目次
はじめに
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この記事で伝えたいこと
「ホームレスの日常」から、「生活」に対する新たな視点を学べる1冊
私たちが「当たり前」だと思いこんでいることをあっさり飛び越えてくれる
この記事の3つの要点
- 「鈴木さん」というホームレスとの出会いが「0円ハウス」に着目するきっかけになった
- 「家の造り」に「自分の生活」を合わせるスタンスは本当に唯一解なのか?
- 著者・坂口恭平のバイタリティにも興味を抱かされてしまう
ホームレスの「鈴木さん」の生活から、「豊かさとは何か」も考えさせられました
この記事で取り上げる本
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確かに、鈴木さんは「住む家がない」という意味で「ホームレス」であることに間違いはありません。しかし「ホームレス」と聞いてイメージするような「貧しい生活」とはかけ離れているのです。恐らく、一般的な社会人よりも全然豊かな食生活を送っているのではないかと思います。
「自分の人生には何が必要なのか」を的確に理解してるって感じがする
「何にお金を使うか」ってのは、その選択の連続だしね
そんな鈴木さんが隅田川沿いに建てた「0円ハウス」こそ、著者が注目した「建築物」というわけです。本書で著者は、「ホームレスが住んでいる家」という意味で「0円ハウス」という言葉を使っています。しかし鈴木さんが住んでいる「0円ハウス」は、「本当に0円」で作られているんだそうです。
ホームレスの家であっても、全体の内どこかしらにはお金が掛かっている場合が多いと著者は言います。ブルーシートだけは買ったとか、バッテリーや電池はお金を出して手に入れているなど、「ほぼ0円だけれども1円も使っていないわけではない」という「0円ハウス」がほとんどだそうです。しかし鈴木さんの家は、すべての材料をゴミでまかない、電力についても一切お金を支払っていません。完全に「0円」で作られているというわけです。まずこの点が凄いと言えるでしょう。
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しかも鈴木さんは、自身が住む「0円ハウス」にこれでもかと創意工夫を施しています。詳しい点についてはこの記事では触れませんが、「生活を便利にする」「容易に不便を解消する」「日常を快適にする」など、「自分の生活スタイルに合わせて家を調整する」という考え方に溢れた設計がなされているのです。そして後述しますが、この点こそ、著者が「0円ハウス」に着目した最大の理由だと言えます。
「ただより高いものはない」とよく言うけれど、「ただより価値のあるものはない」を実践してる人はそうはいないでしょう。
坂口恭平はそう言って鈴木さんの生活スタイルを絶賛します。確かにその通りでしょう。鈴木さんは「0円」である「ゴミ」を活用して家を作ったり、生活を成り立たせるものを揃えたりする一方で、「ゴミ」であるアルミ缶で得た収入で贅沢な食事をしているからのです。
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これはまさに、「『家も職も持たない生き方』を自ら選び取っている」としか考えられないでしょう。そういう意味で、鈴木さんのことを「ホームレス」と呼ぶことにどことなく抵抗を感じてしまう気持ちもあります。
本質的には、「生活が成り立つ」なら「家」も「職」も必要ないもんね
「働かざる者食うべからず」って格言も、逆に言えば、「食えているなら働く必要なんかがない」とも捉えられるし
そもそも鈴木さんは、恐らく一般社会で生活していても非常に優秀な人であるはずです。そう感じる理由の1つは、アルミ缶集めの凄さにあります。彼はもの凄く考えて工夫をして、週に100キロもアルミ缶を集めるのです。なかなかその凄さは伝わりにくいと思いますが、「アルミ缶回収業者が、鈴木さんが集めたアルミ缶を回収するためだけに遠くからやってくる」ほどだと本書には書かれています。思考力1つで他の人とは比べ物にならないほどアルミ缶を集めてしまうという点だけでも、その知性の高さが窺えるでしょう。
本書での坂口恭平とのやり取りを読めば、鈴木さんの頭の回転がとても早いことが理解できるはずですし、周りの人から人望も非常に厚いのです。一般社会でも間違いなく暮らしていけるし、というかかなり上のレベルまで行ける人なのではないかと感じます。
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「そういう人が”敢えて”ホームレスを選んでいる」というのが鈴木さんに対する印象です。彼の生活スタイルを見ていると、「これはこれでアリだろうな」と感じさせられます。私の場合は、「映画館で映画を観る」とか「美術展に行く」など、「スマホだけでは成立しない生活」を望んでしまうので、どうにか上手いこと社会に溶け込まなければなりません。しかし、もし自分がそういうタイプでないなら、鈴木さんのような生活スタイルもアリだと感じます。何を以って「豊かな生活」と考えるかは人それぞれでしょうが、鈴木さんの生活は、「豊かな生活」の1つの形として成立するだろうと思いました。
「ホームレス」というマイナスの見られ方さえ回避できるなら、こういう生活でも良いっていう人、結構いるんじゃないかな
特に、「スマホさえあれば娯楽は十分」って感じる人なら、スマホ代だけ稼げば成り立つしね
「0円ハウス」はどのように凄いのか
さてそれでは、著者が「0円ハウス」の何に注目したのかについて触れていきたいと思います。
ホームレスの家を、建築的な視点から見てみる。
それは、住宅というものの考え方をひっくり返してしまうほどの、驚きの体験である。
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著者はこんな風に書いており、大げさに思えるかもしれませんが、本書を読むと「なるほど」と感じさせられるはずです。そのポイントは、先程少し触れた、「自分の生活スタイルに合わせて家を調整する」という考え方にあります。
私は家を建てたことがないので分かりませんが、よほどのお金持ちでもない限り、基本的に「住宅の建築」は「一定の規格・枠組みの組み合わせ」になるはずです。大富豪であれば、「建築資材は◯◯山から切り出してほしい」「屋根瓦は◯◯で作られたものを」など建材からこだわることも可能だと思いますが、普通はそんなことあり得ないでしょう。木材・壁材・鉄骨・壁紙などなど、家を構成するあらゆるものには「決まった規格」が存在し、その中から何をセレクトするかという選択になるはずです。
将来的には「3Dプリンタで家を作る」的なことも当たり前になっていくと思うけど
そうなってくると、また「家」というものの捉え方が変わってくる気がするね
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そのようにして作り上げられた「家」は、つまるところ「定まった規格の集合体」と言えるでしょう。建材の組み合わせ方によって無数の選択肢があり得るのだとしても、やはり考え方としては、「家の造り」の方が先に存在し、「それに自分の生活を合わせる」というスタンスになるのだと思います。そして多くの人は、その現実に「違和感」を覚えることなく、当たり前のものだと感じているはずです。
しかし、「0円ハウス」の場合、そもそもの設計思想がまったく異なります。なぜなら、「自分の生活」が先に存在し、「それに家の造りを合わせる」というスタンスになるからです。これこそ、坂口恭平が「住宅というものの考え方をひっくり返してしまう」と感じた衝撃だということになります。
本書では、鈴木さんだけではなく様々なホームレスが取り上げられ、彼らが住む「0円ハウス」が紹介されるのですが、その内の1つは、先に「家の大きさ」を決めてから作られたのだそうです。まずは自分の生活導線などについて様々に実験を繰り返し、その結果を元に「自分の生活に必要な家のサイズ」を決定します。そしてその大きさで「0円ハウス」を作っていくというわけです。
このような考え方は私たちが住む家にも取り入れられてもいいのではないかと感じました。家を建てる際には、「土地の大きさ」や「建ぺい率」などの条件から「建てられる家の大きさ」が決められると思いますが、それは別に「生活に必要なサイズ」とは関係ないわけです。「自分の生活を見つめ直し、それに必要な分だけ存在すればいい」という考え方は、「食」や「衣服」などには一定数存在するように感じますが、同じ発想が「家」に向けられてもいいように感じました。
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どうしても「家」って、「広ければ広い方がいい」みたいな発想になりがちだよね
「住む」だけじゃなくて、「財力」や「権威」を示すみたいな目的も一緒にくっついっちゃってるからだろうなぁ
また、鈴木さんの”ホームレスらしい”発想も興味深いと思います。それは、「家に必要な設備は何か」に関わってくるものです。
家には普通「風呂」や「トイレ」が欠かせませんが、街中にも「銭湯」や「公衆トイレ」などが存在します。そして、そのような「街中に存在するもの」も「自宅」という概念に含めてしまうのであれば、拠点となる「家」は本当に必要最小限の設備だけで成り立つのではないか、と考えるのです。
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これも極端な発想ではありますが、しかし、そうズレた主張でもないと感じます。公共のものは、不適切な使い方でなければ当然使用が許可されているのですから、「家の設備は最小限にして、公共のものを利用する」という発想は十分に成立しうるはずです。
このように、「『自分の生活』について深く考え、そしてそれに必要なだけの『家』を作る」という考え方は、とても重要だと感じました。「家」という生活の土台を成すものに対する考え方は、自然と刷り込まれる部分もあるでしょうし、なかなか「当たり前の考え」から抜け出せないだろうと思います。本書で紹介される「0円ハウス」が持つ斬新な特徴は、「家」について考える際の新たな視点をもたらしてくれるのではないかと感じました。
ま、そもそも私は「家」を建てたいとか買いたいとか思ったことが一度もないんだけどさ
少なくとも「借金して家を買う」って発想を持つことは今後もないだろうね
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本書を読むと、坂口恭平のバイタリティや規格外の発想にも驚かされてしまうでしょう。私はこういう人に結構興味があります。
建築学科に在籍中は、設計コースだったにも拘わらず設計に興味が持てなかったそうです。そこで、「建築物の改修や改築」という課題の際には、「使われなくなった給水塔に1週間暮らす」なんてことを実践し、その様子を映したビデオを提出したといいます。なかなかぶっ飛んだ人だと言っていいでしょう。
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卒論のテーマにした「ホームレスの家」を撮った写真を、自ら写真集として構成して出版社に持ち込み、見事リトルモアから出版もされています。
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社会からはかなりはみ出しがちなタイプの人だと思いますが、こういう異次元のバイタリティを持つ人が世の中を変えていくんだよなとも感じました。そういう意味で、著者自身にも関心が向くきっかけとなった作品です。
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「ヤクの毛」を使ったファッションブランド「SHOKAY」を立ち上げ、チベットの遊牧民と中国・崇明島に住む女性の貧困問題を解決した2人の若き社会起業家の奮闘を描く『世界を変えるオシゴト』は、「仕事の意義」や「『お金』だけではない人生の豊かさ」について考えさせてくれる
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小学5年生から統合失調症を患い、社会の中でもがき苦しみながら生きる卯月妙子のコミックエッセイ『人間仮免中』はとんでもない衝撃作。周りにいる人とのぶっ飛んだ人間関係や、歩道橋から飛び降り自殺未遂を図り顔面がぐちゃぐちゃになって以降の壮絶な日々も赤裸々に描く
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小学3年生のこっこは、「孤独」と「人と違うこと」を愛するちょっと変わった女の子。三つ子の美人な姉を「平凡」と呼んで馬鹿にし、「眼帯」や「クラス会の途中、不整脈で倒れること」に憧れる。西加奈子『円卓』は、そんなこっこの振る舞いを通して「当たり前」について考えさせる
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手作りの舟に乗り、銛1本で巨大なクジラを仕留める生活を続けるインドネシアのラマレラ村。そこに住む人々を映し出した映画『くじらびと LAMAFA』は、私たちが普段感じられない種類の「豊かさ」を描き出す。「どう生きるか」を改めて考えさせられる作品だ
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「リア充感」が滲み出ているのに「生きづらさ」を感じてしまう人に、私はこれまでたくさん会ってきた。見た目では「生きづらさ」は伝わらない。24年間「リアル彼氏」なし、「脳内彼氏」との妄想の中に生き続ける主人公を描く映画『勝手にふるえてろ』から「こじらせ」を知る
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専門学校の卒業制作として濱口竜介が撮った映画『親密さ』は、2時間10分の劇中劇を組み込んだ意欲作。「映像」でありながら「言葉の力」が前面に押し出される作品で、映画や劇中劇の随所で放たれる「言葉」に圧倒される。4時間と非常に長いが、観て良かった
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西原理恵子『この世でいちばん大事な「カネ」の話』は、決して「お金」の話だけではありません。「自分が望む生き方」を実現するための「闘い方」を伝授してくれると同時に、「しなくていい失敗を回避する考え方」も提示してくれます。学校や家庭ではなかなか学べない人生訓
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元気で明るくて楽しそうな人ほど「傷」を抱えている。そんな人をたくさん見てきた。様々な理由から「傷」を表に出せない人がいる世の中で、『包帯クラブ』が提示する「見えない傷に包帯を巻く」という具体的な行動は、気休め以上の効果をもたらすかもしれない
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多様性・ダイバーシティ【本・映画の感想】 | ルシルナ
私は、子どもの頃から周囲と馴染めなかったり、当たり前の感覚に違和感を覚えることが多かったこともあり、ダイバーシティが社会環境に実装されることを常に望んでいます。…
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