目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:リズ・アーメッド, 出演:オリヴィア・クック, 出演:ポール・レイシー, 出演:ローレン・リドロフ, 出演:マシュー・アマルリック, Writer:ダリウス・マーダー, Writer:エイブラハム・マーダー, 監督:ダリウス・マーダー, プロデュース:ベルト・ハーメリンク, プロデュース:サシャ・ベン・アローシュ, プロデュース:キャシー・ベンツ, プロデュース:ビル・ベンツ
ポチップ
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「健常者との生活」を選択するからこそ「障害者」という立場が確定してしまう
そんな視点で物事を捉えたことがなかったので新鮮だった
この記事の3つの要点
- 「耳が聴こえないこと」が「障害」とされるのは、「健常者とのコミュニケーション・協働」に問題が生じるから
- 同じ障害を持つ者同士の生活でなら、「耳が聴こえないこと」は肥満や花粉症程度の「問題」にしかならない
- 当然だが、健常者は障害を持つ者に負担の少ない社会を構築する努力をすべき
「自分だったらどうするか?」という想像がなかなか及ばない、非常に難しい問いが突きつけられる
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
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私は以前、「ダイアログ・イン・サイレンス」というイベントに参加したことがあります。
ダイアログ・イン・サイレンス
ダイアログ・イン・サイレンス
ダイアログ・イン・サイレンス 静けさの中の対話 言葉の壁を超えて、人はもっと自由になる。
ヘッドホンをつけ、まったく外部の音が聴こえない状態で、聴覚障害者の生きる世界を体感しようというものです。元々は「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という、真っ暗闇の中で視覚障害者の世界を体感するイベントから始まったもので、そちらにも行ったことがあります。
面白さで言ったらやっぱり、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」の方が魅力的だったよね
目が見えないとホントに何も出来ないんだなって実感した
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真っ暗闇の場合、「通常のコミュニケーションは通用しない」とあからさまに痛感させられるため、「どうすればいいのか」という思考に割とすぐ切り替わるのですが、「ダイアログ・イン・サイレンス」の場合は、うっかり「聴覚に頼ったコミュニケーション」をしてしまいそうになります。「あぁ、そうか、聴こえないんだった」と改めて思考を切り替えなければならない瞬間が何度もありました。
その経験だけから「聴覚障害者の気持ちが分かる」などと言うつもりはもちろんありません。しかしやはり、この映画を観る上で、僅かながらでも似たような経験をしていたことは大きかった気がします。私たちが「当たり前」のように行っているコミュニケーションがいかに耳に頼っているのか、聴覚障害が視覚障害ほどに見た目では分からないことによる苦労など、少しはイメージできているはずです。
この映画では、バンドでドラムを叩いている主人公が、突然聴力を失ってしまいます。そんな現実に直面した時、私たちはどんな人生を選択できるでしょうか?
ただでさえ聴力を失うのは大変なのに、バンドマンだっていうのが余計に辛いよね
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「障害」とどう付き合うべきか考えさせられる「施設長の言葉」
聴力を失った主人公は、知人の伝手を辿って聴覚障害者のコミュニティでの生活を始めます。皆が施設で共同生活するような環境です。
観客は最初、この施設について特段なんとも思わずに物語を追っていくことになるでしょう。ざっくりと、「同じ障害を持つ人たちが助け合う場所なんだろう」程度の理解になるはずです。私も大体そんな風に考えていました。
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しかし、欧米でこのようなスタイルが一般的なのかどうかは分からないのですが、この施設には明確な運営方針があります。それが明らかになるのは映画の後半で、施設長がそれを口にした場面の前後で、主人公の人生が大きく変わっていくのです。
ここでの信念は、君も分かっているだろう。
聴覚障害はハンデではなく、治すべきものでもない、と。
その信念に沿って、ここは運営されている。
この施設長の言葉、そして主人公の決断、そういうものをひっくるめることで、この映画で問われていることが理解できると言えるでしょう。
それは、端的に言えば、「『耳が聞こえないという個性を持つ人物』として生きるか、『障害者』として生きるか」となります。
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ある意味でこれは、「健常者」に向けられた映画でもあるんだよなぁ
「耳が聴こえない」という状態が「問題」になるのは何故なのか考えてみましょう。色んな答えが想定されるでしょうが、包括的に捉えると、「健常者との生活に支障が出るから」となるはずです。これは、「障害」とは呼ばれない状態を考えてみれば理解しやすいと思います。例えば、「太っている」「足が遅い」「お酒が飲めない」などは、決して「障害」とは呼ばれません。それは、「健常者との生活に支障が出ないから」だと言えるでしょう。
つまり、「健常者との生活」を選択するからこそ、「耳が聞こえないこと」は「障害」と呼ばれ、健常者の世界で「障害者」として生きることになるわけです。
しかし、「果たしてそれが唯一の選択だろうか?」とこの映画は突きつけます。
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主人公が共同生活を行う施設は、「聴覚障害はハンデではない」と考えているわけです。それが「ハンデ(障害)」である理由は、「健常者との生活」を選ぶからに過ぎません。この施設では、「健常者との生活」は基本的に考えず、「聴覚障害を持つ者」だけのコミュニティを作り、その中で「『障害者』としてではない生活」を構築していくという方針を取っているのです。
私自身も周りの人も、「障害」とあまり縁がなかったこともあって、「そんなこと考えたことなかった」って気分になった
確かに、「『健常者との生活』を選ぶから『障害者』になってしまう」という指摘は、「なるほど」って感じだよね
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聴覚障害を持つ者しかいないコミュニティでは、あらゆる日常生活が非常に”自然”に行われている印象があります。もちろん、生活における「不自由」はそこかしこにあるでしょうが、しかしそれは健常者の世界でも同じです。「太っているから階段の上り下りが大変」「背が低いから上の物が取れない」「冷え性だから冬は特に辛い」など、「障害」とは呼ばれない様々な事柄を背景に生活における「不自由」は生まれ得ます。
だから結局、「障害を抱えること」の最大の問題は「健常者とのコミュニケーション・協働」であり、だからこそ、それを気にしないでいられるのであれば、「障害を抱えること」の大部分の問題は存在しないことになるのです。
この施設での生活の様子を通じて、その点がとても強く伝わってきました。
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もちろんこれは、「聴覚障害を持つ者たちが自ら発案し、自らの意志で運営しているコミュニティ」だからこそ成立するものです。健常者が「同じ障害を持つ人同士でコミュニティを作ったらいいじゃない」などと言うのは正しくないでしょう。だから私が健常者の立場であれこれ書くことはなかなか難しいのですが、しかし「選択肢の1つ」としては検討し得るだろうと感じました。
「いかにして健常者と歩調を合わせるか」以外の選択肢の存在は、重要な感じがする
もちろんそう簡単にいかないことも分かっています。まさに映画でもその難しさが描かれるのです。主人公は、同じバンドを組むボーカルの女性と、「魂で結びついている」ような深い繋がりを実感しています。つまり、「健常者との生活を諦める」ということは、彼女との人生も諦めるということを意味することになってしまうのです。
ここまでの状況であるのかはともかく、やはり、「健常者との生活」を手放すことには様々な勇気が求められるでしょう。だからこそ健常者の側は、「どうやって障害を持つ人が抵抗を感じにくい社会を作れるか」を考えなければならないわけです。その上で、障害を持つ側が「健常者とは生活しない」という選択肢も持てるのが理想的ではないかと感じます。
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もし私が何らかの障害を負うこととなり、目の前に「同じ障害を持つ者だけのコミュニティ」が存在する場合、どんな決断を下すだろうかと考えさせられました。
映画『サウンド・オブ・メタル』の内容紹介
自身はドラムを叩き、恋人でボーカルのルーと2人でメタルバンドを組んでいるルーベンは、生活のための一式を車に詰め込んで全国各地を回り、ツアーの売上で生計を立てている。ルーの腕にはリストカットの痕があり、ルーベンはかつてヘロイン中毒だった。2人は、お互いの存在を支えになんとか立ち直り、「恋人」「バンド仲間」というだけではない深い絆で結ばれていると感じている。
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そんなある日、ライブリハの直前にルーベンは耳に違和感を覚えた。その日のライブはなんとかこなしたが、耳鳴りが酷く、音の聴こえ方もあまりに異常だ。その変調に耐えきれず薬局に行くも、この時点で既に薬剤師との会話もままならないほどに聴力が落ちてしまっていた。
医師に診てもらったルーベンは、「急速に聴力が衰えているため、僅かに残った現状の聴力でどうにかやっていくしかない」と絶望的な宣告を受ける。
途方に暮れる2人だったが、どうにか知人の伝手を辿って、聴覚障害者のコミュニティを紹介してもらえた。しかしその施設で生活すると決めたなら、ルーとは離れ離れの生活をするしかないと告げられる。携帯電話さえ没収され、連絡を取ることも許されないのだ。そんな状態には耐えられないとルーベンは強硬に拒絶するが、「あなたには支援が必要だ」とルーに諭され、泣く泣く施設での生活を始めることになった。
もちろん、手話さえまったく分からない状態からのスタートであり、しばらく右も左も分からない手探りの生活だったが……。
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映画『サウンド・オブ・メタル』の感想
この記事の冒頭でも書いた通り、「健常者との生活を選ぶか否か」というこの映画のテーマは、後半まで進まないとハッキリとは打ち出されません。もちろん、映画の最初の方でルーと引き離され連絡も取ってはいけないと言われるので、それで大体理解できたという方もいるでしょう。しかし私は、「一時的に健常者の世界から引き離す」という措置なのだろうと思っており、それ故に「健常者と生きるかどうか」という重大な問いが突きつけられているとは気づかなかったのです。
ルーベンは様々な理由から「健常者との生活」を諦めきれません。その最大の要因は当然、恋人・ルーの存在ですが、バンドマンであることも大きいでしょう。音楽と共に生きてきた人生であり、その世界をあっさり手放すことは難しいはずです。
ベートーベンのような天才でもなければ、聴力を失った状態で音楽活動は続けられないからなぁ
スティービー・ワンダーや辻井伸行みたいに「見えない人」も大変だろうけど、耳が聴こえないまま音楽をやるのは不可能に近いよね
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もしルーベンが生まれつき聴覚に障害を持っていたのであれば、こんな決断を迫られることはありませんでした。しかしルーベンは、「ルー」と「音楽」というかけがえのないものを手に入れてから聴力を失ってしまったのです。「今まで出来ていたことが出来なくなる」だけではなく、「そのことによって、今までいたコミュニティにいられなくなる」というダブルパンチであり、ルーベンが直面する現実は本当に辛いものだと感じさせられました。
「自分だったらどうするだろう」と考えようとしてみるのですが、やはり想像は及びません。机上の空論で結論を出せるような問題ではないと思わされました。
内容以外で印象的だったのが音響です。この映画は、「聴力が失われつつあるルーベンの耳に、周囲の音がどう聴こえているか」を再現するような音響で構築されています。この映画の非常に特徴的な部分だと感じました。
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もちろん、「聴覚障害者の聴こえ方」をどんな手段で再現しているのか想像も出来ないので、どれくらいリアルなのかはなんとも言えません。ただ、もしこの映画で示される「聴こえ方」通りなのであれば、「むしろ『まったく聴こえない』方がマシなのではないか」と感じました。私が「ダイアログ・イン・サイレンス」で体験したのは「まったくの無音」でしたが、ルーベンが体験しているのは「不快な雑音まみれの世界」なのです。常時こんな騒々しい音の世界にさらされているのだとしたら、それだけで頭がおかしくなってしまうような気もしました。
聴覚障害者の世界を体感できるという意味でも、興味深い作品だと言えるでしょう。
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出演:リズ・アーメッド, 出演:オリヴィア・クック, 出演:ポール・レイシー, 出演:ローレン・リドロフ, 出演:マシュー・アマルリック, Writer:ダリウス・マーダー, Writer:エイブラハム・マーダー, 監督:ダリウス・マーダー, プロデュース:ベルト・ハーメリンク, プロデュース:サシャ・ベン・アローシュ, プロデュース:キャシー・ベンツ, プロデュース:ビル・ベンツ
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最後に
映画を観ながら、「もしルーベンにルーという存在がいなかったとしたら、何か状況は変わっていただろうか?」と考えてしまいました。恐らくこの問いは普通には成り立たないでしょう。何故なら、ルーがいなければルーベンはヘロイン中毒から立ち直ることができず、そもそも社会の中で真っ当には生きられなかっただろうからです。
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しかし、そういう状況は一切無視したとしたら、ルーという存在がいない場合のルーベンは、この映画とは違う決断をしたのではないかと考えてしまいました。
スパッとは割り切れない、一筋縄ではいかない状況が描かれる映画であり、「自分だったらどうするだろう?」という想像の及ばなさに驚かされてしまうだろうと思います。
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実際に起こった衝撃的な事件に着想を得て作られた映画『ルーム』は、フィクションだが、観客に「あなたも同じ状況にいるのではないか?」と突きつける力強さを持っている。「普通」「当たり前」という感覚に囚われて苦しむすべての人に、「何に気づけばいいか」を気づかせてくれる作品
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「死は特別なもの」と捉えてしまうが故に「日常感」が失われ、普段の生活から「排除」されているように感じてしまうのは私だけではないはずだ。『湯を沸かすほどの熱い愛』は、「死を日常に組み込む」ことを当たり前に許容する「家族」が、「家族」の枠組みを問い直す映画である
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「血の繋がり」だけが家族なのか?「将来の幸せ」を与えることが子育てなのか?実際に起こった「赤ちゃんの取り違え事件」に着想を得て、苦悩する家族を是枝裕和が描く映画『そして父になる』から、「家族とは何か?」「子育てや幸せとどう向き合うべきか?」を考える
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【あらすじ】濱口竜介監督『偶然と想像』は、「脚本」と「役者」のみで成り立つ凄まじい映画。天才だと思う
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村上春樹の短編小説を原作にした映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)は、村上春樹の小説の雰囲気に似た「自然な不自然さ」を醸し出す。「不自然」でしかない世界をいかにして「自然」に見せているのか、そして「自然な不自然さ」は作品全体にどんな影響を与えているのか
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【矛盾】その”誹謗中傷”は真っ当か?映画『万引き家族』から、日本社会の「善悪の判断基準」を考える
どんな理由があれ、法を犯した者は罰せられるべきだと思っている。しかしそれは、善悪の判断とは関係ない。映画『万引き家族』(是枝裕和監督)から、「国民の気分」によって「善悪」が決まる社会の是非と、「善悪の判断を保留する勇気」を持つ生き方について考える
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