目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:ドゥニ・メノーシェ, 出演:マリナ・フォイス, 出演:ルイス・サエラ, 出演:ディエゴ・アニード, 出演:マリー・ゴロン, 監督:ロドリゴ・ソロゴイェン, プロデュース:イボン・ゴメンサナ, Writer:イゼベル・ペーニャ
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「移住した地を活性化させたいと目論む都会出身のインテリ夫妻」と「夫妻に嫌がらせを続ける、村から出たことのない兄弟」の対立は、実に複雑な問題を背景に抱えている
- はっきりとは描かれないので断言は出来ないものの、インテリ夫は移住に際して対応を誤ったのではないかと感じてしまった
- 失うものが無い人間」を抑止することは、ほぼ不可能だと思う
どこまで事実なのか分からないが、かなり衝撃的な後半の展開も含め、「実話であること」の重みに彩られた作品だった
自己紹介記事
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映画『理想郷』の内容紹介
物語は、スペインのガリシア地方にフランスから移住した夫妻の日常を映し出すところから始まっていく。その生活は、実に「理想的」だ。ゼロから畑を耕して野菜作りを始め、また、崩れそうな古民家を改装して村に活気をもたらす起爆剤にしようと考えている。村は自然豊かでとても美しいのだが、お世辞にも「恵まれている」とは言えないような環境だ。そんな村に賑わいを取り戻させようと考えているのである。
しかしそんな彼らは、村では歓迎されていない。それどころか、明らかに嫌悪されている。その理由は明白だ。「風力発電計画」に反対したのである。村にはノルウェーの企業から打診があり、恐らく「住民の全会一致の賛成」が求められているのだと思う。村人は、風力発電の建設に賛成すれば幾ばくかの補償金を得られると知り、ほとんどが賛成しているようだ。
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ただ、フランスで教師をしていたインテリのアントワーヌは、「風力発電がこの美しい環境を壊してしまう」ことを理解していた。そのため彼は、移住してきたばかりの余所者にも拘らず、風力発電計画に反対したのだ。恐らくアントワーヌの反対により風力発電計画は頓挫したままであり、もちろん補償金も手に入っていない。
そんな状況に苛立っているのがシャンとローレンの2人だ。彼ら兄弟は、かなり敷地を隔ててはいるものの、一応アントワーヌ夫妻が暮らす家の「隣人」である。そして彼らは、アントワーヌとその妻オルガに、はっきり敵意を抱いていた。「補償金がもらえないのはあいつらのせいだ」と考えているからだ。そしてそんな敵意を隠そうともせず、彼らは夫妻に嫌がらせを続けるのである。
移住した村を活性化させたいと目論む都会出身の夫婦と、補償金がもらえない苛立ちをぶつけてくる田舎の兄弟。シンプルに捉えればこのような構図になるが、しかしそう単純なものでもない。「風力発電計画への反対」によって顕在化した対立は、「日常生活における些細な出来事の積み重ね」によってどんどんと悪化していき……。
田舎に住む者が抱く「貧しさ」だけではない悲哀
さて、上述の内容紹介を読めば、誰もが「シャンとローレンの兄弟が悪い」と感じるだろう。恐らくほぼすべての観客がそのような感覚を共通して抱くだろうし、異論はなかろうと思う。どのような理由で夫妻に嫌悪感を抱いているのにせよ、彼らが嫌がらせや脅迫のような行為に及んでいることは確かだからだ。はっきりと、兄弟の方が悪い。この点は明確に主張しておきたいと思う。
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しかし、「行動」は論外としても、彼ら兄弟の「思考」「価値観」は決して捨て置けないとも感じた。というわけで、まずはその辺りの話から始めていくことにしよう。
もちろん大前提として、兄弟の反発の背景には「風力発電計画」がある。「補償金がもらえない」という現実に苛立っているというわけだ。しかしより重要なのは、「補償金がもらえずに苛立っている理由」の方だろう。そしてそこには、想像できるとは思うが、村の「貧しさ」が関係している。
シャンは52年間、そしてローレンは45年間、生まれてこの方ずっとこの村で暮らしてきた。そしてその間、彼らはずっと貧しかったのである。いや、この表現は実は正しくない。彼らの主張によれば、「『自分たちは貧しい』ということに、最近ようやく気づいた」というのだ。そしてそのきっかけこそが、風力発電計画で提示された補償金の額だったのである。恐らくそれは、彼らが普段手にすることのないような金額だったのだろう。そしてそのような額が提示されたことで彼らは、逆説的に、「自分たちはこんなにも貧しいのだ」と気付かされてしまったのである。
「貧しさ」に気づいてしまったら、やはりそこから脱したくなるものだろう。そしてそのきっかけとなり得る「補償金」という可能性が目の前にあるのだから、それを掴みたくもなるはずだ。彼らはきっと、「貧しさ」に気づきさえしなければずっと幸せでいられたのではないかと思う。そう考えると、風力発電計画の話が降って湧いたことは、ある種の「不運」とも感じられるだろう。「運が悪かった」というわけだ。しかし実は、問題は他にもある。
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兄弟が酒場でアントワーヌに難癖をつけている最中、弟のローレンについて「昔はイケメンだったんだ」と兄が話し始める場面があった。私はしばらくの間、兄が何の話をしようとしているのかまったく分からなかったのだが、次第に何を言いたいのかが分かってくる。「ローレンはイケメンだったのに、売春宿で女の子が寄り付かない」という話のようだ。そして彼らはその理由を「臭い」のせいだと考えているのである。馬のクソの臭いがこびりついているからダメなんだ、と。
彼らはたまたま自身の「貧しさ」を知ってしまったわけだが、それに気づかずに一生を終える可能性も十分にあっただろう。しかしそれとは別に、「家畜の世話をしている限り、結婚して子どもを持てる可能性はない」という感覚を得てしまってもいたのだ。もちろん、それは錯覚に過ぎないだろう。何故なら、両親は結婚しているからだ。家畜の世話は家業なのだから、「結婚出来ない」と決めるけるのもおかしな話である。しかし、彼ら自身がそのように感じてしまっているのだから、仕方ないと言えば仕方ないだろう。
彼らの中には恐らく、「家畜の仕事をやめたい」という思いが潜在的に存在していたはずだ。そしてだからこそ、「自分たちの希望が邪魔された」という想いになってしまったのだと思う。提示された補償金の額は、「食っていくことぐらいなら出来る」程度だそうだ。となれば、年齢的に結婚は難しいかもしれないが、「家畜の仕事をやめる」ことぐらいは出来るかもしれない。
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だとすれば、「兄弟が苛立ちを覚えてしまうのも理解できなくはないなぁ」と思う。もちろん、脅迫や嫌がらせなどの行為は言語道断だが、彼らの「主張」だけを捉えるのなら、決して無視できないものがあると思う。
アントワーヌは、対処の仕方を間違えたのではないか?
また、「補償金を得る”邪魔”をしたのが、都会からやってきた人物である」という事実もまた、兄弟の怒りに拍車をかけていると言えるだろう。彼らは恐らく、「いろいろ”御託”を並べてはいるが、あいつらが風力発電に反対している理由も、『村に活気を』みたいな行動も理解できない。インテリだか何だか知らないが、『俺たちの土地』で好き勝手やるなよ」みたいに感じているのだと思う。
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さらに言えば、「余所者である」ということは、裏を返せば「その気になれば帰る場所はある」ということでもある。しかし兄弟には、この場所しかない。本作からは、アントワーヌたちがどれぐらいの覚悟で移住してきたのかについてはよく分からなかった。しかし、もしも兄弟が「”腰掛け”みたいな感じでやりたいことをやって、どうせ上手くいかなくなったら去るんだろう」と考えているとしたら、それも無理はないように思う。
このように私は、兄弟の「行動」についてはまったく許容できないものの、彼らの「思考」や「価値観」には割と共感できてしまった。だからこそ私は、「アントワーヌはもう少し上手くやるべきだったのではないか?」と思ってしまったのである。
さて、話は変わるが、本作における時間経過がどのように設定されているのか、私はちゃんとは捉えられなかった。作中のある場面で、「お前たちはまだここに2年しか住んでいないからだ」というセリフが出てくるので、「その時点で移住から2年経っていた」ことは間違いない。しかし、物語がいつからスタートしているのかは今も分からないままである。「冒頭の時点で移住から2年経っていた」のか、あるいは「冒頭は移住してすぐの頃で、駆け足で2年間の様子を描写した」のか。前者だとは思うが、後者の可能性もあるだろう。
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そしてどちらなのかによって物語の受け取り方が少し変わるように思う。「冒頭の時点で移住から2年経っていた」のであれば、「移住当初の関係は良かったが、2年の間に色々あり、兄弟に嫌われた」とも考えられるが、「冒頭は移住してすぐの頃」なんだとしたら、「移住当初から兄弟には歓迎されていなかった」ことになるからだ。そのどちらの受け取り方が正しいのかは、私には判断できなかった。
しかし、いずれにせよ本作中には、「『風力発電計画への署名を拒否する』までの間、アントワーヌが村人たちとどのように接してきたのか」が描かれるシーンはなかったように思う。そして描かれていないからこそ余計に、「これほど険悪な状況になっているのだから、アントワーヌの方にも何か不手際があったのではないか?」と感じられてしまったのである。
実話を基にした作品とは言え、どこまで事実に即しているのかは分からない。ただ、本作は明らかに、「アントワーヌ自身にも非がある」という見せ方になっているように思う。確かに、アントワーヌが抱く理想は高潔で素晴らしいと思うが、やはり「簡単には受け入れてもらえない」ということも認識しておくべきだっただろう。「正しいことを主張すれば分かってもらえるはずだ」というピュアさ故の行動だったのかもしれないが、もう少しやりようはあったのではないかとも思う。もちろん、何度も繰り返すが、兄弟の「行動」は言語道断であり、まったく許容できるものではないのだが。
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「失うものが無い人間」を抑止することは不可能だ
作中、妻のオルガが「彼らには失うものが無い」と口にする場面がある。本当にその通りだと思う。
アントワーヌは、兄弟からの嫌がらせや発言を証拠として記録するために、ある時点からカメラを隠し持って撮影を行うことにした。彼は、「身を守ったり何かを立証したりするには記録が必要だ」と考えてそのような行動を取るのだが、一方オルガは、撮影することそのものに反対している。そしてその理由が、「彼らには失うものがないから」というわけだ。
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もちろんガリシア地方にも警察はいるし、作中にも警察は登場する。しかし兄弟もバカではないようで、「自分たちの仕業だと明確には立証できない振る舞い」や「法的に取り締まるのが難しい類の行為」を続けるのだ。「法律」で戦うことがなかなか難しい状況と言える。しかし普通なら、「倫理的にマズい行動をする人物」は「社会的制裁」を受けるはずだろう。現代では「SNSでの炎上」などがそれに当たるが、法律云々ではなく「社会がそれを許さない」みたいな状況になってもおかしくないはずだ。
しかし、彼らが住む村ではそんな「制裁」は起こり得ない。というのも、この兄弟は村での発言力が強いらしく、兄弟の主張に反対できる者などいないからである。また、程度の差こそあれ、村人はアントワーヌに対して「風力発電計画に反対しやがって」みたいな感覚を概ね持っているのだと思う。だから、兄弟がどれだけ「倫理的にマズい行動」を取ろうが、そのことによって「村社会の中での評価が下がる」みたいなことにはならないのだ。
オルガはそのような状況が理解出来ているし、だから「撮影」は無意味だと感じてもいる。それどころか「相手を挑発するだけで、むしろ危険だから止めてほしい」と夫に訴えるのだが、アントワーヌは聞く耳を持たない。恐らく、「『何もせずに座して死を待つのみ』みたいな状況は耐え難い」ということなのだろう。
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本作を観て改めて、「『失うものが無い人物』を抑止することは、ほとんど不可能ではないか」と感じた。兄弟はまさに「無敵の人」というわけだ。一方で夫妻には「失うもの」がたくさんある。その最大のものが「この土地での生活」と言えるだろう。自身の理想を実現するため、アントワーヌにとってはこの土地での生活がとにかく重要なようで、どれだけ嫌がらせを受けてもその考えは変わらない。オルガから「そんなに大切? ここの生活」と言われても、まったく揺るがないのだ。
そんな「『この土地での生活』こそ何よりも失いたくない」と考えるアントワーヌはしかし、「この土地での生活」を成り立たせようとすればするほど兄弟からの嫌がらせが増すという状況にある。そして結果として、「この土地での生活」を失いかけているというわけだ。
二律背反と言えばいいのか、実にもどかしい状況と言えるだろう。
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この対立に、果たして「正解」は存在したのだろうか?
本作では冒頭からしばらくの間、ここまでで触れてきたような「対立」が様々な形で描かれる。正直なところ、「予想外のこと」は何も起こらないと言っていいと思う。別に悪い意味では決してない。誰しもが想定し得るだろう「人間の悪意」が丁寧に積み上げられていき、その中で放たれるジメッとした雰囲気が、作品の重厚感を生み出しているというわけだ。
そして後半で、「なるほど、そんな展開になるのか」と感じるような物語になっていくのである。具体的には触れないが、ちょっと予想外で驚かされたし、特に、後半に登場する夫妻の娘とのあるやり取りには考えさせられてしまった。
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その際のやり取りは、凝縮すれば「何故生きるのか?」という根源的な問いにも接続されるように思う。そしてそう考えることで、『理想郷』という本作のタイトルが持つ「皮肉さ」が一層強調されているとも受け取れるだろう。本作では前半からずっと、「誰も間違ったことを言っていないのに、状況はどんどん悪化してしまう」という描写がなされていたわけだが、後半でもそのような状況が一層強く描かれるというわけだ。
また、どのような立ち位置の人物なのかには触れないが、作中には「ヤギ飼いの甥」が出てくる。そして本質的には、彼がアントワーヌに伝えたことがすべてだと私は思う。「村には良い人もいるし、悪い人もいる」「あなたたちの理想は素晴らしいと思うが、村人には長期的な視野はない」と、アントワーヌに理解を示しつつも現状の難しさを伝えるような言葉を口にするのである。
そのような状況にあって、アントワーヌは一体どう振る舞うべきだったのか。客観的には、「この問いには果たして『正解』が存在するのか」が焦点となるだろう。もしかしたら、「正解」は存在しないかもしれない。しかしそうだとしても、何らかの決断・行動は必要になってくる。
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最後に
とにかくひたすらに重苦しさが続く映画だった。議論の余地なく「兄弟に非がある」ことは間違いないのだが、しかし、そこで思考を止めては何も変わらない。実話を基にしている物語だという事実も踏まえた上で、私たちは「何が『正解』だったのか」「そもそも『正解』なんて存在するのか」などについて考えを巡らすべきだろうと思う。
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