目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:カン・ジェギュ, Writer:カン・ジェギュ, Writer:イ・ジョンファ, 出演:ハ・ジョンウ, 出演:イム・シワン, 出演:ペ・ソンウ, 出演:キム・サンホ, 出演:パク・ウンビン
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- とても信じがたいが、実話を元にしていることに驚かされた
- 「日本による朝鮮統治」が遠因にあるため、手放しで「面白かった!」とは言い難いが、しかしとにかくメチャクチャ面白かった
- 「予想外の展開」などほとんどない物語なのに、その情熱や奮闘に心揺さぶられてしまう
「これは無理じゃないか?」と思うほどの難関をいくつも乗り越えながら世界に挑んだ者たちの熱い想いに感動させられた
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
実話を元にした映画『ボストン1947』の凄まじい物語に圧倒させられた!占領下の朝鮮がマラソンで起こした奇跡とその実現に関わった者たちの奮闘を描き出す
メチャクチャ面白い作品だった。しかし、日本人である私が「メチャクチャ面白かった」と書くのは少し憚られる物語でもある。
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というのも、本作で描かれる実話は、日本が原因で生まれたものだからだ。確かに結果として「感動的な話」にはなったが、本来的には、「そもそもこんな歴史は生まれない方が良かった」はずである。
というわけで、まずは本作『ボストン1947』の内容紹介をしながら、その辺りの事情を説明していこうと思う。
映画『ボストン1947』の内容紹介
物語は1946年から始まる。この年の8月、国民の英雄であるソン・ギジョンの名を冠したマラソン大会がソウルで開かれた。ソン・ギジョンはベルリンオリンピックのマラソンで金メダルを獲得した人物であり、この大会はその10周年を記念するものである。
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しかし、ソン・ギジョンも朝鮮も、この金メダル獲得にとても悔しい思いをした。ベルリンオリンピック開催時、朝鮮は日本統治下にあったため、朝鮮選手の記録は、公式には日本の記録として刻まれているのだ。ソン・ギジョンは「孫基禎」、そして3位になったナム・スンニョンは「南昇竜」という日本名で登録させられ、“日本人”としてメダルを受け取った。そのことに反発する気持ちから、ソン・ギジョンは表彰式の際、月桂樹で胸の日章旗を隠したのだが、このことが問題視され、日本からの圧力を受ける形で彼は引退を余儀なくされてしまう。金メダルを獲得しながら、不遇な選手人生を送ったというわけだ。
その後朝鮮は、1945年の終戦を機に日本からは解放されたものの、その後は駐留するアメリカ軍に良いようにされ、未だ「独立国」とは名乗れない状態にあった。そんな中で、ベルリンオリンピック3位だったナム・スンニョンは、「朝鮮から再び国際大会に出場する選手を生み出そう」とマラソン選手の育成に意気込んでいたのである。
しかし、一方のソン・ギジョンは、昼間から酒をかっ喰らい、自身の名が冠された大会を見に行かないだけではなく、メダル授与式に遅刻する始末だ。とてもじゃないが、「英雄」の面影などない。
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しかしそんな彼らが後に、「東洋の小国の奇跡」と評される快挙を成し遂げたのだ。
もちろん、そのきっかけとなったのはナム・スンニョンによる選手育成である。ただ彼は、初手から躓いていた。ボストンマラソンに選手を送り込もうと考えていたのだが、朝鮮はなんと、「国際大会への参加歴がない」という理由でボストンマラソンへの参加資格を有していないというのだ。ベルリンオリンピックでのメダル獲得は日本の記録になっているため、朝鮮としての参加にはカウントされないのである。しかし米軍の担当者から、「1つ方法がある」と教えてもらった。
そのキーパーソンがジョン・ケリーである。彼もまたマラソン選手であり、さらに、ソン・ギジョンからもらった靴を履いて優勝したという過去があるのだ。つまり、「親交のあるソン・ギジョンが手紙を送り、ジョン・ケリーに招請状を書いてもらえれば、ボストンマラソンへの参加は可能」だというのである。
こんな風にして最初の関門は突破したものの、その後も課題は山積みだった。例えばお金の問題。「遠征費」だけではない。より難題だったのが「保証金」である。アメリカは、「独立国」ではなく「難民国」という立場にあった朝鮮の選手を入国させるにあたって、「現地での保証人」と「2000ドル(900万ウォン)の支払い」を求めてきたのだ。しかし900万ウォンは大金だった。なにせ当時の朝鮮では、家1軒の値段が30万ウォンだったのである。国全体が貧しい時に、こんな大金を用意するのは並大抵のことではない。
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さらに言えば、この貧困こそが「選手集め」をも困難にしていた。
ナム・スンニョンとソン・ギジョンは、若者たちを集めてマラソンの特訓をさせるのだが、正直なところ、どいつも大した才能を持っていない。しかし彼らは1人だけ、圧倒的な可能性を有する人物を知っていた。先日のソン・ギジョンマラソン大会で優勝したソ・ユンボクである。しかし彼は実は、彼の走りが早いことを知っていた友人から「賞金が出る」と騙されて大会に出場しただけだった。ソ・ユンボクは家が貧しく、さらにとある事情からとにかくお金を稼がなければならなかったため、朝から晩まで働き詰めでとてもマラソンの練習などする余裕はなかったのだ。2人とも、何とかソ・ユンボクを引き入れようと説得を繰り返すのだが、なかなか首を縦に振らなかった。
そんな様々な困難を乗り越えながら、彼らはどうにかボストンに足を踏み入れることが出来たのだが……。
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すべての展開が予想通りなのに、メチャクチャ面白い物語
本作『ボストン1947』の物語は、概ね「よくあるスポーツもの」だと思ってもらえればいいだろう。ざっくり要約すれば、「色んな困難を乗り越えながら、皆で一丸となって勝利を目指す」みたいな話で、正直なところ、「予想外のことなど何も起こらない」と言っていいと思う。「たぶんこうなるだろうな」と思いながら観ていると、その通りに物語が展開していくのである。
しかし、これが「実話」の力と言うべきだろう。そんな「予想通りに進む物語」が実に面白いのだ。
まずは何よりも、「ボストンマラソン出場までの波乱万丈」がとても面白かった。ありとあらゆる問題が山積していたのだが、中でもやはりお金の問題が最難関だったと言っていいだろう。家1軒が30万ウォンの時代に900万ウォン集めなければならないということは、今の感覚に換算すると、仮に家1軒2000万円としても6億円である。しかも終戦直後で、国全体が貧しかった。そんな時代にこんな大金を集めなければならないというだけで、かなり無理ゲーと言った感じではないかと思う。
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ただ、そういうあらゆる難関を乗り越えて、どうにかボストンまでたどり着きはするのだ。この時点で、結構奇跡的だと思う。しかし、着いてからもまた一波乱あったのである。
その「一波乱」は、本作において最も重要な要素だと思うので、この記事で具体的に触れることはしない。ただ、この展開だけは「予想外」だったかなと思う。「まさかそんな事態に陥るとは」という感じで、不遇を極めた朝鮮選手団への最後にして最大の打撃と言ってもいいかもしれない。
そしてさらに、この事態を乗り越えた方法も実に素晴らしかったなと思う。具体的には書かないが、その過程でソン・ギジョンが次のようなことを言う場面がある。とても印象的な場面だった。
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ボストンマラソンは、アメリカ独立をいち早く伝えたメッセンジャーにちなんで開かれるようになったはずだ。
そして、彼のこの訴えはアメリカ人の心に刺さるのである。これもまた印象的な展開だった。アメリカという国に対して色々と思うところはあるけれども、「『そうだよね』となった時の受け入れの早さ」みたいな部分は流石だなと思う。何となくだけど、日本で同じような状況になったとしても、同じような展開にはならないはずだ。さすが、何もないところから理屈だけで建国した国だけのことはあるなと思う。
「マラソンシーンが面白かったこと」に驚かされた
さらに私は、本作のラストで展開されるマラソンシーンが面白かったことに驚かされてしまった。というのも私は基本的に、スポーツにはまったく興味がないからだ。
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私は、マラソンや駅伝を観ないだけではなく、スポーツ観戦をすることがほとんどない。まだ20代の頃だったと思うが、1度だけ野球好きの友人に誘われて東京ドームで野球を観たことがあり、実際に生でスポーツを観たのは恐らくその時だけ。もちろん、テレビ中継などでスポーツを観たりすることも特にない。大谷翔平の活躍にもオリンピック選手の躍進にも別に興味がなく、「結果ぐらいは知っておこうか」と思ってテレビのニュースをチェックするぐらいである。
なので、「そんな私が、マラソンシーンを観てメチャクチャ興奮させられた」ことに驚かされてしまったというわけだ。気づいたら、興奮のあまり劇場の座席で身体が縦揺れしていることに気づいたぐらいである。レース展開に合わせて思わず身体が動いてしまうほどに、ワクワクさせられてしまった。
さて、このマラソンシーンにも、「ホントにこんなことが起こったのか?」と感じるようなシーンがある。本作は実話をかなり忠実に描いていると勝手に思っているので、この描写も実際に起こったことだと考えているのだが、しかし本当だろうか? ネットで少し調べてみたが、よく分からなかった。そして、そんな「えっ?」というような状況からのさらなる展開も実に素晴らしかったなと思う。
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そんなわけでとにかく、「まさか自分がスポーツを観て感動するとはなぁ」という点に驚かされたのだった。ただ間違いなく、「ダイジェストだったから良かった」という点はあると思う。「レースを最初から最後までずっと観る」みたいなのは、やっぱり向いてないだろうなぁ。
さて、個人的に最も印象的だったシーンは、ソン・ギジョンがソ・ユンボクに「俺みたいになりたいか?」と問う場面である。実際に観てもらえば分かると思うが、この言葉は、普通にイメージするのとはちょっと異なる意味でソ・ユンボクに届いた。そしてそんな問いに対して彼は「はい、目標です」と答えるのだが、これまた一般的な印象とは異なり、ソン・ギジョンにとっては“意外な答え”だったのである。それまで様々な紆余曲折を経てきた2人だからこそのやり取りであり、そんな「目標」であるソン・ギジョンとの“闘い”もまた、注目ポイントと言えるだろう。
また、スポーツとは無縁の私はまったく知らなかったのだが、ボストンマラソンは1897年に創設され、「近代オリンピックに次いで歴史の古いスポーツ大会の1つ」なのだそうだ。つまり、本作で描かれる1947年大会の時点で50年の歴史を有していたことになる。そしてそんなレースが終わった後、アメリカ人の実況は、「ボストンマラソン史上最も素晴らしい大会」と絶賛のコメントを残したのである。当時は「朝鮮」が地理的にどの辺りにあるのか知られておらず、何なら「敵国・日本」と同一視されているぐらい知名度が無かったにも拘らずこれだけの評価を得たというだけで、朝鮮選手団がどんな”快挙”を成し遂げたのか分かろうというものだろう。
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これぐらいは書いてもいいと思うのだが、ボストンマラソンに出場したソ・ユンボクは見事優勝を果たした。しかし、決してそれだけではないのである。そりゃあ、「ボストンマラソン史上最も素晴らしい大会」と実況が叫びもするだろう。そして、これが実話であるという事実に、何よりも驚かされてしまったのである。
ちなみに余談だが、ソン・ギジョンは1936年のベルリンオリンピックにおいて、その当時のオリンピック新記録を樹立した。そのタイムは2時間29分19秒である。しかし現在は、2023年に記録された2時間0分35秒が世界記録であるらしい。90年弱で30分近くもタイムが縮んでいるというわけだ。その進化も凄いものだなと思う。
監督:カン・ジェギュ, Writer:カン・ジェギュ, Writer:イ・ジョンファ, 出演:ハ・ジョンウ, 出演:イム・シワン, 出演:ペ・ソンウ, 出演:キム・サンホ, 出演:パク・ウンビン
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さて、本作『ボストンマラソン1947』の設定を理解してもらえれば、冒頭で「日本が原因」と書いた理由も分かっていただけるだろう。だからこそ、日本人としてはやはり、正々堂々とした気分で「面白かった!」とは言い難い感覚になってしまう。しかし、それでもやはり「メチャクチャ面白かった!」と言いたくなる映画であり、エンタメ作品としてどんな人でも楽しめる物語ではないかと思う。
最後にどうでもいい話を1つ。本作を観ていてちょっと驚いたのが、朝鮮の国歌が「蛍の光」だったこと。いや、「別れのワルツ」かもしれないが(「蛍の光」は4拍子で、「別れのワルツ」は3拍子)。ざっと調べてみると、歌詞だけは昔から存在していたが曲はなかったため、「蛍の光」(あるいは「別れのワルツ」)に乗せて歌うようになったのだとか。まさかこんなところで聞き馴染みのある曲が流れるとは思わなかったので驚いてしまった。
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世界的クライマーとして知られる山野井泰史。手足の指を10本も失いながら、未だに世界のトップをひた走る男の「伝説的偉業」と「現在」を映し出すドキュメンタリー映画『人生クライマー』には、小学生の頃から山のことしか考えてこなかった男のヤバい人生が凝縮されている
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【衝撃】匿名監督によるドキュメンタリー映画『理大囲城』は、香港デモ最大の衝撃である籠城戦の内部を映す
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【圧巻】150年前に気球で科学と天気予報の歴史を変えた挑戦者を描く映画『イントゥ・ザ・スカイ』
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【あらすじ】死刑囚を救い出す実話を基にした映画『黒い司法』が指摘する、死刑制度の問題と黒人差別の現実
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