目次
はじめに
この記事で取り上げる映画
この映画をガイドにしながら記事を書いていきます
この記事の3つの要点
- カメラに撮られながら、ホワイトデーのチョコを渡す男子
- 「今の友達と離れられるから早く大人になりたい」とカメラ前で平然と語る少女
- 「そこら辺のゴミには適当に遊ばせとけばいい」と達観するパソコン少年
中学生の時の自分だったら……こんな振る舞い、カメラの前じゃできないよなぁ
自己紹介記事
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映画『14歳の栞』の内容紹介
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この映画は、14歳の少年少女たちを「ありのまま」に切り取った作品だ。
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2年6組の生徒は35人。この35人全員を、一人ひとり掘り下げながら、14歳という一瞬を映し出す。
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正直に言えば、これといってドラマティックなことは起こらないし、ひたすら中学生たちの日常が淡々と進んでいくだけの映画である。
しかし私は、観ながらずっと「どうなってんのこれ?」と驚きっぱなしだった。こんな映画が、実現するんだなぁ、と。
「カメラの存在を気にしない」という振る舞いに驚かされた
何に驚いたのか。それは、中学生たちがカメラの存在をまったく気にしていないように見えたことだ。
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それを一番強く感じた、印象的だった場面から話をしよう。
この映画には、「女子からバレンタインのチョコを受け取った男子が、休日に女子へのお返しを買いに行く」という場面が映っている。
私からすれば、信じられない。今の年齢ならまだそこまでの恥ずかしさはないだろうが、中学生の頃に同じ状況に置かれたら、とてもじゃないけれど普通には振る舞えないと思うし、というかそもそも撮影を断ってしまうだろう。
しかしこの映画の男子は、カメラがいるのに普通に振る舞っているように見える。それどころか、その男子が女子にホワイトデーのお返しを渡す場面さえ映っている。
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男子は女子の家まで行ってチャイムを押す。その様子が、遠目から撮影されている。そしてなんと、チャイムを押された女子の家にはまた別のカメラが待機しており、ホワイトデーのお返しを受け取る女子の様子を撮影するのだ。
凄くないだろうか?まさかこんな場面が、ドキュメンタリーで観られるとは思っていなかった。
ここまで書いたことに対して、いろいろ反論が出るだろうとは思っている。例えば、「カメラがいても素で振る舞っているように”見える”だけで、実際は普段の様子と違うんじゃないか」という反論は想定できる。
確かに観客は、取り上げられている中学生の普段の姿を知らないのだから比較のしようはない。だから断言はできないのだけれど、しかし映画を観ると、カメラの前でナチュラルに振る舞っているようにしか見えない。
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ふとした瞬間に、「あぁ、今この場面には、カメラを持った大人がいるんだよなぁ」と気付かされて驚いてしまう。そんな風には、まったく感じられないからだ。
あるいはこんな批判もあるかもしれない。ナチュラルに振る舞えるのは、クラスの中心人物や人気者だけだ。バレンタインのやり取りをするような人気者だから素に見えるのではないか、と。
しかしこれには、明確に反論できる。決してクラスの真ん中にいるわけじゃない人物の内面も、するりと引き出しているからだ。
「今の仲間と離れられるから」とカメラの前なんかで答えちゃっていいのだろうか
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衝撃的な場面の多い映画だが、ある少女の発言には特に驚かされた。
この映画では、生徒個別のインタビューも行われており、そこでは「どんな大人になりたいか?」など、「大人」を絡めた質問が多くなされる。この映画は何故か馬が疾走する場面から始まるのだが、それも「生物としての、子どもから大人への成長」というテーマと絡めてのものであるようだ。
そして、「早く大人になりたい?」という問いに対して、
なりたいです。今の仲間と離れられるから
と答えていた少女がいて、度肝を抜かれた。
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だってこの映画、2年6組の生徒は絶対に観るでしょう。そうなれば、彼女がそういう発言をしていたことは明らかになってしまう。
彼女は、当然そのことを理解している。撮影スタッフからさらに、「◯◯ちゃんと仲良いと思うけど、今の発言を知られたら傷つかない?」と聞かれるからだ。ちなみに彼女は、
うーん、傷つくかも。でも◯◯ちゃんはキラキラした人生を送ってるから
みたいな返答をしていた。
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この少女は、クラスの中心人物ではないが、友達がいないわけでもない。映画の中では、周りと仲良くやっているように見えた。
ただ、小学生の頃に仲が良かった子たちから3年間も一斉に無視られた経験があり、人間を信用していない。中学のたった3年で他人なんか信用できるはずがない、できれば友達になりたいけど、裏がない人間なんているはずがないし、と淡々と語るのだ。
私ならできないな、と思った。仮に同じことを感じていたとしても、カメラの前でそんな風にはっきりとは言えないな、と。だからとにかく、凄いなと衝撃を受けた。
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他にもこの映画には、「カメラの前でそんなこと言ってしまえるんだ」と感じる中学生がたくさん出てくる。
個人的に凄く好きだなと感じたのが、文芸部の少女。彼女は、「部活の時はオンで、教室ではオフです」と、勉強やクラスメートとの関係にやる気のなさを隠さない。さらにその上で撮影スタッフが彼女に、「今インタビュー受けているこの瞬間はどっち?」みたいに聞くと、彼女はダルそうに「オフです」って答える。その雰囲気がとても良かった。
他にも、
自分のことは嫌いです。何かあったら好きになれてたかもしれないですけど
みんな小学校からの仲で、僕には居場所がないから、早くクラス替えしたい
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できるなら子供からやり直したい
など、悩みそのものは”ありふれている”と言えるものかもしれないけれど、それをカメラの前で口に出すことに驚かされた。しかも、少なくとも私には、彼らに「躊躇」があるようには見えなかった。ありきたりの雑談でもしているかのようなフラットさで、自分の内面を吐露するのだ。
他にも、印象的な少年がいた。彼は、「パワコンオタク」と言われて誰もがイメージするようなタイプの少年で、映画の中では、川辺でパソコンを操作しながら、自作した何かの機械でGPSへの接続を試みていた。
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パソコン少年は、クラスメートと馴染んでいるようなシーンもあれば、男子に「キモいから近づくな」と言われている場面もある。よく言えばいじられキャラなのかもしれないが、軽くイジメにも見える、というような状況だ。そんなパソコン少年に撮影スタッフが、「運動部の子とか強いじゃん? ムカッとすることないの?」みたいな質問をすると、
ムカッとしたら負けなんですよ。そこら辺のゴミには適当に遊ばせとけばいいんです
と返す。中学生でこんな割り切りができるものなのか、と感じた。
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また、「研究みたいなことしてて、からかわれたりしない?」という質問には、
そういう奴らと関わりたくないんですよね。ああいうのって、反応してほしいだけなんですよ。だから反応しちゃったら負けなんです
と返したりする。とにかく、将来目指したい場所が明確にあって、そのために自分の時間を目一杯使うつもりでいるから、それ以外のことなんかどうでもいい、というスタンスが明確で、カッコイイ。
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性格もあるんだろうけれど、中学生でこんなにクールにいられるもんなんだ、と驚いてしまった。
撮影スタッフが凄いのか? それとも中学生が凄いのか?
映画を観ながらずっと、これは撮影スタッフが凄いのだろうか? と考えていた。
正直、こんな映画をどんな風に撮ったのか、全然イメージできない。
集団の中の何人かがこの映画の趣旨や撮影方法に賛同することはイメージできる。しかし、クラス全員が協力し、しかもカメラの存在を気にすることなく自分をさらけ出していく、なんてことが可能だとは思えない。何らかのやり方で生徒たちと信頼関係を築き、膨大な準備と手間を掛けて撮影したということなんだろうか。
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しかし一方で、こうも感じた。これが現代の中学生なのかもしれない、と。「カメラがあったらいつもと違う自分になってしまう」という感覚が、もう古いのかもしれない、と。
私はほとんど観ないのだが、YouTuberは自分の日常をさらけ出すような企画をよくやっていることだろう。また、特に若い世代に人気の「恋愛リアリティ番組」も、赤裸々に日常を切り取っていくものだ。
確かに恋愛リアリティ番組は昔から存在したが、インターネットやSNSがそこまで普及していない時代には、「普通の人にはできないこと」と受け取られていただろう。しかし今は、「やろうと思えば誰でもできること」という捉えられ方に変わっているのかもしれない。
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もちろん、そういう風に時代が変化したのだとしても、この映画の撮影スタッフはたぶんもの凄い苦労をしただろうし、クラス全員の協力を得るのだって容易ではなかったはずだ。
しかし何にせよ、もしこの点にジェネレーションギャップがあるのなら、やはりその事実には驚かされる。「生まれながらに、スマホやSNSが当たり前に存在する」という環境はやはり、人間のあり方を劇的に変えていくのだなぁ、と改めて実感させられた。
「車椅子の生徒」と「不登校の生徒」に対する振る舞いから感じる「当たり前の日常」
撮られることに臆しない中学生の振る舞いが時代の変化だとして、しかしそれでもこの映画の撮影にはなかなかに大きな困難がある。2年6組には、車椅子の生徒と不登校の生徒がいるのだ。
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この映画では、この2人を「特別扱い」しない。あくまでも、35人クラスの中の2人、という扱いなのである。そしてこの扱い方が余計に、「フラット」なこの映画全体のスタンスを如実に伝える役割を果たしていると感じる。
映画には、不登校の生徒に対してクラスメートがどう感じているか撮影スタッフが質問する場面もある。しかしそれは、「彼が不登校だから」ではない。「彼の不登校が、2年6組の日常だから」だ。車椅子の生徒にしても同じ。車椅子に乗った少年がいる状態が2年6組の日常だから、映画の中で切り取られていく。特別な状況として扱わない。
それが日常だからこそ、クラスメートの返答も日常感に溢れている。不登校の生徒に対してどう思うかと聞かれたある少女は、
最初は気にしてましたけど、いないのが当たり前になってきちゃったんで、失礼ですけど最近はあんまり考えることないです
みたいな返答をする。まったく、よくもまあそんなに素直に答えるものだと感じた。
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とにかくこの映画は、「特別」を探さない。敢えて「特別」を避けているのではないか、と感じるほどだ。だから、「特別」なことは何一つ起こらない。ひたすら、「日常」を追いかける。「これが2年6組の日常である」という土台の上に素材を積み上げようとする。
そのスタンスがとても好ましい。
ある中学校の2年6組の35人の日常をありのまま捉えた、2年生が終わるまでの50日
映画の冒頭で、こんな字幕が表示されるのだが、この言葉に偽りはない、と感じた。まさに「ありのまま」である。
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これが時代の変化なのか、撮影スタッフの努力の賜物なのか、2年6組の生徒が特別なのか、いつか答えを知れたらいいなと思う。
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私は、子どもの頃から周囲と馴染めなかったり、当たり前の感覚に違和感を覚えることが多かったこともあり、ダイバーシティが社会環境に実装されることを常に望んでいます。…
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