目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:永作博美, 出演:井浦新, 出演:蒔田彩珠, 出演:浅田美代子, 出演:佐藤令旺, 出演:田中偉登, 出演:中島ひろ子, 出演:平原テツ, 出演:駒井蓮, 出演:山下リオ, 出演:森田想, 出演:堀内正美, 出演:山本浩司, 出演:三浦誠己, 出演:池津祥子, 出演:若葉竜也, 出演:青木崇高, 出演:利重剛, Writer:河瀨直美, Writer:髙橋泉, 監督:河瀨直美
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この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「『起こるだろうが、起こるはずがない』と思っていた状況」で、私たちはどう振る舞うべきだろうか
「特別養子縁組」に興味がないとしても、映画『朝が来る』は誰にでも関わる物語だと言えます
この記事の3つの要点
- 「本質的には誰も悪くないのに、関わるすべての人が傷ついてしまう状況」において、どんな結論を下すべきか
- 「自分のお腹を痛めた子ども」という考えに重きが置かれすぎではないだろうか
- どんな状況であれ、「当事者本人の納得」を無視したやり方を、私は許容できない
養子を譲り受けた夫妻と、泣く泣く手放さざるを得なかった少女の葛藤に、心奪われる
自己紹介記事
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「誰にでも起こり得る」のに「その可能性を無視している」ような世界を描く映画『朝が来る』が切り取る「特別養子縁組」のリアル
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「特別養子縁組」を軸にしながら、「そんなことが起こるとは思ってもみなかった」という私たちの「油断」を浮き彫りにする
映画『朝が来る』では、「特別養子縁組」がメインのテーマとして扱われます。ご存知の方も多いでしょうが、一応説明しておくと、「生みの親との法的な親子関係を解消し、養子でありながら実子と同じ親子関係を結ぶ制度」です。このブログには、「特別養子縁組」の制定に尽力した石巻の産婦人科医を取り上げた本についての記事もありますので是非読んでみてください。
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最終的には国を動かしちゃうんだから、とんでもない行動力だよね
さて、『朝が来る』では確かに「特別養子縁組」が扱われるのですが、だからといって「特別養子縁組」の物語というわけではないと私は感じました。この映画では、「特別養子縁組」という題材を扱うことで、「『誰の身に起こってもおかしくはないのに、そんなことが起こるなんてまったく想像もしていなかったこと』に直面せざるを得なかった人たち」を描き出しているのだと言っていいでしょう。
あまり適切な例とは言えませんが、ざっくり「地震」のようなものをイメージしてもらえばいいかもしれません。まさに「誰の身に起こってもおかしくはないのに、そんなことが起こるなんてまったく想像もしていなかったこと」ではないでしょうか。私も、災害が起こることを前提に、あらかじめ出来る準備はそれなりにしているつもりですが、しかしそれでも、自分が本当に被災したら、「まさかこんなことになるとは思わなかった」と感じてしまうだろうと思います。
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静岡県出身だから、子どもの頃からずっと「デカい地震が来る」って言われ続けてたんだよなぁ
ただ結局、大きな災害に巻き込まれたことは一度もないから、やっぱり想像できないよね
「特別養子縁組」と言われると、「自分とはあまり関係ない」と感じられてしまうかもしれませんが、そういう捉え方は適切ではないと思います。何故ならこの映画は、「起こるはずなのに、起こるはずがないと思いこんでいたこと」が本当に起こってしまった時の混沌を切り取るものだからです。こういう捉え方をすればきっと、誰にでも関係する物語に感じられるのではないかと思います。
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「起こるはずなのに、起こるはずがないと思いこんでいたこと」には様々なものが当てはまるでしょうが、そこには共通点があると感じます。「どんな選択肢を選んでも不正解」という共通項です。「起こるはずがない」と思い込みたいのは、「それが起こった時に選べる『正解』が存在しないから」かもしれません。「正解」が存在するなら、努力の余地があるし、事前の準備のしようもあります。ただ、「すべてが不正解」なのだとしたら、あとは「起こらないことを祈る」しかないというわけです。
北朝鮮がミサイルを発射してるけど、あれ、マジで日本のどこかに落ちるってなっても、「じゃあどうするん?」って思うんだよなぁ
スイスは地下シェルターを着々と準備してるらしくいから、スイスに住む人には「正解」の行動は存在すると言えるよね
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『朝が来る』でも、どんな決断をしたところでそのすべてが「不正解」でしかないような混沌とした状況が描かれます。そういう時、私たちは一体どんな振る舞いができるのか。そういう問いを突きつける作品だと私は感じました。
「正解」が存在するなら、それを選び取る努力をすればいいだけです。しかし、「関わっている人全員が、積極的に悪いわけではない」にも拘わらず、「目の前に存在するすべての選択肢がすべて不正解」でしかないという場合、一体どう行動すべきでしょうか。『朝が来る』で描かれるすべての登場人物と、彼らの決断に対して、私はずっとそんな風に考えてしまいました。本質的には誰も悪くないのに、それでも結果として全員が不幸になってしまうようなしんどい状況の中で、「これを『正解』だということにしよう」という重苦しい決断をせざるを得ない者たちの葛藤が胸に刺さる作品と言えます。
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「自分のお腹を痛めた子ども」であることは、それほど重大なことなのか?
映画の冒頭で、こんな場面が描かれます。主人公の栗原佐都子は幼稚園から、息子の朝斗が友達をジャングルジムから突き飛ばしたと聞かされました。その友達は怪我をしており、「朝斗君に押された」と主張しているという状況です。一方の朝斗は「僕はやってない」と母親に訴えるのですが、彼女は息子の主張を完全には信じきれません。そして、子ども同士のいざこざにどう対処していいか分からなくなり困惑する、というシーンです。
映画の中でそうとはっきり描かれるわけではないのですが、佐都子が息子のことを完全に信じきれないのは、朝斗が養子だからだろうと思います。勝手な想像ですが、恐らく「自分のお腹を痛めた子ども」であれば、もう少し違った反応になったでしょう。少なくとも映画では、そのように示唆されるように私には感じられました。
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彼女の場合、「養子かどうか」だけじゃなくて、「息子が養子であると周囲に知られている」ってのも関係してそうだけどね
周囲からの、「養子なのに、その子の言っていることを信じていいの?」みたいな見られ方を勝手に想像して怖がってる、みたいな
私が男だからかもしれませんが、私は正直、「血が繋がっているかどうか」みたいなことにまったく関心が持てません。クソどうでもいいと思ってしまうのです。「血の繋がった家族」だから親愛の情を抱くなんてこともなければ、「血が繋がっていない他人」だから遠く感じるなんてこともありません。「血が繋がってるかどうか」は私にとって、「背が高いか低いか」程度にしか感じられないのです。人生において「血の繋がり」が際立って重視される理由がイマイチ分かりません。
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結局のところ、「特別養子縁組」という制度だけあっても上手く機能はしないと思います。社会の認識の方が変わらなければならないはずです。「自分のお腹を痛めた子ども」の方がなんとなく「優位」に扱われているように感じられる社会では、「特別養子縁組」という制度は「どうにもならなかった場合の選択肢」にしか成り得ないでしょう。もう少し社会の捉え方が変われば、「産めるけど、特別養子縁組を選ぶ」という人も出てくるかもしれません。むしろそうなることが、制度としては成熟していると言えるようにも思えます
「つわりが酷いから妊娠はしたくない」みたいな人が、2人目を特別養子縁組で、みたいなことが普通になってもいいはずだけどね
でも間違いなく、「産めるなら自分で産めよ」っていう批判が出るんだろうなぁとも思う
日本人の感覚が特別厳しいのか、他の国でも大差ないのかは分かりませんが、私は日本が「子どもを産む」とか「子どもを産まない」みたいなことに対して、もっと寛容な社会であってほしいと思っています。「産む/産まない」にごちゃごちゃ口を出すのではなく、「子どもを育てること」に対して誰もが敬意を持っているような社会の方が、誰にとっても良いだろうと感じるのです。どうしたらそんな社会が実現できるのか、私にはなかなかイメージが難しいのですが、とにかく第一歩として、誰もが身近なところから「子どもを育てること」に対する敬意を示していくべきなのだろうと思います。
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映画『朝が来る』の内容紹介
夫が無精子症であることが分かった栗原清和・佐都子夫妻。自然妊娠が難しいのことで、不妊治療を始めたが、結局それも上手くいかなかった。彼らは、夫婦2人で生きていこうと決め、旅行などを満喫する人生を歩み始める。しかしある時、旅先でつけていたテレビから、特別養子縁組について紹介する番組が流れた。これが彼らの人生を大きく変えるきっかけとなる。
2人は、ベビーバトンという団体の仲介で、男の子を養子に迎えた。「朝斗」と名付け、大切に育てたその子は、もうすぐ小学校に上がる年齢だ。子育てを一度は諦めた夫妻だったが、養子を迎えてからの日々は充実した幸せな日々だった。
しかしそんなある日、夫妻の自宅に1本の電話が掛かってくる。電話口で女性は、「子どもを返してほしい」と口にした。彼女は、朝斗の実の母親である片倉ひかりと名乗ったのである。
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夫妻は特別養子縁組に際して、当時中学生だったひかりと対面していた。しかしそれから一度も連絡を取っていない。佐都子は困惑したが、しかし、会って話しましょうと提案、ひかりと名乗る女性を自宅に招いた。
しかし……。
映画『朝が来る』の感想
映画は、栗原夫妻の物語として始まり、前半は彼らの話がメインになります。しかし後半は、生みの親である片倉ひかりの物語が中心になっていきます。両者はかなり対極だと言っていいでしょう。栗原夫妻は、自分たちの子を持つことは出来なかったものの、タワーマンションの上階に住み、養子を迎えて何不自由なく暮らしています。一方の片倉ひかりは、中学生にして大好きな同級生の子どもを妊娠してしまったことで、「あり得たはずの人生」から大きく外れ、思ってもみなかった生き方を強いられることになるのです。この「明」と「暗」の対比が非常に印象的で、そして私はやはり「暗」の方に惹かれました。
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ひかりのパートで印象的だったのが、彼女が「安産?」と不思議そうに返す場面です。ひかりは、出産を周囲に隠すために、ベビーバトンが運営する施設にしばらく滞在することになりました。その道中、ベビーバトンの代表である女性から、「安産のために散歩しましょうね」と声を掛けられ、それに「安産?」と返します。代表の女性が、その反応に不思議そうな顔を見せると、ひかりは「そんなこと、誰にも言われなかったから」と口にするのです。
この一言で、ひかりが置かれている状況の厳しさが理解できるでしょう。
状況が状況だから「祝福」って感じにはなりづらいかもだけど、それにしたってねとは思う
当事者本人の気持ちが完全に無視される状況って、どんな場合でも嫌なもんだよね
ひかりの母親の振る舞いについて、どれぐらいの人が共感できるのか、私にはよく分かりませんが、私はとにかく嫌悪感しか抱けませんでした。ひかりの母親はとにかく、自分と家族の世間体のことしか考えていません。まあ、人生において、それが何よりも重要だという価値観の人もきっといるのでしょう。特に地方ではそうなのかもしれません。
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母親は何度も、「その方がお前のためだ」という言い方をします。既に中絶できる時期を過ぎていたため、「特別養子縁組」という選択肢を強制的に突きつけるのです。確かに、最終的にはそういう結論しかないのかもしれません。やはり「中学生で子どもを産んで育てる」というのは、なかなか現実的ではないでしょう。しかし仮にそうだとしても、私は、ひかりの母親の言動を許容したくはありません。
ホントにこういう人は世の中から絶滅してくれないかなって思っちゃう
どんな状況であれ、「当事者本人の納得」を最大限尊重すべきだと私は考えてしまいます。なんらかの結論に従うしかないのだとしても、無理やりそうさせるのではなく、出来るだけ本人が納得できる形で決断を促してあげるべきでしょう。それこそが世間体なんかよりも遥かに重要なことだと思っているのです。母親が娘のことを本当の意味で一番に考えてあげていられれば、ひかりの人生は大分違ったものになっていたのではないかと感じざるを得ませんでした。
栗原夫妻も片倉ひかりも、「どの選択肢も不正解」という状況で決断を迫られます。あなたなら、彼らと同じ状況で、どのような結論を導くでしょうか?
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