目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:ジェシカ・ハウスナー, Writer:ジェシカ・ハウスナー, Writer:ジェラルディン・バヤール, 出演:ミア・ワシコウスカ, 出演:シセ・バベット・クヌッセン, 出演:クセニア・デヴリン, 出演:ルーク・バーカー
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 本作で提唱される「意識的な食事」とは「何も食べないこと」を指し、その効能を信じる狂気的な女性教師が生徒を”洗脳”する物語である
- 本作で描かれているのは、「食べる/食べない」の話以上に、「『何を信じるか』をどう選ぶか?」である
- 「洗脳」があまりに容易な時代に生きている私たちは、本作で描かれている状況を「キモっ!」で済ますことは出来ない
あらゆる方向に思考を誘発する、実に挑発的で刺激的な物語だった
自己紹介記事
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記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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本作『クラブゼロ』で扱われる「意識的な食事」と、ざっくりした設定について
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というわけで、その点を踏まえた上で、まずは本作の内容にもう少し触れておくことにしよう。
名門高校に、栄養学の教師であるノヴァクが新たに赴任してきた。彼女は、保護者会の推薦を受けてこの学校に来ることになったようだ。親は子どもたちに栄養学を学ばせたいと考えており、ある生徒の親がネットで調べて彼女の存在を知ったのだという。
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彼女は初回の授業で、参加した生徒たちに「どうしてこの授業を取ったのか?」とその動機について聞く。「ダイエットに興味がある」「工業的な食料生産は地球環境に悪い」みたいな真面目な理由から、「奨学金のため」という消極的なものまで様々だったが、彼らはとにかく、ノヴァク先生が提唱する「意識的な食事」を実践することになった。
具体的にはこうだ。まず、目の前にある「これから口に入れようと思っている食べ物」に意識を集中させる。そしてその上で、「『食べること』を経由しないでその食べ物から何かしらを摂取しよう」とするのだ。生徒たちは広い食堂の1つのテーブルに固まり、小さく切った食べ物をフォークに刺し、意識を集中させ、そして口に入れる。最初の内は、そんな風にして少しずつ食べる量を減らしていくのが目標だ。
もちろん、「ついていけない」と脱落する生徒も出てくる。しかしその一方で、ノヴァク先生から「さらなる高みを目指そう」と声を掛けられ、より一層邁進する生徒も現れるのだ。「さらなる高み」とは要するに、「一切何も食べないこと」である。先生曰く、公にされてはいないものの、世界には「食べないことを推奨する団体」が存在するという。
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それが「クラブゼロ」である。
「食べる/食べない」以上に、「『何を信じるか』をどう選ぶか?」が描かれていく
本作で扱われているのは当然「食べること」、というか「食べないこと」なのだが、しかしこの物語の本質はそこにはないと思う。より重要なのは、「『何を信じるか』の選択をどう行うか?」だと私には感じられた。この問いの重要性は以前にも増して高まっていると言えるだろう。
少し前だが、テレビで情報系のバラエティ番組を観ていた時、「SNS情報の真偽」の話になった。そしてその中で、ゲストとして出演していた20代前半の若者2人(ギャルと男性アイドル)が共に、「フォロワー数や閲覧数で、その情報が正しいかどうか判断しています」と発言していて驚かされたことを覚えている(もちろん、番組の趣旨に合わせたカンペ通りの発言だったかもしれないが)。先の問いに絡めるなら、彼らは「フォロワー数や閲覧数によって『信じるもの』を選択している」となるだろう。この記事を書いている時点で私は42歳だが、デジタルネイティブではない私にはちょっと信じがたい感覚だった。
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そしてそういう「『信じるもの』の選び方」みたいな要素こそが、本作の本質的なテーマだと私には感じられたのだ。
映画を観ても正直、ノヴァク先生が何故「食べないこと」を生徒たちに勧めていたのか、その動機は理解できなかった。時折挟み込まれる描写から、「『何らかの使命を帯びている』という自覚を持って『意識的な食事』を広めている」ということは伝わってくるが、それ以上のことはよく分からない。いずれにせよ、私の感覚では「狂信的な人物」と判断するしかない存在である。
そしてそんな「狂信的な人物」が生徒たちを惹きつけ、どう考えてもおかしな主張に引きずり込んでいくのだ。その過程はまさに、今問題になっている様々な社会問題、「闇バイト」「霊感商法」「恋愛詐欺」に人々が引っかかっていく様子そのものに私には感じられた。
さて、ノヴァク先生が生徒たちに話していた内容で、特に印象的だったものが2つある。1つは、次のような発言だ。
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あなたたちの周りの人は、私たちの信念を恐らく認めない。なぜなら、彼らの真実が脅かされるのが怖いからだ。
「ノヴァク先生がこの高校に赴任するまでにどんな人生を歩んできたのか」については描かれないのではっきりとは分からないものの、まず間違いなく「否定・無理解・拒絶」の連続だっただろうと思う。彼女の主張は、確かに一部の生徒の心を掴みはするが、やはり一般的には「意味が分からない」と判断される類のものだろう。彼女自身は、「『意識的な食事』の良さ」を心の底から信じているわけだが、同時に、自身のその信念が世間から受け入れられないことも理解している。つまり、自身の信念を広める上での最大の障壁が「世間の無理解」であると痛いほど分かっているというわけだ。
だからこそ彼女は生徒たちに先回りして先のように告げるのである。こう伝えておくことで、例えば親から「止めるように」と言われても、「先生の言った通り、『自分の真実』が脅かされるのが怖いから反対するんだ」と感じられるだろう。そしてそれは、先生から教わったやり方を貫き通すための原動力にもなり得る。反対されればされるほど、「自分がしていることは正しいんだ」と思えるようになるからだ。「洗脳」における常套手段だとは思うのだが、これは上手いなと感じた。
さて、もう1つはこんな主張である。
明らかに効果があるのに、科学的な検証なんて必要かしら?
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これは、生徒の1人から「『食べなくても健康に生きられること』に、科学的な根拠はあるんですか?」と質問された際の返答だ。こちらについては内容というよりも、タイミングが絶妙だった。この時点で生徒たちはかなり「少食」を実践しており、そしてその効果を体感していたのだ。
とはいえ、それは正直なところ「当たり前」という感じがする。そもそも「人類」は「原人」と呼ばれていた頃からさほど大きく変わっていないのに、生活環境は激変した。そのため、「摂取カロリー」という観点で言えば、ほとんどの人が「食べ過ぎ」の状態にあるのだ。また、化学物質などの人工物が様々に配合された食品を遠ざけることは当然、健康を増進するだろう。つまり、この時点で生徒たちに出た効果というのは「少食」によるものではなく、「摂取すべきではない量・物質を摂らなくなったこと」によるものに過ぎないと私は思っている。
しかし、そんなタイミングで先のように言われたら、「確かに効果があるんだから、根拠云々の前に続けてみようか」と感じたりもするだろう。実に上手い。しかも自ら口にするのではなく、「恐らく生徒からそういう質問が出てくるだろう」と予測した上で、敢えて「質問に答える」という形で伝えようと考えていたのだと思う(これは私の憶測にすぎないが)。
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このようにしてノヴァク先生は、巧みに「自分の信念の正しさ」を押し付けるのである。
「洗脳」があまりにも容易な現代社会を、SNSを登場させずに描き出す見事な構成
ノヴァク先生は生徒たちに、「『食べなければ死んでしまう』というのは社会が植え付けた洗脳に過ぎない」と説明するのだが、実際に「洗脳」しているのはノヴァク先生の方だろう。「洗脳」の手法に詳しいわけではないが、「『反対してくる者』を『間違っている』と思わせ孤立を促す」「常識や科学による判断から遠ざける」みたいな要素は確実に含まれているはずだし、まさにノヴァク先生がしていることだと思う。
そして我々は、そんな「洗脳」があまりにも容易に行えてしまう時代に生きていることを自覚する必要があるだろう。
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何でもかんでもSNSのせいにすればいいと思ってるわけではないのだが、しかしやはり、「SNS」と「洗脳」は実に相性がいいと感じる。SNS上にはあらゆる主張が同列に存在するので、仮に「世間一般では少数派、あるいはまったく許容されない意見・価値観」だとしても「一定の支持を得た意見・価値観」だと誤認しやすくなるし、同じ考えを持つ人とも出会いやすくなるからだ。ノヴァク先生が学校で保護者から反対を受けながら実践し続けたことが、SNS上でならもっと簡単に出来てしまうだろう。
またSNSは、「『科学的』という言葉のニュアンス」みたいなものも大きく変えたんじゃないかと私は感じている。
SNSが登場する以前は、医師や科学者が世間に向けて自ら発信する場はあまりなかったはずだ。「学会で論文をを発表する」とか、「新聞・テレビなどの取材を受ける」みたいなことはあっても、「科学的な知見を持った人物の考え」が直接的に一般市民に届くことは少なかったんじゃないかと思う。だから多くの人は、「科学的な情報は新聞・テレビ・書籍などを通じて届く」みたいに考えていたはずである。
しかし今はそうではない。「科学的な知見を持った人」が様々な形で発信することが可能になっている。だから私たちも、「この医者、この科学者がこんな風に言っている」みたいな情報を捕まえて「科学的な情報」として受け取れてしまえるのだ。直近ではやはり、コロナワクチンが多くの議論を生み出したと思うが、肯定派も否定派も、様々な「科学的な情報」を色んなところから引っ張ってきて議論をしていた印象がある。
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さて少し脱線するが、私にとって「科学的」というのは「システム全体による承認」というイメージだ。科学界には「長い年月をかけて作り上げてきた『承認システム』」が存在する。そして「その『承認システム』を経て『妥当』と認められた主張は『正しい可能性』が高い」とみなされるというわけだ。ある意味では「ブロックチェーン」のやり方に近いと言えるかもしれない。参加者が「これは正しい」と承認することによって、可能な限り「真実性」を担保しようというわけだ。
だからこそ、「『承認システム』を経由していない個人の主張」は「どんな意味においても『科学的な情報』とは言えない」と私は判断する。もちろん、医師や科学者が主張していることは「科学的に正しい可能性が高い」とは思うが、当然「絶対」ではない。というかそもそも、「承認システム」を経由した主張でも「正しい可能性が高い」としか言えず、「絶対」に辿り着けるわけではない。であれば、「『承認システム』を経由していない個人の主張」が「絶対的な正しさ」として扱われている状態はもっと健全ではないと言える。
みたいな考えを社会全体で共有出来れば誤情報の拡散はもっと減るはずだが、なかなかそうはいかないだろう。「科学的」という言葉は既に、あまり意味を持たない言葉になってしまったように思う。実に難しい問題だなと感じる。
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そんなわけで現代ではとにかく、ノヴァク先生のように「信者」を集めやすい環境にあると言っていいと思う。そして本作では、そんな「現代的な危険性」を作中にSNSを登場させずに描き出すのである。「SNSをメインにすると映像にしにくい」みたいな判断も別途あったとは思うが、いずれにせよ、本作ではSNSを完全に排したことで、結果として「今SNS上で起こっていること」がよりリアルに描き出されているような感じさえした。
また、この「洗脳」の問題は、「『他人の正しさ』に乗っかることで、仮にそれが正しくなくても、『自分が間違っていた』とはならない」みたいな発想と繋がるようにも思う。誰もがそうだとは思うが、特に若い世代ほど「否定されたくない」という感覚を強く持っているだろう。そしてそういう感覚が強いからこそ、「自分で善悪の判断をしないで、誰かにその決定を委ねたい」みたいな気分が蔓延しているような気がするのだ。つまり、ある意味では「お互いの利害が一致してしまっている」という状況なのであり、本作ではそういう難しさも浮き彫りにされているように感じられた。
「食べないこと」に対する登場人物たちの様々な考え方
ここまで書いてきたように、本作には「SNSを登場させずに、現代的な『洗脳』を描き出す」みたいな側面があると思うのだが、もちろんのことながら、「食べないこと」という直接的なテーマ自体も掘り下げられていく。そして、こちらもまた実に興味深かった。
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本作は基本的に「生徒目線」で進んでいく。そして、先ほど「利害の一致」について触れたが、ノヴァク先生と彼女の生徒は利害が一致しているため、「生徒目線」で描かれる様々な状況は、底しれぬ狂気こそ漂うものの、全体的には穏やかに進行すると言っていいだろう。
しかし当然のことながら、「親目線」ではまったく違った風に見えている。何せ、我が子がよく分からない理由で突然何も食べなくなるのだ。しかも、「意識的な食事」というネーミングがとにかく絶妙だった。というのも生徒たちは、親から「どうして食べないの?」と聞かれる度に、「『食べてない』わけじゃない。『意識的に食べている』だけだ」と反論するからだ。「意識的な食事」というネーミングのお陰で、生徒の脳内には「食べている」という意識が生まれている。だから、親からの「どうして食べないの?」という言葉がそもそも耳に届かないのだ。
もしも私が親としてこの状況に直面したら、「我が子には『食べている』という意識がある」という前提で対話を進めると思う。何にせよ、相手の土俵に立たなければ言葉など届かないからだ。しかし、本作ではそのような展開にはならない。もちろん、それも仕方ないだろう。というのも、親からすれば「ノヴァク先生に原因があること」は明らかだからだ。我が子が自発的に食べなくなったのであれば、原因の追及のために相手の土俵にも立つかもしれないが、「ノヴァク先生」という明らかな原因が分かっているが故にそうもいかないのである。「『扇動している人物がいる』という事実が、『子どもたちと向き合う』上での障壁になっている」というわけだ。
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さらに言えば、ノヴァク先生の「意識的な食事」に熱心に取り組む者たちには、「食べないこと」に惹きつけられる潜在的な要素があった。生徒個々の背景についてはあまり詳しく描かれないものの、その中でも3人の生徒には特別に焦点が当たるように思う。トランポリンのために親から体重管理を厳しく強いられているラグナ、若くして糖尿病を患ってしまったフレッド、そして食べたものを吐き出してしまう拒食症のエルサである。彼ら3人はそれぞれ、親との関係においても問題を抱えているため、「食べることがもたらす不具合」「親とのややこしい関係性」「ノヴァク先生との出会い」といった要素が複雑に絡まり合った結果、悪循環になってしまっているように思う。
さて、本作ではそういう「個」の問題とはまた別に、「環境問題」との関わりについても示唆がなされていた。私は、本作『クラブゼロ』を観る直前に、ドキュメンタリー映画『フード・インク ポスト・コロナ』を観ており、「工業的な食料生産が、経済や人権だけではなく地球環境にも悪影響をもたらしている」という主張に触れたばかりだったため、余計にそういう部分に反応したという側面もあるだろう。
その中でも、生徒の1人が口にした次のような言葉がとても印象的だった。
食べずに生きられる者は、商業的・社会的に自由でいられる。こうして私たちは、資本主義を脅かしているのだ。
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現実的な話で言えば、ノヴァク先生とその周囲の人間による実践だけでは「資本主義を脅かす」なんてところまで辿り着けるはずもなく、だからこの主張は現実社会にインパクトをもたらすものにはなり得ない。しかし、概念的な話で言えば「確かにその通りだな」と感じさせられた。仮に「食べなくても生きられる」のであれば「飢餓」の問題など存在しなくなるし、「食料自給率」が国の問題として認識されることもなくなるだろう。また、映画『フード・インク ポスト・コロナ』では「世界規模で展開する多国籍食品企業が、貧しい者から搾取し莫大な利益を得ている」みたいな実態が明らかにされるのだが、そういう状況も無くなっていくはずだ。
「『食べなくても生きられる』なんてあり得ないんだから、そんなこと考えても意味がない」と感じるかもしれないが、個人的にはあながちそうとも言い切れないように思う。例えば、遠い未来の話になるだろうが、「もはや地球には住めないから、別の惑星へ移住しなければならない」みたいになる可能性はあるだろう。そしてそうなった場合には、「長い惑星間航行に備えて、摂取カロリーが少なくても生命維持が可能な仕組み」があった方がいいわけで、そのような研究に資金が投じられる可能性はあると思う。もちろんその研究が実を結ぶかは分からないが、これまで人類が様々な「不可能」を科学の力で乗り越えてきたことを考えると、「ほとんど食べなくても生きられる」ぐらいの状態は実現したりするんじゃないだろうか。
そして、もしも「遠い未来にそんな発見がなされる可能性」を受け入れるのであれば、そんな発見が明日発表される可能性だってゼロとは言えなくなるだろう。もちろん可能性が低いことは十分理解しているが、実現した場合のインパクトはかなり大きいだろうし、社会は大きく変わっていくはずだ。そして、もしそんなことになれば、「ノヴァク先生の信念の正しさ」が証明されてしまうことにもなる。私たちが本作を観ながら「狂気的」と感じている状況こそが「正しいこと」に置き換わってしまうというわけだ。それはなかなか恐怖ではないだろうか。
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こんな風に、様々な方向に思考を掘り下げさせる、実に興味深い作品だった。
監督:ジェシカ・ハウスナー, Writer:ジェシカ・ハウスナー, Writer:ジェラルディン・バヤール, 出演:ミア・ワシコウスカ, 出演:シセ・バベット・クヌッセン, 出演:クセニア・デヴリン, 出演:ルーク・バーカー
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最後に
本作『クラブゼロ』は実に狂気的な物語であり、観る者は様々な場面で「あり得ない」みたいな感覚を抱かされるのではないかと思う。しかし、単純にそう判断することもまた正しくないだろう。本作にSNSは登場しないものの、本作で描かれていることはまさに「SNS上で日々繰り広げられていること」であり、私たちにとっては実に身近な問題なはずだからだ。
そんな風に捉えながら観ると、また違った受け取り方になるのではないかと思う。
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ルシルナ
哲学・思想【本・映画の感想】 | ルシルナ
私の知識欲は多方面に渡りますが、その中でも哲学や思想は知的好奇心を強く刺激してくれます。ニーチェやカントなどの西洋哲学も、禅や仏教などの東洋哲学もとても奥深いも…
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