目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:ベネディクト・カンバーバッチ, 出演:メラーブ・ニニッゼ, 出演:レイチェル・ブロズナハン, 出演:ジェシー・バックリー, Writer:トム・オコナー, 監督:ドミニク・クック
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ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 信じがたいことに、「キューバ危機」を止めたのは民間人だった
- 彼と同じ立場に立たされた時、同じように決断・行動できるだろうか?
- 今この世界のどこかにもきっと、グレヴィルのように壮絶な現実に人知れず立ち向かっている人がいるのだと思う
私たちが「キューバ危機が回避された世界」を生きられるのは、間違いなく彼のお陰だ
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
キューバ危機を背景に、1人の民間人が、大げさではなく「世界を救った」信じがたい実話に驚かされる映画『クーリエ:最高機密の運び屋』
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元々歴史に詳しくない人間なので、ただ私が知らなかっただけかもしれないが、「キューバ危機」という歴史上でも相当大きな出来事の裏で、1人の民間人が世界を救うために極限の奮闘をしていたという事実に驚かされてしまった。
「個人の決断が世界の命運を左右する」という点だけ捉えれば、まさに「セカイ系」としか言いようがない状況だ。一民間人に過ぎない人物が、ソ連から持ち出した機密情報はなんと5000を超え、「史上最も価値のある情報」とまで言われている。普通に考えれば、少し前まで「一般市民」でしかなかった人物が背負えるようなものではない。彼が与えられた任務を見事に全うしてくれたお陰で、私たちは「キューバ危機が回避された世界」に生きていられるのである。
偶然とはいえ、歴史の裏舞台で暗躍することになってしまった民間人の奮闘を、ベネディクト・カンバーバッチが演じる見事な作品だ。
映画『クーリエ:最高機密の運び屋』の内容紹介
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物語は、モスクワを訪れたアメリカ人観光客が、見知らぬ人物から「これをアメリカ大使館に届けてくれ」とメッセージを託されるところから始まる。
その情報は、アメリカのCIAに届いた。CIAに所属するヘレンがイギリスのMI6を訪れ、協力を要請する。アメリカ人観光客にメッセージを託した人物は、モスクワ科学委員会の高官オレグ・ペンコフスキーだった。彼はGRU(ソ連軍参謀本部情報総局)の大佐でもあり、ソ連の核兵器の状況にも詳しい。そして、「フルシチョフのような衝動的な人物が核のボタンを持っていることに対する危機感」から、ソ連の核開発の情報を西側に伝えたいと希望している。
CIAにはそれまで、ポポフ少佐という情報提供者がいたのだが、連絡が取れなくなっていた。CIAの預かり知らぬことではあるが、彼はスパイだとバレて処刑されてしまっていたのだ。そんなこともあり、CIAはMI6と連携して動くことを提案する。
MI6はさっそくペンコフスキーと接触しようと考えるのだが、ヘレンが待ったを掛けた。我々のような”プロ”ではなく、大使館とは無関係で、KGBに注目されるはずのない人物に任せる方がいいのではないか、と考えたのだ。
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この提案が、1人の民間人の命運を左右することとなる。
グレヴィル・ウィンは、わざとゴルフに負けて商談を成立させ、そのことを妻に愚痴る、どこにでもいるようなセールスマンだった。しかしある日そんな彼の元に、官公庁の人間を装ってCIAとMI6が接触してくる。そしてグレヴィルは、スパイの打診を受けることとなった。ただし、具体的なミッションは知らされていない。「知らない方が身のため」と言うのだ。グレヴィルが求められたことはただ1つ、「ソ連に赴き、いつも通りセールスを切り開け」である。
状況は諜報機関によって整えられていた。グレヴィルがソ連の科学委員会で商談のためのプレゼンをすると、ペンコフスキーが話しかけてきたのだ。どうやら、諜報機関の面々から渡されたタイピンを見て判断したようである。こうして2人は自然な成り行きで接触を果たし、その後ペンコフスキーは疑われずに渡英を果たす。ここからは諜報機関の仕事であり、ペンコフスキーをイギリスに連れてきた時点でグレヴィルの仕事は終わり……のはずだった。
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どうやらグレヴィルはペンコフスキーから気に入られたようだ。彼の知らないところで、ペンコフスキーが盗み出した機密情報をグレヴィルに持ち帰ってほしいという話になっていた。もちろんグレヴィルは、そんな重責を担えないと固辞する。しかしそのやり取りの中で、ヘレンから「4分前警告は嘘よ」と聞かされた。
核兵器が発射される4分前に警告がなされる、と言われている。けど、あなたの職場から自宅までどんなに急いでも10分。だから奥さんは家のシェルターに、子どもは学校のシェルターに逃げることになる。設計図を見たけど、どちらも核兵器に耐えられるような構造じゃない。
あなたは、繋がらない電話をずっと掛け続けるか、あるいは「この事態を回避できるチャンスがあった」と悔やむか。
要するに、「あなたが今ここで下りたら、核戦争が起こるかもしれない。そうなった時、あなたは後悔せずにいられる?」と聞いているのだ。グレヴィルは当然「脅すのか」と言って憤慨するが、最終的にはその役割を引き受ける決断をする。
民間人に課すにはあまりに重い責任をグレヴィルが見事全うしたことで、ソ連がキューバに核兵器の発射場を建設しようとしている事実が判明する。世界中が核戦争の危機を実感して緊張する中、ペンコフスキーとグレヴィルが命懸けで持ち出した情報によって「キューバ危機」はすんでのところで回避されるのだが……。
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映画『クーリエ:最高機密の運び屋』の感想
全体的には非常にシリアスな物語なのだが、状況的に許容されるだろう場面では、可能な限り明るい雰囲気で描きだそうとしているので、硬軟のバランスが良い映画だと感じた。特に劇中で流れる音楽は非常にポップだ。とにかく緊迫感溢れる作品だが、張り詰めっぱなしというわけでもなく、気軽に観ても楽しめる映画と言えるだろう。
映画を観ながら様々なことを考えさせられたが、何よりもまず、「同じ立場に立たされた時、同じような決断・行動ができるだろうか?」と感じてしまった。特にグレヴィルが、
今こそ僕を利用しろ。
と口にしてからの展開は圧巻だったと思う。そこに至るまでの流れは「成り行き」のようなものであり、グレヴィル自身の決断はさほど多くなかったと言っていいだろう。「脅すのか」と口にした場面でも、その時点ではグレヴィルのリスクはさほど大きくないと思えたはずだ。「何が起こるか分からないから怖い」という恐怖心は当然あっただろうが、その後の展開と比べると、決断のレベルはまだまだ浅いだろう。
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しかし、「今こそ僕を利用しろ」と口にした時は、とてもそんなことが言えるような状況ではなかった。もちろん、彼なりの「必然」があったことは理解できる。しかしやはり、あの場面であんな風に振る舞える自信は私にはない。これが現実に起こったことだという事実には驚かされる。
また、映画を観てこんなことも考えた。今も世界のどこかで、名も知らぬ誰かが、重大な局面を前にして「世界を救う」ような奮闘を続けているのではないか、と。
世界中で、デモ・紛争・戦争などが絶えず起こっている。今も多くの人が、「ロシアが核兵器のボタンを押すのではないか」という緊迫感をひしひしと感じているはずだ。色んな人が様々な形で奮闘しているだろうし、その中には、グレヴィルのように決定的な役割を果たすことになる人物もいるかもしれない。
「個人が世界を救う」で思い出されるのは、数学者アラン・チューリングのことだ。彼は、ドイツの暗号機エニグマを解読する機械を作り出した。そして、解読した情報を基に終戦を早め、結果として1000万人以上を救ったとも言われている。しかし、暗号解読は国家機密であるとして秘匿され、チューリングの功績は長い間知られることがなかった。結局「不名誉な死」を遂げて人生に幕を下ろす形になってしまい、彼の名誉が回復されるまでには長い時間が掛かってしまったのだ。
アラン・チューリングの生涯については、映画『イミテーション・ゲーム』で詳しく描かれている。奇しくも、映画『クーリエ:最高機密の運び屋』と同じく、主演はベネディクト・カンバーバッチだ。
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グレヴィルも、自身の行動を妻にさえ秘密にしなければならなかった。妻も子どもも、「夫は普通のセールスマン」だとずっと思っていたのである。このことは、「自分の身近にいる人が、グレヴィルのような重責を担っているかもしれない」ということを示唆している。インターネットが発達した現代であれば、遠い国の戦争に終結に、自分の身近な人間が携わっている可能性は以前よりも格段に高いと言っていいだろう。
私たちは、そういう想像力を常に持ち続けなければならないと思う。
ちなみに、映画全体がコミカルに描かれる一例として、「夫が自身の行動を妻にも秘密にしなければならなかった」ことによって浮気を疑われる場面を挙げておこう。実はグレヴィルは以前に浮気がバレたことがあり、妻は夫の「いつもと違う変化」を「浮気」ではないかと疑うのだ。グレヴィルとしては、「浮気ではない」と説明したいところだが詳しいことは何も言えない。そして「何も言えない」という事実が余計妻の不審を招くという悪循環の中に放り込まれることになり、なかなか苦労するのである。
グレヴィルが直面する「非日常」と「日常」の落差には驚かされるが、観客としては「面白い」と感じられる部分だろう。
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出演:ベネディクト・カンバーバッチ, 出演:メラーブ・ニニッゼ, 出演:レイチェル・ブロズナハン, 出演:ジェシー・バックリー, Writer:トム・オコナー, 監督:ドミニク・クック
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役者の演技から、物語の展開まで、ありとあらゆる要素が「凄まじい」としか言いようがない作品だった。この記事では、映画のラストの展開に触れていない。是非映画を観てほしい。映画の評価に「泣けるかどうか」という観点をなるべく持ち込みたくはないのだが、この映画のラストでは涙を流さずにはいられなかった。
グレヴィルが断ったとしても、諜報機関の人間がなんとかしただろう。しかし、ヘレンは”敢えて”「民間人を採用する」という選択をしたのだ。諜報機関の人間では上手くいかなかった可能性もあったのだと思う。もしグレヴィルとペンコフスキーの働きがなければ、「キューバ危機」は回避できなかったかもしれない。改めて、凄い史実だと感じさせられる。
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もしこれが実話を基にしていない物語なら、正直「平凡以下のスパイ映画」でしかないだろう。ジェームズ・ボンドが直面するようなカーチェイスも爆発も何もないのだから。事実だからこそ、この凄まじいまでの衝撃が生まれるのだ。
知られざる史実を伝える驚くべき映画を是非観てほしいと思う。
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とある映画会社で働く女性の「とある1日」を描く映画『アシスタント』は、「働くことの理不尽さ」が前面に描かれる作品だ。「雑用」に甘んじるしかない彼女の葛藤がリアルに描かれている。しかしそれだけではない。映画の「背景」にあるのは、あまりに悪逆な行為と、大勢による「見て見ぬふり」である
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【実話】ソ連の衝撃の事実を隠蔽する記者と暴く記者。映画『赤い闇』が描くジャーナリズムの役割と実態
ソ連の「闇」を暴いた名もなき記者の実話を描いた映画『赤い闇』は、「メディアの存在意義」と「メディアとの接し方」を問いかける作品だ。「真実」を届ける「社会の公器」であるべきメディアは、容易に腐敗し得る。情報の受け手である私たちの意識も改めなければならない
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【あらすじ】映画『1917』は、ワンカット風の凄まじい撮影手法が「戦場の壮絶な重圧」を見事に体感させる
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【あらすじ】蝦夷地の歴史と英雄・阿弖流為を描く高橋克彦の超大作小説『火怨』は全人類必読の超傑作
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ルシルナ
戦争・世界情勢【本・映画の感想】 | ルシルナ
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