目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:パク・ヘイル, 出演:タン・ウェイ, 出演:イ・ジョンヒョン, 出演:コ・ギョンピョ, Writer:パク・チャヌク, 監督:パク・チャヌク
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この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
全体的に「意味が分からない」のに、とても惹きつけられてしまった変な映画
このような作品が成立しているという点に、まずは驚かされてしまった
この記事の3つの要点
- 真面目で誠実な刑事が主人公なのにも拘わらず、「倫理的な葛藤が描かれない」という点が観客を幻惑する
- 「背徳的な関係である」という事実以上に惹き付ける「何か」が間違いなくあるのだが、それが何なのかは上手く捉えられなかった
- 作品全体を通じて、「理解は出来ないが、成立はしている」という感覚が強くもたらされる
「物語がどう展開されるのかまったく分からない」という不安定感を是非楽しんで下さい
自己紹介記事
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とにかく、とても奇妙な物語でした。「物語がどんな風に展開するのかまったく想像出来ない」という意味では、かなり特異な作品と言っていいと思います。なんだか強烈に惹きつけられてしまいました。
あんまり映画監督の名前で観るかどうか決めることはないけど、パク・チャヌクは割とそういうタイプの人だよね
前に観た映画『お嬢さん』もなんか凄かったし、割と名前を覚えている映画監督かな
出演:キム・ミニ, 出演:キム・テリ, 出演:ハ・ジョンウ, 監督:パク・チャヌク
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主人公のチャン・ヘジュンは、史上最年少で警部に昇進した刑事です。原子力発電関連企業で働く妻とは週末婚を選択していて、普段彼は職場から遠くないのだろうアパートで一人暮らしをしています。恐らく話し合いをして「子どもを持たない」という決断を夫婦でしたのだと思いますが、妻との関係は良好そうで、セックスも毎週するような関係です。仕事ぶりも非常に真面目で、自身の部下が被疑者に暴力的な振る舞いをした際には、「俺の下で仕事をするなら、暴力は無しだ」と厳しく叱責していました。その言葉通り、彼はどの被疑者に対しても丁寧な接し方を心がけています。
主人公はこのような、非常に真っ当で紳士的な人物です。そしてその印象は、最後までほぼ変わりません。一度、作中で彼が「崩壊」という言葉を使う場面があるのですが、確かにそのシーンでの行動は決して褒められたものとは言えないでしょう。しかし全体としては、「刑事としても人間としても、非常に高い倫理観を持つ人物」だと言っていいと思います。
結果的には、彼がこのように真面目な人物であることが、物語を大いに幻惑させる要因と言えるんだけど
まさに「崩壊」していくギリギリのライン上にいるような振る舞いが面白いよね
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さて本作では、そんな非常に高い倫理観を持つ人物が、ある事件の被疑者となった若くて美しい女性ソン・ソレに対して、恐らく普段ならしないだろう行動を取ることになります。「被疑者」と「刑事」という関係性を、完全に逸脱するような振る舞いをしているのです。もちろん、自身の言動が真っ当さから外れていることを、彼自身は間違いなく自覚していると思います。
にも拘わらず作中では、「チャン・ヘジュンが自身の振る舞いに葛藤している」という描写がほとんどなされないのです。
さて、もう一方のソン・ソレはどうでしょうか。彼女は、「年上の夫を殺害したかもしれない」という容疑で取り調べを受ける立場です。夫はクライミング中に滑落し死亡したこともあり、状況的には事故の可能性が高いと考えられてはいます。ただ、彼女が夫から日常的に酷い暴力を受けていたという事実を掴んだため、もしかしたら殺人の可能性もあるかもしれないと、任意での取り調べ中というわけです。
いや実は、取り調べを受けることになった経緯は少し違います。夫が死亡したため、手続きの一環として妻からも事情を聞くことになったのですが、取調室で夫の死を告げた時、彼女はなんと笑ったのです。夫の死を知った妻の反応としてはやはり不自然でしょう。このことを不審に思い調べたところ、暴力を受けていたという事実が浮かび上がってきたというわけです。
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なんでそんな不用意な振る舞いをしたんだろうって、今こうして文章を書いてると感じるんだよなぁ
でも映画を観ている時には、作品の雰囲気がそうさせるのか、あんまり違和感を覚えないよね
彼女もまた、「夫の死という事実に動揺していない」わけで、チャン・ヘジュンと同様、「倫理的な葛藤が描かれない」と言っていいでしょう。
このように、主人公の2人が「倫理観」という点で境界を超えてしまっている印象がとても強いのです。しかしどちらも、周囲からの評判はとてもよく、そういう「2人だけの関係性」以外の場面では、彼らの「逸脱」は表立って可視化されません。なのに、「2人だけの関係性」においては、「倫理」という概念を捨て去ったかのように外れまくっているのです。だから、「2人だけの関係性」の場面は、とても「異常」なものとして映ることになります。
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このような要素が、本作の「特異点」だと感じました。
だからこそ、「物語がどう展開するか分からない」みたいな感覚にもなるんだよね
最初から「逸脱」しっぱなしだから、「当たり前の感覚」みたいなものが通用しないんだよなぁ
観客を「まとも」から引きずり下ろし、「無意味」を示唆する描写をひたすら積み重ねる作品
映画を観ながらずっと頭に浮かんでいたのは、「観客を『まとも』から引きずり下ろそうとしている」ということでした。それも、「北風」のような無理矢理さではなく、「太陽」的なじんわりさでそれを実現しようとしているという感じです。非常に幻惑させられるというか、異常さが魅惑的に映るというか、不思議な感覚になりました。とにかく、「自分が踏みしめている『まとも』から引き離されることの快楽」みたいなものがあるとして、その「快楽」をずっと刺激され続けているような、そんな不思議な作品だったのです。
ただ、別にこれは「背徳感」の話というわけではありません。作中では確かに、「刑事でありながら被疑者に恋をする」とか、「妻がいながら別の女性に惹かれる」みたいな、分かりやすい「背徳感」が描かれているのですが、「自分の心が、そういう部分に反応しているわけではないんだよなぁ」という感覚もずっとついて回りました。
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っていうか、そういう分かりやすい「背徳感」に反応させられるだけの映画だったら、メチャクチャつまらなかっただろうなぁ
「そうじゃない何かがある」みたいな感覚こそが、最後まで惹きつけさせる要因だった感じがするよね
正直なところ、チャン・ヘジュンとソン・ソレの関係性は最後の最後まで「よく分からない」という感じでした。チャン・ヘジュンは決して「ソン・ソレが『若くて美人』だから惹かれた」みたいなことではないだろうし、ソン・ソレにしても、「チャン・ヘジュンが『今まで接したことが無いような礼儀正しい人間』だから惹かれた」なんてことではないはずです。
しかし、「じゃあ一体なんなんだ」と聞かれても、なかなか上手く答えられません。ただ一方で、私には上手く捉えられなかったわけですが、「この2人の間では違和感なく成立している」という感覚は確かに伝わってきました。だから、「全然理解は出来ないけれど、この2人の関係は受け入れざるを得ない」みたいな印象になるというわけです。
この「全然分かんないんだけど、そういうものとして受け入れるかな」って感覚が最後まで続く感じだよね
「共感させる」みたいな分かりやすさを完全に排除している雰囲気が潔くて好きだなって思う
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また作中で描かれる様々な要素が、「『無意味』という情報を伝えるためだけに存在している」と感じられたこともとても興味深かったです。
物語のメインになるのは「チャン・ヘジュンとソン・ソレの関係性」なのですが、それ以外にも様々な事柄が描かれます。チャン・ヘジュンの妻は理系出身で様々なデータに明るく、また職場である原子力発電の周辺に霧が多いこと。ソン・ソレは中国人であり、韓国語が苦手なため翻訳アプリ越しに会話をすること。ソン・ソレの祖父が「朝鮮解放軍で『満州の山猫』と称された人物」だったこと。チャン・ヘジュンは不眠症であり、それと関係があるのか頻繁に目薬を差すこと。ソン・ソレの事件とは関係のない別の捜査が進展していること。作中では、このような要素が色々と散りばめられていきます。
しかしこれらの要素は「本筋」、つまり「チャン・ヘジュンとソン・ソレの関係性」にはほとんど絡んできません。正直なところ、何のためにこれらの描写が存在しているのか、私には理解できなかったのです。
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「理解できない要素がある」ぐらいの作品ならいくらでもあるけど、この映画の場合は、「ほとんどの描写の意味が分からない」からなぁ
こんな風に振り切るのもなかなか勇気が要りそうだよね
もちろん、ただ私の理解力が浅いだけで、それぞれの要素にはちゃんと何か意味があるのかもしれません。ただ、私としてはとりあえず、「散りばめられた様々な要素は、単に『2人の関係にとっては無意味である』ことを示唆するためのものでしかない」という解釈をしました。つまり、「それだけ2人は排他的であり、お互い以外の存在を『無いもの』として扱っている」という意味を持つ描写なのではないかと感じたというわけです。
私の解釈通りだとすれば、なかなかチャレンジングな作品だと感じました。
「理解は出来ないが、成立はしている」という感覚
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映画のタイトルである『別れる決心』の解釈もまた、なんとも言えないように感じます。劇中に「別れる決心」を含むセリフが出てくる場面があるので、それを踏まえれば、「決心をするのがどちらなのか」という”主語”については明らかだと言えるかもしれません。ただ、映画を観ていると、「そのセリフを口にしなかった側の気持ちだとしてもまったく違和感はない」とも感じられるだろうと思います。
もちろんここには、「『別れる決心』をしなければならないぐらい相手に惹きつけられている」って意味が含まれてるわけだけど
しかしまあ何にせよ、「被疑者」と「刑事」はマズいよねぇ
またそもそも、映画の後半の展開は特に、『別れる決心』というタイトルからどんどん遠ざかっていく感じさえあり、一層混沌としていくと言っていいように思います。この映画の内容を誰かに説明したら、恐らく「ん? それって物語として成立してる?」と言われてしまうでしょう。それぐらい、シンプルに物語だけを取り出したら、何がどうなっているのか分からない、結構意味不明な展開だと思います。
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それでも、映画を観て私は、「理解は出来ないが、成立はしている」と感じたわけです。これは非常に不思議な感覚だし、本作が持つ抗いがたい魅力だと思いました。韓国では公開されるや、繰り返し観るリピーターが続出したそうです。確かにその気持ちも分かるような気がします。私が感じたのと同じ「理解は出来ないが、成立はしている」という謎の感覚を、繰り返し観ることで確かめたかったのかもしれません。
こういう、「ストーリー」や「キャラクター」みたいな分かりやすい要素で惹き付けるわけじゃない作品って凄いよね
「最終的な完成形」がかなり見えていないとこんな風には出来ない気がするから、ホント凄いなって思う
他に似たような作品をなかなか思い浮かべにくい、変だけと魅力的な作品だと感じました。
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最後に
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劇中では、「ソン・ソレの回想シーン中に、チャン・ヘジュンが登場する」という、言葉で説明するとかなり謎の演出がなされるのですが、私はこれが結構好きでした。ソン・ソレとチャン・ヘジュンは事件をきっかけに出会ったので、事件以前の回想シーンにチャン・ヘジュンが出てくることはあり得ないのですが、そのような描写が何故か作品に上手く嵌まっている感じがします。どういう演出意図があったのか分からないのですが、私は「『チャン・ヘジュンがあまりにもソン・ソレの虜になっている』という事実が、視覚的に描写されている」という風に受け取りました。
それにこれも、「理解は出来ないが、成立はしている」という要素の1つと言えるだろうし
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映画を観ながら、なんとなく漠然とですが、以前知ったあるエピソードのことを思い出しました。『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』(桜庭一樹)に出てくる「答えられたらヤバいクイズ」の話です。それがどんな問題で、答えられたらマズいとされる正解が何なのかはここでは触れませんが、その問題と正解が持つ「ヤバさ」みたいなものが、映画『別れる決心』が醸し出す雰囲気ととても合っている感じがします。気になる方は、ネットで調べてみて下さい。
著:桜庭 一樹
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【あらすじ】映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』を観てくれ!現代の人間関係の教科書的作品を考…
映画『ぬいぐるみとしゃべる人はやさしい』は、私にグサグサ突き刺さるとても素晴らしい映画だった。「ぬいぐるみに話しかける」という活動内容の大学サークルを舞台にした物語であり、「マイノリティ的マインド」を持つ人たちの辛さや葛藤を、「マジョリティ視点」を絶妙に織り交ぜて描き出す傑作について考察する
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【居場所】菊地凛子主演映画『658km、陽子の旅』(熊切和嘉)は、引きこもりロードムービーの傑作
映画『658km、陽子の旅』は、主演の菊地凛子の存在感が圧倒的だった。夢破れて長年引きこもり続けている女性が、否応なしにヒッチハイクで弘前を目指さなければならなくなるロードムービーであり、他人や社会と関わることへの葛藤に塗れた主人公の変化が、とても「勇敢」なものに映る
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【映画】今泉力哉監督『ちひろさん』(有村架純)が描く、「濃い寂しさ」が溶け合う素敵な関係性
今泉力哉監督、有村架純主演の映画『ちひろさん』は、その圧倒的な「寂しさの共有」がとても心地よい作品です。色んな「寂しさ」を抱えた様々な人と関わる、「元風俗嬢」であることを公言し海辺の町の弁当屋で働く「ちひろさん」からは、同じような「寂しさ」を抱える人を惹き付ける力強さが感じられるでしょう
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【実話】映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』(杏花主演)が描く、もの作りの絶望(と楽しさ)
実在したエロ雑誌編集部を舞台に、タブーも忖度もなく業界の内実を描き切る映画『グッドバイ、バッドマガジンズ』は、「エロ雑誌」をテーマにしながら、「もの作りに懸ける想い」や「仕事への向き合い方」などがリアルに描かれる素敵な映画だった。とにかく、主役を演じた杏花が良い
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【感動】円井わん主演映画『MONDAYS』は、タイムループものの物語を革新する衝撃的に面白い作品だった
タイムループという古びた設定と、ほぼオフィスのみという舞台設定を駆使した、想像を遥かに超えて面白かった映画『MONDAYS』は、テンポよく進むドタバタコメディでありながら、同時に、思いがけず「感動」をも呼び起こす、竹林亮のフィクション初監督作品
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【共感】「恋愛したくない」という社会をリアルに描く売野機子の漫画『ルポルタージュ』が示す未来像
売野機子のマンガ『ルポルタージュ』は、「恋愛を飛ばして結婚すること」が当たり前の世界が描かれる。私はこの感覚に凄く共感できてしまった。「恋愛」「結婚」に対して、「世間の『当たり前』に馴染めない感覚」を持つ私が考える、「恋愛」「結婚」が有する可能性
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「こんな田舎にはもったいないほどのドM」と評された男が主人公の映画『夕方のおともだち』は、SM嬢と真性ドMの関わりを通じて、「宣言から始まる関係」の難しさを描き出す。「普通の世界」に息苦しさを感じ、どうしても馴染めないと思っている人に刺さるだろう作品
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【感想】のん主演映画『私をくいとめて』から考える、「誰かと一緒にいられれば孤独じゃないのか」問題
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「シンデレラストーリー」の「その後」を残酷に描き出す映画『哀愁しんでれら』は、「幸せになりたい」という気持ちが結果として「幸せ」を遠ざけてしまう現実を描き出す。「正しい/間違ってはいない」「幸せ/不幸せではない」を区別せずに行動した結果としての悲惨な結末
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【考察】ヨネダコウ『囀る鳥は羽ばたかない』は、BLの枠組みの中で「歪んだ人間」をリアルに描き出す
2巻までしか読んでいないが、ヨネダコウのマンガ『囀る鳥は羽ばたかない』は、「ヤクザ」「BL」という使い古されたフォーマットを使って、異次元の物語を紡ぎ出す作品だ。BLだが、BLという外枠を脇役にしてしまう矢代という歪んだ男の存在感が凄まじい。
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【感想】映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)の稲垣吾郎の役に超共感。「好きとは何か」が分からない人へ
映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)は、稲垣吾郎演じる主人公・市川茂巳が素晴らしかった。一般的には、彼の葛藤はまったく共感されないし、私もそのことは理解している。ただ私は、とにかく市川茂巳にもの凄く共感してしまった。「誰かを好きになること」に迷うすべての人に観てほしい
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江戸川乱歩賞を受賞した佐藤究デビュー作『QJKJQ』はとんでもない衝撃作だ。とても新人作家の作品とは思えない超ド級の物語に、とにかく圧倒されてしまう。「社会は『幻想』を共有することで成り立っている」という、普段なかなか意識しない事実を巧みにちらつかせた、魔術のような作品
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【魅惑】バーバラ・ローデン監督・脚本・主演の映画『WANDA』の、70年代の作品とは思えない今感
映画館で観た予告が気になって、それ以外の情報を知らずに観に行った映画『WANDA』なんと70年代の映画だと知って驚かされた。まったく「古さ」を感じなかったからだ。主演だけでなく、監督・脚本も務めたバーバラ・ローデンが遺した、死後評価が高まった歴史的一作
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【あらすじ】ムロツヨシ主演映画『神は見返りを求める』の、”善意”が”悪意”に豹変するリアルが凄まじい
ムロツヨシ演じる田母神が「お人好し」から「復讐の権化」に豹変する映画『神は見返りを求める』。「こういう状況は、実際に世界中で起こっているだろう」と感じさせるリアリティが見事な作品だった。「善意」があっさりと踏みにじられる世界を、私たちは受け容れるべきだろうか?
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韓国に多数存在するという「赤ちゃんポスト」を題材にした是枝裕和監督映画『ベイビー・ブローカー』は、「正義とは何か」を問いかける。「中絶はOKで、捨てるのはNG」という判断は不合理だし、「最も弱い関係者が救われる」ことが「正義」だと私は思う
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【純愛】映画『ぼくのエリ』の衝撃。「生き延びるために必要なもの」を貪欲に求める狂気と悲哀、そして恋
名作と名高い映画『ぼくのエリ』は、「生き延びるために必要なもの」が「他者を滅ぼしてしまうこと」であるという絶望を抱えながら、それでも生きることを選ぶ者たちの葛藤が描かれる。「純愛」と呼んでいいのか悩んでしまう2人の関係性と、予想もつかない展開に、感動させられる
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喋れない男が、誘拐した女の子をしばらく匿い、疑似家族のような関係を築く韓国映画『声もなく』は、「映画の中で描かれていない部分」が最も印象に残る作品だ。「誘拐犯」と「被害者」のあり得ない関係性に、不自然さをまったく抱かせない設定・展開の妙が見事な映画
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私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
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ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
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厳しい受験戦争、壮絶な格差社会、残忍ないじめ……中国の社会問題をこれでもかと詰め込み、重苦しさもありながら「ボーイ・ミーツ・ガール」の爽やかさも融合されている映画『少年の君』。辛い境遇の中で、「すべてが最悪な選択肢」と向き合う少年少女の姿に心打たれる
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森見登美彦の原作も大好きな映画『夜は短し歩けよ乙女』は、「リアル」と「ファンタジー」の境界を絶妙に漂う世界観がとても好き。「黒髪の乙女」は、こんな人がいたら好きになっちゃうよなぁ、と感じる存在です。ずっとニヤニヤしながら観ていた、とても大好きな映画
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【家族】映画『そして父になる』が問う「子どもの親である」、そして「親の子どもである」の意味とは?
「血の繋がり」だけが家族なのか?「将来の幸せ」を与えることが子育てなのか?実際に起こった「赤ちゃんの取り違え事件」に着想を得て、苦悩する家族を是枝裕和が描く映画『そして父になる』から、「家族とは何か?」「子育てや幸せとどう向き合うべきか?」を考える
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「リア充感」が滲み出ているのに「生きづらさ」を感じてしまう人に、私はこれまでたくさん会ってきた。見た目では「生きづらさ」は伝わらない。24年間「リアル彼氏」なし、「脳内彼氏」との妄想の中に生き続ける主人公を描く映画『勝手にふるえてろ』から「こじらせ」を知る
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村上春樹の短編小説を原作にした映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)は、村上春樹の小説の雰囲気に似た「自然な不自然さ」を醸し出す。「不自然」でしかない世界をいかにして「自然」に見せているのか、そして「自然な不自然さ」は作品全体にどんな影響を与えているのか
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どんな理由があれ、法を犯した者は罰せられるべきだと思っている。しかしそれは、善悪の判断とは関係ない。映画『万引き家族』(是枝裕和監督)から、「国民の気分」によって「善悪」が決まる社会の是非と、「善悪の判断を保留する勇気」を持つ生き方について考える
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「近隣の村から『姥捨て』と非難される理想郷」を描き出す『でんでら国』は、「死ぬ直前まで、コミュニティの中で役割が存在する」という世界で展開される物語。「お金があっても決して豊かとは言えない」という感覚が少しずつ広まる中で、「本当の豊かさ」とは何かを考える
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