目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:ジョン・ボイエガ, 出演:ウィル・ポールター, 出演:ジャック・レイナー, 出演:アンソニー・マッキー, Writer:マーク・ボール, 監督:キャスリン・ビグロー
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「憲法は、国民が国家を制約するものなのだ」と、大人になってようやく理解した
- 職務を全うしなければならないという責任感が悪事を生む可能性もある
- 「銃の所持」も「権力による不正義」を引き起こしやすくする要因だろう
「Black Lives Matter」のことを考えれば、50年前の出来事だからといって安心はできない
自己紹介記事
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『デトロイト』は、50年以上前にアメリカで起こった実際の事件をモチーフにした映画だ。しかし、「白人が黒人を虐げる」という現実は、今もなお残っている。
決して過去の話ではない。
映画の最後に、こんな内容の字幕が表示された。
この事件の真相は解明されないままだった。
この映画は、当時の記録と当事者の証言から作られている。
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つまり、この映画での描写が正しいかどうか分からない、ということだ。真相解明がなされなかったのだから仕方ないだろう。
途中経過がどうだったとしても、悲劇的な結末が変わるわけではない。実際に起こったかどうかよりも、この映画で描かれていることは「起こり得た」し「起こり得る」のだと捉えることに意味があると思う。
権力が「正義」を蔑ろにしたら、誰も太刀打ちできない
「憲法」の存在意義について、以前の私は大いに勘違いしていた。何となく「法律よりも上位に位置するもの」程度の認識しかしていなかったのだ。その理解は決して間違いなわけではないが、本質的な理解ではない。
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「憲法」とは、国民が国家を制約するものだ。学生時代にきっと習う知識なのだろうが、忘れていたか、特に重要だと思わずにいたのだろう。
「法律」は、国家が国民を制約するものだ。そして反対に「憲法」は、国民が国家を制約する。つまり「憲法」は、「国民が作り、国家に守らせるもの」というわけだ。そしてそれが「法律」よりも上位に存在する。これを「立憲主義」という。
大人になってからこの事実を知った時には驚かされた。そうか、「憲法」はむしろ我々にとっての武器のだったのか、と。
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そして、確かにそうでなければならない、と映画を観て改めて感じた。
国家権力は、様々な形で国民を制約する。例えば国家は、国民から「暴力」を奪う。そしてその代わりに、警察権力が暴力に対抗したり、あるいは死刑という暴力によって犯罪者を処罰する。
立憲主義的には、「我々は国家権力に『憲法』という制約を課す。だから、我々の権利が制約されることも許容する」という理屈のはずだ。
このようにして、「権力」の横暴を抑え込むのである。
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そうしなければならない理由は明白だ。「権力」があまりにも強大な力を持つからである。「憲法」が課した制約を無視して権力が行使されるなら、国民は為す術もない。
近畿財務局の職員だった赤木俊夫さんが自殺した事件の衝撃は今も残っている。先日、国が全額賠償金を支払うと決め、真相が解明されないまま裁判が終結してしまった。まさに、強大な「権力」が1人の人間をいともたやすく殺してしまった事件だ。
以前観た映画『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』では、東京オリンピック開催を名目に都営アパートの解体が決まり、住民が追い出される様が映し出された。権力が、その強大な力を行使して個人をなぎ倒すことは、身近にも起こりうる。
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そういう状況に置かれた時、私たちはどんな風に行動できるものだろうか?
自分が置かれている役割に人格を寄せてしまう可能性
ねつ造疑惑が持ち上がっており、心理学実験としての真偽には疑問符が付くのだが、とにかく非常に有名な「スタンフォード監獄実験」をご存知だろうか。学生を「看守役」と「囚人役」に分けで演技をさせると、看守という役柄にひきずられ、「看守役」の性格がどんどん邪悪なものに変わっていく、というものだ。
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この実験の真偽はともかく、「自分の役割を全うしなければならないという気持ちから、悪逆な行為をしてしまう」という状態はあり得ると思っている。
実際のデモ映像や、過去に起こった革命を元にした映画を観る度に、「軍や警察側に立つ者の気持ち」について考えてしまう。例えば、「Black Lives Matter」を合言葉にアメリカでデモが広がった際にも、当然デモを鎮圧するために警察官が派遣される。しかしその警察官の中にも、デモ隊と心を同じくする者がいたのではないかと思う。それでも彼らは、「警察官」という職務を全うしなければならない。だとすれば、自分の行為を正当化するために「デモをする側が悪い」と意識的に考え、職務遂行への抵抗感を減らそうとする者もいるのではないかと思う。
そしてこのように考えることで、「権力を持っているがゆえに、悪事を起こしてしまう」と捉えることも可能になる。何を「正義」と考えるかは人それぞれだが、権力側に立つと決めた者は、「権力側が考える正義」に従わなければならなくなってしまう。「権力側が考える正義」が自分の信じる「正義」と異なる場合、職務を全うするために仕方なく「権力側が考える正義」を優先しなければならないと考えるだろうし、その過程において、まったく望んでいない行動を取らざるを得ないこともあるだろう。
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この映画に登場するクラウスという白人警官は、映画を観る限りにおいては「あまりに異常」であり、私がここまでで書いたような議論にそぐうような存在では決してない。しかし一方で、「クラウスは異常者だった」と捉えるだけでは、過去の教訓を活かす機会を失ってしまう。
「権力」を持てば誰もがクラウスのようになってしまい得る。そんな自覚を持って生きなければ、いずれ自分が「権力の行使によって誰かを傷つける側」になってしまうかもしれないというわけだ。
映画『デトロイト』の内容紹介
1967年7月23日、デトロイト市で史上稀に見る大規模な暴動が起こった。
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そのきっかけになったのは、警察による取り締まりだ。低所得者が住む地域にある違法酒場にデトロイト市警が踏み込み、経営者が酒取扱許可書を持っていなかったことを理由に検挙した。これに地域住民である黒人たちが一斉に反発。火炎瓶を投げたり略奪を繰り返すなどして、デトロイト市は壊滅的な状態に陥っていく。
暴動発生から3日目、アルジュ・モーテルで事件が起こる。その日モーテルには、黒人バンドグループのメンバーと2人の白人女性、そしてその白人女性がモーテルで知り合った黒人たちがいた。
黒人の1人が、未だ暴動を警戒して配備されている市警や州兵をちょっと驚かせてやろうと、陸上競技のスタート用のピストルを発砲した。本人としてはお遊びのつもりだったが、市警はすぐに反応しモーテルを取り囲んだ。そして銃を持って中へと突入し、逃げようとした黒人1人を射殺したのだ。
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その後も市警の1人は、モーテル内にいた全員を壁に向かって立たせ、「銃の在り処を吐かなければ殺す」と脅しながら、白人女性を含めた面々を痛めつけていく。
そのモーテルの向かいには、警備の仕事に就いていた黒人のディスミュークスがいた。彼は、モーテルで何か騒ぎが起こっているようだと気付いて中に入り、デトロイト市警の横暴を目にする。しかし彼は、白人警官を敵に回せばこの街で生きてはいけないと嫌というほど理解していた。狂気渦巻くこのモーテルの状況を、なんとか最小限の被害で食い止める方法はないものか思案するが……。
映画『デトロイト』の感想
今の時代にこんなことは起こらない……と思いたいがそうもいかないだろう。「Black Lives Matter」のきっかけとなった、白人警官が黒人の首を押さえつけて窒息させる映像はあまりにも衝撃で、私には映画の世界との違いが分からない。カメラで撮影される状況だと分かっていてあの行為を行う白人警官が現在でもいるのだ。同じような事件は必ずまた起こるだろう。
映画を観ながら様々なことを考えたが、「あの場に自分がいたら、クラウスを止められただろうか?」という葛藤もその1つだ。
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ディスミュークスは立場の弱い「黒人」なので、クラウスを止められなかったのは仕方ないと思う。ではもし、自分がクラウスと同じ白人で、ディスミュークスのように外からその騒ぎを察知してモーテルの中に入った人物だとしたら、クラウスを止めることができるだろうか?
無理だろうな、と思う。私は、不合理や不正義に対しては非常に腹が立つので、クラウスのような存在をまったく許容できないし、怒りしか感じない。しかしそれでも、止められるかどうかとなると話は別だ。やはり、権力を持つ者のタガが外れてしまえば、市民には手の打ちようがないだろう。
また、銃社会の恐ろしさを改めて実感させられもした。この映画では、銃を所持しているのは警察官だが、アメリカでは誰もが銃を所持できるのだから、警察官でなくても同じ状況を引き起こせてしまう。
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そんな可能性を想定しながら生きなければならない生活は、なかなか辛いだろう。
アメリカでは開拓時代から、「自分の身は自分で守る権利がある」「自分の身を守るために銃を持つ」という考えが当然のこととして捉えられている。もちろん、すべてのアメリカ国民が銃を許容しているわけではないだろう。学校での銃乱射事件など凶悪犯罪も定期的に起こるし、銃など無い社会の方がいいと考える人もきっと多いはずだ。
この記事の内容に沿った主張をするなら、「銃を持つこと」はある種の「権力」だと言える。「自己防衛」のつもりで所持し始めても、他人の生殺与奪の権利を有しているという感覚は人間に「権力」的な思考を植え付けるだろうし、それは「権力による不正義」をより身近なものにすると言っていいと思う。
銃が規制されればすべて解決、なんてことはもちろんない。そもそもの問題は「人種差別」なのだし、異なる者同士がどのように共存していくかを考えなければ進展などしないはずだ。人種だけではなく、貧富や思想など様々な理由で「分断」が加速している現代だからこそ、改めて「共存」のための議論を進めなければならないと感じさせられた。
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出演:ジョン・ボイエガ, 出演:ウィル・ポールター, 出演:ジャック・レイナー, 出演:アンソニー・マッキー, Writer:マーク・ボール, 監督:キャスリン・ビグロー
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「立憲主義」というのは、国家を制約するものとして「憲法」を据え、その「憲法」は我々国民が作るという仕組みのことを指す。我々には、国家権力が「憲法」を遵守しているのか監視する責務があるというわけだ。
我々自身が穏やかさを感じられる社会で生きるためにも、その「監視」を怠ってはいけないのだと感じさせられた。
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【実話】ソ連の衝撃の事実を隠蔽する記者と暴く記者。映画『赤い闇』が描くジャーナリズムの役割と実態
ソ連の「闇」を暴いた名もなき記者の実話を描いた映画『赤い闇』は、「メディアの存在意義」と「メディアとの接し方」を問いかける作品だ。「真実」を届ける「社会の公器」であるべきメディアは、容易に腐敗し得る。情報の受け手である私たちの意識も改めなければならない
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地方紙である「ボストン・グローブ紙」は、数多くの神父が長年に渡り子どもに対して性的虐待を行い、その事実を教会全体で隠蔽していたという衝撃の事実を明らかにした。彼らの奮闘の実話を映画化した『スポットライト』から、「権力の監視」の重要性を改めて理解する
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たった30年前の韓国で、これほど恐ろしい出来事が起こっていたとは。「正義の実現」のために苛烈な「スパイ狩り」を行う秘密警察の横暴をきっかけに民主化運動が激化し、独裁政権が打倒された史実を描く『1987、ある闘いの真実』から、「正義」について考える
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『八月十五日に吹く風』は小説だが、史実を基にした作品だ。本作では、「終戦直前に原爆を落としながら、なぜ比較的平穏な占領政策を行ったか?」の疑問が解き明かされる。『源氏物語』との出会いで日本を愛するようになった「ロナルド・リーン(仮名)」の知られざる奮闘を知る
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「北九州連続監禁殺人事件」という、マスコミも報道規制するほどの残虐事件。その「主犯の息子」として生きざるを得なかった男の壮絶な人生。「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーが『人殺しの息子と呼ばれて』で改めて取り上げた「真摯な男」の生き様と覚悟
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国家・政治・制度・地方【本・映画の感想】 | ルシルナ
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