目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ
この記事で伝えたいこと
「劇中劇の撮影シーン」を上手く組み込むことによって、観客を絶妙に幻惑させる見事な構成
映画『千年女優』でも同様の手法を取っており、今敏監督の代名詞的なやり方なのかもしれないと思う
この記事の3つの要点
- アイドルを辞め女優に専念すると決めた霧越未麻が、少しずつ”狂気”に呑み込まれていく物語
- 「現実」「妄想」「ドラマの撮影シーン」の3つを巧みに織り交ぜることで、観る者の解釈を絞らせない巧みさ
- 劇場公開されたのは偶然らしく、元々はビデオアニメの企画だったからこそ無名の今敏が起用されたのだそうだ
世界的な人気を誇る今敏は、デビュー作からやはり凄かったのだと実感させられた驚愕の作
自己紹介記事
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なかなか面白い作品でした。いつものように、何も知らないまま観に行ったので、「アイドルの話」であることさえ観るまで知らなかったという感じです。また、今敏監督が既に亡くなっていることは分かっていましたが、いつ頃作られた映画なのかは知らなかったこともあり、絵の雰囲気はやはり古いなと感じました(25年以上前の作品なので当然ですけど)。ただ、物語自体は現代でも十分に通用すると思います。
これが初監督作品だっていうんだから、やっぱり凄い人ってのは凄いなって思う
映画『パーフェクトブルー』の内容紹介
舞台上に、3人組アイドルグループ「CHAM」のメンバーが揃っている。舞台と言っても大きな会場ではなく、ヒーローショーも行われるような小さなステージだ。ライブは佳境を迎え、ラスト1曲。ここで、メンバーの1人である霧越未麻が、今日のライブをもって卒業することをファンに伝えた。これは決して未麻の希望ではない。テレビドラマに出演した際の評判が良かったため、事務所が彼女を女優として押し出したいと考えているのだ。
未麻自身は歌手になりたくて山口から上京してきた。そのため、自身もかつてアイドルだったマネージャーのルミは、社長に「未麻の気持ちを尊重して」と訴える。しかし社長は、「アイドルとしてはもう、露出の場が限られるから」と、事務所経営のことも考えて未麻の卒業を決めたというわけだ。
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とはいえ、女優としての道が開けているのかというとそんなこともない。現在出演しているドラマ『ダブルバインド』のセリフは少ないし、次が決まっているわけでもないのだ。それでも未麻自身は、女優としてやっていこうと気持ちを切り替え、新たなスタートを切ろうとしていた。
しかし、アイドルを卒業した未麻の周囲では、不穏な出来事が続くことになる。自宅には「裏切り者」と書かれたFAXが届く。ファンレターにアドレスが書かれていたHPに行ってみると、未麻の日常を監視しているとしか思えない投稿が大量にアップされていた。また、未麻宛てに届いたファンレターを事務所の社長が開封した際に爆発するという事件も起こる。明らかに、何かがおかしい。しかし、未麻はそこはかとない不安を社長やマネージャーに訴えるものの、「今は女優の仕事に集中しなさい」と聞く耳を持ってもらえなかった。
さて、アイドルを辞め女優の道へと進んだ未麻は、その後ドラマの中でレイプシーンを演じたり、ヘアヌード写真の撮影を行ったりと、アイドル時代には考えられなかった仕事をするようになる。そしてそれと並行する形で、未麻の周囲ではさらに”ヤバい”事件が起こっている”ように見える”のだ。未麻の身に起こることは「現実」なのか「夢」なのか、はたまた「妄想」なのか……。
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「現実と虚構の境界」を絶妙に曖昧にしていく見事な構成
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「夢オチ」みたいな展開は、うまくハマってればいいんだけどね
「夢オチ」で物語をちゃんと成立させるのはなかなか難しい気がする
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そして本作は、その辺りを非常に上手く作っていると感じました。もちろん、「アニメ映画だから可能だった」という側面はあると思います。恐らくですが、例えば小説で本作と同じことを実現しようとしたら、かなり難しいでしょう。ただ、「アニメ映画だったから」というだけではない巧妙さもあると考えています。
私が上手いなと感じたのは、本作においては「劇中劇」的な存在である『ダブルバインド』というドラマです。アイドルを辞めた未麻が、女優としてのリスタートのために出演しているドラマとして出てきます。つまり本作には、「未麻が生きている現実」「未麻の妄想」「ドラマ『ダブルバインド』の撮影シーン」の3つが入り混じることになるのです。
映画『千年女優』も同じスタイルだったから、今敏の十八番と言ってもいいのかも
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もし本作に「未麻が生きている現実」と「未麻の妄想」という2種類の描写しか無かったとしたら、リアルな物語として描き出すことは難しかっただろうと思います。何故なら、それがどんな描写でも、「『未麻が生きている現実』でないなら『未麻の妄想』」「『未麻の妄想』でないなら『未麻が生きている現実』」という解釈しか成り立たないからです。
しかしそこに、3つ目の選択肢である「ドラマ『ダブルバインド』の撮影シーン」が含まれることで、可能性のパターンはかなり広がります。「これは『現実』では無さそうだけど、だとしたら『妄想』と『撮影シーン』のどっちだろう?」みたいな形で、観ている者を幻惑させることが出来るのです。このように、「映し出されているのが『現実』『妄想』『撮影シーン』のどれなのか分からない」という描き方になっていることで、観客は常に振り回されることになります。
ホントに、何がどう展開していくのか全然分かんないもんね
でもちゃんと物語は追えるから、その辺りの処理がメチャクチャ上手いんだろうなって思う
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そんなわけで本作では、「現実と虚構の区別が付かない」みたいな状況が、かなりリアルな物語として成立していたと思います。さらに本作の場合、中盤までは観客を幻惑させ続けますが、終盤で一気に可能性が絞られ、「なるほど、未麻が置かれていたのはこのような状況だったのか!」とはっきり理解できるようになるわけです。この展開も、とても良くできていると感じました。
さて、「現実と虚構の区別が付かない」みたいな展開の場合はやはり、「物語の閉じ方」が問題になってくるでしょう。そして作品によっては、「幻惑させたまま物語が終わる」みたいなパターンもあるだろうと思います。そういう展開がダメだと言いたいわけではないのですが、本作では「きちんと物語を着地させる」ので、この点もまたとても良かったなと感じました。
よくもまあ、こんなに混沌とした物語を着地させられたものだなって思う
かなり緻密にやらないと成立しない物語って感じだよね
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細かな検証を行えているわけではありませんが、本作のラストの展開を踏まえれば、それまでの描写に概ね説明が付くだろうと思います。もちろん、私の中にも「あれは結局何だったんだ?」というシーンは残ってるし、理解できていない部分もあるわけですが、その辺りは考察が得意な人に任せることにしましょう。全体の辻褄が合っているかどうかにさほど興味のない私のような人間には、「なるほど、これは良く出来てる!」みたいに感じられる作品ではないかと思います。
その他、本作に関してあれこれ
本作は、今敏の監督デビュー作だそうです。しかも、ウィキペディアの情報ですが、本作が劇場公開されたのは「たまたま」で、当初はビデオアニメの企画だったとのこと。だからこそ、監督未経験だった今敏にオファーが回ってきたという経緯もあったようです。本当に人生は何が起こるか分からないと感じますよね。
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本作を手掛けたことで、世界的に名前が知られる監督になったわけだしね
もちろん作品が良かったお陰だけど、強運を引き寄せたとも言えるよなぁ
さて、エンドロールに「キャラクター原案:江口寿史」と書かれていたり、あるいは、肩書は忘れましたが「大友克洋」の名前もあったりしました。なかなかのビッグネームが揃ったという感じですが、実はここにも裏話があります。これもウィキペディアの情報ですが、エンドロールに大友克洋の名前がクレジットされているのは「今敏が無名だったから」だそうです。本作は海外の映画祭に出品されたのですが、今敏の名前では注目を集められないいう判断だったのか、その時海外で大ヒット中の『AKIRA』で知られるようになった大友克洋の名前を借り、「大友克洋の弟子の初監督作品」として紹介されたのだとか。なので、制作に大友克洋が関わっているというわけではなさそうです。
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また、本作は「R15」表記の作品なのですが、個人的にはそのことに驚かされました。確かにレイプシーンの撮影現場が描かれたりしますが、それにしてもそれほど「ヤバい」描写があるようには感じられなかったからです。しかしさらに驚いたのは、日本以外のほとんどの国では「R18」だということ(これもウィキペディア情報です)。アニメ・マンガの場合は特に、日本よりも海外の基準の方が厳しくなるという話は聞いたことがありますが、「それにしたってR18ってことはないだろう」と思いました。何がダメなんだろう?
あるいは「狂気的な展開の物語」っていうのが引っかかるのかなぁ
でもそれって、かなり主観的な判断になる気がするから、あんまりしっくり来ないけどね
さて、私は本作を映画館で観ました。リバイバル上映されていたからです。そして、私が観た回はほぼ満員だったし、ざっと見回した印象ですが、若い人が多かったように思います。「若い人は配信で映画を観ているはず」という感覚があるので、それもあって、「映画館に若い人がたくさんいる」という状況に結構ビックリさせられました。
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ただ、今敏監督が有名な人であることは確かだとはいえ、それにしても「映画館まで足を運んで観よう」と若い人に思わせるだけの何かがあるというのはやはり凄いことだなと思います。若い人は一体、何に強く惹かれて映画館まで来ているんだろう? また私は、リバイバル上映や4Kレストア版公開などに結構足を運ぶことにしていますが、やはり若い人も結構来ている印象が強いです。コスパ・タイパを追い求めていそうな若い人たちが”わざわざ”映画館にやってくる理由には少し興味があります。
まあ私の周りには割と、「映画は映画館で観る派」の若者が多いんだけど
「Z世代」みたいな括り方って、以前から「雑だな」と思ってたけど、そういう捉え方では益々状況が理解できなくなった感じするよね
まあ色々書きましたが、とても面白い作品でした。
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最後に
鑑賞後に知りましたが、本作の上映時間はたった81分なのだそうです。そのことを知って驚きました。「冗長」みたいな意味ではなく「もっと長い」と思っていたし、たった81分であの濃密さを生み出しているなんて衝撃でしかありません。
かなりカオスな物語で、頭がイカれそうになるような展開ですが、最終的にはきちんと着地する構成でもあり、全体としては親切な設計だと思います。25年以上前の監督デビュー作だとは思えない作品で、とても素晴らしいと感じました。
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【幸福】「死の克服」は「生の充実」となり得るか?映画『HUMAN LOST 人間失格』が描く超管理社会
アニメ映画『HUMAN LOST 人間失格』では、「死の克服」と「管理社会」が分かちがたく結びついた世界が描かれる。私たちは既に「緩やかな管理社会」を生きているが、この映画ほどの管理社会を果たして許容できるだろうか?そしてあなたは、「死」を克服したいと願うだろうか?
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【純愛】映画『ぼくのエリ』の衝撃。「生き延びるために必要なもの」を貪欲に求める狂気と悲哀、そして恋
名作と名高い映画『ぼくのエリ』は、「生き延びるために必要なもの」が「他者を滅ぼしてしまうこと」であるという絶望を抱えながら、それでも生きることを選ぶ者たちの葛藤が描かれる。「純愛」と呼んでいいのか悩んでしまう2人の関係性と、予想もつかない展開に、感動させられる
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【感想】湯浅政明監督アニメ映画『犬王』は、実在した能楽師を”異形”として描くスペクタクル平家物語
観るつもりなし、期待値ゼロ、事前情報ほぼ皆無の状態で観た映画『犬王』(湯浅政明監督)はあまりにも凄まじく、私はこんなとんでもない傑作を見逃すところだったのかと驚愕させられた。原作の古川日出男が紡ぐ狂気の世界観に、リアルな「ライブ感」が加わった、素晴らしすぎる「音楽映画」
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のん(能年玲奈)脚本・監督・主演の映画『Ribbon』。とても好きな作品だった。単に女優・のんが素晴らしいというだけではなく、コロナ禍によって炙り出された「生きていくのに必要なもの」の違いに焦点を当て、「魂を生き延びさせる行為」が制約される現実を切り取る感じが見事
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「仕事が存在しない世界」は果たして人間にとって楽園なのか?万能のAIが人間の仕事をすべて肩代わりしてくれる世界を野崎まどが描く『タイタン』。その壮大な世界観を通じて、現代を照射する「仕事に関する思索」が多数登場する、エンタメ作品としてもド級に面白い傑作SF小説
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涙腺がぶっ壊れたのかと思ったほど泣かされた映画『彼女が好きなものは』について、作品の核となる「ある事実」に一切触れずに書いた「ネタバレなし」の感想です。「ただし摩擦はゼロとする」の世界で息苦しさを感じているすべての人に届く「普遍性」を体感してください
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映画『先生、私の隣に座っていただけませんか?』は、「マンガ家夫婦の不倫」という設定を非常に上手く活かしながら、「何がホントで何かウソなのかはっきりしないドキドキ感」を味わわせてくれる作品だ。黒木華・柄本佑の演技も絶妙で、良い映画を観たなぁと感じました
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完璧なルールは存在し得ない。だからこそ私たちは、矛盾を内包していると理解しながらルールを遵守する必要がある。「ルールを通り抜けたものは善」という”とりあえずの最善解”で社会を回している私たちに、『法廷遊戯』は「世界を支える土台の脆さ」を突きつける
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SNSの登場によって「批判が容易な社会」になったことで、批判を恐れてポジティブな言葉を口にしにくくなってしまった。そんな世の中で私は、「理想論だ」と言われても「誰かを助けたい」と発信する側の人間でいたいと、『竜とそばかすの姫』を観て改めて感じさせられた
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ともすれば「エロ本」としか思えない浅野いにおの原作マンガを、その空気感も含めて忠実に映像化した映画『うみべの女の子』。本作が一体何を伝えたかったのかを、必死に考察し全力で解説する。中学生がセックスから関係性をスタートさせることで、友達でも恋人でもない「名前の付かない関係性」となり、行き止まってしまう感じがリアル
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ゴジラ作品にも特撮映画にもほとんど触れてこなかったが、庵野秀明作品というだけで観に行った『シン・ゴジラ』はとんでもなく面白かった。「ゴジラ」の存在以外のありとあらゆるものを圧倒的なリアリティで描き出す。「本当にゴジラがいたらどうなるのか?」という”現実”の描写がとにかく素晴らしかった
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村上春樹の短編小説を原作にした映画『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)は、村上春樹の小説の雰囲気に似た「自然な不自然さ」を醸し出す。「不自然」でしかない世界をいかにして「自然」に見せているのか、そして「自然な不自然さ」は作品全体にどんな影響を与えているのか
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ルシルナ
苦しい・しんどい【本・映画の感想】 | ルシルナ
生きていると、しんどい・悲しいと感じることも多いでしょう。私も、世の中の「当たり前」に馴染めなかったり、みんなが普通にできることが上手くやれずに苦しい思いをする…
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