目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:高畑充希, 出演:柳家喬太郎, 出演:大久保佳代子, 出演:甲本雅浩, 出演:佐野弘樹, 出演:神尾祐, 出演:竹原ピストル, 出演:光石研, 出演:吉行和子, Writer:タナダユキ, 監督:タナダユキ
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この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「幻想」としか言えない「希望」を抱かなければ前に進んでいけない現実
それが「幻想」だったと明確に突きつけられた時の衝撃を想像して恐ろしくなる
この記事の3つの要点
- 震災・コロナという現実を、「幻想にすがる」ことで踏ん張ろうとする人々
- 映画館は「映画を観る場所」としてではなく、「『正義』が衝突する場所」として描かれる
- 「一度失われてしまえば、恐らく二度と元には戻せないもの」で世の中は溢れている
高畑充希の演技に度肝を抜かれたという意味でも、素晴らしい映画だったと感じます
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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素敵な映画でした。そして、高畑充希がメチャクチャ良かったです。
何に驚いたかって、高畑充希が映画公開時30歳だったってことよ
高校生役に違和感なさすぎで、もっと若いと思ってたからびっくりだったよね
まず最初に、この映画が制作された背景を説明しておきましょう。福島中央テレビの開局50周年を記念して制作された作品なのです。映画の冒頭でこの事実がちゃんと示されますが、それを知った上で観れたのは良かったと感じました。
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というのもこの作品では、震災や原発の話が扱われているからです。
地元のテレビ局だから誤りを犯さないなんてことはないだろうし、東北に関係ない人が震災・原発を扱ってはいけないなんてことももちろんないのですが、やはりなんとなく、「地元テレビ局制作だと、被災地の感覚から大きくは外れないだろう」という安心感が生まれると思います。
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地元を知り尽くした面々が、地元を舞台に描く「福島の現実」というわけです。
震災後の福島に住む者たちが抱く、「希望」という名の「幻想」
この映画のテーマの1つは「幻想」です。それは、こんなセリフが出てくることからも分かります。
でもね、みんなその幻想にすがりたいのよ。
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この映画では、直接的に「震災」が描かれているわけではありません。物語のベースとなるのは、全国どこでも同じ悩みを抱えているだろう「地方の過疎化」だと言っていいでしょう。地方からどんどん若者がいなくなり、町は寂れ、緩やかに衰退していく、そんな現状に対して立ち上がる者たちが描かれるというわけです。
ただ、そこに「震災」が加わることで、状況の厳しさが一層増すだろうとも感じます。映画の舞台は福島県・南相馬市、東日本大震災で甚大な被害を受けた土地です。厳しいと言われる地方の中でもさらに厳しい場所に今も住み続ける者たちが、「こんな風になってくれたらいい」と希望を抱くわけですが、やはりそれは客観的に「幻想」と言うしかないでしょう。もちろん、色んなことが上手く行く可能性もゼロではないのですが、なかなか難しいと言わざるを得ません。
福島県・郡山市出身ながら、色々あって東京に住んでいた主人公・浜野あさひの目にも、やはりそれは「幻想」に映ってしまいます。彼女が、
でも、その幻想が幻想でしかないって分かった時の絶望って、計り知れないと思うんだよなぁ。
と言う場面がありますが、非常によく分かります。
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「期待が裏切られる」って状態が好きじゃないから、基本的に期待しないようにしてる
むしろ「期待してなかったのに上手くいった、ラッキー」ぐらいの感じで常にいたいもんね
この作品で描かれる「幻想」は、なかなか強力だと言えるでしょう。誰もが当然「希望」を持って生きていきたいわけで、そういう想いが多数集まることで、ただの「希望」でしかないものを、「割と確実に起こること」であるかのように錯覚しているのです。そういう未来を想定しながら日々を過ごすことで、辛く厳しい「今」をやり過ごせるのなら、それは素晴らしいことでしょう。しかし結局どこかで、「やっぱりあれは『幻想』だった」と気付かされることにもなってしまうはずです。
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彼らの「希望」が叶うことはないと、半ば断定するようなスタンスで文章を書いているのには理由があります。彼らが抱いている「希望」には、一筋縄ではいかない要素が含まれているのです。地方であり被災地であるという難しさがここにあります。
「家族という幻想」も、彼らの「希望」の中に含まれている
その一筋縄ではいかない要素が「家族」です。住民が抱く「希望」には、「こういうことが実現したら、『家族』が戻ってきてくれるかもしれない」という「幻想」まで含まれてしまっています。
つまり彼らの「希望」には、大きな飛躍が2段階存在しているのです。まず、「実現するか分からない、町の未来像」があります。さらに、「その未来像が実現したら、家族が戻ってきてくれるかもしれないという期待」も膨らんでいるというわけです。
ただし、現実的にはなかなか厳しいでしょう。「あり得ない」とまではもちろん言いませんが、仮に「町」が変わったところで、「人」は戻ってこないと考えるのが妥当だろうと感じてしまいます。戻ってくればラッキー、ぐらいに思っておかないと、現実が苦しいと感じられてしまうのではないでしょうか。
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東日本大震災の場合、町が復興しても人はなかなか戻らないってニュースを見るからね
ホントに、色んな人の苦しい決断がそこには詰まっているんだろうって思う
また、この「家族という幻想」については、浜野あさひのエピソードも描かれます。南相馬市の住民が抱くのとはまた違った形で「家族という幻想」に直面させられているのです。
東日本大震災が起こる前は仲の良い家族だった浜野家ですが、震災をきっかけに「家族の形」が大きく変わってしまいます。父親は、震災後の需要を見込んでいち早く独立、大成功を収めるのですが、一方で「震災成金」と相当批判されました。そのせいで、当時高校生だったあさひは友だちを失い東京へと転校、しかしやはり上手く馴染めず、優等生でしたが人生のレールを大きく踏み外してしまいます。母親は放射能に過敏になってしまい、あさひがどんなに懸命に話をしようとしてもまったく聞いてくれないのですが、唯一弟だけが母親を笑顔にすることができました。そして、こんな風に家族がバラバラになりかけている時、父親は独立したことによる忙しさから家を長期間空けていたため、さらに家族の溝が広がってしまったのです。
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あさひはある場面で、
家族ってものに確信が持てなくなっちゃったんだ。
と言っています。「東日本大震災の前なら、『家族』というものに対してある種の『幻想』を抱いていられたが、今はもう無理だ」という意味です。震災後の世界を生きるあさひには、「家族」が単なる「幻想」に過ぎないと理解できてしまったのでしょう。そして震災前の世界には戻れない以上、「家族ってものに確信が持てなくなった」という実感のまま、これからも生きていくしかないと彼女は考えているのです。
「家族という幻想」を死ぬまで抱き続けられる人生なら、それはそれで幸せな気もするけどね
そういう世界の中で生きられる人を「羨ましい」って感じること、正直たまにある
浜野あさひは、一度福島を出て東京で生活していたこと、そして震災後に家族関係が変わり「家族という幻想」を手放さなければならなかったことにより、南相馬の人たちが抱く「幻想」に素直には寄り添えません。しかし一方で、自身も福島出身であり、南相馬の映画館を立て直すためにわざわざ戻ってきた彼女は、住んでいる人たちにとってあらゆる点でベストと言えるような未来をどうにか作れないものだろうかとも考えます。
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そして、そんな葛藤の中心地として「映画館」が描かれるのです。
「朝日座」は、「映画を上映する場所」として描かれるわけではない
映画『浜の朝日の嘘つきどもと』は映画館を舞台に展開される物語ですが、「ただ映画を上映する場所」として登場するわけではありません。ここはまさに、「震災後・コロナ禍の『正義』とは何か?」という問いの「衝突点」として描かれるのです。
一見するとこの映画は、「地域の憩いの場を存続させようとする浜野あさひ」と「商業主義的に地方を開発しようとする業者」の対立のように見えるでしょう。金儲けのために、地域のコミュニティを分断してでも新たなビジネスを作り出す、そんな相手が浜野あさひの敵のように見えるはずです。
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しかし、浜野あさひが闘う相手が、こんなことを言う場面があります。
これが正しいかどうか、正直自信があるわけではありません。ただ、間違いではないということだけは確信しています。
そう、彼らもまた、「地域の憩いの場を存続させようとする浜野あさひ」と同じ方向を向いているのです。やり方が違うだけであり、この点が浜野あさひの闘いを難しくしていると感じます。
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相手が金儲けだけを企んでるなら、フルパワーで追い落としてもいいって思えるけど
浜野あさひが強く押しきれない理由には、守ろうとしているものが「映画」だという点も関係しているはずです。映画の中では、「映画で腹は膨れない」「コロナ禍の今、一番偉いのはコメを作っている人だ」みたいなセリフが出てきます。そういう考えを前にした時、あらゆる「エンタメ」の立場は弱いと言わざるを得ません。「不要不急」という言葉で、真っ先に切り捨てられてしまうものだからです。
そもそも「コロナ禍」というだけで、相当多くの人が苦しい生活を強いられているでしょう。さらにその上に「震災」が乗ってくるのです。「エンタメ」は人生に必要不可欠だと思いますが、しかし「食」より必要なのかと聞かれればなかなか「YES」とは言い難いと感じます。
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だから残念ながら、コロナがある程度収束する頃までに、かなりの「エンタメ」が死んでしまうのだろうと思っているのです。
「無くなることが分かってから惜しまれてもな」
「惜しまれないよりマシだろ」
こんなやり取りが、これからの未来、様々な場所で繰り広げられるのかと思うと、残念な気持ちになります。
「消化しきれないほどの膨大なエンタメが生まれながらに存在する世代」に、この危機感って伝わるのかな?
「ま、別のがあるし」っていう切り替えが容易に出来ちゃう時代だからなぁ
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デジタルの世界なら、しばらく休止してから再開する、みたいなことは難しくはないでしょう。しかし、「映画館」のようにリアルの世界ではそう簡単にはいきません。その歩みが一旦止まってしまえば、再び動き出す可能性はかなり低いと言わざるを得ないでしょう。
皆が浜野あさひのようなバイタリティで行動を起こすことは難しいと思います。ただ、「何かできることはあるんじゃないか」という発想を持つことは出来るはずです。意識すらも向けずに人知れず終わってしまうより、せめて意識ぐらいは向けたいものだと感じました。
「これで良かった」に変えていくしかないだろ、これから。
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これこそ、厳しい時代を生きざるを得ない私たちが持たなければならない発想なのでしょう。
映画『浜の朝日の嘘つきどもと』の内容紹介
浜野あさひは「先生」に頼まれて、南相馬までやってきた。馬のフンを踏みそうになりながら、彼女は「朝日座」という100年以上の歴史を持つ映画館を目指している。
どうにかたどり着いたあさひは、映画館の前でフィルムを燃やしている”ジジイ”を発見した。おいおいおいと慌てて止めに入るが、”ジジイ”こと映画館主である森田からすれば、彼女は突然の闖入者に過ぎない。長く悩んだ末にようやく閉館を決意し、名残惜しさを抱きつつフィルムを燃やしている時間を中断される謂れなどないのだ。
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あさひは、東京でも上手くいかず、家出中の身。郡山の高校時代の恩師である田中先生の家に転がり込んでいる。
田中先生との出会いは、高校の屋上だった。「飛び降りるのはどうかと思うよ」と、教師らしからぬフランクな物言いであさひの心情に寄り添ったのだ。誘われて一緒に観た古い映画にあさひの心は落ち着いた。田中先生のお陰で、どうにか前に進む勇気をもらえたのだ。
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映画『浜の朝日の嘘つきどもと』の感想
作品も素敵だったのですが、冒頭でも書いた通り、何よりも高畑充希が素晴らしかったです。基本的には役者の演技の良し悪しなどまったく分からない人間ですが、とにかく高畑充希は別格で凄いと感じました。映画『こんな夜更けにバナナかよ』でも感じましたが、高畑充希は、「こんな人いるかな?」という少し現実離れしたキャラクターを、「現実にいそう!」という地点まで落とし込んでしまうような力を持っていると思います。
そもそもですが、私は「浜野あさひみたいな人」が好きです。表向きは明るく楽しげに振る舞っているけれども、内側には暗く重苦しいような部分を抱えていて、その上で、「傍若無人」と受け取られそうな言動を、「『失礼』という枠」の外側に綺麗に押し出してしまう爽快さを持つ浜野あさひはとても素敵だと感じました。
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さて、誰もがそうだと思いますが、「自分がよく知っている、あるいは興味があるタイプの役」を演じているほど、その演技に対して厳しい目を向けてしまうのではないでしょうか。私は、「浜野あさひ」が好きなタイプだからこそ、「高畑充希が『浜野あさひ』を私がイメージするような感じで演じてくれるか」が気になってしまいました。
で、高畑充希は、私が望むような「浜野あさひ」を高い解像度で演じてくれているのです。素晴らしいと感じました。
やはり、「傍若無人さ」が絶妙に上手いのだと思います。浜野あさひの「傍若無人さ」がかなり表に出るからこそ、シリアスな場面での静かさみたいなものにグッときてしまうのです。そしてその「傍若無人さ」を、非常にナチュラルに、元々そういう性格の人なんじゃないかと想像させるレベルで演じて見せるので、人間像がグッと締まるのだと思います。
普段役者の演技にそこまで注目して映画を観るわけではないのですが、この映画ではとにかく高畑充希に釘付けという感じでした。凄い女優だなぁ。
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出演:高畑充希, 出演:柳家喬太郎, 出演:大久保佳代子, 出演:甲本雅浩, 出演:佐野弘樹, 出演:神尾祐, 出演:竹原ピストル, 出演:光石研, 出演:吉行和子, Writer:タナダユキ, 監督:タナダユキ
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