目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
出演:永登元次郎, 出演:五大路子, 出演:杉山義法, 出演:清水節子, 出演:広岡敬一, 出演:団鬼六, 出演:山崎洋子, 出演:大野慶人, 出演:福寿祁久雄, 出演:松葉好市, 出演:森日出夫, 監督:中村高寛
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この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- ヨコハマメリーは、街の”風景”として欠かせない存在だった
- ヨコハマメリーの生活を支えた人々、関わった人々
- 「高貴さ」を失わなかったヨコハマメリーへの愛情
ヨコハマメリーが姿を消して時間が経ってから撮影された映画ですが、非常に濃密で興味深かったです
自己紹介記事
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どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください
記事中の引用は、映画館で取ったメモを参考にしているので、正確なものではありません
「ヨコハマメリー」とは何者で、「伊勢佐木町」とはどんな街なのか?映画『ヨコハマメリー』が映し出す彼女の”素顔”
「ヨコハマメリー」についてはほとんど知らなかった
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私がこの映画を見た時点で、「ヨコハマメリー」について知っていることはほとんどなかった。「ヨコハマメリー」という名前を聞いたことはあるが、「白塗りの元娼婦」だということをなんとなく知っていたぐらいだ。正直私にとっては「幽霊」と同じで、「この世に存在する人」だとリアルにイメージしていなかったのだと思う。
メリーさん(彼女は街の人からそう呼ばれている)は、1995年頃から姿を見せなくなったという。その事実も、この映画で初めて知った。そして、映画の内容が不安になった。何故ならこの映画は、メリーさんが街から消えた後で撮られているからだ。そういう中で、「ヨコハマメリー」に肉薄できるだろうか。「ヨコハマメリー」と関わった人たちの”思い出話”をただ聞かされるだけの映画になるのではないか。冒頭でそんな印象を抱いた。
その印象を強めたのが、冒頭から登場する永登元次郎というシャンソン歌手の存在だ。映画が進むにつれて、彼がメリーさんとかなり深い関わりを持つ人物だということが明らかになる。しかし冒頭ではそのことは分からなかったので、やはり“思い出話”を聞くだけの映画になりそうだ、と感じてしまった。
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しかし、そのような心配は杞憂であり、映画は非常に面白く感じられた。
確かにこの映画は「ヨコハマメリー」という人物を追いかけるのだが、その足取りは自然と「伊勢佐木町という街の歴史」と重なっていく。この映画は、人物のドキュメンタリーでもあるが、街のドキュメンタリーでもあり、その両者が上手く絡み合っていると思った。
メリーさんの不在によって、街の空気が変わった
映画の冒頭では、街頭で様々な人に「メリーさん」について聞いたのだろうその返答を、音声だけいくつも重ねて流していた。自分のメモに書き取れたものだけ挙げても、
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- 皇族の子孫らしい
- 全財産を持ち歩いている
- どこかの施設に入ったと聞いた
- 2~3年前に死んだよ
- メリーさんなんて知らない
など、様々な声があった。ここから分かることは、「誰も正確な情報は知らない」「メリーさんに関する記憶は薄れている」ということだろう。
私がこの映画を見たのは2020年だが、この時点で既に公開から14年経っていると説明があった。1995年にメリーさんの姿が消え、2006年に映画が公開されたのだとすれば、撮影の時点で既にメリーさんがいなくなって10年弱経っていた、ということだ。確かに、人々の記憶の中から薄れてしまってもおかしくはないだろう。
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しかしそれは、メリーさんと関わりが薄かった人たちの話だ。
映画の冒頭で、森日出男というカメラマンが登場する。メリーさんを横浜の風景の一部として撮影していた人物だ。そんな彼は、
メリーさんがいなくなって、伊勢佐木町の街が変わった
と語っていた。いなくなって時間が経過したのでもちろんもう慣れたが、メリーさんがいた頃とはまったく違う街のように感じられるのだという。
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そしてその感覚は、決して共感こそできないものの、メリーさんと直接的に関わりのあった人たちの様々なエピソードが描かれるこの映画を観ることで、少し理解できるような気がした。
メリーさんが映っている写真は、なんというのか、凄く「絵になる」。映画には、平たく言ってしまえば「ホームレス」だったメリーさんが映った写真が多数登場するが、「メリーさんがそこにいる」ということが、写真の格をグッと上げているような気さえする。私はあくまでも「写真の格」しか感じられないが、メリーさんが街にいれば「街の格」が上がっているような、そんな印象を与えるかもしれない、と思う。
もちろん、「見た目」だけの話ではない。「メリーさんというホームレス」を「共同体」として支えることで、伊勢佐木町という「街の格」が上がっていた部分もあったのではないかと感じる。
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そして、その「共同体」が崩壊してしまったことが、「伊勢佐木町という街が変わってしまった要因」なのではないかと感じさせられた。
メリーさんを拒絶する人々、支える人々
映画では、メリーさんと直接的には深く関係のない「伊勢佐木町という街の歴史」もかなり描かれるし、そちらはそちらで面白い話は結構あるのだが、この記事ではメリーさんに焦点を当てよう。
伊勢佐木町には、メリーさんの生活を支える人がたくさんいた。特に印象的だったのが、メリーさんが通っていたクリーニング店だ。実はこのクリーニング店、メリーさんとかなり深く関わることになるのだが、その点についてはこの記事では触れないことにしよう。
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このクリーニング店は、メリーさんに定住の住居がないことを知り、ウチの更衣室を使ってくださいと提案したのだそうだ。それから、このクリーニング店で着替え、服をそのままクリーニングに出すという生活を続けるようになる。映画に登場した人物の中では、永登元次郎に次いで深く関わった人物ではないかと思う。
メリーさんが通っていた美容院やティールームも映画には登場し、当時の思い出が語られた。しかしメリーさんを取り巻く環境は徐々に変わっていったようで、そのことによって支える人たちも苦しい立場に置かれることになる。
メリーさんが露骨に忌避されるようになったのだ。
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映画の中で、その理由は明確に触れられていなかったが、話の中で「エイズ」という単語がこぼれ出た。ここからは私の推測だ。
実際にそうだったかどうかはともかく、メリーさんは「娼婦」として知られていた。そしてそれ故に、「メリーさんはエイズである」という噂が流れたのではないかと思う。
美容院の店主は、他の客から「メリーさんに使っている櫛やハサミは嫌だ」と言われるようになったという。そんなことが続いたせいで、メリーさんに好感を抱いていた店主は、泣く泣く彼女の来店をお断りせざるを得なくなったという。
ティールームでも同じような反応があった。メリーさんが使っているカップは嫌だ、と言われてしまうのだ。そこで店主は、メリーさん専用のカップを用意してお迎えしていたのだという。
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メリーさんは、このように支える人がいてこそ成り立っていた。そして繰り返すが、メリーさんがいなくなったことで、この「支える人の共同体」も同時に役割を終えることになり、そのことが街の印象に影響を与えているという可能性は十分にある、と私は感じた。
「メリーさん」への愛情
映画を観ていると、メリーさんと街の人たちとの、ちょっと普通ではない”高貴な”やり取りがある、と感じられる場面もあった。「愛情」という表現は適切ではないかもしれないが、「愛情」を感じさせる。
例えば、メリーさんは顔を白塗りにしていたことで知られているが、その白粉を売っていた化粧品店の店主の女性の話は非常に印象的だ。
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ある日店主は、松坂屋でメリーさんを見つけた。寂しそうにしている彼女を見て店主はお茶に誘ったのだが、メリーさんは「あっちへ行け」という仕草で拒絶した、という。いつものお店での態度とは全然違う。「ママ、サンキュー」と、気さくに声を掛けてくれる人だ。それなのに何故拒絶するような態度を取ったのだろう?
店主は不思議に思い、夫に「メリーさんって変な人ね」と、松坂屋での出来事を話した。すると夫から、「常識がないのはお前の方だ」と言われたのだという。
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どういうことか分かるだろうか?
夫の言い分はこうだ。メリーさんと店主は同年代であり、メリーさんは娼婦として知られていたのだから、そんな2人がお茶をしていたら、お前まで娼婦だったと見られる可能性がある。メリーさんはきっと、そうならないように気を遣ってくれたのだ、と。
真偽は不明だが、この夫の主張も一理あると感じる。そして、言ってしまえば「ホームレス」であるメリーさんに対して、このような「高尚な捉え方」ができるということが、「愛情」であるように私には感じられた。
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他にも、あるイベントプロデューサーから聞いたという伝聞情報として、こんな話も語られる。
その人物は、オペラなどさまざまな公演を主催してきたが、毎回ヒットするかどうか不安だという。当然だろう。しかし、メリーさんが自分でお金を払って観に来てくれる公演は、不思議と大ヒットするというのだ。
どこまで本当の話か分からないが、これもまた、「高尚な捉え方」と言っていいだろう。
メリーさんを「好奇な存在」としてしか見なかった者も多いだろうが、直接間接にメリーさんと関わった人たちからの、このような「愛情」が描かれることで、メリーさんという存在が、街の一部として不可欠なものだったということが実感できた気がする。
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私は、「開発」という名目で古いものを壊し、ただ「小綺麗」にしていくだけの今のやり方は好きになれない。古いものを、時代に求められないまま残し続けることも違うと思うが、古いものを残そうとする意思は大事だと思うし、街から「猥雑さ」が消えてしまうことが寂しくも感じられる。
「メリーさん」というのはそういう、本来的には失うべきではない「古さ」の象徴みたいなものだったと言えるだろうし、「メリーさんが街にいられなくなった」という事実が、我々の「古いものを排除する態度」の反映であるようにも感じられた(まあ、メリーさんが消えたのには、メリーさんの方にも事情があり、私の考えは我田引水にすぎるとは思うが)。
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映画は、正直予想していなかった形で終わる。映画として、とても綺麗にまとまったと思う。ある意味で勝手に無遠慮に「象徴」のような扱われ方をしていた人が、「象徴」としての仮面をきちんと脱いで存在しているというのは、なんというか、とても良いことだと感じられた。
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どう生きるべきか・どうしたらいい【本・映画の感想】 | ルシルナ
どんな人生を歩みたいか、多くの人が考えながら生きていると思います。私は自分自身も穏やかに、そして周囲の人や社会にとっても何か貢献できたらいいなと、思っています。…
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