目次
はじめに
この記事で取り上げる映画

「違国日記」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
映画『正欲』に引き続き、新垣結衣の役がとにかく素敵で、惹きつけられた
勝手ながら、「新垣結衣は、どこか自分に似たところがある役を積極的に選んでいるんじゃないか」と想像している
この記事の3つの要点
- 「『大嫌いだった姉』の子ども」を引き取る決断をした人見知りの小説家が抱く様々な葛藤
- 「あなたと私は違う人間だ」という明確なスタンスの元、絶妙な関係性を築く感じが素敵
- 槙生と朝以外にも、様々な葛藤を内包する魅力的な関係性が描かれていく
『槙生にも朝にも他の登場人物にも、「こんな風に人との関わりを繊細に考えられる人っていいな」と強く感じさせられた
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
映画『違国日記』は、人間関係の描き方が絶妙だった。「あなたと私は違う人間だ」という認識からしか成り立たないものってあると思う
「新垣結衣が出演しているから良い映画だろう」と考えて観に行った
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本作については、観る前からなんとなく「好きなタイプの作品だろう」と分かっていました。というのも、新垣結衣が出演しているからです。
というわけでまずはしばらく、何の根拠もない私の勝手な想像の話をつらつらと続けたいと思います。
まとめると「新垣結衣って良いよね」って話なんだけど
ただ「女優」としてっていうより、なんとなく「人間」として信頼してる、みたいな感じあるよね
そもそもですが、同じく新垣結衣が出演していた映画『正欲』がとにかく素晴らしく、感動させられました。設定やストーリー展開を含めて丸ごと良かったんですが、新垣結衣に関して言えば、「絶妙な役柄を絶妙な演技で成立させていた」という感じです。そして『正欲』を観て私は、「新垣結衣は、自分自身と何か通ずるものがある役を積極的に選ぶようにしているんじゃないか」と勝手に考えるようになりました。ホントに想像でしかなく、特に根拠はないのですが。
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それで、新垣結衣に関しては、凄く印象に残っているエピソードがあります。以前彼女が「情熱大陸」に出演していた際に「サプライズが苦手」みたいな話をしていたことです。「上手く驚けるか自信がないから」みたいな理由で、「だから、サプライズは本当に止めてほしい」と言っていました(私も同じ理由でサプライズは好きではありません)。調べてみると、彼女が「情熱大陸」に出演したのは2010年、22歳の頃だったようです。「情熱大陸」で取り上げられるぐらいだから、もちろん当時から大人気だったのでしょう。そんな「20代前半の人気女優」から出てくる言葉としては「ん?」って感じだったし、それ以外の場面でも全体的に、人気女優とは思えない「暗い印象の人」としてカメラに映っていた記憶があります。
ちゃんとは覚えてないけど、この「情熱大陸」を観て「あ、ガッキーってメッチャいいかも」って思ったような記憶がある
同世代の女優とは明らかに違う異質な雰囲気があって、すごく惹かれたよね
その後も、別に積極的に新垣結衣を追っていたわけではありませんが、何かの機会に視界に入る度に、「芸能界の第一線で活躍している人とは思えないぐらいの控えめな存在」だと感じていました。ずっと「教室の隅っこにいそうな人」という雰囲気を醸し出していたようにも思います。そしてそんな新垣結衣が演じる役柄も、同じようなスタンスを持つ人物が多い気がしていたのです。
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本作『違国日記』には、主人公・高代槙生が「私には『人に助けてもらえるような何かがない』と思えてしまう」と、自分の存在に対する自信の無さを吐露する場面があります。そしてこれは、新垣結衣の生き方のスタンスにもどこか似ている感じがしました(あくまでも想像ですが)。槙生も、映画『正欲』の主人公・桐生夏月も「社会の中で上手く生きられないタイプ」であり、それが凄く、新垣結衣本人の印象と重なる感じがするのです。
まあでもホント、僅かな情報だけから勝手に印象を持ってるだけだから何の説得力もない話なんだけど
こういう「思い込み」が本人にとっては迷惑な場合もあるだろうから、なかなか難しいなって思うよね
さて、私のここまでの「妄想」がもしも正しいとした場合、つまり、「新垣結衣は暗い人間で、そして彼女は、そんな自分と似た役を積極的に選んでいる」のであれば、「新垣結衣が出演している作品は私の好みである」ということになります。映画『正欲』を観て、一層そんな印象を強く持ったので、本作『違国日記』も好きな作品だろうなと思っていたというわけです。
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そしてやはり、思っていた通り素敵な作品だったなと思います。
私は昔からずっと、「人と人がどのように距離を縮めるのか、どんなきっかけで距離が離れるのか、離れてしまった距離がどんな風に戻るのか」みたいな部分に興味がありました。もちろん、主に私自身の交友関係に対してそういう感覚を抱くわけですが、私がまったく関わりを持たない他者の関係にもその関心は向きます。そして、自分と関係するかどうかに拘らず、「距離の詰め方や関係性の捉え方が雑な人」のことはどうにも好きになれないし、また、「こういうことにどうしても葛藤を抱いてしまう人」には興味を抱くことが多いです。
仲良くなった人とは結局、そういう話をずっとし続けてるみたいなところがあるよね
ここの感覚がかなり近い人を探すのって大変なんだよなぁ
そして本作『違国日記』ではまさに、そういう人間関係の繊細さみたいなものに強く焦点が当てられていました。
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本作では、小説家である高代槙生が、姉の娘(姪)の朝を引き取るところから物語が始まります。姉夫婦が事故で亡くなった後、残された朝にはどうにも行き場がないように見えたからです。とはいえ槙生は、すんなりとそんな決断が出来たわけではありません。というのも彼女は、姉のことを嫌悪していたからです。そのため当初から、「姉の娘である朝を愛せるのか分からない」という不安を抱いてもいました。
さて一方で、槙生には「人見知り」という特性があります。本作には槙生の気心知れた人ばかりが登場するので、「人見知り」だとはっきり分かるシーンは多くありませんが(原作マンガだと、そういう描写はもっとあるのかなと勝手に思っています)、どうやら結構な人見知りのようです。
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ただ槙生は、朝を引き取って一緒に暮らすようになった当初から、朝に対して「人見知り」的な雰囲気を出しません。別にそれは「親族だから」みたいな理由ではないでしょう。槙生は姉と仲が悪かったので、朝ともほぼ初対面みたいなものだからです。普通なら「人見知り」が発動してもおかしくはありません。
私にも姪(弟の娘)がいるけど、数年に1回会うぐらいだからなぁ
距離感が割と遠いタイプの家族だからってこともあるかもだけどね
では槙生は何故、朝に対して人見知りを発動しなかったのでしょうか?
その理由についてははっきりとは描かれていません。ただ、そのことに関係するのかもしれないシーンはありました。槙生は朝と一緒に住むようになってから、2度も連載を落としているのです。長年の友人から「珍しい」と言われていたので、恐らくそんなことはそれまでなかったのでしょう。そしてその理由はやはり、朝が家に来たことしか考えられません。
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となると「表には見せないけれど、槙生は相当頑張って朝との接し方を律している」と捉えるのが自然でしょう。そして本作には、そのことを裏付けるような発言もありました。彼女は元彼の笠町に特別後見人などの事務手続きを頼むことにしたのですが(そういう作業が大の苦手なようです)、その会話の中で次のように話していたのです。
柔らかな年代。きっと私のうかつな一言で人生が大きく左右されてしまう。
これは確か、予告編の映像でも使われていた気がします。槙生が朝に対してかなり慎重な接し方をしていたと理解できる発言ではないでしょうか。
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「あなたと私は違う人間だ」という槙生のスタンスがとても素晴らしい
というわけでこの記事では、「槙生がメチャクチャ考えて朝との接し方を調整していた」という前提で話を進めますが、そんな「槙生の振る舞い」はとても素晴らしかったです。
で、そんな槙生のスタンスと、女優・新垣結衣の雰囲気がダブるんだよね
しかしその話をする前にまず、本作のかなり早い段階で描かれる「朝が大いに落胆した状況」について触れたいと思います。
朝が両親を事故で亡くしたのは、あとは中学の卒業式を残すだけ、という時期でした。そしてそんなタイミングだったこともあり、朝は「両親を亡くした可哀想な子」ではなく、「昨日までと何も変わらない普通の中学生」として卒業したいと考えていたのです。だから、事故のことをクラスメートに話すつもりはありませんでした。しかし卒業式当日、その話が思いがけないルートからみんなに伝わっていたことを知ってしまい、その状況に耐えられなくなった朝は、そのまま学校を飛び出して卒業式をボイコットするのです。
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このシーン、個人的にも本当に嫌悪感しかありませんでした。大人はすぐに「あなたのためを思って」みたいなことを口にします。もちろん、「知ってしまった以上、ルールに則って対処するしかない」という状況はあると思いますが、それならそう言えばいいでしょう。それをさも「あなたのことを一番に考えているんだ」みたいに言ってくる大人は本当に欺瞞に満ちているなと思うし、個人的にはとても嫌いです。
ホントに私は、自分がそういうクソみたいな大人にならないように気をつけてるつもり
一方で、槙生は「朝はきっとこうしてほしいはずだ」みたいなことを考えません。いや、そう表現してしまうのは槙生を低く評価しすぎでしょうか。実際には、「『朝はきっとこうしてほしいはずだ』みたいに考えていることが朝に伝わらないように振る舞っている」と書くのが正しいように思います。いずれにせよ、槙生は間違いなく、朝に対して「あなたのためを思って」みたいなことを口にしたりはしないでしょう。
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そんな槙生のスタンスは明快です。両親を亡くした朝が色んな思い・事情を抱えていることはもちろん理解しつつ、ただそういうこととは関係なく、「自分とは違う1個の人格が目の前にいる」という感覚でいるのだと思います。「あなたと私は違う人間だ」と考えているというわけです。担任教師のように「相手のことが分かったつもり」で的外れな行動を取ることもなければ、考えを押し付けたり行動を制約したりすることもありません。
もちろんそれは、単に「伯母」と「姪」という距離感ゆえなのかもしれないし、「そうせざるを得なかった」ぐらいの認識でしかないのかもしれないとも思います。あるいはもしかしたら、「大嫌いだった姉の子ども」という意識がやはり残っていて、「実はただほったらかしているだけ」みたいな可能性だってゼロではないでしょう。
槙生のスタンスがはっきり分かる描写って多くはないから、可能性だけで言えば色々あり得るよね
そういう余白が多いところも、本作の良い点かなって思う
ただ、観客の立場から間違いなく断言できることは、「槙生は朝にきちんと愛情を抱いている」ということです。また、槙生はその想いを上手く伝えられてはいないものの、朝は朝で槙生のそんな愛情をきちんと感じているからこそ、「他人同士」でしかない生活がちゃんと成り立っているのだとも思います。最初から最後まで、そのような「絶妙な距離感」が描かれる作品であり、個人的にはとても素敵に感じられました。
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人間関係の多様な形を描き出す物語でもある
そしてそんな「絶妙な関係性」は決して、槙生と朝の関係だけではありません。例えば、元彼だけど何かあれば相談に乗ってもらっている笠町や、中学時代からの友人である醍醐との関係などもまた、それぞれなりの「絶妙さ」があるなと感じました。人見知りの槙生は、どうも彼らには気を許しているようで、かなり距離感が近いです。特に醍醐と関わる時には、「気心が知れているからこそテンションが低いままでいられる」みたいな雰囲気が滲み出ていて、凄く良い関係に見えました。
「ホントに気を許している相手には雑になる」みたいな雰囲気がよく出てるよね
さて、本作におけるちょっと面白い視点としては、大人たちの関係を目にした15歳の朝が抱く疑問が挙げられるでしょう。彼女は「大人なのにそんな関係なの?」と不思議に感じているのです。中学生であれば普通、親や学校・塾の先生ぐらいしか大人と接する機会はないでしょう。そしてそんな朝にとっては、槙生と笠町、あるいは槙生と醍醐の関係はとても奇妙に見えているというわけです。
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そのことは、朝の「槙生ちゃんってもっとヤバい人かと思ってた」というセリフからも感じ取れるかもしれません。親や先生と比較すると、槙生は「とても変な大人」に見えるわけですが、「槙生の周りにいる大人も変わっている」ことで、朝はむしろ「自分の中の『大人のイメージ』がステレオタイプだった」と気付かされたのです。さらに、この朝の感覚は槙生に「あなたのお母さんはさぞ”まともな”母親だったんでしょうね」みたいな気分にさせたのだろうなとも思います。
こんな風に、「異質な2人が関わらざるを得なくなったことで新しく気づきを得ていく」みたいな展開も面白いよね
朝の場合、槙生と関わらなくても大人になる過程で気づいたかもしれないから、そう考えると、槙生にとっての方が意味のある経験だったかもね
また、関係性という意味で言えば、朝の方も様々なややこしさに晒されていました。中でも、一番の親友・えみりとの関係はなかなか興味深かったなと思います。この記事では詳しく触れませんが、お互いにがっかりさせたりさせられたりということを繰り返しながら、関係性の形がぐにゃぐにゃ変わっていく感じが面白かったです。
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さて、そんな風にして本作では、様々な人間関係が描かれていくわけですが、とはいえ、「じゃあそれによって、何を切り取ろうとしているのか?」みたいなことはしばらく捉えられませんでした。いや、槙生の方はメチャクチャ分かりやすいと言っていいでしょう。「姉のことなんか大嫌いだったのに、その娘と上手くやっていけるだろうか」「そもそも他人と暮らすことが絶望的に不得意な自分に子育てなんか出来るのか」みたいな葛藤が割と分かりやすく描かれていたと思います。ただ、朝の方は正直、しばらくの間よく分からないままでした。
まあ物語としては、槙生の葛藤を描くだけでも十分成立するかなとは思うけどね
原作のない物語だったらたぶん、そういう展開になったんじゃないかなって気もする
もちろん、ごく一般的な中学生らしい葛藤、つまり「自信がなくて積極的に踏み出せない」「これと言ってやりたいことが見つからない」みたいな部分が他者との関わりの中で明らかになっていくので、そういう不安を抱いていることは伝わってきます。ただ、朝が抱えていた最大のモヤモヤは、ある場面で彼女が「でも◯◯じゃない」と口にしたことでようやく明らかになるのです。朝はきっと、両親を喪ってからずっとそのような感覚を抱き続けてきたのだろうと感じさせるセリフでした。
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そしてやはり、そんな感覚を持ちながら生きていくのは大変だろうなと思います。ただその一方で、自分が抱えている「辛さ」の源泉について、若くしてきちんと言語化出来ていること自体は素晴らしいと言えるかもしれません。
いずれにしても朝は、槙生と関わっていく中で今後も「他者との関わり方」が変わっていくことでしょう。槙生が朝に向ける眼差しから、そんな希望が感じられる気がしました。映画では朝の母親についてはほぼ描かれないので、どんな人物なのかは分かりません。だから比較したりは出来ませんが、何にせよ、朝にとって槙生との関わりは良いものであることは間違いないだろうと思います。
なんか凄く、「子どもの頃に槙生みたいな大人に出会いたかった」みたいに感じたんだよなぁ
だから今はむしろ、「誰かにとって自分が槙生みたいな大人でありたい」って思ったりもするよね
その他、映画『違国日記』に関するあれこれ
それでは最後に、いくつか気になった点に触れてこの記事を終えることにしましょう。
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まず、私が勝手にそう感じただけかもしれませんが、朝の「幼さ」の演出が印象的でした。
本作では「朝の中学の卒業式から高校入学以降」が描かれるわけですが、朝以外の主要な学生は、割と大人っぽい雰囲気を醸し出していたと思います。親友のえみりはもちろん、軽音部で注目を集める三森や、学年トップの森本なども、みな大人っぽい役柄でした。そしてそういう中にあって、朝だけは「幼さ」がかなり強調されていたように思います。「トコトコ歩く感じ」や「デカいベースを背負った姿」、あるいは「えみりとの会話の雰囲気」など、様々な場面で「幼さ」が目につきました。
あんまり見た目に言及するのは好きじゃないけど、朝を演じた女優がそもそも幼い雰囲気を持ってた感じする
早瀬憩って女優で、本作のオーディションで抜擢されたみたいね
しかしその一方で、槙生と関わる際にはその「幼さ」はあまり出てこなかった感じもします。もちろん、「槙生には気を張っている」みたいに受け取ることも出来るわけですが、私はむしろ「同級生に対して積極的に『幼さ』を打ち出している」と捉えました。朝は基本的に「目立たないように」というスタンスで生きているようで、作中では「母親との関係性の中でそんな風になっていった」と示唆されます。そしてそんなスタンスでいるからこそ、「自己防衛本能的に『幼さ』を打ち出す」みたいな振る舞いになるんじゃないかと感じたのです。そしてそうだとすれば、槙生とはそんな「防衛」を意識せずに関われるのだろうし、彼女にとって貴重な存在と言えるんじゃないかと思います。
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また軽音部の三森や学年トップの森本との対比も興味深かったです。朝にとってこの2人は「自分には無いものを持っている人」という認識なのでしょう。朝にはやりたいことも目指したいこともなく(それはどうやら母親譲りだそうですが)、だからこそ2人が特別な感じに見えているのだと思います。ちなみに槙生曰く、姉(朝の母親)は「『主義・主張』さえ持たない『何も無い人』」だったそうです。
観客は、槙生の主張を通じてしか姉(朝の母親)のことを知り得ないわけだけど、まあなかなか辛辣だよね
ただ、槙生寄りの感覚を持ってる私としても、「そんな風に言いたくなっちゃうよね」って感じだったかな
そして朝は恐らく、「『何も無い』なんて良くない」と考えていて、ベースを始めたのもそんな気持ちからなんだろうなと思います。ただ、そっち側に足を踏み出せば当然、「同じ1年生なのに楽器も作詞も何でも出来る三森」や「目標を持って勉強を続ける森本」がより一層輝いて見えてくるでしょう。そして、そんな存在が身近にいれば「自分なんて……」みたいに感じてしまうだろうし、余計に「こんな自分じゃダメだ」という感覚が強くなっていくはずです。
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しかし、朝にはなかなか見えない部分ではあるものの、観客視点で言えば、三森は三森なりの、森本は森本なりの葛藤を抱えていることが分かってきます。映画ではさほど深堀りされはしないものの、要するに「出来てしまうが故の悩み」みたいなものがあるようなのです。特に三森がある場面で口にした、「自分に期待してがっかりするのが嫌なんだよね」というセリフは印象的でした。これを聞いた朝は恐らく、自分とは見ている世界が全然違うことに驚かされたはずです。そんな「様々な場面で否応なしに朝が抱いてしまう葛藤」もなかなか興味深いんじゃないかと思います。
こういう言葉でまとめるのは好きじゃないけど、「青春」って感じするよね
しかも、「ウェイウェイ系の青春」じゃないから、そういうところも本作の良さだなって思う
また、「変わらない」と口にした槙生が、そのすぐ後で「変えたくないよぉ」と言っていた場面も印象的でした。この時朝と話していたテーマについては冒頭から繰り返しやり取りしていて、その度に槙生は一貫して「変わらない」と言い続けてきたわけですが、最後の最後で、実は「変えたくないだけ」なんだと本心を口にするわけです。槙生のこの感覚にも、凄く共感させられました。私も同じ状況ならきっと「変えたくない」と感じるでしょう。「変わり得る」かもしれないけど「変えたくない」し、しかも「そう思っていることを認めたくない」みたいなややこしい感覚が、このやり取りにぎゅっと凝縮されていて、凄く良かったなと思います。
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あと、「えみりを演じた女優をどこかで観たことあるんだよなぁ」と思っていたのだけど、映画『少女は卒業しない』に出演していた人(小宮山莉渚)でした。河合優実を初めて認識したのも『少女は卒業しない』だったし、映画『ベイビーわるきゅーれ』に出ていた中井友望を初めて見たのも『少女は卒業しない』だったので、この作品で知った女優を色んなところで目にするようになってきたなぁ、と思っているところです。
そんなわけで、色んな意味で素敵な作品だったなと思います。
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最後に
とにかく、槙生と朝の距離感がとても素敵で、個人的にはメチャクチャ好きな映画でした。私も、こういう距離感で関われる人がもっといるといいんだけどなぁと思ったりするし、2人の関係性は凄く羨ましいです。
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どう生きるべきか・どうしたらいい【本・映画の感想】 | ルシルナ
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