目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 「原発は耐震性に問題があるから稼働は認められない」という実にシンプルな主張をする「樋口理論」
- 1970年代から原発裁判を手掛けてきながらずっと負け続けだった理由と、裁判での「電力会社の常軌を逸した主張」
- 「農地の上にソーラーパネルを設置する」という革命的なアイデアが日本の農家に広まり始めている現状
電気は誰にとっても重要で、すべての国民が関心を持つべき事柄だ。そして本作は、そのきっかけを与えてくれる作品なのである
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
原発の安全性は、元裁判長・樋口英明の理論でシンプルに理解できる。映画『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』が描き出す「原発の課題」とは?
非常に興味深い作品だった。とにかく本作には、私がこれまでまったく知らなかった知識が満載で、さらにそれらは「日本に生きているすべての人が知っておくべき現実」であるとも言えるだろう。何故これまで、本作で示されているような知識に触れる機会がなかったのかとても不思議なのだが、恐らくそれは日本に住む多くの人にとって同じだろうと思う。なので、機会があれば是非観てほしい作品だ。
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さて、内容に触れる前にいくつか書いておこう。まず、本作『原発をとめた裁判長 そして原発をとめる農家たち』には様々な人が出演しているが、私は彼らの関係者ではない。また、本作はクラウドファンディングによって資金を集めたようだが、私はそちらにも関わっておらず、完全に一般の観客としてこの作品を観たのである。この記事の信憑性を担保する上でこの点は重要だと思うので、触れておくことにした。
また、本作はタイトルの通り「原発を止める活動を行う者たち」を映し出す作品だが、私自身はどのような形であれそのような活動には関わっていない。私は、気分的には「原発反対」の立場だし、再生可能エネルギーなどに転換すべきだと考えているのだが、本作に登場する人たちのように、それが行動となって表に出ることはなかなかないというわけだ。ただ原発に関しては、東日本大震災以降関心を抱くようになったので、本や映画などで多少は触れてはきた。しかしそんな人間でも、本作で描かれる事実についてはまったく知らなかったのだ。そのように考えると、日本に住む多くの人が私と同様、「本作で提示される知識を知らない」と考えるのが妥当だろう。
そしてそのような状況は、とても良くないと私は思っている。
「原発」を相手取った裁判を起こすことの難しさと、画期的だった「樋口理論」
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本作においてメインで映し出されるのは、樋口英明という人物。彼は福井地方裁判所の裁判長だったが、映画製作時点では退官している。そんな彼が世間の注目を集めたのは、2014年5月21日に出された原発裁判における判決だった。彼はなんと、福井県の大飯原発に対して運転差し止めを命じる判決を下したのだ。これは当時、かなり画期的な判決だったという。しかし私は、「原発の運転差し止め」のニュースは目にしたような気もするが、その判決を下した裁判長の名前までは覚えていなかったし、注目もしていなかった。
さて、そんな人物をメインに映し出す映画ともなれば、多くの人は「国策である原発にNOを突きつけた凄い裁判長を追う作品」だと感じるかもしれない。確かにそのような要素もなくはないのだが、本作はとにかく、「樋口英明はどのような理屈で原発の運転差し止めという判断を下したのか」という説明が詳細に語られる作品なのだ。本作ではその理屈を「樋口理論」と名付けて紹介している。
そして、この「樋口理論」がとにかく明快で分かりやすい。「画期的」と評されるのも納得である。原発裁判で原告の弁護士代表を務めることが多い、「逆襲弁護士」としても有名な河合弘之は、樋口英明の判決を「脱原発のバイブルになり得るほど質が高い」と高く評価していた。
というわけでこの記事では、この「樋口理論」を詳しく見ていこうと思う。しかしその前にまず、日本における「原発裁判の困難さ」に触れておくことにしよう。
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河合弘之ら日本中の弁護士は、実は1970年代から原発裁判を手掛けてきたのだが、ずっと負け続けていたのだという。理由は色々あるとは思うが、その1つに「争点が『高度な科学理論』になってしまうこと」が挙げられる。結局のところ「安全性」が争点になるわけだが、その点に関して電力会社が、裁判官もうんざりするような難解な資料を提出するのだ。この点に関係して、作中では「裁判官の三重苦」が紹介されていた。
- 文系出身ばかり
- 異動が多いため、同じ裁判所に3年しかいない
- とにかく超多忙
このため、「高度な科学理論」が争点になる裁判を、裁判官は諦めてしまうというのである。
この点については、裁判官の感覚にも言及されていた。河合弘之が、ある原発裁判で出された判決文について説明するのだが、その後で、「分かりやすく言うとこうなる」と次のようにシンプルに要約していたのだ。
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原子力規制委員会の判断が出てしまえば、裁判官にはその判断は覆せませんよ。
判決文にこんな直截な表現が書かれていたわけではないが、「裁判官の判決文は要するにそういうことを言っている」と河合弘之は説明していたのである。また、このシーンで監督は「当たった裁判官が悪かった?」と聞くのだが、それに対して河合弘之が「ぶっちゃけそうですね」と返していたのも印象的だった。つまり、「まともな裁判官に当たれば勝てる」という感触を持っていたというわけだ。それにしても、そんなお粗末な判決文を出してしまう裁判官が存在するとは驚きである。
いずれにせよ、原発裁判には「難しい話」が出てきてしまうため、「裁判官は理解できないし、弁護士は追及しきれないし、判決が出たところで国民も関心が持てない」みたいな状況に陥ってしまうというわけだ。当然のことながら、電力会社がそのような状況を望んで意識的に誘導していると見るべきだろう。
そしてそのような状況の中で「樋口理論」が現れたのである。そりゃあ「画期的」と評価されるのも当然だろう。作中で樋口英明は、次のように語っていた。
原発が国策であることは間違いないのだから、高校生でも理解できる理屈で闘わなければ国の決定を動かせない。
原発裁判は、実に”まともな”裁判官に出会えたと考えるべきだろう。
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建物の安全性に関わる「地震の規模を表す『ガル』」と、それを基に組み上げられたシンプルな「樋口理論」
さて、それではまず、「樋口理論」の要諦に触れておこう。簡潔に記せば、「原発は耐震性に問題がある」となる。実にシンプルな話だろう。
そして、この点を理解してもらうために必要な要素として、地震の規模を示す3つの指標について触れることにしよう。「マグニチュード」「震度」、そして「ガル」である。「マグニチュード」と「震度」の2つは馴染み深いだろうが、「ガル」については本作で始めてその存在を知った。「ガル」というのは「地震の振動の激しさ」を表す単位であり、建物の耐震性を考える際には最も重視される指標なのだそうだ。当然、「基準地震動」と呼ばれる「原発の耐震性を示す安全基準」も、この「ガル」を基に算出されている。
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映画では、「東日本大震災以前時点での、日本の原発の基準地震動」がまとまったグラフが表示されたのだが、その値は概ね600~1200ガルであった。つまり、「600~1200ガルまでの震動には耐えられる設計である」ことを示しているのだ。さて問題は、「この程度の耐震性で果たして十分なのか?」という点だろう。もっと言えば、「1200ガル以上の震動をもたらす地震は起こってこなかったのか?」である。
樋口英明が担当した大飯原発の裁判においてはなんと、「2000年以降だけで、基準地震動を超える地震が30回以上も発生した」ことが示された。これだけでも十分驚きではないかと思う。また、「日本の主な地震でどれぐらいのガルが観測されたのか」という数値が、先の基準地震動の表に重ねる形で示されもした。それによると、700~2000ガル程度の地震は普通に起きているし、東日本大震災では2933ガルが記録されたそうだ。ちなみに、福島第一原発の基準地震動は600ガルである。東日本大震災の震動に耐えられないのは当然のこと、日本でよく起こる程度の地震にも耐えられる設計ではなかったというわけだ。
さてそうなれば、「原発差し止めの判断」も理解しやすくなるだろう。つまり、「日本でよく起こる程度の地震にも耐えられない設計なのだから、稼働は認められない」というわけだ。これが「樋口理論」の骨子である。ムチャクチャ分かりやすいだろう。
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しかし、「そもそもそんな設計でいいのか?」と思わないだろうか? 「原発なんだから、もっと頑丈に作れよ」と感じるのは当然だと思う。制作側も恐らく、観客がそのような疑問抱くと想定していたのだろう。本作では、「住宅メーカーが示した一般住宅の基準地震動」の数字もまとめられていた。住友不動産は3406ガル、三井ホームは5115ガルまでの震動に耐えられる設計だという。一般住宅が5115ガルまで耐えられて、原発が600~1200ガルしか耐えられないというのは、普通に考えておかしいだろう。
その疑問はすぐに解消される。実は原発の基準地震動は、「配管・配電の耐震性」で算出されるのだ。要するに、「1200ガルの震動がきたら、配管・配電が壊れるかもしれない」ということである。
そのため電力会社は裁判で、「原子炉や格納容器の基準地震動はもっと高いから安全だ」みたいな主張をするのだそうだ。しかし樋口英明はそのような主張を一刀両断する。何故なら、福島第一原発事故は「電源の供給が絶たれたこと」によって起こったからだ。
福島第一原発では確かに、水蒸気爆発によって建屋が吹き飛びはしたものの、原子炉や格納容器は破損しなかった。実はここには、後で触れる通り、「耐震性が十分だったから」というだけではない理由があるのだが、一旦それは置いておこう。とにかく事実として原子炉や格納容器は壊れなかった。ただ、電源の供給が絶たれ冷却出来ない状況に陥ったことによって、私たちが知るような「破滅的な被害」が生まれたのである。
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そのため樋口英明は、「原子炉や格納容器がどれだけ高い耐震性を有していようとも、配管・配電に耐震上の脆弱性が存在するなら稼働は許可出来ない」と判断したというわけだ。これは私にはとても真っ当な判断であるように感じられた。
電力会社による「信じがたい主張」
本作には、樋口英明が全国で行っている講演の様子や、本作監督のにインタビューに答えている様子なども映し出される。そして彼はその中で、「裁判上で電力会社がどのような主張をしてくるのか」について説明していた。
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誰が聞いたっておかしな話は、「原発は老朽化すればするほど耐震性が上がる」という主張だろう。というのも全国の原発は、福島第一原発後に基準地震動を高く設定した。これは要するに「より震動の大きな地震にも耐えられる」と主張していることになる。恐らく、原子力規制委員会の審査を通すためだろう。建造物というのは普通、「老朽化するにつれて基準地震動は低くなる」はずなので、これは実に奇妙な話と言える。
樋口英明は自身が担当した裁判において、「耐震性を上げるためにどのような工事を行いましたか?」と電力会社側に質問したという。それに対して、「パイプの支えを増やしました」という返答が返ってきたそうだ。樋口英明は、私が観た上映回後に行われたトークイベントにも参加していたのだが、その中で「そんなこと、建設する時点でやっとけよって感じですよね」と話していた。本当にその通りだと思う。
しかも、「基準地震動を上げる」というのは、テストなどを行った上での判断ではない。コンピュータシミュレーションの結果から「耐震性が上がった」と判断しているようなのだ。もちろん、実際の建物を使った耐震テストなど行えるはずもないので、ある程度は仕方ないのだろうが、「原発」というあまりにも危険なものを扱う上で、そのようなやり方だけでいいのだろうかとも感じてしまった。
また電力会社は、「基準地震動は基本的に地下の固い岩盤を基準にしているため、地上に存在する原発に影響はない」とも主張するそうだ。これはもう少し分かりやすく説明しておこう。まず原発というのは基本的に、固い岩盤層に直接建てられているのだという。そして電力会社は、「たとえ地上が大きく揺れても、固い岩盤層の揺れは小さいはず」「揺れが小さいはずの岩盤層を基準に原発の基準地震動は策定されているのだから、安全性に問題はない」と主張するのだ。
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しかし、電力会社の主張を覆すデータが存在する。例えば新潟中越地震の場合、地上では最大1018ガルの揺れが記録された一方で、その下の岩盤層では1699ガルに達していたというのだ。また東日本大震災においても、地上よりも岩盤層の揺れの方が大きかったというデータがある。つまり、「岩盤層の揺れの方が小さい」という電力会社の主張は成り立たないのだ。
さらに驚くような主張も紹介されていた。近年、「南海トラフ巨大地震」の話題に触れる機会が多いのではないかと思う。今後30年間に発生する確率が70%とも言われる超巨大地震のことだ。
そんな南海トラフ巨大地震が懸念される愛媛県に伊方原発がある。そして2021年に、この伊方原発の運転差し止めを求める裁判が行われ、地裁では原告側が敗訴してしまった。その裁判において被告側だった四国電力は、「仮に伊方原発直下を震源に南海トラフ巨大地震が発生したとしても、181ガルしか発生しない」と主張したのだという。そしてこの主張を基に、原子力規制委員会は稼働の許可を与えたというのだ。
しかし、そんなわけがない。これまでの記録では、地上での被害がほとんど発生しないような地震でも700ガル程度が記録されたこともあるし、東日本大震災では先述した通り2933ガルだった。にも拘らず、尋常ではない規模と目されている南海トラフ巨大地震では、たとえ伊方原発直下が震源でも最大181ガルだというのである。何を言っているのかさっぱり分からない。
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また、樋口英明が担当した裁判では、電力会社が「700ガル以上の揺れをもたらす地震は起こりません」と主張したそうだ。もはやイカれてるとしか思えないだろう。「なりふり構わない主張」をするのは裁判だからまあいいとしても、「理屈に合わない主張」だけは止めてほしいものである。あまりにも見苦しくて見ていられない。
「ガル」を判断基準にした耐震性の問題は、何故それまで争点にならなかったのか?
しかし、不思議に思わないだろうか? 先述した通り日本の弁護士たちは、1970年代から原発裁判を手掛けてきたにも拘らず負け続けてきたのだ。確かに「樋口理論」は画期的だったかもしれないが、しかしその本質は「地震の揺れを表すガル」であり、「ガルを基準とした各原発の基準地震動」は昔から公表されていたのである。だったら何故、弁護士たちはこの点を争点にしなかったのだろうか?
映画を観ながらどうしてもこの点が気になったので、上映後のトークイベントの中で質問をしてみたところ、「なるほど」と感じる返答が返ってきた。樋口英明は、「700ガルという基準地震動が高いのか低いのか、誰にも分からなかった」と答えたのである。どういうことか分かるだろうか?
繰り返すが、昔から「それぞれの原発ごとの基準地震動」はデータとして公表されていた。しかし一方で、「地震発生時にどの程度のガルが記録されるのか」というデータは存在しなかったのである。もちろんそれは、ガルを記録する装置が設置されていなかったからだ。研究所など一部の場所には置かれていたのだが、いつどこで起こるか分からない地震に備えて全国的な測定を行う態勢は取られていなかったというのである。
私はそもそも、この事実に驚かされてしまった。何故なら、地震の際にどれぐらいのガルが発生するのか分からなければ、「この原発の基準地震動は◯◯ガル」などと示していても何の意味もないからだ。「原発の耐震性」がそのような曖昧な指標によって定められていたという事実に、まずはびっくりさせられた。
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ガルを測定するきっかけとなったのが、阪神淡路大震災だったという。阪神淡路大震災では、高速道路が倒壊している映像がとても印象的に記憶されていると思うが、実はあの場所から少し離れたところにガルの測定器が存在していたのである。そしてそこには700ガルと記録されていたため、地震研究に携わる人々は驚愕したのだという。そこが700ガルなら、倒壊した高速道路付近ではもっと高かったはずだからだ。それは、地震研究に携わる人々の想定を遥かに超えていたのだろう。
そのため、ガルを記録することの重要性が認識されるようになり、全国的に測定器の設置が始まっていったのだそうだ。そして2000年にようやく設置が完了した。先ほどこの記事の中で、「樋口英明の裁判において、『過去20年間で基準地震動を超える地震が30回以上発生した』というデータが示された」みたいなことを書いたが、これも測定器の設置によって明らかになった事実なのである。
それまでの裁判では、耐震性の話が「高度な科学理論」の議論に終止してしまっていた。地震の際にどれぐらいのガルが記録されるのか分からないのだから、あとは電力会社による「これこれこういう理屈で耐震性は十分です」という説明を鵜呑みにするしかなかったのである。しかし、地震時の実際のガルが記録されるようになったことで、「原発の耐震性の不十分さ」が文句のつけようのない形で明白になっていったのだ。「樋口理論」にはこのような「データの後押し」も重要だったのである。
河合弘之は「樋口理論」が提示されて以降の原発裁判も経験したことで「『樋口理論』に対する反論は出尽くしたはずなので、これからは自信を持ってひっくり返していける」と語っていた。そんな河合弘之にはもう1つ”武器”となる判決が存在する。2021年3月18日に水戸裁判所で出されたものだ。裁判長は判決の中で、「避難計画が不十分」という1点のみを理由に東海第二原子力発電所の運転差し止めを命じたのである。「耐震性」と「避難計画」を指摘するこの2つの判決によって、今後の原発裁判の趨勢が大きく変わっていくのではないかと感じられた。
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福島第一原発事故における「奇跡」
さて、本作で扱われる原発の話の中から、最後に「福島第一原発事故における『奇跡』」にも触れておくことにしよう。
福島第一原発事故後すぐに示された「最悪のシナリオ」は、「半径170km圏内は強制移転、半径250km圏内は任意移転」というものだった。任意移転の範囲は、福島第一原発を中心に横浜ぐらいまでが含まれる規模であり、もしこの「最悪のシナリオ」が実現してしまっていたら、東日本は「ほぼ壊滅」と言っていい状態だっただろうと思う。
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本作では、「そんな『最悪のシナリオ』を回避せしめた奇跡は10ぐらい存在し、そのどれか1つでも起こらなかったら東日本壊滅は免れなかっただろう」と語られていた。そして作中ではその奇跡の内の2つに触れられている。2号機と4号機の話だ。
2号機については、本作を観る以前から「奇跡的に爆発しなかった」と知っていたのだが、私の理解は「爆発しなかった理由は不明」というところで止まっていた。恐らく、その後の調査によって状況が明らかになったのだろう。
福島第一原発事故において2号機は、ウラン燃料が溶け落ちたことによって大爆発を起こす危険性があった。というか、そうなるのは確実と目されていたのである。しかしどうやら、原子炉のどこかに「弱い部分」が存在したようだ。あってはならないことであり、それが「設計ミス」なのか「経年劣化の見落とし」なのかは分からない。しかしいずれにせよ、その「弱い部分」から水蒸気が漏れ出ていたことで、奇跡的に大爆発せずに済んだのであるだ。「『何らかのミス』があったお陰で命拾いした」というわけだ。
そして同じような話は4号機にもある。事故当時4号機は点検中で、使用済み核燃料は上部のプールで冷却中だった(このプールの水が無くなると冷却が行えなくなり、大惨事が引き起こされる)。そして、このプールに隣接する原子炉ウェルと呼ばれる場所も点検中だったため、普段とは違って、事故当時は水が満たされていたのである。
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さて事故を受け、使用済み核燃料を冷却するプールの水はどんどん減っていった。普通であれば、大惨事が免れない状況だ。しかし、プールと原子炉ウェルの境となっていた仕切り板が”何故か”外れ、原子炉ウェルの水が”たまたま”プールに流れ込んだのである。そのため使用済み核燃料の冷却が継続され、爆発せずに済んだのだそうだ。「仕切り板が外れる」というのも通常起こってはいけない出来事なのだが、そのような”事故”のお陰で4号機も爆発しなかったのである。
このように、福島第一原発事故で被害が最小限に抑えられたのは、「通常であれば起こり得ない奇跡」が幾重にも重なったお陰でしかない。つまり逆に言えば、「東日本大震災では大丈夫だった」というのは、原発の安全性の主張において何の意味もないのである。この点は、多くの人が理解しておくべきポイントだと言えるだろう。
「ソーラーシェアリング」などの新たな発電方法の可能性
さて、この記事の最後に、本作のもう1つの柱である「農家発の新たな発電方法」についても触れておこう。本作で取り上げられているのは「ソーラーシェアリング」と呼ばれている手法である。
私は本作を観て初めて「ソーラーシェアリング」のことを知った。これは「営農型太陽光発電」とも呼ばれており、「農地に直接太陽光発電パネルを設置することで、『作農』と『売電』を両立させる」という仕組みである。文章ではなかなかイメージしにくいと思うので、以下にリンクを貼った農林水産省のHPを見てほしい。
これは、千葉県の長島彬という農家が発案したシステムで、原発事故で多大な被害を受けた福島県を中心に広がっているそうだ。このソーラーシェアリングに関しては、近藤恵という農家の事例が中心的に映し出されるのだが、本作では「東京ドームほどの面積の畑にソーラーパネルグを設置し、年間の売電額が1億2000万円に達する」と紹介されていたと思う。もちろん、これに加えて農業の収入もあるのだ。ビジネスとしてなかなか興味深いシステムではないだろうか。
正確には覚えていないが、彼の農地のソーラーパネルだけで確か、彼が住む二本松市の住宅の10%程度の電力を賄えるみたいな話だったと思う。また、別の地域の農家の話だったはずだが、「この辺りの農家が皆ソーラーシェアリングを導入すれば、原発何十基分もの発電能力が得られる」と語っていたのも印象的だった。
また本作には、日本に再生可能エネルギーを普及させる活動を行っている人物も登場する。彼は京都大学で原子力について学び、その後就職した神戸製鋼では「死の灰」の格納器の設計・製造を行っていたそうだ。そんな人物が、次のように話していた。
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このような話からも、再生可能エネルギーの可能性を感じられるのではないかと思う。私は本作を観るまで、「再生可能エネルギーは何だかんだで難しいのではないか」と考えていたのだが、どうもそうでもないようだ。
いずれにせよ、「農地の上に発電パネルを置く」という発想はとても見事だと感じた。というのも、当たり前の話だが、「作物が育つ農地」はそもそも「日当たりの良い場所」だからだ。さらに、「適度に日陰が出来ることで、植物の光合成の能力が高まる」という副次的な効果も得られたという。まさに一石二鳥である。
また、このソーラーシェアリングは、農地の少ない都市部では真似できない。この点を踏まえ、本作に登場する発案者・長島彬は「エネルギーの民主化」という言葉を使っていた。これまでは、「地方の土地で発電した電気を都市部に送る」というやり方がまかり通っていたわけだが、ソーラーシェアリングによって「地産地消」のような形が可能になってきたのである。これはある意味で「地方の逆襲」とも言えるだろう。そのような観点からもソーラーシェアリングには可能性を感じられるのではないかと思う。
しかし、「原発利権」という言葉が存在することからも分かるように、再生可能エネルギーの普及には様々な障壁が存在する。ソーラーシェアリングの場合も、「住民の合意形成」が最大のネックになるという。しかし、不幸中の幸いという言葉が適切と言えるのか分からないが、福島県は「原発事故」という最悪の状況を経験したからこそ、ソーラーシェアリングを普及させるための合意形成が進みやすいとも言えるのだそうだ。そうしなければ、先に進めないのである。そしてそうだとすると、ソーラーシェアリングをいち早く普及させた福島県が、「農業+売電」というモデルをリードする存在になる可能性も十分にあるだろう。
本作では発電の話だけではなく、福島県の農業の現状についても触れられている。事故後も農業を続けている者たちは、10年以上に渡る計測により、「仮に放射性物質が土壌に残っていても、それが作物から検出されることはない」というデータを蓄積してきた。この事実を正しく広めることが出来れば、福島県の農業も復活の兆しが見えてくるのではないかと思う。
そのような可能性を強く抱かせてくれる作品だった。
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最後に
私は東京に住んでいるし、東京で作られたわけではない電気をただ享受しているだけの人間だ。また、それまで「地方で作られた電気を消費している」という意識を持つことさえなく、東日本大震災を機にようやくそのような感覚を抱くようになった。そして、現状を知れば知るほど、電気を取り巻く様々な問題が見えてくる。電気は現代社会において必要不可欠なインフラだからこそ、誰にとっても無関心ではいられないはずだ。だからこそ、脱原発や再生可能エネルギーの普及などの現状については、国民全体で関心を持つべきだと思う。
そして本作は、そのような関心を高めるきっかけを与えてくれるし、日本の未来に対する期待を少しだけ抱かせてもくれる作品だと感じた。私自身に何が出来るわけでもないが、そのような活動をしている人たちの奮闘を、このような記事を通じて広めることが出来ていたら幸いである。
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