目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:大泉洋, 出演:有村架純, 出演:目黒蓮, 出演:伊藤沙莉, 出演:田中圭, 出演:柴咲コウ, Writer:橋本裕志, 監督:廣木隆一
¥2,500 (2023/10/02 20:41時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
大切な人とのかけがえのない時間を丁寧に描き出す魅力的な映画です
徹底して「生まれ変わり」の存在を否定し続ける主人公の振る舞いこそが、この映画を普遍的なものにしていると感じました
この記事の3つの要点
- 「生まれ変わり」をメインに据えたことで、結果的に「スマホのない時代の恋愛」を違和感なく描くことが出来ている
- 目黒蓮、有村架純、大泉洋、柴咲コウ、伊藤沙莉など、主要な役を演じる俳優の存在感がとにかく見事
- 私は「生まれ変わり」は信じないが、『月の満ち欠け』で描かれる現象の存在を否定するつもりもない
きっと、「こんな恋がしたい」「こんな夫婦でありたい」みたいに感じてしまう物語なのではないかと思います
自己紹介記事
あわせて読みたい
ルシルナの入り口的記事をまとめました(プロフィールやオススメの記事)
当ブログ「ルシルナ」では、本と映画の感想を書いています。そしてこの記事では、「管理者・犀川後藤のプロフィール」や「オススメの本・映画のまとめ記事」、あるいは「オススメ記事の紹介」などについてまとめました。ブログ内を周遊する参考にして下さい。
あわせて読みたい
【全作品読了・視聴済】私が「読んできた本」「観てきた映画」を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が『読んできた本』『観てきた映画』を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非本・映画選びの参考にして下さい。
どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
「生まれ変わり」なんて一切信じていない私でも楽しめた映画『月の満ち欠け』の魅力
映画全体の良かった点について
とても素敵な映画でした。この映画は、物語の構成だけ取り出したら実は結構複雑で、場面によっては「回想シーンの中に、さらに回想シーンが含まれる」なんていう入れ子構造のような状態になっていたりします。かなり上手く構成しないと置いてけぼりにするような物語だと思いますが、実際に観れば、そんな複雑さを感じることはないでしょう。時系列が凄まじく入れ替わる物語でありながら、恐らく大体の観客は無理なく物語を追えるのではないかと思います。
あわせて読みたい
【感想】映画『君が世界のはじまり』は、「伝わらない」「分かったフリをしたくない」の感情が濃密
「キラキラした青春学園モノ」かと思っていた映画『君が世界のはじまり』は、「そこはかとない鬱屈」に覆われた、とても私好みの映画だった。自分の決断だけではどうにもならない「現実」を前に、様々な葛藤渦巻く若者たちの「諦念」を丁寧に描き出す素晴らしい物語
また、この映画のメインとなる設定は「生まれ変わり」ですが、この扱いも非常に上手かったです。世の中には私と同じように、「『生まれ変わり』なんて信じない」と考える人もたくさんいると思いますが、実は主人公の1人である小山内堅(大泉洋)も否定派なのです。徹底的に、「俺はそんなこと信じない」という立場を貫き続けています。そんな人物が主人公なので、「『生まれ変わり』なんて信じない」という立場の人でもすんなり物語を受け入れられるでしょう。物語は全体として、「『生まれ変わり』を一切信じようとしない小山内堅をいかに説得するか」というスタンスで描かれているので、どういうスタンスの人でも抵抗なく受け入れられるのではないかと思います。
一方で私は、「科学で説明し切れないものは、否定も出来ない」っていう立場なんだけど
「『生まれ変わり』を否定する根拠」も、今のところきっとないだろうしね
そしてこの物語の良さは、「『生まれ変わり』という設定を受け入れなくても、描かれる人間関係が素敵に感じられる」という点にあります。「『生まれ変わり』という現象を受け入れないとその良さが伝わらない関係性」が描かれているのであれば受け取り方は難しくなるでしょうが、決してそんなことはありません。小山内堅と梢の夫婦の物語も、その娘である瑠璃と親友ゆいの物語も、あるいはもう1人の瑠璃と三角哲彦の物語も、とても素敵です。そしてその素敵な関係性が、「もしかしたら『生まれ変わり』という可能性で繋がっているのかもしれない」と仄めかす設定や展開が、とても上手かったと思います。
あわせて読みたい
【生と死】不老不死をリアルに描く映画。「若い肉体のまま死なずに生き続けること」は本当に幸せか?:…
あなたは「不老不死」を望むだろうか?私には、「不老不死」が魅力的には感じられない。科学技術によって「不老不死」が実現するとしても、私はそこに足を踏み入れないだろう。「不老不死」が実現する世界をリアルに描く映画『Arc アーク』から、「生と死」を考える
また、「生まれ変わり」を描くことで、副次的なメリットもあったと言えるでしょう。「生まれ変わり」を描く以上、どうしても長い年月を描く物語にならざるを得ませんが、だからこそ、「スマホのない時代の恋愛」を違和感なく組み込めていると言えるからです。スマホがあることによって生まれるドラマももちろんあるでしょうが、スマホがないからこそのシチュエーションもありますし、それらは「恋愛物語」を描く上で非常に重要な要素になったりもするでしょう。そこまで意図していなかったかもしれませんが、「生まれ変わり」という要素を組み込むことによって、結果として物語全体が芳醇になっていると言えると思います。
「人気だけではなく、実力も兼ね備えた俳優」をズラリと揃えた点も含め、「大ヒットが求められる系の映画」の中では、かなり良質な作品に仕上がっていると感じました。
あわせて読みたい
【考察】『うみべの女の子』が伝えたいことを全力で解説。「関係性の名前」を手放し、”裸”で対峙する勇敢さ
ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
映画『月の満ち欠け』の内容紹介
小山内堅は、東京の大学に進学し、そのまま就職したのだが、その後地元・青森県八戸市の実家に戻ってきた。高齢の母をヘルパーに見てもらいつつ、漁港での仕事に従事している。
何故地元に戻ってきたのか。それは、愛する妻と娘を交通事故で喪ったからだ。高校時代にはほとんど関わりのなかった後輩・梢と東京の大学で再会した小山内は、ジョン・レノンが殺された年に梢と結婚し、その後一人娘の瑠璃をもうける。「瑠璃」という名前は梢が決めた。いや、正確には瑠璃が決めたのだそうだ。梢は小山内に、「夢の中でこの子が、『瑠璃って名前にして』と言ってきたの」と話す。「『瑠璃も玻璃も照らせば光る』の瑠璃だよ」と。
まだ小さい時に、瑠璃は高熱を出した。病院で診てもらっても原因がまったく分からなかったが、その後無事回復する。しかし、瑠璃の様子がおかしい。そのことに、梢は気づいた。知っているはずのない英語の歌を口ずさんでいたり、ジッポのライターの石を交換してみせたりしたのだ。さらにその後、小学生になった瑠璃が、1人で電車に乗り、高田馬場まで行ってしまうという事件が起こった。とあるレコード店をめがけて行き着いたというが、高田馬場など訪れたことがないはずなのに、どうしてそのレコード店の存在を知っていたのか分からないことは多い。
いずれにせよ、小山内は瑠璃に、高校を卒業するまで1人では遠くに行かないと約束させた。その後は、瑠璃の周りでおかしなことが起こったことはない。そして高校を卒業する直前、梢は妻と共に事故に遭い、この世を去った。
あわせて読みたい
【映画】『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』で号泣し続けた私はTVアニメを観ていない
TVアニメは観ていない、というかその存在さえ知らず、物語や登場人物の設定も何も知らないまま観に行った映画『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 劇場版』に、私は大号泣した。「悪意のない物語」は基本的に好きではないが、この作品は驚くほど私に突き刺さった
八戸へと戻った小山内を訪ねてきた者がいる。男は三角哲彦と名乗った。そして、ジョン・レノンが殺された年に出会った1人の女性の話を語り始める。
大学生だった三角は、とあるレコード店で働いていた。そしてある雨の日、店先で雨宿りしていた名も知らぬ女性に一目惚れする。連絡先の交換をしないまま別れたが、その後偶然再会した。三角はやはり彼女に惹かれていることを自覚する。しかし、瑠璃というその女性は何かのっぴきならない事情を抱えているようで、それが障害になっているのか、三角の想いはなかなか彼女に伝わらない。
小山内は、目の前に座る青年の告白に面食らう。その話が自分とどう関わるのかまったく分からなかったからだ。そこで三角は驚くべきことを口にする。なんと、梢と瑠璃が事故に遭ったのは、2人が自分に会いに来る途中のことだったというのだ。三角は、梢から連絡をもらったのだという。
そんな馬鹿なことがあるはずがない。ジョン・レノンが殺された年に結婚した2人の間に生まれた娘と、ジョン・レノンが殺された年に大学生だった青年の間に、どんな繋がりがあるというんだ。
あわせて読みたい
【感想】映画『朝が来る』が描く、「我が子を返して欲しい気持ち」を消せない特別養子縁組のリアル
「特別養子縁組」を軸に人々の葛藤を描く映画『朝が来る』は、決して「特別養子縁組」の話ではない。「『起こるだろうが、起こるはずがない』と思っていた状況」に直面せざるを得ない人々が、「すべての選択肢が不正解」という中でどんな決断を下すのかが問われる、非常に示唆に富む作品だ
三角はこう添える。「あなたの娘さんは、瑠璃の生まれ変わりなのではないか」と。
映画『月の満ち欠け』の感想
著:佐藤 正午
¥935 (2023/10/02 20:54時点 | Amazon調べ)
ポチップ
この映画は、佐藤正午の小説が原作です。私は原作は読んでいませんし、映画がどこまで原作に忠実なのかも分かりませんが、映画を観て「さすが佐藤正午だな」と感じました。佐藤正午の小説は何作かしか読んでいないし、そのすべてが好きなわけでもありませんが、緻密な構成と繊細な人間の描き方はやはり絶妙だと思います。
あわせて読みたい
【難しい】映画『鳩の撃退法』をネタバレ全開で考察。よくわからない物語を超詳細に徹底解説していく
とても難しくわかりにくい映画『鳩の撃退法』についての考察をまとめていたら、1万7000字を超えてしまった。「東京編で起こったことはすべて事実」「富山編はすべてフィクションかもしれない」という前提に立ち、「津田伸一がこの小説を書いた動機」まで掘り下げて、実際に何が起こっていたのかを解説する(ちなみに、「実話」ではないよ)
あわせて読みたい
【解説】「小説のお約束」を悉く無視する『鳩の撃退法』を読む者は、「読者の椅子」を下りるしかない
佐藤正午『鳩の撃退法』は、小説家である主人公・津田が、”事実”をベースに、起こったかどうか分からない事柄を作家的想像力で埋める物語であり、「小説のお約束を逸脱しています」というアナウンスが作品内部から発せられるが故に、読者は「読者の椅子」を下りざるを得ない
また、冒頭でも書いた通り、全体の構成がかなり複雑です。小説であればこれぐらい複雑な構成はあるでしょうが、映像で描くにはかなりハードだと思います。恐らく映画化にあたって、物語を理解してもらうための映像的な工夫をかなりしているのではないかと感じました。原作の良さと、映画化に際しての工夫が、絶妙に噛み合った作品なのではないかと思います。
小説の映画化は、上手くいかないことの方が多い印象あるけど、この作品は恐らく大成功と言っていいんじゃないかと思う
まあ、原作を読んでないからはっきりとは分からないけどね
作中で描かれる中で一番魅力的なのは、やはり三角哲彦(目黒蓮)と正木瑠璃(有村架純)の関係性でしょう。正木瑠璃については映画の後半で詳しく描かれるものの、三角哲彦視点で描かれる物語においては、正木瑠璃はとにかく「謎の女性」でしかありません。彼女が「何かを抱えている」ことは分かるものの、それが何かははっきりしないのです。大学生の三角哲彦にとっては、「自分が住んでいる世界の理屈ではきっとどうにもならない話なんだろう」と理解する以外にはなかったでしょう。しかしそれでも、「彼女のために何かしてあげられることはないだろうか」と考えてしまうのです。
あわせて読みたい
【感涙】映画『彼女が好きなものは』の衝撃。偏見・無関心・他人事の世界から”脱する勇気”をどう持つか
涙腺がぶっ壊れたのかと思ったほど泣かされた映画『彼女が好きなものは』について、作品の核となる「ある事実」に一切触れずに書いた「ネタバレなし」の感想です。「ただし摩擦はゼロとする」の世界で息苦しさを感じているすべての人に届く「普遍性」を体感してください
「何かを秘めている」が故に正木瑠璃は一層魅力的に映るわけで、「そりゃあ大学生だったらころっといっちゃうだろうなぁ」という感じが凄く伝わりました。また、近づきたいけど近づけない2人の関係性は演技からも見事に醸し出されています。たぶん、三角哲彦と正木瑠璃の話だけでも1本の映画を作れてしまうんじゃないでしょうか。とても素敵だと感じました。
また、小山内堅(大泉洋)と梢(柴咲コウ)の夫婦もとても素敵です。何よりも柴咲コウが良いなと感じました。なんとなく柴咲コウには、クールだったり厳しかったりする役のイメージがあるのですが、この映画の役はもの凄く柔らかい雰囲気の女性で、柴咲コウがその役にとてもハマっていたと思います。梢のそういう明るい存在感は、物語のラスト(この記事では触れません)にも直結する部分であり、とても重要だと言っていいでしょう。また、夫である小山内堅との関係性は、「幸せ」と題をつけて額縁に飾りたくなるぐらいのもので、「幸せの象徴としての『梢』」みたいな存在感を、柴咲コウがとにかく絶妙に演じていたと感じました。
柴咲コウってホント、あんまり笑ってない役が多い印象だったから、『月の満ち欠け』ではとにかく笑顔が印象的だった
変な話だけど、「柴咲コウが笑うと、こんなに柔らかい雰囲気になるんだ」ってちょっとビックリしたよね
あわせて読みたい
【感想】映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)の稲垣吾郎の役に超共感。「好きとは何か」が分からない人へ
映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)は、稲垣吾郎演じる主人公・市川茂巳が素晴らしかった。一般的には、彼の葛藤はまったく共感されないし、私もそのことは理解している。ただ私は、とにかく市川茂巳にもの凄く共感してしまった。「誰かを好きになること」に迷うすべての人に観てほしい
そんな梢と幸せな時間を過ごす小山内堅もとても良く、「幸せな家族」みたいな雰囲気が特別好きなわけではない私でも、「これは良い夫婦だなぁ」と感じるような存在でした。また小山内堅は、「妻と娘と共に幸せな時間を過ごす」のと、「妻と娘を共に喪って絶望の時間を過ごす」という両極端な状況を経験するわけですが、その振れ幅を大泉洋が絶妙に演じています。さらに、冒頭でも触れましたが、小山内堅というのは「『生まれ変わり』をまったく信じない人物」であり、そのスタンスが「生まれ変わり」に忌避感を抱く観客を物語に引き留める役割を担っていると思うので、そういう意味でも重要な存在と言えるでしょう。そのような難しい存在感を、大泉洋が見事に醸し出しています。
また、瑠璃の親友である緑坂ゆい(伊藤沙莉)も良かったです。物語が始まってしばらくの間は、彼女がそこまで重要な存在だとは思っていなかったのですが、物語を最後まで観ると、実は緑坂ゆいこそがすべての「起点」だったことが分かるでしょう。かなりの重要人物だと言っていいと思います。
ここで重要なのは、「そんな『緑坂ゆい』を誰が演じるのか」です。緑坂ゆいが重要な存在であるいう事実は、物語の冒頭の段階で観客が知る必要はありません。むしろそれを伏せておいた方が、物語的な起伏は大きくなると言えるでしょう。一方、物語は次第に「小山内堅 対 緑坂ゆい」という状況になっていきます。つまり、「大泉洋と対抗できるだけの存在感を持つ女優でなければならない」というわけです。
あわせて読みたい
【あらすじ】ムロツヨシ主演映画『神は見返りを求める』の、”善意”が”悪意”に豹変するリアルが凄まじい
ムロツヨシ演じる田母神が「お人好し」から「復讐の権化」に豹変する映画『神は見返りを求める』。「こういう状況は、実際に世界中で起こっているだろう」と感じさせるリアリティが見事な作品だった。「善意」があっさりと踏みにじられる世界を、私たちは受け容れるべきだろうか?
そういう意味で、主役も張れるし脇役でも輝ける伊藤沙莉という選択は絶妙だったと感じました。もし緑坂ゆいを、常に主役を張るような女優が演じたとしたら、その重要性が最初の段階で明らかになってしまいます。かといって、知名度の低い女優では、後半の大泉洋との対立で釣り合いが取れなくなるでしょう。緑坂ゆいを伊藤沙莉が演じることで、そのどちらの要素もきちんと満たすことが出来るわけで、完璧な配役だったなと感じました。
伊藤沙莉って元々好きな女優だけど、この映画ではホント「絶妙!」って感じだった
伊藤沙莉以外に、緑坂ゆいを演じるのに適した女優って、ちょっとパッとは思い浮かばないよね
さて、映画には田中圭も出てきます。公式HPを見ればどんな役なのか書いてあるので伏せる必要はないのですが、この記事では一応、具体的な役には触れないでおきましょう。しかし田中圭の役がとにかく酷かったです。『哀愁しんでれら』でも酷い系でしたが、田中圭ってホントこういう役がハマるよなぁ。『月の満ち欠け』では、田中圭に対して「全部お前なんじゃん!」みたいに言いたくなってしまうような酷さがあります。しかし同時に、その「酷さ」がある意味では物語を成立させるのに不可欠な要素でもあるわけで、田中圭の役の存在感もまた重要になってくるわけです。しかし、何度も言いますが、田中圭の役は酷かったなぁ。
あわせて読みたい
【考察】映画『哀愁しんでれら』から、「正しい」より「間違ってはいない」を選んでしまう人生を考える
「シンデレラストーリー」の「その後」を残酷に描き出す映画『哀愁しんでれら』は、「幸せになりたい」という気持ちが結果として「幸せ」を遠ざけてしまう現実を描き出す。「正しい/間違ってはいない」「幸せ/不幸せではない」を区別せずに行動した結果としての悲惨な結末
『月の満ち欠け』はとにかく、「もしかしたら本当に『生まれ変わり』なんて現象が起こり得るのかもしれない」という可能性をじわじわと仄めかしていく作品です。そして、そこに説得力をもたせるには、「客観的な証拠」が必要になるでしょう。「誰かがこんなことを言っていた」とか、「私はあの時にこういうものを見た」のような、主観的な描写だけでは説得力がありません。だからこそ、客観的な要素が必要なのです。
『月の満ち欠け』にはそういう要素が散りばめられているわけですが、その使い方が非常に上手いと言えるでしょう。ビデオカメラ、写真、絵、テープレコーダーなど様々なツールを組み合わせながら、登場人物や観客を「こんな証拠があるってことは、『生まれ変わり』が起こったとしか考えられない」という思考へと導いていくのです。また、冒頭で「スマホがない時代の恋愛を描いている」と書きましたが、「客観的な証拠」という意味でもスマホのない時代を舞台にしたことは正解と言えるでしょう。今はスマホで何でも記録できる時代になりましたが、それでは少し味気ない感じがするからです。ビデオカメラ、テープレコーダー、カメラなど、様々な記録媒体に頼らなければならなかった時代を描いているからこそ、物語に「厚み」が出ているのではないかと感じました。
あわせて読みたい
【世界観】映画『夜は短し歩けよ乙女』の”黒髪の乙女”は素敵だなぁ。ニヤニヤが止まらない素晴らしいアニメ
森見登美彦の原作も大好きな映画『夜は短し歩けよ乙女』は、「リアル」と「ファンタジー」の境界を絶妙に漂う世界観がとても好き。「黒髪の乙女」は、こんな人がいたら好きになっちゃうよなぁ、と感じる存在です。ずっとニヤニヤしながら観ていた、とても大好きな映画
仕方ないことだとはいえ、「スマホ」の登場は、色んな意味で「物語の面白さ」を破壊していくなぁって感じするよね
もちろん、スマホを上手く使う物語も存在するだろうけど、やっぱり「スマホがなかった不便さ」が生む物語の方が魅力的に感じちゃう
さてこのように、「客観的な証拠」によって「生まれ変わり」の傍証を積み上げていくわけですが、さらに、「客観的ではない要素」を提示することで観客の心を揺さぶる構成も上手いと感じました。作中には、「駅前でずっと待ってる」「心配させてごめんね」など、「客観性などない、誰かの記憶の中にしかない傍証」も多数出てきます。そして結果としてそれらが、「『生まれ変わり』が起こったかどうか」みたいな議論を超越したところで登場人物の心を揺さぶり、さらに観客の心を震わせることになるのです。
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『流浪の月』を観て感じた、「『見て分かること』にしか反応できない世界」への気持ち悪さ
私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
これはもちろん、「客観的な証拠」によって「生まれ変わり」の傍証が丁寧に積み上げられていくからこそ機能する演出だと言えるでしょう。普通なら陳腐にも受け取られかねない要素を、ここぞという場面で絶妙な形で使い、理屈や信念を超越したところで心を震わせていくような展開が、実に上手いと感じました。
「生まれ変わり」についての私の考え方
さて最後に、「生まれ変わり」という現象について私がどのような認識を抱いているのかに触れて終わりにしたいと思います。
あわせて読みたい
【不思議】森達也が「オカルト」に挑む本。「科学では説明できない現象はある」と否定も肯定もしない姿…
肯定派でも否定派でもない森達也が、「オカルト的なもの」に挑むノンフィクション『オカルト』。「現象を解釈する」ことよりも、「現象を記録する」こと点に注力し、「そのほとんどは勘違いや見間違いだが、本当に説明のつかない現象も存在する」というスタンスで追いかける姿勢が良い
冒頭でも書いた通り、私は「生まれ変わり」という現象の存在は信じていません。ただ、「『月の満ち欠け』で描かれているような状況が成り立つ可能性はゼロではない」とも考えています。何故なら、「人類がまだ認識できていない『記憶』のメカニズムが存在する可能性」を考慮しているからです。
「人跡未踏のフロンティアは『深海』『宇宙』『脳』ぐらいしか残されていない」みたいな話を聞いたことがある
「脳」ってホント謎の器官らしいし、だから「記憶」についてもどんなことが起こってもおかしくない気がしちゃうよね
あわせて読みたい
【考察】アニメ映画『虐殺器官』は、「便利さが無関心を生む現実」をリアルに描く”無関心ではいられない…
便利すぎる世の中に生きていると、「この便利さはどのように生み出されているのか」を想像しなくなる。そしてその「無関心」は、世界を確実に悪化させてしまう。伊藤計劃の小説を原作とするアニメ映画『虐殺器官』から、「無関心という残虐さ」と「想像することの大事さ」を知る
例えば私は、「誰かの記憶が、丸ごと(あるいは一部)別の人に移動する」みたいな現象が存在していても不思議ではないと思っています。何故なら、科学の世界では、「そんなことあり得ないだろう」と感じずにはいられない、不可思議で信じがたい現象が様々に知られているからです。
例えば「脳」についてならこんな話があります。恐らく多くの人は、「何かしよう(ペンを拾おう)」と意識した後で脳から行動の指令が出され、そして、「実際にその行動をする(ペンを拾う)」という順番で思考・行動が機能していると考えているでしょう。しかし脳の研究によってそうではないことが明らかになっています。実は、私たちが「何かしよう(ペンを拾おう)」と考える以前に、既に脳の中で「ペンを拾え」という指令が出ていることが明らかになったのです。つまり、「ペンを拾え」という指示を脳が出した後で「ペンを拾おう」という意識が生まれ、それから「ペンを拾う」という行動に繋がる、というわけです。
あわせて読みたい
【奇妙】映画『鯨の骨』は、主演のあのちゃんが絶妙な存在感を醸し出す、斬新な設定の「推し活」物語
映画『鯨の骨』は、主演を務めたあのちゃんの存在感がとても魅力的な作品でした。「AR動画のカリスマ的存在」である主人公を演じたあのちゃんは、役の設定が絶妙だったこともありますが、演技がとても上手く見え、また作品全体の、「『推し活』をある意味で振り切って描き出す感じ」もとても皮肉的で良かったです
では、「ペンを拾え」と指令を出したのは一体誰なのでしょうか? 「ペンを拾え」と指示が出た後で「ペンを拾おう」と意識するのだから、私たちの意識がその指令を出したわけではないことは明らかでしょう。正解は「無意識が指示を出した」です。私たちの「意識」は「無意識」に支配されているわけで、それは、「人間には『自由意志』など存在しない」ことを示唆してもいます。
あるいはこんな話も紹介しておきましょう。私たち人間は、世界を0.5秒遅れで捉えていることが明らかになってきています。つまり、実際に「テレビ画面が点いた」瞬間から0.5秒遅れて、私たちは「テレビ画面が点いた」と認識する、というわけです。
このような仕組みでも日常生活には特に影響を及ぼしませんが、スポーツではそうはいきません。例えば、時速140kmほどのボールが、ピッチャーマウンドからバッターボックスに到達するのに、約0.5秒掛かるそうです。つまり、私たちが0.5秒遅れで世界を認識しているのであれば、「『ボールがキャッチャーミットに収まった瞬間』にようやく『ピッチャーがボールから手を離した』と認識できる」ということになります。
あわせて読みたい
【感想】映画『すずめの戸締まり』(新海誠)は、東日本大震災後を生きる私達に「逃げ道」をくれる(松…
新海誠監督の『すずめの戸締まり』は、古代神話的な設定を現代のラブコメに組み込みながら、あまりに辛い現実を生きる人々に微かな「逃げ道」を指し示してくれる作品だと思う。テーマ自体は重いが、恋愛やコメディ要素とのバランスがとても良く、ロードムービー的な展開もとても魅力的
普通に考えて、これではバッターがボールを打てるはずもありません。しかし実際にバッターはボールを打ち返すことが出来ています。これもまた、脳の不可思議な性質を示すものと言えるでしょう。
この「原理的には、バッターはピッチャーが投げたボールを打てないはず」って話を知った時は驚いたよなぁ
科学者も、よくもまあ「人間は0.5秒遅れで世界を認識している」なんて事実に気づいたもんだよね
このように、「常識的な考え方から逸脱した現象」が様々に知られているので、「何らかのメカニズムで、誰かの記憶が別の人の脳へと移動する」なんて現象が起こっていても、私は特に驚かないと思います。そして、もしもそんな「記憶の移動」が起こっているとすれば、それは「生まれ変わり」としか表現できない状況を生み出すでしょう。
あわせて読みたい
【未知】「占い」が占い以外の効果を有するように、UFOなど「信じたいものを信じる」行為の機能を知れる…
「占い」に「見透かされたから仕方なく話す」という効用があるように、「『未知のもの』を信じる行為」には「『否定されたという状態』に絶対に達しない」という利点が存在する。映画『虚空門GATE』は、UFOを入り口に「『未知のもの』を信じる行為」そのものを切り取る
私はこんな風にして、世の中で「不思議」とされている出来事が、何らかの形で科学的に解明される日が来るのではないかと考えているのです。そんなわけで私は、『月の満ち欠け』で描かれているような現象を否定するつもりはありません。
「記憶」に関しても興味深い話は色々とあります。例えば、以前テレビで、「科学者が驚いた事例」としてあるイギリス人女性の話が紹介されていました。その女性は、明らかに自分のものではない記憶を持っていることに気づきます。そして、その記憶の中の風景や家族構成などを頼りに実際に調査したところ、「本来その記憶を持っているはずの女性」の存在にたどり着きました。彼女が持っていた記憶から、その記憶を持っているはずの女性は亡くなっていることが推定されており、実際に亡くなっていたのですが、その女性の子どもたちと会うことが出来たのです。子どもたちは、「母親の記憶を持っているらしい、自分たちよりも年下の女性」と話す度に、「そこに母親の存在を感じる」と言っていました。詳しくは触れられていませんでしたが、恐らく彼女は子どもたちと、母親しか知らないはずの記憶について話したりもしていたのだと思います。
そんなわけで私は、映画『月の満ち欠け』のようなことだって、十分起こり得るだろうと考えているのです。
あわせて読みたい
【斬新】フィクション?ドキュメンタリー?驚きの手法で撮られた、現実と虚構が入り混じる映画:『最悪…
映画『最悪な子どもたち』は、最後まで観てもフィクションなのかドキュメンタリーなのか確信が持てなかった、普段なかなか抱くことのない感覚がもたらされる作品だった。「演技未経験」の少年少女を集めての撮影はかなり実験的に感じられたし、「分からないこと」に惹かれる作品と言えるいだろうと思う
出演:大泉洋, 出演:有村架純, 出演:目黒蓮, 出演:伊藤沙莉, 出演:田中圭, 出演:柴咲コウ, Writer:橋本裕志, 監督:廣木隆一
¥2,500 (2023/10/02 20:44時点 | Amazon調べ)
ポチップ
あわせて読みたい
【全作品視聴済】私が観てきた映画(フィクション)を色んな切り口で分類しました
この記事では、「今まで私が観てきた映画(フィクション)を様々に分類した記事」を一覧にしてまとめました。私が面白いと感じた作品だけをリストアップしていますので、是非映画選びの参考にして下さい。
最後に
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『アンダーカレント』(今泉力哉)は、失踪をテーマに「分かり合えなさ」を描く
映画『アンダーカレント』において私は、恐らく多くの人が「受け入れがたい」と感じるだろう人物に共感させられてしまった。また本作は、「他者を理解すること」についての葛藤が深掘りされる作品でもある。そのため、私が普段から抱いている「『他者のホントウ』を知りたい」という感覚も強く刺激された
「生まれ変わり」という非現実的な設定を中心に据えながら、その周辺に「魅力的な人間関係」を配置する構成の物語は、とても素敵なものでした。本当に「生まれ変わり」が起こっていたのかどうかはどうでもよくて、それは結局のところ「誰かを想う強い気持ち」を惹起するものとして描かれるわけで、その「想いの強さ」みたいなものがとても魅力的に映るのではないかと思います。
あわせて読みたい
Kindle本出版しました!「それってホントに『コミュ力』が高いって言えるの?」と疑問を感じている方に…
私は、「コミュ力が高い人」に関するよくある主張に、どうも違和感を覚えてしまうことが多くあります。そしてその一番大きな理由が、「『コミュ力が高い人』って、ただ『想像力がない』だけではないか?」と感じてしまう点にあると言っていいでしょう。出版したKindle本は、「ネガティブには見えないネガティブな人」(隠れネガティブ)を取り上げながら、「『コミュ力』って何だっけ?」と考え直してもらえる内容に仕上げたつもりです。
次にオススメの記事
あわせて読みたい
【狂気】群青いろ制作『雨降って、ジ・エンド。』は、主演の古川琴音が成立させている映画だ
映画『雨降って、ジ・エンド。』は、冒頭からしばらくの間「若い女性とオジサンのちょっと変わった関係」を描く物語なのですが、後半のある時点から「共感を一切排除する」かのごとき展開になる物語です。色んな意味で「普通なら成立し得ない物語」だと思うのですが、古川琴音の演技などのお陰で、絶妙な形で素敵な作品に仕上がっています
あわせて読みたい
【奇妙】映画『鯨の骨』は、主演のあのちゃんが絶妙な存在感を醸し出す、斬新な設定の「推し活」物語
映画『鯨の骨』は、主演を務めたあのちゃんの存在感がとても魅力的な作品でした。「AR動画のカリスマ的存在」である主人公を演じたあのちゃんは、役の設定が絶妙だったこともありますが、演技がとても上手く見え、また作品全体の、「『推し活』をある意味で振り切って描き出す感じ」もとても皮肉的で良かったです
あわせて読みたい
【斬新】フィクション?ドキュメンタリー?驚きの手法で撮られた、現実と虚構が入り混じる映画:『最悪…
映画『最悪な子どもたち』は、最後まで観てもフィクションなのかドキュメンタリーなのか確信が持てなかった、普段なかなか抱くことのない感覚がもたらされる作品だった。「演技未経験」の少年少女を集めての撮影はかなり実験的に感じられたし、「分からないこと」に惹かれる作品と言えるいだろうと思う
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『レザボア・ドッグス』(タランティーノ監督)はとにかく驚異的に脚本が面白い!
クエンティン・タランティーノ初の長編監督作『レザボア・ドッグス』は、のけぞるほど面白い映画だった。低予算という制約を逆手に取った「会話劇」の構成・展開があまりにも絶妙で、舞台がほぼ固定されているにも拘らずストーリーが面白すぎる。天才はやはり、デビュー作から天才だったのだなと実感させられた
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『アンダーカレント』(今泉力哉)は、失踪をテーマに「分かり合えなさ」を描く
映画『アンダーカレント』において私は、恐らく多くの人が「受け入れがたい」と感じるだろう人物に共感させられてしまった。また本作は、「他者を理解すること」についての葛藤が深掘りされる作品でもある。そのため、私が普段から抱いている「『他者のホントウ』を知りたい」という感覚も強く刺激された
あわせて読みたい
【感想】映画『すずめの戸締まり』(新海誠)は、東日本大震災後を生きる私達に「逃げ道」をくれる(松…
新海誠監督の『すずめの戸締まり』は、古代神話的な設定を現代のラブコメに組み込みながら、あまりに辛い現実を生きる人々に微かな「逃げ道」を指し示してくれる作品だと思う。テーマ自体は重いが、恋愛やコメディ要素とのバランスがとても良く、ロードムービー的な展開もとても魅力的
あわせて読みたい
【生還】内戦下のシリアでISISに拘束された男の実話を基にした映画『ある人質』が描く壮絶すぎる現実
実話を基にした映画『ある人質 生還までの398日』は、内戦下のシリアでISISに拘束された男の壮絶な日々が描かれる。「テロリストとは交渉しない」という方針を徹底して貫くデンマーク政府のスタンスに翻弄されつつも、救出のために家族が懸命に奮闘する物語に圧倒される
あわせて読みたい
【勝負】実話を基にコンピューター将棋を描く映画『AWAKE』が人間同士の対局の面白さを再認識させる
実際に行われた将棋の対局をベースにして描かれる映画『AWAKE』は、プロ棋士と将棋ソフトの闘いを「人間ドラマ」として描き出す物語だ。年に4人しかプロ棋士になれない厳しい世界においては、「夢破れた者たち」もまた魅力的な物語を有している。光と影を対比的に描き出す、見事な作品
あわせて読みたい
【感想】実業之日本社『少女の友』をモデルに伊吹有喜『彼方の友へ』が描く、出版に懸ける戦時下の人々
実業之日本社の伝説の少女雑誌「少女の友」をモデルに、戦時下で出版に懸ける人々を描く『彼方の友へ』(伊吹有喜)。「戦争そのもの」を描くのではなく、「『日常』を喪失させるもの」として「戦争」を描く小説であり、どうしても遠い存在に感じてしまう「戦争」の捉え方が変わる1冊
あわせて読みたい
【おすすめ】柚月裕子『慈雨』は、「守るべきもの」と「過去の過ち」の狭間の葛藤から「正義」を考える小説
柚月裕子の小説『慈雨』は、「文庫X」として知られる『殺人犯はそこにいる』で扱われている事件を下敷きにしていると思われる。主人公の元刑事が「16年前に犯してしまったかもしれない過ち」について抱き続けている葛藤にいかに向き合い、どう決断し行動に移すのかの物語
あわせて読みたい
【感想】おげれつたなか『エスケープジャーニー』は、BLでしか描けない”行き止まりの関係”が絶妙
おげれつたなか『エスケープジャーニー』のあらすじ紹介とレビュー。とにかく、「BLでしか描けない関係性」が素晴らしかった。友達なら完璧だったのに、「恋人」ではまったく上手く行かなくなってしまった直人と太一の葛藤を通じて、「進んでも行き止まり」である関係にどう向き合うか考えさせられる
あわせて読みたい
【感想】映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)の稲垣吾郎の役に超共感。「好きとは何か」が分からない人へ
映画『窓辺にて』(今泉力哉監督)は、稲垣吾郎演じる主人公・市川茂巳が素晴らしかった。一般的には、彼の葛藤はまったく共感されないし、私もそのことは理解している。ただ私は、とにかく市川茂巳にもの凄く共感してしまった。「誰かを好きになること」に迷うすべての人に観てほしい
あわせて読みたい
【欠落】映画『オードリー・ヘプバーン』が映し出す大スターの生き方。晩年に至るまで生涯抱いた悲しみ…
映画『オードリー・ヘプバーン』は、世界的大スターの知られざる素顔を切り取るドキュメンタリーだ。戦争による壮絶な飢え、父親の失踪、消えぬ孤独感、偶然がもたらした映画『ローマの休日』のオーディション、ユニセフでの活動など、様々な証言を元に稀代の天才を描き出す
あわせて読みたい
【純愛】映画『ぼくのエリ』の衝撃。「生き延びるために必要なもの」を貪欲に求める狂気と悲哀、そして恋
名作と名高い映画『ぼくのエリ』は、「生き延びるために必要なもの」が「他者を滅ぼしてしまうこと」であるという絶望を抱えながら、それでも生きることを選ぶ者たちの葛藤が描かれる。「純愛」と呼んでいいのか悩んでしまう2人の関係性と、予想もつかない展開に、感動させられる
あわせて読みたい
【感涙】映画『彼女が好きなものは』の衝撃。偏見・無関心・他人事の世界から”脱する勇気”をどう持つか
涙腺がぶっ壊れたのかと思ったほど泣かされた映画『彼女が好きなものは』について、作品の核となる「ある事実」に一切触れずに書いた「ネタバレなし」の感想です。「ただし摩擦はゼロとする」の世界で息苦しさを感じているすべての人に届く「普遍性」を体感してください
あわせて読みたい
【感想】綿矢りさ原作の映画『ひらいて』は、溢れる”狂気”を山田杏奈の”見た目”が絶妙に中和する
「片想いの相手には近づけないから、その恋人を”奪おう”」と考える主人公・木村愛の「狂気」を描く、綿矢りさ原作の映画『ひらいて』。木村愛を演じる山田杏奈の「顔」が、木村愛の狂気を絶妙に中和する見事な配役により、「狂気の境界線」をあっさり飛び越える木村愛がリアルに立ち上がる
あわせて読みたい
【母娘】よしながふみ『愛すべき娘たち』で描かれる「女であることの呪い」に男の私には圧倒されるばかりだ
「女であること」は、「男であること」と比べて遥かに「窮屈さ」に満ちている。母として、娘として、妻として、働く者として、彼女たちは社会の中で常に闘いを強いられてきた。よしながふみ『愛すべき娘たち』は、そんな女性の「ややこしさ」を繊細に描き出すコミック
あわせて読みたい
【抵抗】西加奈子のおすすめ小説『円卓』。「当たり前」と折り合いをつけられない生きづらさに超共感
小学3年生のこっこは、「孤独」と「人と違うこと」を愛するちょっと変わった女の子。三つ子の美人な姉を「平凡」と呼んで馬鹿にし、「眼帯」や「クラス会の途中、不整脈で倒れること」に憧れる。西加奈子『円卓』は、そんなこっこの振る舞いを通して「当たり前」について考えさせる
あわせて読みたい
【青春】二宮和也で映画化もされた『赤めだか』。天才・立川談志を弟子・談春が描く衝撃爆笑自伝エッセイ
「落語協会」を飛び出し、新たに「落語立川流」を創設した立川談志と、そんな立川談志に弟子入りした立川談春。「師匠」と「弟子」という関係で過ごした”ぶっ飛んだ日々”を描く立川談春のエッセイ『赤めだか』は、立川談志の異端さに振り回された立川談春の成長譚が面白い
あわせて読みたい
【選択】映画『サウンド・オブ・メタル』で難聴に陥るバンドマンは、「障害」と「健常」の境界で揺れる
ドラムを叩くバンドマンが聴力を失ってしまう――そんな厳しい現実に直面する主人公を描く映画『サウンド・オブ・メタル』では、「『健常者との生活』を選ぶか否か」という選択が突きつけられる。ある意味では健常者にも向けられているこの問いに、どう答えるべきだろうか
あわせて読みたい
【葛藤】正論を振りかざしても、「正しさとは何か」に辿り着けない。「絶対的な正しさ」など存在しない…
「『正しさ』は人によって違う」というのは、私には「当たり前の考え」に感じられるが、この前提さえ共有できない社会に私たちは生きている。映画『由宇子の天秤』は、「誤りが含まれるならすべて間違い」という判断が当たり前になされる社会の「不寛容さ」を切り取っていく
あわせて読みたい
【あらすじ】映画『流浪の月』を観て感じた、「『見て分かること』にしか反応できない世界」への気持ち悪さ
私は「見て分かること」に”しか”反応できない世界に日々苛立ちを覚えている。そういう社会だからこそ、映画『流浪の月』で描かれる文と更紗の関係も「気持ち悪い」と断罪されるのだ。私はむしろ、どうしようもなく文と更紗の関係を「羨ましい」と感じてしまう。
あわせて読みたい
【矛盾】法律の”抜け穴”を衝く驚愕の小説。「ルールを通り抜けたものは善」という発想に潜む罠:『法廷…
完璧なルールは存在し得ない。だからこそ私たちは、矛盾を内包していると理解しながらルールを遵守する必要がある。「ルールを通り抜けたものは善」という”とりあえずの最善解”で社会を回している私たちに、『法廷遊戯』は「世界を支える土台の脆さ」を突きつける
あわせて読みたい
【感想】映画『竜とそばかすの姫』が描く「あまりに批判が容易な世界」と「誰かを助けることの難しさ」
SNSの登場によって「批判が容易な社会」になったことで、批判を恐れてポジティブな言葉を口にしにくくなってしまった。そんな世の中で私は、「理想論だ」と言われても「誰かを助けたい」と発信する側の人間でいたいと、『竜とそばかすの姫』を観て改めて感じさせられた
あわせて読みたい
【正義】復讐なんかに意味はない。それでも「この復讐は正しいかもしれない」と思わされる映画:『プロ…
私は基本的に「復讐」を許容できないが、『プロミシング・ヤング・ウーマン』の主人公キャシーの行動は正当化したい。法を犯す明らかにイカれた言動なのだが、その動機は一考の余地がある。何も考えずキャシーを非難していると、矢が自分の方に飛んでくる、恐ろしい作品
あわせて読みたい
【考察】『うみべの女の子』が伝えたいことを全力で解説。「関係性の名前」を手放し、”裸”で対峙する勇敢さ
ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
あわせて読みたい
【生きる】しんどい人生を宿命付けられた子どもはどう生きるべき?格差社会・いじめ・恋愛を詰め込んだ…
厳しい受験戦争、壮絶な格差社会、残忍ないじめ……中国の社会問題をこれでもかと詰め込み、重苦しさもありながら「ボーイ・ミーツ・ガール」の爽やかさも融合されている映画『少年の君』。辛い境遇の中で、「すべてが最悪な選択肢」と向き合う少年少女の姿に心打たれる
あわせて読みたい
【認識】「固定観念」「思い込み」の外側に出るのは難しい。自分はどんな「へや」に囚われているのか:…
実際に起こった衝撃的な事件に着想を得て作られた映画『ルーム』は、フィクションだが、観客に「あなたも同じ状況にいるのではないか?」と突きつける力強さを持っている。「普通」「当たり前」という感覚に囚われて苦しむすべての人に、「何に気づけばいいか」を気づかせてくれる作品
あわせて読みたい
【死】映画『湯を沸かすほどの熱い愛』に号泣。「家族とは?」を問う物語と、タイトル通りのラストが見事
「死は特別なもの」と捉えてしまうが故に「日常感」が失われ、普段の生活から「排除」されているように感じてしまうのは私だけではないはずだ。『湯を沸かすほどの熱い愛』は、「死を日常に組み込む」ことを当たり前に許容する「家族」が、「家族」の枠組みを問い直す映画である
あわせて読みたい
【正義】「正しさとは何か」を考えさせる映画『スリー・ビルボード』は、正しさの対立を絶妙に描く
「正しい」と主張するためには「正しさの基準」が必要だが、それでも「規制されていないことなら何でもしていいのか」は問題になる。3枚の立て看板というアナログなツールを使って現代のネット社会の現実をあぶり出す映画『スリー・ビルボード』から、「『正しさ』の難しさ」を考える
あわせて読みたい
【想像力】「知らなかったから仕方ない」で済ませていいのか?第二の「光州事件」は今もどこかで起きて…
「心地いい情報」だけに浸り、「知るべきことを知らなくても恥ずかしくない世の中」を生きてしまっている私たちは、世界で何が起こっているのかあまりに知らない。「光州事件」を描く映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』から、世界の見方を考える
あわせて読みたい
【おすすめ】濱口竜介監督の映画『親密さ』は、「映像」よりも「言葉」が前面に来る衝撃の4時間だった
専門学校の卒業制作として濱口竜介が撮った映画『親密さ』は、2時間10分の劇中劇を組み込んだ意欲作。「映像」でありながら「言葉の力」が前面に押し出される作品で、映画や劇中劇の随所で放たれる「言葉」に圧倒される。4時間と非常に長いが、観て良かった
あわせて読みたい
【実話】障害者との接し方を考えさせる映画『こんな夜更けにバナナかよ』から”対等な関係”の大事さを知る
「障害者だから◯◯だ」という決まりきった捉え方をどうしてもしてしまいがちですが、『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』の主人公・鹿野靖明の生き様を知れば、少しは考え方が変わるかもしれません。筋ジストロフィーのまま病院・家族から離れて“自活”する決断をした驚異の人生
あわせて読みたい
【葛藤】子どもが抱く「家族を捨てたい気持ち」は、母親の「家族を守りたい気持ち」の終着点かもしれな…
家族のややこしさは、家族の数だけ存在する。そのややこしさを、「子どもを守るために母親が父親を殺す」という極限状況を設定することで包括的に描き出そうとする映画『ひとよ』。「暴力」と「殺人犯の子どもというレッテル」のどちらの方が耐え難いと感じるだろうか?
あわせて読みたい
【狂気】「当たり前の日常」は全然当たり前じゃない。記憶が喪われる中で”日常”を生きることのリアル:…
私たちは普段、「記憶が当たり前に継続していること」に疑問も驚きも感じないが、「短期記憶を継続できない」という記憶障害を抱える登場人物の日常を描き出す『静かな雨』は、「記憶こそが日常を生み出している」と突きつけ、「当たり前の日常は当たり前じゃない」と示唆する
あわせて読みたい
【驚愕】ロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」はどう解釈すべきか?沢木耕太郎が真相に迫る:『キャパ…
戦争写真として最も有名なロバート・キャパの「崩れ落ちる兵士」には、「本当に銃撃された瞬間を撮影したものか?」という真贋問題が長く議論されてきた。『キャパの十字架』は、そんな有名な謎に沢木耕太郎が挑み、予想だにしなかった結論を導き出すノンフィクション。「思いがけない解釈」に驚かされるだろう
あわせて読みたい
【助けて】息苦しい世の中に生きていて、人知れず「傷」を抱えていることを誰か知ってほしいのです:『…
元気で明るくて楽しそうな人ほど「傷」を抱えている。そんな人をたくさん見てきた。様々な理由から「傷」を表に出せない人がいる世の中で、『包帯クラブ』が提示する「見えない傷に包帯を巻く」という具体的な行動は、気休め以上の効果をもたらすかもしれない
あわせて読みたい
【改心】人生のリセットは困難だが不可能ではない。過去をやり直す強い意思をいかにして持つか:映画『S…
私は、「自分の正しさを疑わない人」が嫌いだ。そして、「正しさを他人に押し付ける人」が嫌いだ。「変わりたいと望む者の足を引っ張る人」が嫌いだ。全身刺青だらけのレイシストが人生をやり直す、実話を元にした映画『SKIN/スキン』から、再生について考える
あわせて読みたい
【実話】「家族とうまくいかない現実」に正解はあるか?選択肢が無いと感じる時、何を”選ぶ”べきか?:…
「自分の子どもなんだから、どんな風に育てたって勝手でしょ」という親の意見が正しいはずはないが、この言葉に反論することは難しい。虐待しようが生活能力が無かろうが、親は親だからだ。映画『MOTHER マザー』から、不正解しかない人生を考える
あわせて読みたい
【情熱】「ルール」は守るため”だけ”に存在するのか?正義を実現するための「ルール」のあり方は?:映…
「ルールは守らなければならない」というのは大前提だが、常に例外は存在する。どれほど重度の自閉症患者でも断らない無許可の施設で、情熱を持って問題に対処する主人公を描く映画『スペシャルズ!』から、「ルールのあるべき姿」を考える
あわせて読みたい
【誤り】「信じたいものを信じる」のは正しい?映画『星の子』から「信じること」の難しさを考える
どんな病気も治す「奇跡の水」の存在を私は信じないが、しかし何故「信じない」と言えるのか?「奇跡の水を信じる人」を軽々に非難すべきではないと私は考えているが、それは何故か?映画『星の子』から、「何かを信じること」の難しさについて知る
あわせて読みたい
【葛藤】「多様性を受け入れること」は難しい。映画『アイヌモシリ』で知る、アイデンティティの実際
「アイヌの町」として知られるアイヌコタンの住人は、「アイヌ語を勉強している」という。観光客のイメージに合わせるためだ。映画『アイヌモシリ』から、「伝統」や「文化」の継承者として生きるべきか、自らのアイデンティティを意識せず生きるべきかの葛藤を知る
あわせて読みたい
【排除】「分かり合えない相手」だけが「間違い」か?想像力の欠如が生む「無理解」と「対立」:映画『…
「共感」が強すぎる世の中では、自然と「想像力」が失われてしまう。そうならないようにと意識して踏ん張らなければ、他人の価値観を正しく認めることができない人間になってしまうだろう。映画『ミセス・ノイズィ』から、多様な価値観を排除しない生き方を考える
あわせて読みたい
【再生】ヤクザの現実を切り取る映画『ヤクザと家族』から、我々が生きる社会の”今”を知る
「ヤクザ」を排除するだけでは「アンダーグラウンドの世界」は無くならないし、恐らく状況はより悪化しただけのはずだ。映画『ヤクザと家族』から、「悪は徹底的に叩きのめす」「悪じゃなければ何をしてもいい」という社会の風潮について考える。
あわせて読みたい
【感想】映画『窮鼠はチーズの夢を見る』を異性愛者の男性(私)はこう観た。原作も読んだ上での考察
私は「腐男子」というわけでは決してないのですが、周りにいる腐女子の方に教えを請いながら、多少BL作品に触れたことがあります。その中でもダントツに素晴らしかったのが、水城せとな『窮鼠はチーズの夢を見る』です。その映画と原作の感想、そして私なりの考察について書いていきます
あわせて読みたい
【異端】子育ては「期待しない」「普通から外れさせる」が大事。”劇薬”のような父親の教育論:『オーマ…
どんな親でも、子どもを幸せにしてあげたい、と考えるでしょう。しかしそのために、過保護になりすぎてしまっている、ということもあるかもしれません。『オーマイ・ゴッドファーザー』をベースに、子どもを豊かに、力強く生きさせるための”劇薬”を学ぶ
あわせて読みたい
【あらすじ】「愛されたい」「必要とされたい」はこんなに難しい。藤崎彩織が描く「ままならない関係性…
好きな人の隣にいたい。そんなシンプルな願いこそ、一番難しい。誰かの特別になるために「異性」であることを諦め、でも「異性」として見られないことに苦しさを覚えてしまう。藤崎彩織『ふたご』が描き出す、名前がつかない切実な関係性
あわせて読みたい
【衝撃】壮絶な戦争映画。最愛の娘を「産んで後悔している」と呟く母らは、正義のために戦場に留まる:…
こんな映画、二度と存在し得ないのではないかと感じるほど衝撃を受けた『娘は戦場で生まれた』。母であり革命家でもあるジャーナリストは、爆撃の続くシリアの街を記録し続け、同じ街で娘を産み育てた。「知らなかった」で済ませていい現実じゃない。
あわせて読みたい
【感想】人間関係って難しい。友達・恋人・家族になるよりも「あなた」のまま関わることに価値がある:…
誰かとの関係性には大抵、「友達」「恋人」「家族」のような名前がついてしまうし、そうなればその名前に縛られてしまいます。「名前がつかない関係性の奇跡」と「誰かを想う強い気持ちの表し方」について、『君の膵臓をたべたい』をベースに書いていきます
あわせて読みたい
【肯定】価値観の違いは受け入れられなくていい。「普通」に馴染めないからこそ見える世界:『君はレフ…
子どもの頃、周りと馴染めない感覚がとても強くて苦労しました。ただし、「普通」から意識的に外れる決断をしたことで、自分が持っている価値観を言葉で下支えすることができたとも感じています。「普通」に馴染めず、自分がダメだと感じてしまう人へ。
ルシルナ
苦しい・しんどい【本・映画の感想】 | ルシルナ
生きていると、しんどい・悲しいと感じることも多いでしょう。私も、世の中の「当たり前」に馴染めなかったり、みんなが普通にできることが上手くやれずに苦しい思いをする…
ルシルナ
記事検索(カテゴリー・タグ一覧) | ルシルナ
ルシルナは、4000冊以上の本と500本以上の映画をベースに、生き方や教養について書いていきます。ルシルナでは36個のタグを用意しており、興味・関心から記事を選びやすく…
コメント