目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:太田信吾, 出演:本山大, 出演:山口遥, 出演:琥珀うた, 出演:佐藤亮, 監督:太田信吾
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 映画『解放区』は明らかに、ドキュメンタリー映画の雰囲気を醸し出すような作り方がされている
- 「ヤバい街」として有名な大阪市・西成区を舞台にしていることもリアリティを高める要素である
- いくらでも虚構を組み込めるフィクションだからこそ、ドキュメンタリー映画が目指すべき地平に肉薄できるのではないかという考察
とにかく「なんか凄い映画を観たな」という感覚に支配される鑑賞体験だった
自己紹介記事
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私は普段から、これから観ようと思っている映画について下調べ的なことを一切しない。評価や内容を調べたりはせず、予告やチラシなどの情報だけから「面白そう」と感じるものを映画館で観ているというわけだ。そしてそういうスタンスで映画を観ていると、たまに頭が混乱することもある。
私は映画『解放区』を、「ドキュメンタリー映画に違いない」と疑いもせずに観た。私がざっくり触れた情報からは、ドキュメンタリー映画感が漂っていたからだ。しかし映画を観始めてしばらく、頭が混乱した。「この映画はドキュメンタリー映画である」という頭で観ていると、違和感を覚えるシーンが出てくるからだ。
映画は、「ドキュメンタリーを撮影しよう考えている主人公を追う」という構成になっている。だから私は、「『ドキュメンタリー映画のメイキング映像』みたいな設定のドキュメンタリー映画」だと思って観ていたのだ。
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さてその後、映像はひきこもり男性がいる室内からのショットに変わった。ここで私の頭は混乱する。ん? ドキュメンタリー映画じゃないのか? と。いや、実際には私が単にそう勘違いしていただけのことであり、普通にフィクションだと思って観ている人にはなんの不思議もない場面である。しかし私は驚かされてしまったというわけだ。
しかし、フィクションだと分かってからも、映画全体からはドキュメンタリー映画感が漂ったままだったと思う。監督が、明らかにそのような志向で映画を撮ったことは間違いないだろう。登場人物はまるで台本など用意されていないかのような会話を展開するし、カメラのアングルも「隠し撮り」を思わせるショットが多数出てくる。このことが、映画のリアリティを異様に高める要素になっているというわけだ。
そんなドキュメンタリーだと感じられてしまうような映画なのだが、さらにその印象を強めるポイントが、舞台となる「西成」である。
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舞台である「ヤバい街」大阪市・西成区が放つ凄まじい雰囲気
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そしてこの西成区は、「安易に近づいてはいけない地域」として非常に有名なのだ。
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かつて大阪に行った際、どうしても興味があったので西成を歩いてみたことがある。ちょっと怖かったので、一応昼間の時間帯に行ってみた。恐らく、「ヤバいぞ危ないぞ」と言われていた一昔前よりはずっと安全になっているのだろう。私は特段危険を感じることはなかった。飲食店も普通にあるし、ちゃんとは覚えていないが小学校か中学校もあったような気がする。新宿・歌舞伎町だって昔はヤバい街だったようだが、今では誰でも歩ける普通の街になった。西成もきっと変わったのだろう。
ただ、ネットで調べると色んな話がゴロゴロ出てくる。印象的だったのは、あるYouTuberが西成を歩いた際のエピソード。公衆トイレに入ろうとしたら、通りがかったオジサンに、「そこは覚醒剤の取引でよく使われるから別のとこに行きな」と言われた、というのだ。また、「すれ違う人と目を合わせてはいけない」なんてアドバイスを書いている人もいた。実態とどこまで合っているか私には判断できないが、とにかく、西成が「ヤバい街」として非常に有名なことは確かである。
そしてそんな「ヤバい街」を舞台にしていることが、この映画のドキュメンタリー感をさらに格段に高めていると言っていいだろう。
実際に西成を歩いたことがあったので、「今のシーンはあそこだろう」となんとなくわかる場面もあった。つまり、実際に西成で撮影を行っているということだ。となると、映画の端々に映る人々が「役者」なのか「生活者」なのかがとても気になる。日雇い労働者たちや主人公が人探しをする過程で話を聞いた飲食店の店員、あるいは主人公が解体の仕事を行った際の作業仲間など、「役者」なのか「生活者」なのか判断できない人物が多々登場するのだ。
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そのような描き方もまた、映画のリアリティを高めているのだろう。
だからこそ、「明らかな犯罪」が描かれる場面も、普通にフィクションを観てる時よりも遥かにドキドキさせられる。当然、映し出されているのは「役者の演技」であり、「実際の現場」ではない。それは分かっている。しかし、舞台が西成であること、隠し撮りのようなカメラワーク、そして「生活者」としか思えない人物が多数登場することなどが、その判断を揺らがせる。「もしかして……」という可能性をゼロにはできないのだ。
まとめるとこうなる。私は映画『解放区』をドキュメンタリー映画だと思い込んで観に行ったが、実際にはフィクションだった。ただ、明らかにドキュメンタリー風に撮っているし、西成という舞台が一層ドキュメンタリー感を高めている。それ故、「この場面は絶対にフィクションのはずだ」というシーンさえ、ドキュメンタリー映画であるかのような緊迫感が醸し出されるというわけだ。これこそが、私が感じた「映画『解放区』の異様さ」の正体なのだと思う。
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だからこそ私は、最後まで「自分は一体何を見せられているのだろう?」という感覚を拭えなかった。その凄まじい引力に引きずられるようにして観終えたという印象がとても強く残った映画である。
映画公開に至るまでの過程も、ドキュメンタリー映画感をさらに高めている
観終わった後、映画『解放区』について少し調べてみた。どのような経緯でこんな映画が作られたのか、気になったからだ。すると、思ってもみなかったエピソードを知ることができた。
2019年公開の『解放区』は、実は2014年には完成していたそうだ。大阪市から助成金を得て制作されたそうだが、公開が延び延びになった理由はなんと、大阪市から上映ストップが掛かってしまったことだった。監督は事前に脚本を見せてOKをもらっており、その脚本から大きく逸脱しない構成にしたにも拘わらず、完成した映画を見せると、大阪市から「西成を描いた部分はすべてカットしてくれ」と言われてしまったのだ。監督としては当然、そんな話に応じられるはずもない。
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結局話し合いでは折り合いがつかず、最終的には、もらっていた助成金を返還し完全な自主制作映画として再始動せざるを得なくなってしまう。そのゴタゴタのせいで公開が遅れてしまったのだそうだ。このエピソードだけでも、「『解放区』で描かれる西成のヤバさ」が伝わってくると言えるだろう。
また、映画に「ひきこもり」として登場する男性は実際に心の病を抱えており、彼の母親として登場する女性は実の母親なのだそうだ。この辺りも、非常にドキュメンタリー的だと言っていいだろう。
このような外的要素も、『解放区』のリアリティ、そして異様さを倍加させる要因となっていたのではないかと思う。
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私はこの映画を観て、ドキュメンタリーとそうではない作品の違いについて考えさせられた。それはつまり、「映画『解放区』は、何故これほどドキュメンタリー感を醸し出すのか」について考えることと同じである。
ドキュメンタリー映画には、当然だが、「フィクション(虚構)」を組み込む余地がない。使う素材がすべて「事実」だからこそ「ドキュメンタリー映画」と呼ばれるわけだ。しかし一方で、「事実の並べ方」にはどうしても主観が混じってしまう。どれだけ客観的であろうとしても、「事実をどう並べるか」には作り手の意図が含まれてしまうのだ。だから逆説的ではあるが、ドキュメンタリー映画だからこそ「主観」が目立つことになる。
一方、映画『解放区』はドキュメンタリー映画ではないので、いくらでも「フィクション(虚構)」を組み込むことが可能だ。そしてそれ故に、こちらも逆説的ではあるが、「事実を並べる際の主観」が目立ちにくくなると言える。となれば、映画『解放区』は、「フィクションだからこそ、本来ドキュメンタリー映画が内包すべき『何か』をより強く含むことができた」と言えるのではないかと思う。
まあ、なかなかに我田引水的な思考だと思ってはいるのだが、まったくの的外れということもない気がしている。「ドキュメンタリー的なフィクション」のことを「モキュメンタリー」と呼んだりもするそうだが、そんな「モキュメンタリー」だからこそ持ち得る力みたいなものを痛感させられる作品だった。
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とにかく「凄かった」という感想に尽きる。とんでもないものを観たなという感覚で満たされる作品だ。
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【矛盾】死刑囚を「教誨師」視点で描く映画。理解が及ばない”死刑という現実”が突きつけられる
先進国では数少なくなった「死刑存置国」である日本。社会が人間の命を奪うことを許容する制度は、果たして矛盾なく存在し得るのだろうか?死刑確定囚と対話する教誨師を主人公に、死刑制度の実状をあぶり出す映画『教誨師』から、死刑という現実を理解する
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【漫画原作】映画『殺さない彼と死なない彼女』は「ステレオタイプな人物像」の化学反応が最高に面白い
パッと見の印象は「よくある学園モノ」でしかなかったので、『殺さない彼と死なない彼女』を観て驚かされた。ステレオタイプで記号的なキャラクターが、感情が無いとしか思えないロボット的な言動をする物語なのに、メチャクチャ面白かった。設定も展開も斬新で面白い
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【権利】衝撃のドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』は、「異質さを排除する社会」と「生きる権利」を問う
「ヤクザ」が排除された現在でも、「ヤクザが担ってきた機能」が不要になるわけじゃない。ではそれを、公権力が代替するのだろうか?実際の組事務所(東組清勇会)にカメラを持ち込むドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』が映し出す川口和秀・松山尚人・河野裕之の姿から、「基本的人権」のあり方について考えさせられた
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【真実?】佐村河内守のゴーストライター騒動に森達也が斬り込んだ『FAKE』は我々に何を問うか?
一時期メディアを騒がせた、佐村河内守の「ゴースト問題」に、森達也が斬り込む。「耳は聴こえないのか?」「作曲はできるのか?」という疑惑を様々な角度から追及しつつ、森達也らしく「事実とは何か?」を問いかける『FAKE』から、「事実の捉え方」について考える
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完璧な未来予知を行えるロボットを開発し、地震予知のため”だけ”に使おうとしている科学者の自制を無視して、その能力が解放されてしまう世界を描くコミック『預言者ピッピ』から、「未来が分からないからこそ今を生きる価値が生まれるのではないか」などについて考える
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「北九州連続監禁殺人事件」という、マスコミも報道規制するほどの残虐事件。その「主犯の息子」として生きざるを得なかった男の壮絶な人生。「ザ・ノンフィクション」のプロデューサーが『人殺しの息子と呼ばれて』で改めて取り上げた「真摯な男」の生き様と覚悟
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「ホームレスは怠けている」という見方は誤りだと思うし、「働かないことが悪」だとも私には思えない。振付師・アオキ裕キ主催のホームレスのダンスチームを追う映画『ダンシングホームレス』から、社会のレールを外れても許容される社会の在り方を希求する
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子どもの頃「台風」にワクワクしたように、未だに、「自分のつまらない日常を押し流してくれる『何か』」の存在を待ちわびてしまう。立教大学の学生が撮った映画『サクリファイス』は、そんな「何か」として「東日本大震災」を描き出す、チャレンジングな作品だ
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【リアル】社会の分断の仕組みを”ゾンビ”で学ぶ。「社会派ゾンビ映画」が対立の根源を抉り出す:映画『C…
まさか「ゾンビ映画」が、私たちが生きている現実をここまで活写するとは驚きだった。映画『CURED キュアード』をベースに、「見えない事実」がもたらす恐怖と、立場ごとに正しい主張をしながらも否応なしに「分断」が生まれてしまう状況について知る
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私個人は、「ビジョンの達成」のためなら「ソフトな独裁」を許容する。しかし今の日本は、そもそも「ビジョン」などなく、「ソフトな独裁状態」だけが続いていると感じた。映画『新聞記者』をベースに、私たちがどれだけ絶望的な国に生きているのかを理解する
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私は、「自分の正しさを疑わない人」が嫌いだ。そして、「正しさを他人に押し付ける人」が嫌いだ。「変わりたいと望む者の足を引っ張る人」が嫌いだ。全身刺青だらけのレイシストが人生をやり直す、実話を元にした映画『SKIN/スキン』から、再生について考える
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金正男が暗殺された事件は、世界中で驚きをもって報じられた。その実行犯である2人の女性は、「有名にならないか?」と声を掛けられて暗殺者に仕立て上げられてしまった普通の人だ。映画『わたしは金正男を殺していない』から、危険と隣り合わせの現状を知る
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世界最高峰の辞書である『オックスフォード英語大辞典』は、「学位を持たない独学者」と「殺人犯」のタッグが生みだした。出会うはずのない2人の「狂人」が邂逅したことで成し遂げられた偉業と、「狂気」からしか「偉業」が生まれない現実を、映画『博士と狂人』から学ぶ
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「共感」が強すぎる世の中では、自然と「想像力」が失われてしまう。そうならないようにと意識して踏ん張らなければ、他人の価値観を正しく認めることができない人間になってしまうだろう。映画『ミセス・ノイズィ』から、多様な価値観を排除しない生き方を考える
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【危機】遺伝子組み換え作物の危険性を指摘。バイオ企業「モンサント社」の実態を暴く衝撃の映画:映画…
「遺伝子組み換え作物が危険かどうか」以上に注目すべきは、「モンサント社の除草剤を摂取して大丈夫か」である。種子を独占的に販売し、農家を借金まみれにし、世界中の作物の多様性を失わせようとしている現状を、映画「モンサントの不自然な食べもの」から知る
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自分以外は凡人、と考える主人公の少女はとてもイタい。しかし、世間の価値観と折り合わないなら、自分の美しい世界を守るために闘うしかない。中二病の少女が奮闘する『オーダーメイド殺人クラブ』をベースに、理解されない世界をどう生きるかについて考察する
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空気を読んで摩擦を減らす方が、集団の中では大体穏やかにいられます。この記事では、様々な理由からそんな選択をしない/できない、『私を知らないで』に登場する中学生の生き方から、厳しい現実といかにして向き合うかというスタンスを学びます
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