【感想】アニメ映画『パーフェクトブルー』(今敏監督)は、現実と妄想が混在する構成が少し怖い

目次

はじめに

この記事で取り上げる映画

監督:今 敏, プロデュース:丸山正雄, プロデュース:井上博明, 出演:岩男潤子, 出演:松本梨香, 出演:辻 親八, 出演:大倉正章, 出演:古川恵実子, 出演:新山志保
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いか

この映画をガイドにしながら記事を書いていくようだよ

この記事で伝えたいこと

「劇中劇の撮影シーン」を上手く組み込むことによって、観客を絶妙に幻惑させる見事な構成

犀川後藤

映画『千年女優』でも同様の手法を取っており、今敏監督の代名詞的なやり方なのかもしれないと思う

この記事の3つの要点

  • アイドルを辞め女優に専念すると決めた霧越未麻が、少しずつ”狂気”に呑み込まれていく物語
  • 「現実」「妄想」「ドラマの撮影シーン」の3つを巧みに織り交ぜることで、観る者の解釈を絞らせない巧みさ
  • 劇場公開されたのは偶然らしく、元々はビデオアニメの企画だったからこそ無名の今敏が起用されたのだそうだ
犀川後藤

世界的な人気を誇る今敏は、デビュー作からやはり凄かったのだと実感させられた驚愕の作

自己紹介記事

いか

どんな人間がこの記事を書いているのかは、上の自己紹介記事をご覧ください

今敏監督作品『パーフェクトブルー』は、絶妙な設定と描写によって「『現実』と『虚構』の境界を崩す構成」がとにかく素晴らしい

なかなか面白い作品でした。いつものように、何も知らないまま観に行ったので、「アイドルの話」であることさえ観るまで知らなかったという感じです。また、今敏監督が既に亡くなっていることは分かっていましたが、いつ頃作られた映画なのかは知らなかったこともあり、絵の雰囲気はやはり古いなと感じました(25年以上前の作品なので当然ですけど)。ただ、物語自体は現代でも十分に通用すると思います。

いか

観る人を幻惑させる設定・展開が絶妙だったよね

犀川後藤

これが初監督作品だっていうんだから、やっぱり凄い人ってのは凄いなって思う

映画『パーフェクトブルー』の内容紹介

舞台上に、3人組アイドルグループ「CHAM」のメンバーが揃っている。舞台と言っても大きな会場ではなく、ヒーローショーも行われるような小さなステージだ。ライブは佳境を迎え、ラスト1曲。ここで、メンバーの1人である霧越未麻が、今日のライブをもって卒業することをファンに伝えた。これは決して未麻の希望ではない。テレビドラマに出演した際の評判が良かったため、事務所が彼女を女優として押し出したいと考えているのだ。

未麻自身は歌手になりたくて山口から上京してきた。そのため、自身もかつてアイドルだったマネージャーのルミは、社長に「未麻の気持ちを尊重して」と訴える。しかし社長は、「アイドルとしてはもう、露出の場が限られるから」と、事務所経営のことも考えて未麻の卒業を決めたというわけだ。

とはいえ、女優としての道が開けているのかというとそんなこともない。現在出演しているドラマ『ダブルバインド』のセリフは少ないし、次が決まっているわけでもないのだ。それでも未麻自身は、女優としてやっていこうと気持ちを切り替え、新たなスタートを切ろうとしていた

しかし、アイドルを卒業した未麻の周囲では、不穏な出来事が続くことになる。自宅には「裏切り者」と書かれたFAXが届く。ファンレターにアドレスが書かれていたHPに行ってみると、未麻の日常を監視しているとしか思えない投稿が大量にアップされていた。また、未麻宛てに届いたファンレターを事務所の社長が開封した際に爆発するという事件も起こる。明らかに、何かがおかしい。しかし、未麻はそこはかとない不安を社長やマネージャーに訴えるものの、「今は女優の仕事に集中しなさい」と聞く耳を持ってもらえなかった

さて、アイドルを辞め女優の道へと進んだ未麻は、その後ドラマの中でレイプシーンを演じたり、ヘアヌード写真の撮影を行ったりと、アイドル時代には考えられなかった仕事をするようになる。そしてそれと並行する形で、未麻の周囲ではさらに”ヤバい”事件が起こっている”ように見える”のだ。未麻の身に起こることは「現実」なのか「夢」なのか、はたまた「妄想」なのか……。

「現実と虚構の境界」を絶妙に曖昧にしていく見事な構成

映画でも小説でもマンガでも、「これは夢なのか現実なのか」みたいな展開の物語はたくさんあるでしょう。しかし、そのような物語をファンタジーとしてではなく成立させようとする場合、かなり無理をしなければ実現できない印象があります。今でこそ「VR・AR」みたいな技術があるし、それらを駆使すれば「現実と虚構の区別が付かない」という状況をリアルに設定できるかもしれませんが、本作が作られた頃にはそうはいかなかったはずです

いか

「夢オチ」みたいな展開は、うまくハマってればいいんだけどね

犀川後藤

「夢オチ」で物語をちゃんと成立させるのはなかなか難しい気がする

そして本作は、その辺りを非常に上手く作っていると感じました。もちろん、「アニメ映画だから可能だった」という側面はあると思います。恐らくですが、例えば小説で本作と同じことを実現しようとしたら、かなり難しいでしょう。ただ、「アニメ映画だったから」というだけではない巧妙さもあると考えています。

私が上手いなと感じたのは、本作においては「劇中劇」的な存在である『ダブルバインド』というドラマです。アイドルを辞めた未麻が、女優としてのリスタートのために出演しているドラマとして出てきます。つまり本作には、「未麻が生きている現実」「未麻の妄想」「ドラマ『ダブルバインド』の撮影シーン」の3つが入り混じることになるのです。

いか

この設定がホントによく出来てるよね

犀川後藤

映画『千年女優』も同じスタイルだったから、今敏の十八番と言ってもいいのかも

もし本作に「未麻が生きている現実」と「未麻の妄想」という2種類の描写しか無かったとしたら、リアルな物語として描き出すことは難しかっただろうと思います。何故なら、それがどんな描写でも、「『未麻が生きている現実』でないなら『未麻の妄想』」「『未麻の妄想』でないなら『未麻が生きている現実』」という解釈しか成り立たないからです。

しかしそこに、3つ目の選択肢である「ドラマ『ダブルバインド』の撮影シーン」が含まれることで、可能性のパターンはかなり広がります。「これは『現実』では無さそうだけど、だとしたら『妄想』と『撮影シーン』のどっちだろう?」みたいな形で、観ている者を幻惑させることが出来るのです。このように、「映し出されているのが『現実』『妄想』『撮影シーン』のどれなのか分からない」という描き方になっていることで、観客は常に振り回されることになります。

いか

ホントに、何がどう展開していくのか全然分かんないもんね

犀川後藤

でもちゃんと物語は追えるから、その辺りの処理がメチャクチャ上手いんだろうなって思う

そんなわけで本作では、「現実と虚構の区別が付かない」みたいな状況が、かなりリアルな物語として成立していたと思います。さらに本作の場合、中盤までは観客を幻惑させ続けますが、終盤で一気に可能性が絞られ、「なるほど、未麻が置かれていたのはこのような状況だったのか!」とはっきり理解できるようになるわけです。この展開も、とても良くできていると感じました。

さて、「現実と虚構の区別が付かない」みたいな展開の場合はやはり、「物語の閉じ方」が問題になってくるでしょう。そして作品によっては、「幻惑させたまま物語が終わる」みたいなパターンもあるだろうと思います。そういう展開がダメだと言いたいわけではないのですが、本作では「きちんと物語を着地させる」ので、この点もまたとても良かったなと感じました。

犀川後藤

よくもまあ、こんなに混沌とした物語を着地させられたものだなって思う

いか

かなり緻密にやらないと成立しない物語って感じだよね

細かな検証を行えているわけではありませんが、本作のラストの展開を踏まえれば、それまでの描写に概ね説明が付くだろうと思います。もちろん、私の中にも「あれは結局何だったんだ?」というシーンは残ってるし、理解できていない部分もあるわけですが、その辺りは考察が得意な人に任せることにしましょう。全体の辻褄が合っているかどうかにさほど興味のない私のような人間には、「なるほど、これは良く出来てる!」みたいに感じられる作品ではないかと思います。

その他、本作に関してあれこれ

本作は、今敏の監督デビュー作だそうです。しかも、ウィキペディアの情報ですが、本作が劇場公開されたのは「たまたま」で、当初はビデオアニメの企画だったとのこと。だからこそ、監督未経験だった今敏にオファーが回ってきたという経緯もあったようです。本当に人生は何が起こるか分からないと感じますよね。

いか

本作を手掛けたことで、世界的に名前が知られる監督になったわけだしね

犀川後藤

もちろん作品が良かったお陰だけど、強運を引き寄せたとも言えるよなぁ

さて、エンドロールに「キャラクター原案:江口寿史」と書かれていたり、あるいは、肩書は忘れましたが「大友克洋」の名前もあったりしました。なかなかのビッグネームが揃ったという感じですが、実はここにも裏話があります。これもウィキペディアの情報ですが、エンドロールに大友克洋の名前がクレジットされているのは「今敏が無名だったから」だそうです。本作は海外の映画祭に出品されたのですが、今敏の名前では注目を集められないいう判断だったのか、その時海外で大ヒット中の『AKIRA』で知られるようになった大友克洋の名前を借り、「大友克洋の弟子の初監督作品」として紹介されたのだとか。なので、制作に大友克洋が関わっているというわけではなさそうです。

また、本作は「R15」表記の作品なのですが、個人的にはそのことに驚かされました。確かにレイプシーンの撮影現場が描かれたりしますが、それにしてもそれほど「ヤバい」描写があるようには感じられなかったからです。しかしさらに驚いたのは、日本以外のほとんどの国では「R18」だということ(これもウィキペディア情報です)。アニメ・マンガの場合は特に、日本よりも海外の基準の方が厳しくなるという話は聞いたことがありますが、「それにしたってR18ってことはないだろう」と思いました。何がダメなんだろう?

犀川後藤

あるいは「狂気的な展開の物語」っていうのが引っかかるのかなぁ

いか

でもそれって、かなり主観的な判断になる気がするから、あんまりしっくり来ないけどね

さて、私は本作を映画館で観ましたリバイバル上映されていたからです。そして、私が観た回はほぼ満員だったし、ざっと見回した印象ですが、若い人が多かったように思います。「若い人は配信で映画を観ているはず」という感覚があるので、それもあって、「映画館に若い人がたくさんいる」という状況に結構ビックリさせられました

ただ、今敏監督が有名な人であることは確かだとはいえ、それにしても「映画館まで足を運んで観よう」と若い人に思わせるだけの何かがあるというのはやはり凄いことだなと思います。若い人は一体、何に強く惹かれて映画館まで来ているんだろう? また私は、リバイバル上映や4Kレストア版公開などに結構足を運ぶことにしていますが、やはり若い人も結構来ている印象が強いです。コスパ・タイパを追い求めていそうな若い人たちが”わざわざ”映画館にやってくる理由には少し興味があります。

犀川後藤

まあ私の周りには割と、「映画は映画館で観る派」の若者が多いんだけど

いか

「Z世代」みたいな括り方って、以前から「雑だな」と思ってたけど、そういう捉え方では益々状況が理解できなくなった感じするよね

まあ色々書きましたが、とても面白い作品でした

最後に

鑑賞後に知りましたが、本作の上映時間はたった81分なのだそうです。そのことを知って驚きました「冗長」みたいな意味ではなく「もっと長い」と思っていたし、たった81分であの濃密さを生み出しているなんて衝撃でしかありません。

かなりカオスな物語で、頭がイカれそうになるような展開ですが、最終的にはきちんと着地する構成でもあり、全体としては親切な設計だと思います。25年以上前の監督デビュー作だとは思えない作品で、とても素晴らしいと感じました。

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