するだろう出来事を前に、これほど悲しい宣言をしなければならないとは、あまりに辛いでしょう。でも確かに、彼女としては、こう伝えずには「結婚」という領域に足を踏み入れられなかっただろうし、それも理解できるつもりです。
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この後の文章はこう続きます。
「わかった」と彼は答える。「でも、そうならないことを希望しようね」
私は正直、ピートも相当凄いな、と感じました。自分だったら同じ状況で、ピートのようには決断できないと思ってしまいます。
本当になんというのか、彼女とピートの人生が、どんな手段であってもいいから穏やかで、ちょっとでも楽しいものであってほしいと強く願うところです。
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著:アンナ リンジー, 原著:Lyndsey,Anna, 翻訳:由美子, 真田
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最後に
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最後に、「長いこと暗闇の中で生活すること」による、なかなか想像が及ばない変化について触れた文章を引用して終わろうと思います。
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栄養失調になると、体が飢餓状態になる。すると最初に、蓄えていたものが消費される。体に蓄積していた脂肪がエネルギーとして使われる。脂肪も残り少なくなると、次に、もっと体の基となる組織が蝕まれることになる。筋肉が細る。体の働きや機能が衰える。皮膚が乾いてかさかさになる。感染症にかかりやすくなり、なかなか治らない。心臓の脈が不規則になる。体温が下がる。
肉体がみずからの肉体を食い物にする。
肉体と同じことが、精神にもいえる。毎日生き生きした経験を味わうことができなくなると、最初、心は蓄えていたものを消費する。しばらくの間は、一見正常に機能しているふうだが、幾重にも積み重ねた経験の豊かな蓄積から、しばらくの間は、会話の話題が引き出されているのだ。
ところが、徐々に蓄えが減っていく。わたしはその兆候に気づき始める。以前話したことをまた話す(中略)
徐々に記憶の蓄積が先細りしていくと、奇妙な混乱が起きる。たった一つのことを思い出しただけなのに、整理されてしまわれていた記憶が荷崩れを起こし、長い間考えてみたこともなかった出来事や人物のことがふと思い出され、それが昼となく、夢のなかとなく脳裏に現れる
望まずに「人間の限界」に直面させられている女性の壮絶な生き様を想像してみてください。
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私は、大学を中退し、就職活動から逃げ、今も将来に期待せず生きています。誰もが、「人生疲れたな」「もう限界だな」「頑張りたくないな」と感じる瞬間はあるでしょう。誰…
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