目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
「悪は存在しない」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
今どこで観れるのか?
公式HPの劇場情報をご覧ください
この記事の3つの要点
- 誰もが困惑せずにはいられないだろう衝撃的なラストには、どのような解釈が成り立ち得るのか?
- 『悪は存在しない』というタイトルが先導する形で、作中のあらゆる要素が様々な思考を誘発する
- いくらでも深く考察出来るように思える物語と、面白さ・リアリティを兼ね備えた会話がとにかく素晴らしい
映画文化を守るためだろう、ミニシアターでしか公開しないという手法も含め、濱口竜介はあまりに異端的なフィルムメーカーである
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記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
「凄まじいものを観た」という感覚がとても強い。映画『悪は存在しない』(濱口竜介監督)は一体何を描き出していたのか?
ラストの衝撃に、今も困惑させられている
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「さっきの話なんですけど」
「うん」
「野生の鹿って、人を襲うんですか?」
「襲わない」
「でも時々、奈良の鹿が人を襲ったとかってニュースになったりしますよね」
「あれは人に慣れすぎてるだけ。野生の鹿は襲わない」
「絶対に?」
「絶対に。鹿は臆病だから、人を見れば必ず逃げる。可能性があるとすれば、半矢の鹿かその親」
「ハンヤ?」
「手負いって意味。逃げられないとしたら、抵抗するために襲うかもしれない。でも、あり得ない」
「でも、人を怖がるっていうなら、そもそも、グランピング場を作ったら鹿も近づかなくなるんじゃないですか?」
「……その鹿はどこへ行く?」
「どこって……どこか別の場所」
「……」
ということなのだろう。恐らく。それ以上のことは分からない。
本作を観た者は、誰もがきっと「ラストの展開」に衝撃を受けるはずだ。そして、困惑させられる。自分は今、一体何を観たのだろうか? 何がどうなって、この”異様な”展開がもたらされたのだろうか? ずっと「静」だった物語が一気に「動」へと変転したかのようなラストに、観客は放心するしかない。
しかしどうにかその意味を掴みたいと思い、先のやり取りを思い出したというわけだ。このやり取りを踏まえれば理解できる、かもしれない。
そんな衝撃的な映画なのである。本当に、何なんだろう、この映画は。
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鑑賞中ずっと、『悪は存在しない』というタイトルを意識させられ続けた
本作についてはとにかく、『悪は存在しない』というタイトルが実に秀逸で絶妙だと思う。何故なら観客は、観ている間ずっとこのタイトルのことを意識せざるを得ないからだ。「悪とは何を指すのか?」「それは本当に存在しないのか?」「今目の前で展開されているのは悪ではないのか?」など、ワンシーンワンシーンをこのタイトルに引きつけて捉えたくなってしまうのである。
本作では、様々な「悪らしきもの」が映し出されていく。その最も分かりやすい対象が、「自然豊かな土地にグランピング場を開発しようと考えている東京の芸能事務所」だろう。「事業計画を出せばもらえる」と作中で言及されるコロナ助成金が使えるということで、畑違いの事業に手を出そうとしているのだ。社長は、「コロナ助成金が使えて、金儲けできるなら何でもいい」ぐらいの感覚であり、グランピング場にさほど思い入れがあるわけではない。そしてそのような状況で、それまで芸能の仕事をしていた社員2人が、グランピング場の担当を任されたのだ。
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2人は、既に事務所が土地を買っている長野県水挽町の建設予定地へと出向き、住民説明会を開く。この事業にアドバイスするコンサルにそう言われたからだ。そして彼らはこの住民説明会をきっかけに、事務所がやろうとしているグランピング場計画に一層不信感を抱くようになった。住民からの指摘が実に真っ当だったため、「『助成金をもらっているから』なんていう理由で突貫工事を行っていいのだろうか?」と考え始めたのだ。
さて、「自然豊かな土地にグランピング場を建設する」という設定だけ聞くと、「住民との対立」が描かれるような印象を抱くのではないかと思う。しかし本作は、そんな分かりやすい展開を用意してはいないのである。住民側は決して「何がなんでも絶対に反対」というわけではなく、「少なくとも、今の計画には不備がありすぎる」と指摘しているに過ぎない。そして芸能事務所の2人は、そんな住民の意見の妥当さを理解し、「もっと住民の意向に沿った形で進めていくべきだ」と考えるようになっていくというわけだ。
このように、「悪らしきもの」が描かれながらも、実はそこには「悪は存在しない」という構図が描かれていく。まさにタイトルが示唆する通りの状況と言えるだろう。
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また、先程の「鹿」の話にしても同じだ。冒頭で引用した会話は、実務を担う芸能事務所の2人と、地元で便利屋を行う主人公との会話である。2人は、事務所の方針に反して「もっとこの土地のことをよく知ろう」と考え、区長から「何かあれば彼に聞くといい」と言われた便利屋に教えを請うことにした。そしてその中で便利屋が、「あの土地は、鹿の通り道なんだ」という、住民説明会の時には出なかったことを話し始めたのだ。
2人は最初、「鹿が来るなら塀を作らないといけないか?」と聞いた。しかし便利屋は、「野生の鹿は2mはジャンプするから、塀を作るなら3mはないといけない。でも、そんな塀がある土地にグランピングに来たいと思うのか?」みたいに返す。便利屋はさらに、「反対してるわけじゃなくて、単純に分からないんだ」と、ここでも「決して頭ごなしに反対しているわけではない」という姿勢を見せるのである。
そしてその後で、冒頭で引用したような「そもそも鹿が怖がって逃げるなら塀も要らないだろうし、だったら、鹿の通り道であることが悪いことには思えない」みたいな話になっていくというわけだ。こちらについても、先程とはまた違った意味合いではあるが、やはり『悪は存在しない』というタイトルを強く意識させる状況だと言えるだろう。
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「この土地を離れなければならないかもしれない」という微かな示唆
さて、冒頭で引用した鹿に関する会話は、別の示唆も与える。そしてそれは、「グランピング場を作るなら、俺たちはこの土地を出ていくかもしれない」というニュアンスであるように私には感じられた。
先述の通りだが、「鹿の通り道」に関する話の中で、「鹿が人間を怖がるなら、グランピング場が出来たらそもそも鹿は近づかなくなるかもしれない」という意見が出た。確かにそれはその通りかもしれない。しかし便利屋としては当然、「その鹿はどこへ行くんだ?」と考えてしまう。鹿がそこを通るのは彼らなりの必要性があってのことなのだから、そこがグランピング場になり近づけなくなってしまえば、鹿は困るはずだ。しかし、そのような想像が及んでいない実務担当の2人は、「どこか別の場所へ」と、何も考えていないことが伝わる返答をしてしまう。そしてそれに対して便利屋は沈黙で返すのである。
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この時の便利屋の沈黙に、何か重い意味が含まれているように私には感じられた。そしてそれは、安易すぎる捉え方かもしれないが、「グランピング場が出来たら、ここに住む者たちはどこに行けばいいんだ?」というニュアンスではないかと思えたのだ。そう感じた理由の1つに、住民説明会の中で議論になった「水」に関する話がある。
住民説明会の中で質問が集中したのが「合併浄化槽」についてだった。恐らく、「生活排水や汚水などを処理するタンク」みたいなものだろう。その設置場所や処理能力などに関する疑問が多く出されたのだ。そしてそこには、水挽町の住民が抱く「水資源の豊かさ」への自負が関係している。
説明会では、うどん店を切り盛りする女性も発言していた。本作では冒頭に、主人公の便利屋が川で水を汲むシーンがあるのだが、それは彼女が営むうどん店で使われるものである。そして彼女は、「私は少し前に移住してきたばかりなのですが」と切り出し、「普段、近隣住民の皆さんのお陰でうどん屋をやれています」と語り始めるのだ。
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その中で彼女は、「皆さんとお話をすると、『水の豊かさ』に対する誇りの強さを感じるんです」と口にする。そしてさらに、「あなた方には、この計画が、そんな『町の誇り』に触れるものなのだと理解していただきたいんです」と、「古くからの住民ではない」という一歩引いた立場から、彼女なりの懸念を2人に伝えようとするのだ。
その後で、ダメ押しのように区長が立ち上がり、さらに「水」について語る。彼が話したのは「上に住む者の義務」についてだ。水挽町は山の上の方にあり、そして当然のことながら、「水」は高いところから低い方へと流れていく。つまり、水挽町の住民が「水」に与えた影響は、確実に山の下に住む者に影響を与えることになるのだ。「水は下に流れていくから気にしなくていいや」という身勝手な振る舞いでは、この地で生きていくことは出来ない。上に住む者には「水を汚さない義務」があるのだ。区長はそのようなことを話すのである。
つまり、「水の豊かさに惹かれてこの地にやってきた」のであれ、「下の住民に対する責任を負っていると考えている」のであれ、水挽町の住民にとって「水資源の豊かさ」は、生活における大前提と言ってもいいのである。
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では、その「水資源の豊かさ」が失われてしまったら、彼らはどうするだろうか?
もちろん、住み慣れた土地を簡単に離れるようなことはしないかもしれない。しかし一方で、本作には「水挽町は開拓用の土地だった」という話が出てくる。戦後の農地改革の際、土地を持たない者たちに与えられた土地というわけだ。つまり、住民は少し歴史を遡れば皆「余所者」だったのであり、「先祖代々の土地」ではないというわけだ。となれば、彼らが誇りとしている「水資源の豊かさ」が失われてしまったら、彼らがこの地を離れる可能性も十分にあると考えていいだろう。
私にはこのように、「グランピング場が出来たら従来の住民が離れていくこと」と「グランピング場が出来たら野生の鹿が近づかなくなること」が対比的に描かれているように感じられたのだ。そしてだからこそ、「どこか別の場所へ」と想像力のない返答をした2人に、便利屋は沈黙で返したのではないだろうか。
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そして、ここからさらに想像を膨らませることも可能だ。先程の対比はシンプルに、「住民=野生の鹿」と受け取れるだろう。さらに、その上であの衝撃的なラストシーンを捉えるならば、「便利屋=半矢の親」とも考えられるはずだ。そしてそれならば、あの異様とも言えるラストシーンが解釈可能なものに感じられるのではないか。というか、これ以外の解釈などなかなか出来ないように思う。
提示された瞬間には、そのあまりの意味不明さに驚愕させられるが、与えられた条件を少しずつ読み解いていくと、合理的に感じられる解釈が見えてくる。もちろん、私の捉え方が正しいとも限らないわけだが、いずれにしても「このシーンには、その奥にもっと何かあるはずだ」と感じさせる濱口竜介の手腕がこの作品を成立させていると言えるだろう。
さらに言えば、このラストシーンに至る過程もまた、『悪は存在しない』というタイトルを強く意識させるものである。振り返ってみれば、冒頭から様々な描写が積み上げられてきたことが分かるだろう。時折森に響き渡る鹿猟師の銃声。日々うっかり忘れてしまう保育園のお迎え。父親の森に関する豊富な知識を吸収しようとする娘。森から持ち帰ってくる“贈り物”を喜ぶ区長。それらはどれも「悪」と呼べるようなものではない。しかし、そんな「悪ではない要素」が重なり合うことでラストの状況が生み出されているのである。
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淡々とした展開なのに、あらゆることが繋がっていると感じさせられる、実に驚異的な物語なのだ。
『悪は存在しない』というタイトルの、少し異なる捉え方
さて、『悪は存在しない』というタイトルに絡めて、また少し違った話をしよう。ここまでは、「『悪らしきもの』は存在するが、悪は存在しない」「『悪は存在しない』のに悪い状況が起こってしまっている」という解釈に触れてきたが、さらに本作には、「局所的には悪を見つけることが出来ない」というような描写もある。それは、先述した「上に住む者の義務」に関係する話だ。
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住民は、「グランピング場の建設による水質悪化」を懸念している。もちろんそれは当然だろう。しかしその一方で、現実的な話をすれば、「水質が悪化した場合、その原因が間違いなく『グランピング場の建設』にある」と示すこともまた非常に難しいのではないかと思う。ネットで少し調べてみたが、「水中低層の酸素濃度の低下」や「アオコの異常発生」なども水質の悪化の原因になるようだ。そのような様々な可能性がある中で、「『グランピング場の建設』が水質の悪化の直接の要因だ」と証明するのは困難だろうと思われる。
まずこの点が、あくまでも逆説的にではあるが、『悪は存在しない』というタイトルに関係していると言えるだろう。「明らかに『悪』だとは思うが、それが主たる要因であると判断するのは難しい」という状況は、皮肉的に「悪は存在しない」と表現できるように思う。
一方で、「水質の悪化」が起こったとして、局所的にはその影響力は限定的と言えるだろう。確かに「水質の悪化」は多方面に影響を及ぼすに違いない。森の動植物や川・海に生きる生物、もちろん水を使う人間にも影響が出てくるだろう。しかし、公害と呼べるほどの汚染でもない限り、例えば「ひと掬いの川の水」が何か害を及ぼすようなこともないように思う。担当の2人も便利屋に、「そうだとしても、東京の水よりはずっと綺麗なわけですし」と言っていた。「水質の悪化」という悪は確実に存在するのだが、その影響力が薄く広く引き伸ばされているために、局所的には「悪は存在しない」と言えてしまうというわけだ。
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そして私たちの身の回りには、このような「悪だと断言するのが難しい『局所的に悪は存在しないと言える状況』」が存在する。最もイメージしやすいのはスマホだろう。「圧倒的な便利さ」を享受出来るため悪だと断言するのは難しいが、しかし様々な悪影響が報告されてもいる。スティーブ・ジョブズが自分の子どもにiPhoneやiPadを使わせなかったという話も有名ではないかと思う。とはいえ、もはや「インフラ」と呼べる存在になっているため、「使わない」という選択をするのも困難である。
さらに、「みんなが使っている」という事実が「局所的には悪は存在しない」という状況を生み出してもいるのだ。「赤信号みんなで渡れば怖くない」みたいなことである。仮にその行為が「悪」なのだとしても、みんながしていることなら罪悪感も薄まるわけで、結果的に「悪は存在しない」と言える状況が生まれるというわけだ。
本作のタイトルが『悪は存在しない』ではなかったとしたら、同じ映像・物語に触れても、このような思考には行き着かなかっただろう。間違いなく、『悪は存在しない』というタイトルに誘発されるようにして様々な思考が引き出されたと言える。「レオナルド・ダ・ヴィンチが自身の絵に様々なメッセージを隠した」みたいな話はよく知られているだろうが、濱口竜介も同じように、『悪は存在しない』というタイトルと共に作品を提示することで、作中に埋め込まれた様々なメッセージを解読させようとしているように感じられた。
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「会話」も「シーンの切り取り方」も実に魅力的だった
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これまでに観た作品の中では、映画『偶然と想像』がとても印象的だった。3つの物語で構成されるオムニバス映画なのだが、その内の1作『扉は開けたままで』では、客席からずっと笑い声が上がっていたのだ。登場人物たちは決して、「他者を笑わせよう」と意図したセリフを口にするわけではない。しかし、状況のすれ違いや会話のタイミングなどから、観客が思わず笑ってしまうような展開になっているのである。
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そしてそのような「会話」の見事さは、やはり本作でも見られた。笑えるシーンが多い作品ではないが、本作でもやはり、「登場人物は全然面白いことを言っていないのに、観客が思わず笑ってしまうシーン」が描かれるのである。お笑いでよく言われる「緊張と緩和」による効果なのだと思うが、濱口竜介はこのように「会話の内容」というよりは「その会話がなされている状況」を絶妙にコントロールし、観客の反応を操るのがとても上手いと思う。
さらに「会話」の話を続けるが、本作には「車内の会話」が延々と続くシーンがある。そしてこちらに関しては、その「リアリティ」がとても印象的だった。この「車内の会話」については、映画『偶然と想像』の中の1作『魔法(よりもっと不確か)』の雰囲気が近い。2人の女性が、特に中身があるとは思えないような会話を延々と続けるシーンなのだが、物凄くリアルなものに感じられたのだ。そして本作『悪は存在しない』での、グランピング場建設の実務を担う2人の会話もまた、とてもリアルなものに思えたのである。このような「物語的に意味があるとは思えない、しかし私たちが普段の日常の中で当たり前のようにしている会話」を“するり”と提示するのが本当にとても上手い。フィクションに触れてそのように感じることは決して多くはないので、特異な才能だなと思う。
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映像的には、「カメラを固定した状態でのワンカット長回し」みたいな場面が多かった印象がある。先程書いたように、濱口竜介作品は「役者の動き」が少ないので、それに比例するような形で「固定された画面」が多くなるようにも思う。さらに本作の場合、そのほとんどのシーンが「雄大な自然」をバックにしたものなので、「風景画に描かれた人間が時折動く」みたいな印象を与える映像が多かったと言える。
そしてそのような撮り方によって自ずと、「自然の静」と「人間の動」が、そして「自然の大」と「人間の小」がとても対比的に映し出されているようにも感じられた。さらにその結果として、「人間」ではなく「その周辺に広がる自然」こそが映像における「主」であるような印象になったようにも思う。「人間のちっぽけさ」みたいなものが映像的に伝わるような画面構成を意識的に行ったのではないかと感じた。
そのような「カメラを固定した状態でのワンカット長回し」で撮られた映像の中で、個人的に「これは撮影が大変だったんじゃないか」と感じたのが、薪割りのシーンだ。「便利屋がしばらく黙々と薪割りを続けた後、別の人物が斧を持ち、幾度か失敗してから、便利屋のアドバイスを受けて一発で成功させる」という場面なのだが、私の体感では、この一連のシーンが5~10分程度ワンカットで映し出されていたように思う。その間、誰かがミスをしたらやり直しである。特に、「幾度か失敗したが、アドバイスを受けて一発で成功させる」という部分が難しかったのではないかと思う。そんな撮影の裏側を勝手に想像しながら鑑賞していた。
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最後に
ラストシーンは、今後も時々思い出してしまうんじゃないかというくらい衝撃的だったし、きっと一生消化しきれないままだろう。ただ、「それでもいいか」と思わせる何かがあり、そのことにも驚かされてしまった。人間はやはり「理解したい」と考える生き物だろうし、だからこそ「理解できない」という状況にはモヤモヤしてしまうものだ。しかし本作の場合、「そんな『理解』にたどり着けなかったとしてもまあ仕方ない」と思わせる雰囲気が漂っているのである。少なくとも、私にはそのように感じられた。どのような理屈でそんな状況が成立しているのか分からないが、とにかく、濱口竜介という監督の不可思議な才能を実感させられる作品だと言えるだろう。
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さて最後に。私は本作を公開直後に観に行ったが、その時点で東京での公開館はたったの2館。その状況は、本記事を書いている現在も変わっていない。どうやら「ミニシアターを守りたい」という濱口竜介の想いが強く反映されているようだ。確かにそれはとても素晴らしい決断だと思う。しかし、それにしたって公開館が少なすぎないだろうか。公式HPを見ると、北海道の4館を除けば、どの県も1~3館での公開であり、恐らく「そこまで行けないから観られない」みたいな人も結構いるだろう。もちろん、熟考の上での決断なのだろうが、私の個人的な考えでは「もう少し観れる可能性は増やした方がいいのではないか」と思う。
観終わった後は、一層そのように感じた。この衝撃は、より多くの人に味わってもらいたいと思う。
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1967年に放送された、寺山修司が構成に関わったドキュメンタリー『日の丸』は、「TBS史上最大の問題作」と評されている。そのスタイルを踏襲して作られた映画『日の丸~それは今なのかもしれない~』は、予想以上に面白い作品だった。常軌を逸した街頭インタビューを起点に様々な思考に触れられる作品
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観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
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テレビ東京の上出遼平が作る、“異次元のグルメ番組”である「ハイパーハードボイルドグルメリポート」の書籍化。映像からも異様さが伝わる「激ヤバ地」に赴き、そこに住む者と同じモノを食べるという狂気が凄まじい。私がテレビで見た「ケニアのゴミ山の少年」の話は衝撃的だった
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【表現】映画『名付けようのない踊り』で初めて見た田中泯のダンス。「芸術以前」を志向する圧倒的パワー
映画『名付けようのない踊り』の中で田中泯は言う。「私」や「個性」を表現することには違和感がある、と。「踊りのために身体を作る」のではなく、「野良仕事で出来た身体で踊る」のだ、と。芸術になる前の踊りを探したい、と。「唯一無二の表現者」の生涯と現在地を映し出すドキュメンタリー
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ナチスドイツナンバー2だった宣伝大臣ゲッベルス。その秘書だったブルンヒルデ・ポムゼルが103歳の時にカメラの前で当時を語った映画『ゲッベルスと私』には、「愚かなことをしたが、避け難かった」という彼女の悔恨と教訓が含まれている。私たちは彼女の言葉を真摯に受け止めなければならない
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【無謀】園子温が役者のワークショップと同時並行で撮影した映画『エッシャー通りの赤いポスト』の”狂気”
「園子温の最新作」としか知らずに観に行った映画『エッシャー通りの赤いポスト』は、「ワークショップ参加者」を「役者」に仕立て、ワークショップと同時並行で撮影されたという異次元の作品だった。なかなか経験できないだろう、「0が1になる瞬間」を味わえる“狂気”の映画
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【特異】「カメラの存在」というドキュメンタリーの大前提を覆す映画『GUNDA/グンダ』の斬新さ
映画『GUNDA/グンダ』は、「カメラの存在」「撮影者の意図」を介在させずにドキュメンタリーとして成立させた、非常に異端的な作品だと私は感じた。ドキュメンタリーの「デュシャンの『泉』」と呼んでもいいのではないか。「家畜」を被写体に据えたという点も非常に絶妙
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【衝撃】NHKがアマゾン奥地の先住民ヤノマミ族に長期密着。剥き出しの生と死、文明との共存の難しさ
NHKのディレクターでありノンフィクション作家でもある国分拓が、アマゾン奥地に住む先住民ヤノマミ族の集落で150日間の長期密着を行った。1万年の歴史を持つ彼らの生活を描き出す『ヤノマミ』は、「生と死の価値観の差異」や「先住民と文明との関係の難しさ」を突きつける
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【衝撃】洗脳を自ら脱した著者の『カルト脱出記』から、「社会・集団の洗脳」を避ける生き方を知る
「聖書研究に熱心な日本人証人」として「エホバの証人」で活動しながら、その聖書研究をきっかけに自ら「洗脳」を脱した著者の体験を著した『カルト脱出記』。広い意味での「洗脳」は社会のそこかしこに蔓延っているからこそ、著者の体験を「他人事」だと無視することはできない
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【感想】リドリー・スコット監督の映画『最後の決闘裁判』から、社会が”幻想”を共有する背景とその悲劇…
例えば、「1万円札」というただの紙切れに「価値を感じる」のは、社会の構成員が同じ「共同幻想」の中に生きているからだ。リドリー・スコット監督の映画『最後の決闘裁判』は、「強姦では妊娠しない」「裁判の勝者を決闘で決する」という社会通念と、現代にも通じる「共同幻想」の強さを描き出す
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映画『ONODA 一万夜を越えて』を観るまで、小野田寛郎という人間に対して違和感を覚えていた。「戦争は終わっていない」という現実を生き続けたことが不自然に思えたのだ。しかし映画を観て、彼の生き方・決断は、私たちと大きく変わりはしないと実感できた
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「『正しさ』は人によって違う」というのは、私には「当たり前の考え」に感じられるが、この前提さえ共有できない社会に私たちは生きている。映画『由宇子の天秤』は、「誤りが含まれるならすべて間違い」という判断が当たり前になされる社会の「不寛容さ」を切り取っていく
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私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
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1964年の東京オリンピックを機に建設された「都営霞ケ丘アパート」は、東京オリンピック2020を理由に解体が決まり、長年住み続けた高齢の住民に退去が告げられた。「公共の利益」と「個人の権利」の狭間で翻弄される人々の姿を淡々と映し出し、静かに「社会の在り方」を問う映画
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ルシルナ
旅・冒険・自然【本・映画の感想】 | ルシルナ
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