目次
はじめに
著:岡根芳樹
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ポチップ
この記事で伝えたいこと
「分かりやすい愛情」だけが「愛情」なわけではない
この父親のやり方はムチャクチャですが、子どもにちゃんと「愛情」が伝わっています
この記事の3つの要点
- 意地を張ってでも「普通のこと」はさせない
- 子どもに関心を持たない
- 闇に引きずられても戻ってこれる方法を教えるべき
自分の父親だったら……と考えると、正直しんどいですけどね(笑)
この記事で取り上げる本
著:岡根芳樹
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この作品は、著者と著者の父親の実話を基にした小説です。だったら小説ではなく、エッセイのような形でも良かったのでは? と思うかもしれませんが、そうはできない理由があります。
実際の父親はメチャクチャ無口だからです。
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そんなわけで、「この作品のような教育を実際に行った父親は存在している」のだけれども、「描かれている内容はフィクション」という小説が出来上がることになりました。
父親が発し続ける「普通から外れろ」というメッセージ
父親はとにかく、子どもたちを「普通」から外れさせようとします。
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良樹、人生はな、面白いかどうかが大事やぞ。どんな結果であってもやな、面白ければ人生は大成功なんや。
人生で最優先すべきことは、成功でも儲かることでもない。むしろ人生は失敗したほうが面白いんやぞ。変な人と言われることは光栄に思え。
ええか、「変なことをするな」って大人が子どもによく言うやろ。そんな言葉繰り返し聞かされ続けとったら、子どもたちは変なことができんようになるやろ。それはとんでもないことやぞ。
「平凡な人生が一番いい」なんて言う奴がおるが、世の中すべて平凡な人間しかおらんかったらこんなに人類は発展しとらんぞ
私は、子どもの頃にこういうことを言ってくれる大人が周りにいたらよかった、と本当に感じます。別に「普通であれ」とことさらに言われたわけではありませんが、日本の社会で生きていると、「普通でいろよ」という無言の圧力を感じてしまうでしょう。そんなもの無視していいんだ、とはっきり言ってくれる大人が、近くにいてくれたら良かったなと思います。
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私はなんとか、「普通から離れないとマズい」とどこかのタイミングで気づき、少しずつそれを実践していきました。たぶん、大学を中退した後ぐらいからだと思います。もしかしたらですが、もっと子どもの頃から「普通から外れないといけない」と考えていたら、大学を辞めなかったかもしれませんし、そもそも大学に行かなかったかもしれません。
まあ、中退したとはいえ、大学は行っといて良かったとは思ってるけど
「普通」から外れさせるために、父親は子どもたちに「あれをしてはいけない」「これをしろ」と強制します。それは、「普通でありきたりなことなんかするな」という父親のメッセージなのです。
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この一家は、決して裕福な家族ではなかったそうですが、時々とんでもなく贅沢な食事をします。しかしそのために、普段の日常の食事は限りなく貧しいものでした。父親は、「毎日ほどほどのものを食べて生きるより、普段の食事を切り詰めてでもたまに贅沢する」ということに価値を感じていたそうです。しかし著者の妹は、
ずいぶん後で聞いた話だが、あの時比沙子は毎日貧しい食事をして、たまにとんでもない贅沢をするという岡根家の風習が無性に悲しくなり、貧乏ならば無理しないでもっと「普通」の生活がしたかったそうだ
と、子ども時代の辛さを振り返っています。
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父親は、「普通」から外れる重要性を、こんな風に語ります。
しかし真と良樹は進んだ道こそ違いはあるが、どちらも誰かに選ばされた人生ではなく、自分で選んだ人生だから本人たちに悔いはないのだ。たとえ道に迷おうが失敗しようが自分で何とかするしかないし、なんともならなかったとしてもそれはそれでいいのだ。人生はある程度、適当であることが必要である
なるほど、と感じます。確かに、自分で選んでいるという事実は、非常に大事になるでしょう。
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子どもの頃から勉強ばかりさせられ、良い大学に入って公務員になれ、と言われ続けた人でも、人生上手くやっている人はいるでしょう。しかし、「自分はこんな風に生きたいと思ってたんだっけ?」と立ち止まってしまう人もいると思います。そう生きられれば幸せだ、というようなお仕着せのロールモデルに従って生きることが、すべての人を幸せにするわけではありません。
一方、それがなんであれ、自分で選んだ道なら、上手くいってもいかなくてもある程度以上に納得できるだろうと思います。そして、「自分で選んだのだ」という実感をきちんと持たせるために、この父親は「何も考えずに『普通』に流されるな」という教えを叩き込んでいるのでしょう。
意地を張ってでも「普通のこと」はするな、っていうスタンスは、良いよなぁ
子どもの頃は理解できなくても、大人になったら凄く感謝しちゃうと思う
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また、「自分で選んだ」と納得するためには、「選択肢がたくさんある中から選んだ」という感覚も必要になるでしょう。選択肢が2個しかないのと50個あるのとでは、「選んだ感」がまったく違うだろうと思うからです。
そして父親は、そんな環境もきちんと用意しています。
しかしそんな廃屋同然の岡根家の茶の間の薄汚れた壁には、カレンダーや画集を切り取ったものではあったが、ゴッホやシャガールやモディリアーニといった有名画家の作品が飾られ、ちょっとした美術館のようであり、いくつもの本棚には百科事典や図鑑や、少年探偵団シリーズ、怪盗ルパンシリーズ、芥川龍之介、夏目漱石、遠藤周作から世界名作文学集、さらにはドストエフスキーやニーチェに至るまで揃っていて、さならが公民館の図書室のようだった。
またステレオの棚にはクラシックやシャンソンやポルトガル民謡やフォルクローレのレコードがずらりと並んでいたり、おまけになぜか顕微鏡や天体望遠鏡まであり、さらには中古だがピアノまであった。
ピアノはいらないから、せめてつっかい棒がない家に住んだ方がいいのではないかと思うのだが、すべて主である哲和の「必需品より嗜好品を優先させる」というこだわりだった
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確かに、「そんなことよりもう少し良い家に住もうと」と、特に子どもの頃は感じてしまうでしょうが、貧しいながらにこれだけの環境をきちんと整えようとする父親の感覚は見事だとも思います。
「お金がない」ということが、未来の選択肢を狭めてしまうことは多いでしょう。しかし父親は、お金がない中でもどうにか知恵を絞り、家族に忍耐を強いながらも、視界に入る選択肢を増やそうと努力するし、そのスタンスは素晴らしいなと感じます。
子どもの頃に、熱中できる何かに出会えるのって、ホント大事だと思う
そのためには、触れる選択肢は多いに越したことないよね
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父親は「子どもには無関心であれ」と考えていた
本書の中で私が最も共感したのが、
子どもを子ども扱いしていないということだ
という父親のスタンスです。
私は恐らく、子育てを経験することなく人生を終えるでしょうが、仮に子育てをする機会があったとしたら、この点を重視しようと考えています。子どもを「子ども」という枠組みの中に当てはめて接するのではなく、「一人の大人」と同じ扱いをしよう、と決めているのです。
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子どもの頃、「子どもなんだから◯◯」と言われることに嫌悪感を抱かなかったでしょうか? 私は、「子どもだから可愛い/できない/まだ早い」みたいなことを言われるのは、凄く嫌だったことを覚えています。多くの人も同じではないでしょうか。
そしてそれなのに、自分が大人になったら、子どもを子ども扱いして接してしまいます。なんなんでしょうね、あれは。
私は、時々会う姪っ子・甥っ子に対しても、子ども扱いはしないぞ、と決めています
子ども扱いした時点で、「話の通じない大人」に分類されちゃうからね
またこの父親はそもそも、子どもに関心を持ちません。
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岡根哲和は、まったく子どもに無関心な男である
子どもには関心を持って愛情を注いだほうがいい、という考えももちろんあるでしょう。しかし私は、父親に関心を持たれなかった著者のこんな感覚が凄く理解できます。
少なくとも関心を持たれなかった岡根家の子どもたちは、変なプレッシャーを受けることもなく、親の被害者になることもなく、のびのびと真直ぐに育つのであった
分かるなぁ、という感じがします。
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私は、両親から直接的に何か言われたわけではありませんが、自分が長男だったこと、そして勉強だけはできたことで、勝手に「親から期待されている」と思い込んでいました。そして、この思い込みにやられてしまいます。なんというか、親がもっと「お前になんか期待してないぞ」という積極的な態度を見せてくれていたら、また違っていたかもしれない、と感じるのです。
もちろん、褒められたり期待されたりする方が伸びる、って人もいるだろうから、一概には言えないだろうけど
私の周りには、「期待されたくない」ってタイプの人、結構多いけどね
しかしもちろん、まったく無関心なわけではありません。こんなとんでもないエピソードがあるからです。
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著者は、アルバイト先のファミレスに深夜忍び込んで、仲間と一緒に食材などを勝手に食べていたことが店にバレてしまいます。父親と共に店まで行くのですが、父親は謝るどころか、こんな風に怒鳴り散らします。
お前が経営者か、俺の息子が何したか知らんが、警察に通報して退学でも何でも勝手にしろ! その代わりええか、未成年を夜十時以降働かせた罪で訴えてこの店潰してやる!
凄いですね。完全にモンスターペアレントと判断されるでしょう。著者自身、100%自分が悪いし、父親が言っていることは屁理屈だ、と書いています。しかしその一方で、そんな父親の姿を見て、
この人は、社会的とか世間体とかどうでもいいのだ。善も悪も損も得も関係ない。この人は、ただ命懸けで家族を守ろうとしているのだ
その哲和の強い思いに完全に打ちのめされ、良樹は自分のやった愚かな行動を心から強烈に反省した
と感じるのです。
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父親の行動はまったく褒められたものではないし、真似したいとも思わないけれども、「子どもを愛している」と伝える方法は様々だ、ということを実感させられるエピソードでもあると感じました。
にしても、父親がこんなことを言い出したら、メッチャ恥ずかしいよね
だから、「もう二度とやらないようにしよう」と思えるのかもだけど
「闇に触れることも大事だ」と伝えていた
また、これも子どもの頃に知りたかったなぁと感じた、こんな言葉があります。
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せやから人間の心には、光も大事やけど同じように闇も必要なんや
「闇」の重要さは、大人になってから少しずつ分かってくるようになりました。例えば、自分が辛い経験をしていればしているほど、他人の辛さを理解し優しくすることができるようになります。また、創作に携わる人はよく、「自分のどす黒い部分を綺麗なものに昇華させる過程で作品が生まれる」みたいな表現をするでしょう。
私は、「闇」的な部分が見えない人にはあまり関心が持てませんし、あまり信用ができません。なんというのか、もの凄く偏見ですけど、人間が通るべき道筋をきちんと通っていないような印象を持ってしまうからです。
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基本的には、見せるか見せないかの問題で、誰にでも「闇」はあると思ってるんだけど
それでも、まったくそんな雰囲気を感じない人は、やっぱちょっと怖くなっちゃうよね
でも、子どもの頃は、こういう「闇」的な部分は手放さなければいけないんだ、と思っていました。こんなものを持ってたらダメなんだ、みたいに感じていたはずです。だからこそ、「闇を持っているのは人間として正常なんだ」と言ってくれる大人がいてくれたら良かった、と考えてしまいます。
そんなクジラのようにや、ある時期は好きなだけ引きこもっとってもええやないか。いや、むしろそんな時間が誰にでも必要なんちゃうか。
無理に急いで闇から引きずり出すよりも、闇の中の面白さやら、遊び方やら、光の世界に戻ってくる方法やら、そんなことを子どもに教えてやることの方が重要なんちゃうか
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これもいいですよね。確かに、闇に引きずられてしまったことにオロオロするのではなく、「光の世界に戻ってくる方法」をどう教えるかを考える方が遥かに重要です。戻ってくる方法さえ分かれば、再び闇に引きずられるようなことがあっても、また対処できますからね。
光があるから闇がある、というのは使い古された言葉ですけれど、本当にそれが表裏一体なんだ、闇に引きずられても片道切符ではないんだ、ということを教えてくれる大人の存在は、とても大事だと思っています。
私は、自分が闇に引きずられた時の状態を理解したから、なるべくそこに落ち込まないためにどうするか考えるようになった
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著:岡根芳樹
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私は、この作品で描かれる父親のスタンスにとても共感します。しかし同時に、著者自身書いているように、”劇薬”でもあるでしょう。
この本に含まれた毒は、希望が持てない不安な時代にこそ必要な価値観であり、いつしか精神を鍛え育てる術を無くしてしまった現代の日本の教育に必要な、健全なる哲学である。
その毒は、無難に収まろうとする人生に疑問を投げかけ、奇人変人と呼ばれようが異端児と言われようが、自分というかけがえのない個性に誇りを持って生きるための一つの道標となるだろう
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覚悟もないまま形だけ真似するのは、非常に危険だと思います。父親のこのスタンスは、概ね子どもたちを良い方向に進ませると私は感じますが、残念ながら合わない子どももいるでしょう。自分の信念をきちんと持って、それを貫く覚悟で実行しないと、親にとっても子どもにとっても不幸な結果になってしまうと思います。
子どもの頃にどんな大人と関われるかで、人生は大きく左右されてしまいます。そして、最も身近な大人である親のスタンスは、子どもの人生に大きく影響します。子育てに正解はないでしょうが、「正解の幅はかなり広い」と理解しておくことは重要でしょう。
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そういう意味で本書は、「子育ての正解の幅」を大きく広げる作品として価値があると感じます。
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