目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
監督:⼭下敦弘, Writer:中⽥夢花, 出演:濵尾咲綺, 出演:仲吉玲亜, 出演:清田みくり, 出演:花岡すみれ, 出演:三浦理奈, 出演:さとうほなみ
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この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
女子高生同士の意味の無い会話から展開される「女として生きること」に対しての葛藤の描写がとにかく秀逸
会話自体の雰囲気も非常に魅力的で、舞台がほぼ固定されているにも拘らずとても楽しめた
この記事の3つの要点
- 高校演劇版の脚本を書いた中田夢花が映画版の脚本も担当したという異例さ
- それぞれが異なる葛藤を抱いているのだが、その中でココロは一体どのような違和感を覚えているのか?
- 上映後のトークイベントも実に面白く、特に演劇部顧問の村端賢志が非常に有能な人で驚かされた
高校演劇を映画化する企画第1弾の映画『アルプススタンドのはしの方』も観たくなりました
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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「高校演劇を映画化した作品」という特殊さ
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これはもの凄く面白い作品でした! 観ようかどうしようか決めかねていて、正直観ない可能性の方が高かったので、タイミングを見つけて映画館に足を運んで良かったなと思います。さらに、全然狙ったわけではないのですが、私が観に行った回がたまたまトークイベント付きで、そこでの話も実に面白かったのです。そんなラッキーもあったりして、全体的に得した気分になれました。
山下敦弘監督と、脚本を担当した現役大学生(高校演劇の脚本を書いた人)、そして演劇部の顧問の先生っていうラインナップ
さて、本作は「高校演劇を映画化した作品」なのですが、まずはその辺りの説明から始めることにしましょう。
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少し前に、『アルプススタンドのはしの方』という映画が話題になったのですが、この作品が実は、高校演劇の映画化第1弾の作品でした。「高校演劇リブート映画化企画」と名前が付いているようで、恐らく『アルプススタンドのはしの方』がヒットしたからでしょう、第2弾の製作が決定し、それが本作『水深ゼロメートルから』というわけです。ちなみに私は、映画『アルプススタンドのはしの方』を観ていません。これも、観るかどうか悩んでいた作品で、結局観ませんでした。いつか機会があれば。
監督:城定秀夫, プロデュース:久保和明, Writer:奥村徹也, 出演:小野莉奈, 出演:平井亜門, 出演:西本まりん, 出演:中村守里, 出演:黒木ひかり, 出演:目次立樹
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基本的には「高校演劇の全国大会で最優秀賞を獲得した作品を映画化する」という企画のようですが、本作『水深ゼロメートルから』は少し違う経緯を辿りました。というのも、コロナ禍だったからです。『水深ゼロメートルから』という同名の高校演劇は、四国の地区大会で最優秀賞を受賞したのですが、その後コロナ禍のため全国大会の中止が決定してしまいます。
ホントに、コロナ禍に学生だった人たちって、メチャクチャ悔しい思いをいっぱいしてるだろうねぇ
どうにもしようがなかっただろうけど、「運が悪かった」では済ませたくないだろうし
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ただ、全国大会は中止になりましたが、運営側から地方予選の最優秀校に対して、「演劇を映像に撮って提出するように」と指示がありました。つまり、「高校生を一同に集めて演劇をやらせるわけにはいかないが、提出された映像を観て最優秀作品を決めようじゃないか」ということになったのです。
さて、ここで演劇部の顧問(トークイベントに登壇した人)が興味深い提案をします。「演劇をそのまま映像に撮っても面白くないよね?」と部員たちを説得し、なんと「『自主制作映画』として映像化して提出する」という道を選んだのです。恐らくですが、この判断が、最終的に「高校演劇リブート映画化企画」として採用されるきっかけになったのではないかと思います。そして同作はその後、商業演劇化を経て、その演劇とほぼ同じキャストで商業映画化され、本作『水深ゼロメートルから』として公開されるに至ったのです。
結果だけ見れば、「コロナ禍のせいで全国大会が中止になったこと」がこの流れを引き寄せたとも言えるよね
「だから良かったね」とは、やっぱり言えはしないけど
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高校演劇版の脚本は、当時高校3年生だった中田夢花(彼女もトークイベントに登壇した)が書いており、そしてそのまま商業映画版の脚本も手掛けました。現役の大学生ですが、山下敦弘監督と共に映画版の脚本を作り上げたというわけです。
このように本作は、非常に稀有な形で生み出された作品であり、まずはこの点が興味深いと言えるでしょう。制作の裏側に関しては他にも色々と書きたいことはあるのですが、それはこの記事の後半でトークイベントの内容として触れることにします。というわけでまずは、映画の内容を紹介しておきましょう。
映画『水深ゼロメートルから』の内容紹介
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物語は、そのほとんどが「水の抜けたプール」で展開される。プールのすぐ隣にはグラウンドがあり、野球部が練習中だ。そしてその位置関係のせいで、プールの底には砂が堆積してしまっている。本作は、そんなプールに集められた者たちが過ごす夏休みの午後のひと時を鮮やかに切り取っていく作品だ。
最初からプールにいたのはミクで、プールの底に立ち、うちわを背中に挟んだ状態で踊ろうとしている。阿波踊りの練習のようだ。そこにチヅルがやってきた。彼女は、キャスター付きの椅子に腹ばいになって、水のないプールで「飛び込んだり」「泳いだり」している。チヅルはミクに「見ないでよ」と声をかけ、同じくミクもチヅルに「見ないでよ」と言う。
次に来たのはココロで、彼女はプールに水が張られていないことを不審がる。そして続けざまに体育の女教師・山本への不満を口にするのだが、ちょうどそこに山本がやってきた。そして彼女の話から、今の状況が理解できるようになる。ミクとココロの2人はどうやら、プールの補習として呼ばれたようなのだ。だからココロは、水が張られていないことに驚いていたのである。
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山本は2人に、「プールの底の砂を掃くこと」を命じた。これが「補習」のようだ。ココロは分かりやすく不満を口にするが、ミクは大人しく砂を掃き始める。山本はココロのメイクを咎め、さらに、補習でもないのに何故かプールにいたチヅルに「邪魔しないで下さいね」と口にしてその場を去っていった。生徒の間でも有名なのだろう、彼女はかなり厳しい教師のようである。
こんな風にして、「黙々と砂を集めるミク」「ミクに任せてサボり続けるココロ」「水のないプールで“泳ぎ続ける”チヅル」という3者の奇妙な状況が生み出されていく。そして彼女たちは、それぞれのスタンスを貫きながら、「同じ場所にいなきゃいけないから仕方なく」ぐらいのテンションで会話を続けていくというわけだ。
さてその後、水泳部を引退した元部長のユイ先輩が姿を見せたことで、チヅルに関して新たな情報が明らかになる。チヅルは水泳部の現部長で、さらに今日は男子のインターハイが行われているらしいのだ。つまりチヅルは、応援をサボってここにいるのである。
そんな日に、一体ここで何をしているのだろうか?
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とにかく会話が絶妙すぎる
ベースが演劇であることを踏まえれば当然ですが、本作は舞台がほぼ「水のないプール」に固定されています。それ以外の場面もあるにはあるのですが、ほとんど「おまけ」と言っていいレベルで、基本的に舞台は変化しません。そのため、「本作では『水のないプールでどのような会話が展開されるのか』に焦点が当てられている」と言っていいと思います。
そして、その会話が絶妙に面白かったのです。
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どんな作品でもそうだけど、やっぱり「会話が面白い」っていうのが一番魅力的だし強いよね
正直会話が面白ければ、それ以外のことはどうでもよかったりしちゃうもんなぁ
彼女たちの会話は、客観的に捉えれば「中身も意味も特にない会話」と言えるでしょう。つまり、「女子高生が、退屈な時間を埋めるためにテキトーな会話をしている」みたいな雰囲気が強く出ているというわけです。女子高生が女子高生の会話を描いているのだからそりゃあリアルだろうし、また、トークイベントで語られていた通り、紆余曲折ありつつも高校演劇版から脚本をほぼ変えなかったそうなので、そのリアルさが保たれたまま映画化されていると考えていいでしょう。そしてそんな「女子高生が時間を埋め合わせるためにしているリアルなダルい会話」がもの凄く良かったのです。
まずは何よりも、「ダルい会話である」という点がとてもリアルに感じられました。というのも、彼女たちは普段から仲が良いわけではなく、「たまたまそこにいた(いなければならなかった)みたいな人」でしかないからです。そんな面々が、「何か物語を大きく駆動させるような会話をする」のは不自然でしょう。だから「会話に意味がない」という要素は、本作においては非常に重要だと言えるわけです。
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特に、ココロの会話のスタンスを想像すると理解しやすいよね
「掃除をサボってるから暇だけど退屈だし、ってかこんなクソみたいな状況じゃ喋らないとやってられない」みたいな雰囲気が強いよなぁ
そして本作では、そんな「ダルい会話」から思いがけない展開がもたらされることになります。この展開が見事だったし、抜群に上手いと感じました。しかも、その「思いがけない展開」によって、4人のキャラクターの輪郭がよりはっきりしていきます。物語が始まった当初はまだぼんやりしていたそれぞれのキャラクターが「思いがけない展開」によって際立ち、さらにそのことによって物語に新たな展開が生まれることにもなるわけです。
このように、「何でもない無意味な会話」を起点に物語を立ち上げ、それによってストーリーやキャラクターを際立たせていく更生が見事だと感じました。
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高校演劇って観ることないから分かんないけど、レベル高いなぁって感じしたよね
確かにこれなら、「高校演劇を映画化する」って企画が生まれるのも分かるわ
「女として生きること」に焦点が当てられていく
さて、その「思いがけない展開」については書いてしまおうと思います。こんな但し書きをするのは、この点に触れることが私の中での「ネタバレ基準」に抵触するからです。私は普段、自分なりの基準に従ってネタバレをせずに感想を書いています。そして、本作の「思いがけない展開」に触れることは、私の普段の感覚からすると「ネタバレ」に感じられるというわけです。ただ、この点に触れずに本作の良さを紹介するのはとても難しいので、今回は書くことにします。
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本作では、「女として生きること」に焦点が当てられていると言っていいでしょう。ちなみにどうでもいいことを先に1つ。私は普段「男」「女性」という表記をしているのですが、今回は敢えて「女」という表記を使っています。上手く説明は出来ないのですが、本作の場合、その方がしっくりくると感じるからです。
私の中で「女性」という表記は「男が異性について言及する」みたいな印象があって、「女」はその逆って感じがしてる
本作の場合、「女性同士での分かり合えなさ」みたいなのを描いてるから、「女」の方がしっくり来るのかもね
さて、「プール」「女として生きること」という2つの要素から連想出来る人もいると思いますが、本作では展開の1つとして「生理の日のプール授業」が取り上げられます(ただ、あくまでも展開の1つであり、これがメインの話というわけではありません)。そしてこの点について、トークイベントで興味深い話がされていました。先ほど、「トークイベントの内容は後でまとめて触れる」と書きましたが、この話は先にしておくことにしましょう。
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脚本を書いた中田夢花は、演劇部顧問の村端賢志から「プール」というお題をもらっていたそうです。この点に関して司会者から問われた村端は、その当時ニュースでも報じられていたある話題に言及します。それが、滋賀県の学校で行われていた「プール授業を生理で休む場合には事前の申告が必要」というルールです。そして村端は、「これを題材に出来ないかと考えていた」と話していました。
トークイベントではさらっと触れられてたけど、「男性教師が女子生徒に話す内容」としてはかなりセンシティブだから結構驚いた
そんなわけで物語に「生理」の話題が組み込まれることになったわけですが、しかしこの話は物語の後半で出てくるものです。物語が始まってしばらくの間、話題としてはほぼ出てきません。そして前半では、もう少し違った「女として生きること」が描かれていくのです。
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しかしそれは「生理」ほど分かりやすいものではなく、男の場合は特に、しばらく何を描こうとしているのか理解できないのではないかと思います。私もそうでした。少しずつ「違和感」は積み上がっていきますが、「その違和感が一体何によって生み出されているのか分からない」という感じが続くことになるのです。
この点に関しては、ココロの描写が最も分かりやすいでしょう。というわけでまずは、彼女がどのような人物なのかに少し触れておくことにします。ココロはばっちりメイクをして、「可愛い」ということに自身の存在価値のほとんどを置いているような人です。それはもちろん、「『異性から可愛く見られること』に重きを置いている」という側面もあるわけですが、同時に、「可愛い自分のことが好き」という感覚を持っている感じもします。ココロがある場面で口にした「暑すぎて、顔一生ゴミなんやけどぉ」というセリフは彼女のスタンスをとても明確に表している感じがするし、言葉の使い方的にも「リアルなJK」という印象があって、すごくキャッチーでした。
他にも「女子高生はこんな言葉を日常的に使ってるんだろうなぁ」って感じのフレーズが随所にあって楽しいよね
普通の映像作品ではこのリアリティはなかなか出せないだろうからなぁ
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さて、ココロ以外の面々もまた、それぞれが「女として生きること」についての違和感を抱いているわけですが、それらについてはさすがに触れないことにします。ただ本作では、ミクもチヅルも、何なら体育教師の山本も、それぞれがココロとはまた違った形で「女として生きること」に対する葛藤を抱えており、それらが「水のないプール」を舞台にして鮮やかに浮かび上がってくるというわけです。ちなみに、ユイ先輩だけは例外で、「女として生きること」とは少し違うものに感じられました。とはいえ本作では概ね、登場人物は何かしら「女として生きること」の葛藤を抱えていると言っていいでしょう。
ココロのスタンスから「女として生きること」について深堀りする
それでは、ココロが一体何に対して葛藤を抱いているのかについて触れていきたいと思います。
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ココロの人生に対するスタンスは、非常に分かりやすいと言えるでしょう。随所で次のような発言をしているからです。
女は女らしく、頑張らんでいいんよ。
女は可愛ければ選んでもらえるし、守ってもらえる。
女子同士の会話でこういう話が出てくるのも、「普段そんなに仲が良いわけじゃないから」って感じするよね
仲の良いグループ内では、こんな話まずしないだろうからなぁ
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要するに、「『女である』という自身の要素を最大限利用して要領よく生きていく」みたいなスタンスを明確に持っているというわけです。そしてその背景にはどうやら、「女はどうしたって男には敵わない」という感覚があるようでした。力では絶対に勝てないし、「生理になる身体を有している」という事実もまた、彼女にそう強く思わせている要因みたいです。
ただ、ココロの葛藤はそう単純ではありません。まず彼女はある場面で、「私だって『女だからって関係ない』って思ってたよ」と口にしていました。昔からそんな風に考えていたわけではないというわけです。さらにそこから、「ココロが抱えている葛藤は『ジェンダー』とは関係ない」のだと明らかになっていくことになります。
ココロが山本と口論する場面でのことでした。ココロは山本に「生理の時にプールに入れられた」と文句を言います。そう、ここで初めて「生理」が話題に上るのです。しかしその後で彼女はさらに、「大人はメイクをしていいのに、高校生は校則で禁止って意味分かんない」と続けます。
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「高校生はメイクしちゃダメだけど、社会人になったら最低限のメイクはしろ」っていう主張、ヤバいなっていつも思ってる
そして彼女のこの発言によって、ココロの葛藤の本質が見えてきました。それは「『誰かに決められたこと』なんかに従いたくはない」と表現できるでしょう。彼女にとっては、「校則」も「生理になる身体を有していること」も「自分で決めたことではない」わけで、それ故に納得いかない想いを抱いているというわけです。
では、ココロは一体何故、「『女である』という自身の要素を最大限利用して要領よく生きていく」みたいなスタンスを持つようになったのでしょうか? この点に関しては作中で明確に描かれるわけではありませんが、シンプルに考えて、「『女である』という事実はどうしたってひっくり返せないから」ではないかと感じました。
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「校則」というのは誰かが決めたルールでしかないわけで、変えようと思えばいくらでも変えられるでしょう。だから彼女は、「校則なんかには従わない」というスタンスを貫くことが出来るのです。一方、「女の身体である」という事実はどうにもならないでしょう。「男性性になりたい」ということであれば性転換のような方法もあるでしょうが、ココロの場合別にそういうわけでもありません。だから「抗っても仕方ない」と考えたのだろうし、「であれば、『女であること』を最大限に活かして生きていくしかない」みたいな発想になったのではないかと感じたというわけです。
そう考えると、ココロってキャラクターが結構魅力的に見えてくるよね
ココロが口にする「ブスだな」という発言に込められた意味
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さて、このように考えると、ココロがある場面で口にした「ブスだな」という発言も捉え方が変わってくるでしょう。
彼女はある会話の流れで、次のようなことを口にします。
男女関係ないとか言ってるやつは、全員ブスだな。
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このセリフを聞いた時は、「気持ち」や「内面」のことを「ブス」だと言っているのだと思っていたのですが、その後の会話から「顔面」の話をしていることが分かって驚きました。というのも、彼女はミクやチヅルに向かって、
ブスはいいな。楽で。素の自分で闘えると本気で思ってるんだから。
みたいなことを口にしていて、つまり、面と向かってはっきりと「あんたらはブスだ」と言っているのです。
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ただ私の中で、このセリフの解釈が少しずつ変わっていきました。もちろん最初は言葉通りの意味、つまり「ミクとチヅルの顔面がブス」という意味だと思っていたのですが、次第に「ココロが抱えるある『後悔』が内包された言葉なのではないか」と感じられるようになったのです。
さて、先程の話をおさらいすると、ココロは「女である」という事実に対して、「どうせ抗えないのだからフル活用するしかない」と考えるようになったのだと私は理解しています。しかしその判断には、「男と同等でいるために」という前提が存在するでしょう。これは私の勝手な解釈に過ぎませんが、彼女はつまり、「女は男と比べて色んな意味で不利なのだから、『男と同等でいる』ためには『女であること』をフル活用するしかない」と考えているのではないかというわけです。
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男の私が言うのは適切ではないかもだけど、ココロがこう考えているとしたら「妥当」だなって思う
色んな意味で「女性が不利益を被る社会」になっちゃってるから、「使えるものは何でも使うしかない」って発想になるのは当たり前な気がするよね
しかしココロのこのスタンスは一方で、「『男と同等でいる』という考えに囚われてしまっている」とも言えるのではないかと思います。
では、ミクとチヅルはどうでしょうか。この記事では彼女たちの葛藤に触れないことにしたので具体的には書きませんが、彼女たちもまた「男と同等でいること」に闘いを挑んでいるし、その点に関しては色々と思うことがあるわけです。ただ、ココロと比較した場合、ミクもチヅルも「『男と同等でいる』という考えに囚われているわけではない」とは言えるように思います。ココロが「沼地から抜け出そうともがいている」のに対して、ミクとチヅルは「山を登ろうと奮闘している」みたいな違いがあるように感じられるのです。
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ココロは「沼地から抜け出さなきゃいけない」わけだけど、ミクとチヅルは「山を登らなきゃいけないわけじゃない」って感じだよね
ココロの場合、自分の意思では闘いを止められなそうだけど、ミクとチヅルはいつでも闘いのステージから抜けられそうな気がする
そして、その違いを敏感に感じ取ったココロが、自分を守るために発したのが「ブス」という言葉だったのではないか。私はそんな風に考えています。ココロはある場面で、これもまた容姿に言及する形で、ミクとチヅルに「女の負け組やん」と言うのですが、「ブス」も「負け組」も実は、「自分が『負け組』だと認めないための意地から生まれた言葉」なんじゃないかと感じられたというわけです。
この点に関しては、本作に少しだけ登場する「野球部のマネージャー」との対比からも理解できるのではないかと思います。
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野球部のマネージャーが登場するから、少しだけプール以外の場面が出てくることになるよね
ここだけは、演劇の脚本から結構変わった部分なんじゃないかなぁって思う
ココロは冒頭からずっと「勝ち組の代表」みたいに描かれるのですが、実は彼女には「負け」の経験があります。そしてその時に「勝ち」側にいたのが野球部のマネージャーであり、さらに彼女は「素の自分で生きている人」という風に描かれるのです。
さて、先ほど紹介した通り、ココロはミクとチヅルに向かって「ブスはいいな。楽で。素の自分で闘えると本気で思ってるんだから」と言っていました。しかしそんなココロは、「素の自分で生きている人」に完敗した経験があるのです。この事実は、「勝ち組」的な生き方をしてきた彼女にとっては、とても大きなダメージになったんじゃないかと思います。
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しかしだからといって、生き方のスタンスを今更変えるのもなかなか難しいでしょう。そのため彼女は、「素の自分で闘っているミクとチヅル」を「ブス」呼ばわりすることで「自分は『負け組』なんかじゃない」と言い聞かせ、なんとか自分を保とうとしているのではないか。そんな風に感じたのです。
ココロはホントにただの嫌な奴で、シンプルに「可愛い自分と比較して、お前らはブス」って言ってるだけかもしれないしね
さて、先の解釈は、「『ブスと言われて突飛な行動を取るチヅル』を見つめるミクとココロの雰囲気」からも感じられる気がします。「自分のことを『ブス』と言ってくるココロに、そんな風に接することが出来るだろうか?」みたいに思えたからです。ココロの本当のところを理解しているからこその振る舞いとも言えるのではないかと思います。
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そう、本作はこのような描写も素敵だと感じました。つまり、「女同士の特殊な関係性」です。
これは結構昔から「女同士の関係の特殊さ」だと思ってた話だよね
物語でもリアルでも、女同士の関係には男にはない雰囲気があるなって思ってたんだよなぁ
例えば男同士の場合は、「険悪な雰囲気になっても、『謝罪』を経れば元の関係に戻れる」みたいな描写はよくあるでしょう。ただ女同士の場合は、「険悪な雰囲気から、『謝罪』がなくても元に戻る」みたいなことが結構あるような気がするのです。本作でも、ミクやチヅルは「ブス」と言われているのに、その後特に謝罪の言葉も無いまま普通の関係に戻っていたりします。私の個人的な感覚では、こういう「特殊な『可塑性』のある関係」は、男同士にはあまり見られない印象です。そんなところもリアルに感じられました。
勝手な予想だけど、「『謝る』っていう行為が、『お互いの距離の遠さ』を実感させてしまうから敢えてしない」みたいな感覚があるのかなって思う
トークイベントで語られた興味深い話
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最後に、上映後のトークイベントの内容に言及して記事を終えようと思います。まずは、映画版の脚本について。
既に触れたことではありますが、高校演劇版の脚本を書いた中田夢花が、そのまま映画版の脚本も担当したことは驚きではないかと思います。彼女自身もそのように語っていました。実際の作業は、誰か(トークイベントでは言及されていたはずだけど忘れてしまった)が脚本化したものを中田夢花が修正するという形だったようです。そしてその作業を、監督の山下敦弘と共に行ったとのこと。
山下敦弘は脚本に関して、「映画にする上でどう変更すべきか考えていたが、結果的に元の脚本からほとんど変わらなかった」みたいに言っていました。また中田夢花は、「素人の私にこんなに寄り添ってくれて」と発言しており、そんな言葉からも「いち大学生と有名監督が共同で脚本作りを行う」という特殊さが理解できるのではないかと思います。
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まさかそんなことになるとは誰も想像してなかっただろうからね
ただ山下敦弘は、「自主映画から出てきた人間だけど、実は脚本を書いたことがない」とも話していて、そのため、中田夢花との脚本作業も「探り探りやっていた」そうです。ある意味では、「どちらも『商業映画の脚本の素人』だったからこそ上手くいった」なんてこともあるのかもしれません。
さて、脚本に関しても、演劇部顧問の村端賢志に驚かされたエピソードがあります。中田夢花は映像化に当たって、「プールの場面ばかりだと映像的に厳しいだろう」と、プール以外のシーンを無理やり入れようと考えていたそうです。そしてそんな風にして作り上げた脚本を一度見せたところ、村端賢志から「元の脚本の良さを殺している」とアドバイスされたと彼女は話していました(当人は「『殺している』なんて表現使ったっけ?」と言っていましたけど)。その意見を受けて改めて考え直し、結果として元の物語とほとんど変わらない脚本に落ち着いたのだそうです。的確なアドバイスだったのだろうし、私も、プールがメインという構成で良かったと思っています。
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他にも、彼の凄さが実感できるエピソードが紹介されていました。この記事の冒頭で、「運営に提出する映像を、自主制作映画として撮ると決めた」という話を書きましたが、その後彼は自ら東京在住の映画監督にオファーし、監督を引き受けてもらったのだそうです。しかし当時はコロナ禍。徳島県が「県外から人を呼ぶことは認めない」という方針を出したため、リモートで構図などの指示を受けながら村端賢志が撮影を行ったと明かされていました。司会者だったか山下敦弘だったか忘れましたが、トークイベントの中で誰かが「村端さんが凄いですよね」と言っており、本当にその通りだなと思います。
そんな村端賢志は、「昨日は参観日で、今日はこんな場所に座っています。まさか自分の人生にこんなことが起こるなんて」と驚きを表明していました。ただ、中田夢花も村端賢志も喋りがとても上手かったのですが、村端賢志は笑いまで取っていたので、彼の発言は謙遜にしか聞こえなかったです。「学校の先生にしておくのはもったいない」みたいに感じた人もいたかもしれません。
またトークイベントでは、「この物語は、誰が主人公というわけでもない」という話になったのですが、その中で村端賢志が、「敢えて言うなら『水のないプール』が主人公」と言っていて、この言語化もとても見事だと感じました。本当に能力が高い人だなと思うし、そんなわけで、トークイベントも思いがけずとても面白くて良かったです。
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【誤り】「信じたいものを信じる」のは正しい?映画『星の子』から「信じること」の難しさを考える
どんな病気も治す「奇跡の水」の存在を私は信じないが、しかし何故「信じない」と言えるのか?「奇跡の水を信じる人」を軽々に非難すべきではないと私は考えているが、それは何故か?映画『星の子』から、「何かを信じること」の難しさについて知る
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【葛藤】「多様性を受け入れること」は難しい。映画『アイヌモシリ』で知る、アイデンティティの実際
「アイヌの町」として知られるアイヌコタンの住人は、「アイヌ語を勉強している」という。観光客のイメージに合わせるためだ。映画『アイヌモシリ』から、「伝統」や「文化」の継承者として生きるべきか、自らのアイデンティティを意識せず生きるべきかの葛藤を知る
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【排除】「分かり合えない相手」だけが「間違い」か?想像力の欠如が生む「無理解」と「対立」:映画『…
「共感」が強すぎる世の中では、自然と「想像力」が失われてしまう。そうならないようにと意識して踏ん張らなければ、他人の価値観を正しく認めることができない人間になってしまうだろう。映画『ミセス・ノイズィ』から、多様な価値観を排除しない生き方を考える
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【実話】正論を振りかざす人が”強い”社会は窮屈だ。映画『すばらしき世界』が描く「正解の曖昧さ」
「SNSなどでの炎上を回避する」という気持ちから「正論を言うに留めよう」という態度がナチュラルになりつつある社会には、全員が全員の首を締め付け合っているような窮屈さを感じてしまう。西川美和『すばらしき世界』から、善悪の境界の曖昧さを体感する
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【感想】映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を異性愛者の男性(私)はこう観た。原作も読んだ上での考察
私は「腐男子」というわけでは決してないのですが、周りにいる腐女子の方に教えを請いながら、多少BL作品に触れたことがあります。その中でもダントツに素晴らしかったのが、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』です。その映画と原作の感想、そして私なりの考察について書いていきます
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【救い】耐えられない辛さの中でどう生きるか。短歌で弱者の味方を志すホームレス少女の生き様:『セー…
死にゆく母を眺め、施設で暴力を振るわれ、拾った新聞で文字を覚えたという壮絶な過去を持つ鳥居。『セーラー服の歌人 鳥居』は、そんな辛い境遇を背景に、辛さに震えているだろう誰かを救うために短歌を生み出し続ける生き方を描き出す。凄い人がいるものだ
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【あらすじ】「愛されたい」「必要とされたい」はこんなに難しい。藤崎彩織が描く「ままならない関係性…
好きな人の隣にいたい。そんなシンプルな願いこそ、一番難しい。誰かの特別になるために「異性」であることを諦め、でも「異性」として見られないことに苦しさを覚えてしまう。藤崎彩織『ふたご』が描き出す、名前がつかない切実な関係性
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生まれ育つ環境を選ぶことはできません。そして、家族との関わりや家庭環境は、その後の人生に大きな影響を及ぼします。努力するスタートラインにも立てないと感じる時、それでも前進することを諦めてはいけないのかを、『晴天の迷いクジラ』をベースに書く
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埼玉県春日部市に実在する中学校の2年6組の生徒35人。14歳の彼らに50日間密着した『14歳の栞』が凄かった。カメラが存在しないかのように自然に振る舞い、内心をさらけ出す彼らの姿から、「中学生の今」を知る
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自分以外は凡人、と考える主人公の少女はとてもイタい。しかし、世間の価値観と折り合わないなら、自分の美しい世界を守るために闘うしかない。中二病の少女が奮闘する『オーダーメイド殺人クラブ』をベースに、理解されない世界をどう生きるかについて考察する
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空気を読んで摩擦を減らす方が、集団の中では大体穏やかにいられます。この記事では、様々な理由からそんな選択をしない/できない、『私を知らないで』に登場する中学生の生き方から、厳しい現実といかにして向き合うかというスタンスを学びます
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誰かとの関係性には大抵、「友達」「恋人」「家族」のような名前がついてしまうし、そうなればその名前に縛られてしまいます。「名前がつかない関係性の奇跡」と「誰かを想う強い気持ちの表し方」について、『君の膵臓をたべたい』をベースに書いていきます
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どうしても辿り着きたい場所があっても、そのあまりの遠さに目が眩んでしまうこともあるでしょう。そんな人に向けて、「才能がない」という言葉に逃げずに前進する勇気と、「仕事をする上で大事なスタンス」について『羊と鋼の森』をベースに書いていきます
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生きていると、「常識的な考え方」に囚われたり、「普通」「当たり前」を無自覚で強要してくる人に出会ったりします。そういう価値観に合わせられない時、自分が間違っている、劣っていると感じがちですが、そういう中で一歩踏み出す勇気を得るための考え方です
ルシルナ
ジェンダー・LGBT【本・映画の感想】 | ルシルナ
私はLGBTではありません。また、ジェンダーギャップは女性が辛さを感じることの方が多いでしょうが、私は男性です。なので、私自身がジェンダーやLGBTの問題を実感すること…
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