目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:サシャ, 出演:カリーヌ, 監督:セバスチャン・リフシッツ
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
8歳の少女の「達観したような無表情」には心を抉られるような辛さを感じてしまう
日々抑え込んでいる涙が思わず溢れてしまう場面は、あまりにも辛すぎる
この記事の3つの要点
- 2歳の時点で既に「私は女の子」だと主張し、「性別違和」に苦悩していたサシャ
- LGBTQへの理解が進んでいると思いこんでいたフランスでの、まさかの不寛容
- サシャが最も辛いはずなのに、母親を苦しめたくないと言葉も感情も飲み込む少女の決意
「自分のせいでサシャがこんな風に生まれたのではないか」と自責の念を抱いてしまう母親の姿も辛すぎる
自己紹介記事
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「私は女の子だ」とずっと言い続けていました。
映画に映し出されるのは、当時小学2年生のサシャという男の子です。しかしサシャは、「自分は本当は女の子だ」と主張しています。そのような現実が切り取られた映画なので、この記事ではサシャのことを「彼女」と呼ぶことにしましょう。
最初の頃はこう言っていました。「女の子になりたい」。
2歳半~3歳の頃にはもう。
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日本では「性同一性障害」という名称の方が一般的かもしれませんが、この記事では「性別違和」で統一したいと思います。サシャは、「性別違和」の感覚を2歳頃には既に感じていて、その苦痛に苦しんでいたというわけです。
私はその事実に驚かされました。まずはその辺りの話からしていきたいと思います。
LGBTQの方面への理解は、まだまだ全然だなぁって思わされた
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性的マイノリティーやLGBTQに関する話は、一昔前と比べて当たり前に話題に上るようになってきたと言えるでしょう。私は、同性婚は認められるべきだと思うし、性転換手術を伴わない性別変更もアリだと思います。スポーツなど、男女差が浮き彫りにならざるを得ない領域についてはまだまだ議論が必要だと感じますが、恋愛・結婚・社会的地位などに関しては、「性的マイノリティーであることによって何ら制限されるべきではない」という考えです。
しかし一方で、私はLGBTQには当てはまりません。私の周りにも、少なくとも私にそうであると明かしてくれた人はいません。過去に1人だけ、「性的欲求をまったく抱けず、セックスをしても何も感じない」という、「アセクシュアル」と呼ばれる状態にあると教えてくれた人がいたぐらいです。なので正直なところ、積極的に情報収集をしようという意識もありません。
周りに1人でもいるなら、もうちょっと調べたり考えたりするとは思うけど
カミングアウトしてないだけかもだけど、とりあえず認識では0人だからね
そういう「意識低い系」である私にとって、「LGBTQ」に関する事柄はどうしても、「恋愛・結婚面」の問題として強く意識されていたのだと思います。メディアなどで性的マイノリティーの人が取り上げられる際も、「同性のことが好きだと気づいて、初めて自分の性自認に至った」という話が多い印象でした。だから「恋愛を意識する年齢になるまでその自覚は訪れない」のだとばかり思い込んでいたのです。
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だからサシャが、2~3歳の時点で「性別違和」を自覚し、その辛さを訴えていたという事実に驚かされてしまいました。
サシャのような、心と身体の性が異なる人を「トランスジェンダー」と呼びますが、サシャのような性自認のプロセスのケースがトランスジェンダーの人にとって「当たり前」なのか「稀」なのか、その辺りは私にはちょっと分かりません。ただ、ネットでちょっと調べると、日本でもサシャのようなケースはあるようなので、頻度こそ分かりませんが、珍しいというほどでもないのかもしれないと感じました。
自分でも、この誤解はちょっと恥ずかしいなって思ったわ
でも、身近ではない世界のことは、こんな風に間違いながら知っていくしかないよね
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おちんちんを嫌がっている。
子を産めないことも嫌だと。
サシャが昔こんなことを言っていたと母親が語る場面があります。これも、映画撮影時よりもずっと前の話です。正直私は、「自分は男だ」という、心の裡から湧き上がってくるような感覚を実感したことがありません。「男の身体で生まれたし、男なんだろう」程度の認識なのでしょう。だからこそサシャの、「自分の身体は男だけど、実際は女なんだ」という主張にはやはり驚かされてしまうし、どうしても私には想像が及ばない感覚だとも思いました。
母親の苦悩、そしてフランス社会における反応
映画の主人公はサシャですが、サシャ本人はあまり喋りません。これまで彼女の心の裡をたくさん聞いてきた母親が、サシャの心情を代弁するような形で語る場面が多いと言えるでしょう。
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そしてその過程で、母親自身が抱いている苦悩も告白します。
4歳の時、サシャは「女の子になりたい」と言い続けた。
「それは無理よ」と私が言うと、サシャは辛くて泣き始める。
「ママの言葉に傷つけられて人生も夢も壊されてしまった」というような涙よ。
子どもが泣いている姿を目にすると、ひどいことを言ったと後悔する。
まずは当然、「性別違和」を抱えるサシャと向き合う時間が、母親にとって苦しいものになってしまいます。我が子の真剣な悩みに、母親は為す術もありません。性転換手術という手段は存在しているわけですが、幼い子供に対しては現実的ではないでしょう。だから母親は、「サシャの希望は叶わない」と伝えるしかないわけです。そのことは、サシャだけでなく母親自身をも傷つけることになってしまいます。
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また、母親はこんな視線とも戦わなければならなくなります。
学校でも言われた。
サシャが女の子だと主張するのは親のせいでは? と。
映画の舞台はフランスですが、私の勝手なイメージでは「フランスという国は、様々な理解が日本より進んでいる」のだとばかり思っていました。日本がLGBTQなどに対する後進国だということは理解しているのですが、フランスは勝手に先進国だと思っていたのです。だから、サシャと母親が直面する現実には驚かされてしまいました。あとで詳しく触れるつもりですが、サシャが通う学校の対応は、なかなか酷いです。一言で言えば「サシャの存在をとにかく認めない」というスタンスであり、闘争によってあらゆる権利を勝ち取ってきたフランスという国で起こっていることだとはとても思えませんでした。
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子ども同士が、無理解から酷い振る舞いをしてしまうのはまあしょうがないとは思うけどね
こういう事柄に、大人がまったく理解を示さないっていう現実にはちょっと驚かされた
そんな日々に直面する母親は、とにかく「自分が悪かった」と責め続けてしまいます。
私は女の子を流産したことがある。それを知ってサシャは、男の子に生まれようとしたのかも。
妊娠中に「女の子がほしい」と願ってしまったことが原因なのかもしれない。
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普通に考えれば「そんなことあり得ない」と感じるような話ですが、母親は真剣にそう悔いています。そう感じてしまうほどにサシャの苦しみを理解し、同時に自身に向けられる視線にも敏感になっているということでしょう。映画の後半、医者から「あなたは悪くありません」と断言してもらった母親は、とてもホッとした顔をしていました。
そんな彼女の、
母親でありたいと思うだけじゃダメなの。
という言葉は、とても重たい響きを持っていると感じます。
性別違和だろうがなんだろうが関係なく、「子育てをする母親」に対してはもっと敬意が払われるべきだと私は思う
ホント、訳分かんない人が言っている話は全無視して、なんとか穏やかに子育てをしてほしい
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サシャの気丈さ、そして溢れる涙
映画で映し出されるサシャの姿は、非常に印象的です。小学2年生にして、何も感じていないかのような達観した表情を浮かべているのです。
好きなバッグで通うことも、好きなペンケースを使うことも、スカートで通学することもダメ。
別にスカートで登校してもいいと思いますが、スカートはともかくとしても、好きなバッグやペンケースも禁止されているということに驚かされました。「男の子だから、そんな可愛らしいものはダメ」ということなのでしょう。とにかくサシャは、学校でもバレエ教室でも、「女の子」としては扱われません。そしてそのような場では、笑っても悲しんでもいない、何も感じていないかのようなる表情を浮かべているのです。
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彼女は間違いなく、「『悲しい』という感情を見せまい」と決意しているでしょう。そして、そんな決意が浮かんだ表情を見ることで、観客はとても悲しい気分に陥ってしまいます。
何よりも彼女は、「母親を傷つけたくない」という気持ちを強く持っています。
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この子は私の前ではあまり話そうとしないんです。私を傷つけると思っているんです。私が傷つくかもしれない話題を避けています。
ある時点からサシャと母親は、定期的にパリまで通い、医師と面談を行っています。そして、医師がサシャに話しかけても口を開かないのを見て、母親がそう伝えるのです。サシャは「何か言いたいことは?」と聞かれても、言葉少なに返事をするに留まります。
彼女の中には、もっと幼かった頃に”ワガママ”を言って母親を傷つけたという記憶が強く残っているのかもしれません。だから、誰よりも辛いのはサシャなのに、母親の苦悩を避けようと気丈に振る舞っているのです。
そしてだからこそ、抑え込んで抑え込んで抑え込んで、それでも溢れ出てきてしまう涙と、その時の表情が、あまりにも悲しく感じられました。
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ある意味偏見になっちゃうけど、「子どもだったらワンワン泣いたらいいのに」って思っちゃった
ただ、親のことを気にして自分の気持ちを表に出せないって感覚は凄く分かるけどね
常に達観したような表情を浮かべるサシャが、映画の中で涙を流す場面は決して多くありません。間違いなく、普段から必死で我慢しているのだと思います。だからこそ、思わずといった感じで溢れ出てしまう涙には、胸が張り裂けそうなほど辛さを感じてしまいました。
不寛容な学校の対応
小学2年生のサシャにとって、学校は日常の大半を過ごす場だと言えるでしょう。そしてそんな学校が、サシャに対して実に不寛容な態度を取るのです。とにかくサシャを「女の子」としては扱いません。教師の立場があまりに明確なため、クラスメートたちも同じように振る舞い、そのせいでサシャはクラスで受け入れてもらえないと母親は嘆いていました。
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映画にはサシャの父親も出演しており、こんな風に言っています。
誰かを傷つけるわけじゃない。
崖から飛び降りろと言ってるわけじゃないんだ。
みんなが女の子扱いしてくれたらいいだけなのに。
私も本当にそう感じました。とにかく「女の子」として受け入れてもらえればいいのです。
フランスという国が、その程度のことも許容しないって事実にはもの凄く驚かされたわ
都市部じゃなくて地方での話なのかもしれないけど、それにしてもビックリだよね
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もちろん、実際的な問題があることは理解しています。男女どちらのトイレを使うのかや、体育・水泳などでの着替えの問題も出てくるでしょう。しかしそれらを一気に解決しなければならないわけではないはずです。とりあえずサシャは、スカートと好きなバッグで登校し、好きなペンケースを使えたら嬉しいでしょう。それを禁止しなければならない理由がどこにあるのか、私には分かりません。
校長は学校の評判を気にしてるんだ。
寛容な教師だっているはずだが、あの学校には1人もいない。
父親はそんな風に憤慨を隠そうともしません。もし私が彼の立場でも、同じように憤るだろうと思います。
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この映画だけから判断すると、「学校側は逃げている」って印象になるよね
後ろめたい気持ちがあるならまだマシな気もするけど、「めんどくさ」って感じなのかもなぁ
学校での環境が改善されれば、現在サシャが抱える苦悩の多くが解消されるはずです。そのことが分かっているからこそ両親は奮闘するのですが、話をしようとどんなに足を運んでも、学校の対応が変わることはありませんでした。というか、話し合いの場にさえ出てこないのだから、八方塞がりと言っていいでしょう。ホントに、凄まじい対応だと感じます。
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サシャが通うバレエ教室にいるのは、全員女の子です。サシャがここにどういう経緯で通うことになったのかは説明されないので不明ですが、女の子しかいないバレエ教室の中でサシャは「君づけ」で呼ばれ、衣装も周りとまったく違うものが渡されます。あからさまに「男の子」として扱われているのです。
また、サシャが今通っているバレエ教室の話なのかは不明ですが(映画に出てくるのとは違う、以前通っていたバレエ教室の可能性もあります)、医師との話の中で母親が、バレエ教室で起こった出来事について話す場面があります。バレエ教室の先生はロシア人で、その先生は、
こんな問題、ロシアには存在しない。
と断言したのだそうです。「こんな問題」というのは、LGBTQのことを指すのでしょう。当然サシャのことも一切理解せず、彼女を押して教室から追い出してしまったそうです。
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こういう「想像力の欠片もない人」って、ホントに嫌い
そんなサシャに医師は、「ホルモン分泌を抑える治療」を選択肢として提示します。それによって、「身体が男性的になることを抑制できる」というものです。しかし問題もあります。その治療は、生殖能力をも抑え込むことになってしまうのです。医師によれば、治療開始から一定期間内に止めれば支障は出ないそうですが、その期間を過ぎてしまえばもう後戻りは出来ず、精子は成熟しなくなってしまいます。そんな決断が、たった8歳のサシャに対して向けられているという現実に、驚愕させられるでしょう。
そして、治療はともかくとして、幼い少女に様々な決断を強いるような世界を、私は「恥ずかしい」と感じる側にいたいと感じました。
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出演:サシャ, 出演:カリーヌ, 監督:セバスチャン・リフシッツ
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最後に
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ルシルナ
ジェンダー・LGBT【本・映画の感想】 | ルシルナ
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