目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:福山雅治, 出演:尾野真千子, 出演:真木よう子, 出演:リリー・フランキー, 出演:二宮慶多, 出演:黄升ゲン, 出演:中村ゆり, 出演:高橋和也, 出演:田中哲司, 出演:井浦新, 出演:風吹ジュン, 出演:國村隼, 出演:樹木希林, 出演:夏八木勲, Writer:是枝裕和, 監督:是枝裕和, プロデュース:松崎薫, プロデュース:田口聖
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この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「家族であるということ」について改めて考えさせてくれる映画
「家族観」について普段考えることがないし、人それぞれ大きく異なるものだから、様々なな見方ができると思う
この記事の3つの要点
- 両家族とも「血が繋がっていることは大事」と考えていることは共通している
- 「現在の幸せ」と「将来の幸せ」、どちらを優先するか?
- 「粘土をこねて芸術作品を生み出す」くらいにしか子育てを捉えていない良多のスタンスの是非
私は、「血が繋がっているかどうか」よりも重要なことがあると感じるタイプの人間です
自己紹介記事
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映画のエンドロールでは、この『ねじれた絆』は「参考文献」という表記になっていました。確かに、昭和52年に沖縄で起こった赤ちゃん取り違え事件と、映画の中で描かれる物語は、時代も状況も大きく異なるのですが、「2家族は会おうと思えば行き来できる距離に住んでいる」「一方では教育が熱心に行われ、もう一方では放任主義で育てられた」という似た側面もあります。映画を観た方は、是非『ねじれた絆』も読んでみてください。
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それまで主流だった自宅出産から病院で産むのが当たり前になった変化に病院側が対応できなかった時代の話だね
今ではほとんど起こらないだろうけど、当時は取り違えが頻発してたらしい
『ねじれた絆』では、取り違えられた一方の子どもである少女に焦点が当てられる構成になっています。しかし映画は、福山雅治演じる「父親」の物語です。この点が最も大きな違いでしょう。そしてそれ故にこの映画は、「家族とは何か?」を強く問いかける内容になっていると感じました。
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映画『そして父になる』の内容紹介
面倒なことじゃなければいいんだけどな。
野々宮良多は、妻のみどりからの報告にそう呟く。息子の慶多が生まれた病院から、話したいことがあると連絡が入ったのだ。都心の大手企業で働く良多は、収入も住んでる家もすべて、誰もが羨むような生活を手に入れた。しかし仕事が忙しいこともあり、息子と接する時間はあまり取れていない。
しかし息子の教育には非常に熱心だ。ピアノを習わせ、幼稚園受験もさせた。1人でお風呂に入るように伝え、挨拶にも厳しい。ピアノの稽古を休んだと知ると、「取り戻すのに3日掛かる」と妻を責めるが、自分は仕事のために自室に籠もる。世間的には羨ましがられる生活なのだろうが、家族としてのまとまりは薄い。しかし良多は、このような環境こそが息子のためだと信じているのだ。
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一報、群馬で電気屋を営む斎木雄大は、長男の琉晴を筆頭に3人の子どもを育てている。勉強よりも「何でも1人で出来ること」を重視する、のびのびと楽しい生活だ。決して裕福とは言えない生活をしているが、家庭には常に笑顔が絶えない。大変なことは色々とあるが、妻のゆかりとも仲良くやっている。
この対照的な2家族に、「取り違え」という現実が突きつけられた。6年前、同じ産院で生まれた慶多と琉晴が取り違えられており、両家族ともそのことに気づかないまま育ててきたのだ。病院は謝罪と共に、「このような場合、ご家族は100%、交換を選びます」と伝えた。
野々宮家・斎木家の面々は大きく揺れる。
どうして気付かなかったんだろう。私、母親なのに……。
慶多の母・みどりはそうやって自分のことを責める。
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二人とも、引き取らせてもらえませんか。まとまったお金なら、用意できます。
良多にはこれまでずっと、「自分の子どもなのにあまり出来が良くない」という感覚があった。「取り違え」が発覚したことで納得感のようなものを抱きつつ、彼は「琉晴君も引き取らせてくれないか」と提案する。両親に対して不満を抱きながら子ども時代を過ごした良多は、「親」という立ち位置にまだ馴染めておらず、想像力に欠ける対応に終始してしまう。
負けたことのないやつってのは、本当に人の気持ちがわからないんだな。
当然だが、雄大はそんな良多の主張に納得できない。雄大は良多の「あり得ない振る舞い」を「父親として、さらには人間としてのあり方に何か問題があるのではないか」と捉えるほどだ。
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雄大の妻・ゆかりも、
似てる似てないに拘るのは、子供と繋がってる実感のない男だけよ。
と、良多の「父親としてのあり方」に違和感を隠さない。
子どもたちはどうだろうか。将来的な「交換」を想定して、彼らに詳しい事情は伝えずに、互いの家への行き来が始まる。
今度琉晴君ち、いついくの?
慶多は、斎木家を気に入っている。はっきりと描かれる場面は少ないが、慶多はきっと父・良多に対して思うところがあるのだろう。だからこそ、斎木家で彼は「父親とはどういう存在なのか」を初めて実感することができたのだろう。
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一方の琉晴は、自分が野々宮家にいなければならない理由が理解できない。彼は早く帰りたくて仕方ない。ここが自分の居場所ではないと分かっているのだ。
「取り違え」という現実が、多くの人の人生を様々な形で動かしていく。
いろんな親子があって、いいと思うんですよ。
そんな風に口にする良多こそが一番、「親子」「家族」の円環から外れてしまうことになる。
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「血の繋がり」の重要さが、私にはイマイチ理解できない
映画の中身に触れるまえにまず、「家族」というものに対する私のスタンスについて書いておいた方がいいでしょう。
私は、「『血が繋がっているかどうか』にそこまで強い意味があるのだろうか」といつも考えてしまいます。もちろん、「『血の繋がり』に関する何らかの現実を突きつけられたことがないから実感できないだけだ」と言われれば返す言葉はありません。少なくとも今のところ、自分が養子であるとか、親から生まれるはずのない血液型である、みたいなことはなさそうです。また、私は結婚していないし子どももいないので、自分の子どもと血が繋がっていないと判明したなんてこともありません。
だから結局、すべては想像でしかないのですが、どんな風にイメージしても、「血が繋がっていること」が自分の判断基準の上位に来ることはないと感じてしまうのです。
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というかそもそも、「家族」という存在が私には違和感でしかありません。というのも、「血が繋がっている」以外の共通項が存在しないのに、一緒にいることが当然だとされているからです。私は昔から、そのことが不思議で仕方ありませんでした。
結局、親とか兄弟に対して「何らかの親密さ」みたいなものを感じることってないもんなぁ
「気の合う他人」より「血が繋がった家族」の方が、感覚的には遠い存在だよね
もちろん「家族」の場合、「同じ時間を長く過ごした」という、普通の人間関係ではなかなか成立し得ない経験を持っています。なので、その「時間の共有」が関係性に大きく影響するのは当然でしょう。ただそれは、良い風に働くこともあれば悪い風にも働くこともあるはずです。私の場合は、長い時間一緒にいるからこそ、「やっぱりこの人たちとは感覚が合わないな」と子どもの頃からずっと感じていました。私には、「時間の共有」はマイナスにしか働かなかったと感じています。
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また、結婚して子どもを育てる予定などまったくありませんが、「もし仮に子どもを育てるなら養子がいい」とずっと考えていました。そもそも、ペットなど含め「会話が成立しない対象」は苦手なので、赤ちゃんも好きではありません。だから仮に子育てするなら、中学生ぐらいの養子を迎えて育てられたらいいなぁ、みたいなことをいつも考えています。
さて、私が今ここで書いたような感覚が、世間からズレまくっていることは当然理解しています。「血の繋がりこそ、人間関係の最上位」と誰もが考えているなどとは思っていませんが、最上位かどうかはともかく「血の繋がった関係」が重要だと多くの人は感じているのだろうし、だからこそ私の感覚はまず共感されないでしょう。そのことはきちんと理解しています。
そんな人間がこの映画の感想を書いても、きっと理解されないでしょう。ただ、この記事を書いているのがどういう人間なのかを理解した上で読んでいただけるとありがたいなと思います。
もちろん、「家族に親密さを抱ける人間だったら良かったのに」なんて思ったりもするけどね
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「子育て」や「幸せ」をどう捉えるかの違い
映画でももちろん、「血の繋がり」は重視されますが、2家族の対立の中心に存在するものではありません。どちらも、「血の繋がり」について同じように苦悩するのです。
それよりも2家族の差異として強調されるのが、「子育て」や「幸せ」に対する考え方でしょう。
斎木家は、「現在の幸せ」を求める一家です。将来どうなるか分からない、けれどまずは「今が楽しい」ことを優先しよう。そのような考え方が色濃く出ています。子どもの成長はとても早いし、その時々の子どもとはその時々にしか関われません。だから子育てにおいても、「その瞬間瞬間を大事にする」と考えるのは自然だし、斎木家のようなあり方を「幸せ」だと捉える人は多いでしょう。
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一方野々宮家(というか良多)は、「将来の幸せ」を優先します。そしてこれもまた、「子育て」や「幸せ」を考える上での1つの視点と言えるでしょう。
良多の子育てはかなり厳しいです。慶多に習い事や勉強をさせ、「将来得られるだろう価値を大きくする」ことを重視しています。良多は、「今は辛いかもしれないが将来必ず役に立つ」という気持ちから、慶多に厳しい接し方をするのです。
大人になって振り返った時に、「子どもの頃に親が厳しく接してくれたから今の自分がある」と実感できる人もいるでしょうし、良多のようなスタンスもまた正解だと思います。私は個人的に、「本人が嫌だと感じることを無理強いしても成長しない」と考えているので、良多のように「本人の意思と無関係に何かをやらせる」ようなやり方は好きではありませんが、決して間違いだとは思いません。
オリンピックに出場するような人は、物心つく前から無理やりやらされてたりするよね
良し悪しはともかく、それぐらいじゃないとスポーツの世界ではトップにたどり着けないんだろうなぁ
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このように斎木家と野々宮家は、「子育て」「幸せ」の基準が大きく異なるのです。そしてだからこそ、この点で衝突が起こってしまいます。「血の繋がり」はもちろん両者とも重視するのですが、一方で、どちらの側も共に、「相手の『子育て』『幸せ』の感覚を許容できない」という食い違いに直面することになるのです。
「家族とどんな風に関わりたいか」についての価値観は、それが良いものであれ悪いものであれ、「自分の両親・親族との関わり」がベースになるだろうし、だからこそ「自分が抱く家族観」について思い巡らす機会はあまりないかもしれません。この映画では、両極端の「家族」が描かれることで、自分がどのような「家族観」を持っているのか改めて確認する機会になるのではないかと思います。
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良多の「子育て」へのスタンスの問題点
さてここまでで、「斎木家、野々宮家どちらの『子育て』のスタンスも間違いではないはず」という話に触れてきました。どちらも正解なのですが、どうしても食い違ってしまう点も映画の見どころの1つでもあります。
しかしこの映画でさらに焦点が当てられるのは、「良多が子どもをどんな存在だと捉えているか」というそのスタンスです。
良多が純粋に慶多のことを考えて「子育て」をしているのなら、彼の振る舞いもさほど問題ではないでしょう。しかし良多は、慶多の将来のためと口にしながら、その実、自分自身のことしか考えていないように私には見えるのです。
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良多にとって慶多は「粘土」のような存在でしかないと感じました。陶芸家が粘土をこねくり回して芸術作品を生み出すように、良多は「慶多という『粘土』をこねくり回して芸術作品を生み出す」という風にしか考えていないように感じられるのです。ある場面で彼は学生時代の同級生に対して、
とりあえず手元に置いてみるよ。血が繋がってるんだから、なんとかなるだろ。
と偽りのない本音を口にします。この発言だけでも、彼が「子どものことを第一に考えている」のではなく、「子どもを、芸術作品を生み出すための『粘土』としか捉えていない」ということが伝わるでしょう。
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そして、「血の繋がり」云々ではなく、この良多のスタンスについて議論されるべきだろう、と私は感じます。正しいか間違っているかではない私の個人的な感覚を書くと、「良多が子どもを『粘土』のように扱うスタンス」はとても嫌いです。
「子どもは親に従属すべきだ」みたいに考えている人って、どうしても許容できないんだよなぁ
それでいて本人は「従属させてる」なんて全然思ってなくて、「子どものため」とか言ったりするから余計嫌だよね
ただし、良多のスタンスが野々宮家の内側で収まっているのであれば、他人がとやかく言う問題ではない、とも理解しています。それは単に、私の好き嫌いの問題にすぎないわけです。
映画の中では、慶多が父親に違和感を抱いていると感じさせられる場面が時々描かれます。明確には描かれませんが、恐らく慶多は、父親に対して「そうじゃない感」を抱いてしまうことが多いのでしょう。しかし一方で、自分の父親なのだし、「不満を抱いてしまう自分の方が間違っているのだ」と自分の感情を飲み込んでいるようにも見えます。そういう、良多の視界には入らない慶多の姿を見ると、「良多スタンスは間違いだ」と言いたくなってしまうのです。しかし別に虐待が行われているわけでもないので、「これは野々宮家の問題であり、外野が口を出す余地はない」とも感じます。
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ただ、「取り違え」が発覚して以降はそうではありません。「良多のスタンス」は野々宮家に留まるものではなく、斎木家とも関係してくるのです。そしてだからこそ、この「良多のスタンス」は「問題」として浮上することになります。
なんで俺が電気屋にあんなこと言われないといけないんだろうな。
否応なしに斎木家と関わらざるを得なくなった良多は、様々な場面で斎木家に対する「違和感」を表明します。観客の視点からも、映画の中の描かれ方としても、「良多の主張の方に難がある」となるはずです。しかし良多自身は「自分は正しいことをしているはずだ」と信じており、自分のスタンスの邪魔をする存在はすべて「理解不能」としか感じられません。
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なんで上から目線で話されてるんだ?
彼にとっては、「『粘土』を使った創作中に邪魔が入った」みたいな認識なのでしょう。そういう風にしか「子育て」を捉えることができないというわけです。そして、そんな彼の「違和感」は、妻・みどりにさえ向けられます。みどりは、「取り違え」が発覚するまで良多のスタンスに表立っては反対しません。しかしやはり、良多の子育てには違和感を抱いているわけです。そして「取り違え」の発覚によって、夫婦間の考えの差も如実に浮き彫りになっていくことになります。
そしてそんな良多が「父になる」というプロセスこそが、この映画の主眼となるわけです。
「結果的に」という言葉を強調したいところだけど、結果的に良多にとっては「取り違え」が起こって良かったのかもしれないと思う
彼の子育てへのスタンスが様々な価値観と衝突することで、彼自身の変化に繋がっていくわけだからね
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慶多とみどり、それぞれの物語
そんな良多に振り回されるのが、息子の慶多と妻のみどりです。
慶多については、非常に印象的な場面がありました。恐らく、良多の考えを変えるきっかけになったのではないかと感じるシーンです。その場面そのものについては触れませんが、そこに繋がる別のシーンについて説明したいと思います。
珍しく良多が公園で慶多と遊んでいる時のこと。良多は高そうなデジタル一眼レフカメラを持っており、息子のことを撮っている。慶多も撮ってみたいとせがみ、良多からカメラを受け取るが、そこで良多が「そのカメラあげるよ」という。しかしそれに対して慶多が「要らない」と返す。
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ここで「要らない」と答えたことが、後々大きな意味を持つことになります。その意味については是非映画を観ていただきたいですが、そもそも慶多が父親に対して反発するような行動を取ったのもこの時が初めてではないかという意味でも、このシーンは重要だと感じました。
良多と慶多の関係は恐らく、「慶多が良多の希望に沿う選択をする」という形でギリギリのバランスを取っていたのだろうと思います。慶多は不満や違和感をずっと抱いていたけれども、それを抑えて良多の言う通りにするという決断が、過去ずっと続いてきたのだろうと感じさせる関係性です。
そもそも慶多は口数が少なく、何か口にしても「父親の目線を意識したお行儀の良い言葉」ばかりです。だからこそ、慶多が「要らない」という父親の意に沿わない返答をしたことが印象的でした。さらにこの「要らない」という短い言葉には、後に良多の目を開かせることになる大きな意味が込められており、映画全体でも非常に重要な、非常に印象に残る場面でした。
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よく言われることだろうけど、子どもも親を育ててるってことなんだろうなって思った
特に「父親」って、「母親」と比べて「親という存在」になるのに時間掛かりそうだしね
良多とは対照的に、妻のみどりは、「取り違え」における野々宮家の「悲しみ」を一手に引き受ける存在として描かれます。そもそも不在がちな良多の代わりに、家事と子育てのほとんどこなす彼女は、「子どもを交換してお互いの家に慣れさせる」という非日常に対しても1人で対処しなければなりません。
明確に描かれるわけではありませんが、みどりは「取り違え」が発覚した当初から、自分なりの結論を持っていたと思います。だからこそ彼女は、
慶多に申し訳なくて……。
と、その苦悩を口にするのです。「取り違えに気づけなかった」と自分を責め、さらに夫に自分の胸の裡をさらけ出せないことにも苦しさを抱いています。自分の気持ちを夫が理解してくれるはずがない、という確信が彼女の中にはあるのです。だから彼女は、自分1人でグルグルと頭を悩ませながら、辛い状況に立ち向かうことになってしまいます。
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そんな彼女がある場面で、
慶多はきっと、私に似たのよ。
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最後に
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そして、そんな現実に直面させられた者たちの姿から、「家族のあり方」を改めて考えさせられる映画だとも思います。
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「どこにでもいる普通の女性」が「横領」に手を染める映画『紙の月』は、「日常の積み重ねが非日常に接続している」ことを否応なしに実感させる。「主人公の女性は自分とは違う」と考えたい観客の「祈り」は通じない。「梅澤梨花の物語」は「私たちの物語」でもあるのだ
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実際に起こった衝撃的な事件に着想を得て作られた映画『ルーム』は、フィクションだが、観客に「あなたも同じ状況にいるのではないか?」と突きつける力強さを持っている。「普通」「当たり前」という感覚に囚われて苦しむすべての人に、「何に気づけばいいか」を気づかせてくれる作品
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ゴジラ作品にも特撮映画にもほとんど触れてこなかったが、庵野秀明作品というだけで観に行った『シン・ゴジラ』はとんでもなく面白かった。「ゴジラ」の存在以外のありとあらゆるものを圧倒的なリアリティで描き出す。「本当にゴジラがいたらどうなるのか?」という”現実”の描写がとにかく素晴らしかった
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「死は特別なもの」と捉えてしまうが故に「日常感」が失われ、普段の生活から「排除」されているように感じてしまうのは私だけではないはずだ。『湯を沸かすほどの熱い愛』は、「死を日常に組み込む」ことを当たり前に許容する「家族」が、「家族」の枠組みを問い直す映画である
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「80人の命を救うために、1人の少女の命を奪わなければならない」としたら、あなたはその決断を下せるだろうか?会議室で展開される現代の戦争を描く映画『アイ・イン・ザ・スカイ』から、「誤った問い」に答えを出さなければならない極限状況での葛藤を理解する
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映画『夜間もやってる保育園』によると、夜間保育も行う無認可の「ベビーホテル」は全国に1749ヶ所あるのに対し、「認可夜間保育園」は全国にたった80ヶ所しかないそうだ。また「保育園に預けるなんて可哀想」という「家族幻想」も、子育てする親を苦しめている現実を描く
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「映画」というメディアを構成する要素は多々あるはずだが、濱口竜介監督作『偶然と想像』は、「脚本」と「役者」だけで狂気・感動・爆笑を生み出してしまう驚異の作品だ。まったく異なる3話オムニバス作品で、どの話も「ずっと観ていられる」と感じるほど素敵だった
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村上春樹の短編小説を原作にした映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)は、村上春樹の小説の雰囲気に似た「自然な不自然さ」を醸し出す。「不自然」でしかない世界をいかにして「自然」に見せているのか、そして「自然な不自然さ」は作品全体にどんな影響を与えているのか
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ルシルナ
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ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
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