目次
はじめに
この記事で取り上げる映画

「大いなる不在」公式HP
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- 「『物語』としては成立していないが、『物語世界』としては成立している」という、本作が持つ特異な雰囲気について
- 我々は「何かが存在すること」をどのように認識しているのだろうか?
- 「脳の外部にある記憶」として登場する「大量の手紙」が、物語世界をより複雑に、そしてよりややこしくしていく
「肉体は同じ世界にあるのに、世界線がまったく交錯しない2人」を描く、どこまでも「不在」の物語である
自己紹介記事
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認知症の父親の「記憶」を土台に、人間の「存在」の不確かさを描き出す映画『大いなる不在』は、凄まじい不穏さを漂わせる、実に興味深い作品だった
なんとも言えない”ざらつき”みたいなものを強く感じさせる作品だったなと思う。
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「物語」としては成立していないと思うが、「物語世界」としては成立していると感じられたその”特異さ”
本作『大いなる不在』の鑑賞中、私は何度も「自分は今、一体何を観せられているのだろう」という感覚に襲われた。本作で描かれているのは、それぐらい不条理極まりない世界だったのだ。しかし一方で、「認知症」がテーマとして組み込まれていることもあり、「これが未来の自分かもしれない」とも思わされてしまった。観ている間中、私はそんな「恐ろしさ」をずっと感じていたような気がする。
本作は正直なところ、「物語」としては成立していないように思う。最後まで観ても結局よく分からない部分がたくさんあるし、さらに、本作で描かれる「過去」と「現在」のあまりの繋がらなさが「物語」という形に収斂していくことを拒んでいるような感じさえしたのである。
しかし一方で、「物語世界」としては成立していると感じた。「認知症」という不条理が「物語」としてまとまることを拒絶しているわけだが、しかし同時に、本作で描かれているのは、今もまさに誰かが経験しているかもしれない圧倒的な現実なのである。だからこそ、「そこに『物語』は存在しないのに、『物語世界』としては成り立っている」という奇妙な状況が現出しているのだと思う。
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そしてそれこそが、本作が放つ圧倒的な”ざらつき”の正体なのではないかという気がしている。こんな印象をもたらす作品には、あまり触れたことがないように思う。
そして、そんな世界を成立させるために欠かせなかったのが、認知症に陥った遠山陽二を演じた俳優・藤竜也である。知識はないので演技について言及するのはあまり得意ではないが、藤竜也はとにかく、細部まで含めたその存在感が圧倒的だったなと思う。認知症を患う前の「絶妙に嫌な感じを出す老人」の雰囲気も、認知症を患ってからの「『狂気を狂気と理解できていない狂気』を醸し出す振る舞い」も、ちょっと圧巻だった。本作はとにかく、「遠山陽二」という人物のリアリティに作品のすべてが懸かっていたと言っていいはずだし、藤竜也はその役割を完璧以上の演技で果たしていたと思う。
さて、「『物語』としては成立していないが、『物語世界』としては成り立っている」という話を、藤竜也が演じた遠山陽二の観点から説明してみよう。本作で「物語」が成立していないのは、当然、彼がムチャクチャな振る舞いをするからである。遠山陽二が物語の中心にいるのに、そんな彼が意味の分からないことをしているのだから、「物語」としてのまとまりが生まれるはずがない。
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しかし一方で、「遠山陽二という存在」は実にリアルだった。つまり、「こういう人がいてもおかしくない」と感じさせるだけの強い説得力があったというわけだ。藤竜也は本当に、よくもまあこんな難しいバランスを成り立たせたものだなと思う。私は映画を観る時は大体「物語」にしか興味がないので、それ以外の要素に目が行くことはあまりない。しかし今回はとにかく「藤竜也の演技」に驚かされたし、その存在感に圧倒されてしまったのである。
映画『大いなる不在』の内容紹介
映画は冒頭から、思いもよらない形で始まっていく。ある民家を、警察の特殊部隊だろう集団が包囲するのだ。物々しい雰囲気が漂う中、彼らはしばらくしてついに突入を決める。しかしその直後、なんと玄関ドアが開き、中から男性が出てくるのだ。
そう、彼が認知症になった遠山陽二である。ちなみに、「なぜ特殊部隊が集まっていたのか?」については、映画の最後まで明らかにならないので、ここでは伏せることにする。
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息子の卓は父親が逮捕されたという一報を受けた。彼は、脇役ながら大河ドラマに出演したこともある俳優だ。そして卓は妻・夕希を連れて、父親が住む九州へとやってくる。彼は行政とやり取りをし、認知症を患った父親の施設への入居を決めた。しかし、そんな手続きをしながらも、卓はどうにも自分事には感じられずにいる。何せここ30年、父・陽二と会ったのは数えるほどしかないのだ。
両親は卓が幼い頃に離婚し、それを機に卓は父親と疎遠になった。父はその後、直美という女性と再婚する。卓は結婚報告を兼ねつつ何度か父親を訪ねたことがあり、その際に直美さんとも関わりを持っていた。卓も成人しているし、父親には直美さんがいる。そんなわけで卓は、父・陽二のことなど自分とは関係ないような気分でこれまで過ごしてきたのだ。
行政とのやり取りを終えた後で、2人は父親が住んでいた家へと向かう。そして、今後のことについて相談する必要もあったため、直美さんの携帯に電話をしてみることにした。しかし、その携帯は家に置きっぱなしで、着信音だけが虚しく響き渡る。結局彼女と連絡は取れず、「どうやら父親の逮捕と前後して行方不明になっている」ことが分かってきた。
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一体何が起こっているのだろうか? 卓はそれを知ろうと、父親の家に残された手紙やメモ、写真などに目を通してみることにした。また、時々施設を訪れては、「拉致され、外国に軟禁されている」と思い込んでいる父親に話を聞いてみたりもするのだが、結局何も見えてはこない。それどころか、見知らぬ男性が父親の家を訪ねてきたり、見知らぬ女性が父親宅で食事の宅配を依頼していたことが判明するなど、謎は増えていくばかりである。
この家で、一体何があったというのだろうか?
「存在する」とはどういうことだろうか?
本作のタイトルには「不在」という言葉が含まれているわけだが、ではそもそも「存在する」とはどういうことだろう。本作で突きつけられる最も本質的な問いは、この点に関連するのだろうと思う。
以前、今泉力哉のオールナイト上映に参加し、その際に初めて映画『退屈な日々にさようならを』を観たのだが、上映の合間合間に行われたトークイベントの中で今泉力哉が、本作を作ろうと考えたきっかけの話をしていた。詳しい内容は以下の記事を読んでもらうとして、要するに「大学時代の友人が3ヶ月前に亡くなったと連絡をもらったのだが、その死を知るまでの3ヶ月間、自分の中でその友人は生きていた」という話である。
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この話を「記憶」と絡めてまとめると、「記憶の中で存在しているのであれば、現実世界で存在しているのと大差ない」となるのではないかと思う。「もう存在しない」という情報がもたらされれば記憶を書き換えるしかないわけだが、そんな「更新」がなされるまでは、「記憶の中の存在」と「現実世界における存在」に大きな違いはないと言えるはずだ。
さてその上で、「記憶が失われていく」という「認知症」の話をここに組み込んでみたいと思う。「記憶の中の存在」と「現実世界における存在」に大きな違いがないのであれば、「『記憶の中の存在』が失われてしまえば、仮に現実世界できちんと存在していても、「『現実世界における存在』が消えてしまう」なんて風に考えることも可能である。本作では、そういうややこしさが描かれていると言っていいんじゃないかと思う。
そして本作にはさらに興味深い点がある。それは、「記憶が物質として残っている」という点だ。
あまり具体的には書かないことにするが、本作では重要な要素の1つとして「大量の手紙」が登場する。そして、実際に観てもらえれば実感できると思うが、その「大量の手紙」は「陽二と直美の記憶そのもの」なのである。つまり、「記憶」が「脳の外部」に飛び出しているというわけだ。
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「認知症」は「脳内の記憶を消してしまう」わけだが、しかし、「脳の外部に保存された記憶」である「大量の手紙」は存在する。そしてそのことが、ある意味ではさらなるややこしさを本作にもたらしていると言えると思う。「記憶」と「存在」を、実に興味深い形で描き出す作品なのである。
手紙にもブログにも「昔の自分」が保存されている
さて、「脳の外部に保存された記憶」に関しては少し、私自身の話を書いてみたいと思う。
私は20歳ぐらいから、「本を読んでその感想をブログに書く」ことを始め、それからしばらくして映画でも同じことをするようになった。私は今42歳なので、ざっくり20年は文章を書き続けてきたというわけだ。
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さらに、私の文章を読んでくれている方なら実感してもらえると思うが、私は本・映画の感想の中に、「その時々の思考・感情・価値観」を織り交ぜるようにしてきた。「本や映画を客観的に論じる」みたいなスタンスではなく、「自身の体験や感覚を盛り込みながら言及していく」ようなスタイルで文章を書いているのである。
なので私にとって、「昔書いた文章を読み返す」のは「タイムカプセルを開ける」みたいな感覚に近いのだ。
実はこの「ルシルナ」というサイトは、「昔別のブログに書いた記事をベースに、改めて文章を書き直す」というスタイルで更新している。映画の記事の場合、元の文章はそう昔のものではないが、本の記事の場合は、元の文章が10年以上前みたいなこともある。なので、結果として昔書いた記事を読み返す機会にもなっているわけだが、その時に、「そうか、昔の自分はこんなことを考えていたのか」と感じることも多い。私自身の感覚としては、さほど大きく変化することなく42歳まで生きてきたと思っているのだが、やはり感覚や価値観は少しずつ変わってきているようだ。本人が驚くぐらい、今の自分と昔の自分に「差」を感じるのである。
そして同じようなことは「手紙」に対しても言えるはずだ。陽二と直美は、結婚から30年が経っているのだが、その「大量の手紙」が書かれたのは、なんと2人が結婚する前なのである。30年以上前の自分自身が、「手紙」という形で物質的に残っているというわけだ。
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さて、30年以上前に書いた手紙を読んで、同じ自分だと感じられるだろうか? 「自分が書いた手紙」は基本的に相手が持っているはずなので、そもそも確かめるのが難しい問いではあるのだが、さらに、「脳の記憶」が失われてしまった陽二には確認は不可能であり、だからこそ一層のややこしさが生まれることになる。「人格」はその時々で変わっているはずなのだが、一方で「記憶」として保存された「手紙」が「過去の自分」を浮かび上がらせるわけで、本作ではそのことによって「存在」のややこしさが突きつけられるのだ。実に興味深い構成だと思う。
「父親の過去」を追いかける息子には、父親のことなど何も分からない
さて本作においてそのややこしさは、息子・卓が父親の足跡を追いかけようとする過程で浮き彫りにされる。そう、本作『大いなる不在』では、「卓が父・陽二のことを理解しようとする」という展開も1つの軸になっているのだ。
ここで対照的なのが、やはり「記憶」である。作中に登場する「大量の手紙」は、「陽二と直美の記憶」だと説明した。そしてこれは、膨大過ぎるほど膨大に残っている。一方、「陽二と卓の記憶」と呼べるようなものは存在しない。つまり、陽二が認知症になったことで「失われたはずなのに『記憶』が存在する」というややこしさが浮き彫りになる一方で、卓は同時に「自分たちの間にはそもそも『記憶』なんてなかった」というややこしさにも直面することになったのだ。
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再婚後の父親とはほとんど関わりがなかった卓の視点からすれば、「父親がよく知らない人と再婚し、ある日突然警察に逮捕された」という状況だけが事実である。そして、それ以外のことは何も知らない。陽二と直美がどんな夫婦だったのかも、周囲の人とどんな風に関わっていたのかも、何も分からないのだ。そんな「何もない」ところから彼の奮闘が始まっていくのである。
もちろん、「卓に父親との『記憶』があったとして、状況に何か変化はあっただろうか?」と考えてみたところで、特に変わりはなかっただろうと思う。卓が直面した問題の本質は結局のところ「陽二と直美の関係性」にあったわけだが、それは「卓が父親の『記憶』を有していたかどうか」とはまるで関係ない部分で変化していったからだ。
そんなわけで卓は、「どう動いたらいいか全然分からない」という状況に置かれ、困惑させられてしまう。なにせ、父親は認知症を患っており、さらに、父親と長く連れ添った再婚相手は行方不明で連絡さえ取れないのだからどうしようもない。八方塞がりである。父親とは会ったり話したり出来るものの、口を開けば意味不明なことばかり話すので会話にならない。また、父親の自宅には日記・手紙・メモ・写真など様々な「情報(記憶)」が残されているわけだが、とはいえ、「それらを読み解くためのとっかかりさえ無い」ような状態だ。
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観客は「陽二と直美が過去にどんなやり取りをしていたのか」を回想シーンを通じて知ることが出来るわけだが、それらは卓には知り得ない情報である。そう、卓は観客以上に何も知らないのだ。そう考えると、「『認知症を患った父親』に振り回される卓もまた、『認知症的な状態』に陥っていた」と言えるかもしれない。
そして本作は、そんな「認知症」の2人について、「肉体は同じ世界に属しているのに、生きている世界線がまったく交わらない」という異様さを描き出しており、その不穏さに惹きつけられてしまったというわけだ。タイトル中の「不在」は「お互いがお互いにとって不在だった」と捉えるべきだろうし、本作はそんな「圧倒的なすれ違い」が描かれる作品なのである。
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最後に
ここまで色んなことを書いてはみたものの、正直、本作『大いなる不在』を的確に捉えられている自信はない。ただ本作の場合、そもそも「正しい捉え方」など存在しないんじゃないかとも思う。「物語」というのは普通、何かしらの「収束点」(「結末」と呼んでもいい)に向かっていくはずだが、本作は時間経過とともに、むしろ「発散」していくみたいな感じがしたからだ。収束点があるなら、「それを掴めたかどうか」によって「正しい捉え方かどうか」が判断出来るだろうが、発散し続けていく物語を”正しく捉える”のは、そもそも原理的に不可能な気がする。
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まあそんなわけで、観た人がそれぞれ琴線に触れた部分を切り取りながら、その人なりの解釈を見つけていくしかないのだと思う。別に「結末を観客に委ねる」系の作品というわけでもないのに、なんとも言えない雰囲気を放っているのが実に不思議だった。
「面白かったか」と聞かれると答えにくいし、そういう問いが馴染まない作品という感じさえするのだが、「圧倒された」とははっきり言えるし、観て良かったなとも思う。なかなか体験しがたい「不穏さ」が詰まった作品という感じで、個人的にはとても満足な鑑賞体験だった。
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