目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:ジェレミー・セオボルド, 出演:アレックス・ハウ, 出演:ルーシー・ラッセル, 出演:ジョン・ノーラン, 監督:クリストファー・ノーラン, Writer:クリストファー・ノーラン
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 上映時間70分の内、最初の50分ぐらいは「ストーリーがさっぱり理解できない」と思いながら観ていた
- ある瞬間に突然、「なるほど、そういうことなのか!」と一気に状況が把握できたことに驚かされた
- 金も役者も時間も制約だらけだったにも拘らず、「脚本」を徹底的に突き詰めて傑作に仕立て上げた手腕に圧倒される
時代のトップランナーであるフィルムメイカーの圧倒的なデビュー作を是非堪能してほしい
自己紹介記事
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とんでもない物語だった。これが最初に撮った映画だというのだから、クリストファー・ノーランはやはり別格の映画監督だなと思う。予算や役者などあらゆる要素に制約があっただろう条件下で、「脚本の面白さ」を突出させることによって類まれな傑作に仕上げた手腕に驚かされてしまった。
「『何が謎なのか』さえ分からない」という、凄まじい「分からなさ」
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さて、ここで言う「分からない」については、少し説明が必要だろう。
例えば一般的なミステリ作品の場合、「提示された謎自体は把握できたが、どう解決されるのかが理解できない」という状態であることが多いだろう。「謎」は分かるが、「解決」が分からないというわけだ。
しかし本作『フォロウィング』は違う。そもそもだが、「『何が謎なのか』さえ分からない」という感じだったのだ。いや、実はこれも正しい表現ではない。というのも、私は本作がどのようなジャンルの作品なのかを知らずに観たので、「そもそも『謎が存在するのかどうか』さえ分からない」という状態だったのだ。
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つまり、しばらくの間ずっと、「何を描こうとしているのか」がまるで理解できなかったのである。
本作の上映時間は70分だそうだ。だとすると私の体感的には、冒頭から50分間ぐらいはそのような「訳の分からない状態」が継続したように思う。もちろん、「各シーンで何が描かれているか」については把握できていたつもりだ。しかし本作は、時系列がとにかく凄まじくグチャグチャになっているので、シーン毎の状況が把握できても、全体像を捉えきれないのである。
しかも、これは私の記憶力の問題なのか、あるいは意図的な演出だったのか判断できないのだが、私は「ある登場人物」の認識がどうも上手く出来ておらず、そのせいで物語を捉えるのがさらに難しかったのだ。そしてそのような状態で50分間観続けたのである。正直、配信で観ていたら途中で消していたかもしれない。そう、「そういう判断が存在し得ない」という意味でも、私は映画館で映画を観るのが好きなのである。
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ある瞬間に、物語の全体像が一気に理解できた驚き
さて、凄いのはここからだ。世の中にはきっと、「最初から最後まで訳が分からなかった」みたいな物語もそれなりにはあるだろう。しかし本作はそうではない。「冒頭から50分間ぐらい、何を描こうとしているのかさっぱり理解できなかった」にも拘らず、ある場面で唐突に、「なるほど、そういうことか!」と一気に理解できたのである。
これには本当に驚かされた。その直前まで、「描かれてきた様々な断片がどう繋がって1つの物語になるのか」がまったく分かっていなかったのだ。しかしある瞬間に一気に晴れ渡り、物語全体を貫く1本の線が見えてきたのである。なかなかこんな経験をすることはないし、クリストファー・ノーランの脚本がとても緻密だったということなのだろうと思う。
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しかし、「物語全体を貫く1本の線」を捉えられはしたたものの、細部に渡る検証が出来ているとは言えないだろう。先述した通り、時系列がかなりグチャグチャに入れ替えられているので、「作中で描かれるすべての要素を時系列で並べるとどのような見え方になるのか」みたいに理解することは難しい。実はどこかに、大きな齟齬があったりする可能性もあるだろう。しかしそれでも、本作における「核心的な部分」は正しく捉えられていると思う。
そんなわけで私の印象では、「『謎』と『解決』がほぼ同時に現れた」という感じだった。それまで「謎」さえ捉えられなかったにも拘らず、その「謎」が理解できたと同時に「解決」も提示されたという感じだったのだ。同じような感覚をもたらす作品はちょっと思いつけないぐらい、実に奇妙な鑑賞体験だった。
さて、この点に触れると若干ネタバレになってしまうかもしれないが、あまりにも複雑な物語であり、初見では混乱すると思うので、鑑賞の補助になることを期待して書いてしまおう。実は、「謎」と同時に理解できる「解決」はフェイクなのである。この構成もとても上手かったなと思う。そして、その「フェイクの解決」以降は、「この物語は一体どう閉じるのだろうか?」という興味で観ていたのだが、「まさかそんな着地になるとは」という展開になっていくのである。最後の最後まで脚本の力に圧倒されてしまった。
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先ほども書いた通り、細部を含めた全体像については把握できていない。恐らくだが、精緻に検証すれば、物語のどこかに矛盾があったりするんじゃないかとも思う。しかしそうだとしても、本作の面白さが失われるわけではない。本作はとにかく、「『何が描かれているのか分からない』という状態でも観客を惹きつける力が強い」「複雑な物語なのに、観客をギリギリ置き去りにしない構成になっている」という点が実に見事で、最後までまったく飽きずに観れてしまった。
「ほぼ脚本のみ」という制約の下で生まれた傑作
さて、冒頭で触れた通り、本作はクリストファー・ノーランの初監督作品だ。公式HPには次のように書かれている。
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土曜日のみ撮影し、1年間で約4000ポンドを費やして『フォロウィング』を制作した。
https://www.following-2024.com/
本作が公開された1998年当時のレートは分からないが、私がこの記事を書いている時点では約80万円。『TENET』や『オッペンハイマー』などで数億ドルの制作費を使うクリストファー・ノーランとすれば、破格に安い予算と言えるだろう。
役者は大学時代の知り合いを起用したそうで、主要な役を演じた3人は皆「長編映画初出演」なのだそうだ。また、コップ役を演じた人物が映画に出演したのは本作のみとのことで、その後一般企業に就職したという。
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さて、私が何を言いたいのか理解できるだろうか? つまり、「金も役者も満足出来るような状況ではなかった」というわけだ。役者の演技がダメだったとは感じなかったが、どうしたって経験の無さは付きまとうだろうし、モノクロで撮影したのももしかしたら、「演技の粗が目立たないように」みたいな意図だったのかもしれない。「土曜日のみ撮影」というのも、何らかの事情から生まれた制約なのだろう。つまり、「制約だらけだった」というわけだ。
となると、クリストファー・ノーランが制約なく自由に扱えた要素はやはり「脚本」しかなかったと考えていいだろう。そしてそのような状況でクリストファー・ノーランは、凄まじい脚本を仕上げ、世界を驚かせたのである。そう、本作は低予算のデビュー作にも拘らず、ロッテルダム映画祭を始め多くの賞を受賞しているのだ。天才はやはり最初から天才なのである。
さて、「脚本のみで魅力的な映画を作る」という意味で、本作を観ながら濱口竜介のことが浮かんだ。専門学校の企画で作られた映画『親密さ』が、本作『フォロウィング』と同様、ほぼ「脚本のみ」と言っていい作品なのである。その後世界的な映画監督になったという事実も含め、両者にはどことなく似たところがあるように思う。やはり私には、「圧倒的に魅力的な脚本を生み出せる」という点が何よりも凄いと感じられるのだ。
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鑑賞前に理解しておいた方が良いかもしれないこと
この記事では内容の紹介はしない。しないというか、出来ないと言った方が正しいだろうか。時系列が複雑であることや、迂闊に書くとネタバレになりそうなことなどを考え合わせると、内容紹介は避けておいた方がいいように思う。
ただ、初見では面食らうと思うので、私が考える「鑑賞上の注意」をまとめておくことにしよう。鑑賞前に読んでおくと、あまり混乱せずに物語が把握できるのではないかと思う。
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- メインの登場人物は3人で、それ以外の人物にはほぼ注目する必要がない
- 映し出される映像は基本的に、「ビルが刑事に話している証言内容」だと捉えておくと分かりやすいだろう。「ビルがその場にいないシーン」もあるが、それらについては、「ビルが誰かから聞いた話」か「ビルの想像」と解釈するのが良いと思う
- 時系列がグチャグチャなので、「提示された時点では意味が分からないシーン」が必然的に多くなる。なので、「理解できないシーン」があっても「後で分かるはず」と考え、あまり気にしすぎないようにするのが良いだろう
- 複雑な物語を追いやすくするためだろう、「断片同士の繋がりを示唆する要素」が作中で度々提示される。なので、それらを取りこぼさないように頑張れば、置いていかれることはないはずだ。よく分からなかった描写もあるが、大体分かりやすく提示してくれるので、観ていれば分かると思う
さて、本作を理解する上で最も障害になるのが、先程触れた「ビルがいないシーンは『伝聞』か『想像』」という点だろう。冒頭の時点で、「この物語は、ビルの証言内容を映像化している」と示唆されるのだが、観客に物語として提示するためには、どうしても「ビルの推測」みたいなものが混じることになる。ビルが関わらないシーンは決して多くはないものの、「ビルが知り得ない状況で何が行われていたのか」は全体を把握する上で非常に重要だ。そしてそれ故に、「結局真相は分からないまま」という感覚にもなってしまった。
ただしそれは、あくまでも「物語を厳密に捉えようとした場合」の話であり、普通に鑑賞する分には特に障害にはならないだろう。とはいえ、「映像で提示されたことが真実とは限らない」という要素が含まれることによって、真相の把握のために考えるべきことがさらに増えるわけで、考察しがいのある作品とも言えるのではないかと思う。
そんなわけで、とにかく「脚本」に圧倒させられる物語だった。
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最後に
クリストファー・ノーランのその後の活躍については私が書くまでもないだろう。しかし本作を観て、「CGを使わない」「高額な制作費を集める」といった特異さ以前に、「そもそも圧倒的な脚本力がある」ということがよく理解できたし、なるべくして映画監督になった人物なのだなと改めて感じさせられた。ホント天才だと思う、クリストファー・ノーラン。
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映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)は、稲垣吾郎演じる主人公・市川茂巳が素晴らしかった。一般的には、彼の葛藤はまったく共感されないし、私もそのことは理解している。ただ私は、とにかく市川茂巳にもの凄く共感してしまった。「誰かを好きになること」に迷うすべての人に観てほしい
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専門学校の卒業制作として濱口竜介が撮った映画『親密さ』は、2時間10分の劇中劇を組み込んだ意欲作。「映像」でありながら「言葉の力」が前面に押し出される作品で、映画や劇中劇の随所で放たれる「言葉」に圧倒される。4時間と非常に長いが、観て良かった
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「映画」というメディアを構成する要素は多々あるはずだが、濱口竜介監督作『偶然と想像』は、「脚本」と「役者」だけで狂気・感動・爆笑を生み出してしまう驚異の作品だ。まったく異なる3話オムニバス作品で、どの話も「ずっと観ていられる」と感じるほど素敵だった
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村上春樹の短編小説を原作にした映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)は、村上春樹の小説の雰囲気に似た「自然な不自然さ」を醸し出す。「不自然」でしかない世界をいかにして「自然」に見せているのか、そして「自然な不自然さ」は作品全体にどんな影響を与えているのか
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どんな理由があれ、法を犯した者は罰せられるべきだと思っている。しかしそれは、善悪の判断とは関係ない。映画『万引き家族』(是枝裕和監督)から、「国民の気分」によって「善悪」が決まる社会の是非と、「善悪の判断を保留する勇気」を持つ生き方について考える
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